【SS】愛「雷と」曜「海鳴り」【ラブライブ!虹ヶ咲】

SS


3: (しまむら) 2023/03/24(金) 20:32:32.22 ID:E0zxVXub
〜沼津駅〜

曜「あっ、愛ちゃん璃奈ちゃーん!こっちこっち!」

愛「ちぃーっす!曜、久しぶり〜」

璃奈「曜さん、こんにちは」

曜「うんうん、久しぶりだね〜。それよりまず、ようこそ沼津へ!長旅ご苦労さま!」

璃奈「そこまで長くなかったから平気。新幹線だったし」

愛「そうそう。てかホントに良かったの?交通費出して貰ってるのに新幹線で。鈍行でもダイジョブだったのに」

曜「いやいや、こっちが呼んでるお客様なんだから、それくらいはケチらないよ。まぁ出してくれたのは今度のイベントの実行部の人たちなんだけどね」
 
5: (しまむら) 2023/03/24(金) 20:33:59.83 ID:E0zxVXub
愛「沼津の…毎年春にやってるんだっけ?」

曜「うん、結構大掛かりな野外イベントでね。出店とか、ステージとかもあるんだ」

曜「だからホント助かったよ!出演予定だった静岡のスクールアイドルのチームがあったんだけど、病気で急に欠席しちゃって…もうどうしようって時に引き受けてくれて」

愛「曜の頼みならモチロンやるっしょ!…まぁニジガク全員で出られれば良かったけど、流石に二日前だと予定がね」

曜「ううん、愛ちゃんと璃奈ちゃんなら絶対盛り上がるよ!最悪Aqoursで枠埋めようと思ったんだけど、実行の人的にはやっぱトリで出て欲しいらしくてさ」

愛「地元のスターだからね〜」
 
6: (しまむら) 2023/03/24(金) 20:41:31.73 ID:E0zxVXub
璃奈「曜さん、これからどうするの?」

曜「イベントは明日だから、今日は運営の人と打ち合わせして、ステージ下見する位かな。その後は明日に備えてゆっくり休んでもいいし、疲れてないなら軽く沼津を案内するよ。観光名所とか、美味しいお店位ならすぐ行けるから」

愛「良いね〜!沼津は久しぶりだから楽しみだよ!」

璃奈「私も。曜さんが案内してくれるの?」

曜「モチロン!誘った手前楽しんでもらいたいからね。しっかり案内するよ」

愛「いいの?Aqoursの出番もあるし、イベント実行部に色々協力してるって聞いたけど」

曜「平気平気、練習もバッチリだし、やることもやってるからね。今回は私が沼津代表兼Aqours代表として、二人をしっかりサポートするであります!」ビシッ

愛「アハハ、頼もしいなぁ。それじゃよろしく!曜!」
 
9: (しまむら) 2023/03/24(金) 20:56:03.02 ID:E0zxVXub
愛「打ち合わせ、思ったよりすぐ終わったね」

璃奈「もう少しかかると思ってた。飛び込みだったし、SIFがあるとはいえ、私たちの知名度は地元以外じゃそこまで高くないし」

曜「音源とか演出とかは、意外となんとかしてくれるもんだよ。それに私がニジガクのみんなを招待するのを提案した訳だし。プレゼンはバッチリだよ!」

愛「曜が提案してたの?」

曜「うん、枠が空いちゃうのをどうにかならないかーって電話が来てさ。それでニジガクの話をしたんだ!SIFの動画もいくつか見せたらすぐゴーサインくれて」

愛「曜がそんなにアタシたちを推してくれてたなんて…」

曜「えへへ、ニジガクのみんなのパフォーマンスはAqoursにもない素敵なところがあるからね。それに…璃奈ちゃんの独特な世界観とか、愛ちゃんの周りを巻き込んで盛り上がれる空気みたいなのは、すごいなって思ってるんだ」

璃奈「嬉しい。期待を裏切らないようにしなきゃ」

愛「そうだね!愛さんたち、チョー盛り上げちゃうから!」
 
10: (しまむら) 2023/03/24(金) 21:00:12.09 ID:E0zxVXub
曜「やっぱ二人は頼もしいね!まぁ一応イベントのメインとして地方物産のアピールとか、誘致っていう目的はあるんだけど……みんな一番はワイワイやりたいだけだから。二人もイベントの出店とか、沼津を楽しんでってね」

愛璃奈「「うん!」」

曜「それじゃまだ時間もあるし…お二人共、元気は残ってるでありますか〜?」

愛「モチロン!」
璃奈「まだ遊びたい」

曜「オッケー!それじゃあ曜ちゃんに任せて!二人はどこか行きたいところある?」

愛「う〜ん、色々行ってみたいけど…りなりーは?」

璃奈「私、海が眺められるところがいい。せっかく沼津に来たし」

愛「良いね〜!お台場も海沿いっちゃ海沿いだけど、まぁ東京湾だからねぇ」

曜「私たちからしたら、あんな海のすぐそばにおっきな建物が並んでるのも凄いけどね」

愛「レインボーブリッジとかなら昼も夜も綺麗だから、曜にも案内してあげたいな」

曜「その時はお願いするね。よ〜し、それじゃあ今日は景観のいいところを巡ってみよう!」
 
11: (しまむら) 2023/03/24(金) 21:05:25.93 ID:E0zxVXub
愛「いや〜それにしても、ホントに景色凄いよね。目の前には海!後ろ振り向けば山!」

曜「そこは沼津の誇りだからね。日本一の海と山!どこにも負けないよ」

璃奈「見てるだけで晴れやかな気分になる気がする」

愛「湾だからかな。陸地が海と一緒にずーっと続いてて…不思議なカンジ」

曜「そこまで言ってくれるなんて、案内した甲斐があるよ!」

曜「ただちょーっと天気が怖いかな〜」

璃奈「そうなの?太陽も出てるけど…」

曜「ホラ、水平線の方を見てみて。低い空に雲ができてるでしょ?方角的にも、あれが成長したら雨降っちゃうかもなんだよね」
 
12: (しまむら) 2023/03/24(金) 21:08:06.71 ID:E0zxVXub
愛「それホント?明日大丈夫かなぁ…」

曜「雨雲って訳じゃないし、流石に明日までは持つと思うよ。それにステージは屋根があるから、土砂降りにならない限り決行できるし」

璃奈「曜さん、すごい。天気予報士みたい」

曜「船乗りの娘だからね。体感天気予報は得意なんだ!それに海は生き物だから、ご機嫌がわからないと船は出せないから」

愛「生き物?海が?」

曜「うん。海は海流とか、風とか、気温とかもぜんぶ繋がってるんだ。例えば今は陸の気温が高いから、海との寒暖差の対流で海風が吹いてる」

曜「沿岸の方は下降気流だから雲はないけど、沖の方をよーく見ると雲ができ始めてて、海自体の
天気はそこまで。あと…もっと沖合の方だと波が高くなり始めたんだって」

曜「こうやって、海ってすごく大きくて果てしないかもだけど…ひとつひとつ見ていけば全部繋がってて、素直なんだ」

愛「へぇ〜!すごいじゃん!」

曜「なんてね。えへへ、ちょっと大袈裟だったかな」
 
14: (しまむら) 2023/03/24(金) 21:16:04.14 ID:E0zxVXub
愛「そういえばさ、おばーちゃんも、天気予報見てないのにパッと明日とか明後日の天気を当てられたんだよね」

曜「昔ながらの人は湿度とか風とかにも敏感だよね。そうやって天気の変化の予兆を見つけてたのかな」

璃奈「夕焼けが綺麗なら明日は晴れ、とか?」

曜「そうそう!」

愛「あ、それ愛さんも聞いたことあるよ」

璃奈「偏西風で雲は西から流れてくるから、日没側に雲がなければ明日は晴れる…っていう理論らしい。実際こういう伝承は科学的なアプローチでも筋が通ることが多いみたい」

愛「昔の人ってすごいんだね。科学技術もないからわからないはずなのに」

曜「大切なのは因果関係だからね。風が吹けば桶屋が儲かるじゃないけど、科学技術が無かった頃も…その時代特有の物理法則が存在したのかもしれないよね」
 
15: (しまむら) 2023/03/24(金) 21:19:25.08 ID:E0zxVXub
愛「そうだ!曜、愛さんたちにも海のこと何か教えてよ!」

曜「海のこと?」

愛「そうそう。天気予報でも何でも良いからさ。そしたら沼津のことも曜のことも詳しくなれるじゃん!」

璃奈「私も、もっと知りたい」

曜「えへへ、そっか〜。それじゃあ、どうしようかなぁ……」

曜「あ、そしたら……二人とも、波打ち際まで行ってみようよ」

愛「?良いけど、何かあるの?」

曜「あるといえばあるんだけど…とりあえずここでしゃがんでみて」

曜「そしたら…何か聴こえない?」
 
16: (しまむら) 2023/03/24(金) 21:24:02.07 ID:E0zxVXub
愛「う〜ん、波の音?」

璃奈「それと……なんだろう。ゴーっていう低い音がする」

愛「……あ、聴こえる!ちょっと小さいけど…これ、車とかじゃないよね?」

曜「ここまで沼津から離れれば交通量も減るからね。二人とも良く気付いたね!ヨーソローポイントをあげよう!」

愛「やった〜!曜、この重低音はなんなの?」

曜「うん。これはね、『海鳴り』っていうんだ」

璃奈「海鳴り…?」

曜「海の鳴き声って書いて海鳴り。文字通り…海が出してる声だね」
 
17: (しまむら) 2023/03/24(金) 21:29:00.06 ID:E0zxVXub
愛「波とは違うの?」

曜「波が出してる音には変わりないんだけど、これは遠くの海で波が崩れる時に出る音なんだ」

璃奈「ここまで聴こえるって、すごく大きいんだね…」

曜「水面とか、雲に反射して数キロは伝わるんだって。ただ今日は結構珍しいかな。音は小さいとはいえ雲もそんなにないし。海風が強いからかなぁ」

愛「へぇ〜。なんかおっきいスケールの話だね」

曜「これが聞こえるってことは少なからず雲があること。それで、波が崩れる位には風が不安定になってるってことだから…」

璃奈「天気が崩れちゃう?」

曜「そう!だから気をつけなきゃってことなんだ。視覚だけじゃなくて、音でも天気予報はできるんだよ」
 
18: (しまむら) 2023/03/24(金) 21:31:44.99 ID:E0zxVXub
愛「にしても、海鳴り…ウミナリ、かぁ。カミナリと似てるね」

曜「雷も『神鳴り』って言うからね。雷は空…つまりは天にいる神様のが鳴らしてるけど、海鳴りは海そのものが鳴らしてるんだ」

愛「うぅ…雷と似てるって考えると怖くなってきたかも」

璃奈「愛さん、雷苦手なんだよね」

愛「うん…子供の頃におへそを盗られちゃうって教えられてからなんか怖くてさ」
 
19: (しまむら) 2023/03/24(金) 21:38:38.08 ID:E0zxVXub
曜「おへそかぁ。確かお腹を冷やさないためとか、少しでも前屈みになるようにって意味だったかな」

愛「理屈では理解してても怖いものは怖いんだよ〜!」

曜「まぁでも気持はわかるなぁ。雷が落ちるってことは海が荒れてるってことだからね。私も雷雨の度に海にいるお父さんが心配になって、お母さんに何度も大丈夫か聞いてたもん」

愛「海鳴りも雷も、天気が崩れる印かぁ」

愛「……よし!」

愛(海鳴りさん、お願いします!明日までは晴れでいてください!)

曜「どしたの?」

愛「ん、ちょっとね」
 
20: (しまむら) 2023/03/24(金) 21:42:53.65 ID:E0zxVXub
愛(……目を閉じると、より音がはっきり聴こえる。波音に混ざって……耳の中に響くような、包み込むような…)

愛(お台場の海をこんなにしっかり聴いたことは無かったな。雑音も多いし…これが本当の海の音なのかな)

愛(海……身近にあったはずなのに、今すごい意識してる。冷静に考えれば、陸の何倍もある空間に手を触れられるんだ。空へは手を伸ばしても届かないけど、海へは少ししゃがむだけで……)

愛「……よしオッケー!さて、明日は愛さんたちも頑張るぞ〜!」

璃奈「少し練習しておく?」

愛「そうだね。なんならここでも良いかも。砂で動きにくいけど、逆に良い練習になりそう?」
 
21: (しまむら) 2023/03/24(金) 21:47:00.61 ID:E0zxVXub
曜「砂浜は体幹とか瞬発力を鍛えるのに向いてるんだよ。Aqoursでも砂浜ダッシュは良くやってるんだ」

愛「お台場にも砂浜はあるし、今度みんなでやってみよっか!」

璃奈「うん」

愛「よ〜し、じゃあちょっとだけ…端から端まで走ってみるよ!端だけに!」

璃奈「愛さん!……私もやる」

曜「元気だね~!じゃあ私も!全速前進、ヨーソロー!」

愛「あはは!りなりー!曜!こっちこっち!」

璃奈「愛さん、速い…!」

愛「りなりー!おいで〜!あはははっ!」

曜「明日の体力は残しといてよ〜!」
 
22: (しまむら) 2023/03/24(金) 21:51:35.61 ID:E0zxVXub
曜「はい、今日の晩御飯はヨキソバだよ~!」

璃奈「美味しそう。いただきます」

愛「いただきます!…おいし〜!」

璃奈「うん。曜さん、すごく美味しい」

曜「良かった〜。けどごめんね。泊まるの私の家になっちゃって。一応お客様だから千歌ちゃん家とかにしたがったんだけど…イベントの前後とかは千十万も忙しいらしくて」

愛「ううん。むしろ来てみたかったんだよね、曜の家」

璃奈「お友達の家でお泊り。楽しみ」

曜「なら良かった〜!じゃあ今夜は寝不足にならない程度にはしゃいじゃおっか!」
 
23: (しまむら) 2023/03/24(金) 21:55:27.26 ID:E0zxVXub
曜「――それでさ、千歌ちゃんったら衣装のまま正座させられて、梨子ちゃんのお説教一時間位続いてさ!」

愛「アハハ、なにそれ!」

璃奈「それで…千歌さんはどうなったの?」

曜「それがね、梨子ちゃんが終わったと思ったら、今度はダイヤさんが――」


ドォォォン…!


愛「わっ…」

璃奈「え…雷?」

曜「にしては鈍かったような…遠雷かなぁ。明日雨にならなきゃいいけど…」
 
24: (しまむら) 2023/03/24(金) 22:00:02.62 ID:E0zxVXub
璃奈「愛さん、大丈夫?」

愛「う、うん。小さかったし、光も無かったから」

……ォォォン…

璃奈「でもこれ、本当に雷なのかな…ちょっと違う気がする」

愛「あ、りなりーもそう思う?アタシもなんか、変な感じで…」

曜「ちょっと様子見てくるね」ガララッ

曜「わ、風強いな……」
 
25: (しまむら) 2023/03/24(金) 22:02:25.32 ID:E0zxVXub
曜「ふんふん。……あ〜、なるほど」

曜「愛ちゃん、これ海鳴りだ。遠雷じゃないよ」

愛「へ?海鳴りって、昼間話してた?」

曜「そうそう。あの時、海鳴りは雷と似てるって話してたでしょ?」

愛「うん」

曜「実際音も遠雷と似ててね。『ゴー』っていう地響きみたいな音じゃなくて、『ゴロゴロ』とか『ドーン』みたいな風に聞こえることもあるんだ」
 
26: (しまむら) 2023/03/24(金) 22:06:36.64 ID:E0zxVXub
曜「だから雷は鳴ってないよ。天気は…ちょっとわからないけど、今日のところはゆっくり寝られると思う。明日も雷雨にはならないんじゃないかな」

愛「そっか…良かった〜。愛さん、雷鳴る中でライブなんてできないよ〜」

璃奈「愛さん、結構おへそ出してる衣装も多い」

愛「そうそう!明日のは出てないんだけどさ、怖くなっちゃうよね。でも一安心だよ。ありがと〜曜」

曜「うん、スッキリしたところでいい時間だし、そろそろ寝よっか。二人が寝不足になったらみんなから怒られちゃう」

愛「そうだね。じゃあ曜、りなりー。おやすみ」

璃奈「おやすみなさい」

曜「おやすみ〜」
 
27: (しまむら) 2023/03/24(金) 22:09:42.10 ID:E0zxVXub
……ォォォォォ……

愛(音が聴こえる)

愛(そこまて大きいはずじゃないのに、振動として感じる)

愛(海鳴り……雷……音の現象を『鳴り』って言うの、結構多いよね。他にも地鳴り、釜鳴り、鞘鳴り……鳴りを潜める、とか)

愛(音は、昔の人にとっても大事な情報だったのかな。聴覚と振動で感じ取れるから、曜が言ってた海が生き物だっていうのもわかる気がする。音は声で、鼓動で……変化なんだ。変わるってことは生きてるってこと。生命活動の化身なんだ)

愛(鳴り…鳴り…あ、りなりー?りなりーといれば、海鳴りもへっちゃらだよね。あ、でも雷はもうたくさんだー、なんつって!)

愛(にしても、海鳴りの音……ずっと聴こえるけど……まぁいいか。ヒーリングミュージックみたいで気にはならないし。もう眠くなってきてるし……)

……ォォォ……
 
28: (しまむら) 2023/03/24(金) 22:17:27.53 ID:E0zxVXub
曜「おはヨーソロー!よく眠れた?」

璃奈「うん。璃奈ちゃんボード『パッチリ』」

愛「おはよ〜。愛さんも……ふぁあ」

曜「あれ?愛ちゃんはまだ眠い感じ?」

愛「う〜ん、アタシは毎日朝早いし、寝床変わった位で眠れなくなる質じゃないはずなんだけどな……」

曜「もう少し寝てる?ステージは午後だし、ゆっくりしてもいいけど」

愛「ううん……よし!」パチンッ

愛「顔洗ったら、ちょっと走って目を覚ましてみるよ!」

曜「相変わらず愛ちゃんは元気だね〜。千歌ちゃんもこの位朝しっかりできれば良いんだけど」
 
29: (しまむら) 2023/03/24(金) 22:20:58.13 ID:E0zxVXub
璃奈「そういえば、天気…曇っちゃったね」

曜「そうだね。結構風も吹いてるし……う〜ん、分厚くはないから雨は大丈夫そうなんだけど……」

愛「ちょっと怖いね〜。海鳴りもずっと聴こえるし」

曜「ん…?」

璃奈「…?曜さん、どうしたの?」

曜「いや、今愛ちゃん…」

愛「どしたの〜!りなりー!曜!置いてっちゃうよ〜!」

曜「ん…考えすぎかな。今いくよ〜!行こっか、璃奈ちゃん」

璃奈「う、うん」
 
30: (しまむら) 2023/03/24(金) 22:23:26.35 ID:E0zxVXub
璃奈「はぁ…はぁ…私、朝はやっぱり苦手…」

曜「ふぅ…ホント元気だね〜。果南ちゃんといい勝負できそう。璃奈ちゃんは大丈夫?」

璃奈「うん、なんとか。それより愛さんは…?」

曜「いた、あそこの堤防のとこ。……何見てるんだろ?」

璃奈「……海?」

曜「お〜い、愛ちゃ〜ん!」

愛「……」

璃奈「聴こえてない?」

曜「そんなことはないと思うんだけど…とりあえず行ってみよっか」
 
31: (しまむら) 2023/03/24(金) 22:25:34.87 ID:E0zxVXub
曜「愛ちゃん?どうしたの〜?」

愛「…………わっ、え、曜?どしたん?」

曜「結構呼びかけたよ?何見てたの?」

愛「あれ…?何見てたんだっけ…見てたというか……」

璃奈「体調悪い?」

愛「全然!ちょっとまだ眠気があるのかも。イベントの方に早めに行っとこっかな」

璃奈「そういえば、会場は早めに入っておいた方がいいかな?」

曜「一時間前に裏に集まってれば良いから、着換えとか振付の確認とかも含めて二時間弱あれば大丈夫かな。それまでは二人で自由に回ると良いよ。Aqoursも時間までは自由行動だし、誰かに会えるかもね」
 
32: (しまむら) 2023/03/24(金) 22:33:31.64 ID:E0zxVXub
愛「曜はどうするの?」

曜「私は一度実行部とAqoursに顔出すから、着いたら別行動かな。二人で楽しんでってね!」

愛「あっ、そっか。てか疑うみたいで悪いけど、昨日はずっと愛さんたちといたのにホントに大丈夫なの?」

曜「もちろん。手を抜く訳じゃないけど、私だってAqoursでずっとやってきたんだから、一日抜けたところで身体が覚えてるよ。それに直前に通し練習はするし」

愛「さっすが!じゃあ、愛さんたちはイベント回って、お昼も出店で食べても良いかな〜。りなりーはどう?」

璃奈「色々食べてみたい。愛さん、一緒に回ろう」

愛「オッケー!テンション上がってきた〜!」

曜「それじゃ、準備できたらお母さんが会場の方まで送ってくれるから、そこまでは一緒に行こっか」
 
33: (しまむら) 2023/03/24(金) 22:39:21.62 ID:E0zxVXub
愛「すっごーい!こんなに盛大にやってるんだ!」

璃奈「人も結構多い…他県からも来てるのかな」

愛「これだけ多いとはぐれちゃいそう…りなりー、手繋ごっか」

璃奈「うん。一緒がいい」ギュッ

愛「へへっ、それじゃあどこから行こっか。食べ物以外にも名産品とか、ステージでパフォーマンスもやってるらしいし…軽く食べながら見て回る?」

璃奈「わかった。私、あれ買いたい」

愛「綿あめかぁ、良いね〜。じゃあ愛さんは…ベビーカステラにしよっかな。二人でつまめるし」
 
34: (しまむら) 2023/03/24(金) 23:02:37.21 ID:E0zxVXub
愛「おじさん!綿あめとカステラちょーだい!」

「はいよ!二人はどっから来たの?」

愛「東京だよ。後でステージに出るんだ!」

「本当かい?お嬢ちゃんたち可愛いし、それしたらあれかな。ホラ、曜ちゃんたちがやってる…アイドルの…」

愛「そうそう、スクールアイドルね!おじさんも見に来てよ」

「おう!はいこれ、イベント盛り上げてくれるお礼でサービスだ」

愛「あはは、ありがと〜!」

愛「はい、りなりー。綿あめおっきいね〜!りなりーの顔隠れちゃうよ」
 
35: (しまむら) 2023/03/24(金) 23:17:24.64 ID:E0zxVXub
璃奈「ありがとう。あの店の人、曜さん知ってたんだね」

愛「ね〜、やっぱ有名なのかな」

璃奈「…にしても愛さん、すごい。初対面なのにあんなに話せるなんて」

愛「そう?お祭りだからかな。みんなテンション上がってるんだよ。アタシもね」

愛「おいし〜!お祭りといったらコレだよね。りなりーもいる?あーん」

璃奈「あー…おいしい。じゃあ私も。愛さん、食べて」

愛「ありがと!やっぱ友達とだと、シェアできるのが良いよね」

璃奈「うん。愛さんとだから…とっても楽しい」

愛「愛さんもだよ〜!りなりーと来れて良かったなぁ。他にも回ろっか」

璃奈「うん」
 
36: (しまむら) 2023/03/24(金) 23:31:06.21 ID:E0zxVXub
愛「ここがメインステージかな。今やってるのは…地元の踊りのチームだね。パンフに書いてある」

璃奈「『静岡の海を表現したダンス』…らしい。少しわかる気がする。踊りとか、音楽もところどころ波とか…魚?の表現が取り入れられてる」

愛「曲もスピーカー近いとはいえ迫力あるね。太鼓とか提灯とか大旗とか…色々あるけど、統一感もある…凄いなぁ」

愛「愛さんたちもダンスはするけど、伝統の振付はやっぱ圧巻だよね。掛け声とか歌詞もある身体表現だし、お客さんも手拍子足拍子でノリノリだね。案外、愛さんたちの先輩なのかも」

璃奈「スクールアイドルと、当地の踊り…確かに、自分の世界を表現するのは同じ」
 
37: (しまむら) 2023/03/24(金) 23:40:31.69 ID:E0zxVXub
愛(静岡の海、か。昨日見た風景を思い出すなぁ。あそこは静かだったけど、この曲と踊りは結構派手だし…曜が言ってたみたいに、水平線の先には荒々しい海もあるのかな)

――ォォォ……

愛「?りなりー、今愛さん呼んだ?」

璃奈「ううん。呼んでない」

愛「あれ、気のせいかな…」

「あれ?愛に璃奈?」

「わっ、ほんとだ。久しぶり〜」

璃奈「善子ちゃん。花丸ちゃん」
 
38: (しまむら) 2023/03/24(金) 23:42:39.00 ID:E0zxVXub
善子「ヨハネよ!二人が来ることは聞いてたけど、まさかこんなところで会うなんてね」

愛「メッチャ奇遇だね!あ、そしたらさっき愛さんのこと呼んだのって二人?」

善子「?さっき?…まぁとにかく、ステージ観に来てたのね」

璃奈「うん。とりあえず色々回ってみようかなって。二人も?」

花丸「地元の友達とか、じいちゃんの知り合いの人もいるからね。どうだった?」

愛「すごかった〜!迫力満点だよ」

璃奈「うん。それに、色々勉強になる」

善子「はぁ〜、アンタ真面目ねぇ。踊るだけでスクールアイドルとは別モノじゃない」

花丸「そんなこと言って、善子ちゃんも見たかったんでしょ?」

善子「違うわよ!アンタがフラフラして集合に遅刻したりしないように来てあげたの」

花丸「はいはい、ありがとね」

善子「少しは抵抗しなさいよ…」
 
39: (しまむら) 2023/03/24(金) 23:44:40.49 ID:E0zxVXub
愛「愛さんたちもAqoursも、あそこでやるんだよね?楽しみだな〜」

善子「今からそんなに興奮してると疲れるわよ。愛たちも出番もっと後じゃない」

愛「それでもだよ。愛さんたちの前も、色んな人がパフォーマンスしてるんだよね?」

璃奈「結構ジャンルごちゃまぜだ…伝統民謡、漫才、マジックショー、スクールアイドル…」

善子「クックック、カオスこそ我が至高…下界の人間たちに相応しい業ね」

花丸「運営の人が結構適当で、盛り上がれば何でも良いと思ってるずら。このイベントもごちゃごちゃしてナンボなところあるし」

愛「あ〜、だから変に穴を空けたくなかったんだね」
 
40: (しまむら) 2023/03/24(金) 23:49:19.20 ID:E0zxVXub
璃奈「Aqoursは最後なんだっけ」

花丸「うん。〆をやってくれって、なんだか贔屓されちゃった感じだけど」

愛「良いじゃん!アタシも絶対見るよ!ね、りなりー」

璃奈「うん。Aqoursのステージを間近で観れるのは貴重」

善子「リトルデーモンたちも、多少は慧眼を持てるようになったじゃない。このヨハネ様に終焉を飾ってくれなんて…」

花丸「求められてるのはあくまでAqoursずら。…まぁ善子ちゃんのヨハネ芸はみんな適応してるけど」

善子「ヨハネ芸って何よ!正当なる堕天使なんだから!」
 
41: (しまむら) 2023/03/24(金) 23:51:46.94 ID:E0zxVXub
ドン!ドドン!

璃奈「わっ!?」

愛「何何!?」

善子「…太鼓の音ね、びっくりさせないでよ…」

花丸「町内会の太鼓組合の人たちだね」

愛「わ、凄いね…バチ投げてるよ」

花丸「今投げてた人がおじいちゃんの知り合いなんだ。色々繋がりがあって…マルたちはもう少し観なきゃだけど、愛さんと璃奈ちゃんはこれからの予定は?」

愛「特に決まってないけど、まだ時間もあるし…一応ぐるっと会場は回っておこうかなって」

花丸「そっか、じゃあいっぱい楽しんでね。あと、イベントはマルたちも一枚噛んでるから、何かあった時は連絡してくれれば力になれると思うずら」

璃奈「ありがとう。それじゃまたね」
 
42: (しまむら) 2023/03/24(金) 23:55:57.19 ID:E0zxVXub
愛「…………」

璃奈「…?愛さん、どうかしたの?」

愛「え?あ、ううん。さっきの太鼓の音でびっくりしたからかな。ちょっと耳鳴りと…頭痛、みたいなのがあって…」

璃奈「ずっと騒がしいところにいたし、少し休もう」

愛「そ、そんな心配しなくても全然大丈夫だよ!」

璃奈「これから歌うんだし、大事を取った方が良い。どこか休めるところ……そうだ、花丸ちゃん」

花丸『もしもし璃奈ちゃん?どうしたの?』

璃奈「愛さんがちょっと疲れちゃったらしくて。どこか静かに休めるところないかな」

花丸『ええっ!?大丈夫?』

璃奈「そこまで辛そうじゃないけど、念のため」
 
43: (しまむら) 2023/03/24(金) 23:57:37.96 ID:E0zxVXub
花丸『そっか。あ、だったら本部の救護テントが良いよ。急患の人がいなければ使わせて貰えると思う。マルからも話しておくから、マルの名前を出してみて』

璃奈「良かった…ありがとう」

花丸『あんまり辛そうならステージも休んでいいからね。元々こっちが急に頼んだ訳だし』

璃奈「わかった。でももしそうなら、私が愛さんのぶんまで頑張る」

花丸『あはは、頼もしいずら。じゃあ話だけ軽く通しておくから、愛さんによろしくね』

璃奈「うん。本当に助かった」

璃奈「花丸ちゃんに聞いたら、救護テントがあるみたい。ひとまずそこに行こう」

愛「うん。…ごめんね、りなりー。こんな楽しいときに」

璃奈「ううん。それより愛さんが辛い方が嫌。とにかく今は休もう。ステージも、最悪私が代われるから」
 
44: (しまむら) 2023/03/25(土) 16:27:47.56 ID:LQIVKLcl
璃奈「はい、スポーツドリンク」

愛「ありがと〜。生き返るよ」

璃奈「救護ベッド、使わせてもらって良かった。大通りから離れてるからそこまでうるさくないし」

璃奈「愛さん、どこが辛いの?」

愛「う〜ん、実は朝からずっと耳鳴りがしてて、最初は気にならない位だったんだけど、だんだん大きくなってきて…今は少し頭も痛いかな」

璃奈「そう…耳鳴りと頭痛は脱水とか睡眠不足、血流悪化が原因なことがあるみたい。水を飲んで、大きく呼吸して血液を回すのが大事」

愛「すぅ〜、はぁ〜…そうだね、気持だけでも楽になるよ」

璃奈「とりあえず様子を見よう。ベッドに横になってゆっくり休んで」
 
45: (しまむら) 2023/03/25(土) 16:30:49.64 ID:LQIVKLcl
愛「あ、りなりーはどっか遊んでて良いよ?」

璃奈「ううん、ここにいる。愛さんを置いてけぼりにはできない」

愛「そんな…悪いよ」

璃奈「そんなことない。でもその代わり、ちゃんと元気になったらまた二人で遊ぼう」

愛「……わかった。じゃあ愛さん、しっかり休むよ。ね、りなりー。手握っててもいい?」

璃奈「もちろん」

愛「ありがと。りなりーの手、落ち着くなぁ」

璃奈「愛さんの手はあったかい」

愛「そう?体温高いのかな。熱とかは無ければ良いんだけど……ふぅ……」

璃奈「辛い?耳鳴り?」

愛「なんだろう、ずっと頭の中で音が響いてるみたいな感じが続いてて……」

愛(いつからだっけ…朝?いや、それよりも前……昨日寝たときから?寝不足になるほど夜更かしはしてないんだけどな)

愛(寝てる時からずっと低い音が鳴ってるように聴こえてて…あんまり深く眠れなかったんだ。それで朝もちょっとくらくらしてて…)

愛「ちょっとわかんないや…寝れば治るかな」

璃奈「それがいい。時間になったら起こす」
 
46: (しまむら) 2023/03/25(土) 16:34:20.96 ID:LQIVKLcl
愛「……」

璃奈「…愛さん?寝ちゃった?」

璃奈(愛さん、誘いが来てからは万全にできるようにってすごい練習頑張ってた。自分たちがニジガクの代表のつもりでいくって……愛さんらしいと思って止めなかったけど、無理してたのかな)

璃奈(にしてもぐっすり…それか寝不足だった?昨晩の…海鳴りが雷と似てたから、気になって眠れなかったのかも。確かに聞き慣れない音だった。曜さんたちは慣れっこなのかな)

璃奈(手、がっちり掴まれてる。放すと起きちゃうかも)

璃奈(……そういえば、愛さんの寝顔は珍しい。学校でものんびりすることは少ないし。なんだか、いつもお姉さんの愛さんが小さくなったみたいで…可愛い)ナデナデ

愛「ん…りなりー…」

璃奈「!……寝言だ、良かった…」

璃奈(ギリギリまでは寝かしておいてあげよう。快復したらライブもできるだろうけど、もし無理だったら…その時は私が助けてあげなきゃ)
 
47: (しまむら) 2023/03/25(土) 16:42:33.94 ID:LQIVKLcl
愛「んぅ…あれ…?ここどこ?」

愛「……真っ暗で、何も見えない…アタシさっきまではイベントで…おーい!りなりー!誰かー!」

愛「……誰もいない」

ピシャッ!

愛「キャッ!雷!?」

ドーン!ドーン!

愛「ちょ、勘弁してよ〜!りなりー!どこー!?」

ゴォォォォォォ……!

愛「目が慣れて、視界が……ここ…え、海?」

愛(すごく荒々しい…これが嵐の海?昨日の穏やかな水面とは全然違う)

愛(海から地響きみたいな音が…だんだん近付いてくる…!)

愛(怖い…!助けて、りなりー…!)




璃奈『…あ…さ……愛さん!』
 
48: (しまむら) 2023/03/25(土) 16:44:13.30 ID:LQIVKLcl
愛「!?」ガバッ

愛「……え?ここは…?」

璃奈「愛さん、大丈夫!?すごく魘されてた」

愛「……あ、そうだ。アタシ、救護テントで…」

璃奈「……ッ、愛さん。手が…」

愛「え?あっ、ゴメン!痛いよね!」

愛(すごい力でりなりーの手を握ってたみたい。それに汗も…)

璃奈「愛さん、そろそろ着替えなきゃだけど…体調は?あんなに魘されてたなら、止めておいたほうが…」

愛「う、ううん!大丈夫!寝たらなんか痛み無くなっちゃった!愛さん復活!」

璃奈「大丈夫なの…?」

愛「もちろん!心配は嬉しいけど、平気だから。一緒にステージ出ようよ。ね、りなりー」
 
49: (しまむら) 2023/03/25(土) 16:58:08.06 ID:LQIVKLcl
璃奈「……わかった。だけど、危なくなったらすぐに合図を出して。私がなんとかする」

愛「なんとかって?」

璃奈「それは……考えてなかった。けど多分大丈夫。一昨日かすみちゃんから視線を独り占めするコツを教わった」

愛「かすかすから?効きそうだねぇ」

璃奈「『かすみんが研究に研究を重ねて編み出した技だけど、特別にりな子にも教えてあげる。沼津でかすみんの…んんっ、もといニジガクのファンを増やしてきてね』だって」

愛「似てる〜!」

璃奈「その必〇技で私が注目されるから、その隙に愛さんは袖に降りて」

愛「あはは、もしものときはお願いね」
 
50: (しまむら) 2023/03/26(日) 01:52:46.85 ID:7BTUvXFn
愛「もうすぐだね、りなりー」

璃奈「うん。ドキドキしてきた。衣装、変なところない?」

愛「バッチリ可愛いよ!」

璃奈「えへへ…璃奈ちゃんボード『テレテレ』」

曜「愛ちゃん璃奈ちゃん!まだいる?」バタバタッ

璃奈「あっ、曜さん」

曜「良かった〜、出番もうすぐだよね。大丈夫だった?花丸ちゃんから聞いたけど…愛ちゃん調子悪いんだって?」

愛「あー、でもちょっと寝たら治ったから!心配しないでよ」
 
51: (しまむら) 2023/03/26(日) 01:55:00.23 ID:7BTUvXFn
曜「なら良いんだけど…無理しないでね」

愛「ダイジョブだって。せっかくのライブなんだから、楽しまなきゃだもん」

璃奈「任せて。曜さんたちにも負けないステージにする」

曜「…そっか!嬉しいなぁ、そんなこと言ってくれるなんて…誘ってよかったよ!」

「虹ヶ咲学園の方、出番です!」

愛「よし、じゃあ璃奈りなりー、いくよ!」

璃奈「うん」

愛「虹を咲かせに〜」

愛璃奈「「虹ヶ咲!」」
 
52: (しまむら) 2023/03/26(日) 01:56:38.57 ID:7BTUvXFn
「以上、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会のお二人でした〜!」

愛璃奈「「ありがとうございました!」」

璃奈「いつもと違う雰囲気…お祭りみたいで楽しかった」

愛「みんなノリノリだったね!」

曜「二人ともお疲れ様〜!最高だったよ!」

愛「ありがと〜!あ、ずら丸ちゃんと善子ちゃんも来てくれたんだ〜!」

花丸「うんうん、とっても素敵だったずら!他のみんなも見てたんだよ。押し掛けると邪魔になるから裏に来てるのはマルたちだけだけど」
 
53: (しまむら) 2023/03/26(日) 01:59:00.06 ID:7BTUvXFn
善子「中々良かったじゃない。曜も花丸もそわそわし過ぎて落ち着いて観れなかったけどね。まぁ大丈夫だったみたいだけど」

璃奈「そうだ…!愛さん、体調は?」

愛「え?あ…あの変な耳鳴りはライブ中は全然気にならなかったな。だから大丈夫だと思うけど…」

花丸「耳鳴り…?」

善子「大丈夫ならさっさと着替えた方が良いわよ。さっきから天気が怪しいし、空気も冷えてきたから」

曜「あ、そうだね。私たちは外出るよ。身体冷やさないようにね〜」

善子「ホラずら丸、私たちも行くわよ」

花丸「あ…うん、今いくよ」
 
54: (しまむら) 2023/03/26(日) 02:26:52.93 ID:7BTUvXFn
愛「さて、とりあえず着替えちゃおっか。でも興奮しっぱなしだな〜」

璃奈「私も、ドキドキしてる。スピーカーが近かったのと歓声で心臓がドンドン鳴ってた。今がすごく静かに感じる」

愛「そうだね〜。扇風機とかクーラーかな?駆動音は結構大きいはずなのに、ライブと比べちゃうと静かだよね」

璃奈「…え?」

愛「え?どしたの?」

璃奈「いや……外の雑音とかはまだしも、駆動音なんて私には聴こえてないから…愛さん耳良い?」

愛「へ?いやいや、結構大っきいじゃん。ゴーって」

璃奈「……いや、この近くにはそんな音を出す機械は置かれてない」

愛「……じゃあ、この音は?」
 
55: (しまむら) 2023/03/26(日) 02:28:25.17 ID:7BTUvXFn
……ゴォォォォ…!

愛「痛ッ…!」

璃奈「愛さん!?」

愛(何コレ、音が大きくなってる…)

璃奈「愛さん、大丈夫?」

愛「ヤバ、ちょっと辛いかも…」

璃奈「曜さんたち呼んでくる!座って待ってて!」

愛「ゴメン……はぁ、なんなの…?キッツ……」

愛(耳鳴りをもっと低くしたみたいな音。でも鼓膜に直接響く感じじゃなくて…本当に聴こえるみたい)

愛(せっかくライブ楽しかったのに…また水差しちゃったかな)

曜「愛ちゃん!」

愛「あ、曜…」

曜「ひとまず救護テントに行こう!看護師さんがいるし、落ち着かせないと……私がおぶってくから!」
 
56: (しまむら) 2023/03/26(日) 02:30:53.57 ID:7BTUvXFn
璃奈(その後、救護テントで愛さんを休ませた。氷枕や曜さんが急いで買ってきた鎮痛薬で頭痛は少し緩和されたらしく、呼吸は落ち着きを取り戻していた)

璃奈「体調はどう?」

愛「結構落ち着いてきたかな。ゴメンね、心配かけてばっかで」

璃奈(耳栓やイヤホンをするとその“音”が小さくなるみたいで、対処療法で様子を見ていることになった。“音”自体は数分で収まったのもあり、今日は休養を取って、また酷くなれば病院に行くことにしたらしい)

愛「曜にも謝らなきゃ。出番の前に面倒事になっちゃって…もう行ったよね?」

璃奈「うん。愛さんによろしくって」

愛「Aqoursのライブ、見れなくて申し訳ないなぁ。りなりーも見たかったでしょ?」

璃奈「ううん、平気。公式で撮影されたのがネットに上がるらしいから、後で一緒に見よう」

愛「そうしよ!Aqoursのパフォーマンスはマジスゴいからね〜、観れる機会もそうないし。曜のダンスも見たいんだよね」
 
57: (しまむら) 2023/03/26(日) 02:31:44.97 ID:7BTUvXFn
璃奈「愛さんは曜さん推し?」

愛「え〜!?そう言われると…うん、推しなのかな?」

愛「歌もダンスも上手いし、曜はAqoursの一体感を高めてるカンジがあるんだよね。衣装も担当してるらしいし、そういう雰囲気を理解してるのかも。ニジガクも仲の良さとかチームワークじゃ負けないけどさ、見習いたいな〜って思ってるんだ」

璃奈「…愛さんは器用だし、そういう悩みもないと思ってた」

愛「そんなことないよ。アタシは他の部活とかに良く助っ人で呼ばれたりするけど…そういう時は自分でガンガン動いてく質なんだよね。だからか、他のみんなと纏まった良さを出すってのは…実は苦手なのかも。そんな意味じゃ、DDは性に合ってるんだよね」

璃奈「私はいつも愛さんに助けてもらってるよ。愛さんがいるから、全力で歌える」

愛「嬉しいこと言ってくれるなぁ、このこの〜!」

璃奈「愛さんは私の推しだから」

愛「そっかそっか〜、愛さんもモチロンりなりー推しだよ!」
 
60: (しまむら) 2023/03/26(日) 23:40:20.51 ID:7BTUvXFn
曜「愛ちゃん!璃奈ちゃん!ただいま〜」 

璃奈「曜さん。お疲れ様」

愛「お疲れ〜。ゴメンね、ステージ見に行けなくて。それにバタバタさせちゃったよね」

曜「平気平気、ライブはカンペキだったし!」

曜「それで、この後なんだけどさ。予定じゃこのままお台場に帰ることになってたけど…そろそろイベントも終わりで私も帰れるし、ウチでもう一日泊まってって貰った方が良いと思うんだ。明日の予定とか無かったよね?」

愛「無いけど…いいの?」

曜「体調悪いのに帰れなんて言えないよ〜。電車でまた悪化しちゃったら大変だし、それにこれからもっと天気荒れそうなんだよね。だからさ、ウチでもう一晩休んでいってよ」

愛「ありがと…ホント助かるよ」

曜「よし、じゃあ早速行こっか!お母さんが迎えに来てくれるから、一緒に乗ってっちゃおう」
 
61: (しまむら) 2023/03/26(日) 23:41:42.93 ID:7BTUvXFn
璃奈「曜さん、本当にありがとう。私一人じゃどうして良いかわからなかったかもしれない」

曜「気にしないでよ!何度も言ってるけど、誘ったのはこっちだしさ。愛ちゃん、緊張とかもあったのかもね。熱はないし、お風呂にゆっくり浸かって休めばきっと良くなるよ」

曜「璃奈ちゃんも、愛ちゃんが出たら入っちゃってね。早い者勝ちだよ」

璃奈「わかった……」

曜「やっぱり、心配?」

璃奈「うん。それもそうだし……私自身が情けない」

曜「情けない?」

璃奈「一緒に着てたのが他のみんななら……もっと落ち着いて対処できたかもしれないし、愛さんのことをちゃんと見て、無理させなかったかもしれない」

璃奈「愛さんに気を遣わせてばっかりで…足手まといになってるんじゃ……」

曜「璃奈ちゃん…」
 
62: (しまむら) 2023/03/27(月) 00:01:05.91 ID:f3B3gO2E
曜「愛ちゃん、凄いよね。私もスクールアイドルとして技術とか体力は自信あるんだけど…勝てないなって部分も、結構感じるんだ」

璃奈「曜さんでも?」

曜「当たり前だよ。それに今日のステージもね。お客さんをまとめて楽しくさせる底抜けの明るさみたいなのは…正直羨ましいって思うよ」

璃奈「うん、愛さんは本当にすごい」

曜「あはは、璃奈ちゃんも嬉しそうだね」

璃奈「愛さんは、私にとって太陽みたいな人。私が褒められるのと同じくらい、愛さんが褒められるのは嬉しい」

曜「良いなぁ…」

璃奈「え?」

曜「いや…そんなに想ってくれてる子がいるって、どんな感じなんだろって思って」
 
63: (しまむら) 2023/03/27(月) 00:20:58.42 ID:f3B3gO2E
璃奈「曜さん、千歌さんとは信頼しあってると思うよ?」

曜「そうだね。私と千歌ちゃんは幼馴染だし、Aqoursの中でも一番信頼してる、と思う。…千歌ちゃんはどうなのか、断言はできないけど」

璃奈「……」

璃奈「千歌さんも、曜さんのことすごく頼りにしてるはず」

璃奈「へ?そうかな」

璃奈「それに愛さんも曜さん推し。こんなにモテモテな曜さんが頼りない訳ない」

曜「ええっ!?そうなの?」

璃奈「さっき言ってた。曜さんのパフォーマンスとか、ステージでの細かな気配りとかは凄い、羨ましいって」

曜「愛ちゃんにそんな風に思われてたなんて…考えもしなかったよ〜」

璃奈「愛さんと曜さんは似てると思う。なんでもできて格好良くて頼りになるのも。実は可愛いところがいっぱいあるのも」
 
64: (しまむら) 2023/03/27(月) 00:22:59.71 ID:f3B3gO2E
曜「それなら光栄な話だけど……そうだなぁ、よし!」

璃奈「?」

曜「じゃあ頼られる側として…璃奈ちゃんにもひとつアドバイスをあげよう!たくさん褒めてくれたお礼に」

璃奈「アドバイス?」

曜「私も小さい頃、何回か風邪引いたりしてさ。病は気からって言うけど、気持も病気からだから。一人でベッドにいると、すごく不安になるんだよね」

璃奈「……私も、一人なことが多かったから…風邪は嫌いだった」

曜「だよね。でも、そういう時に一番安心するのはやっぱりお母さんが側にいてくれることと……私は、千歌ちゃんがいてくれることだったんだ」
 
65: (しまむら) 2023/03/27(月) 00:24:27.14 ID:f3B3gO2E
璃奈「千歌さんが?」

曜「お母さんたちが伝染るからって止めるんだけど、絶対曜ちゃんの看病するー!って聞かなくて…学校のプリントを届けに来るって名目で上がり込んだら、もう絶対帰らなくてね。けどそれが嬉しかったなぁ」

璃奈「仲良いんだね」

曜「うん。ちょっと照れ臭いけどね。だから似てるんだよ。私と千歌ちゃんも、愛ちゃんと璃奈ちゃんも」

璃奈「私たちも?」

曜「愛ちゃんもさ、結構責任感強いでしょ?引き受けたからにはやり通さなきゃって。そんな中で変に体調崩しちゃって、凄く不安だったと思うんだ。でも愛ちゃんはやり切ってくれた。それができたのは、きっと璃奈ちゃんのお陰なんだよ」

璃奈「そう、かな」

曜「不安なときに手を握ってくれる人は…とってもありがたいんだよ。だから璃奈ちゃんは、たくさん愛ちゃんの力になってる。絶対にね」
 
66: (しまむら) 2023/03/27(月) 00:30:14.88 ID:f3B3gO2E
璃奈「曜さん…」

曜「なんてね!カッコつけちゃったかな、あはは」

愛「ナニナニ〜?何の話?愛さんも混ぜてよ〜!」

璃奈「愛さん」

愛「曜、お風呂ありがとね!で、りなりーと何話してたの?」

璃奈「えっと…」

曜「璃奈ちゃんの手握って寝てた愛ちゃんが可愛かったって話〜!」

愛「ちょ、マジ!?やめてよ〜恥ずかしいじゃん!」

曜「あはは、写真撮っておけば良かったな〜」

愛「も〜!からかわないでよ!」
 
67: (しまむら) 2023/03/27(月) 00:35:19.95 ID:f3B3gO2E
曜「じゃあ私は隣の部屋で寝てるから。看護師さんが言うには感染症とかじゃないらしいし、二人でゆっくり寝てね。ちょっとでも悪化したらすぐ言うように!」

愛璃奈「「はーい」」

曜「よろしい!それじゃおやすみヨーソロ〜」

愛「……なんか二人きりって新鮮だね」

璃奈「昨日は曜さんも入れて雑魚寝みたいにしてたから…ドキドキする」

愛「思えば二人での旅行って初めてかな。楽しかったね」

璃奈「うん。イベントも回ったし、沼津観光もできた。曜さんに感謝しないと」

愛「……あのさ、りなりー。明日、少し遊んでから帰ろっか。色々台無しにしちゃったし、そもそも愛さんの体調のせいだから長くはできないけど、お昼くらいまでは」
 
68: (しまむら) 2023/03/27(月) 00:38:30.72 ID:f3B3gO2E
璃奈「嬉しい。私、深海魚が展示してある水族館に行ってみたい」

愛「いいね!愛さんは……サメのハンバーガーってのがあるみたいだから、食べてみたいなぁ」

璃奈「サメの…?面白そう」

愛「だよね。あ、おかーさんたちと、おねーちゃんにもお土産も買ってこうっと」

璃奈「なら…沼津駅のお土産コーナー、一緒に回ろう。大抵はあるって曜さん言ってた」

愛「そしたら水族館行って、お昼食べて……うっ!?」

璃奈「愛さん!?」

愛「ダイジョブダイジョブ。ちょっと耳鳴りが……」

璃奈「?」

愛「あ……海だ……」

璃奈「え…?愛さん、何を言って…」
 
69: (しまむら) 2023/03/27(月) 00:41:42.13 ID:f3B3gO2E
愛「アタシ、海が見たい」

璃奈「で、でも明日は天気が悪いから…海も荒れてるかも」

愛「それじゃあ…行けないかなぁ」

璃奈「難しいと思う。曜さんに聞かないとわからないけど…でもどうして?」

愛「へ……なんでだろ。愛さんもよくわかんないや。なんか海に行きたいって気持が急に出てきて……」

璃奈「……?」

璃奈(愛さん、どうしたんだろ…なんか様子がヘン)

璃奈「とりあえず、明日になってから考えよう」

愛「……そだね。海……どうしよ……」

璃奈「愛さん?」

愛「……なんでもない。それより、明日はちょっと沼津で遊んで帰って…お台場帰ったら、またいつかお泊りでもしよっか!今度は愛さんの家に遊び来てよ」

璃奈「……うん。その次は私の家にも来てほしい」

愛「やったッ!楽しみ〜」

璃奈(海…?そんなに行きたかったの?)

ピシャッ!

愛「わひゃあ!?」

璃奈「雷…かな。愛さん、やっぱり苦手?」

ゴロゴロゴロッ…!

愛「キャッ!りなりーは怖くないの?おへそ盗られちゃうんだよ〜」

璃奈「雷は自然現象。科学的にも解明されてる。今のは結構近いね」

愛「そうだけどさぁ〜、そうじゃないっていうか…」
 
70: (しまむら) 2023/03/27(月) 00:43:42.65 ID:f3B3gO2E
愛「うぅ、りなりー…」

璃奈「…!」

璃奈「大丈夫。私が愛さんを守ってあげる」

愛「ありがとぉ…りなりーがいると安心するよ」

璃奈「私も。今日は愛さんも疲れてるし、早めに寝ちゃえば雷も大丈夫」

愛「そだね。ふわぁ……お風呂入ったら、どっと疲れが出てきちゃった。もう寝よっか」

璃奈「うん。……愛さん、手、握ってもいい?」

愛「良いけど…いきなりどーしたの?」

璃奈「えっと…安心したかった」

愛「ふふ、そっか。じゃあ、ぎゅーっと」

璃奈「温かい」

愛「愛さんもだよ。おやすみ、りなりー」

璃奈「おやすみ、愛さん」
 
71: (しまむら) 2023/03/27(月) 00:45:08.64 ID:f3B3gO2E
璃奈(手を握ったまま、愛さんはすぐに寝ちゃった)

璃奈(安心したい。その想いは本当だったけど…愛さんにはちょっとだけ誤魔化した)

璃奈(私が寂しくないように。愛さんが雷に怯えないように。でも、今はそれより…愛さんがどこかへ行ってしまわないようにしたかった)

璃奈(すっかり平気な顔だったけど…昼間の体調不良は少し異常だった。何か、嫌なことに繋がりそうな……そんな漠然とした不安があった)

璃奈(ううん…そんなことを考えていれば、余計不安になるだけ。私の考え過ぎだ)

ゴロゴロゴロ……

璃奈(雷、収まらないな。雨も酷い。本格的に嵐になりそう。まるでイベントが終わるのを待ってたみたいに激しくなって…いや、ネガティブな考えはやめよう。今はもう寝て、明日愛さんとお台場に帰るんだ)

璃奈(そうやって自分を納得させて…私は、気を抜いて眠ってしまった)
 
72: (しまむら) 2023/03/27(月) 00:51:36.59 ID:f3B3gO2E
璃奈「……?」パチ

璃奈(変な時間に目が覚めちゃった。慣れない寝床だからかな。愛さんはまだ…)

璃奈「……え?愛さん?」

璃奈(手を繋いで寝ていたはずの愛さんは……どこにもいなかった。掛け布団はめくれ、人が一人抜け出したままのような…)

璃奈「トイレかな……愛さん?」ガチャッ

璃奈「いない…廊下も真っ暗だ。リビングも……」

璃奈(その瞬間、最悪の考えが脳を過ぎってしまった)
 
73: (しまむら) 2023/03/27(月) 00:53:49.69 ID:f3B3gO2E
璃奈「曜さん、曜さん!」

曜「むにゃ…千歌ちゃん、みかん食べ過ぎだよぉ……んぁ?あれ、璃奈ちゃん?」

璃奈「曜さん、大変なの!」

曜「へ?なんかあった?」

璃奈「愛さんがどこにもいない」

曜「ええっ!?トイレとかじゃ…」

璃奈「違う。リビングにも、他の部屋にもいない」
 
74: (しまむら) 2023/03/27(月) 00:55:00.24 ID:f3B3gO2E
曜「まさか……外!?」

璃奈「えっ!こんな雨なのに?」

曜「でもウチにいないんじゃ…靴は?」

璃奈「えっと…ある。良かった、外には出てな――」

曜「ちょっと待って。玄関の……鍵が空いてる」

璃奈「嘘…!」

曜「寝る前おかーさんに言われて、絶対ちゃんと閉めた。そしたら、外に…?」

璃奈「…ッ、私、探してくる!」

曜「ああっ!一人じゃ危ないよ!私も、おかーさん起こしてくるから待ってて!」
 
75: (しまむら) 2023/03/27(月) 00:56:44.18 ID:f3B3gO2E
ビュオォォォォォ…!

璃奈「はぁ…はぁっ、すごい雨…!愛さん!どこ!?」

璃奈(どうしよ…愛さん、スマホも置いたままだし。沼津の地理は疎いし…)

プッブー!

曜「璃奈ちゃん!乗って!」

璃奈「曜さん!」

曜「暗いしこの雨だから一人じゃ無理だよ。お母さん、とりあえず走って!」

璃奈「曜さん…愛さんが……!」

曜「大丈夫、落ち着いて。愛ちゃんが靴もスマホもなしに一人で出てくなんて考えられないよ。何かがあったんだ。璃奈ちゃん、心当たりはない?」
 
76: (しまむら) 2023/03/27(月) 00:58:52.18 ID:f3B3gO2E
璃奈「愛さんが出てく理由なんて……」

曜「それか、昨晩に変わったところはなかった?様子がおかしいとか、何かを気にしてたとか…」

璃奈「様子……気にして…」

璃奈(昨晩の愛さん…ちょっと駄弁って、明日はちょっと遊んで帰ろうって決めて……それから……)

璃奈「……海だ」

曜「う、海?」

璃奈「愛さん、寝る直前に一瞬耳鳴りが激しくなって…その後に、唐突に海に行きたいって言ったの、その様子がなんか…不気味で……」

曜「漠然とした話だけど、他に手掛かりもないし……万一海に落ちでもしたら大変だよ……取り敢えず海から先に回っていこう!お母さん、お願い!」
 
77: (しまむら) 2023/03/27(月) 01:00:29.21 ID:f3B3gO2E
璃奈「愛さん……どこなの……?」

璃奈(いない……私の考え過ぎで、もっと陸にいるんじゃ……本当に見つかるの…?)

璃奈(駄目だ…弱気になるな私。自分を信じて。絶対見つかる!)

璃奈(お願い……神様…!)

曜「いたぁ!」

璃奈「!どこ!?」

曜「ホラあそこ!防波堤の上!パジャマに裸足だけど…愛ちゃんだ!」
 
78: (しまむら) 2023/03/27(月) 01:01:50.99 ID:f3B3gO2E
璃奈「愛さん!愛さん!」

愛「……」

璃奈「愛さん、どうしたの!?」

璃奈(返事がない…!棒立ちのまま、魂がないみたいな…)

璃奈「愛さんお願い!返事して!私、天王寺璃奈だよ!」

愛「り……な……」

璃奈「!愛さん!」
 
79: (しまむら) 2023/03/27(月) 01:04:04.33 ID:f3B3gO2E
愛「…………え?私、何して……りなりー!?なんでこんなびしょ濡れ!?」

璃奈「良かった……愛さん、今までのこと覚えてる?」

愛「え…?りなりーと一緒に寝て、それで……イタっ!」

曜「璃奈ちゃん!愛ちゃん大丈夫!?」

璃奈「うん、でも頭痛がすごいみたい……手伝って、曜さん。車まで支えて行く」

曜「任せて。すぐ帰って着替えなきゃ」

愛「アタシ…今…」

曜「話は後で良いから、しっかり捕まって!…ってわぁ、身体冷たっ!?おかーさーん!超特急!」
 
80: (しまむら) 2023/03/27(月) 01:06:38.29 ID:f3B3gO2E
璃奈(愛さんの身体は雨で冷え切って、氷みたいだった。急いでお風呂に入れた後、曜さんのパジャマに着換えると、まるで糸が切れたように眠ってしまった)

璃奈「曜さん、愛さんは…」

曜「璃奈ちゃん。璃奈ちゃんから見て、今の愛ちゃんはどう見える?」

璃奈「どうって……とにかく異常だと思う。まるで愛さんじゃないみたい」

曜「私も…そう思う。これは明らかに普通じゃない。だけど、理由がない訳じゃないと思うんだ」
 
81: (しまむら) 2023/03/27(月) 01:08:22.73 ID:f3B3gO2E
璃奈「……どういうこと?」

曜「これ見て。私、さっき花丸ちゃんにメッセージでざっと話を伝えてみたの。流石に寝てるかもって思ったけど、今返事が来て…」

花丸『もしかしたら原因がわかるかもしれない。でも今は雨が酷すぎて車が出せないの。朝になったらすぐ行くから、絶対に愛さんから目を離さないで。愛さんが寝てても駄目』

璃奈「これは…」

曜「花丸ちゃんが言うには、普通じゃないことにも…必ず原因があるんだって。そしてそこにはちゃんとした理があって……愛ちゃんは、そこに偶然引っかかっちゃった可能性がある、らしい」

璃奈「それって、その…愛さんは、超常的な…科学的じゃない何かのせいってこと?」

曜「私もわからない…けど、今は花丸ちゃんを信じるよ。少なくとも、私たちと同じくらい真剣に心配してくれてるからね」

璃奈「私もそうする。曜さん、一緒に起きててくれる?」

曜「もちろん。とにかく…絶対愛ちゃんを助けよう」
 
82: (しまむら) 2023/03/27(月) 01:12:51.97 ID:f3B3gO2E
璃奈(その後、愛さんは何回か目を覚ました……いや、覚ましたと言っていいのだろうか)

璃奈(なんの前触れもなく起き上がると、私たちを無視してどこかへ行こうとするのだ。それを無理矢理押し止めると、今度は操り人形の糸が千切れたみたいにベッドに倒れ込む。そんなことが繰り返された)

璃奈(正直、私の精神は衰弱しきっていた。頼りにしていた愛さんの豹変。ライブ終わりの疲労と眠気。何度か瞼を閉じかけたが、その度に曜さんに助けてもらった。曜さんは私たちより忙しかったはずなのに、一切辛そうな素振りを見せなかった)

璃奈(花丸ちゃんが知っているという、オカルティックな『何か』。その正体が朝になれば判明するかもしれない。それは期待と……得体の知れない不安となって私を抑えつけていた)
 
83: (しまむら) 2023/03/27(月) 01:16:44.77 ID:f3B3gO2E
明日(27)の夜に推理編で完結します。
 
87: (しまむら) 2023/03/27(月) 18:42:12.52 ID:f3B3gO2E
〜朝〜


璃奈「……雨、大分弱くなったね」

曜「うん。花丸ちゃんももうすぐ着くって」

愛「ん……」

璃奈「!愛さん、起きた?」

愛「んぅ…りなりー?」

璃奈「良かった。おはよう、愛さん」

愛「おはよ…あ、あのさ。アタシ、昨晩……」

曜「……その話は後にしよっか。花丸ちゃんがもうすぐ来るから、その時に改めて話そう。“それ”についてなにか知ってるみたいなんだ」

愛「ずら丸ちゃんが…?」

曜「だからそれまでは…いや、まずはご飯食べよっか!お腹が空いてるとなんでも不安になってきちゃうよ」

璃奈「私もお腹すいた」

愛「…そうだね、愛さんもお腹ペコペコだった!」
 
88: (しまむら) 2023/03/27(月) 18:50:25.62 ID:f3B3gO2E
愛「でもなんか悪いなぁ、2日も朝ごちそうになっちゃって……それにこんなにおっきい干物も」

曜「気にしないで。みんなで食べればより美味しいし!それに、昨日手伝ったら地元の人から色々貰いすぎちゃってさ。まだあるんだ」

璃奈「すごくおいしい。毎日食べたい」

愛「だよね〜。お土産にしてもいいなぁ」

曜「サバだから好き嫌いあるかもって思ったけど、大丈夫そうで良かった。にしても愛ちゃん、食べ方綺麗だね」

愛「へへ、子供の頃から教わったからね。キレーに食べなさいって」

曜「言われた言われた!ウチも焼き魚ばっかり出るからさ」

愛「港町に住んでるとやっぱ魚派?」

曜「普通にハンバーグが一番好き」

愛「あははは!なにそれ〜」
 
89: (しまむら) 2023/03/27(月) 18:53:44.14 ID:f3B3gO2E
ピンポーン

曜「あ、花丸ちゃんかな。はーい!」

花丸「おはよ〜。お邪魔するね」

善子「あら、愛。思ったより元気そうじゃない」

璃奈「善子ちゃんも?」

善子「何よ、悪い?」

花丸「昨日ずっと愛さんの心配してたもんね?マルが朝、愛さんのところに行くって行ったら私も〜って」

善子「堕天使の眷属が悪魔の呪いにかかってるんだから、情けないったらありゃしないわ。正しい堕天に導くためにこのヨハネが!わざわざ来てあげたのよ」

愛「ありがと〜善子!愛さんチョー嬉しいよ!」

善子「ヨ、ハ、ネ!ちょ、愛、抱き着かないで!それにアンタまだ食事中でしょうが!さっさと食べて本題に行くわよ!」
 
90: (しまむら) 2023/03/27(月) 19:09:59.67 ID:f3B3gO2E
曜「おまたせ〜」

善子「遅いわよ。…っていうか曜、アンタお腹いっぱいで緊張感無くなってるじゃない。こちとら愛が入水しかけたって聞いてるのに」

愛「入水て…まぁそうなのかなぁ…愛さんも良くわかってなくて」

善子「はぁ〜…全員ふわふわし過ぎよ」

花丸「まぁまぁ、皆昨日から疲れてるから。それに、こういう空気は案外良かったりするんだよ。未知のことを知るのに、変な緊張とか恐怖が無くてリラックスしてる状態はね」

璃奈「未知…花丸ちゃんは原因を知ってるの?」

花丸「知らないよ?」

曜「ええっ!?てっきりわかってるから来てくれたんだと…」

善子「どういうことよ。私もアンタがスパッと解決すると思ってたのに」

花丸「知らないけど、マルなら曜さんたちとは違う視点からアプローチできるからね。善子ちゃんも“そっち”の知識はあるし……だから、これからみんなで謎を『推理』していくずら」

善子「なるほどね。つまりは探偵ヨハネの出番!私の知性が…今、覚醒するわ…!」

花丸「はいはい。でもまぁ善子ちゃんは頭も切れるし、マルにも無い知識があるだろうから…心配しなくても、あながち案山子にはならないと思うよ」

善子「心配なんかしてないっての!それに今の私は鹿撃ちよ、案山子じゃないわ」

花丸「……善子ちゃんが本当に頭が良いのかお馬鹿さんなのか、たまにわからなくなるずら」
 
91: (しまむら) 2023/03/27(月) 19:12:39.79 ID:f3B3gO2E
花丸「まず…愛ちゃん、包み隠さず教えてね。今も『耳鳴り』はしてるんだよね?」

璃奈「え…」

愛「…うん。昨日からずっと…寝てるときもする位で」

璃奈「そんな…なんで」

愛「ゴメン。心配かけたくなくて…」

璃奈「……私のためを思ってくれたことだから、私は怒れない。でも今からは隠し事は無し」

愛「わかったよ、りなりー」

璃奈「それに、お台場に帰ってからみんなに怒ってもらうことにする。きっとその方が効果的」

愛「ええっ!勘弁してよ〜、カナちゃんとか歩夢とか怒らせたらマジで罪悪感湧くんだって」
 
92: (しまむら) 2023/03/27(月) 19:19:42.74 ID:f3B3gO2E
善子「早速脱線してるわよ……それで、その耳鳴りが諸悪の根源ってわけ?」

花丸「原因ではないけど、根幹にあるのは間違いないと思う」

曜「耳鳴りってキーンってやつだっけ?」

愛「う〜ん、それよりはもっと低い音で…ゴーってカンジかな」

善子「けど、耳鳴りがずっとするだけでも結構ストレスあるわよね。実際頭痛で倒れかけてたし。寝る時もしてるなんて考えたくないわ」

愛「寝る時もしてるっていうか…耳鳴りが聴こえる夢を見ちゃうんだよね」

璃奈「夢…もしかして昨晩も?」

愛「うん。真っ暗なところに突っ立ってるんだけど…地響きみたいな音がどんどん大きくなっていくの。昨晩はりなりーに起こされて、気付いたらあの土砂降りの中でしょ?自分でもわけわかんなくなっちゃって…」
 
93: (しまむら) 2023/03/27(月) 19:22:46.58 ID:f3B3gO2E
花丸(夢に具体性があるってことは、特定のヴィジョンがある…?)

花丸「愛さん、夢の内容をもっと詳しく思い出せない?」

愛「覚えてるけど…なんか昨日からおんなじ光景なんだよね。アタシは凄く荒れた海にいて、耳鳴りが聴こえるんだけどアタシはそのまま海を眺めてるだけ」

璃奈「海…」

愛「あと勘違いかもなんだけど…夢の中だと、耳鳴りっていうよりかは実際に音が響いてるカンジがしたんだよね。海から聴こえるっていうか……あ!曜が一昨日話してたアレにそっくりだった!」

曜「一昨日…?あ、もしかして“海鳴り”のこと?」

愛「そうそれ!」

花丸「海鳴りが聴こえる夢……他には何かない?海がどんなだったとか、他に音が聴こえたかとか」

愛「う〜ん、海はまんま嵐ってカンジで……音もその海鳴りだけだったなぁ」

曜「ん?待って。嵐に海鳴りって…おかしくない?」
 
94: (しまむら) 2023/03/27(月) 19:32:56.65 ID:f3B3gO2E
璃奈「どうしたの?海鳴りは天気が荒れてる印じゃないの?」

曜「いや、海鳴りは沿岸部が荒れてると逆に聴こえないんだよ。本来音が雲と海面に反射して伝わるものだから……波が荒れてると音が乱反射するし、波の音にかき消されちゃう。だから沖の方だけが荒れてる時限定の現象なの」

璃奈「確かに…一昨日も見えてる範囲は穏やかだった」

善子「ってことは夢の世界は現実の景色じゃなくて、本当に非現実空間と見たほうが良いのかしら」

曜「まぁこのことは一昨日言ってなかったし、夢だから現実的じゃないのも当然かもだけど」

花丸「……いや、愛さんの夢が“見せられた”ものなら、その光景には意味があるはず。嵐の海と海鳴り…その両方が必要だったんだ」

曜「んん…?」

善子「イマイチピンと来ないわね…」
 
95: (しまむら) 2023/03/27(月) 19:35:06.41 ID:f3B3gO2E
花丸「愛さん、夢の中でこれは普通じゃない!って感じたことはある?」

愛「それなら…周りは真っ暗なのに海はやたらはっきり見えたとか……あ!それと、海鳴りをずーっと聴いてるうちに、だんだん名前を呼ばれてるみたいに聴こえてきたんだよね」

花丸「名前を、呼ばれる…?」

善子「ブキミな話ね。名前を直接呼ばれるなんて、ホラーじゃロクなことにならないわ。怪異奇譚の常套よ」

花丸(海の正体は、怪異?でもそんな伝承があるなら、マルは一回くらい聞いたことあるはずだし……)

花丸(いや、もしかして…逆?怪異が愛さんに干渉したんじゃなくて……愛さんから怪異に関わってしまった…?)

花丸「愛ちゃん。一昨日…海に向かって何かした覚えは?」
 
96: (しまむら) 2023/03/27(月) 19:51:41.60 ID:f3B3gO2E
愛「何かって?」

花丸「何でも。何か投げ捨てたり、叫んだり…」

愛「いやぁ…投げ捨て…はしないし、叫ぶ…のも、浜辺で追いかけっこしてる中でりなりーとか曜を呼んだりはしたけど……後はお天気を祈った位かな。明日までいい天気が続きますようにって」

花丸「!それだ…それだよ!愛さん!」

愛「へ?」

璃奈「花丸ちゃん、どういうこと?」

花丸「原因は……いや、駄目。それより、この一連の現象に“呼び名”をつけるのが先ずら」

善子「ちょ、待ちなさいよ。そんなことしていいの?」

璃奈「?名前は付けちゃ駄目なの?」

花丸「そうだね…本来、名前はすごく大切な要素なんだ。名前こそがあらゆる概念の意味を産むからね。それを与えることは、本当かどうかもあやふやだった現象の存在を保証することにも繋がるんだ」
 
97: (しまむら) 2023/03/27(月) 20:01:01.12 ID:f3B3gO2E
善子「中国文化圏の“諱(いみな)”とか、アイヌ民族が悪霊から守るために子供に汚い意味の仮の名前をつけたりとか、世界中に名前を重要視する文化があるわ。悪魔召喚だって、悪魔の真の名を当てないと失敗して、逆に支配されちゃうのよ」

花丸「名を与えるのは生を与えることだし、名を奪うのは存在を奪うこと。言葉は力を持つからね。『言霊』とか……あとは『贅沢な名だね』ってのがわかりやすい例かな」

愛「あ〜、それならわかる!」

璃奈「じゃあ、この現象にも名前をつけたら駄目なんじゃ…」
 
98: (しまむら) 2023/03/27(月) 20:01:41.39 ID:f3B3gO2E
花丸「だからこそ、だよ。マルたちはそれを正確に観測するために、あえて名前をつけるの。これが広まらなければ更に力を持つことはないからね。怖いのは……曖昧な概念のまま、マルたちの恐怖心を糧にして、連想ゲームみたいに意味が膨張することだから」

花丸「愛さんを脅かした現象は……そうだね、愛さんが“呼んだ名前”の語感に似せよう」

花丸「それは……沖合で波が崩れた時に発生する音。現代科学によって解明されてる自然現象と同じ名前を引用するずら」

花丸「だから――今からそれを『海鳴り』と命名するよ」
 
99: (しまむら) 2023/03/27(月) 20:29:51.63 ID:f3B3gO2E
愛「『海鳴り』…アタシはただの耳鳴りじゃなく、それがずっと聴こえてたってこと?」

曜「ちょっと待って!一昨日とか夜ならまだしも……会場みたいな内陸部で、しかもあんな騒がしい時に聴こえるはずないよ」

善子「違うわ。ずら丸は“名前を付ける”と言った
の。つまり、既にある概念…自然現象としての海鳴りと、今回の『海鳴り』は名前が同じなだけで別モノなのよね?今は…怪奇現象にあえて自然現象と同じ名前をつけた」

花丸「うん。その認識で合ってるよ」

曜「なるほど……あ、そういえば花丸ちゃん、さっき愛ちゃんが呼んだ名前の語感に似せてって言わなかった?あれってどういうこと?」

花丸「簡単ずら。愛さんは海辺で璃奈ちゃんの名前を叫んだって言ったでしょ。愛さんの呼び方は『りなりー』だよ」

曜「へ?」
璃奈「え?」

花丸「この現象の名前は『海鳴り』。『海鳴り』と『りなりー』は語感が似てるずら」
 
100: (しまむら) 2023/03/27(月) 20:37:21.05 ID:f3B3gO2E
善子「はぁ?駄洒落ってこと?いくら愛が駄洒落好きとはいえ笑えないわよ」

花丸「違う違う、名前を『海鳴り』にすることは…一昨日に愛さんが祈ったのが他の“何か”じゃなくて『海鳴り』だった、って確定させる効果があるの」

花丸「叫んだのも『海鳴り、海鳴り〜』って呼んだことにするんだ。反対に、愛さんの中で海鳴りと璃奈ちゃんを似せることで天秤にかけることもできるし」

愛「天秤に?そんなのりなりー一択じゃん」

花丸「だからだよ。海鳴りより璃奈ちゃんの方に、愛さんの気持が向いてるっていう暗示に繋がるの」

花丸「それに駄洒落は重要なんだよ?日本語文化の信仰の殆どは発音や文字の“揺れ”に由来を持つからね。『雷』と『神鳴り』みたいに」

善子「なるほどね……まぁ納得したわ」
 
101: (しまむら) 2023/03/27(月) 20:41:54.56 ID:f3B3gO2E
花丸「善子ちゃん、やっぱり頭の回転が早いね。じゃあ愛さんたちに説明するために……『海鳴り』の正体より先に、愛さんの身に何が起きてるのかを明らかにしていくね」

花丸「愛さんは…ずっと海に呼ばれてたんだよ。海に因んだ怪異か、神様か、海そのものかはわからないけど……だから海からの呼び声が耳鳴りとなって…いや、違うね。『音』となってずっと聴こえてたし、夢にも出てきた」

璃奈「愛さんが耳を塞ぐと楽になるって言ってたのは…」

花丸「本当に聴こえづらくなってたからだね。後、ライブ中とかに気にならなくなったのは…音楽で掻き消されてたから」

愛「じ、じゃあアタシが名前を呼ばれた気がしたのも…」

花丸「本当に呼んでたんだと思う。だから『呼び声』としての海鳴りはずっと聴こえてたし、海鳴りの原因が波の崩壊…つまりは荒れた海とするなら、夢の矛盾も説明がつく」

曜「矛盾って、海が荒れてたのに海鳴りが聴こえたこと?」
 
102: (しまむら) 2023/03/27(月) 20:44:04.79 ID:f3B3gO2E
花丸「うん。荒れた海自体が大元なら……海自身が愛さんを迎えに来てたんだ」

愛「アタシを……」

花丸「そして、夢で呼び声に反応しちゃった結果…愛さんは意識のないまま嵐の中に飛び出して、文字通り『海に』行こうとした」

愛「…!」ゾクッ

璃奈「そんな、じゃあもう少し発見が遅かったら、愛さんは…」

花丸「……見つからなかった、かも」

善子「ずら丸っ」

花丸「ご、ごめん。無神経だった…今のは、本当に」

愛「良いよ。実際はりなりーに助けられて、今ここにいるもん」ギュッ

璃奈「愛さん…」
 
104: (しまむら) 2023/03/27(月) 21:28:26.63 ID:f3B3gO2E
善子「もしもの話なんて興味ないわ。大事なのはなんで愛が狙われたかと、これからどうすればいいのか。そうでしょ?」

花丸「そうだね。まず狙われた原因だけど…これは多分、大きく分けて2つあるずら。発端となった出来事と、それを助長した要素」

曜「発端って…海に祈ったこと?」

花丸「恐らくは、ね。祈るっていう行為は相手にそれを叶える力を与える行為でもあるの。神様は良く祈りの対象になってるけど、それは叶えてくれるから信仰されてるのと同時に、信仰されたからこそ叶える力を持つことができてるんだ」

璃奈「でも、海なんて漠然としたものにもそれが通じるの?」
 
105: (しまむら) 2023/03/27(月) 21:32:00.17 ID:f3B3gO2E
璃奈「でも、海なんて漠然としたものにもそれが通じるの?」

曜「通じる…と思う。一昨日言ったよね。雷と海鳴りは似てるって。広大な天から降ってくる光と音に畏怖して、昔の人は『神鳴り』って呼んだんだ。向こう岸もない、底もない、陸よりも大っきな空間に人間が恐れを持たない訳ないよ。その恐怖はきっと、人が神様へ向けるものと同等以上なはず」

花丸「海は進化論においてあらゆる生命の根源だし、『海』は『産み』にも掛かってるからね。何か……人ならざるものも産まれやすいんだ」

花丸「それに……愛さん、雷が怖いんだよね。昨晩の雷に対する恐怖も混同しちゃった可能性もあるずら」

善子「あ〜、確かに。神様ってのは要するに未知と畏怖そのものなのよ。海外の神話でも、大地の下にある海への恐怖が海神への信仰となってが崇められてるわ。それは地震や津波みたいな当時は理解不能だった現象を、昔の人なりに理屈で説明しようとしたからなの」

璃奈「昔の人の理屈…」
 
106: (しまむら) 2023/03/27(月) 21:37:51.61 ID:f3B3gO2E
善子「ギリシア神話とか……例えば雷も、空…宇宙を駆け抜ける光は神様の力に違いない!ってね。日の出だって、あんな火の塊が地面から出てくるなんて訳わかんない現象を、ヘーリオス神の馬車ってことで納得したの」

善子「日本神話も自然崇拝の代表よ。アマテラスとかワタツミとか、風神雷神に……後は菅原道真なんかもそうかしら。挙げたらキリがないわね」

善子「今でもお年寄りとかは、雷が落ちたら『クワバラ、クワバラ』って言うでしょ?あれは雷神になった菅原道真が自分の領地の桑原には雷を落とさなかったから、『ここはあなたの領地ですよ』って誤魔化してんの」

善子「実際雷なんてそうそう近くには落ちないから、効果があるといえばあるのよね。私たちが教科書で雷の原理を理解した気になって、雷の時に木や電柱を避けるのと何が違うか、自信を以って説明できる?」

愛「そう言われると…難しいかも」
 
107: (しまむら) 2023/03/27(月) 21:38:52.02 ID:f3B3gO2E
花丸「ちょっと話がズレちゃったけど、大切なのは証明と信仰。存在を見せることと信じること。愛さんは一昨日海鳴りの存在を知って、神様と同様に海の存在を崇めちゃった。それがパラドクス的に『海鳴り』っていう超常現象…新しい“神様”って言ってもいいかな。それを産んだんだと思う」

愛「でもさ、やっぱなんか簡単過ぎない?それだったらコイントスとか、くずかごに投げた空き缶とかも神様になっちゃうよ。それがこんな、私の命まで危険なことになるなんて…」

花丸「もちろんその信仰がどれだけ本気なのかっていうのも重要だから、適当に考えるだけじゃこうはならないよ。更に、ここで2つ目の『助長させた要素』が大事になるの。単刀直入に言うと…昨日のお祭りがより神様に力を与えたんだ」

愛「お祭り…?」

花丸「『祭り』は『祀り』。神様に奉納する行事が元なんだ。沼津は年配の方は結構信仰深い人も多いし、マルたちみたいな若者でも無意識にそういう信仰の雰囲気に混ざることになる。“ハレ”の気が溜まるって言うのが良いかな」
 
108: (しまむら) 2023/03/27(月) 21:42:15.14 ID:f3B3gO2E
花丸「それに、伝統的に意味のある文化も多いんだ。例えばお面は神様を宿す…憑依させる意味があるの。能楽だとお面を着けるのを“かける”って言うんだけど、正にその通りなんだ。単純なお面だけじゃなくて、特別な衣装とかも日常に非なる要素を持つだろうし」

花丸「他にも、単純に町内会の人たちは民謡とか舞踊を披露してたし……あ、そういえば愛さんもだよね」

愛「え、アタシ!?スクールアイドルだよ?」

花丸「お祭りで踊る、ってことが大事なの。信仰で大事なのは気持と形。愛さんはお祭りを盛り上げようとステージの上で踊った。それは神様にとって、自分のために奉納された神楽舞と大して変わらないの。ステージの後に耳鳴りが“音”として聴こえるようになったってことからも、原因はステージにあると考えておかしくないし」

愛「えぇ…神サマ大雑把じゃない?」

花丸「そもそも人間とは理が違うんだから、話が通じると思う方がおかしいんだけどね。神事は直接神様に話が通じるんじゃなくて、一連の様を見てくれてるから成立するって言われてるんだよ」

善子「ずら丸、寺の娘じゃなかったっけ?神道にも詳しいのね」

花丸「じいちゃんの知り合いにお坊さんとか宮司さんが多いからね。それに神仏習合で分け御霊を置いてるお寺もあるし。ウチはそこまで神道を信仰してる訳じゃないけど」

善子「そういやアンタ、思想は結構仏教色だったわね…」
 
109: (しまむら) 2023/03/27(月) 21:44:34.05 ID:f3B3gO2E
曜「なんか難しい話になってきたよ…まとめると、愛ちゃんが海にお祈りした上にお祭りで踊っちゃったから神様に狙われちゃったってこと?」

花丸「そう考えると一番話の筋が通るかな。狙われた、というよりかは気に入られた、の方が正確だと思うけど…マルたちにとって違いはないよね」

曜「ってか、それってさぁ……私のせいじゃん」

愛「え、なんで?」

曜「だって、私が愛ちゃんたちをイベントに誘ったし、海鳴りの蘊蓄だって調子乗ってひけらかしたのが悪いし……自己嫌悪だよ」

愛「そんな、アタシたちからお願いしたんじゃん!それにこんなことになるなんて想像できっこないし、色々助けてくれたじゃん。曜がいなきゃアタシ死んじゃうとこだったんだよ?ね、りなりー?」

璃奈「うん。曜さんはずっと愛さんと私を助けてくれた。本当に、感謝してもしきれない」
 
110: (しまむら) 2023/03/27(月) 21:46:31.85 ID:f3B3gO2E
善子「全く…解決すれば何も問題ないでしょ?くよくよしてる暇なんてないわ。ずら丸、概要はわかったからさっさと解決方法教えなさいよ」

花丸「善子ちゃんはせっかちずら。これまでを踏まえるのが大切なんだよ?……こほん。それで対処法なんだけど…その前に一つ、今の愛さんと似た話があるずら」

曜「似た話?」

花丸「昔…港町にある女の人が住んでたの。漁師の奥さんだったんだけど…ある年の冬、唐突に『蝉の声がする』って言い出したの」

愛「冬に、蝉?おかしくない?」

花丸「最初は勘違いだと思ってたらしいんだけど…だんだん蝉の声が大きくなっていくように感じて……周りに訴え出したの。『家に蝉がいる』『耳元に蝉が巣を作ってる、助けて』って」

曜「その人、その後は…?」

花丸「自ら海に身を投げて……その話は終わり」

曜「ひぃっ…!」
 
111: (しまむら) 2023/03/27(月) 21:49:55.09 ID:f3B3gO2E
璃奈「でもその話…愛さんと似てる」

善子「確かにそうね。ってことは、その人も海の祟りで…?」

花丸「当時の人もそう思ったみたい。けど、マルたちも同じ考えを持つ必要はないんだよ」

善子「?どういうことよ、同じ祟りって話じゃないの?」

花丸「マルたちがいるのは令和だよ?科学技術は進歩して、大抵のものは神様を通して説明する必要はないの。だからこの話も…令和の考えができる」

璃奈「あっ、じゃあもしかしてこれは…『海鳴り』じゃなくて、ただの耳鳴り?」

花丸「その通り!璃奈ちゃんは鋭いね。耳鳴りには色んな症状があって、愛さんの海鳴りみたいな音の他にも、ジーッていう蝉の声みたいな音の場合もあるらしいんだ。そう考えると、新しい解釈が浮かぶでしょ?」

愛「女の人は病気だった!」
 
112: (しまむら) 2023/03/27(月) 21:53:26.30 ID:f3B3gO2E
花丸「冬だからね。昔は食糧を得るのも大変だろうし、栄養失調か…もしくは体温の低下とか、女性ホルモンのバランスが崩れちゃったとか。もしかしたら、最後の方は幻聴だったのかもね。でもそういうことはわからないし、どうしようもなかったから…当人は『蝉の声』だと思うしかなかった」

善子「身を投げたのって…」

花丸「耳鳴りに耐えられなかったか、空腹で死を悟ったか…もしくは漁村による狂人の口減らしか。なんてね」

曜「怖いこと言わないでよ…あ、でもそしたら逆に、今の愛ちゃんの話に繋がらないよ?いくら辛いからって海には行かないでしょ」
 
113: (しまむら) 2023/03/27(月) 21:56:05.93 ID:f3B3gO2E
花丸「でも改めて考えてみて。愛さんも、全部科学と医学で説明できるとしたら?」

璃奈「体調不良…愛さんは練習を頑張りすぎて、疲労で身体を壊しちゃって…耳鳴りと頭痛があった」

愛「低気圧そのものの影響もあるかも。おばーちゃんとか、雨降ると関節とか頭が痛くなったりしてたから」

曜「あっ、それか…スピーカーの音量が大きくて耳を痛めたとか?ホラ、ライブ中とかは大丈夫だったけど、その後に辛くなっちゃったじゃん?あれも鼓膜がおかしくなっちゃってたとか」

善子「でもやっぱりこじつけよ。夢の説明がないじゃない」

璃奈「そっか…あの海の夢を説明しないと…」
 
114: (しまむら) 2023/03/27(月) 22:00:29.85 ID:f3B3gO2E
曜「……あっ!ねぇ、皆は海水浴した夜とかさ、良く眠れなかったりしない?寝ようとすると身体が波に揺れたみたいに傾いた感覚があってビクッてしたりして!」

愛「あるある!」

花丸「マルもあるずら」

善子「ああいうときに限って疲れ果ててるから、何度も寝て起きてを繰り返しちゃうのよね」

璃奈「私は海水浴したことないけど…同好会の合宿でプールに入った夜は似たようなことがあった」

曜「あれは三半規管が波の揺れでおかしくなってるかららしくて…『陸酔い』とか『下船病』っていう、船から降りた後も揺れてる感覚になる症状と原因は同じなんだ。愛ちゃんも同じようなものなんじゃないかな?」

愛「ってことは…耳鳴りがずっと響いてたから、耳がおかしくなって夢でも同じ音が聴こえてたってこと?」

曜「そうそう。似た音なら脳が名前と間違えることもあるかもだし。何だっけ、点が3つあると顔に見える、みたいな…」

善子「シュミラクラ現象ね」

曜「あ、そういう名前があるんだ」

善子「知らないなら思い出そうとしないでよ…」
 
115: (しまむら) 2023/03/27(月) 22:01:33.54 ID:f3B3gO2E
曜「ごめんごめん。とにかく!愛ちゃんは鼓膜の不調と不安による思い込みで夢を見て…夢遊病みたいに出て行っちゃった。どうかな、花丸ちゃん」

花丸「うん、良いと思うよ。曜さんらしい理論の立った推測だね」

善子「ずら丸アンタ、もうちょっと真面目に答えなさいよ」

花丸「なんで?」

善子「なんでって…アンタがわからなきゃ私たちの誰も答えがわからないじゃない!」

花丸「あはは、答えを見つける必要はないよ」

善子「はぁ!?」
 
116: (しまむら) 2023/03/27(月) 22:05:08.67 ID:f3B3gO2E
花丸「マルが言いたかったのは…一つの事実に対して、こんなに色んな推測が成り立つんだってこと。それに、科学者でもお医者さんでも民俗学者でも呪術師でもないマルたちにどれが真実化なんて、特定するのは不可能ずら」

曜「えぇ〜!?じゃあどうするの?」

花丸「簡単だよ。マルたち正解を決めちゃうの」

璃奈「それ…良いの?」

花丸「もちろん。愛さんが求めてるは事実の探求じゃなくて問題の解決でしょ?」

愛「う…うん」

花丸「なら大事なのは、これだと思う推論で神様と自分を納得させることだよ。そうすれば、それが自分だけの真実になるの。科学にもオカルトにも有効なはず」
 
117: (しまむら) 2023/03/27(月) 22:08:30.63 ID:f3B3gO2E
曜「流石に無理がない…?」

花丸「じゃあもうちょっと補強しておこうか。善子ちゃん、『シュレーディンガーの猫』ってわかるよね?」

善子「ええ。箱の中に猫を入れて、50%で猫が死ぬ装置をつけておく。すると箱の中には生きてる猫と死んじゃった猫の両方が不確定かつ確率論的に重なり合って存在してるはずで…それを人が観測した瞬間、その結果が現実世界に事実として確定されることになる、って感じの思考実験よ。量子力学の話でホントはもっと複雑だから、今のは簡単にまとめたけど」

花丸「流石、そういうことは詳しいよね」

善子「そういうことって何よ、格好良いじゃない!」

花丸「まぁ…とにかく、マルたちも同じことをするずら。ただし、マルたちは観測者であり、猫の〇害装置であり、猫自身でもある。愛ちゃんに起きた出来事の真実はマルたちの脳で確定させるの」

璃奈「私たちでひとつの結論を出してそれを『信じる』ことで、それ以外の神様への信仰とかのオカルティズムの可能性を排除して無力化する…ってこと?」

花丸「そうだね。言うなれば『プラセボ効果』の自律かつ究極版かな。これは体調不良違いないから、療養すれば必ず治る。もしくは…祟りのはずだから、供養すれば絶対解決できる。みたいに信じ込むんだよ」
 
118: (しまむら) 2023/03/27(月) 22:14:27.13 ID:f3B3gO2E
曜「なんとなくはわかったけど、難しくない?」

花丸「難しく考える必要はないよ。自分がこれと思ったのを直感で信じるの。それにこれは多数決で解決する問題じゃないから、各々の心で考えて。ちゃんと自分で納得できる答えを探してね」

愛「納得できる、か」

善子「アンタのやりたいことは理解したわ。けど、それでどうやって今の愛の症状を解消すればいいのよ」

花丸「あぁ、それは簡単だよ。お台場に帰れば大丈夫。これはほぼどの結論でも共通してるから」

愛「えぇ!?」

花丸「お台場は埋め立てでできた、謂わば“人が創った海”なの。そこに神様が介入できる余地はないよ。だから戻って普通に暮らしてれば神様は手を出せないし、いずれ諦めてくれるずら。仮に病気なら、かかりつけの先生に診て貰えば良いし」
 
119: (しまむら) 2023/03/27(月) 22:17:46.14 ID:f3B3gO2E
善子「んな無責任な…もっとこう、能動的な対策はないわけ?愛は〇されかけたのよ?不安にもなるでしょ」

花丸「う〜ん、単純にお台場に帰るんじゃなくて、原因を直視した上で対処することが大切なんだけどね。それに、第一として神様と縁を切るのが大事だから…そういう意味では、神様…ここだと海鳴りと雷を恐れないってのも大事かな」

愛「か、雷を?海鳴りはともかく、それは…難しいような…」

花丸「完全に克服しなくても、『雷は自然現象だ』っていう意識があれば大丈夫。愛さんはおへそを盗られるっていう伝承に意識が向きすぎて、雷を神性として考えちゃったのがいけないからね。プラセボ効果も同じで、オカルティズムを排除することが補強になるはず」

花丸「そうだなぁ…まずは、稲光が落ちてから雷鳴までのラグで距離を測定するのはどう?光速と音速を理解してれば、それは立派な科学的解釈になるからね。神様が介入する余地は無くなるよ」

璃奈「そんなので良いんだ…」
 
120: (しまむら) 2023/03/27(月) 22:20:22.37 ID:f3B3gO2E
花丸「人のなんてことない行動も…意識してないだけで、必ず何かの文化に基づいてるんだよ。それがオカルティズムかサイエンティズムかも理解してないだけでね」

曜「改めて言われるとそんな気も…」

花丸「例えば、食事の時にお箸を横向きに置くよね。これは境界線を引いてマルたちと食物…つまりは生の存在と死の存在を分ける意味があるんだ。これで無意識のうちに、食事を生のエネルギーの世界で生きていく儀式にしてるの」

愛「へぇ〜、知らなかった。そんな理由があったんだ」

花丸「食事は仏教だと修行だったから。『食堂(しょくどう)』も、元々お寺にあった『食堂(じきどう)』っていう場所が由来なんだ。本尊を安置してお坊さんたちが食事をする、命と向き合う場所なの」

花丸「とまぁそんな風に……常識になってることの方が、逆に文化に根付いてて力を発揮してくれるってこともあるんだよ。だから愛ちゃんも特別なことじゃなくて良いから、何か一つやってみてね」

愛「うん、それくらいなら…やってみるよ。愛さんも頑張らないとだ」
 
121: (しまむら) 2023/03/27(月) 22:23:07.66 ID:f3B3gO2E
愛「あ、でもお台場に戻るのが大事だったら…もう沼津には来れないかな…?」

花丸「そんなことないよ。じいちゃんに聞いたんだけど、神様はそこまで人の区別ついてないの。一度目を離せられればもう心配ないよ」

花丸「ついでに言えば、今もすぐに沼津を離れる必要もないずら。愛さんは少なからず科学的な意識を持ててるし、みんなもいるからね。なるべく目を離さないようにして…意識の不可侵領域たる夢は、今日は沼津で見ないようにすれば平気」

善子「ってことは昼に帰っちゃえば大丈夫って訳ね」

愛「そっか…良かったぁ」

曜「でもそしたら…なんかオカルト的な対処はする必要はないってこと?花丸ちゃんのことだから、お寺に籠もったりすると思ってたんだけど」

花丸「下手に大事にするとオカルトの側面が肥大化しちゃうからね。それに、お坊さんや宗教指導者は昔から医者の役割もあったんだよ。病は自然治癒が一番安全なみたいに、オカルトも自然のまま対処するのが一番なんだ」

善子「なんだか締まらないわね…」

璃奈「でも良かった。愛さんが無事で、ホントに」

愛「えへへ、りなりー…うん、愛さんも一安心だよ」
 
122: (しまむら) 2023/03/27(月) 22:25:44.34 ID:f3B3gO2E
璃奈「愛さん、今耳鳴りは?」

愛「あれ…そういえば全く気にしてなかったけど、治まってる?」

曜「あ、雨も上がってるよ!早いね〜」

善子「確かに、嵐にしては過ぎるのが早いわね…ずら丸!これも愛の症状が緩和してきた証明って捉えて良いのかしら」

花丸「善子ちゃん、結構頭回るよね。そうやって意識を連想していくのは良い考えだよ」

善子「結構は余計よ。それより、愛はもう平気ってことよね!心配して疲れちゃったわ…愛!璃奈!まだ時間あるわよね?気分転換にどこか行かない?良いカフェがあるのよ」

愛「わわ、引っ張らないで!愛さんも行きたいけど〜!」

曜「あ、善子ちゃ〜ん!待って!」
 
123: (しまむら) 2023/03/27(月) 22:28:16.50 ID:f3B3gO2E
花丸「騒がしいずらね…まぁ善子ちゃんなりに元気付けようとしてあげてるんだろうけど。マルもお腹空いてきたし、丁度良いかな」

璃奈「は、花丸ちゃん…ホントに、大丈夫なの?」

花丸「ん〜…じゃあこれを渡しておくずら。マルのお寺のお守り。じいちゃんが選んでくれたんだ。ウチは海上安全として、海から戻ってこれるようにって信仰もあるからね。愛さんと璃奈ちゃんでひとつずつ」

璃奈「ありがとう」

花丸「それと…璃奈ちゃんには伝えておくけど、愛さんは昨日、陸との接点がズレてたことも原因かもしれないよ」
 
124: (しまむら) 2023/03/27(月) 22:31:17.76 ID:f3B3gO2E
璃奈「どういうこと?」

花丸「陸、ケ、日常、俗…まぁ色々呼び名はあるけど、この場合はいつも生活してる環境ってことだね。つまりは…璃奈ちゃんのことずら」

璃奈「わ、私?」

花丸「そう。多分だけど…心配かけないようにって取り繕っていたのを陸との境界として捉えられて…目をつけられたんだと思う。そういう後ろめたさとか、心の隙間っていうのかな。弱い部分につけこむのは邪なものとか、人ならざるものの常套手段だから」

璃奈「愛さんは何でも一人で解決しようとするから…やっぱり私、頼りないのかな」

花丸「そんなことないと思うけど…でもやっぱりマルたちは先輩にとって、後輩のままなのかもしれないね。マルも…自分の力に時々そう感じることがあるから」
 
125: (しまむら) 2023/03/27(月) 22:34:09.73 ID:f3B3gO2E
璃奈「花丸ちゃんは今日、すごく頼りになったよ?花丸ちゃんがいなきゃ解決しなかったと思う」

花丸「マルは知識を教えただけ。根本的な対処は愛さん本人と…そこに一番近い人。つまり璃奈ちゃんにしかできないよ」

璃奈「私、何をすればいい?」

花丸「一言で言えば、愛さんと対等になること」

璃奈「対等…難しい」

花丸「うん。けど、一歩ずつ直していけば良いんだよ。すぐにやらなきゃ間に合わない訳でもないし。事実じゃなくて、対等になろうとするっていう意志とか過程が大事なの。その点で言えば、愛さんの背負いがちなところも直していけるといいかもね」

璃奈「わかった。頑張る。ニジガクのみんなにも手伝って貰おう」

花丸「うん、その意気だよ。あと手っ取り早いのは……愛さんが正直に、心の底から陸に居たいっていう想いと、実際にある繋がり…縁を証明することだね」

璃奈「縁…私と愛さんの?」
 
126: (しまむら) 2023/03/27(月) 22:35:36.91 ID:f3B3gO2E
花丸「神様もね、正当な理由無しに人間を隠り世……神の領域に連れてくことは絶対できないんだ。よくある神隠しとか怪談も、神様の誘いにうっかり乗っちゃったり、禁足地に踏み入れたり神事の真似事をしたり、神様と目を合わせたり……そういう行動としての同意とか、暗黙の了解を破った罰と見做されちゃったから被害に遭うんだよ。愛さんはまだ信仰を与えた位だから、そこは大丈夫のはず」

璃奈「私たちがお祭りで踊ったのは…?」

花丸「あれは踊り自体を奉納する行為だからね。逆に言えば…今回は踊りを捧げたからこそ愛さん自身は無事だった、って言えるのかも。イベントまで天気が保った代償として扱われたのかもしれないけど」

花丸「だからこれからキッパリと、私は神様のところへは行きません!って意思表示するの」

璃奈「その意思表示…海には行きたくないって神様に示すには、どうすればいいの?」

花丸「簡単ずら。愛さんとイチャイチャ仲良くして、ラブラブを神様に見せつけてやるずら」
 
127: (しまむら) 2023/03/27(月) 22:38:03.95 ID:f3B3gO2E
璃奈「え、え〜!?」

花丸「手始めに、今日はずっと手を繋いでると良いよ。絶対離さない位の勢いで」

璃奈「それ、意味あるの…?」

花丸「さっきも言ったでしょ、大切なのは気持と証明。愛さんが自分の居場所は璃奈ちゃんの隣だって思えば、それは強い楔になるずら。それに手を繋ぐことは縄で繋ぐことにもかかってるの。船が流されないようにもやう…繋留ロープを結ぶって意味ね。それを表現することになるんだよ」

花丸「だから愛さんからも璃奈ちゃんからも手を伸ばして、縄みたいにがっちりと結んでおくのが大事。愛さんは神様のものじゃなくて私のものなんだ!って」

璃奈「そっか…私が、愛さんの縄になる…」
 
128: (しまむら) 2023/03/27(月) 22:40:05.71 ID:f3B3gO2E
花丸「今日一日はそれを意識して、不安なら…今晩は愛さんと寝るといいかも。紐とかでお互いの手を縛れば証明の補強にもなって、万が一愛さんが何処かへ行くのも防げる」

璃奈「わかった。今晩はどっちかの家にお泊りする。昨日…雷とか耳鳴りを誤魔化すための雑談だったんだけど…お泊りはしたいって話してたの」

璃奈「ならピッタリだね。願いを自力で叶えられれば、神様に頼らないっていう証明にもなるし。神頼みも良いけど…人間、基本は自分でなんとかしないとだからね」

善子「ずら丸〜!璃奈〜!置いてくわよ〜!」

花丸「ふふ、マルたちもそろそろ行こっか」

璃奈「うん!」
 
129: (しまむら) 2023/03/27(月) 22:48:51.73 ID:f3B3gO2E
愛「カフェってどこ?」

善子「駅の方よ。雨も上がったし、気晴らしに歩きましょ」

曜「私も行ったことないかも。楽しみだな〜、ヨーソロー!」

璃奈「あっ、愛さん」

愛「ん〜?なぁに、りなりー」

璃奈「手、繋いで欲しい。一緒にいたいから」

愛「へへ、もちろん!愛さんたちはずーっと一緒だよ」

璃奈「愛さん…うん。璃奈ちゃんボード『にっこりん』」

花丸「……」
 
130: (しまむら) 2023/03/27(月) 22:57:48.76 ID:f3B3gO2E
花丸(実は……結局、愛さんの症状は何だったのか。今それを断言する術は持ち合わせていない。はっきりとした結論を出さなかったのではなく、出せなかったんだ)

花丸(言うなれば、マルがやったのは愛さんたちの自然治癒力を上げただけ。事実に対し最善でなくとも、現状に対し最良の選択だった。それに間違いはない。九割九分、愛さんは大丈夫だろう)

花丸(だけど、もし…万が一。相手が病気や神様でもなく……何か、マルたちの認識や、理の外に棲む異形なら。最早マルたちが対抗できるものじゃない)

花丸(耳鳴りは体調不良で、深夜に家を抜け出したのも夢遊病のようなものだと言い切れたら、どんなに安心できただろうか)

花丸(逆にこれは何かの祟りで…お祓いや供養をしなければならなかったら、またある意味で気楽だったに違いない。必要だということは、それをすれば解決するということなのだから)

花丸(だからマルのは『解決策』じゃない。ただの『推理』だ。それも探偵ミステリのように予定調和に正解となるものではなく、“明日からもっと良く生きよう!”なんていう自己啓発と大して変わらない)
 
131: (しまむら) 2023/03/27(月) 22:59:23.94 ID:f3B3gO2E
花丸(それに、不可思議はあらゆる日常に潜んでる。気付かなければ存在しないけど…気付いたときにどうするか。それは個々人に委ねられるもの)

花丸(『病は気から』…マルはこれがオカルトの全てだと思ってる。人間の体内にあるはずの病は、同じく体内に原因も存在してる。けど、“気”の概念を持ち込むことで、因果の認識を歪ませ、病の原因が体外にあると考えることができる)

花丸(一見無意味に思えるけど…これは逆に言うと『本来何もできなかった体内の病に対し、他人が干渉できるようになる』理論なんだ)

花丸(だけどマルの中途半端なオカルティズムでは、完璧に愛ちゃんを救済することはできない。鎮痛剤と栄養剤を与えて、後は本人の治癒力に期待するしかない)
 
132: (しまむら) 2023/03/27(月) 23:02:39.22 ID:f3B3gO2E
花丸(オカルトと科学の境界線、それぞれの実在を問うことは…本当に無意味に等しい。何故なら真実と理は認識の中にあるから。時代ともに、たった数十年でも変化する常識で、四十数億年前から存在する海や空を読み解くのは無謀だ)

花丸(だからマルの解釈も…真実でない可能性の方が高い。こじつけと屁理屈で、みんなを無理矢理安心させたに過ぎない)

花丸(けど、だからこそ…人間にできることは、理の中で、人自身の力が対抗できるのを信じるしかないのかもしれない)

花丸(きっと大丈夫。愛さんには璃奈ちゃんや、ニジガクのみんながいる。お台場は人の創った土地。その縁が絡み合って…きっと愛さんを守ってくれるはず)

善子「ずら丸〜!何やってんのよ!アンタも行くわよ!」

花丸「善子ちゃん、置いてかないで〜!」

花丸(だから、マルも信じよう。愛ちゃんと璃奈ちゃんの行く末に、必ず幸せがあると。二人の意志は……何者にも負けないと)
 
133: (しまむら) 2023/03/27(月) 23:03:37.19 ID:f3B3gO2E
愛「雷と」曜「海鳴り」

おわり
 
134: (SIM) 2023/03/27(月) 23:29:20.72 ID:7zjvyZAW

ぼかして終わる系ホラーすき
 
135: (もんじゃ) 2023/03/27(月) 23:49:50.72 ID:mpW4TEoJ
面白かった
わざとオチをつけないのね
 
136: (SB-iPhone) 2023/03/28(火) 00:04:48.87 ID:TsJ8TnzB
とっても面白かったです!!!!!

民俗学や宗教学が好きなのでとっても楽しめました!
確かに愛さんって"そういうの"呼びこみ易そうですよね!皆んなで推理するのも面白かったです!
乙でした!!!!!
 
139: (もんじゃ) 2023/03/28(火) 01:10:48.55 ID:3C997JDx
面白かった!
雰囲気めっちゃよかった
 
140: (ささかまぼこ) 2023/03/28(火) 01:22:28.74 ID:Hlq5XiVg
いいホラーものだった
実際にありそうでリアリティ凄かったわ
 
142: (調整中) 2023/03/28(火) 10:48:59.17 ID:kUOsUfiR

読み応えあった
 

引用元: https://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1679657028/

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