【SS】千砂都「かのんちゃんは私のヒーロー」【ラブライブ!スーパースター!!】

SS


1: (茸) 2021/09/08(水) 16:56:18.57 ID:tia3gfKK
気も弱くて、体力もなかった私を引っ張って、新しい世界を見せてくれたかのんちゃん。

私を幾度となく助けてくれて、私に夢を与えてくれた彼女は私にとってのヒーロー。

キラキラ輝いてて、かっこよくて。

そんなヒーローの横に立てる自分になりたくて、かのんちゃんの苦手なことを1人でできるようになりたいと思っていた。

けれど、ある日、私の想いは少し形を変えることになる。

2: (茸) 2021/09/08(水) 16:59:43.84 ID:tia3gfKK
かのんちゃんの合唱コンクールの日。

歌の上手なかのんちゃんがリードボーカルを務めることになって、私も招待された。

きっとあのかのんちゃんならかっこよくそつなくこなすだろう。

そう思って疑うことなんてなかった。

しかし、伴奏が始まっても一向に彼女は歌い始めない。

機材トラブルか、と会場がざわつく。


次の瞬間、私のヒーローが倒れた。

3: (茸) 2021/09/08(水) 17:02:20.77 ID:tia3gfKK
彼女が倒れた時のことはよく覚えている。

目の前がスローになった。

頭の中で色々な感情が混ざりあう。

驚愕、困惑、焦燥、悲しみ、不安、心配……。

中には失望もあったかもしれない。


けれど、一番大きかった感情は――興奮。

6: (茸) 2021/09/08(水) 17:05:15.29 ID:tia3gfKK
あのかっこいいかのんちゃんが、倒れたことに興奮している自分がいた。

背筋がぞくぞくして、胸が高鳴り、お腹の奥の方が疼く。

きっとこれはいけない感情だと、幼いながらに感じる。

けれど、私にはその感情の暴走を止めることができなかった。

ただただ、感情に飲み込まれて身動きが取れず――

周りの子たちや大人に介抱されて運ばれていくヒーローを見て、ようやく私は彼女を慰めなきゃと思うことができた。

7: (茸) 2021/09/08(水) 17:09:23.23 ID:tia3gfKK
医務室で寝かせられた彼女を見て、また興奮した。

彼女の手を握ると、大きくて頼りがいがあった、私を引っ張ってくれたヒーローの手が、力なく震えているのを感じて、お腹の奥が疼く。


数分後、目を覚ました彼女は私に縋り付き、泣いていた。

歌えなかった自分に対する失望。

周りの子達への罪の意識。

私の胸ですべてを吐き出していく。

私は、弱い所を見せてくれたヒーローに更に興奮を覚えた。

8: (茸) 2021/09/08(水) 17:12:23.43 ID:tia3gfKK
それから私は、きっとそんな感情は気の迷いだろうと、その感情を振り払うようにダンスに熱中するようになる。

踊っている間だけは、倒れたヒーローのことを忘れられた。

かっこいいヒーローの横に立てるように、自分1人でできるようになるんだ、って髪紐に誓ったから。

でも、踊っていない時は、常にあの日のことが頭に焼き付いていた。

思い出す度に、胸がドキドキと高鳴った。

10: (茸) 2021/09/08(水) 17:15:13.47 ID:tia3gfKK
それから、私のヒーローは人前で歌えなくなった。

よく知ってみると、彼女は弱点ばかりの普通の女の子。

私のヒーローなんかじゃないかもしれない、一瞬そんな考えがよぎることもあった。

それでも、やっぱり彼女はヒーローだった。

12: (茸) 2021/09/08(水) 17:18:16.44 ID:tia3gfKK
私が挫けそうになった時いつも駆けつけてくれた。

いくら自分が辛くても、駆けつけて励ましてくれる。

彼女は挫けても何度も立ち上がろうとした。

人のためなら、怖くても立ち向かう勇気があった。

彼女は紛うことなきヒーロー。

そんなかっこいいヒーローが、折れる姿に私は興奮を覚えていることに気が付いた。

私にとって、完璧な丸だったヒーローに罅が入るのが、この上なく興奮した。

13: (茸) 2021/09/08(水) 17:20:03.55 ID:tia3gfKK
そんな気持ちを持って彼女に接している自分に嫌気がさすことももちろんあった。

折れて、立ち上がる度に思っていたから。


彼女が次に折れるのはいつだろう、って。

15: (茸) 2021/09/08(水) 17:25:14.00 ID:tia3gfKK
かのんちゃんが結ヶ丘女子高等学校 音楽科の試験に落ちたという報せを聞いた時、私は眠れなかった。

一緒の学科に通えないという悲しみももちろんあった。

けれど、それ以上に興奮していた。

ずっと胸がドキドキと高鳴って、お腹の奥が疼いていた。

眠れないほどの疼きに、私はその日ずっと我慢していた一線を越えて、自分を慰めてしまった。

17: (茸) 2021/09/08(水) 17:30:58.69 ID:tia3gfKK
それから、しばらく折れたままの彼女だったが、絶対立ち上がると信じていた。

案の定スクールアイドルという道を見つけて、立ち上がった彼女はキラキラと輝いていて、かっこいい。

今は私も彼女の横に立つ自信ができて、一緒に活動をしている。

けれど私は彼女の横で常に考えていることがある。


次に彼女が折れるのはいつだろう。

その時、私はどうなってしまうんだろう。

おわり

引用元: https://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1631087778/

タイトルとURLをコピーしました