【SS】ヨハネ「罪を告白しなさい。さすれば貴方もリトルデーモンになれるでしょう」【ラブライブ!サンシャイン!!】

善子ーよしこーヨハネー黒魔術 SS


4: 2017/05/07(日) 19:36:48.80ID:OkfBzHzb.net
人には誰でも隠したいこと、隠したい罪がある


でも、時にはそれを抱えたままではどうしようもなくなることもある


罪というのは、自身を苛み続ける楔のようなもの


自分という存在が、この世に認められないんだって。赦されないんだって


けど、そうやって自身を責め続けていては、いずれ前に進めなくなる


だから人は、救いの場を、赦しを求めるんだと思う
 
5: 2017/05/07(日) 19:37:23.28ID:OkfBzHzb.net
ヨハネ「ということで!」

ヨハネ「このヨハネが皆の犯した罪を聴いていくわよ!」

ヨハネ「罪を犯した者は自身の存在を認められなくなるわ……」

ヨハネ「でも、それってヘンじゃない?」

ヨハネ「そもそも、罪や悪って存在しちゃ「いけない」って思われるものだけど、本当にいけないものなの?」

ヨハネ「そりゃ善いものじゃないけど、だからってその存在まで否定されるものなの?って話なのよ」

ヨハネ「別に少しぐらいあったっていいじゃない。いけないとまで言われる筋合いはないんじゃないかしら」
 
7: 2017/05/07(日) 19:37:51.93ID:OkfBzHzb.net
ヨハネ「それでもいけないって言うんだったら、この私がいいって言ってあげるわ」

ヨハネ「み~んなこの堕天使ヨハネのリトルデーモンにしてあげる!」

ヨハネ「リトルデーモンとしてだったら、罪があろうと悪であろうと、自分が存在していいって思えるでしょ?」

ヨハネ「だってリトルデーモンなら罪も悪も犯して当然だからね」

ヨハネ「だから、みんなみーんな私に話しちゃいなさい!」

ヨハネ「そしたら私がその罪をひっくるめてあなた自身を認めてあげる!」

ヨハネ「これでヨハネと同じ、アクマの軍団の仲間入りってね!」
 
9: 2017/05/07(日) 19:38:32.14ID:OkfBzHzb.net
ヨハネ「そうそう、話してなかったけど場所はマリーのホテルの一室を借りてるわ」

ヨハネ「空いてた一室を改造して、教会の懺悔室?っぽくして使わせてもらってるわ」

ヨハネ「防音も完璧だし、堕天使のステンドグラスとかを飾ってあるから雰囲気もいいし」

ヨハネ「私も相談者側も、お互いの顔は解らないように衝立があるし」

ヨハネ「ガチな相談の場合泣いちゃう人もいるかもしれないし、泣いてるところを悟られたくないって人もいると思って機械で音声も多少いじられるらしいわね」

ヨハネ「プライバシー保護もバッチリってわけね!流石マリーね!」

ヨハネ「……万一に備えて、よ、よし…こ、なんて言われないように、『ここではヨハネ以外の呼称で読んだ場合、即座に退出させます』って張り紙も付けたし…」

ヨハネ「告解の環境としては最高のものを用意できたわね。…私にとっても」
 
11: 2017/05/07(日) 19:39:10.38ID:OkfBzHzb.net
ヨハネ「さて、能書きはここまでにして、と。今回はどんな罪が私を待ち受けているのかしら?」

「あの~……」

ヨハネ「おっと、早速迷える子羊がヨハネのもとに導かれたわね」

「ねぇ、もう話していいのかしら?」

ヨハネ「あら、ごめんなさい。大丈夫よ」

ヨハネ「それで、今日はどんな罪を告白しにきたのかしら?」

「これ、本当に言っていいかわからないんだけど…」

ヨハネ「大丈夫。この場ではいい・わるいなんて関係ないわ」

「それなら言うんだけど…」
 
13: 2017/05/07(日) 19:39:40.67ID:OkfBzHzb.net
ヨハネ「どうぞ」

「果南に喜んでほしくてわかめ酒を作っちゃったの」

ヨハネ「」

「ほら、果南ってわかめ好きじゃない?果南が成人した暁には絶対に一番に飲んでほしくて。でも、実際に飲んではいないとはいえ流石に未成年がお酒に関わるのはちょーっとguiltyかな?って思って。それで」

ヨハネ「ちょっちょ、ちょっと待って!」

「What?」

ヨハネ「い、いやその一応…守秘義務はあるし、話してもらってもいいんだけど、念のため個人名は伏せてもらえると……」

ヨハネ(一発で特定できちゃった…衝立の意味全くないじゃない…)

ヨハネ(いや、マリーの協力でやってることだからマリーが来るだろうってことは解ってたけど!)

ヨハネ(いくらヨハネでも知り合いのそんなぶっ飛んだ話は進んで聞きたくないわよ…)
 
14: 2017/05/07(日) 19:40:23.37ID:OkfBzHzb.net
「そう?まぁ、せっかくヨハネちゃんがそういうなら、そうしようかしら」

ヨハネ「ええ、もう、お願いします…」

「そんなに?…ま、いっか。で、いくら私の幼馴染を喜ばせるためとはいえ、alcohol製造に手を出したのはマズいかなって思って」

ヨハネ「ええっと~…」

「もちろんやるからには最高の作品を作りたかったから、至高の酒職人を用意して、究極の舌を持つ人に味見してもらって、私が納得出来るものにしたわ」

ヨハネ「そうですか…」

「でも、お酒の完成度が高いからと言って、お酒に手を出したことが許されるわけじゃないじゃない?だから、この罪を告白しに来たのよ」

ヨハネ「な、なるほど…それは随分な罪ね…」

ヨハネ(もっと別にすっごい大きな問題というか、罪があるんだけど…)

「そうなの。私の犯した罪は大きくて、自分をつい責めちゃうの」
 
15: 2017/05/07(日) 19:41:01.36ID:OkfBzHzb.net
ヨハネ「……ちなみに、貴女は「わかめ酒」の意味はご存じで…?」

「?もちろん知ってるよ?私の(ピ―――)を(ピ―――)して作ったお酒でしょ?それがどうかしたの?」

ヨハネ「あ、いえ…」

ヨハネ(知ってて作ったとか、常軌を逸してるわね…いやヨハネもこの世の理から外れたアクマなんだけど……)

「それで、ヨハネちゃん。私は許されるのかしら?」

ヨハネ「え、ええ…リトルデーモンは罪を抱えていて当然の存在……あなたも自身の罪を自覚し、リトルデーモンになれる道は開かれたので…その存在自体は許されるでしょう…」

「Really?じゃあ私もLittle Demonにして!」

ヨハネ「え、ええ…今日から貴女も立派なリトルデーモンよ」

ヨハネ(流石に無駄に発音がいいわね…)
 
16: 2017/05/07(日) 19:41:34.87ID:OkfBzHzb.net
「ホント!?よかった~これでまた果南と普通に付き合っていけるわね!」

ヨハネ(ホントはこんなリトルデーモンこっちから願い下げしたいんだけど…ていうか普通に接するっていうけど既に普通じゃないと思うんだけど…)

「ありがとヨシコ!じゃあまたギルキスの練習でね☆シャイニー☆」

ヨハネ「あ、ちょっ!てかヨハネだって!」

ヨハネ「行ってしまった……」

ヨハネ「これからマリーとどう接していけばいいのよ…」

ヨハネ「き、気を取り直して新しい相談者は…」

ヨハネ「……って時間の都合で一回につき一人までにしたんだった!!しかも一週間に一回しかできないんだった!!」

ヨハネ「はぁ~・・・今日この後どんな気持ちで過ごせばいいのよ…」
 
17: 2017/05/07(日) 19:42:05.37ID:OkfBzHzb.net
~一週間後~


ヨハネ「前回は散々だった…」

ヨハネ「結局あれからマリーに会う度に意識しちゃってまともに顔見れなかったし…」

ヨハネ「…いや、もう切り替えていこう!まさか相談者がAqoursのメンバーばっかってこともないだろうし!」

ヨハネ「さあ、今日はどんな罪の告白がヨハネを待ち受けてるのかしら?」

「あの~」

ヨハネ「おっ!ナイスタイミング!早速相談者が来たわね」

「えっと、ここではどんなことを話しても許されるって聞いてきたんですけど…」

ヨハネ「ええ、その通りよ。で、今日はどんな要件かしら?」

「告白を。私の犯した罪について」

ヨハネ「うん、ちゃんと形式に沿って言えて素晴らしい。…それで、その罪っていうのは?」
 
18: 2017/05/07(日) 19:43:12.30ID:OkfBzHzb.net
「…幼馴染に、嫉妬したんです」

ヨハネ「嫉妬ねぇ…。確かに負い目を感じるものよね。それで、具体的にどうして嫉妬したの?」

「……前ね、東京から来た女の子に、幼馴染が取られちゃう!って思って、その女の子に嫉妬したことがあったの」

ヨハネ「なるほど…」

ヨハネ(あれ?それってリリーにしか当てはまらないんじゃ…)

「でも、それに関しては解決したんだ。その女の子と、幼馴染の暖かさに触れて、私ちゃんと二人に向き合えてなかったんだなって思って」

「その二人のおかげで、自分が二人のこと、自分の勝手な考えで貶めていたんだなって気付けて。でもそれは違って、二人とも私のことをすごくちゃんと考えていてくれたんだなって思えるようになって」

「だから、自分の嫉妬は違ってたんだなって思えて。それから、東京から来た女の子とも深く関われるようになったし、本当の意味で友達になれたとも思えたんだ」

ヨハネ「そっか。それはよかったね」
 
19: 2017/05/07(日) 19:43:46.46ID:OkfBzHzb.net
「うん。……でも、だからかな。もっとその女の子と仲良くなりたいと思ってるのに、今度は幼馴染の娘がいつもその娘とべったりしてるのが目についちゃって…」

ヨハネ(これって、完全に曜さんよね……何がAqoursのメンバー以外も来るはずよ……一生Aqoursのメンバーしか来ないじゃない)

「でも、やっぱり二人の間には特別な関係があるってわかってて……。それでも、私だって梨子ちゃんと二人で遊びに行ったり色んな話をしたいって気持ちが抑えられないの!」

ヨハネ(遂に実名を出しちゃったわね…)

「だからって、千歌ちゃんに嫉妬するのも筋違いだし…。そんな私が、私は嫌なんだ」

ヨハネ(曜さんも色々考えてたのね…)

ヨハネ「……貴女の罪はわかりました。でも、気にすることはないのよ」

「……そうかな」

ヨハネ「誰だって、自分が仲良くなりたい相手を取られちゃったら複雑な気分になるものよ。……ただ、貴女の場合は、それだけじゃなく、幼馴染への負い目も足を引っ張ている要因だと私は思うのよね」
 
21: 2017/05/07(日) 20:11:01.40ID:OkfBzHzb.net
「幼馴染への、負い目……?」

ヨハネ「差し出がましいことだけど、私は、東京の女の子を幼馴染から取っちゃったら幼馴染が悲しむかもしれないって考えが貴女の中にあるんじゃないかって思うのよ」

「・・・・・・」

ヨハネ「でも、貴女が言ったように、きっとそんなことで三人の絆は壊れないんじゃないかしら?そもそも幼馴染の方は、二人が仲良くしてるってことを嬉しいと思うんじゃないかなって私は思うのよ」

「私たちが、仲良しだと嬉しい…」

ヨハネ「もちろん、一人だけ仲間外れにされてるっ!て思わせるようなことをしたら話は別だけど。でも、貴女達にそんな遠慮なんてないんじゃないかな?少なくとも私は話を聞いててそう思ったけど」

「……そう、なのかな」

ヨハネ「そうよ。…それでも、不安を感じているんだったら、私のリトルデーモンにしてあげるわ」

「え?」
 
22: 2017/05/07(日) 20:11:36.89ID:OkfBzHzb.net
ヨハネ「リトルデーモンは、罪も悪も犯していい存在。だってそれが当然だから。罪がいけないんだったら、罪も悪も丸ごと飲み込んでそれでいいんだって言える存在であれば、そのいけなさは意味を失うでしょ?」

「リトルデーモンになれば、自分はヘンに考え過ぎなんじゃないかって、思えるってことかな…」

ヨハネ「そうよ。……そしたら、二人にも変なわだかまりを持たずに接することが出来るでしょ?」

「……そうかも」

ヨハネ「だったら、話は簡単よ!自分のことを責めてしまうようなことがあるって自覚できるんだったら、それはリトルデーモンになる資格を得たってこと!だったら、リトルデーモンになって自分のことを全部認めて、二人に接しちゃえばいいの!」

「・・・そっか。そうすることで、二人にもっと真剣に向き合えるなら…」

ヨハネ「考えるまでもないでしょ?」

「そうだね。…ねぇ、よし…ヨハネちゃん。私をリトルデーモンにしてくれる?」

ヨハネ「もちろんよ!貴女は立派に自分の罪を認めた。そして、その罪があっても、そのままの貴女でいいっていう私がいる。だったら、貴女は立派なリトルデーモンになれるわよ」

「…そっか。うん、そっか。ありがとう」

ヨハネ「礼を言われることなんてしてないわ。だって私はヨハネだから!アクマの軍団に相応しい者を見つけたら、誰であってもリトルデーモンにする。それが私、ヨハネの流儀よ」
 
23: 2017/05/07(日) 20:12:35.04ID:OkfBzHzb.net
「あはは。やっぱり善子ちゃんは、善い娘だねっ」

ヨハネ「ちょっ、それを言ったら即退出だって…!」

「大丈夫だよ。もう出るつもりだったし」

「……ありがとね。おかげで、自分の気持ちに正直になれた気がする」

ヨハネ「・・・・・・」

「じゃあね!また帰りのバスで一緒に話そうね!」


ヨハネ(……そう言って、今回の相談者は去っていった)

ヨハネ(今回は、私の想像通り真面目に悩みを抱えていた人が来たわけだけど)

ヨハネ(しっかり寄り添って話が出来たのかな?って疑問にも思う)

ヨハネ(でも。貴女がちゃんと自分に向き合えたんだとしたら)

ヨハネ「こんなことだけど、やって良かったかな」

ヨハネ「……いや、こんなことって言ったけど、これこそ私がやろうとしてたことなのよ!」

ヨハネ「前回がおかしかっただけで、今回こそヨハネの本領発揮の場だったってわけよ!」

ヨハネ「ちょっと内容は重かったけど、こうして人々をリトルデーモンにしていく…」

ヨハネ「それこそが私の当初の目的だったのよね!」

ヨハネ「……今回は、これで終わりだけど」

ヨハネ「来週以降もこうやって迷える子羊を導き、順調にリトルデーモンを増やしていくわよ!!」

ヨハネ「来週以降はどんな相談者が来るのか…今からドキドキワクワクねっ」

ヨハネ「さ、私も帰り支度を始めましょう。……曜さん、リリーと仲良くなれてるといいな」

ヨハネ「今度こそ、今日はおしまいっ!また来週がんばろっと!」
 
24: 2017/05/07(日) 20:13:33.55ID:OkfBzHzb.net
~一週間後~


ヨハネ「先週はちゃんとリトルデーモンを増やせてよかったな」

ヨハネ「曜さんもリリーと前より話してたし…」

ヨハネ「予想通り、千歌さんは二人が仲良くしてるの見て嬉しそうだったし…」

ヨハネ「……でも、たまに考え事してるっていうか、ちょっと暗い表情してたな…」

ヨハネ「二人のことでは全然そんな感じなかったけど、ふとした瞬間暗くなってたって感じだったから、前回のことで落ち込んでるってわけじゃないとは思うんだけど…」

ヨハネ「……気にしてても仕方ないわね。今は今日の相談者に全力を捧げましょう」

ヨハネ「と、言いたいんだけど…なんか部屋に細工されてる気がするのよね」

ヨハネ「前こんなだったっけ?って感じだし…ちょっと部屋の配置がいじられているような」

ヨハネ「…まあ、いっか」

ヨハネ「えっと、今日の相談者は…」

「・・・・・・もう、喋ってもいいですか?」

ヨハネ「あ、もう来てたのね……。ゴホンッ!…今日は、どうしてここに?」
 
25: 2017/05/07(日) 20:14:04.91ID:OkfBzHzb.net
「……言いたくないんだけど、言ってもいいんだよね」

ヨハネ「もちろん。…ただ、本当に言いたくないんだったら今すぐ帰ってもいいのよ?」

「・・・ううん。ここでしか話せないから、ここで話したいんだ」

ヨハネ「そういうことなら、まずは話してみなさい。ここでは何を話しても、それを咎める人はいないわ」

「そうなんだ…」

ヨハネ「そうよ。なんたって、ここに人はいない。ただ世の理を超えた堕天使がいるだけだからね」

「……ありがとう。じゃあ、言うね」

ヨハネ「どうぞ」

「・・・私、お姉ちゃんと喧嘩して、酷いこと言っちゃったの」
 
26: 2017/05/07(日) 20:14:50.26ID:OkfBzHzb.net
ヨハネ「姉妹喧嘩ってわけね」

「うん。……でも、いつもは仲がいいんだよ?けど、今までのことがあって、それで自分でも訳が解らず気持ちが爆発しちゃって、それで、私、ルb、わた、し…」

ヨハネ「…大丈夫よ。まずは順を追って話してみたらいいと思うわ。そうしてる内に落ち着いてきたりするものだから」

「…うん、そうしてみます」

ヨハネ「ゆっくりでいいからね」

「ありがとう。……私ね、お姉ちゃんが好き。何でも完璧にこなせて、こんな私のことも気に掛けてくれて、自慢のお姉ちゃんなんだ」

ヨハネ「立派な方なのね」

「うん。……でも、だからこそ、すごく羨ましいなって思うこともあって……見返したいって思い続けてもいたんだ」

ヨハネ(また、嫉妬ってことか…難しいものね)

ヨハネ「それで、貴女の中には複雑な気持ちがずっとあったってことなのね」

「…うん」

ヨハネ「よければ具体的に、どうしてそういう気持ちを持ったか、その経緯みたいなものがあったら聴きたいのだけど」
 
27: 2017/05/07(日) 20:15:28.26ID:OkfBzHzb.net
「そうだね……ルb、わたし、お家の方針で昔から色んな習い事をさせられてきたの」

「それはお姉ちゃんも同じで、お姉ちゃんと同じように、たくさんのことをやってきた」

「・・・でも、当たり前だけど、やっぱり私はお姉ちゃんと同じじゃないんだなって」

ヨハネ「と、いうと」

「お姉ちゃんは何でも完璧にこなしてきた。けど、私は違ったんだ」

「努力してもお姉ちゃんのようには出来なかった。届かなかった」

「そしてその度に、言われてきたの…「どうして姉のように出来ないんだ」って」

ヨハネ「ずっと、比較されてきたってことね」

「うん。…ううん、正確にはずっとじゃなかった」

ヨハネ「…どういうことかしら?」

「そう言われること自体は少なくなって、なくなっちゃったから」

「・・・でも、私の中には残り続けたの。「どうしてお姉ちゃんのようにできないんだろう」って気持ちが」

ヨハネ「劣等感みたいなものがずっと残っちゃったのね」

「そう、だね。…それは何をするときでも付き纏ってきたの」

「それがどうしようもなくなった時は、お姉ちゃんに聞いたの。どうしたらお姉ちゃんみたいになれるのって」
 
29: 2017/05/07(日) 20:27:48.89ID:OkfBzHzb.net
「・・・そう言う時、お姉ちゃんは決まってこう言ったの」


『私達は生まれる場所も時間も選べない、ただ与えられるだけなの。だったら、置かれた場所で自分の出来ることを全力で突き詰めるだけ。私はそうしてきただけよ』


「…だから、ただ貴女もそうすればいいんだって」

ヨハネ「……随分と達観しているというか…優等生なのね」

「そう。優等生なんだ、お姉ちゃんは」

「でも、私は違うの…お姉ちゃんのようには、思えない。出来ないんだ」

ヨハネ(なんというか…)

「もちろん、お姉ちゃんだって頑張ってきたし、その中でいっぱい辛いことがあったと思う」

「だけど…私の中にはずっとお姉ちゃんがいた」

「私と違って、お姉ちゃんの中には、お姉ちゃんの精一杯がちゃんと出来るかだけだったと思えて…」

「私の中では、ずっと頑張ってお姉ちゃんのようになりたいけど、なれないって気持ちがあるのにって」

ヨハネ(凄まじく重い…)

「お姉ちゃんの中には、私のような気持ちがあるのかなって。きっとないんだなって」

「だから、いつも思ってたんだ…「みんながみんなそういう風にはいかない」って」
 
30: 2017/05/07(日) 20:28:42.86ID:OkfBzHzb.net
ヨハネ「…貴女の中には、お姉さんという基準があって、いつもその物差しで考えずにはいられなかったのね」

「そうだね…。だから、中学に入る時には習い事を全部やめちゃったんだ」

「そうすれば、もう自分とお姉ちゃんを比べることもなくなるって思って」

ヨハネ「そうなのね…。その時、反対はされなかったの?」

「うん。お姉ちゃんも何も言わずに、私を抱きしめてくれたよ」

ヨハネ「…よかったわね」

「ありがとう。…それで、それからは私もお姉ちゃんとずっと仲良くなれたと思ってたんだ」

「二人でスクールアイドルごっこをして遊んだり、いっぱいお話するようになったし…」

「もうお姉ちゃんのようにって思わなくなれてよかったなって…」

「……だけど。だけどね、やっぱり私の心の奥には、まだ少しだけど…残ってたんだって、思って…」

ヨハネ「…それは、どうしてそう思ったの?」
 
31: 2017/05/07(日) 20:29:37.41ID:OkfBzHzb.net
「・・・私には大好きなお友達がいるの。本を読むのが大好きで、優しくて、ちょっぴり食いしん坊な、私の大切な大切なお友達」

ヨハネ「……」

「その娘はね、お姉ちゃんとも仲がいいの。お姉ちゃんも本を読むのが好きで、よく二人で本のお話をしたりしてた」

「…それで、今日ね、その娘のお話をお姉ちゃんとしてたの」

「そしたら、お姉ちゃんがふとこんなことを言ったんだ」


『まるでたまにその娘の方が本当の妹みたいな気がするわ』


「・・・って」

ヨハネ「…ッ!」
 
32: 2017/05/07(日) 20:30:11.19ID:OkfBzHzb.net
「もちろんお姉ちゃんは冗談のつもりで言ったんだと思う。笑いながらだったし、もう昔みたいな感じじゃなくて、心を許しあえる仲だって思ってたんだと思う」

「わ、わたしも…そう思ってたんだけど、そうじゃ、なかった」

ヨハネ「お姉さんへのコンプレックスが、まだどこかに残ってたのね」

「うん……」

「そう言われた時、自分でも何が何だかわからないうちに体が熱くなっちゃって…」

「お姉ちゃんに、怒鳴っちゃったんだ」


『そんなに私を妹だって思えないんだったら、お姉ちゃんはお姉ちゃんなんかじゃない!!そんなお姉ちゃんなんていらない!!』


ヨハネ「・・・」
 
33: 2017/05/07(日) 20:30:43.82ID:OkfBzHzb.net
「…きっと、わたしは本当にお姉ちゃんの妹でいいのかって思ってたんだ」

「おねえちゃんみたいになれないわたしが、そのいもうとでいいのかって」

「それなのに、わるいのはわたしなのに、かってにそういうふうにおもってたのはわたしなのに……おねえちゃ、に、おこっちゃって」

「さいていだよ、わたし。さいていの、いもうとだよ」

ヨハネ「八つ当たりしちゃった自分のことが、赦せないのね」

「・・・うん」

ヨハネ「そっか。……ねぇ、これは私の考えなんだけど、よければ聞いてくれる?」

「な、に?」

ヨハネ「私ね、好きって気持ちには絶対に嘘が付けないと思ってるの」

「どういう、こと?」
 
34: 2017/05/07(日) 20:31:30.63ID:OkfBzHzb.net
ヨハネ「好きってさ、態度に出さずに、外に隠すことは出来ても、自分の中に在ることは誤魔化せないものなのよ」

ヨハネ「ある人の言葉だけどね、『自分の好きを好きなままでいいんだ』みたいなことを言われたことがあって、私はその言葉に救われたの」

「・・・それって」

ヨハネ「そして、そう言ってくれる人達がいる場所ってステキだなって思った」

ヨハネ「でね、この言葉は、裏を返せばやっぱり人ってどうしても自分の好きを否認できないというか、好きでい続けたいって気持ちに嘘をつけないってことを言ってるんだと思う」

「・・・それで、それはどういうことなの?」

ヨハネ「うん。…私が聴きたいのは、貴女の中に、その好きって気持ちがあるかどうかなの」

「え…」
 
35: 2017/05/07(日) 20:32:17.74ID:OkfBzHzb.net
ヨハネ「貴女は、お姉さんのこと、好き?」





「・・・・・・すき。だいすき」



「わたしは、おねえちゃんがだいすき・・・!!」



ヨハネ「…よく、言えたわね。だったら、後はその気持ちをちゃんと伝えて、謝ればいいと思うわ」

「で、でも…こんな私が、そんなこといえないよ」

ヨハネ「・・・これは私の考えなんだけど」
 
36: 2017/05/07(日) 20:33:28.65ID:OkfBzHzb.net
ヨハネ「抱え込んだ罪は一生消えない。罪を持ってしまったのはもう過去のことで、過去は絶対に変えられないから」

ヨハネ「けど、それを持って生きていくことは出来る。抱えた罪を持ったままだって、前に進むことは出来る」

ヨハネ「でも、その罪をもって進めないっていうなら、それは罪のせいで自分を認めちゃいけないって思うから進めないということ」

ヨハネ「だったら、その罪をひっくるめた自分を認めちゃえばいいのよ。赦しちゃえばいいのよ」

「そんなこと、できないよ…」

ヨハネ「出来る!リトルデーモンになれば、それが出来るのよ!」
 
38: 2017/05/07(日) 20:43:11.14ID:OkfBzHzb.net
「え?」

ヨハネ「だってリトルデーモンは罪も悪も抱えて当然の存在だから!罪も悪も持って、それでも存在していいんだっていうのがリトルデーモンなんだから!」

ヨハネ「だから…もし、自分では自分を赦せないっていうなら、私が貴女をリトルデーモンにしてあげる!!」

「よはね、ちゃん・・・」

ヨハネ「ねえ、堕天使ヨハネと契約して、貴女も私のリトルデーモンになってみない?」

「うっ…うう……」

ヨハネ「…そんなに嫌だった?」

「ぅぅん…。ううん。ありがとう、ヨハネちゃん」

「ヨハネちゃん。私のこと、リトルデーモンにしてくれますか?」

ヨハネ「・・・当然よ。ちゃんと自分の罪を自覚したものだったら、誰でもリトルデーモンになれるんだから」

「ありがとう。ありがとう、よしこちゃん…」

ヨハネ「…この際、その呼び方は不問にしてあげるわ。さ、それじゃ早速お姉さんのところに行って、謝って、好きって気持ちを伝えてきなさい!」

「え、ええ!?そんな、いきなり!?」
 
39: 2017/05/07(日) 20:43:45.18ID:OkfBzHzb.net
ヨハネ「思い立ったが吉日よ!逆にそれ以外は凶日!そして何より女は行動力よ!」

「……それ前に善子ちゃんがやってたゲームの言葉じゃあ」

ヨハネ「細かいことはいいの!いいからさっさと行っちゃいなさい!行ってダメならまたここにくればいいんだから!」

「・・・うん、ありがとう。リトルデーモン4号、行ってきます!!」

ヨハネ「ええ、行ってらっしゃい!」



ヨハネ「……ふぅ、今日はこんなところね…って、言いたいところだけど」

ヨハネ「ねぇ、聞こえてるんでしょ?「お姉さん」?」

ヨハネ「どこにいるかは知らないけど、妹さんが出ていったのを確認したらここに来て」

ヨハネ「はぁ。道理で今日来た時、違和感を感じたわけね。…マリーが頼られて、こんな細工をしたんだろうけど」

ヨハネ「全く、妹が心配だからって、少しは人のプライバシーを考えなさいって話よね」
 
40: 2017/05/07(日) 20:44:32.59ID:OkfBzHzb.net
ヨハネ「…ま、今回に限ってはいい方向に作用するのかしらね」

ヨハネ「今回だけの特別大サービスよ」

ヨハネ「ちゃんとした懺悔室でもないし、こういう理に反するところもアクマっぽくていいしね」

ヨハネ「…とはいってもマリー、これ限りにしてよね」

ヨハネ「プライバシーを損なう懺悔室なんてあってはならないんだから」

ヨハネ「…まあ、マリーには聞こえてないんだろうけどね。そこは弁えて、本人にだけ聞こえるようにしてるはずだから…」

ヨハネ「・・・さて、来たわね」

「・・・・・・もう、喋ってもいいの?」
 
41: 2017/05/07(日) 20:45:13.67ID:OkfBzHzb.net
ヨハネ「ええ。ようこそヨハネの懺悔室へ」

「…最初に謝らせてください。この場所の信用を損なうようなことをしてしまったことを」

ヨハネ「別に、いいわ。ただ今回のことは他の人には絶対内緒にしてね」

「それは、必ず」

ヨハネ「ま、貴女にとっては物凄く重要な問題だったろうし、どうしたらいいかわからなくてこういうことになったんだとは解ってるから」

「……お気遣い、痛み入ります」

ヨハネ「それで?ここに来たからには何か話したいことがあるんでしょう?」

「はい。罪の告白をしにきました」

ヨハネ「話してみて。聴いてあげる」

「・・・わたくし、妹と喧嘩してしまったんです」

「わたくし、妹の気持ちをちゃんと考えられなかったの。……妹の苦しみをわかってあげられず、軽率なことばかり言っていたの」

「しかも、それに気付いたのは自分の力でじゃない。こんな、卑怯な方法で…」

ヨハネ「そう…妹の気持ちを推し量ることが出来なかった、自身に怒っているのね」

「…はい」
 
42: 2017/05/07(日) 20:46:15.50ID:OkfBzHzb.net
ヨハネ「もしよかったら、妹の話を聴いてどう思ったのか、聴かせてもらえるかしら」

「……わかりました」

「わたくしは、家の跡取りとして、恥じぬ者となるべく、様々なお稽古事をこなしてきました」

「それはわたくしにとって当然のことだったのです。妹の話にもありましたが、生まれる場所を選べない以上、その場所で全力を尽くさねばならないと考えてきました」

「お稽古事をやる中で、辛いこともたくさんありました。しかしだからこそ、積み重ねた経験はわたくしの自信にもなっていました」

「…でも、それが良くなかったんでしょうね」

ヨハネ「自信を持つことが、良くなかったと」

「ええ。わたくしは自身の考えに自信を持つあまり、妹の気持ちや考えを慮ることが出来なかったのだと思います…」

「妹の心に巣食っていた、わたくしへのしがらみを理解できなかった…」

「妹がお稽古事を全て辞めて、髪を切った時も、わたくしはただただそれでもいいだろうとしか思いませんでした」

「妹が辛そうにしていたのも見ていましたから、辞めることは咎めるべきことではない、と。その程度の考えでした」
 
43: 2017/05/07(日) 20:47:04.56ID:OkfBzHzb.net
「・・・けれど、違ったのね。妹が本当に辛いと思っていたのは、お稽古事自体に対してではなく・・・」

「わたくしと、比べられて、自分でも比べてしまうことだったのだから・・・」

ヨハネ「…」


「結局、根本のところで妹の辛さは消えていなかった」

「わたくしは、気付けなかった。気付かなかった。気付こうともしなかった」

「ただ、これで妹と遊ぶ時間が増えると…お稽古事の中では先達として、厳しいことも言わなければならなかったけど、もうそんなことをする必要はないと…」


「いもうとと、ほんとうのいみでなかよくなれるのだと・・・おもうだけだった」


ヨハネ「…これで仲のいい姉妹になれると、その時は純粋に思ってたのね」
 
44: 2017/05/07(日) 20:47:45.92ID:OkfBzHzb.net
「…はい。けど、今回のことがあって」

「どうすればいいのか全く解らなくなってしまって…」

「ショックで…妹に対して、どう接すればいいのか解らなくなって…」

ヨハネ「それで、友人を頼ったってわけね」

「はい…」

「でも、結果としてわたくしは、一番やってはならないことをしてしまった」


「こんなことをしてしまって、自分だけ妹の気持ちを知って…」


「いもうとのつらさを、うけとめることができなかった」


「わたくしは、さいていです。さいていの、あね、です・・・」
 
46: 2017/05/07(日) 20:52:07.08ID:OkfBzHzb.net
ヨハネ(……似た者姉妹、か)

ヨハネ(二人とも、同じこと言っちゃって…)

ヨハネ(全く…手の掛かるリトルデーモン達)

ヨハネ「・・・ねぇ、さっきの会話を聴いてたんなら、解ったでしょ?」

ヨハネ「妹さんの、貴女に対する気持ちは」

「……」

ヨハネ「だから、今度は同じ質問をさせてもらうわね」
 
47: 2017/05/07(日) 20:52:37.10ID:OkfBzHzb.net
ヨハネ「貴女は、妹さんのこと、好き?」





「・・・・・・すきです。だいすきです」



「わたくしは、いもうとのことを、あいしています・・・っ!!」



ヨハネ「……ちゃんと、言えたじゃない」
 
48: 2017/05/07(日) 20:53:11.72ID:OkfBzHzb.net
ヨハネ「……ちゃんと、言えたじゃない」

「ですが、わたくしにそんなことを言う資格は…」

ヨハネ「だーもう!さっきの会話を聴いてたんならリトルデーモンの話だって聴いてたでしょ!?資格なんて堕天しちゃえば関係ないのよ!!」

「罪も悪も、まとめて認めるから…」

ヨハネ「その通り!そりゃ、貴女のことだから抵抗はあると思うけど、なりふり構ってる場合じゃないのよ!」

ヨハネ「第一、妹と同じ、対等な立場になれるのよ!?いいこと尽くめじゃない!」

「……クスッ。いいこと尽くめ、ですか」

ヨハネ「何?何かおかしなこと言った?」

「いえ、堕天使なのに「いい」だなんてと思って…」

ヨハネ「そ、それは今はどうでもいいじゃない!」

「そうでしたね…」
 
49: 2017/05/07(日) 20:53:58.38ID:OkfBzHzb.net
ヨハネ「とにかく!貴女は罪も自覚したんだし、後は行動するだけだと思うわよ」

「ええ。わたくしも、妹に伝えたいと思います」

「謝罪と、わたくしの気持ちを・・・」

ヨハネ「その意気よ!…あ、そうそう、今回のことは他言無用って言ったけど、妹さんにだけは話してもいいわよ。そうしないとちゃんと謝れないしね」

「そうでしたわね…何から何まで、ありがとうございます」

ヨハネ「いいのいいの!その代わり、ちゃんと仲直りしてきなさい」

「ええ。では、またお会いしましょう、善子さん」

ヨハネ「だからヨハネだって!」


ヨハネ「……行ってしまった」
 
50: 2017/05/07(日) 20:54:49.26ID:OkfBzHzb.net
ヨハネ(……姉は去り際、「堕天使も悪くないものですね」とだけ残して、去っていった)

ヨハネ「全く、気付くのが遅すぎなのよ」

ヨハネ「堕天使が素晴らしいだなんて、解りきったことじゃない!」

ヨハネ「…けど、ちゃんと二人が真剣にお互いに向き合えそうで良かった」

ヨハネ「しっかし今回は重かった…こんなに重い相談が来るとは思わなかった…」

ヨハネ「黒澤家がたいへんなお家柄だってことは聞いてたけど…まさかこんなに色々抱えてただなんてね」

ヨハネ「でも、これで心の底から信頼しあえるようになれるといいわね」

ヨハネ「ちょっと今日は差し出がましいこともしちゃったけど…」

ヨハネ「いや、前回もしちゃったか」

ヨハネ「……だけど、もしそのおかげで二人の手助けができたなら、よかったのかな…」

ヨハネ「今日は今度こそこんなところでおしまいね」

ヨハネ「…頑張ルビィよ。ルビィ、ダイヤさん」
 
51: 2017/05/07(日) 20:56:07.47ID:OkfBzHzb.net
~数週間後~


ヨハネ「…前回は、結果的に黒澤姉妹にプラスに働いたみたい」

ヨハネ「元々二人は仲が良かったけど、その質が変わったというか…」

ヨハネ「前はダイヤさんに対して冗談なんてほとんど言わなかったルビィが冗談も言うようになったし、逆も同じだし」

ヨハネ「すぐに解決できる問題じゃないと思ってたけど…やっぱり姉妹の絆ってすごいわね」

ヨハネ「長年積み重なってたのはコンプレックスだけじゃなくて、姉妹の愛も同じだったんだろうな」

ヨハネ「・・・でも、その後あんな事件が起こるだなんて、予想もしてなかった」

ヨハネ「いや、今思えば、その片鱗はあったのか。あの時…」

ヨハネ「その事件のせいで、しばらくはAqoursの方もバタバタしちゃって、この活動もずっと出来なかったし」

ヨハネ「…逆に言えば、もし来るとしたら今日の相談者はあの人しかいないんだろうな」

ヨハネ「あの人だったら、私じゃなくって、他の人を頼るような気もするけど」

ヨハネ「今回に限ってはむしろ、親しいからこそ頼れない感じかもしれないし」

ヨハネ「・・・前回より重い内容なんてないと思ってたけど、今回はそれ以上になるかも」

ヨハネ「あの人のために、私に、何が出来るのかな…」

ヨハネ「…いや、出来るかどうかじゃない!私はヨハネ!」

ヨハネ「私は皆をリトルデーモンにするだけよ!それがヨハネの流儀ってね!」

ヨハネ「さあ、待ちましょうか…あの人が来るのを」
 
52: 2017/05/07(日) 20:56:54.75ID:OkfBzHzb.net
―――


「・・・こんにちは」

ヨハネ「…こんにちは。わざわざよく来てくれたわね」

「ううん、すぐ近くだったから、大丈夫だったよ」

ヨハネ「そっか。…それで、今日はどんなご用件で?」

「・・・・・・」

ヨハネ「…話したくないなら、話さなくてもいいのよ」

「ううん、今日は、そのために来たんだから…話すね」

ヨハネ「わかった。聴かせて」

「うん、…わかった」
 
54: 2017/05/07(日) 21:01:44.05ID:OkfBzHzb.net
「あのね、この前ね、」













「しいたけが、死んじゃったんだ」
 
55: 2017/05/07(日) 21:02:27.96ID:OkfBzHzb.net
―――





ヨハネ「…身近な方が亡くなられたのね」

「そう、だね」

ヨハネ「よければ順を追って説明してくれるかしら?」

「うん。…うん、わかっ、た」

ヨハネ「・・・ゆっくりでいいからね」

「ありがとう。…どこから話そうかな」
 
56: 2017/05/07(日) 21:03:04.11ID:OkfBzHzb.net
「しいたけっていうのはね、私の家で飼ってた犬の名前なんだ」

「私が小学校の頃かな?どうしても犬を飼いたいって思って、お母さん達に色々お願いしたことがあってね」

「たっくさん無理も言って、何度も何度もお願いして」

「そしたらね、うちの旅館のお客さんの人から、犬の引き取り先を探してる人がいるって話を聞いてね」

「それで、とんとん拍子で話が進んで、うちで引き取ることになったんだ」

ヨハネ「そうなのね」

「うん。最初は反対してた美渡ねぇも、しいたけがうちに来てからはすごくかわいがるようになったりね」

「しいたけが来てから、家が賑やかになったんだ」

ヨハネ「しいたけちゃんのおかげで家族も仲良くなれたのね」

「うん、そうなんだぁ」
 
57: 2017/05/07(日) 21:03:47.75ID:OkfBzHzb.net
「・・・けど、私にとってはそれだけじゃなくて」

「私としいたけは、一緒に育って、一緒に色んなことを経験してきたんだ」

「楽しいことも、辛いことも、全部」

「一緒の時間を過ごしてきたんだ」

ヨハネ「ずっと苦楽を共にしてきたのね」

「そうなんだ」


「…だからかな。私にとってしいたけは、もう一人の兄妹で、もう一人の家族だったんだ」


「ただの、ペットじゃない。私の、大切な、家族だったんだ」
 
58: 2017/05/07(日) 21:04:27.11ID:OkfBzHzb.net
ヨハネ「そうだったのね…」

「でもね、そう思ってたのは私だけだった」

「ううん、正確には皆同じようには思ってたと思う」

「でも、やっぱりしいたけは犬で…飼ってるって感覚があったから」

「人のように、ホントに家族のようには、思い切れてなかったんじゃないかなって」

「…私は、家族のその態度に、ちょっとだけ怒ってた」

ヨハネ「・・・」

「それでね、話はそれから飛ぶんだけど…。私が高校生になった頃から、しいたけの元気がなくなってきたんだ」

「散歩のとき、昔ならこっちがグイグイ引っ張っられくらいだったのに、急に立ち止まって、こっちが引っ張ってもその場から動かなくなったりして…」

「犬の寿命を考えたら、もう、先は長くないんだって、薄々感じるようになった」

「それに感づいたのは私だけじゃなくて、周りも一緒だった」

「けど、それはしいたけを病院に連れて行って、お医者さんに言われたからだった」

「・・・私みたいに、ちゃんと自分で様子がおかしいってすぐに気が付けた人はいなかった」
 
59: 2017/05/07(日) 21:08:52.50ID:OkfBzHzb.net
ヨハネ「その時はあなたが一番、しいたけちゃんのことをわかってあげられていたのね」

「…その時は、ね。私もそう思ってた」

「でも、ちがって…」

「・・・・・・」

ヨハネ「…もうこれ以上は無理そう?」

「ううん、大丈夫。…話を続けるね」

「それで、流石に家族で相談することになったんだ。しいたけを、どう死なせてあげるか」

ヨハネ「…死なせて、か」

「そう、死なせて。そこにはしいたけがどうしたいかなんて考えはなかった」

「しょうがないよね。犬は言葉を話さないんだから。飼うものなんだから」
 
60: 2017/05/07(日) 21:10:14.67ID:OkfBzHzb.net
「・・・でも、私はそんなの許せなかった。だって、しいたけは」


「しいたけは、私の大切な家族だったから」


「…それで、家族で色々話し合ったんだけど、病院で死なせてあげようって話でまとまったんだ」

「病院で、辛さを味わわせないまま死なせてあげたらどうかって」

「・・・でも、私はそんなの絶対にダメだと思った」

「しいたけは、きっとこの家で死にたいって思ってるはずだって」

「大好きだった家で、たとえ辛かったとしても、最期を迎えたいんじゃないかって」

「だから私はそう言ったの。でも、家族は聴き入れてくれなかった」

ヨハネ「それは、どうして」

「私は、家族の中でも一番下だったから。末っ子の意見じゃなくて、大人の考えの方がいいだろうって思ったんじゃないかな」
 
62: 2017/05/07(日) 21:15:24.96ID:OkfBzHzb.net
ヨハネ「そんな…」


「・・・その時、私は生まれて初めて家族を憎んだ」


「たくさん喧嘩もして、色んなことで怒って…でも、私は家族が好きだった」


「だけど…そのことだけは許せなかった」


「私が、一番しいたけのことをわかっているのにって」


「しいたけの気持ちをちゃんと考えてあげられてるのは私だけなのにって」


「皆、しいたけのこと何にも解ってないくせにっ、て」
 
63: 2017/05/07(日) 21:16:11.69ID:OkfBzHzb.net
「そう、思っちゃったんだ」


ヨハネ「……」

「でも、仕方ないよね。だって私は末っ子で、バカで、普通で…」

「しいたけも、犬で、ペットで、喋れないんだから…」

ヨハネ「家族の態度も、理解はできたのね」

「そうだね。けど…」

「けど、納得は出来なかった」

ヨハネ「・・・」

「……そんなことがあって、しばらくして、しいたけがずっと寝たきりみたいになった」

「それでも散歩には行けたから、まだ大丈夫だと、家族皆…私も、思い込んでた」

「でもある日、しいたけがついに起き上がれなくなった」

「家の中に入れて、寝かせてあげて、家族でかわりばんこで看てたんだ」

「それで、私がしいたけのところに行って、しいたけのことを撫でてるうちに、しいたけがちょっと起き上がって私の手を舐め始めたんだ」

「・・・しいたけは、元気がなくなってから、よく私のことを舐めるようになったんだ」

「その度に私は、甘えて欲しいのはこっちの方なんだから、そんなこっちを気遣うようなことしなくてもいいのにって思ってた」

「私がしいたけを撫でるときって、ちょっと辛いことがあった日が多かったから、特にそう思っちゃったんだろうね」
 
64: 2017/05/07(日) 21:19:07.31ID:OkfBzHzb.net
ヨハネ「・・・」

「…話が逸れたね。それでね、美渡ねぇが様子を見に来て、その姿を見て怒り出したんだ」

ヨハネ「怒った?」

「うん」

『しいたけは辛いんだから起き上がらせちゃダメだろ!!』

「…って」

ヨハネ「ッ!」

「でもね、そうじゃなかったんだよ。しいたけは自分から起き上がって、私のことを見てたんだ」

「だけど、美渡ねぇ達の時はそんなことはなかったんだって」

「…それを聞いて、私、怖くなっちゃって、その場から離れちゃったの」

ヨハネ「それは、どうして?」

「……私が、しいたけに無理をさせてるんじゃないかって思ったから」

「私のせいで、しいたけに無理をさせたくないって、思ったから」

ヨハネ「そっ、か」
 
65: 2017/05/07(日) 21:19:39.55ID:OkfBzHzb.net
「・・・それでね、その次の日の朝、遂にその時がやってきたの」

「私、朝はそこまで強くないから、美渡ねぇが凄く怒って起こしてきたときにはなんなんだって思ってちょっと怒った」

「でも、しいたけの容体が急に悪くなったからだって解ったとたん、私はすぐにしいたけのところに向かったんだ」

「・・・それで、しいたけのところに着いた時…」


「こんな表現をしていいのか、解らないんだけど…」


「・・・死の、においがした」
 
66: 2017/05/07(日) 21:20:16.59ID:OkfBzHzb.net
ヨハネ「死のにおい…」


「血や内臓のにおい、っていうのもそうだったんだけど」


「もう、助からない。…そんなにおいが、ハッキリ感じ取れたんだ」


「しいたけは、血を吐いてた」


「家族それぞれがしいたけに声をかけてた。しいたけの状態を確認したりもしてた」


「志満ねぇが、しいたけの心臓が動いてないって言った」


「私はすぐに近寄って、しいたけの顔を覗き込んだの」


「しいたけ、死んじゃやだって叫びながら」


「・・・そしたらね、しいたけの目が動いたの」


「私の顔を、見返してくれたの」


「それと同時に、心臓もまた動き出したんだ」


「私は咄嗟に叫んでた。早く病院に連れて行こうって」


「心臓がまだ動くんだったら、まだ間に合うって。きっと生き返るんだって」


「・・・さっき感じた、死のにおいを無視して・・・」
 
67: 2017/05/07(日) 21:20:59.25ID:OkfBzHzb.net
ヨハネ「…」


「もう助からないって解ってたはずなのに、そう言っちゃったんだ」


「そしたらね、しいたけが急におしっこを漏らしちゃったの」


「それを見た私は、早く病院に連れて行かなきゃって、それだけしか考えられなくなった」


「志満ねぇに頼んで車を出してもらって、私もしいたけを後ろの席に乗せて、ずっとしいたけをさすりながら病院に着くのを待ってた」


「・・・でも、その時は来なかった」


「しいたけは、車の中で、今度こそ死んじゃったんだ」


「ずっと、私を見続けながら」


「私のことを、最期まで、探し続けながら」
 
68: 2017/05/07(日) 21:21:39.68ID:OkfBzHzb.net
ヨハネ「…」


「…結局、その後は家に戻って、家の裏庭にしいたけを埋めることになったんだ」


「しいたけの、好きだったものをいっぱい入れて」


「寒くないようにって毛布も入れてね」


「作業の途中、美渡ねぇも帰ってきた」


「本当は仕事だったんだけど、泣き過ぎて事情を察してもらって帰してもらったんだって」


「美渡ねぇは、ずっと泣いてた」


「志満ねぇも、涙こそ流さないようにしてたけど、堪え切れなくて何度も目をこすってた」


「・・・それで、しいたけを穴の中に入れて、埋めることになって」


「それだけは私がやりたかったから、一人でしいたけの体に土をかけていったんだ」


「その最中、私は不思議なことに全然悲しいって思えなかった」


「でも、訳も分からないうちに涙は流れた」
 
70: 2017/05/07(日) 21:25:30.32ID:OkfBzHzb.net
ヨハネ「……」


「たくさんたくさん、涙が溢れて顔の下に流れていった」


「…なのに、それなのに、私の心は何も感じなかった。いつも泣くときには胸にあふれる感情が、その時には全くなかった」


「そんな心に、まるで、体が絶叫しているみたいだった」


「『今、私は悲しいんだ!』って。『どうして悲しめないんだ!!』って」


「・・・でも結局、私は何も感じられなかった」


「しいたけを埋め終えて、志満ねぇと美渡ねぇがよくやったって言ってくれた」


『ありがとう千歌ちゃん』『頑張ったね千歌』『しいたけもきっと喜んでるよ』


「そう、言ってくれた」
 
71: 2017/05/07(日) 21:26:17.02ID:OkfBzHzb.net
「・・・でも、違うんだ。違うんだよって」


「私は、涙は流しても、志満ねぇや美渡ねぇのように、泣けなかった」


「涙がただ流れただけで、泣くことは出来なかった」


「そんな私が、お礼を言われる筋合いはないっ、て」


ヨハネ「泣きたくても、泣けなかったのね」


「そう、だね」


ヨハネ「そんな自分が、赦せなかったの?」


「…ううん。もちろんそれもあるよ。でもね、その後に」


「家族と話してた中で、気付いたんだ。私の醜さに」
 
72: 2017/05/07(日) 21:26:54.62ID:OkfBzHzb.net
『病院に行こうってなった時、しいたけは失禁しちゃったけど』

『きっと、病院に行きたくなかったのね』

『本当は、お家で死にたかったのかな』

ヨハネ「!」


「・・・そう言ってるのを聞いた私は、自分のことを絶対に赦せなくなった」


「だって、それは私が思ってたことだったから。しいたけは絶対にそう思ってるって考えてたことだから」


「でも、結局、私が、私自身がそれを否定しちゃった」


「私が絶対ダメだって言ってたことを、病院ってことを、私が言っちゃったんだから」


「・・・しいたけのこと、私が一番わかってるって思ってたのに。絶対にお家で看取ってあげたかったのに」


「病院で死なせてあげようって言ってた家族を憎みすらしたのに」


「その、憎んでいたことを私自身がしちゃったんだ」
 
73: 2017/05/07(日) 21:27:28.49ID:OkfBzHzb.net
「…私は、自分が憎い」


「憎んだ家族と結局同じことをした自分が憎い」


「私が一番しいたけのことをわかってるって思ってたのに、そのしいたけの気持ちを無視しちゃった自分が赦せない」


「そう思って、でも現実的には、やらなきゃいけないことがいっぱいあるから、メンバーにも迷惑をかけたけど、少しずつ日常生活に戻っていったんだ」

ヨハネ「…」

「そんなある日、国語の授業で、ある文章を読んだんだ」
 
74: 2017/05/07(日) 21:28:09.44ID:OkfBzHzb.net
「そこにはね、こう書かれていた」


『どのような死も〇人であり、早すぎる死なのである。だから生き延びた者には責めがある』


ヨハネ「それ、は」


「そうだったんだって改めて思ったんだ。私は、自分への憎しみを抱えて生きていくしかないんだって」


「しいたけを、死なせた自分を責め続けるしかないんだって」


「・・・でも、こんな気持ちを抱えたままアイドルとしてステージに立つことは出来ない」


「アイドルは、人を笑顔にする仕事だから。今の私が人を笑顔になんてできないと思うから」


ヨハネ「だから、ここにきたってわけね」
 
75: 2017/05/07(日) 21:28:50.89ID:OkfBzHzb.net
「…うん」

ヨハネ「辛かった、わね」

「……」

ヨハネ「ねぇ、差し出がましいことなんだけど、ちょっと聴きたいことがあるの」

「うん。…いいよ」

ヨハネ「この話、正直私だから話すことじゃないと思うの。貴女には、素晴らしい仲間がいると思うから」

「そうだね…」

「曜ちゃんは、曜ちゃんもしいたけと一緒にいた時間が長かったからすごく泣いちゃって、果南ちゃんも泣きながら私を抱きしめてくれたけど、だからこそ話せなかったから」

「それで梨子ちゃんになら話せると思って、同じ話はしたんだ。でも…」

ヨハネ「それでも、どうしても自分のことを赦せなかったのね」

「…うん。話せば、少しは自分を見つめ直せるかなって思って。けど、むしろそれがダメだった」

「話せば話すほど、自分を赦せなくなっていった。自分を見つめ直せば直すほど、自分の醜さばかりが解っちゃったから」

ヨハネ「そっか…」

「やっぱり、私は自分を赦せないよ・・・」

ヨハネ「・・・ねぇ、これは私が思ったことなんだけど」
 
76: 2017/05/07(日) 21:29:18.01ID:OkfBzHzb.net
「なに?」

ヨハネ「…もしかしたら貴女は、自分を赦“せない”んじゃなくて、赦“したくない”んじゃないかしら」

「…っ!」

ヨハネ「だから、心を動かさないようにしている。自分にそんな資格はない、そんなことする自分こそ赦せないから、って思ってるんじゃないのかな」

「そう、かもしれない」

「私は、欲しくないって思ってるのかもしれない。赦しを」

ヨハネ「…でも、そうすると前には進めない」

「・・・だったら、どうすれば」
 
78: 2017/05/07(日) 21:34:12.48ID:OkfBzHzb.net
ヨハネ「心を、動かしてみようよ」

「ぇ…」

ヨハネ「今までの話は、貴女がどう考えたかって話だった」

ヨハネ「だったら、今度は貴女がどう感じたかって話をしてほしい」

ヨハネ「…少なくとも、私はその話が聴きたい」

「でも、でも…」

ヨハネ「…忘れてた?ここは何を言ってもいい場所なの。このヨハネが、全部聴いてあげる場所なの」

「・・・」

ヨハネ「ゆっくりで、いい。聴かせてほしいの。貴女の、気持ちを」
 
79: 2017/05/07(日) 21:34:44.02ID:OkfBzHzb.net
「わた、しは」


「わたしは・・・」


「子供の考えなしのわがままで勝手に引き取られて」


「勝手に飼われて、自分の死に方も自分で決められなくて」


「私が、犬が欲しいだなんて言わなければ。私以外の人が、引き取っていればよかったのにって」


「わたしといっしょにすごして、さいごはつらいおもいもして」


「わた、しのわがままでふりまわされて」


「こんなわたしといて、こんな、しんじゃって」


「わたしのことをきにかけて」


「そんなふうに、いきて」


「ほんとうに、しあわせだったのかなって」


「しいたけは、わたしといっしょで」


「しあわせだったのかなっ、て」


ヨハネ「っ…!」
 
80: 2017/05/07(日) 21:35:07.23ID:OkfBzHzb.net
「ご、めんね」


「しいたけ、ごめんね」


「わたしのせいで、ごめ、んね」


「しいたけ、こんなわたしといっしょで」


「しあわせに」


「いきれたのかな・・・」
 
81: 2017/05/07(日) 21:35:49.74ID:OkfBzHzb.net
「・・・・・・・・・」




ヨハネ(…まだ、少し堪えてるのかな)
 
82: 2017/05/07(日) 21:36:21.71ID:OkfBzHzb.net
ヨハネ「…本当はこんなことしちゃいけないんだけど」


「ぅん…?」


ヨハネ?「もう、無理」


よ、ハネ「だって私がそうしたいんだから…」


「よ、はね、ちゃん…?」


よし、ネ「私自身が、貴女と向き合いたいから。だから…」


よしこ「こんな衝立、こうしてやる!!」

バーン!
 
83: 2017/05/07(日) 21:37:17.50ID:OkfBzHzb.net
千歌「善子ちゃん!?出てきちゃっ…
ギュッ あ…」

善子「いいの!だって千歌さんが泣いてるんだから!!千歌さんが、泣けたんだからぁ!!」ポロポロ

千歌「・・・うっ、うぅっグゥうう」

善子「ちゃんと、泣けたじゃない。涙だけじゃなくて、ちゃんと泣いたじゃない」グスッ

善子「だったらもう堪えないで。一人だと耐えちゃうんだったら、私の胸の中で泣けばいい!私はそうして欲しいの!!だって千歌さんは泣いていいんだから!!!」ボロボロ


千歌「う、うわああああん!あっああん!!」
 
84: 2017/05/07(日) 21:37:50.01ID:OkfBzHzb.net
―――




善子「…落ち着いた?」

千歌「うんっ。少しは、ね」

善子「よかった…」

千歌「でも、私の罪自体はやっぱり消えないとも、思う」

善子「罪自体は、ね…」

善子「……」

千歌「善子、ちゃん?」

善子「ねえ千歌さん。まだ辛いしそんなこと出来ないって思うかもしれないけど、もしよかったら私の話を聴いてくれる?」

千歌「…うん、いいよ」

善子「本当に?」

千歌「大丈夫。泣いてスッキリしたしね」

善子「そっか」

千歌「でもあんまり重い話はやめてね?」
 
86: 2017/05/07(日) 21:47:05.04ID:OkfBzHzb.net
善子「それを千歌さんが言う?」

千歌「あははっ、ごめんごめん。…それで、話っていうのは?」

善子「・・・私ね、自分の名前が嫌いだった」

千歌「……」

善子「私は昔から不幸体質だったから、散々な思いをしてきたわ…」

善子「歩いてたら鳥の糞が当たるだとか、遠足の日には必ず大雨になるだとか、そんなことが日常茶飯事だった」

善子「…でもね、私はそんな不幸を恨みたかったのに、恨めなかった」

千歌「それは、どうして?」

善子「名前よ。私は、「善い子」じゃないといけなかったから。何かを恨むだなんてこと、赦されないって強迫観念があったの」

善子「そうじゃなきゃ、私は私を否認してしまうんだって」

善子「だから……。私にとって、この名前は「呪い」のようなものだった」

善子「私の周りには不幸ばっかりなのに、それを恨むことも出来ない」

千歌「善い子じゃないと、いけなかったんだね」

善子「そうね。ま、単純にダサいと思ったのも嫌いな理由なんだけど」

善子「……とにかく、私はこの名前に一生束縛されるんだって思ってた」

善子「しかも、不幸に付き纏われながら」

善子「そうして、思い悩んでるうちに」

善子「……私はこの世にあってはならない存在なのかなって、思うようになったの」
 
87: 2017/05/07(日) 21:47:36.69ID:OkfBzHzb.net
善子「生きてちゃいけないから、天は私に不幸を与えて」

善子「あってはいけないって自分自身にも思わせるために、この名前を付けられたんだって」

千歌「…そう、なんだ」

善子「けどね、そこで思ったの」

善子「私は堕天使、アクマなんだって!」

善子「世界から見放された存在、天に仇なす存在!」

善子「もちろん、いい存在ではないわ。でも、そんな存在でも在ること自体は赦されてる!」

善子「悪も罪も、それ自体はいけないものだと思う」

善子「でも、それを抱えただけなら、在っちゃいけないなんてことにはならない」

善子「そして私はそういう存在だったんだって!」

千歌「…だから、ヨハネちゃんになったんだね」

善子「そうね。それと、もう一つ」

千歌「もう一つ?」

善子「ええ。私、普通が嫌だったの」

千歌「!」
 
88: 2017/05/07(日) 21:48:06.19ID:OkfBzHzb.net
善子「普通の女の子で、でも不幸ばっかで…そんなのって、サイアクだと思わない?」

千歌「…まぁ、嫌ではあるね」

善子「でしょ?だから、私はヨハネになった」

善子「……いや、なろうとした、が本当かな」

千歌「どういうこと?」

善子「…アクマなんだと自分が思ってもね、やっぱりね、一人だけだとどうしても、これでいいのかなって思いが付き纏っちゃったの」

善子「こんなこと、受け入れてもらえないんだって」

善子「一人で言ってるだけで、堕天使を完璧に認めることが、すごく難しかったの」

千歌「・・・」

善子「でも、そうやって悩んで、堕天使を捨てようとしていた時に私を認めてくれる存在が現れたの」

千歌「!」
 
89: 2017/05/07(日) 21:48:32.55ID:OkfBzHzb.net
善子「その人は、私に言ってくれた」


『善子ちゃんは捨てちゃダメなんだよ!』

『自分が堕天使を好きな限り!』


善子「・・・嬉しかった。救われた」

善子「私のことを、認めて、赦してくれる人が、場所が、あるんだって思って」

千歌「……」

善子「私は、その人のおかげで」

善子「…いいえ。貴女のおかげで、自分を赦せた」

千歌「よしこ、ちゃん…」
 
90: 2017/05/07(日) 21:49:05.61ID:OkfBzHzb.net
善子「・・・だから、だからね!」


善子「すごく難しいことだって解ってる!どうしようもないことだとも解ってる!」


善子「でも、千歌さんには自分を赦してほしい!」


千歌「・・・」


善子「一人じゃどうしようもないって言うんなら、私がいる!」


善子「仲間がいる!!」


善子「人は皆、罪を持っている」


善子「そのせいで前に進めなくなることもある」


善子「けど、一緒にだったら、いつかは自分を赦せるようになれるかもしれない!」


善子「私達は、罪も悪も背負って、でも生きていいんだって。生き続けていいんだって!」


善子「皆に言ってきたことだけど、アクマは罪も悪も持って当然の存在なの!」


善子「だから、千歌さんが負い目を感じてしまうって言うんなら、この私が、津島善子がそれを赦してあげる!」


善子「だって、アクマは罪も悪も持って当然の存在だから。そんな存在と一緒だったら、千歌さんだって認められるかもしれないでしょ?」


善子「責めを負ってもそこで歩みを止めることなく、それを抱えたまま進んでいいんだって」
 
91: 2017/05/07(日) 21:49:40.31ID:OkfBzHzb.net
千歌「よしこ、ちゃん…っ!」


善子「私は、それを、教えてもらった…。貴女に、Aqoursに」


千歌「・・・」
 
92: 2017/05/07(日) 21:50:12.81ID:OkfBzHzb.net
善子「…だって~可能性感じたんだーそうだーススメ~!」


千歌「そ、それって…!」


善子「千歌さんが好きな、μ’sの曲でしょ」


千歌「…うん」


善子「きっとね、千歌さんは今、可能性を感じられなくなってると思うの」


千歌「可能性…?」


善子「そう。可能性が解らなくて、前に進めなくなってるんだと思う」


千歌「・・・」


善子「でもね、誰が言ったかは忘れたけど、可能性をその人に送り返すことこそが人と人の一番の関わりなんだって考えがあってね」


善子「もし、可能性がないだなんて思うんだったら、私が、私たちが千歌さんの可能性を思い出させてあげる!」


千歌「わたしの、かのうせい…」


善子「……私たちは、貴女に自分の可能性を認めてもらえた」


善子「それが解らなくなったんだとしたら、私たちが示して見せる!貴女の可能性を!」


善子「だって、私は、私たちは、貴女が可能性を教えてくれたおかげで前に進めるようになったんだから!!」
 
93: 2017/05/07(日) 21:50:41.08ID:OkfBzHzb.net
千歌「よ、よしこ、ちゃん」


善子「それでも、自分のことを認めきれないとしたら」


善子「一緒に、堕天しましょ?私と、私たちと一緒に、進んでいきましょう?」


千歌「・・・いいの、かな」


善子「もちろん。…きっと、しいたけちゃんもそんな千歌さんが好きだったと思うから」


千歌「しい、たけ」


善子「きっと、しいたけちゃんが最期まで貴女を観てたのは、千歌さんのことを案じてたからだと思うから」


善子「自分が好きな千歌さんのままでいて欲しいとおもったからだと、おもうから」


千歌「そう、なのかな・・・」


善子「もちろん、しいたけちゃんが自分の死に方を、一番信頼してる人に蔑ろにされたって思ったんじゃないかって考えは解る」


善子「でも、それだけなら、貴女を見続けた理由にはならないわ」
 
95: 2017/05/07(日) 21:53:14.94ID:OkfBzHzb.net
千歌「…どうして?」


善子「だって、本当に嫌で嫌いなら、『お前になんか興味がない』って憮然と捨て去っちゃうものでしょ?嫌なものなんて見たくもないんだから」


善子「憎しみの目線だったとも思うかもしれない。でも、憎んだ相手のために、しいたけちゃんは気遣うような素振りを見せるかしら?」


千歌「・・・」


善子「しいたけちゃんは、それをしなかった。いつまでも、貴女のことを見続けようとした」


善子「貴女の姿を、焼き付けようとした」


善子「天国に行っても、一緒に遊べるようにって」


千歌「そんな、そんなの…」
 
96: 2017/05/07(日) 21:53:46.51ID:OkfBzHzb.net
善子「…ねぇ、千歌さん。あなたは、しいたけちゃんのことが好き?」


千歌「・・・すきに、きまってるよ。たいせつな、かぞくだったんだから」グスッ


善子「だったら、それが答えよ。しいたけちゃんだって、そう思ってるはずよ」


善子「そう信じないことこそ、しいたけちゃんに対する冒涜よ」


千歌「そう、かな」


善子「そうよ。それでも認められないなら、言っちゃいなさい」


善子「謝罪じゃなくて、しいたけちゃんに本当に思ってた言葉を」



千歌「そう、だね」
 
97: 2017/05/07(日) 21:54:44.06ID:OkfBzHzb.net
千歌「・・・しいたけ、ありがとう」



千歌「私と遊んでくれて、ありがとう」



千歌「わたしといっしょにいてくれて、ありがとう」ポロ…



千歌「わたしは、あなたといれて、しあわせだった・・・」ボロボロ



千歌「ありがとう。・・・さよなら」グスッ





千歌「また一緒に遊ぼうね!!」
 
98: 2017/05/07(日) 21:55:40.08ID:OkfBzHzb.net
善子「いえた、じゃない…」ポロポロ

千歌「…あはは。善子ちゃんまで泣いてる」グスッ

善子「うるさい!うるさいわよぉ~…」

千歌「ありがとう。…ありがとう、善子ちゃん」

善子「…うぅっ。こんなんじゃヨハネの懺悔室なんておしまいじゃない」

千歌「へ?どうして?」

善子「何でも黙って、たまにアドバイスするくらいで話を聴いて、皆をリトルデーモンにしようと思ってたのに……対等な立場じゃなきゃ、本当に自分を赦せないって解っちゃったもの」

千歌「……ああ、それか。それなら、大丈夫だよ」

善子「は、はぁ!?」
 
99: 2017/05/07(日) 21:56:26.23ID:OkfBzHzb.net
千歌「だって、皆ヨハネちゃんと対等だと思えてたからここに来たんだと思うから」

千歌「ヨハネちゃんと、善子ちゃんと仲間だと思っていたから、お話ししに来たんだと思うから」

千歌「対等だからこそ、信頼出来た。信頼出来たからこそ、後ろめたいことも話したいってなったと思うから」

善子「・・・」

千歌「ま、ヨハネちゃんのこだわりを無視しちゃったのは良くなかったかもしれないけどね!」

善子「そっか。そうだったんだ…」

善子「でも、それでよかったのかもね」

千歌「?どうして…?」
 
100: 2017/05/07(日) 21:57:18.78ID:OkfBzHzb.net
善子「だって、こんなことし始めたのは」

善子「私を認めて、堕天使を赦してくれた、貴女と対等になりたかったから。そのためだったんだから」

千歌「え…?」

善子「私も、貴女のようになりたかった。皆を赦せる存在に…自分自身を赦せるようにお手伝いできる存在に…」

千歌「…そっか」

善子「うん…」
 
101: 2017/05/07(日) 21:57:49.66ID:OkfBzHzb.net
千歌「・・・だったらさ。「さん」呼びはやめてよ」

善子「ぇ…?」

千歌「私たち、対等なんでしょ?だったら、そんな他人行儀な呼び方はやめてほしいな」

善子「…いいの?」

千歌「いいよ。だって、善子ちゃんも言ってくれたじゃん。一緒に前に進もうって」


善子「……そう、だね」


善子「これからも、辛いこと、悲しいこと、たくさんあると思う」


千歌「・・・ぅん」


善子「でも、一緒に進んでいきましょう」


善子「……千歌、ちゃん!」


千歌「・・・うん!」
 
103: 2017/05/07(日) 22:01:58.06ID:OkfBzHzb.net
人には誰でも隠したいこと、隠したい罪がある


でも、時にはそれを抱えたままではどうしようもなくなることもある


罪というのは、自身を苛み続ける楔のようなもの


自分という存在が、この世に認められないんだって。赦されないんだって


けど、そうやって自身を責め続けていては、いずれ前に進めなくなる


だから人は、救いの場を、赦しを求めるんだと思う
 
104: 2017/05/07(日) 22:02:36.49ID:OkfBzHzb.net
そして、その場所っていうのは


きっと、対等な人たちの中でしか生まれない


仲間と一緒だから、人は救われて


また前に向いて進んでいけるんだ





善子「そうでしょ、千歌ちゃん?」

千歌「そうだね。善子ちゃん!」
 
105: 2017/05/07(日) 22:02:59.99ID:OkfBzHzb.net
おしまい
 

引用元: http://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1494153255/

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