【SS】侑「歩夢が目を覚まさなくなった世界」【ラブライブ!虹ヶ咲】

ゆう SS


1: (しまむら) (2級) (ワッチョイ 5f28-WnAG) 2021/07/12(月) 22:35:42.35 ID:4thxwCbJ0
ゆうぽむです。少し鬱展開あるので注意。
書き溜めもない為数日掛けて書いていきます。
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3: (しまむら) (ワッチョイ 2328-WnAG) 2021/07/12(月) 22:40:08.10 ID:4thxwCbJ0
侑「歩夢! 歩夢っ!!」


──何が起きたか、理解出来なかった。

それは、今まで見た事のない景色。赤色の世界。

私の見ているこれは、何?

頭が上手く、動かない。──ただ、信じられなかった。

私の見ている赤色の世界は、大切で愛おしい幼馴染で作られたモノ。


侑「う、うそだ……うそだよ!! こ、こんな……ことって……!!」


視界が歪む。冷や汗が止まらず、身体が震える。


せつ菜「だ、だめです! 侑さん!!」


横から歩夢に触れようとする私を止めるせつ菜ちゃんの声が聞こえる。同好会の皆もざわめいている。──救急車を呼ばなきゃという声が聞こえた気がする。

でも、私は歩夢を見る事しか出来なかった。


侑「歩夢!!」

侑「──歩夢ッ!!」


呼びかけても、反応はない。

──この日から、私の幼馴染は目を覚まさなくなった。

5: (しまむら) (ワッチョイ 2328-WnAG) 2021/07/12(月) 22:42:49.81 ID:4thxwCbJ0
10月5日 16時29分

虹ヶ咲学園 普通科2年生 上原歩夢

同好会活動中。校外をランニングしていた途中。
公園から道路に飛び出す子供と走行中の車が衝突しそうになる。上原歩夢が身を呈し、走行していた車と衝突。飛び出した子供は無事であるも、上原歩夢は意識不明。お台場総合病院へと搬送。

命は助かるも、ずっと眠りについたままである。

医師はまるで魂だけが抜け落ちた状態だと語る。

7: (しまむら) (ワッチョイ 2328-WnAG) 2021/07/12(月) 22:45:38.60 ID:4thxwCbJ0
10月10日

上原歩夢は未だに目を覚まさない。

8: (しまむら) (ワッチョイ 2328-WnAG) 2021/07/12(月) 22:49:29.24 ID:4thxwCbJ0
侑「歩夢」

侑「ねぇ、起きてよ。歩夢」

侑「歩夢。歩夢? ──歩夢」


歩夢「……………………」


侑「……」


ここ数日、何が起きたかあんまり覚えていない。

あの日、同好会の皆で練習メニューとして、校外をランニングしていたんだ。私も珍しく走る側として参加していた。

体力のない私はクタクタになっている。そんな私と並走しながら、歩夢は可愛い笑顔で頑張れ〜って応援してくれた。

──でも、突然歩夢が何かに気がついたのか、ハッとした表情を作る。

そして、即座に判断したのだろうか。
私の横から歩夢は姿を消した。突然、全速力で走り始めた歩夢を目で追う。

そこには公園から飛び出す子供と──それに迫る車が目に映った。

そして、歩夢は身を呈し、子供を突き飛ばす形で車から離した。

そのまま歩夢は車と接触し──。


歩夢「……………………」


侑「……」


──目を覚まさなくなった。

13: (しまむら) (ワッチョイ 2328-WnAG) 2021/07/12(月) 22:57:27.33 ID:4thxwCbJ0
侑「歩夢」

侑「なんで、目を覚まさないの……?」

侑「歩夢……」

侑「頭を強く打ったけど……もう血は止まったし」

侑「奇跡的に内臓も無事だったんだよ? 歩夢の身体は……今だってちゃんと機能してるし……何も問題ないんだよ?」

侑「でも……なんで……!」


現実が受け入れられず、独り言をひたすら呟く。

いつか歩夢が返事してくれるのではないか? と、思いながら呟く。

──反応はない。


侑「………………」

侑「……ねぇ、歩夢」

侑「お、起きてよ……」

侑「歩夢……」

侑「わ、私……」

侑「君がいない世界なんて……」

侑「耐えられないよ……!!」

15: (しまむら) (ワッチョイ 2328-WnAG) 2021/07/12(月) 23:06:25.75 ID:4thxwCbJ0
「侑さん」

侑「!! ──歩夢!?」バッ!!

「!!」ビクッ!!


侑「あっ……」

侑「せつ菜ちゃん……」

せつ菜「…………」


振り返るとそこには、せつ菜ちゃんがいた。

名前を呼ばれたからつい、歩夢の目が覚めたのかと思った。

侑ちゃんって、呼ばれてないのに。

今だって彼女は、私の目の前で眠っているのに。


せつ菜「……ごめんなさい……」

せつ菜「ノック……したんですけれど……その……」

侑「……ごめん。気が付かなかった」

侑「せつ菜ちゃん、学校はどうしたの?」

せつ菜「侑さん」

せつ菜「もう……17時ですよ」

侑「え?」

せつ菜「放課後です……」

侑「………………」


時間の感覚がない。ここ暫く、こんな感じだ。

気が付いたら一日が終わっている。

18: (しまむら) (ワッチョイ 2328-WnAG) 2021/07/12(月) 23:15:33.92 ID:4thxwCbJ0
侑「……そっか」

侑「歩夢のお見舞いに来てくれたんだよね?」

せつ菜「はい」

せつ菜「侑さんへメッセージも送ったんですけれど……その、既読が付かなくて……」

せつ菜「歩夢さんもですけれど、侑さんも心配で……」

侑「………………」


侑(そういえばスマホも全然触ってないや……)

侑(同好会の皆からの連絡、溜まってそう)

侑(……でも……)

侑(今は……歩夢以外の事はあまり考えられない)


侑「ごめん。せつ菜ちゃん」

侑「今……余裕なくてさ……」

せつ菜「……いえ」

せつ菜「余計な気を遣わせてしまって、ごめんなさい」

侑「………………」

せつ菜「………………」


会話が続かない。

侑(ねぇ、歩夢。私──)


──今までどうやって人と会話してたんだっけ?

19: (しまむら) (ワッチョイ 2328-WnAG) 2021/07/12(月) 23:28:12.01 ID:4thxwCbJ0
せつ菜「ゆ、侑さん」


しばらくの沈黙の後、せつ菜ちゃんが私に声を掛けてくれる。

すごく気を使ってくれているんだろうな。
恐る恐るという雰囲気が溢れ出ている。


せつ菜「その……」

侑「………………」

せつ菜「学校……来ないんですか?」

せつ菜「折角……音楽科に転科できたのに……」

侑「……学校、かぁ」

侑「ねぇ、せつ菜ちゃん」

せつ菜「……」

侑「学校ってさ」

侑「大人になる為の知識を学ぶ所だよね?」

せつ菜「え?」

侑「時は止まらないじゃん? 年齢が重なっていって、いつか私達は大人になる。その為に必要な知識だったり、社交性を身に付けるために通うよね?」

せつ菜「それは……学校が存在する理由の一つではあると思います」

侑「だよね」

侑「……ねぇ、せつ菜ちゃん」

侑「私……大人になりたくない」

侑「歩夢が目を覚まさないまま」

侑「先に進みたくないよ……」

せつ菜「侑さん……」

28: (しまむら) (ワッチョイ 2328-WnAG) 2021/07/12(月) 23:49:17.16 ID:4thxwCbJ0
せつ菜「その……ごめんなさい」

せつ菜「正直なことを言うと……私も……いえ」

せつ菜「スクールアイドル同好会の皆さんも、今……どうすればいいか分からないんです」

せつ菜「歩夢さんが目を覚まさないのは……本当にショックなんです」

侑「……」

せつ菜「だから、あなたになんて言えばいいのかも分からないんです。生徒会長なのに……何も言えません」

侑「せつ菜ちゃん……」

せつ菜「でも、学校に来れば! 私も、同好会の皆さんもいます!」

侑「!!」

せつ菜「練習は出来ていませんが……皆、います。侑さんが学校に来るのを、待っています」

侑「…………」

せつ菜「……今は気持ちを落ち着かせたいと思うので、無理には言いませんが……」

せつ菜「一人で……抱え込まないで……」

侑「……うん……」


──本当に、すごく気を使ってくれているのが分かる。


せつ菜「…………」

侑(せつ菜ちゃんの悲しそうな表情)

侑(初めて見た)


歩夢が目を覚まさないまま、残酷にも時間は過ぎていった。




29: (しまむら) (ワッチョイ 2328-WnAG) 2021/07/12(月) 23:59:09.51 ID:4thxwCbJ0
侑「歩夢、窓開けるね?」


せつ菜ちゃんと話をしてから、数日が経った。

虹ヶ咲学園には、まだ足を運べていない。

中々、踏ん切りがつかない。


侑「風が冷たくなってきたね、歩夢」

侑「もうすぐ冬が来ちゃうね」

侑「ね、歩夢」


歩夢「……………………」


侑「…………」


歩夢からの反応はない。

30: (しまむら) (ワッチョイ 2328-WnAG) 2021/07/13(火) 00:04:52.21 ID:EUsMCbyi0
侑「……ねぇ歩夢」

侑「覚えてる?」

侑「歩夢ってさ、昔から私に付いてきてくれたよね?」

侑「臆病でもあったし、いつも私の後ろにいた」

侑「でも歩夢は、スクールアイドルになってから変わった」

侑「スクールアイドルフェスティバルで、雨が降って落ち込んでいた私の手を引いてくれた」

侑「君は、いつの間にか……私の前を歩くようになってたんだよ?」

侑「……歩夢……」

侑「また、私の手を引いてよ……」

侑「歩夢……!」

32: (しまむら) (ワッチョイ 2328-WnAG) 2021/07/13(火) 00:14:33.99 ID:EUsMCbyi0
侑「………………」


コンコンコン


侑「え?」

侑(ノック? 誰だろ? まだ11時だから同好会の皆は来れる時間じゃないし……歩夢のお母さん達かな? でもそれだったらノックしないよね? 個室だし)

スタスタ ──ガラガラ

侑「え?」

かすみ「…………」

侑「か、かすみちゃん……?」

かすみ「お、おはようございます……侑先輩」

侑「こんな時間にどうしたの……?」

侑「学校は?」

かすみ「え、えーっと……さ、サボっちゃいましたっ!」

かすみ「えへっ!」ニコッ

侑「…………」

かすみ「ゆ、侑先輩?」

侑「お見舞い?」

かすみ「は、はい……」

侑「……ダメだよ、学校サボっちゃ」

かすみ「…………」

侑「…………」

侑(自分の事を棚に上げて、何言ってんだろ私……)

33: (しまむら) (ワッチョイ 2328-WnAG) 2021/07/13(火) 00:27:17.83 ID:EUsMCbyi0
かすみ「ごめんなさい……」

侑「……んーん」

侑「私の方こそ、ごめん。歩夢の事、見てって?」

かすみ「は、はい!」

侑「あはは……元気だね。かすみちゃんは」

かすみ「ご、ごめんなさい……」

侑「…………」

侑(かすみちゃんにまで気を使わせちゃってる)

侑(私、先輩なんだから……もっとしっかりしなきゃいけないのに。そんなのはわかってるのに)

侑(気を使うことができない)

侑(私……ダメダメな人間だ)

スタスタ

かすみ「……歩夢先輩」

かすみ「可愛いかすみんが来ましたよ〜?」

かすみ「今日は、凄く可愛くお化粧できました。なので、歩夢先輩に見て欲しくて……その……」

かすみ「途中で抜け出してきちゃいました。えへっ、かすみん悪い子なんです」

かすみ「そんな可愛いかすみんが見られるチャンスですよ〜? だから歩夢せんぱい〜?」

かすみ「早く元気になってくださいね?」ニコッ

侑「…………」


かすみちゃんは、いつもの調子で眠っている歩夢に声をかける。

35: (しまむら) (ワッチョイ 2328-WnAG) 2021/07/13(火) 00:36:19.93 ID:EUsMCbyi0
侑「……」

侑(早く元気になってください、かぁ)

侑「かすみちゃんは……信じてくれているんだね」

かすみ「へ?」

侑「歩夢が目を覚ますのを」

かすみ「……はい」コクリ

かすみ「かすみんは、信じています」

侑「強い子だね。かすみちゃん」

侑「私はまだ……立ち直れそうにないよ」

かすみ「……侑先輩」

かすみ「私だって、まだ……立ち直れていません」

侑「……」

かすみ「でも……きっと……歩夢先輩は……」

かすみ「私達が立ち止まる事を……望んでいないと思います」

侑「!!」

かすみ「そう、思うんです……」

38: (しまむら) (ワッチョイ 2328-WnAG) 2021/07/13(火) 00:44:28.72 ID:EUsMCbyi0
侑「……」

かすみ「ゆ、侑先輩!」

かすみ「一緒に学校、行きましょうよ!」

かすみ「ずっとしゅーんってしてるの……侑先輩らしくないですよ!!」

侑「!!」

かすみ「侑先輩……すっごくやつれてます……。侑先輩、かわいいのに!」

かすみ「このままじゃ、先輩の身体だって!」


かすみちゃんは、私を本気で心配してくれているんだと思う。


侑「ねぇ、かすみちゃんは」

侑「──私らしさって、何かな?」


でも、私の口から感謝の気持ちを出す事が出来なかった。

40: (しまむら) (ワッチョイ 2328-WnAG) 2021/07/13(火) 01:04:00.91 ID:EUsMCbyi0
かすみ「え?」

侑「落ち込んでいるのが、私らしくないの?」

かすみ「だ、だって……侑先輩はいつも笑顔で……」

侑「かすみちゃんと私が関わるようになったのは、スクールアイドルを知った後だった」

かすみ「あの時は楽しかったから、いつでも笑顔が作れた」

かすみ「ゆ、侑せんぱい……?」

侑「元々私は、あんまり笑顔を作るような人間じゃないんだよ。かすみちゃん」

かすみ「そ、そんな事──」

侑「ないって言えるほど、私の事知ってる?」

侑「まだ出会って半年も経ってないよね?」

かすみ「そ、それでも私が知ってる侑先輩は!──」

侑「かすみちゃんッ!!」

かすみ「ひっ!!」ビクッ!!

侑「もう……無理なんだよ……私……」

侑「歩夢がいない今……笑顔なんて……作れない」

かすみ「…………」

侑「君が知ってる高咲侑は、上原歩夢がいたから存在できていたんだよ」

侑「この子が眠ってる今……私……何も出来ない」

かすみ「…………」

43: (しまむら) (ワッチョイ 2328-WnAG) 2021/07/13(火) 01:22:17.35 ID:EUsMCbyi0
侑「歩夢は私の全てだった」

侑「小さい頃からずっと一緒で、心の底から守りたいって思える子だった。私の命よりも大切な子だった」

侑「でも、そんな歩夢は……一人の子供を助けるために目を覚まさなくなった」

侑「たまに考えちゃうんだ。なんで歩夢が眠ったままになったんだろうって」

侑「あのままこの子が何もしなければ、こうならなかったのに。私が歩夢を止めたら、こうならなかったのにって……」

侑「子供なんか、どうでも良かったのにってね」

かすみ「…………」

侑「ね? 最低でしょ?」

侑「私、こんな事を平気で考えるような人間なんだよ?」

かすみ「…………」

46: (しまむら) (ワッチョイ 2328-WnAG) 2021/07/13(火) 01:47:00.20 ID:EUsMCbyi0
かすみ「……違うもん」ボソッ

侑「……」

かすみ「侑先輩は、優しくって、笑顔が可愛くって! 頼りになる私の憧れの先輩だもん!」

かすみ「同好会だって、侑先輩がいたから復活出来たんですよ!?」

かすみ「そうやって自分を下にしてネガティブに考えちゃ、ダメですよ!」

かすみ「歩夢先輩だって、そんな事言う侑先輩を望んでなんか──」

侑「ッ!! ──かすみちゃんに歩夢の何がわかるのさ!!」

かすみ「!!」ビクッ

侑「あっ……」


私は大切な後輩に対して怒鳴ってしまった。

しかも、これは1回目じゃない。2回目だ。


かすみ「っ……ぁぅ……ッ!」ジワッ


かすみちゃん目に、涙が浮かんでくる。


侑「か、かすみちゃん……その……!」


すぐに謝ろうとした。けど、その言葉は届かなかった。


かすみ「侑先輩の、ばかっ!!」バッ!! タッタッタッ!!

侑「か、かすみちゃん!」


かすみちゃんが部屋から出ていってしまう。

追いかけなきゃいけないのに、私は動く事が出来なかった。

47: (しまむら) (ワッチョイ 2328-WnAG) 2021/07/13(火) 01:57:55.08 ID:EUsMCbyi0
侑「……」

侑「私、何やってるんだろう」

侑「大事な後輩……泣かせちゃった……」

侑「……かすみちゃん……私の事を励まそうとしてくれてたのに……」

侑「……ごめんね……かすみちゃん……!」

侑「本当に、ごめん」


私の謝罪は、静かに部屋の中に響き渡る。

当然、誰も反応はしてくれない。

歩夢は眠っていて、目を覚まさない。

かすみちゃんはもう、部屋にいない。

私だけが、ここにいる。


侑「……っ……!!」

侑「っ……ぅぅ……っ!!」ポロポロ

侑「歩夢……起きてよぉ……!」

侑「歩夢……!!」





49: (しまむら) (ワッチョイ 2328-WnAG) 2021/07/13(火) 02:09:42.34 ID:EUsMCbyi0
歩夢「侑ちゃん」

侑「へ!? あ、歩夢!?」

侑「目、覚めたの!?」

歩夢「うん! 心配かけてごめんね?」

侑「ほ、本当だよ……歩夢!」


目の前にいるのは、私の大切な幼馴染。
私の命よりも大切な子。

──歩夢が無事に目を覚ましたんだ!


侑「歩夢ぅ!!」


私は歩夢に抱き着く。

いつもの柔らかい感覚は、ない。


グシャッ!!

侑「──え?」

歩夢「いたい、痛いよぉ……!! 侑ちゃん……!!」

侑「あ、歩夢……?」


歩夢の身体が、潰れた。


侑「ぁぁ、あああああ!!」

侑「歩夢!! 歩夢!!」

歩夢「どーしたの?」

侑「へ……?」

歩夢「侑ちゃん」


歩夢は私の横にいた。元気な姿で、私を見つめている。


侑「歩夢……い、いま……」

歩夢「ねぇ、侑ちゃん」



歩夢「なんで私の事」

歩夢「助けてくれなかったの?」

侑「」

50: (しまむら) (ワッチョイ 2328-WnAG) 2021/07/13(火) 02:22:37.57 ID:EUsMCbyi0
歩夢「侑ちゃん」

歩夢「ねぇねぇ侑ちゃん」

歩夢「侑ちゃん〜」

歩夢「私があぁなっちゃったの、侑ちゃんのせいだよね?」

侑「」

歩夢「侑ちゃん♪」

歩夢「あなたがあぁなれば良かったんじゃない?」

歩夢「なんで私だけ不幸になっちゃったの?」

侑「」

歩夢「侑ちゃん」

侑「あ、歩夢?」クルッ


後ろから、歩夢の声が聞こえる。

私が振り返ると、そこにも歩夢が立っていた。


歩夢「侑ちゃん!」

歩夢「%E3%81%8B%E3%81%99%E3%81%BF%E3%81%A1%E3%82%83%E3%82%93%E3%80%82%E3%81%82%E3%82%93%E3%81%AA%E3%81%93%E3%81%A8%E8%A8%80%E3%81%A3%E3%81%A1%E3%82%83%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%81%94%E3%82%81%E3%82%93%E3%81%AA%E3%81%95%E3%81%84」

侑「」








侑「っ!!」ガバッ!!

侑「はぁ、はぁ……っ、はぁ……はぁ……!!」

侑「ゆ、夢……?」


パジャマは汗でびっしょり濡れていた。

頭が痛い。

52: (しまむら) (ワッチョイ 2328-WnAG) 2021/07/13(火) 02:34:07.06 ID:EUsMCbyi0
侑「はぁ、はぁ……」


少しずつ、呼吸も落ち着いてくる。

まだ頭がクラクラするけれど、目も冷めてくる。

次第に視界もハッキリしてくる。

ただ、違和感を覚えた。


侑「あ、あれ……?」


──私は昔、ときめきを探していた。

そして、出会えたのはスクールアイドル。

せつ菜ちゃんの歌を聴いて、生まれたときめき。私の世界はあの日から変わり始めたんだ。

スクールアイドルとの出会いは、私を色とりどりに輝く世界へと導いてくれた。

私はそんな世界に、ときめきを感じていた。

けど──


侑「色が……分からない」


──私の目に映る世界から、色が消えた。

53: (しまむら) (ワッチョイ 2328-WnAG) 2021/07/13(火) 02:34:17.78 ID:EUsMCbyi0
つづく。

64: (しまむら) (ワッチョイ 2328-egXU) 2021/07/14(水) 21:32:21.94 ID:43HJ1DQD0
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

映るもの全てが、モノクロに映るようになった。

理由は分からない。ただ、医者からは心因性要因ではないかと告げられた。

精神的なストレス。人の身体って、意外と脆いんだなって思ってしまった。

何はともあれ、私は色覚異常を起こしてしまい──歩夢が眠っている病院に入院することになってしまった。

親からも同好会の皆からも心配された。

ただ、私は別に今の状態でも別にいいとすら思ってしまった。


侑「ねぇ、歩夢」

歩夢「……………………」

侑「大丈夫だよ」

侑「私がずっと傍にいてあげるから」


──余計なこと考えずに歩夢の傍にいることができる。

66: (しまむら) (ワッチョイ 2328-egXU) 2021/07/14(水) 21:41:47.20 ID:43HJ1DQD0
「ゆうゆ」


扉の方から、友達の声が聞こえた。


侑「愛ちゃん……?」クルッ

愛「うん。愛さんだよ」

侑「……何しに来たの?」

愛「なにって、お見舞いに決まってるじゃん〜」


愛ちゃんが少しだけ困ったように笑う。


愛「ゆうゆの病室に行ってもいなかったから……もしかしたらここにいるかもって思ってさ」

侑「……自由時間は歩夢の病室にいる事にしてるんだ」

侑「少しでも……歩夢と一緒にいたいから……」

愛「……そっか……」

侑「うん」

スタスタ

愛「隣、座っていい?」

侑「うん」

愛「あんがとね」


折りたたみ式の椅子をさっと置き、愛ちゃんは私の横に座る。

そのまま歩夢の顔を見つめている。

67: (しまむら) (ワッチョイ 2328-egXU) 2021/07/14(水) 21:45:36.45 ID:43HJ1DQD0
愛「歩夢はほんと美人さんだよね。中学の時とかモテてたっしょ?」

侑「……私に聞いてる?」

愛「うん」

侑「……どうだろ」

侑「クラスであんまり目立つような子じゃなかったからね。そういう噂はあんまり聞いてなかったかな」

愛「え? そうだったんだ」

侑「うん」

愛「へー、ちょっと意外だね」

68: (しまむら) (ワッチョイ 2328-egXU) 2021/07/14(水) 21:49:43.99 ID:43HJ1DQD0
侑「…………」

侑「ねぇ、愛ちゃん」

愛「ん〜?」

侑「他の皆は、来ないの?」

愛「あんまり大勢でお見舞いに来るのも迷惑になっちゃうから、行くなら1人ずつ行こうって話しになったんだぁ〜」

愛「一応グループチャットにも書き込んだけど、見てないよね?」

侑「……ごめん」

愛「謝ることじゃないよ」

愛「今はゆうゆも、ゆっくり休まなきゃダメだから。あんまり余計な事は考えなくてへーきだよ」

侑「……うん」

愛「……」ナデナデ

侑「…………」

愛「でもゆうゆ」

愛「あんまり出歩いちゃダメだぞ?」

侑「え?」

愛「転んだりして怪我でもしたら、歩夢だって心配しちゃうよ?」

71: (しまむら) (ワッチョイ 2328-egXU) 2021/07/14(水) 21:57:29.91 ID:43HJ1DQD0
侑「…………」

侑「別に、大丈夫だよ。色が分からないだけだもん。視力とかは下がってないし」

愛「ゆうゆ?」ジトー

侑「……ご、ごめん」

侑「善処します」

愛「ん、分かればよろしい」

侑(愛ちゃん、お姉ちゃんみたい)

侑(同い年なのに……立派だよ。ほんと)

愛「あっ、そう言えばゆうゆ」

侑「ん?」

愛「かすみんと何かあったりした?」

侑「!!」

侑「……な、なんで?」

愛「かすみん、最近元気ないんだ。……まぁ、今の状況で元気な子の方が少ないけど」

愛「歩夢先輩のお見舞いにと同時に、侑先輩をかすみんの可愛さで元気付けてきますっ!」

愛「って言って学校抜け出してたんだよ。あの子」

侑「…………」

愛「んでそこから元気無いから、なんかあったのかなぁって」

侑「…………」

72: (しまむら) (ワッチョイ 2328-egXU) 2021/07/14(水) 22:23:50.23 ID:43HJ1DQD0
侑「……私のせい、だと思う」

侑「私、最低でさ」

侑「心配してくれたかすみちゃんに、酷いこと言っちゃったんだ。怒鳴っちゃったりもした」

愛「……」

侑「本当に私……どうしようもないよ……」

愛「侑」

侑「!!」ビクッ!!


愛ちゃんから呼び捨てにされたのは、初めてだった。

真剣な表情のまま、愛ちゃんは私を見つめてくる。


愛「反省はしてるの? かすみと仲直りしたいって気持ちはある?」

侑「……猛反省してるし、謝りたい」

侑「かすみちゃんが許してくれるかは分からないけど……」

愛「──そっか!」ニコッ

侑「え?」


意外な反応が帰ってきた。愛ちゃんはかすみちゃんの事をよくからかっているけれど、それは一種の愛情表現だ。

愛ちゃんにとっても彼女は大事な後輩なはずだ。そんな子を泣かせてしまったから、怒られると思っていた。

73: (しまむら) (ワッチョイ 2328-egXU) 2021/07/14(水) 22:28:29.04 ID:43HJ1DQD0
侑「お、怒らないの?」

愛「勿論、意味もなくかすみんを傷付けてたら怒ってた。でもその様子だとなんか理由があったんでしょ?」

愛「キミは意味もなく誰かを傷付けるような子じゃないってのはわかってるもん」

侑「…………」

侑「違うよ、愛ちゃん」

愛「え?」

侑「私、ただかすみちゃんに八つ当たりしちゃっただけだよ」

侑「意味も無く、傷付けたんだよ……!」

愛「ゆうゆ……」

侑「私は」

侑「皆が思うような人間じゃない……!!」

愛「……」

76: (しまむら) (ワッチョイ 2328-egXU) 2021/07/14(水) 22:53:38.93 ID:43HJ1DQD0
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

その後、愛ちゃんは何も言わずに私の頭を撫でてから帰ってしまった。

なんて声を掛けたら良いのか、分からないって表情をしてた。


侑(それもそうか)

侑(あの時、私は急に泣いてしまった)

侑(いきなり目の前で泣かれたら、誰だって困るに決まってる)

侑「……いっそ」

侑「怒ってくれた方が、楽だったよ」

侑「……せつ菜ちゃんもかすみちゃんも愛ちゃんも」

侑「優し過ぎるんだよ……」

歩夢「……………………」

侑「ねぇ、歩夢」

歩夢「……………………」

侑「私、もう何したらいいのか」

侑「わかんないや」

77: (しまむら) (ワッチョイ 2328-egXU) 2021/07/14(水) 23:02:56.24 ID:43HJ1DQD0
侑「やるべき事はたくさんあるのに」

侑「何も、できない」

歩夢「……………………」

侑「歩夢。今私が生きているここは」

侑「歩夢が目を覚まさなくなった世界」

侑「ずっとこのままなのかな?」

侑「そうだとしたら」

侑「私」

侑「生きていられないよ?」

侑「歩夢」

侑「歩夢……!!」


歩夢「……………………」





80: (しまむら) (ワッチョイ 2328-egXU) 2021/07/15(木) 07:44:40.75 ID:pX1VpdRr0
スタスタ

愛「──ちょ、ちょっとかすかす! 最後まで話聞いてって!」

愛「ゆうゆもきっと悪気があったわけじゃないし、謝りたいって言ってたんだってば!」

かすみ「かすかすじゃなくてかすみんです!」

かすみ「……それで、その事をかすみんに言ってどうするんですか? てか、なんでその事をかすみんに言うんですか?」

愛「かすかす落ち込んでたじゃん。そしてゆうゆも落ち込んでた。お互い凹んでじゃってて心配だったんだよ」

愛「ゆうゆは八つ当たりしちゃっただけって言ってたけど、絶対にそれだけじゃない。謝りたいって言ってたし……タイミングみて会いに行こうよ!」

かすみ「……愛先輩」

かすみ「別に、謝られたいとか……そういうのは別にもう」

かすみ「どうでもいいんです」

愛「え?」

愛「……かすみ?」

愛「……どうでもいいって、どういうこと?」

愛「ずっとこのままでいいってこと……?」

かすみ「かすみんは、侑先輩が前みたいに戻ってほしいだけです」

かすみ「別に謝ってもらいたくないです」

愛「……」

かすみ「……侑先輩は、キラキラしていました」

かすみ「スクールアイドルが大好きで、毎日楽しそうでした。──私達の事もたくさんサポートしてくれて、笑顔が可愛くって……私の事もずっと可愛いって言ってくれました」

かすみ「そんな先輩が、私は大好きでした」

81: (しまむら) (ワッチョイ 2328-egXU) 2021/07/15(木) 07:47:52.77 ID:pX1VpdRr0
愛「…………」

かすみ「私は別に、謝ってもらいたくない」

かすみ「前の侑先輩に戻ってほしいだけです」

愛「かすみ……」

かすみ「……もう行きます」

愛「な、何しに行くの?」

かすみ「私はスクールアイドルです。いつまでもサボってちゃダメなので、練習します」

かすみ「やりたい事があるので」

愛「!!(練習嫌いのかすみが、こんな事を言うなんて……)」

かすみ「……失礼します」ペコリ

スタスタスタスタ

愛「……」

愛(アタシ達、どうなっちゃうんだろ?)

愛「歩夢……ゆうゆ……!」

愛「みんな……バラバラになっちゃうよ……!」





84:1(茸) (スッップ Sd43-egXU) 2021/07/15(木) 08:48:17.70 ID:ckHmW2UEd
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

私と歩夢は小さい頃からずっと一緒だった。

親も友達同士だし、部屋も隣。ベランダで話が出来るくらい近い距離に住んでいる。

幼稚園年少の時から、ずっと一緒にいる。


あゆむ『それでね、あゆむはね〜』

『うん!』

ゆう『…………』


これは、夢かな? なんだか懐かしい。

小さい頃の思い出が、夢として再現される。

歩夢は他の子と仲良く話をしていて、私がそれを見つめている。


スタスタ

ゆう『あゆむちゃん。こっち来て』

あゆむ『え?』

ゆう『はやく!』

あゆむ『わ、わかったよぉ! ご、ごめんねみんな?』


他の子と仲良く話す歩夢を見て、私はもやもやとしてしまったんだ。


スタスタ

ゆう『………………』

あゆむ『ゆ、ゆうちゃん……? どうしたの?』

ゆう『あんまりほかの子とお話しないで。もっとゆうにかまって!』

あゆむ『!!』

ゆう『おねがい……』


──懐かしい。

そうだ、思い出した。こんな事もあった。


あゆむ『ふふっ、いいよぉ〜』


歩夢が笑顔で、私に答えてくれた。


ゆう『!! やったっ! あゆむちゃん! あそぼっ』

あゆむ『うん!』ニッコリ


歩夢は、私が先に進むのが嫌だと言っていた。

私だけの侑ちゃんでいてとも言われた。

傍から見たら、歩夢が私に依存しているように思われるかもしれない。

けど──


ゆう『えへへ!』

ゆう『あゆむちゃんだいすき!』


──歩夢に依存しているのは、私だったんだ。

85: (茸) (スッップ Sd43-egXU) 2021/07/15(木) 09:06:57.97 ID:ckHmW2UEd
侑「……んん……?」パチ、パチ

「あっ、侑さん」

侑「え?」

しずく「おはようございます」ニコッ

侑「しずくちゃん」

しずく「ごめんなさい……。お見舞いに来たらぐっすり眠っていたので、起こさないで待ってたんです」

侑「ううん。私こそ起きるの遅くてごめん。……お見舞いに来てくれてありがとう……」

しずく「いえいえっ」ニコッ

しずく「あっ、窓開けますね? 換気しましょう」

侑「うん……」

スタスタ ガチャ

しずく「良い天気ですね〜」

侑「……ごめん。天気の良さは……わかんないや」

しずく「あっ……」

しずく「ご、ごめんなさい……」シュン

侑「…………」

しずく「そ、そうだ! 侑さん。私、リンゴ持ってきたんです。剥きますので、良かったら食べませんか?」

侑「……うん。頂こうかな。ありがとうね」

しずく「い、いえ!」


テキパキと準備を進め、りんごを剥き始めるしずくちゃん。

昔、私が熱を出してしまった時に歩夢も同じようにりんごを剥いてくれたっけ。

夢の続きのようだ。また、懐かしい気分になる。

86: (茸) (スッップ Sd43-egXU) 2021/07/15(木) 09:12:36.86 ID:ckHmW2UEd
しずく「うさぎさんにしますね〜」

侑「…………」


しずくちゃんの姿が、歩夢と重なる。


侑(しずくちゃんと歩夢。雰囲気が少し似てるんだよね)

侑(……そういえば)

侑「ねぇ、しずくちゃん」

しずく「ん? どうしました?」

侑「しずくちゃんってさ……演劇部にも所属してるじゃん?」

しずく「はい」

侑「演技するの、得意だよね?」

しずく「得意ですし、大好きですよっ」ニコッ

侑「…………」


純粋な、偽りのなさそうな笑顔。

私はゴクリと唾を飲み込む。

──最低な事を、私は考えてしまう。


侑「ね、ねぇ」

侑「しずくちゃん」

しずく「?」キョトン




侑「歩夢の演技、出来たりしないかな?」

しずく「──え?」

89: (茸) (スッップ Sd43-egXU) 2021/07/15(木) 09:20:02.94 ID:ckHmW2UEd
しずく「あ、歩夢さんの……?」

侑「……うん」

しずく「ど、どうして……?」

侑「……私のただのわがまま」

侑「雰囲気が似てるしずくちゃんなら、歩夢に“なりきれる”んじゃないかなって思って」

しずく「…………」


私は、最低な事を口走る。

今私は、しずくちゃんと話をしているのに。

眠っている歩夢の演技をしろってお願いしてるんだ。

──自分の言葉に、吐き気がする。

でも、止まらなかった。


侑「歩夢と、話したい」

侑「しずくちゃんなら」

侑「歩夢の演技、できるよね……?」

しずく「…………」


しずくちゃんの表情を、見ることが出来ない。

私は俯いてしまう。

90: (茸) (スッップ Sd43-egXU) 2021/07/15(木) 09:30:35.35 ID:ckHmW2UEd
しずく「できますよ」

侑「え?」


顔を見上げ、しずくちゃんを見つめる。


しずく「でも、嫌です」

侑「!!」

しずく「私が歩夢さんの演技をして、彼女は戻ってきますか?」

しずく「侑さんのお身体が……良くなりますか……?」

侑「そ、それは……」

しずく「……以前までの私なら、侑さんの顔色を伺って……了承してたかもしれません」

しずく「でも……今はもう、自分らしく生きるって決めたんです」

侑「…………」

しずく「だから、ごめんなさい」

しずく「侑さんのお願いは、聞けません」

侑「……変な事言って、ごめん」

しずく「…………」

侑「ごめんなさい」

しずく「侑さん……」

92: (茸) (スッップ Sd43-egXU) 2021/07/15(木) 09:50:05.81 ID:ckHmW2UEd
しずく「……りんご、置いておきます」

しずく「歩夢さんを見てから、帰りますね」スタッ

侑「…………」


しずくちゃんが立ち上がり、扉の方まで歩く。

──出ていってしまう。

多分、私の一言が原因だ。


侑(本当に……自分が嫌になる)

侑(こんな私、大嫌い)


しずく「侑さん」


侑「!!」


扉の近くに立っているしずくちゃんが、こちらを見ずに呟く。

身体が、小さく震えていた。


しずく「私は……優しい歩夢さんも侑さんの事も、大好きなんですよ」

しずく「今日だって、色々と私なりに考えて……お見舞いに来たんです」

しずく「あなたにも元気になってほしかったから」

侑「……」

しずく「私は、歩夢さんの代わりにはなれないと思っています」

しずく「けど──」


しずくちゃんが振り返り、私を見つめる。

彼女の瞳には、涙が浮かんでいた。


しずく「……っ……!」ほ

しずく「私の事も、見てほしいな」


侑「!! し、しずくちゃ──」


しずく「さよなら」

タッタッタッタ!


侑「…………」


テーブルには、りんごが置いてある。

うさぎさんにようになっていて、丁寧さからあの子の優しさと愛情が詰められている気がする。

でも、そんな彼女の優しさを──私は踏みにじってしまった。


侑「ごめんなさい」


意味の無い謝罪が、病室で響き渡った。

100: (しまむら) (ワッチョイ 2328-egXU) 2021/07/15(木) 23:10:49.71 ID:pX1VpdRr0
>>92 誤字修正

しずく「……りんご、置いておきます」

しずく「歩夢さんを見てから、帰りますね」スタッ

侑「…………」


しずくちゃんが立ち上がり、扉の方まで歩く。

──出ていってしまう。

多分、私の一言が原因だ。


侑(本当に……自分が嫌になる)

侑(こんな私、大嫌い)


しずく「侑さん」


侑「!!」


扉の近くに立っているしずくちゃんが、こちらを見ずに呟く。

身体が、小さく震えていた。


しずく「私は……優しい歩夢さんも侑さんの事も、大好きなんですよ」

しずく「今日だって、色々と私なりに考えて……お見舞いに来たんです」

しずく「あなたにも元気になってほしかったから」

侑「……」

しずく「私は、歩夢さんの代わりにはなれないと思っています」

しずく「けど──」


しずくちゃんが振り返り、私を見つめる。

彼女の瞳には、涙が浮かんでいた。


しずく「……っ……!」ポロ、ポロ

しずく「私の事も、見てほしいな」


侑「!! し、しずくちゃ──」


しずく「っ、さよなら」

タッタッタッタ!


侑「…………」


テーブルには、りんごが置いてある。

うさぎさんにようになっていて、丁寧さからあの子の優しさと愛情が詰められている気がする。

でも、そんな彼女の優しさを──私は踏みにじってしまった。


侑「ごめんなさい」


意味の無い謝罪が、病室で響き渡った。

103: (しまむら) (ワッチョイ 5a28-hqlV) 2021/07/16(金) 00:21:31.63 ID:+TN9UtTO0
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

スタスタ

果林(えっと、食堂はどこだったかしら?)

果林(相変わらずこの学園は広いのよね……)

果林「あっ……」

果林(ここ、歩夢を最初に見た所ね)

果林「…………」


歩夢『新人スクールアイドルの、上原歩夢だぴょん〜』

歩夢『臆病だから、温かく──』

果林『』

歩夢『』


果林「ふふっ、懐かしいわね……」

果林(本当に……懐かしい)

果林「…………」

果林(お見舞いに行くべきなんだろうけど、踏み出す事ができない。侑だって入院しているのに)

果林(現実を受け入れるのが、怖い)

果林「……先輩なのに、情けないわね。わたし」

果林「……」スタスタ

果林「ん? あれ?」


彼方「……」ポツーン


果林「彼方?」

104: (しまむら) (ワッチョイ 5a28-hqlV) 2021/07/16(金) 00:32:12.73 ID:+TN9UtTO0
果林「……」スタスタ

果林「彼方」

彼方「わっ、果林ちゃん?」

果林「ええ。どうしたの? こんな所のベンチでぼーっとして」

彼方「……うん」

彼方「お昼寝でもしようとおもってたんだけど、最近中々寝付きが悪くってさぁ」

彼方「だから……ぼーっとしてたの」

果林「……そう」

彼方「うん……」

果林「……」

果林「彼方。今日……あの子達のお見舞いに行く?」

彼方「え?」

果林「わたし達、会いに行けていないでしょ?」

果林「だから……」

彼方「……彼方ちゃんは……遠慮しておく」

果林「どうして?」

彼方「…………」

彼方「──いから」

果林「え?」

彼方「…………」

彼方「怖いんだ……」

彼方「車とぶつかって、ぐったりとしていた歩夢ちゃんの姿……思い出しちゃうの」

彼方「地面に広がる……ち、血も……!」ブルブル

果林「彼方……」

105: (しまむら) (ワッチョイ 5a28-hqlV) 2021/07/16(金) 00:41:14.02 ID:+TN9UtTO0
彼方「それに……私、侑ちゃんになんて声をかけてあげれば良いのか……わかんない」

彼方「大切な子が目の前で……!」

彼方「か、考えちゃうの。もし、私が侑ちゃんと同じ立場だったら!」

彼方「は、遥ちゃんが……お、同じようになっちゃったらって考えたら……!!」

彼方「そんなの……想像も出来ないし、したくもないのに! あの子にとってはそれが現実になっちゃってて!」

果林「──彼方!」

彼方「!!」ビクッ

果林「……やめましょう」

彼方「……うん……」

彼方「ごめんね」

果林「大丈夫よ。気持ちは……分かるもの……」

彼方「…………」

果林「…………」

106: (しまむら) (ワッチョイ 5a28-hqlV) 2021/07/16(金) 00:51:42.24 ID:+TN9UtTO0
彼方「情けないよね……彼方ちゃん、3年生なのに……」

彼方「後輩のみんなが、あの子達のお見舞いに行ってるのに……」

果林「彼方」

果林「わたしも一緒。わたしだって、怖いの」

果林「その気持ちは、同じよ」

果林「だから、あまり自分を責めちゃダメよ」

彼方「……うん……」

スタスタ

「あっ、二人ともこんな所にいた」

彼方「ん?」

果林「エマ……」

エマ「うん。果林ちゃんも彼方ちゃんもこんにちは」

果林「どうしたの?」

エマ「ちょうど二人をさがしてたの」

彼方「彼方ちゃん達を?」

エマ「うんっ」

スタスタ ──ガシッ

彼方「え?」
果林「え?」

エマ「来て」


果林「え、え!?」

彼方「エマちゃん!?」

タッタッタッタ!





107: (しまむら) (ワッチョイ 5a28-hqlV) 2021/07/16(金) 01:16:32.79 ID:+TN9UtTO0
エマ「さっ、二人とも入って〜」

彼方「あれ? ここって、エマちゃんの部屋だよね?」

エマ「うんっ!」

エマ「お手伝いして欲しいことがあるんだぁ〜」

果林「お、お手伝い?」

エマ「そう!」

彼方「何の?」

エマ「折り紙だよ〜」ニコッ

果林「お、折り紙!?」

エマ「うん」

エマ「これを作ってほしいの」バッ

彼方「!! これ……」

果林「うさぎさん……?」

エマ「そうだよ。まだ40羽くらいしか作れていないの」

果林「40羽って……な、何個作るつもりなの?」

エマ「千羽」

彼方「せ、千羽!?」

エマ「うん」

果林(千羽って、この子もしかして)

109: (しまむら) (ワッチョイ 5a28-hqlV) 2021/07/16(金) 01:38:53.10 ID:+TN9UtTO0
エマ「ほら、千羽鶴ってあるじゃない?」

エマ「あれと一緒だよ〜」

エマ「歩夢ちゃん、うさぎさん大好きだったし」ニコッ

果林「……」

彼方「……」

エマ「侑ちゃんの回復も一緒にお祈りする為に、白い折り紙でたくさん作ろって思ってね?」

エマ「ほら、幸運の白うさぎってのもあるし──」

果林「エマ」

エマ「ん?」

果林「お見舞いには、行かないの?」

エマ「うん。行かないよ」

エマ「今はまだ、ね」

彼方「これを完成させたら行くの……?」

エマ「うん」

エマ「今はさ、侑ちゃんもゆっくりと考える時間が必要だと思うの」

エマ「そっとしといてあげるのも、優しさだと思う」

彼方「……」

果林「エマ……」

エマ「でもね。何もしないのも落ち着かないから……この子達を作ることにしたんだ」

エマ「わたし、歩夢ちゃんも侑ちゃんも元気になるって信じてるから」

110: (しまむら) (ワッチョイ 5a28-hqlV) 2021/07/16(金) 01:48:56.32 ID:+TN9UtTO0
果林「……」

果林「エマって、本当に強い子ね」

エマ「え?」

彼方「あはは! 彼方ちゃんも果林ちゃんに同感〜」ニコッ

エマ「え? えぇ?」キョトン

果林(そうよね)

果林(今は、信じて待つのも大事よね)

彼方(歩夢ちゃんも侑ちゃんも、元気になるって。私達が信じてあげないと、ダメだよね)

彼方「よーし! なんか彼方ちゃんやる気出てきた〜!」

彼方「エマちゃん! お手伝いするよ〜。たっくさん作っちゃうぞ〜!」

果林「こらこら、学生寮なんだから騒ぎすぎはダメよ?」

果林「あと、わたしの方が沢山作るから」

彼方「おぉ? 果林ちゃん、勝負かな?」

エマ「勝負とかはなしだよ〜! 歩夢ちゃん達のために作るんだから丁寧に、だよ?」

果林「はーい」
彼方「はーい」

エマ「ふふっ」

エマ「二人とも、ありがとうね」ニコニコ

エマ「あの子達のために、がんばろーね!」




112: (茸) (スッップ Sdfa-hqlV) 2021/07/16(金) 07:48:16.33 ID:ZZiUmQFid
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

〜生徒会室〜

カキ、カキ

せつ菜「…………」

せつ菜(放課後。誰もいない中、生徒会活動としての資料を作成する)

せつ菜(今日は生徒会は休みだけど、なんだか落ち着かずにここへ来てしまった)

せつ菜「…………」

せつ菜(最近、楽しい事が……あまりない気がします)

せつ菜(スクールアイドルの練習をする気分にもなれない)

せつ菜「…………」

せつ菜「侑さん……歩夢さん……」

せつ菜(私の大切で、大好きな方達が──いなくなってしまった)

せつ菜「……ッ……!!」ジワァ

せつ菜(やっぱり一人になると、涙がで──)


コンコンコン


せつ菜「!?」ビクッ

せつ菜「っ」ゴシゴシ

せつ菜「か、鍵はあいてますよ? どうぞ」

せつ菜(ノック。誰だろ? 先生かな。生徒だとしても、中川菜々としてしっかりせねば)

ガチャ スタスタ

かすみ「こんにちは」

せつ菜「か、かすみさん!?」

かすみ「……」キョロキョロ

かすみ「えと、せつ菜先輩で……大丈夫ですか?」

せつ菜「え、えぇ。今日は生徒会は休みなので。誰も来ないと思います」

かすみ「ならよかったです」

かすみ「せつ菜先輩を探してたんです」

せつ菜「私を……?」

かすみ「はい」コクリ

113: (茸) (スッップ Sdfa-hqlV) 2021/07/16(金) 08:01:14.57 ID:ZZiUmQFid
かすみ「せつ菜先輩」

かすみ「かすみんの練習に付き合って下さい。お願いします」ペコリ

せつ菜「練習……? 何のですか?」

かすみ「え? そんなの決まってるじゃないですか」ジトー

かすみ「かすみん達はスクールアイドルですよ?」

かすみ「ダンスレッスン、ボーカル練習とかやることは沢山あります」

せつ菜「!?」

せつ菜「ど、どうしたんですか……?」

かすみ「へ?」

せつ菜「練習嫌いのかすみさんが……自ら練習に付き合ってというなんて……」

かすみ「」

かすみ「か、かすみん別に練習嫌いじゃないんですけど!?」

せつ菜「え? だって熱いのとかじゃなくて、可愛い感じでやりたいって仰ってたじゃないですか」

かすみ「あれはせつ菜先輩の練習がスパルタ過ぎただけです! それに、あの時の自分の発言もちゃんと反省してますからぁ!!」

114: (茸) (スッップ Sdfa-hqlV) 2021/07/16(金) 08:08:07.33 ID:ZZiUmQFid
せつ菜「ランニング中とかも……」

かすみ「むむむむ……なんか勘違いされてますね……」

かすみ「まぁ、この際なんでもいいです」

かすみ「せつ菜先輩」グイッ

せつ菜「な、なんでしょう?」

かすみ「とにかく、かすみんの練習に付き合って下さい。しず子もりな子からもそんな気分じゃないって断られちゃったんです」

せつ菜「…………」

せつ菜「すみません……私も──」

かすみ「練習する気分じゃないですか?」

せつ菜「…………」

かすみ「なら、別にせつ菜先輩は練習しなくて良いです」

せつ菜「え?」

かすみ「かすみんの練習を、見てください」

かすみ「可愛い感じじゃなくって、熱い感じの練習がしたいので」

せつ菜「あ、熱い練習を!?」

せつ菜「ど、どうして?」

かすみ「やりたい事ができたから」

せつ菜「!!」

かすみ「だから、お願いします。せつ菜先輩」

せつ菜「…………」

せつ菜(真剣な眼差し。かすみさん、本気なんだ)

115: (茸) (スッップ Sdfa-hqlV) 2021/07/16(金) 08:17:57.07 ID:ZZiUmQFid
せつ菜「……かすみさんは、強い子ですね」

せつ菜「ちゃんと前を向いて、歩き始めてる」

かすみ「いつまでも落ち込んでるのを、歩夢先輩は望んでいないと思いますので」

せつ菜「……なんで分かるんですか?」

かすみ「歩夢先輩は、かすみんの仲間でライバルですから」

かすみ「せつ菜先輩は、歩夢先輩が今の私達の同好会の姿を望んでると思いますか?」

せつ菜「…………」

せつ菜「思い、ません……!」

かすみ「ですよね?」

かすみ「だから、前を向いて歩くしかないんです。一歩一歩」

せつ菜「かすみさん……」

せつ菜「ふふっ」ニコッ

かすみ「な、なんですか急に笑ったりして……」ジトー

せつ菜「いえっ! かすみさんの成長が嬉しくてつい!」ペカー

かすみ「あー! どういう意味ですかそれぇ!? かすみんのことバカにしてるんですか!?」

せつ菜「してませんよ」

せつ菜「かすみさんの事は、尊敬してます」

かすみ「へ!?////」カァァァァァ

かすみ「な、なんですか急に……」モジモジ

せつ菜「ふふっ、かすみさん可愛いです!」ナデナデ

かすみ「や、やっぱりなんかバカにされてる気がします……」

116: (茸) (スッップ Sdfa-hqlV) 2021/07/16(金) 08:31:11.87 ID:ZZiUmQFid
せつ菜「かすみさん!」

せつ菜「気分が変わりました。私も練習しますっ!」

かすみ「ほ、ほんとですか!? やった……!」グッ

せつ菜「はい!」

せつ菜「いつまでも落ち込んでちゃ、ダメですから」

せつ菜「歩夢さんと侑さんがいつでも帰って来れるように、ちゃんとスクールアイドル同好会は残しておかないといけませんので!」

かすみ「はいっ!」ニコッ

せつ菜「もう一度、しずくさんや璃奈さん。そして愛さんと3年生の方々にも声をかけてみましょうっ!」

かすみ「わかりましたっ」

せつ菜「……」

かすみ「あれ? せつ菜先輩? どうしました?」キョトン

せつ菜「かすみさん」

せつ菜「──ありがとう」ニコッ

かすみ「!!」

かすみ「いえっ!」ニッコリ

117: (茸) (スッップ Sdfa-hqlV) 2021/07/16(金) 08:38:45.17 ID:ZZiUmQFid
かすみ(歩夢先輩。あなたが始めて良かったって言ってくれたスクールアイドルのこの場所は、ちゃんと残しておきますから。だから、早く帰ってきてね)

かすみ(──侑先輩)

かすみ(あなたがまた、ときめきを取り戻せるように……私は頑張ります)

かすみ(だから)

かすみ(──待ってて)


せつ菜「そういえばかすみさん?」

かすみ「はい?」

せつ菜「やりたい事って、なんですか?」

かすみ「ソロライブです」

せつ菜「そ、ソロライブですか!?」

かすみ「はい」コクリ

かすみ「そして、せつ菜先輩にもお願いしたいことがあるんです。耳、貸してもらえますか?」

せつ菜「え? はい」グイッ

かすみ「実は、お願いがあるんです」グイッ

かすみ「────」ヒソヒソ

せつ菜「──え!?」




120: (茸) (スッップ Sdfa-hqlV) 2021/07/16(金) 10:02:29.08 ID:ZZiUmQFid
>>117 修正


かすみ(歩夢先輩。あなたが始めて良かったって言ってくれたスクールアイドルのこの場所は、ちゃんと残しておきますから。だから、早く帰ってきてね)

かすみ(──侑先輩)

かすみ(あなたがまた、ときめきを取り戻せるように……私は頑張ります)

かすみ(だから)

かすみ(──待ってて)


せつ菜「そういえばかすみさん?」

かすみ「はい?」

せつ菜「やりたい事って、なんですか?」

かすみ「ソロライブです」

せつ菜「そ、ソロライブですか!?」

かすみ「はい」コクリ

かすみ「そして、せつ菜先輩にもお願いしたいことがあるんです。耳、貸してもらえますか?」

せつ菜「え? はい」グイッ

かすみ「────」ヒソヒソ

せつ菜「──え!?」




126:昨日の夜は寝落ちしました申し訳ない。(しまむら) (ワッチョイ 5a28-hqlV) 2021/07/17(土) 07:09:50.13 ID:VQA2oS880
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

侑「…………」


しずく『……っ……!』ポロポロ

しずく『私の事も、見てほしいな』


侑「…………」


あれから数日。私は1人、病室のベッドの上でぼーっとしていた。


侑「…………」


しずく『……以前までの私なら、侑さんの顔色を伺って……了承してたかもしれません』

しずく『でも……今はもう、自分らしく生きるって決めたんです』


侑(自分らしく生きる、かぁ……)

侑(皆成長してるんだ)

侑(そんな中、私は?)

侑(私は、変わる事が出来てるかな?)


同好会の皆を見て、私はスクールアイドルが更に好きになった。

そして、音楽を始めたいと思った。

その想いは行動へと代わり、音楽科への転科試験を受けることにした。そして、合格出来た。晴れて私は音楽科へ移るの事ができた。

でも、そこから──なにか出来ているかな?

ここからが、頑張らなければいけないのに。

歩夢が目を覚まさなくなってしまった今、私は立ち止まっている。

127: (しまむら) (ワッチョイ 5a28-hqlV) 2021/07/17(土) 07:17:56.28 ID:VQA2oS880
歩夢『侑ちゃん。今までありがとう』

歩夢『そして、これからもよろしくね』ニコッ


侑「………………」


歩夢は一時期、スクールアイドルとして悩みを抱えていた。

でもあの子は、自分で悩みを解決した。
自分から、スクールアイドルへの道を歩む事を決めたんだ。

あの子は──強くなった。


侑(でも、私は?)

侑(しずくちゃんもかすみちゃんも傷付けて)

侑(今日も、歩夢と会う以外は……何もしない一日を過ごす)

侑(入院費だって、タダじゃないのに)

侑(色々な人達に、迷惑を掛けてしまっている)

侑「……なにやってんだろ……」

侑「私……」


確かに、音楽を始めたいという夢はできた。

でも、それだけだ。そこから何も出来てない。

どうして音楽を始めたいと思ったんだろ?

それすら、分からなくなってしまっている。


侑「………………」


そんな私は、今日も歩夢の病室まで足を運ぶ。

──今日も、何もしない一日が始まる。

128: (しまむら) (ワッチョイ 5a28-hqlV) 2021/07/17(土) 07:36:02.58 ID:VQA2oS880
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

スタスタ ガチャ

侑「あれ?」


歩夢の病室にたどり着くと、そこには先約がいた。


侑「今日子ちゃん?」


歩夢の大ファンの子。璃奈ちゃんと同じクラスメイト。後輩だ。


今日子「へ? 侑先輩?」

侑「うん。こんにちは」

侑「歩夢のお見舞い?」

今日子「……」コクリ

侑「そっか」

今日子「あれ……? 侑先輩もですか? というか、その格好……」

侑「ん? あぁ……私も今入院してるんだ」

侑「目の病気になっちゃってさ」

今日子「そう……なんですね」

今日子「お大事に、です」

侑「うん。ありがとう」

今日子「…………」

侑「…………」

129: (しまむら) (ワッチョイ 5a28-hqlV) 2021/07/17(土) 07:48:54.74 ID:VQA2oS880
今日子「……歩夢ちゃん、本当に目を覚まさないんですね」

侑「うん。かれこれ数週間はこのままだよ」

今日子「……信じられないです」

今日子「本当に……」プルプル

侑「今日子ちゃん……」


この子は、明るい子だった。

でも今は暗い。
明らかに元気がない。理由は分かりきっている。


侑「なんで、こうなっちゃったんだろうね」

今日子「へ?」

侑「歩夢は……車道に飛び出す子供を庇って引かれちゃったの」

今日子「……聞いてます。学園でも、立派な生徒だって先生達が語ってました」

侑「…………」

侑「何が立派だよ」

今日子「え?」

侑「歩夢は、昔は自分から動けるような子じゃなかった。スクールアイドルになって成長したんだよ」

侑「……成長しちゃったんだ。私に着いてきてばっかりだったのに……いつの間にか、私を引っ張ってくれるようになっていた……!!」

侑「でも、成長し過ぎた結果」

侑「自分から子供を守って……こうなっちゃった」

今日子「……」

侑「こんな事になるなら……」

侑「成長なんて、しなきゃ良かったのにッ!」

今日子「……侑先輩……」

130:1(茸) (スッップ Sdfa-hqlV) 2021/07/17(土) 08:49:32.48 ID:erc2q/qEd
今日子「…………」

今日子「侑先輩」

侑「……なに?」

今日子「先に謝っておきます。ごめんなさい」ペコリ

侑「え?」

今日子「侑先輩のさっきの言葉」

今日子「歩夢ちゃんに対して、失礼だと思います」

侑「は?」

侑「失礼……?」

今日子「はい」

131: (茸) (スッップ Sdfa-hqlV) 2021/07/17(土) 08:54:07.54 ID:erc2q/qEd
今日子「成長しなきゃ良かったのにだなんて……何様ですか?」

侑「っ、だってそうじゃん。あの子は! 成長したから……前までの歩夢なら……!」

今日子「歩夢ちゃんの優しさは変わってないですよね?」

侑「!!」

今日子「きっと……前の歩夢ちゃんでも咄嗟に助けちゃうと思いますよ?」

今日子「私はそう思います」

侑「…………」


間違いないと言わんばかりの今日子ちゃん。真っ直ぐ私の目を見つめてくる。

なんだか“私の言葉”に対して、怒っているような気がする。

私も私で、今日子ちゃんの発言に──イラッとしてしまった。

132: (茸) (スッップ Sdfa-hqlV) 2021/07/17(土) 09:04:51.78 ID:erc2q/qEd
侑「前の歩夢ちゃんでも……ねぇ」

侑「歩夢と出会ったばかりなのに、よくそんなこと言えるね?」

今日子「逆に幼なじみの侑先輩はそう思えないんですか?」

今日子「侑先輩が一番歩夢ちゃんの優しさを知ってるんじゃないんですか?」

侑「そうだよ。私が歩夢を1番理解してる」

今日子「……だったら、分かりますよね?」

今日子「きっと歩夢ちゃんの行動は、変わらないと思います」

侑「…………」

今日子「侑先輩のさっきの発言は、歩夢ちゃんの優しい行動を否定してます」

今日子「それ、歩夢ちゃんに対して……失礼だと思うんですけど?」

侑「ッ」

侑「──否定しちゃいけないの?」

侑「そうだよ。私はこの子の行動を否定してる」

侑「助けなきゃ良かったんだよ。というか、私が咄嗟に歩夢を止めるべきだったんだ。私がこの子の行動を制限できてたら……止めることが出来たら……!」

今日子「……制限ってなんですか?」

今日子「歩夢ちゃんは、あなたのモノじゃない」

侑「」

133: (茸) (スッップ Sdfa-hqlV) 2021/07/17(土) 09:17:08.30 ID:erc2q/qEd
侑「さっきから、なに?」

侑「随分偉そうなこと言うね?」

侑「歩夢を最近知ったばかりのクセに」

今日子「っ」

今日子「……知ったばかりで、何が悪いんですか」

侑「……」

今日子「確かに私は……最近になって歩夢ちゃんを知りました」

今日子「でも! 私だって!! 歩夢ちゃんの事大好きだもん!!」

今日子「──侑先輩と、同じ気持ちなんだよ!?」

侑「!!」

今日子「大好きな気持ちに、差なんてあるんですか!?」

侑「そ、それは……」

135: (茸) (スッップ Sdfa-hqlV) 2021/07/17(土) 09:36:12.47 ID:erc2q/qEd
今日子「確かに……歩夢ちゃんがこうなっちゃったの……本当に悲しいです」

今日子「でも……歩夢ちゃんの行動によって……一人の命が救われてるんです」

侑「…………」

今日子「私は歩夢ちゃんのこの行動を……優しい歩夢ちゃんらしくて、好きです」

今日子「普段大人しくて……女の子らしくて可愛いし、優しい。でも! 時には驚くような行動を起こしちゃう、勇気のある人! ──そんな凄い歩夢ちゃんだから!! 私は大ファンになったんです!!」

侑「今日子ちゃん……」

今日子「……歩夢ちゃんを大切に思っているのは、侑先輩だけじゃないです」

今日子「きっと……スクールアイドル同好会の方々だって、歩夢ちゃんの事……大切に思ってます」

侑「……」

今日子「でも、歩夢ちゃんにとって一番大事な人は」

今日子「侑先輩だと思います」

侑「私……?」

今日子「そんな侑先輩が、歩夢ちゃんの優しい行動を……否定しちゃダメですよ」

侑「……」

今日子「私は、歩夢ちゃんが戻ってくるって信じてます」

今日子「侑先輩はどうなんですか……?」

今日子「歩夢ちゃんが目覚めるのを、信じていますか?」

侑「……」


答える事が出来なかった。

私は今、前を向けている?

心の底から、歩夢が目を覚ますって信じられている?

ただ立ち止まって……ネガティブに考えてしかいないんじゃないか?


侑「私は……!」

今日子「…………」

137: (茸) (スッップ Sdfa-hqlV) 2021/07/17(土) 09:46:49.16 ID:erc2q/qEd
侑「…………」

今日子「好き勝手言っちゃって……ごめんなさい」

侑「……ううん。私こそごめん」ペコリ

今日子「いえ……」

侑「…………」

侑(歩夢のファンの子ですら、前を向いている)

侑(私は……?)

侑(私が今するべきことって……なんなんだろう?)

138: (茸) (スッップ Sdfa-hqlV) 2021/07/17(土) 09:50:46.70 ID:erc2q/qEd
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

侑「…………」

侑(私と歩夢は、それぞれ自分のやりたい事に向かって歩き始めた)

侑(そして今、止まってしまった)

侑(私が今するべき事)

侑「……」


「侑さん」


侑「!!」ビクッ

璃奈「こんばんは」

侑「璃奈ちゃん……」

璃奈「お見舞いに来た」

侑「……ありがとう」

侑「そこの椅子、使って?」

璃奈「うん」スタスタ チョコンッ

侑「……」

144: (しまむら) (ワッチョイ 5a28-hqlV) 2021/07/18(日) 13:24:10.70 ID:a5mjJU5c0
本日夜更新します

145: (しまむら) (ワッチョイ 5a28-hqlV) 2021/07/18(日) 22:37:41.79 ID:a5mjJU5c0
璃奈「目の調子は、どう?」

侑「……あんまり変わらないや」

侑「璃奈ちゃんの綺麗なピンク色の髪も……モノクロでしか見えない」

璃奈「……」

侑「……ごめんね」

璃奈「え?」

侑「こんなに気を使わせちゃって」

侑「色んな人に、迷惑かけちゃってる」

侑「情けないよね……私……」

璃奈「──侑さん」

璃奈「これ、あげる」スッ

侑「え? それ……」

璃奈「オルゴールだよ。侑さんを元気付けたくて、作ったの。歩夢さんのもあるよ」

侑「え? 璃奈ちゃんが?」

璃奈「うん」コクリ

侑「相変わらず凄いね璃奈ちゃん……」

璃奈「てれてれ」

璃奈「良かったら、今流して」

侑「……うん」スッ

カチカチ、カチカチ

♪〜

146: (しまむら) (ワッチョイ 5a28-hqlV) 2021/07/18(日) 22:43:00.00 ID:a5mjJU5c0
侑(あっ、これ……)

侑「歩夢の歌の……」

璃奈「うん。今は歩夢さんの歌のメロディを聞くの、辛いかもって思ったけれど」

璃奈「侑さん、好きかなって思って。だから、作ったの」

侑「…………」

侑「ねぇ、璃奈ちゃん」

璃奈「ん?」

侑「璃奈ちゃんはさ」

侑「歩夢の行動をどう思ってる?」

璃奈「歩夢さんの、行動?」

侑「子供を助けた事」

璃奈「……」

147: (しまむら) (ワッチョイ 5a28-hqlV) 2021/07/18(日) 22:57:52.20 ID:a5mjJU5c0
侑「私、あの子の行動を否定しちゃったんだ」

侑「子供を助けたこと、確かに立派だと思う」

侑「……でも……私は……歩夢が無事でいる事が一番なんだよ」

侑「……だから……あの子の行動を褒める事が出来ない」

侑「璃奈ちゃんは、どう思う?」

璃奈「……難しい質問」

侑「あはは……ごめん」

璃奈「そうだね……」

璃奈「私は、歩夢さんの行動は……人によって捉え方が変わるものだと思ってる」

侑「へ?」

148: (しまむら) (ワッチョイ 5a28-hqlV) 2021/07/18(日) 23:05:43.15 ID:a5mjJU5c0
璃奈「助けた子のご家族にとっては、歩夢さんの行動は本当にありがたい事だと思う」

璃奈「でも、歩夢さんを大事に思う侑さんからしたら、やめて欲しい行動」

璃奈「歩夢さんをよく知らない人からしたら、勇気のある行動だなって思われるかもだし、偽善だって思われるかも、しれない」

璃奈「とにかく、賛否が別れる行動だと思う」

侑「り、璃奈ちゃん。私が聞きたいのはそうじゃないよ。璃奈ちゃん自身はどう思ってるの? ってこと」

璃奈「わからない」

侑「わ、分からない?」

璃奈「うん」

璃奈「私は……歩夢さんの行動を褒める事も、否定する事もできない」

璃奈「だって、歩夢さんが咄嗟に行ってしまった事だもん」

璃奈「何も言えない」

侑「……どうして?」

150: (しまむら) (ワッチョイ 5a28-hqlV) 2021/07/18(日) 23:19:48.08 ID:a5mjJU5c0
璃奈「自分の行動を決めるのは、結局自分だから」

璃奈「他者である私は、何も言えない」

侑「…………」

璃奈「でもね、侑さん」

璃奈「私は、歩夢に会えたことを」

璃奈「──誇りに思ってる」

侑「え?」

璃奈「歩夢さんは、本当に優しい。ううん。……優し過ぎるくらい」

璃奈「自分よりも他人を優先にしてしまう、献身的な人」

璃奈「私がライブ前日に塞ぎ込んでいた時、歩夢さんは私を励ましてくれた。一生懸命頑張れる子だって、褒めてくれた」

璃奈「練習にも、沢山付き合ってくれた」

璃奈「歩夢さんみたいな優しい人を目指そうって思えるくらいだよ。尊敬してるし、だいすき」

侑「……」

璃奈「でもそれは、歩夢さんだけじゃない」

璃奈「侑さんも同じだよ」

侑「──へ?」

152: (しまむら) (ワッチョイ 5a28-hqlV) 2021/07/18(日) 23:53:51.54 ID:a5mjJU5c0
璃奈「侑さんはライブ前日に逃げた私の心情を聞いて、頑張れって言うんじゃなくて『ありがとう』って言ってくれた」

璃奈「そしてただ、私の歌を聞きたいって言ってくれた。思いをぶつけてくれた。支えてくれた」

璃奈「私は、侑さんに救われた」

侑「……」

璃奈「他人の為に一生懸命になれる歩夢さんも侑さんも、私はだいすき」

璃奈「あなた達に出会えた事を、誇りに思うよ」

侑「…………」

璃奈「侑さん……?」

侑「っ……うぅ……ぐす……っ……!!」グスグス

璃奈「!?」

璃奈「あ、あわわわわ……!」

璃奈「ご、ごめんなさい。私、変な事言っちゃって」

侑「ちがう……ちがうよぉ……!!」ポロポロ

侑「なんで……みんな……私に優しくしてくれるの……?」

侑「こんな、わたしなんかの為に…っ…!!」

璃奈「!! ──そんなの、決まってる」

侑「え……?」

璃奈「侑さんが私達を支えてくれたからだよ」

璃奈「あなたにしてもらった事を、お返ししてるだけ」

侑「!! ……っ……!」

侑「ぅぅ、ぁ……ぐす……ひっぐ……あああぁぁ……っ!!」グス、グス

璃奈「…………」ナデナデ


年甲斐も無く、私はみっともなく泣いてしまった。

子供のように、周りの目を気にしないで、沢山泣いてしまった。

そんな私を、璃奈ちゃんはずっと優しく撫でてくれた。

何も言わず、優しく──泣き止むまでずっと、撫でてくれた。

154: (しまむら) (ワッチョイ 5a28-hqlV) 2021/07/19(月) 00:04:53.95 ID:V+Zym64U0




侑「璃奈ちゃん」

侑「急に泣いちゃって、ごめんね?」

璃奈「ううん。平気だよ?」

侑「璃奈ちゃんは優しいね」

璃奈「ううん。そんな事ないよ?」

侑「いや、優しいよ?」

璃奈「そんな事ない。侑さんや愛さん、歩夢さん達の方が優しい」

侑「そ、そうかな?」

璃奈「うん」コクリ

侑(意外と頑固だ……)

璃奈「侑さん。聞いてほしい」

侑「んー?」

璃奈「今日から丁度1週間後、かすみちゃんがソロライブをするの」

侑「え? ソロライブ……?」

璃奈「うん。だから今、あの子はすごく練習頑張ってる」

侑「かすみちゃんが……」

璃奈「外出許可、取れたりする?」

侑「……まぁ、やろうと思えば」

璃奈「なら、是非見に来てほしい」

侑「…………」

璃奈「お願い」

侑「……前向きに考えとくよ」

璃奈「!! ありがとう!」

侑「か、過度な期待はしないでね!? ほ、ほら私! 一応病人だし……」

璃奈「大事なのは自分の気持ちだと思う」グッ

侑「あはは……そうかもね」

侑(璃奈ちゃんが自分の気持ちをこんなに出せるようになったのも、成長してる証拠なんだよなぁ)

侑(皆、凄いよほんと)

155: (しまむら) (ワッチョイ 5a28-hqlV) 2021/07/19(月) 00:12:26.49 ID:V+Zym64U0
璃奈「侑さん」

璃奈「私は、歌には癒しの効果があると思ってる」

侑「い、癒し?」

璃奈「うん。これは学術的に、しっかりと証明されてる。それに、歌は人の心を動かす力もある」

侑「……そう、だね。私もせつ菜ちゃんの歌を聞いてから、世界が変わり始めたもん」

璃奈「でしょ?」

璃奈「だから、見てあげて」

璃奈「かすみちゃんの努力を」

侑「…………」

璃奈「待ってる」

侑「…………」


私は、行くという返事が出来なかった。そのまま璃奈ちゃんも、帰宅してしまった。

……行きたい気持ちは、勿論ある。外出許可だって、問題ないと思う。

ただ、歩夢が大変な時に私が楽しんでいいんだろうか? そう思うと、中々行くって言えなかった。

それに私は、かすみちゃんにひどいことをしてしまった。そんな私が、彼女の歌を聞く権利があるのかな?


侑(今、自分がするべき事も見つかっていないのに)

侑(いいのかな……?)


そうやって悩み続けてしまい──気が付けば、1週間後。

──かすみちゃんのソロライブ当日になってしまっていた。

156: (しまむら) (ワッチョイ 5a28-hqlV) 2021/07/19(月) 00:20:57.97 ID:V+Zym64U0
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

侑「…………」


カチッ、カチっと、病室の時計の針の音が耳に届く。

今日は、璃奈ちゃんから誘われたかすみちゃんのソロライブ当日。

私は、今──歩夢の病室にいる。


侑「……歩夢……」

侑「外出許可、取ったんだけどさ」

侑「やっぱり、行く勇気が出なかった」

歩夢「…………………………」

侑「もうすぐ、ライブも始まっちゃうけど……」

侑「……私……行けない」

侑「場所だった、始めてせつ菜ちゃんのライブを見たあそこなんだよ?」

侑「キミとせつ菜ちゃんのライブを見た、あの思い出の場所」

侑「そんな場所で……歩夢が大変な時に……私だけ楽しむなんて……出来ないよ」


「歩夢はきっと、侑に楽しんでほしいって思ってるんじゃないかしら?」


侑「え?」


後ろを振り向く。そこには、久しぶりの面々が並んでいた。


果林「わたしはそう思ってるわ」

彼方「侑ちゃん、こんにちは」

エマ「侑ちゃん」

エマ「行こうよ。かすみちゃんのライブ」

侑「果林さん……彼方さんと、エマさんも……」

157: (しまむら) (ワッチョイ 5a28-hqlV) 2021/07/19(月) 00:30:48.07 ID:V+Zym64U0
侑「……私を連れて行くためにここに来たの?」

彼方「う〜ん。理由のひとつではあるけど、それだけじゃないよ?」

エマ「完成したんだ」スッ

侑「え? それ……千羽鶴……? じゃない?」

果林「あらあら、予想通りすっごく驚いてるわね」クスクス

彼方「ふふーん! 彼方ちゃん達が歩夢ちゃんと侑ちゃんの回復を祈って作った力作なのです!」

エマ「千羽鶴もとい、千羽兎だよ〜!」

エマ「ちゃんと千羽あるよ?」

果林「ちなみに彼方が自慢げにしてるけれど、エマが提案してくれたのよ?」

彼方「も〜、いいじゃん余計なこと言わなくて〜!」

果林「ふふっ、ごめんなさいね?」

侑「」ポカーン


すごい量のうさぎだった。白い折り紙で折られたそれがまとめられており、かなりのボリュームだ。

本当に、しっかりと千羽あると思う。


侑「歩夢の為に……」

エマ「歩夢ちゃんだけじゃない。侑ちゃんも。2人のためだよ」

エマ「完成してから来ようと思ってたから、来るのが遅くなっちゃったの。ごめんね?」

侑「…………」

159: (しまむら) (ワッチョイ 5a28-hqlV) 2021/07/19(月) 00:39:33.34 ID:V+Zym64U0
侑「その……気持ちは嬉しいけど、なんで……」

エマ「わたしは、歩夢ちゃんも侑ちゃんも元気になるって信じてる」

エマ「ただ、じっと待つのもいやだったから作ったの。それだけだよ?」

侑「……」

エマ「そのついでに、迷ってそうな侑ちゃんに手を伸ばしに来たの」

侑「迷ってそう……?」

果林「侑の事だもの。歩夢が大変な時に楽しむなんてダメだって思ってるんじゃないか? って思ったの。案の定だったわね」

彼方「侑ちゃん、やさし〜からね〜」

侑「……」

エマ「侑ちゃん。大事なのは──自分がどうしたいかだと思う」

侑「私が……どうしたいか……」

エマ「本当にかすみちゃんのライブを見に行かないって決めたのなら、止めないよ。でもどうなの?」

エマ「侑ちゃんはかすみちゃんのライブ、見に行きたい? 行きたくない?」

侑「そ、それは……!」

160: (しまむら) (ワッチョイ 5a28-hqlV) 2021/07/19(月) 00:46:58.05 ID:V+Zym64U0
侑「行きたいか行きたくないかって言われたら……見に行きたいよ!」

侑「──でも! 歩夢がッ!」

果林「歩夢を言い訳にして自分の行動を制限するのは止めなさい」

侑「!?」

果林「この子はそんな事、望んでないわ。きっと侑が楽しむ事を望んでる」

侑「……」

果林「何もしないまま、この子の目覚めを待つの?」

果林「それこそこの子は、目が覚めた時に怒るんじゃない?」

果林「侑ちゃん、今まで何してたの? ってね」

侑「……」

侑(果林さん達も……歩夢が目を覚ますって信じてくれているんだ……)

彼方「まぁそんなにも私の事を大事に思ってくれてるんだって内心喜びそうだけどね、歩夢ちゃん」ニヤニヤ

果林「余計なこと言わない」

侑「……」

162: (しまむら) (ワッチョイ 5a28-hqlV) 2021/07/19(月) 01:01:55.96 ID:V+Zym64U0
エマ「侑ちゃん」

エマ「わたしね、スクールアイドルが大好きなの」

侑「え?」

エマ「昔スイスでね。猛吹雪で両親が帰って来れなくなっちゃって、一人で家にいたの。すっごく怖かったなぁ……今でも覚えてる」

エマ「そんな時に、スクールアイドルの動画を見て、わたしは気が付けば怖くなくなってた。それからもうスクールアイドルへの虜になっちゃった」

エマ「スクールアイドルになりたくって、日本にまで来たんだ〜。スクールアイドルへの愛はまけない自信があるっ」

エマ「侑ちゃんもスクールアイドルが大好きだよね?」

侑「それは……」

侑(大好きに決まってる)

侑(歩夢と一緒にいる以外は、何もときめきがなかった退屈な日々は──私の見ていた世界は)

侑(スクールアイドルと出会ってから、変わり始めたんだもん)

侑「うん──大好き」

侑「私は、スクールアイドルが!!」

侑「大好きッ!!」

侑「かすみちゃんのライブだって、見に行きたいよ……! でも、もう……間に合わないし……!」

エマ「大丈夫。まだ、急げば間に合うよ」

彼方「タクシーは下に用意してあるから」

侑「……」

侑「あ、歩夢と一緒に……見たかった……」

果林「侑。歩夢も一緒に見られる」

侑「え?」


果林さんはにこやかに私へ笑顔を向け、スマホをかざしてくる。


果林「オンライン中継もされるの。ライブが始まったら、わたしはここでかすみちゃんのライブを見るわ」

果林「歩夢と一緒にね」

163: (しまむら) (ワッチョイ 5a28-hqlV) 2021/07/19(月) 01:08:26.22 ID:V+Zym64U0
侑「……」

果林「ただ、かすみちゃんは侑に見に来てほしいって思ってると思う。だから、ライブを見に行きたいなら直接行ってあげてちょうだい?」

果林「貴方の大事な幼馴染で、わたしの大切な後輩は──わたしがしっかりと見ていてあげるから」

侑「果林さん……!」

エマ「侑ちゃん」

彼方「行こう?」

エマ「自分の気持ちを、ぶつけようよ!」


エマさんが、私に向けて手を差し伸べてくれる。

私が、やりたい事。

私は、私は!! ──かすみちゃんのライブ、見に行きたい。そして直接、謝りたい!!


侑「──うんっ!」


私はその手を──強く握りしめた。

164: (しまむら) (ワッチョイ 5a28-hqlV) 2021/07/19(月) 01:15:02.41 ID:V+Zym64U0
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

タッタッタッタッタ!!


侑「え、エマさん!? あ、歩けるから! 私、重いでしょ!?」

エマ「え? すっごく軽いよ? 大丈夫だよ〜?」ニコッ

彼方「エマちゃんにおんぶしてもらえるなんて羨ましいぞ侑ちゃん〜」

侑「ちょ、ちょっと恥ずかしいよ……」

エマ「侑ちゃん病人なんだから無茶しちゃだーめ! ──あっ、そろそろ会場着くよ!」

彼方「お〜、ギリギリ間に合ったね〜!」

165: (しまむら) (ワッチョイ 5a28-hqlV) 2021/07/19(月) 01:17:50.77 ID:V+Zym64U0
エマ「さ、降ろすね侑ちゃん?」

侑「う、うん! ありがとう」


周りにいる人達から、注目されてしまう。

それもそうだ。私の横にいる二人は、今から歌うかすみちゃんと同じ同好会のスクールアイドルだ。

辺りは少しざわつくが、それも次第に収まる。正確には、ざわつきが歓声へと変化した。

──ステージに、かすみちゃんが現れた。

166: (しまむら) (ワッチョイ 5a28-hqlV) 2021/07/19(月) 01:25:57.49 ID:V+Zym64U0
かすみ「みっなさーん!」

かすみ「ナンバーワンスクールアイドルのぉ! 中須かすみでっす!」

かすみ「今日はかすみんのライブを見に来てくれて、ありがとうね〜!!」

かすみ「きゅんきゅんさせちゃうから、楽しんでいってねっ?」


侑「……」

侑(かすみちゃん、元気そうでよかった)

侑(いや……元気に見せてるだけだったりするのかな?)


かすみ「ではでは……」

かすみ「1曲歌う前に、皆さんに伝えたいことがあります」


侑「え?」


かすみ「……」ジー ──ニコッ


侑「…………」


──ステージのかすみちゃんと、目が合ったような気がした。

167: (しまむら) (ワッチョイ 5a28-hqlV) 2021/07/19(月) 01:36:15.80 ID:V+Zym64U0
かすみ「かすみんは、可愛いスクールアイドルを目指しています」

かすみ「というか! かすみんは可愛いから当然なんですけどね!」

かすみ「まぁ、ただ……今から歌う曲は、可愛いものではないです」

かすみ「言ってしまえば、かすみんらしくない曲です」


侑「……」


会場がざわつく。何が起きるんだという好奇心のある声。
それとMCでも自分の可愛さを沢山披露するかすみちゃんのいつものライブとは違う様子に、困惑しているような声も聞こえる。


かすみ「かすみんは、熱いのとかじゃなくて……可愛いのが好きなんです」

かすみ「──ただ! それだけではいけないなって思ったんです」

かすみ「可愛いだけでは、成長は出来ないって思いました。一歩先へ、進む事が出来ないなって! 思いました!」

かすみ「新しい自分への挑戦。正直、かすみん怖かったです。失敗するんじゃないかって、不安でもありました」

かすみ「──けど! 練習してて!」

かすみ「熱いのも、悪くないなって!」

かすみ「楽しいなって! 思いましたっ!」ニコッ

かすみ「可愛いも、熱いも……全部、楽しいんです! 楽しむ事が、一番大事なんだって、かすみん気が付きましたっ!」


侑「かすみちゃん……」

168: (しまむら) (ワッチョイ 5a28-hqlV) 2021/07/19(月) 01:40:46.37 ID:V+Zym64U0
かすみ「今を悩む方、どうすればいいのか分からない方など……色んな方がいると思います」

かすみ「そんな方々に! 勇気を持ってもらえるように!」

かすみ「尊敬する先輩から──この曲を、お借りしました」

かすみ「聞いてください!」

かすみ「────」スゥゥゥゥゥ

169: (しまむら) (ワッチョイ 5a28-hqlV) 2021/07/19(月) 01:42:37.64 ID:V+Zym64U0
かすみ「走り出した!」

かすみ「思いは強くするよ」

かすみ「悩んだら」

かすみ「君の手を握ろう────」






侑「」

170: (しまむら) (ワッチョイ 5a28-hqlV) 2021/07/19(月) 01:45:03.47 ID:V+Zym64U0
【CHASE! -中須かすみver-】

173: (しまむら) (ワッチョイ 5a28-hqlV) 2021/07/19(月) 01:54:10.93 ID:V+Zym64U0
かすみ『かすみんは、可愛い感じのライブがしたいんです!』


侑「」


──私の知るかすみちゃんは、とにかく可愛さを追求した歌を作る子だった。

一つ一つの動作も、どうすれば可愛くなるかを考えていた。

かっこいいとか、熱いのとは対極に位置する子だった。

でも、今私の前には──かっこいいかすみちゃんがいた。


かすみ「足を踏み出す」

かすみ「最初は怖いかも」

かすみ「でも進みたい。その心があれば────」


キリッとした表情で、会場の皆を湧かせている。

モノクロの世界の中で、サイリウムが振られている。


かすみ「なりたい自分を」

かすみ「我慢しないでいいよ」

かすみ「夢はいつか──ほら!」

かすみ「輝き、出すんだ──────」



侑「ッ……!!」ゾク、ゾク

174: (しまむら) (ワッチョイ 5a28-hqlV) 2021/07/19(月) 01:58:17.19 ID:V+Zym64U0
かすみ「──────────!!」


かすみちゃんのシャウトが、会場を──世界を変えた。

あの時と一緒だ。せつ菜ちゃんの歌を、ここで聞いた時と同じ感覚を私は覚える。

生まれたときめき。

あの日から世界は──変わり始めたんだ。


侑「わぁ……!!」パァァァァァ


私の見ている世界が──赤色の炎に包まれた。

175: (しまむら) (ワッチョイ 5a28-hqlV) 2021/07/19(月) 02:07:23.94 ID:V+Zym64U0
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

スタスタ

かすみ「……」

かすみ(無事に、終わった)

かすみ(侑先輩……来てくれてた)

かすみ「えへへ……!」ニコニコ

タッタッタッ

愛「かすみん! お疲れ〜! めっちゃ良いライブだったよ!!」

かすみ「かすみんじゃなくてかすか──へ?」

しずく「すごかったよかすみさん……! かっこよかった!」

璃奈「オンライン配信のコメントも、凄いよ。大絶賛されてる」

かすみ「み、みんな……!」ジーン

かすみ「はっ!」ゴシゴシ

かすみ「と、とーぜんですよっ!」

かすみ「かすみんはナンバーワンスクールアイドルですか──」


タッタッタッタッタ!!

「──ゃん! だ、ダメだよぉ! まだ病み上がりなんだから!!」

「そ、そーだよ〜!」


かすみ「へ?」


タッタッタ──バンッ!!


愛「うひゃぁっ!?」ビクッ

璃奈「!?」ビクッ

しずく「へ!?」ビクッ!!


侑「はぁ、はぁ、はぁ……!」


かすみ「ゆ、侑先輩……?」

176: (しまむら) (ワッチョイ 5a28-hqlV) 2021/07/19(月) 02:12:50.73 ID:V+Zym64U0
せつ菜「な、なんて早さですか……迎えに行って控え室案内したら……」

エマ「全力ダッシュなんだもん〜!」

彼方「彼方ちゃん、クタクタだよ〜」


侑「はぁ、はぁ……げほ、げほっ!」


彼方(侑ちゃんの方がクタクタだ……)


しずく「ゆ、侑さん……?」

侑「あ、あはは……ご、ごめん。ひ、久しぶり……走ったから……」

侑「そ、そんなことより! かすみちゃんは!?」キョロキョロ

かすみ「……」

侑「あっ! 見つけたっ!」

侑「かすみちゃんっ!」バッ!!

ギュッ!!

かすみ「へ!?」

177: (しまむら) (ワッチョイ 5a28-hqlV) 2021/07/19(月) 02:24:21.68 ID:V+Zym64U0
侑「〜〜〜〜〜!!」

侑「もー、さいっこーだった!!」

侑「ときめいちゃったよ〜!!」ギュュュュュ

かすみ「!!」

かすみ「ほ、ほんとですか……?」

かすみ「かすみん……良かったですか?」

侑「うんっ!」ニコッ

侑「本当にときめいちゃったよ!」

かすみ「…………」

侑「かすみちゃん」

侑「ありがとう」

かすみ「!!」

侑「本当に……ありがとう」ギュッ

かすみ「せん、ぱい……」

かすみ「うっぐ……うぅ……!!」ポロポロ

侑「か、かすみちゃん!?」

侑「あっ!! というか、本当にごめん! あの時お見舞いに来てくれたかすみちゃんに私──」アセ、アセ

かすみ「違うんです……そうじゃないんです……!」

かすみ「ぐす……うぅ……よかった。侑先輩が見に来てくれて……良かったって言ってくれて、よかったです……っ……!!」

侑「!! かすみちゃん……」

かすみ「うあああああああん! よかったよぉ〜!!」グスグス


大きな声で、かすみちゃんは泣きながら私を抱きしめてくる。

──本当に、頑張ったんだろう。

小さい身体が、震えている。


侑「…………」

侑「頑張ってくれてありがとう」

侑「かすみちゃん」


私はその小さな身体を、ぎゅっと抱きしめた。

離さないように、優しく。

178: (しまむら) (ワッチョイ 5a28-hqlV) 2021/07/19(月) 02:37:51.70 ID:V+Zym64U0
侑「みんな」


同好会の皆が、私を見つめてくれている。


侑「本当に、ごめんなさい」

侑「迷惑もかけたし、心配もかけた」

侑「せつ菜ちゃんも愛ちゃんにも、しずくちゃんなんか特に……迷惑かけちゃってごめんなさい」

侑「──言いたいこと、沢山ある。けれど!」

侑「今、私がこれからどうしたいのか……みんなに伝えたい。だから……聞いてくれますか……?」


皆が顔を見合わせる。互いにすぐに頷き──優しく微笑んでくれた。


せつ菜「もちろんです!」
愛「もちろんっ!」
しずく「もちろんですっ」
璃奈「もちろん」
エマ「もちろんだよ〜!」
彼方「モチのロンだよ〜」

かすみ「もちろんですっ!」

侑「!!」パァァァァァ

侑「えへへ……!」ニコッ

侑「みんなありがとう!」

侑「私、これからね」

侑「もっと皆の事──もっと沢山サポートしたい!」

侑「キラキラ輝く皆を!」

侑「──皆の夢を、叶えられるように!」

179: (しまむら) (ワッチョイ 5a28-hqlV) 2021/07/19(月) 02:38:57.90 ID:V+Zym64U0
つづく。
次の更新タイミングで完結予定。

185: (しまむら) (ワッチョイ 5a28-hqlV) 2021/07/19(月) 22:09:45.83 ID:V+Zym64U0
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

侑「歩夢、おはよ」

歩夢「……………………」

侑「目も治って退院しちゃったから、中々会いに来れるタイミングが減っちゃってごめんね」

侑「今日もこれから朝練だから、すぐに出ちゃうんだ。放課後には来るから」

歩夢「……………………」

侑「歩夢」

侑「私、待ってるから」

侑「だから」

侑「これからも一緒に頑張っていこうね」ニコッ

歩夢「……………………」





186: (しまむら) (ワッチョイ 5a28-hqlV) 2021/07/19(月) 22:30:19.30 ID:V+Zym64U0
侑「さぁ皆、今日も練習頑張っていこー!」

侑「練習メニューも考えてきたよっ!」ドサドサ

璃奈「す、すごい量……」

かすみ「ふへぇ……最近の侑先輩の考えるメニュー、ハードですよぉ……」

侑「皆を輝かせたいからね!」

侑「というわけで一緒に練習しよー!」

愛「へ? ゆうゆも一緒にやるの?」

侑「うん!」

侑「私はスクールアイドルにはならないけれどさ」

侑「歩夢が元気になった時、色々と教えてあげたいんだ」

侑「歌も踊りもさ」

愛「ゆうゆ……!」

せつ菜「ふふっ、なら一緒に練習頑張りましょう!!」

侑「おー!」

かすみ「いっそこのままスクールアイドルになっちゃいますかぁ〜?」

かすみ「そしたらかすみん、侑先輩とデュエット組みたいなぁ〜」

侑「あっ、スクールアイドルにはならないよ」

かすみ「なんでそこだけ頑なに拒むんですかぁ!」

侑「だって……」

侑「私は輝いてる皆をサポートするのが好きなんだもん!」


久しぶりに見る、カラフルな世界。色々な色で作られた私の見る世界は──本当に綺麗だ。

普段から見ていた何気ないものだったけれど、今はこの景色が愛おしい。


侑「これからもたっくさんサポートしていくから」

侑「よろしくね!」ニッコリ


──歩夢を待つ日々は、まだまだ続く。

188: (しまむら) (ワッチョイ 5a28-hqlV) 2021/07/19(月) 22:38:20.30 ID:V+Zym64U0
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

スタスタ

しずく(演劇部の練習でスクールアイドル同好会に来るの遅くなっちゃった)

しずく(皆さんもう練習してるよね。急がなきゃ)

スタスタ ──ガラガラ

しずく「ごめんなさい。遅れてしま──」

侑「ぜぇー……はぁー……ぜぇ、ぜぇ……!」

侑「げほ、ごほっ……」

侑「うぅ……練習……ハード過ぎた……」

侑「自分で考えたメニューなのに……」

しずく「」

しずく「ゆ、侑さん?」

侑「あっ、しずくちゃん……こんにちは……」

しずく「はい、こんにちは──ってじゃなくて!」

しずく「な、なんでそんなに疲労困憊なんですか!大丈夫ですか!?」

侑「皆と混ざって練習してたら……あはは……自分の体力の無さを痛感するよ……」

しずく「えっと、とりあえず汗を拭くためにハンカチを──」

侑「──って! そんなこと言ってる場合じゃなかった!」ガタッ!

しずく「!?」ビクッ!

侑「しずくちゃんを待ってたんだ!」

しずく「わ、私をですか……?」

侑「うん!」

189: (しまむら) (ワッチョイ 5a28-hqlV) 2021/07/19(月) 22:59:32.18 ID:V+Zym64U0
侑「はいこれ! しずくちゃん専用の練習メニュー!」

しずく「私専用……?」

侑「うん! ほら、しずくちゃん演劇部の活動もあって中々忙しいじゃん? 短い時間の中で成長できるメニューを私なりに考えたんだ」

しずく「あ、ありがとうございます……! ごめんなさい、お手数お掛けしてしまって……」

侑「謝る必要ないよ。私がやりたくてやってる事だもん」

侑「私ね、しずくちゃんの演劇はスクールアイドルとしても活かすことができるんじゃないかって考えたんだ」

しずく「演劇をスクールアイドルとしても活かす……ですか?」

侑「うん!」

しずく「えっと……すごくありがたいお話ではあるんですけれど……どうして突然私の為に……」

侑「頑張ってるしずくちゃんを、応援したいから」

しずく「!!」

侑「私は、輝いてる皆を応援したい」

侑「その中には、スクールアイドルの桜坂しずくちゃん。キミ自身も含まれてる。だから、全力でサポートしたいんだ」

侑「あんまり深い理由は、ないよ」ニコッ

しずく「侑さん……」

190: (しまむら) (ワッチョイ 5a28-hqlV) 2021/07/19(月) 23:07:00.32 ID:V+Zym64U0
しずく「もしかしてですけれど」

しずく「この前の事、結構気にされていますか? それで気を使ってたりします?」

侑「!?」ギクッ

侑「そ、そんなことないよ!?」

しずく「……」ジー

侑「あ、いや! そ、そんなことないってわけじゃないんだけど……その……」

しずく「……」ジー

侑「うっ……」

しずく「本当ですか?」ジー

侑「ご、ごめんなさい。罪悪感はすっごくあって……そのお詫びも含まれていたりします……」

侑「で、でも! しずくちゃんを全力で応援したい気持ちは本当だから! えっと、だからその!」

しずく「ふふっ。冗談ですよ。問い詰めちゃってごめんなさい」クスクス

しずく「侑さん、嘘つけない方ですよね。本当に純粋で優しい方です」

侑「へ?」

しずく「少し、からかっちゃいました」

侑「え!? わ、私からかわれてたの!?」

しずく「はいっ」ニコニコ

侑「も、もー! やめてよしずくちゃん!」

しずく「ごめんなさい」クスクス

191: (しまむら) (ワッチョイ 5a28-hqlV) 2021/07/19(月) 23:16:18.72 ID:V+Zym64U0
侑「まさかしずくちゃんがからかってくるなんて思わなかったよ……」

しずく「実は私、結構周りの方をからかったりするのが好きなんですよ? かすみさん程ではないですけれど」

侑「え?」

侑(意外過ぎる……)

しずく「私は本当の自分をさらけ出すのが怖かったんです」

侑「本当の自分を?」

しずく「はいっ」

しずく「でも、今は違います。前にも言ったかと思いますが──私は、自分らしく生きるって決めたんです」

侑「しずくちゃん……」

しずく「侑さん。この前の事、気にしなくて大丈夫です」

しずく「ですが、これから私は……同好会の皆さんの前でも、もっと自分を出していきます」

しずく「だから」

しずく「本当の私を、見てくださいっ!」ニコッ

侑「──うんっ!」ニコッ

侑「これからもよろしくね、しずくちゃん!」


同好会の皆との日々は、宝物だ。

時間は止まらないけれど、それだけ思い出も増えていく。

これがいつしか、かけがえのない思い出になっていくんだ。

まだ歩夢は目覚めないけれど──これから沢山思い出を作っていけばいい。

皆との日々は、まだまだ続いていくんだから!

192: (しまむら) (ワッチョイ 5a28-hqlV) 2021/07/19(月) 23:26:39.98 ID:V+Zym64U0
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

侑「──でね、その時にせつ菜ちゃんがすっごく大きなびっくり声をあげてね?」

侑「ギャップが可愛かったんだぁ〜」

侑「愛ちゃんと一緒にときめいちゃってたよ!」

侑「いやぁ……ほんと、良い同級生に会えたよ。大人になってもたまに遊びたいよね」

侑「歩夢も元気になったら、遊ぼうねっ」

歩夢「……………………」

侑「…………」


私の愛おしい子は、まだ目を覚まさない。

でも、私は諦めない。信じてる。

この子は、目を覚ますって。


侑「……さて、と」

侑「今日も練習しようかな」


歩夢の眠る病室には、1つの電子ピアノが置かれている。

先生に許可してもらい、お父さん達に運んでもらったんだ。

ここでピアノの練習をできるように。


侑(練習もできるし、歩夢もピアノを聞いて癒されてくれたら嬉しいし)

侑「歩夢」

侑「起きたら褒めてもらえるように、沢山練習するよ」

侑「そういえば……歌にはヒーリング効果があるって、璃奈ちゃんが言ってたね」

侑「歌の練習もしちゃおうかな?」

歩夢「……………………」

侑「……歩夢!」

侑「聞いて?」

侑「───────」スゥゥゥゥゥ

侑「♪〜」


──歩夢を待つ日々は、まだ続く。

195: (しまむら) (ワッチョイ 5a28-hqlV) 2021/07/19(月) 23:40:43.24 ID:V+Zym64U0
歩夢が目を覚まさなくなってから、1ヶ月と少しが経った。

私は今日もピアノを弾き、歌う。


侑「♪〜」


歌うのは楽しい。音楽に関わるのが、最近楽しくて仕方がない。

私のときめきが溢れる日常が、また戻ってきた。

──いや、元々溢れていたんだ。私が、自分から突き放していただけ。

もう、二度と離したくない。自分の本当の気持ちを、我慢せずに出していこう。

でも──私の愛おしい子は、まだ眠ったままだ。


侑(歩夢)

侑(私は、キミともっと一緒にいたい)

侑(こんなにときめく事が沢山溢れている今を、歩夢と一緒に! 歩んでいきたい!)

侑(だから、早く)

侑(──目を覚まして!)

196: (しまむら) (ワッチョイ 5a28-hqlV) 2021/07/19(月) 23:44:42.12 ID:V+Zym64U0
侑「♪〜」


とても長い間、彼女を待っていた気がする。

私の耳に、愛おしい子の声が届く。


「ゆう……ちゃ……ん」


侑「──へ?」


思わず手が止まった。


歩夢「ピアノと……うた……じょうずに……なったね」


私の視界に、私を見つめる愛しい子が映る。


歩夢「会い、たかった……!!」


歩夢が──涙を流しながら私を見つめていた。

197: (しまむら) (ワッチョイ 5a28-hqlV) 2021/07/19(月) 23:49:56.04 ID:V+Zym64U0
侑「あ、あぁ……うそ……」

侑「あ、歩夢……」


視界がぼやける。歩夢を見たいのに、上手く見えない。

何も考えられなかった。

だけど私は気が付くと──彼女に抱きついていた。


侑「歩夢!!」バッ

ギュッ!!

歩夢「くる、しいよ……侑ちゃん……」

侑「歩夢……!! 歩夢!!」ギュュュュ

歩夢「……侑、ちゃん……」

侑「!!」

歩夢「ただいま」ニッコリ

侑「──ッ!!」

侑「うん……っ……うん!」

侑「おかえり!!」

侑「──歩夢っ!!」

200: (しまむら) (ワッチョイ 5a28-hqlV) 2021/07/20(火) 00:05:58.90 ID:9Cs9LwY/0
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

歩夢「あ、あのぉ……」

歩夢「ふたりとも?」

かすみ「……」ギュッ

璃奈「……」ギュッ

歩夢「ちょ、ちょっと暑いから離れてほしいかなぁ〜……」

かすみ「いやです!! きょ、今日のかすみんは人肌恋しいかすみんなんです!! は、離しませんからね」

璃奈「同じく」

歩夢「えぇ……」

エマ「退院後、初の同好会活動だけど歩夢ちゃんモテモテだね〜」ニコニコ

彼方「可愛い後輩から慕われる歩夢ちゃん。いいですなぁ〜」

歩夢「う、うれしいですけど! これじゃあ動けないですよ……」

しずく「そうだよふたりとも? 歩夢さん困ってるよ?」

歩夢「しずくちゃん……! ありが──」

しずく「今日は3分間だけぎゅっとしてもらお? あっ、私も混ざっていいですか?」

歩夢「しずくちゃん!?」

果林「本当にモテモテね」

せつ菜「羨ましいです!!」

愛「ずるいぞ1年生ズ! 愛さんも混ぜてよっ!」

歩夢「愛ちゃん!?」

せつ菜「あっ! なら私も!」

歩夢「せつ菜ちゃん!?」

歩夢「わ、私つぶれちゃうよ〜!!」

ガラガラ

侑「みんなお待たせ! 講堂の使用許可──」

ワイワイ、ギャーギャー!

侑「えぇ!? な、なんかすごい盛り上がってる……」

202: (しまむら) (ワッチョイ 5a28-hqlV) 2021/07/20(火) 00:16:47.85 ID:9Cs9LwY/0
歩夢「あっ! ゆ、侑ちゃん〜! 助けて……」

侑「皆からチヤホヤされる歩夢も可愛いYO!」

歩夢「た、助けてよ〜!」

侑「皆歩夢の事が大好きなんだから仕方ないよ」

侑「ずぅ〜っと目が覚めなくて心配かけたんだから、今日は我慢だよ?」

歩夢「うぅ……はい……」

歩夢「まぁ……でもいっか」

歩夢「私も皆の事、大好きだもん」ニコッ

侑「へ?////」

「「「!?////」」」

204: (しまむら) (ワッチョイ 5a28-hqlV) 2021/07/20(火) 00:27:01.54 ID:9Cs9LwY/0
歩夢「あれ? どうしたの皆?」キョトン

侑「いや……まさか歩夢からそんなに直接的に想いを伝えられるとは思わなくって……」

歩夢「あれ? 私前からこんな感じじゃなかったっけ?」

侑「恥ずかしがり屋さんだったと思うんだけど……」

歩夢「うーん……なんだろ」

歩夢「自分の本当の気持ちとか、大好きな気持ちは我慢しない方がいいって思い始めたの」

歩夢「寝ている間……大切な子達に……そう教わった気がするんだ」

侑「歩夢……」

歩夢「あっ、ご…ごめんね! 急に変な事言っちゃって……」

侑「歩夢っ!」

侑「──スクールアイドル、始めて良かったね」ニコッ

歩夢「!! ──うんっ!」ニコッ

歩夢「始めて、良かった!」



侑「──よーし、皆!」

侑「そろそろ練習始めようか!」

侑「今日も一日、頑張っていこうっ!」

206: (しまむら) (ワッチョイ 5a28-hqlV) 2021/07/20(火) 00:28:33.63 ID:9Cs9LwY/0
私達のときめきで溢れる日々は、これからも続いていくんだから!

夢は、ここからまた始まる。

207: (しまむら) (ワッチョイ 5a28-hqlV) 2021/07/20(火) 00:30:33.51 ID:9Cs9LwY/0
侑「ねぇ」

侑「みんな!」

侑「私、皆と出会えてよかった」






侑「大好きっ!」

208: (しまむら) (ワッチョイ 5a28-hqlV) 2021/07/20(火) 00:31:00.20 ID:9Cs9LwY/0
侑「歩夢が目を覚まさなくなった世界」


おしまい。

212: (しまむら) (ワッチョイ 5a28-hqlV) 2021/07/20(火) 00:43:55.22 ID:9Cs9LwY/0
途中から気が付いた方もいましたが↓SSの侑視点の話でした。↓SSを読まなくても問題ないような作りにしたかったので、明言するのは最後にしようと思っていました。
数日間お付き合い頂きありがとうございました。感想レスもありがとうございます。また別作品も書いていきますので機会がございましたらよろしくお願いします。

歩夢「パラレルワールド?」
【長編SS】歩夢「パラレルワールド?」【ラブライブ!虹ヶ咲】
■約220000文字■「──ゆむ! ──っ!!」 (……わたしを呼ぶ声が……聞こえる?) (あたまがぼーっとして……よくききとれない) (……目もよくみえない……) (どうしたんだろ……わたし……) 「────!! ──!!」 「────めです! ──さん!!」 (からだが……なんだか……さむい) (……ねむい……や……) 「──!!」 「──歩夢ッ!!」 最後に耳に届いたのは、愛おしい子の声。 ──私の意識はそこで途絶えた。

213: (あゆ) (ワッチョイ 0d54-dYN1) 2021/07/20(火) 00:53:50.62 ID:A23O2O5W0
お疲れ様です。どちらの世界の話も本当に大好き

220: (光) (アウアウウー Sa39-FelB) 2021/07/20(火) 07:11:01.13 ID:gb9nIGD3a
やっぱりゆうぽむは最高だぜ!

226: (もんじゃ) (ワッチョイ c609-qLRZ) 2021/07/20(火) 10:54:06.59 ID:bx8nbaqv0
パラレルワールドのほう知らなかったから読んできたけど普通に泣きそうになった

224: (おにぎり) (ワッチョイ 2eca-PaSB) 2021/07/20(火) 08:40:43.84 ID:ZwqogdMk0
おつおつ
良い補完シナリオでした

引用元: https://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1626096942/

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