【SS】絵里「トリックオアトリート」海未「お菓子ないです」

絵里「ホントに～？」

海未「学校へはお菓子を持って来てはいけません」

絵里「中学生か」

絵里「私が来ることくらい予想しておいてほしいわね」

海未「子供ですか」
　

絵里「お菓子がないと言うのなら、報復をする権利が生まれるわけね」

海未「ずいぶん勝手な権利ですよね。やはりハロウィンとは子供のための催し事なのでは」

絵里「あなたの家の仕事で使うトラックを横転させてやるわ」

海未「悪意のない行為にしてはゲスすぎます」
　

絵里「実際、たかがお菓子をくれなかったくらいで許される報復ってどの程度なのかしら」

海未「勝手に押し掛けてきてお菓子を要求しているわけですから……その時点で図々しいですよね」

海未「御茶ノ水～水道橋間を3往復させるとか」

絵里「えっ……なにそのキツい報復……」

海未「練習メニューに入れようと思っていた内容です」
　

絵里「やっぱり笑って済ませられる報復に留めておくのが常識的よね」

海未「おっしゃる通りです」

絵里「……海未はなにしても笑って済まなさそうね」
　

海未「そんなことないですよ。最近は寛容になってきたと評価されています」

絵里「何人からの評価？」

海未「自己評価です」

絵里「ちょっと今笑ってみなさい」

海未「…………?」

絵里「意外とフランクな笑い方だったわ」
　

絵里「たとえば明日練習の時、海未のあまりセンスのいいとは言えないボトムスの代わりに凛の短いスカートが入っていたら？」

海未「報復の期限はハロウィンの間だけですので普通に怒ります」

海未「それに、モノ系は陰湿です。イジメだと勘違いして多分泣いちゃいます」

絵里「繊細ね(泣いたところも見てみたいけど)」
　

絵里「今、チャチャっと報復を済ませられるのが一番よね」

海未「そこまでして私に報復したいですか」

絵里「だってハロウィンは一年に一度ですもの」

海未「そんなに楽しみたいなら渋谷に行けばいいじゃないですか」

絵里「あれは素人版コミックマーケットコスプレ広場よ」
　

絵里「んっ。今降りてきたわ。海未が笑って済ませられそうな報復」

海未「受けましょう」

絵里「ちょっと失礼｣ｸﾞｲｯ

海未「え」

海未「え、絵里。冗談ですよね。怒りはしませんがソレは洒落にならないです。私ヘテロですからほんとに」

絵里「ぺろ」?

海未「……?」
　

絵里「イヤな顔してるわね。笑えない？」

海未「……報復とは本来、あまりいい気分のするものではありませんから」

海未「頰を舌で舐められるとこんなに気持ち悪いのですね」

絵里「さっき近づいたときにポケットのハンカチとティッシュを抜き取ったわ」

海未「ぅゎ……最悪です。汚らしい……」

絵里「そこまでいわなくても?」
　

海未「それで。今度は私が要求してもいいのですよね？」

絵里「ハロウィンのルールには攻守交代していいなんてないわよ」

海未「それは子供と大人の関係だからです。お菓子をください、さもなくばいたずらします」
　

絵里「実はポケットの中いつも何かしら入ってるのよ」

海未「言おうか迷っていたのですがスカートのポケットにあんまり物詰め込まない方がいいですよ」

絵里「は？個人の自由でしょ……」

海未(なぜ少しキレたのでしょう……)
　

絵里「確か昨日後輩からもらったハッカ飴をポケットに入れっぱなしだったと記憶してるんだけど……｣ｺﾞｿｺﾞｿ

海未「それ口に出して言うことじゃないですよ。これから貰うものが他人からもらった物で、しかも昨日偶然もらったあり合わせで、しかもハッカっていいこと何もないです」

絵里「私から貰うものっていうだけで大抵の生徒は喜ぶわ」

海未「オトノキは絢瀬帝国と化してしまったみたいです」
　

絵里「……あ。昨日帰って亜里沙にあげたんだった」

海未「妹を余り物処分に使わないでください」

絵里「ハッカ食べたことないっていうから」
　

絵里「その代わりに、これ」

海未「岩塩…………」

絵里「適度な塩分補給ができるように持ち歩いてるのよ」

海未「でもほんとは？?」

絵里「夏に入れたきり放置してたわ」
　

海未「いえ、もう結構です。あなたから何かを受け取る気が全く失せました」

絵里「そう。じゃあ報復を受ける必要があるわね」

海未「なぜブレザーを脱ぐのです」
　

絵里「海未の報復ってどんな事するのか想像つかないわ」

海未「ランニング秋葉原～東京間3往復……」

絵里「さっきよりキツいからやめて」
　

海未「察しているように、私は冗談めいたことが得意ではありません」

絵里「だと思うわ」

海未「得意ではないだけで、嫌いではないのですよ」

海未「私だって日々、皆さんがおちゃらけているときにスッと輪に入りたいと思うときがあるのです」
　

海未「ただ……私が唐突にそんなことすると『えっ、海未ちゃんどうしちゃったの』なんて反応されるに決まってるじゃないですか」

絵里「でも私なら心配いらないわ。海未と私は同じような悩みを抱えているから、理解はできるもの」

海未「安心しました。……受け取ってください、私の精一杯の報復を」
　

海未「…………｣ｽｯ

絵里(ビンタ？なでなで？ハグ？)

海未「ほっ｣ﾌﾟﾂﾝ

絵里「…………は？」
　

絵里「はーーー？」

海未「えっなんですかその反応……」

絵里「ここまで来てやることがブラ外しって……」

絵里「あなたやっぱり冗談とか向いてないわ」

海未「そんな……?」
　

絵里「報復の面倒くささ、で言えば外された後の付け直しっていう点では報復らしいけど……ん？」

絵里「あなたよく服の上からブラ外せたわね」

絵里「ていうかよくフロントホックだってわかったわね。……知ってたの？」

海未「…………黙秘します」

絵里「えっ。なにその答え、怖いんだけど」

海未「元来ハロウィンとは怖がらせて魔除けをするものですよ」
　

海未「……あ」

海未「カバンの中にお菓子入ってました」

絵里「！！チョコレート！！」

海未「あげます」

絵里「ハラショー?」

海未(ロイズか手作りか迷いましたが……案の定来てくれて良かったです)

おしまい