【SS】穂乃果「ハッピーバースデー」【ラブライブ!】

SS

2:(もんじゃ) 2021/12/17(金) 00:01:00.97 ID:+0JAflAj
誕生日なのに未だに穂乃果から「おめでとう」の言葉を聞けていなかった。

最愛の妹と母親からは起きた早々に祝福され、学校に向かえば同好会の面々に盛大にもてなしてもらった。誰に膝枕を頼んでも断られない、彼方だけの特別な日。しかし、恋人であるはずの穂乃果は意外にも祝言のメッセージを全く寄越さなかった。『今日は噴水のところに19時集合だからね!』という短いラインだけが家を出る前に送られてきて、それだけだった。

彼方は言われた通り、ヴィーナスフォート中央の噴水広場に10分前に到着した。建物内は、どこも豪華なクリスマス色で染まっていた。
 
3:(もんじゃ) 2021/12/17(金) 00:24:11.36 ID:+0JAflAj
赤いリボンと鐘をモチーフにした壮観な美術作品が噴水の上にライトアップされていて、行き交う人々が足を止めて写真を撮っている。カップルが多いが女性の二人組も多い。浮かれすぎもしない聖夜10日前くらいの雰囲気が彼方は好きだった。

穂乃果ちゃん、何くれるんだろう。やはりプレゼントが何よりも気になる。

彼方の誕生日が平日だという理由もあって、二人は週末に改めて出かける予定になっていたのだが、当日に直接会いに行きたいと穂乃果が一昨日急に言いだしたのだった。もちろん嬉しいことだった。彼方は秋葉原での待ち合わせを提案したが、「誕生日くらい気を遣わせてよ」と押し切られて場所はお台場に決まった。

ただ家では母と妹が飾り付けをして待っているはずで、それほど遅く帰宅するわけにはいかないことは穂乃果も承知していた。だから、小一時間ばかりの慎ましいデートを二人は約束したのだった。
 
7:(もんじゃ) 2021/12/17(金) 00:54:19.80 ID:+0JAflAj
ますます賑わいを増す人だかりの向こうに、穂乃果の姿が見えた。手を振るとこちらに気付いて、嬉しそうに駆け寄ってくる。

「ごめんね、待った?」

穂乃果は制服の上から暖かそうな黒のコートを羽織っていて、そして右手に大きな紙袋をぶら下げていた。なんとなく中身は「枕」だろうかと予想して、彼方は頬が緩んだ。

「ううん。彼方ちゃんも、今来たところだよ〜」

穂乃果は「そっか」と言って、持ちやすいようにその大きなプレゼントを抱え直した。あまり物欲しげな態度にならないようにチラッとそれを確認する。

彼方は目を丸くした。紫色をした華奢なバラが、はみ出さんばかりに袋の中から首を出していた。
 
9:(もんじゃ) 2021/12/17(金) 01:50:03.14 ID:+0JAflAj
「それって、花束?」

「そうだよ。彼方さん、誕生日おめでとう」

穂乃果はいつものように飾ることのない想いを伝えた。そして綺麗に包装されたそれを紙袋から取り出すと、慇懃に彼方に差し出す。『Happy Birthday, my love!』。筆記体で書かれたカードが目に入った。

「らしくないって、みんなに言われたんだけどね」と穂乃果は笑った。

ピュアホワイトの花束を抱えた高坂穂乃果は、確かに意表を突いた組み合わせだった。少しだけ恥ずかしそうな彼女に見惚れているうちに、彼方の頬が緩んできた。

「彼方ちゃん、こんなに大きなお花もらったの初めてだよ」

抱きかかえるように花束を両手で受け取ると、フローラルな香りが心地よく彼方の鼻をくすぐった。
 
11:(もんじゃ) 2021/12/17(金) 02:06:26.36 ID:+0JAflAj
バラは思いのほか本数が多くて、恐らく年齢に合わせて18本に揃えてあった。花の中には紫だけでなくピンクがかった色もあって賑やかだった。彼方へのプレゼントはもっぱら「食べるもの」か「使えるもの」が多く、誕生日に花束を貰ったのは生まれて初めてだった。

高坂穂乃果は花より団子だとばかり思っていた。自分と同じように。戸惑いながらしばらく手元に心を奪われていた。

ふと、お礼を言っていなかったことに思い立って顔を上げると、穂乃果が自分のほうを嬉しそうに眺めている。彼方のほっぺが赤く熱を帯びた。

わたし、今、弾むように気持ちが浮ついている。彼方はその時ようやく気が付いた。
 
12:(もんじゃ) 2021/12/17(金) 02:32:54.45 ID:+0JAflAj
「あのね。穂乃果いつも彼方さんに貰ってばかりだから、何をプレゼントしようかなってすっごく迷ったの。最初はケーキ焼いたり、エプロン自分で作ってみようかなって思ってたんだけど、そういうのってみんなと被りそうでしょ?だから、穂乃果しか渡さないだろうなってものにしたかったの。どう?」

穂乃果は感想を尋ねながらも、自信満々に微笑んでいる。その顔を見てると、粛然とした噴水の雰囲気も作用して、心が洗われる思いがした。

「すごく、すっごく嬉しいよ。ありがとう」

彼方が率直に伝えると、穂乃果は「よかった」と胸を撫で下ろした。そして思い出したように手袋を外すと、コートのポケットに押し込み、彼方に向けて右手を差し出した。

「じゃ、行こっか」

「うん」

指を交わして手を繋ぎ、二人は身を寄せ合うように歩いた。行く先の当てもないので、とりあえず教会広場へと向かった。
 
13:(もんじゃ) 2021/12/17(金) 02:53:06.18 ID:+0JAflAj
今日は1時間ほどで解散する。最後は大観覧車に乗り、お台場の夜景を眺める。それ以外は特に事前に何も決めていなかった。

ヴィーナスフォートの観覧車に乗ってキスをしたカップルは永遠に結ばれる。そんなジンクスがあるらしいよと、宮下愛がいつだか言っていた。穂乃果はそういうのが好きだから、キスした後に教えてあげようと彼方は画策していた。でも他は特に何も考えていなかった。二人は行き当たりばったりのデートでも楽しむことの出来る性格だった。

教会広場に着くと案の定、浮かれた人々が大勢集まっていた。それでも洋風の洒落た雰囲気のせいか、みんな思い思いの対象へと心を馳せている気もする。

彼方はあのステージの上で曲を披露した時のことを思い出した。Butterfly。今晩はもう家に帰っているはずの遥を思い出す。妹だけど、恋人と同じくらい愛しい。優先順位はつけられなかった。自撮りのためにアプリを何やらいじっている穂乃果に向けて、彼方は言った。

「今日はごめんね。せっかく来てくれたのに、長くいられなくて」
 
15:(もんじゃ) 2021/12/17(金) 03:18:44.42 ID:+0JAflAj
穂乃果はスマホから目を離し、口を尖らせた。

「もう。どうして誕生日なのに謝っちゃうかな」

しょうがなさそうな顔をして穂乃果が笑った。こんな光景は二人の間で割とよく見られ、『あんまり申し訳なさそうな顔してると、誘った方も余計に申し訳なくなるでしょ』と穂乃果が叱るものだった。でも今日は、「そういうとこ好きだよ」と優しくフォローが入る。誕生日という特権性を彼方は改めて認識した。

写真を何枚か撮って、二人は広場を後にした。少し通りへ出たところで、穂乃果がピタッと足をとめた。それは普段なら目を滑らせてしまうような位置にある、こじんまりとした結婚式場だった。「小さな結婚式」。看板にはそう書かれていた。

「なんか、いいなぁ」

穂乃果は心底思っているかのように小さく呟いた。
 
16:(もんじゃ) 2021/12/17(金) 03:44:12.61 ID:+0JAflAj
ドキッとした。少し気が早くはないかと彼方は思ったのだが、どうやら別に恋人へ意思表示をしているわけでもなさそうだった。ただ素直にその空間の素朴な美しさに見惚れているらしい。気が早いのは自分のほうだと彼方はひとり照れくさがった。まだ観覧車でキスもしてないのに。

結婚。結婚なんて、想像もつかないよね。

そんなことを口にしようとして、直前で思い留まった。彼方は今日、18回目の誕生日を迎えていた。18歳ってもう成人じゃん。その時ふと、積み重ねてきた年月の実在性というものが彼方の意識にのぼった。気が付くと、横を過ぎて行く一組の大学生らしき男女を視界の端で追いかけていた。彼らは知り合いでもなければ、とりわけ容貌に優れている訳でもなかった。しかしその二人が隣に並ぶ姿はとても調和が取れているように映り、実は誰もが胸に秘めている理想の関係を体現したような暖かさがあった。

自分たちとは何かが違う。それは単に年齢の差かもしれないし、お互いの人生に対する責任感の程度かもしれないと思った。

それがヘテロとホモの違いに由来する、などとは考えたくなかった。
 
18:(もんじゃ) 2021/12/17(金) 04:19:49.52 ID:+0JAflAj
「……彼方さん?」

「えっ。あ、ごめん」

いつの間にか穂乃果が心配するように自分を見つめていた。もしかしたら、家で待つ遥のことを考えているように映ってしまったかもしれない。デート中だけはシスコンが許されるはずも無かった。言葉を添えるべきかと思ったが、弁明の類いは全く得意じゃないので慌てて穂乃果の手を握り直す。

先ほどの疑問はどこかへ吹き飛んだ。

「穂乃果ちゃんはどこか、見たいお店ある?」

「うーん。そんなに思いつかないかも」

「だよねぇ」

二人は館内を足に任せて歩き回ることにした。観覧車が思いのほか混雑してしまう可能性を思えば、服を真剣に選んで探すほどの時間はなく、かといってカフェに座り込んでしまうのも勿体無い気がした。
 
21:(もんじゃ) 2021/12/17(金) 05:13:06.93 ID:+0JAflAj
高校生には流石に手が出ないラグジュアリーな店々が並ぶ通りを抜けると、カップルらしき男女の割合は一斉に減り、一人で歩く大学生や、楽しそうに騒ぐ中高生の集団が増えた。家族連れも多かった。恥ずかしさがあって、どちらからともなく二人は手を離した。

結局、可愛いショップを見かけたら入ってみる普段通りのデートだった。機能性と上品さを兼ね備えたロココ調の雑貨屋が二人の心を射止めた。彼方は年上らしく何か買ってあげようと提案したが、そっちの誕生日だからと穂乃果に固く拒否された。議論の結果、お揃いのアクセサリを購入しようということで話がまとまった。

穂乃果は何でもかんでも手に取って試したが、彼方は「可愛いよ」と褒めるばかりで、あまり買い物の役に立たなかった。「時間ないんだから彼方さんも考えてよ」と文句を言いながら店内を物色していた穂乃果だったが、そのうち細長いシルク製のリボンを見つけて「これだ!」と目を輝かせた。よく分からないが切り口の形やサイズがちょうど可愛いらしい。

ただオレンジのバリエーションが無かったので、全く同じ紫色のリボンを二人で購入することにした。
 
24:(もんじゃ) 2021/12/17(金) 06:07:56.40 ID:+0JAflAj
穂乃果は店員に頼んで値札を外してもらい、自分がもともと付けていた黄色のそれと、手際良くリボンを結い直した。そして、その場でクルッと小さくターンすると、誇らしげに笑った。

「似合ってるかなぁ。今度からデートの時、絶対これ付けてこようね」

穂乃果の喜び方があまりにも完璧なものだから、彼方はつい見惚れてしまった。これを自然とやってのけるから、ただものでないと思う。「似合ってるよ」。彼方が率直に伝えると、穂乃果はハッキリと見て取れるほど顔を赤らめた。

彼方は自分のことを独占欲が少ないほうだと思っていたが、恋人が自分のイメージカラーを纏っている姿は見るのはそんなに悪くなかった。明るい彼女の性格とかけ離れた彩度の低いジャスミン色が、オレンジ髪の側頭部に縦線を引く。穂乃果を僅かでも自分の色に染めてしまう罪悪感と、後まで確かに残る高揚感。

きっと私も、知らぬ間に染められている。それは嬉しいことだった。二色の絵の具が混ざり切った後に調和が残るのかもしれない、と彼方は思った。
 
25:(もんじゃ) 2021/12/17(金) 06:36:43.03 ID:+0JAflAj
彼方は制服のリボンを結び替えてみることにした。紫絹の色合いは学校指定の黒いブレザーからは浮いていたが、コートを着れば大した問題ではなかった。側に立っていた女性店員も優しく微笑んでくれた。それは大人の笑顔だった。

満ち足りた気持ちで雑貨店から出た。また一緒に来ようね。そう言おうとした瞬間、穂乃果が大胆に彼方のほうへと肩を寄せた。

「穂乃果ちゃん?」

穂乃果は何も言わず彼方の腕を組んだ。けっこう力強くて驚く。首が肩にもたれかかるのではないかと思うほど、二人の距離は近かった。過ぎ行く人たち全員から視線を感じる。穂乃果は別れを惜しんでいるようにも、愛で頭が一杯になっているようにも見えた。きっと両方だった。

「観覧車行こっか」と彼方はささやいた。穂乃果はコクリと頷いた。

腕を組んで歩くのには慣れてなかった。歩幅が小さくなって、進むのに時間がかかった。二人で歩いているというより、彼方の腕に穂乃果がくっついているみたいだった。彼方が歩くのに合わせて、とてとてと穂乃果が足を動かす。
 
29:(もんじゃ) 2021/12/17(金) 14:44:54.65 ID:+0JAflAj
穂乃果ちゃん。ほんとうに彼方ちゃんのこと、特別に想ってくれているんだね。

彼方も穂乃果に対して胸の中で真剣に想いを寄せた。目的地に辿り着くまで二人は会話をほとんど交わさなかった。言葉は必要ない。お互いの心の温度を確かめ合うだけで良いんだ。なんだか、聖夜が近づくヴィーナスフォートの夜に初めて溶け込めた気がした。足運びはぎこちなくても二人のムードは自然だった。


屋外に出ると、頬が張り詰めるような冷たさがちょうど心地良かった。幸いにも、観覧車はあまり混んでいなかった。それは轟々と音を鳴らしながら、虹色のライトアップと共に大きく廻り動いていた。真下から見上げると、改めてそのスケールに圧倒される。「わぁ」と穂乃果は白い息を漏らし、一気に楽しそうな表情を浮かべた。
 
30:(もんじゃ) 2021/12/17(金) 14:47:22.37 ID:+0JAflAj
ゴンドラの中は寒くなかった。横並びで寄り添うように座った。さっきまで立っていた地面がゆっくりと、しかし確実に離れていく。昇れば昇るほど、街灯りの一つ一つが次第に、地上絵のような連続した模様に見えてくる。

頂上に行ったらキスする。頂上に行ったらキスする。彼方が心の中で前日のシミュレーションを復習していると、地面から十分なほど離れたあたりで、穂乃果は着ていたコートをにわかに脱いで脇に置いた。

えっ。彼方が思わず呟くと、穂乃果は慌てて恥ずかしそうに「ちがうよ」と弁明した。

「なんか暑くなっちゃって。それに、制服デートって感じがするし」

「……な、なるほど〜」

「もう。何考えてたの?」

「穂乃果ちゃんと同じこと、かな」

「ふふ。そうだね」
 
31:(もんじゃ) 2021/12/17(金) 14:49:52.72 ID:+0JAflAj
なんだかおかしくて二人で笑った。彼方もコートを脱ぐことにした。学校でふだん授業を受けている時の格好。先ほど胸元に結んだリボンが、やはりファッションとしては満足いくものでないことが分かる。紫色は、飾りのない綺麗目の布地にしか合わないと思う。お揃いのリボンを活かせるコーディネートを早く見つけなくては。

「やっぱり、制服に合わせるのはちょっと変だよね〜」

彼方が室内に向けて呟いた。しかし何も言葉は返ってこなかった。おやと思い隣を見ると、穂乃果は右のガラス窓に張り付くようにして景色を眺めていた。

つられて外を見た彼方も、思わず息を呑んだ。
 
32:(もんじゃ) 2021/12/17(金) 14:54:54.55 ID:+0JAflAj
それはステージから見るサイリウムの銀河を思い出させた。青白いビルの光やオレンジ色の常夜灯が街路に線を引き、季節柄のイルミネーションは宝石を散りばめたように鮮やかに輝いている。彼方はすっかり圧倒された。驚くべきことだが、100メートルの高さから眺める夜のお台場は、見るものに絢爛な宗教の神聖さを想起させた。先ほど見た教会広場よりよほど神々しいと、彼方は思った。

「彼方さん」

呼び戻されて彼方はどきんとした。穂乃果が自分のほうを向いて腰をかけ直している。彼方も慌てて座り直した。向かい合うと穂乃果の誠実な好意のまなざしから逃げられない。

この世のものとは思えない恋人の可愛さ。見つめ合うとどうしても顔が赤くなって、磁石のように視線が滑る。それでも彼方は頑張って穂乃果の想いを受け止めようとする。
 
33:(もんじゃ) 2021/12/17(金) 14:57:05.02 ID:+0JAflAj
デートでは珍しい穂乃果の制服姿をそうやって眺めていると、どこか背を正したくなるような居心地の良さを彼方は覚える。その理由はすぐに分かった。

横いっぱいに広がる神聖な眺望。全く同じものを選んで結んだリボン。地上から離れて澄み切ったクリスマス前の空気。純白の花束。

気付かないうちにふたりが乗っていたのは、紛れもなく、箱の形をした小さなチャペルだった。

「ハッピーバースデー、彼方さん」
 
34:(もんじゃ) 2021/12/17(金) 15:06:34.38 ID:+0JAflAj
「だいすき」

穂乃果はそっと彼方に顔を寄せ、誓うように口づけをした。それは恋慕と慈愛が半分ずつ混ざりあっていて、今まで味わったことのないような甘い至福を彼方に与えた。本当に砂糖菓子みたいな味がした。気が抜けたように彼方はその唇をずっと眺めていた。

「いつも彼方さんからしてくれるから、今日は穂乃果からしようと思って」

えへへ、と穂乃果が笑う。

永遠の愛は確かに存在する。彼方は心からそう思った。
 
35:(もんじゃ) 2021/12/17(金) 15:07:09.45 ID:+0JAflAj
ジンクスなどと言う根拠のないものではなく、とめどなく湧き続けるハートの源泉が心の奥にある。そんなことを想起しながら彼方は、思いの丈を恋人に告げた。

「ずっと、彼方ちゃんと一緒にいてくれる?」

「うん」

短く応えて穂乃果は目をつむる。今度は彼方のほうから唇を押し当てた。彼方にしては珍しく、周りを憚かることのない劣情のキスだった。無限の広がりを含む愛着と、穂乃果を求めてやまない情欲とが、螺旋を描くようにして心を焚き付けていた。彼方は舌全体を使って、オレンジ色の砂糖菓子を溶かそうとする。
 
36:(もんじゃ) 2021/12/17(金) 15:11:57.95 ID:+0JAflAj
「あはっ、彼方さんダメだよ」

そう言いながら、穂乃果も特に抵抗はしなかった。可能な限り心臓を密着させて、思いのままに舌を交わし合った。互いの口元がだらしなく汚れた。途中、ガラス窓に一瞬だけ触れた指の冷たさが、箱の外にも世界があることを彼方に思い出させた。

誰に見られても構わなかった。永遠はここにあるのだから。

この子と一緒に大人になりたい。穂乃果の顔を指でなぞりながら、彼方はそれだけをずっと願っていた。でも、もしかしたら、所有欲を超えたそんな今の感情こそが、自分が少しだけ大人になったことの証明なのかもしれない。彼方はそうも思った。
 
37:(もんじゃ) 2021/12/17(金) 15:13:12.06 ID:+0JAflAj
言葉ですら分かっていなかった崇高な官能というものを、二人はこれでもかと体に叩き込んだ。


そのうち、別世界のように輝いていた景色も人工的な都市の明かりに変わっていき、やがて窓の外は、人々がひしめき合う見慣れた街並みへと戻って行った。
 
38:(もんじゃ) 2021/12/17(金) 15:13:37.54 ID:+0JAflAj
「じゃあね、バイバイ」

観覧車から降りると、特に惜しむこともなく二人は駅で別れた。

穂乃果はゆりかもめに、彼方はバスに乗って家路についた。暖房の効いたシートに座って荷物を隣に下ろすと、彼方は白日夢のような先のひと時を振り返った。今さらながら恥ずかしい。でもそれ以上に、揺らぐことのない心の充実を感じた。

怯んだ瞬間もあったが、早く大人になりたいと今なら思う。穂乃果と歳を重ねることに不安はなかった。
 
39:(もんじゃ) 2021/12/17(金) 15:28:57.98 ID:+0JAflAj
不思議とたちまち、家族に一刻も早く会いたくなった。向こうはちょうど準備が済んだ頃だろうかと思いを馳せながら、凍える夜のお台場を彼方は窓から眺めた。一年に一度だけ訪れるその特別な日は、まだまだ続いていく。こんな幸せはなかった。

心地よいバスの振動で危うく眠りかける。そのとき、座席の間を縫うように流れてきた暖かな風が、花々を再び柔らかく香らせた。彼方はそれを紙袋から取り出して眺めた。なぜか穂乃果の唇を思い出した。



終わり
 
40:(もんじゃ) 2021/12/17(金) 15:32:48.93 ID:+0JAflAj
読んでくださった方、夜中に保守してくださった方、本当にありがとうございます

あと>>8は重複なので飛ばしてください、すみません
 

引用元: https://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1639666480/





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