【SS】果林「ねがお、すがお、えがお」【ラブライブ!虹ヶ咲】

SS


1: (きびだんご) 2022/11/10(木) 21:09:41.54 ID:Ydmcepoz
・かなかり(彼方✕果林)
・地の文
・視点変更

以上の要素を含みます。よろしければ。
 
2: (きびだんご) 2022/11/10(木) 21:13:04.61 ID:Ydmcepoz
寝顔。寝ているときの顔。無防備で、気の抜けたそれはとても人に見せるようなものではないと思っている。

朝、起こしに来てくれたエマと嵐珠にこっそり撮られていた「へにょへにょの口をしてぬいぐるみ(パンダ)に抱きついている朝香果林」を実際に見た私が言うのだから間違いない。もう一度言うけどあんなもの、人様に見せるものじゃないのよ。恥ずかしい。

「まあ、普通ならそんなふうに考えるところだけど……」

このコにとってはきっと、そういう一般的常識的な考えなどなんのその。寝返りを打って顔を右に向けてみれば、そこには。

「すやあ〜」

なんとも幸せそうな眠り姫が。いつもは大人びて見える彼方の、この全てから開放されたかのような幼い寝顔を、私は今同じベッドで独占している。
 
5: (きびだんご) 2022/11/10(木) 21:16:18.72 ID:Ydmcepoz
彼方の規則的な寝息をBGMに、思い返すのは今日の放課後のこと。

校内ライブが一息ついて、いつものように打ち上げ兼鑑賞会をする流れだったんだけれど、ライフデザイン科の生徒に向けての講演会が入ってしまって。私と彼方を含めた全員ではまた後日、今日は希望者で軽くお疲れ会という運びになった。

顔にこそ出ていなかったけど璃奈ちゃんが残念がっていたから頭を撫でたら、彼方も真似して栞子ちゃんに手を出して、かすみちゃんが「特別扱いとかずるいです!」なんて騒ぎだして、しずくちゃんもちょっと拗ねた顔し始めて、その後には愛と嵐珠が飛びついてきて……。

「ふふ」

息と声の間みたいな笑みがこぼれる。みんな、とっても可愛かったなぁ。
 
7: (きびだんご) 2022/11/10(木) 21:19:08.27 ID:Ydmcepoz
きっとそんな暖かい触れ合いをしたからだろう、講演会のあと一人で寮に戻るのがなんとなく寂しくなって、彼方に私の部屋に来るように誘った。
まあ、そのままお泊りになるとは思ってなかったけれど……彼方も人恋しかったのかしら。

「ね、本当はどうだったの?」

小声で問いかけながら頬をつつく。彼方。そのまま柔らかい感触を楽しんでいたら、不機嫌な声と一緒に目を強く瞑って向こうへ寝返りを打ってしまった。
謝罪の気持ちを込めて軽く髪を手で梳いてやれば、肩に入っている力がだんだんと抜けていく。
 
8: (きびだんご) 2022/11/10(木) 21:22:18.88 ID:Ydmcepoz
そうして寝息も元に戻ったところで引っ込めようとしたとき、まるでセンサーでもついているかのように私の手を追いかけて擦りついてきた。

「……起きてるの?」

「……すぅ」

返事はない。

あぶない、私としたことがきゅんとしちゃった。さすが、自他共に認める眠りのスペシャリスト。可愛い寝姿なんてお手の物なんだろう。
そんな彼方の要望?に応えて髪を梳くのを再開する。たまに頭を撫でたり、耳たぶを触ってみたり遊びも入れつつ、ぼーっとつむじを眺めながら眠気がやってくるのを待っていた、その時。
穏やかな寝息一つが流れる静かなこの部屋で、その寝言を聞き逃すはずもなかった。
 
9: (きびだんご) 2022/11/10(木) 21:25:47.33 ID:Ydmcepoz
「遥、ちゃん……」

 

そしてそのなんともご満悦な声色に、なんというか……少し、面白くない気持ちが生まれる。

へえ、そう。私はこんなに彼方のことを想って、ご希望通りにスキンシップをしてるのに。あなたの可愛い仕草に、心を揺さぶられたのに。彼方自身は夢の中で遥ちゃんとお楽しみですか。

とんだわがままだ。久しぶりのお泊りと深夜テンションもあって、ちょっとおかしくなっている自覚もある。けれど、いや、だからこそ。
 
10: (きびだんご) 2022/11/10(木) 21:29:04.41 ID:Ydmcepoz
「ごめんなさいね、遥ちゃん」

撫でていた手を滑らせて、両腕で彼方を閉じ込める。そうだ、この感触、私が貸したパジャマの手触り。
抱き寄せてちょうど鼻のあたりにきた頭。その髪から漂うシャンプーの香りだって、私のお気に入り。

「可愛いものは、手放せない性分なの」

抱き寄せて、髪を鼻先でかき分けてたどり着いたうなじに、そっと口付ける。
夢の中まではまだ届かないけど、可愛らしい寝顔も、高めの体温も、柔らかな感触も。いまこの瞬間の彼方の全部は、私のもの。

小さく言葉にすれば、さっきまでのもやもやとした感情が晴れていく。
そのまま、体全体で感じる彼方の、その呼吸に同調してきて、

 ようやく、

  眠気、が────
 
11: (きびだんご) 2022/11/10(木) 21:35:04.00 ID:Ydmcepoz
どうにも寝苦しくて目が覚めてしまった。
彼方ちゃんのすやぴタイムを邪魔するとは何事ぞ〜?ということで状況を確認……するまでもなく、後ろから抱き締められて動けなくなっていることに気付いた。いやはや、これまた熱烈ですなあ。

「おーい、果林ちゃーん」

「ん」

ぎゅう。ゆるゆると体を揺すって声をかけてみると、静かにしなさいと言わんばかりに力が強まる。はい、じっとしまーす。頭のうしろには果林ちゃんの口元の感触。そして背中には豊かな……ごほん。
参ったなあ。彼方ちゃん、甘えられると弱いんだよね。それにこんな果林ちゃんってレアだし、もうちょっと好きにさせてあげようかな。

「……どきどきしてたら、眠れないもんね」

なんていうのは、内緒。こっそり聞いてちゃダメだよ?
 
12: (きびだんご) 2022/11/10(木) 21:38:09.49 ID:Ydmcepoz
今日はもともと、ライブの打ち上げのあと、エマちゃんのところに泊まる予定だった。だったんだけど……

ライブの映像を見たエマちゃんの家族がビデオ通話をしたいってことで見送りに。彼方ちゃんも一緒でいいって言われたけど、やっぱり家族の時間は大事だから。
また今度だねって話をしていたら、それに加えて講演会があるとかで打ち上げも参加できないってことがわかって。全く、どうも今日はついてないぜ。

彼方ちゃん自身もちょっと凹んでたら、初めての打ち上げがお流れになって沈んでいる栞子ちゃんに気付くのが遅れてしまった。
果林ちゃんが璃奈ちゃんに構い始めたお陰で便乗できたからタイミングを逃さずにすんだけど、お姉ちゃんとしては反省です。もっとみんなのこと、見ておかなくちゃ。
 
13: (きびだんご) 2022/11/10(木) 21:41:03.98 ID:Ydmcepoz
そんなふうに考えてたから、講演会のあと、果林ちゃんにお部屋に誘われたのには驚いた。
ひょっとして気を遣って慰めようとしてる?そんなに外にバレバレだったかな?ってちょっと思ったけど、OKしたときにすっごく嬉しそうだったから、やっぱり違うのかも。
そんなこんなで結局、お持ち帰りされちゃったわけだけど……。

「ほんとのところは、どうだったんですか〜?」

「んむ、?……ん」

頭だけで押し返して尋ねてみる。
果林ちゃんは時々、なんでもお見通しですよ、みたいなところがあるから。もし、彼方ちゃんの素顔をしっかり見てくれていたなら……おや?

少し、引っかかる。何だっけ。果林ちゃんの、えっと。
 
15: (きびだんご) 2022/11/10(木) 21:44:09.55 ID:Ydmcepoz
素顔。すっぴん。そのまんまのお顔のこと。飾り立てない、作っていない元々の、っていう意味から発展して、文脈によっては「隠している性格」や「真実の姿」みたいな意味で使われたりもするっけ。
……そうだ。

エマちゃんたちがおすそ分けしてくれたふにゃふにゃの、素の果林ちゃんの写真。
次にお泊りするときは、それか起こしに行くときは、それを生で堪能するんじゃなかったか。今が、その時じゃないか!

「作戦、開始」
 
16: (きびだんご) 2022/11/10(木) 21:47:30.91 ID:Ydmcepoz
名残惜しいけれど、まずは暖かな檻から抜け出す。
おへその辺りでロックされているしなやかな指を、一本一本丁寧に外していく。解錠できたら、左手を持ち上げて、右手のポジションを枕の方へずらす。
ここでちょっと休憩して、腕枕タイム。うんうん、お膝や太もももいいけど、これもグッドだね。休憩終わり。
深呼吸をしたら、90度左へ。さあ、果林ちゃん。

「きみの素顔を、見せてほしいな」

私にも、さ。
 
19: (きびだんご) 2022/11/10(木) 21:50:32.08 ID:Ydmcepoz
「すー……ふふ、すー……」

「……なぁんだ」

意気込んで見たものの、その顔は。

 

『あら、だいぶ体柔らかくなったじゃない。いつも頑張ってるものね』

『ねえ?寮のキッチンスペースが空いたら、明日のお弁当作りにいきましょ』

『もう!からかわないでよ彼方ったら、ふふふ……』
 
20: (きびだんご) 2022/11/10(木) 21:54:09.85 ID:Ydmcepoz
今日のお泊りで、たくさん見せてくれた笑顔とおんなじで。

「もう……!」

モデルさんだからって、いっつも澄まして作った顔してるから、分かりづらいんだぞ。だからこれは、肩透かしになってしまったぶんの、罰です。
少し強めに抱きついて、抱きまくらの刑に処す。

「……それと、嬉しい気持ちにしてくれた、ご褒美」

刑罰を中断。
もう一度じっくりと寝顔を堪能したあと、おでこにキスを落とす。証拠隠滅のために前髪を整えてあげながら、囁く。

おやすみ、またあした。
 
21: (きびだんご) 2022/11/10(木) 21:57:39.18 ID:Ydmcepoz
するりと伸びてきた手に、もう一度抱きすくめられ、胸に押し付けられる。
こうなるともう果林ちゃんの顔を見ることはできないけれど、もう別にいいんだ。
きっと、いつだって見せてくれるんだから。
幸せな気持ちに身を任せ、果林ちゃんの鼓動に集中しているうちに、

 呼吸が少しずつ、

  重なって────
 
22: (きびだんご) 2022/11/10(木) 22:01:35.84 ID:Ydmcepoz
「果林、朝よ!今日はランジュと次のライブの衣装について話し合うわよ!」

「ら、ランジュちゃんっ。もう少し静かにしてあげ「きゃあっ!」ランジュちゃんってばー!」

「だって、見てエマ!果林ったら、この前よりも赤ちゃんみたいなんだもの!好可爱〜〜〜!!!」

「えっ、わぁ……!それに彼方ちゃんも幸せそうで、尊いってやつだね!」

「いつもぎゅってしてる熊猫を持ってきて写真撮らなきゃ……それとミアにも声かけないと!」

「らじゃー!」

翌日。訳あって寝付けなかった私たちは、こんな大騒ぎすら気付かないほどに寝入ってしまっていた。
抱き合ったまま、寝顔も、素顔も、そして笑顔も、全部晒して。
 
23: (きびだんご) 2022/11/10(木) 22:04:03.77 ID:Ydmcepoz
果林「ねがお、すがお、えがお」

 

おしまい
 
24: (きびだんご) 2022/11/10(木) 22:07:51.65 ID:Ydmcepoz
以上です。短いですがお付き合いありがとうございました〜〜〜

誤字脱字の指摘、あと何よりも乙や感想があればとても嬉しいです。それでは!
 
25: (えびふりゃー) 2022/11/10(木) 22:56:42.63 ID:BEqtKQa7

水面下でかなかりブームが来てる
 
26: (SIM) 2022/11/10(木) 23:25:45.62 ID:L/6XBsmU
かなかりは素晴らしい
地の文の雰囲気が良かった
おつです
 
31: (もんじゃ) 2022/11/11(金) 12:55:20.13 ID:r9W6OS4J
これは高級きびだんご
ほっこりしたわ
 

引用元: https://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1668082181/

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