かすみ「その声は…しず子!?」しずクマ「……」【スクスタSS】

AqoursーSS


1: 2020/11/05(木) 22:31:37.07 ID:bcDU9HuB
かすみ「かすみんだって1人で遠征ライブくらい出来ますけど!」

かすみ「なーんてせつ菜先輩に息巻いたら沼津の内浦のイベントに参加するハメになるなんて…とほほ…」

かすみ「まあイベントは無事成功で終わったし!宿泊先だった千歌せんぱいの旅館は最高でしたし!あとは学校に戻るだけです!」

かすみ「まだ夜は明けてないですけど、どうせなら始発で帰りますかね~」

千歌「あ、かすみちゃん!ちょっと待って!」

かすみ「ん?千歌せんぱい?どうしたんですかぁ?」

4: 2020/11/05(木) 22:37:09.74 ID:bcDU9HuB
千歌「まだ夜が明けてないでしょ?朝になるまで外は出ない方がいいよ」

かすみ「えぇーーー!?まあ確かにぃ?こ~んなに可愛いかすみんを引き留めたい気持ちは十分に分かりますけどぉ~」

千歌「ふふっそうなんだ」

かすみ「歩夢せんぱいみたいにあしらうのやめて!何で、かすみんのこと引き留めるんですかぁー!」

千歌「それがね、ちょっと言いにくいんだけど……実は…ここ最近、夜になると『熊』が出るって噂なんだよ」

かすみ「熊…ですか?」

5: 2020/11/05(木) 22:45:16.58 ID:bcDU9HuB
ーーーーーーー
ーーーーー
ーーー

かすみ「それじゃあ、かすみんは戻ります!」

千歌「くれぐれも気をつけてねー!」

かすみ「はーい!」

トテトテトテトテ

かすみ「かすみんだって早く帰って先輩に会いたいんです!夜明けなんて待ってられません!」

かすみ「……まぁ、熊の話が怖くないかといえば、嘘になりますけど…」


千歌(夜中に外を歩いてるとね?1匹の熊が出没するらしいんだよ)

千歌(その熊は強くて凶暴、人に会うと見境なく襲いかかるみたい)

千歌(そして生えてるらしい)

かすみ(生えてる!?何が!?)

千歌(それはおち……ごほんごほん)

千歌(とにかく、その熊に襲われた被害が絶えない以上、夜の内浦を出歩くのは本当に危険なの)

6: 2020/11/05(木) 22:53:21.22 ID:bcDU9HuB
かすみ「朝方、道に倒れている人が続出しているらしいですね…」

かすみ「よく出没するポイントはこの辺みたいですけど……」

かすみ「でもでも、いくらなんでもタイミングよく熊なんて出るわけ

ガサッ

かすみ「えっ」

ガサガサガサ

かすみ「く、草むらに何かいる!?」

ガサガサガサ!!

かすみ「近付いてきてます!」

ガサッ!

熊「ガァオォォォリ!!」

かすみ「ぎいぃいいぃいやぁぁぁ!!で、出たぁぁぁぁ!!」

7: 2020/11/05(木) 23:00:20.13 ID:bcDU9HuB
熊「……え」

かすみ「来ないでくださぁぁぁぁぁい!!かすみんの体はきっと美味しくないですからぁぁぁぁぁ!!」

熊?「……うそ」

かすみ「確かにかすみんは世界一可愛いですけどぉぉ!ボディはちんちくりんな方なんですからぁぁぁ!!」

クマ?「か、かすみさん…?」

かすみ「……え?」

かすみ(この聞き覚えのある声……)

かすみ「まさか……し、しず子!?」

しずクマ「……」

8: 2020/11/05(木) 23:10:07.00 ID:bcDU9HuB
しずクマ「……そう、私は桜坂しずくだよ」

かすみ「な、何でしず子が熊になってるの!?」

しずクマ「説明すると長くなるんだけど……」

しずクマ「それにしても……久しぶりだね、かすみさん」

かすみ「え、あ、うん、まあ……」

しずクマ「あの日以来だね……もうずいぶん昔だけど」

かすみ「……」

しずクマ「私が同好会を離反したあの日から、かすみさんとはお話ししなくなっちゃったもんね」

かすみ「……」

しずクマ「まさかこんな形でかすみさんと再会するなんて思わなかった」

かすみ「…かすみんだって思いもしなかったよ。しかも熊になってるし」

しずクマ「ふふっ、ほんとだね」

しずく「…ねえ、かすみさん。少しの間でいいから、私とのお話に付き合ってくれないかな?」

かすみ「…うん」

13: 2020/11/05(木) 23:25:36.33 ID:bcDU9HuB
しずクマ「そっかそっかぁ。エマさん達は卒業して、今はせつ菜さんの代なんだ」

かすみ「かすみんにも後輩が出来たんだよ?皆んなすごーく生意気だけど」

しずクマ「それはかすみさんが舐められてるだけだと思うけど」

かすみ「かすみん舐められてないもん!先輩風ふかしてるもん!」

しずクマ「先輩風ふかすことはそこまで褒められたもんじゃないよ……でも、入った頃の栞子さんにもかすみさんそんな感じだったよね」

かすみ「しお子はからかい甲斐があったからなぁ~色々とあることないこと吹聴してやったもんだよ」ニシシ

しずクマ「こら。かすみさんメッ」

かすみ「ぐえ。……久々だね、こういうやりとりも」

しずクマ「うん。そうだね……懐かしいなぁ…本当に、懐かしいよ」

かすみ「……ねえ、しず子はさ、どうして熊の姿になっちゃったの?」

しずクマ「……あれは、ずいぶん前のことになるかな」

15: 2020/11/05(木) 23:38:46.05 ID:bcDU9HuB
しずクマ「沼津の方で大きなイベントがあってね。部の人達でそのイベントに参加しに行ってたの」

しずクマ「まあ参加するなんて言うけど、イベントで歌うのはランジュさんで、相変わらず私や果林さん愛さんはバックダンサーだったけど……」

しずクマ「その日の夜、宿泊先のホテルに泊まってたら、窓の方から声が聞こえてきたんだ」

しずクマ「最初は空耳か何かだと思ってたけど、耳を澄ましたら確かに誰かの声がしてね」

しずクマ「外に出るとだんだん声がはっきりしてきて、その声は確かに私のことを呼んでたの」

しずクマ「しずく…しずく…って」

しずクマ「誰が私のことを呼んでるのか確かめたくて、声のする方へ向かって、とにかく向かって、無我夢中で向かって」

しずクマ「いつの間にか道は山の中に入ってて」

しずクマ「いつの間にか手を地面につけて走ってた」

しずクマ「いつもの自分じゃないような力が溢れんばかりに湧いてきて」

しずクマ「手足には毛が生えてきてて」

しずクマ「峠という峠を超えて、辿り着いた川辺で水面を覗いたら」

しずクマ「私はすでにこんな熊の姿になってたの」

16: 2020/11/05(木) 23:51:14.90 ID:bcDU9HuB
かすみ「……え、いや、そんなことある?」

しずクマ「信じられないよね。私だって最初は夢だと思ったもん」

しずクマ「でも、夢じゃなかった。わけが分からなくて、怖くて、こんなのいやだって」

しずクマ「死んだ方がマシだと思った」

かすみ「えっ……」

しずクマ「……そんなこと考えながら歩いてたら、たまたま通りかかったお寺で、私は一人の女の子に会ったの」

しずクマ「私の姿を見て怖気付いてるその子を見て、私はあろうことか、なんて最低なことを考えてしまったの」


しずクマ「ああ、この子を『食べちゃいたい』って」


しずクマ「……ふと我に返ったときには、その子は裸になって気を失っていたの。全身キスマークだらけで」

しずクマ「私が犯した。すぐに確信した。それが私の熊としての最初の経験だった」

20: 2020/11/06(金) 00:05:07.01 ID:UY75+2Qj
しずクマ「それから私がどうやって生活してたのか……自分でも恐ろしくて言葉にできないかな」

しずクマ「でも一日に少しの間なら、人間の心が戻ってくるの。物を考えることもできるし、喋ることもできるし、人間だった頃の記憶を思い返すこともできる」

しずクマ「でも日に日に、人間の心が失われていくのが分かる」

しずクマ「前は『なんで私は熊になったのか』って考えてたのに、今は『なんで私は人だったのか』って考えてる」

しずクマ「きっと私の中にある人間の心が消え去れば、怖い思いなんかしないで、むしろ熊として幸せに生きられるんだと思う」

しずクマ「でも今の私は、完全に熊になる日が来るのが、怖くて怖くて仕方ない」


しずクマ「……どうして、こんなことになっちゃったんだろう」

かすみ「……」

しずクマ「……ねえ、かすみさん。一つお願いがあるの」

21: 2020/11/06(金) 00:13:50.49 ID:UY75+2Qj
かすみ「…お願いって?」

しずクマ「私とキスしてほしい」

かすみ「ゔぇえ!?キ、キス!?」

しずクマ「正確に言えば、人間の心の時の私とキスしてほしい」

かすみ「いやいやいや!?何言ってんのしず子!?正気!?」

しずクマ「私は正気だよ、だって」

しずクマ「キスもしたないことないのに熊になっちゃうなんて、やだよ」

かすみ「あっ…まあ、でも……しず子、いいの?相手がかすみんになっちゃうけど…」

しずクマ「かすみさんだからいいの」

かすみ「えっ///」

しずクマ「かすみさんじゃなかったらこんなお願いしないもん」

かすみ「な、何何何///しず子ったら、ほ、欲しがりさんなんだから!///」

かすみ「し、仕方ないなあ~///一回だけ、だよ?///」

しずクマ「!」シュババババババ

23: 2020/11/06(金) 00:23:53.92 ID:UY75+2Qj
ガシィッ

しずクマ「捕まえた♡♡♡(やらしい声)」

かすみ「いや怖いわ!」

かすみ「てか!抱き締める力が強すぎィ!今のしず子は熊なんだから手加減してよ!」

しずクマ「離しません♡♡♡」

しずクマ「かすみさんのぷっくりとした唇……とっても美味しそう…… ♡♡♡(恍惚)」

かすみ「もはや人間の心失ってない!?」

しずクマ「いただきます♡♡♡(やらしい声)」

かすみ「や、や、や、アーーーッ!!!」


ブチュチュチュチュチュチュチュ(自主規制)


しずクマ「ふぅ…ごちそうさまでした♡♡♡」

かすみ「ア…ア…カスミンノ…カスミンノハジメテガ…」

27: 2020/11/06(金) 00:47:24.19 ID:UY75+2Qj
しずクマ「ありがとう、かすみさん。私のお願いに付き合ってくれて」

かすみ「…まあ、お役に立てたなら何より…ですけど」

しずクマ「これでもう思い残すことはないし、安心して熊になれるよ」

かすみ「……」

しずクマ「同好会の皆んなが今も無事にやってることが分かったし」

しずクマ「人間の心のままでキスすることもできたし」

しずクマ「何より、こうしてかすみさんと会うことができた」

かすみ「しず子……」

しずクマ「……私ね。こんな姿になっても、寝ている時は時々夢を見ることがあるの」

しずクマ「同好会の皆さんと、練習が始まるまで部室でお喋りしてる時の夢」

しずクマ「一緒に練習してる時の夢。練習が終わって皆さんで寄り道してる時の夢」

しずクマ「休日に皆さんと遊びに行っている時の夢。μ'sやAqoursの皆さんも交えてお出かけしている時の夢」

しずクマ「イベントが始まる前の控え室で話してる時の夢。お客さん達の前に出て曲を披露してる時の夢」

しずクマ「そして、放課後に部室に向かってる時の夢」

しずクマ「そんな夢ばっかり見てしまうの」

32: 2020/11/06(金) 01:23:19.73 ID:UY75+2Qj
しずクマ「……私がなんでこんな姿になっちゃったのか。思い当たる節がないわけじゃないの」

しずクマ「同好会を離反して部に入って、ランジュさんの下で練習している時も、頭の中にずっとずっとあって離れようとしなかった」

しずクマ「あの日のライブの、かすみさんの姿がいつまで経っても忘れられなかったの」

しずクマ「あの時までは、私の中で、私とかすみさんは対等だと思っていた。互角で、同列で、大差無くて、肩を並び合えていると自惚れていた」

しずクマ「でも現実は違った。私は臆して、かすみさんは臆さないで。対等なんかじゃなかった。隣に立って肩を並べる資格なんて私にはなかった」

しずクマ「私はかすみさんの隣に並ぶのが怖くなった。『かすみんはこーんなに強くなってるのに、しず子はまだ弱々なんですか?』って言われている気がしてならなくて、かすみさんを避けたくなった」

しずクマ「これ以上、自分のプライドがーーー自尊心が、傷つけられるのが怖くて怖くて、仕方なかった」

35: 2020/11/06(金) 01:47:30.17 ID:UY75+2Qj
しずクマ「かすみさんに対するこの敗北感をありのままに受け入れていれば。かすみさんの隣で負けじと切磋琢磨していれば」

しずクマ「今となってはそんなことばっかり考えちゃうんだよ」

しずクマ「でも当時の私はそれが恥ずかしいと思ってしまった」

しずクマ「かすみさんに負けを認めることも。教えを乞うことも。技術を盗むことも。かすみさんの隣にいることすらも、私は許せなかった」

しずクマ「ひたむきに恥をかきたくなくて、自分はかすみさんより魅力的なんだって信じたくて、ちっぽけなプライドが邪魔して」

しずクマ「私は同好会を離反して、部に入るって決断しちゃったんだ」

かすみ「……」

しずクマ「人はね、皆んなその心に猛獣を飼っていて、その猛獣が何なのかは人によりけりなんだと思う」

しずクマ「私の場合は、この臆病な自尊心と、尊大な羞恥心だった。熊だった」

しずクマ「この熊が私の心を支配するようになって、いつのまにか、心も体も熊になっちゃった……んじゃないかな」 

38: 2020/11/06(金) 02:01:14.68 ID:UY75+2Qj
しずクマ「だから私は……完全に熊になってしまう前に、かすみさんに会いたかった」

しずクマ「同好会の離反を切り出して、傷つけてしまったことを謝りたかった」

しずクマ「かすみさんはランジュさんに負けてなくて、むしろ勝ってたよって伝えたかった」

しずクマ「私のかすみさんへの想いを、先輩じゃなくて、私からかすみさんに届けたかった」

かすみ「……」

しずクマ「……欲を言えば、かすみさんと仲直りしたかった」

かすみ「……!」

しずクマ「もっと一緒に練習したかった」

しずクマ「曲とか歌とか踊りとか、もっと話し合いたかった」

しずクマ「もっと遊びたかった。もっとお出かけしたかった」

しずクマ「くだらないことで喧嘩したり、離れてはくっついて、またくだらないことで喧嘩して」

しずクマ「そんな日々を、貴女と送りたかった」

しずクマ「かすみさん、貴女のことが好きだったから」

40: 2020/11/06(金) 02:11:50.72 ID:UY75+2Qj
かすみ「し、しず子…!かすみんも…!」

ペカーッ

かすみ「っ!眩しぃっ…!」

しずクマ「もう夜明けが来ちゃったね…。お別れの時間だね、かすみさん」

かすみ「えっ…!な、何で…!?」

しずクマ「私はこれから熊として酔わなくちゃいけないから。もうかすみさんのことをかすみさんだって分からなくなっちゃう」

かすみ「そんな…!じゃあまた来るよ!今日の夜、またここにかすみん来るから!」

しずクマ「来ちゃダメ!」

かすみ「…!」

しずクマ「今はまだ人間の心があるけど、今日の夜には完全に熊になってるかもしれない。そしたら、私の親友を犯してしまうかもしれない」

しずクマ「お願いかすみさん。今日のことは皆さんには黙っててほしい」

しずクマ「桜坂しずくは死んだことにしてほしい」

かすみ「そ、そんな……」

44: 2020/11/06(金) 02:58:59.93 ID:UY75+2Qj
しずクマ「ごめんなさい。厚かましいお願いだとは分かってる。でも…これ以上、かすみさんに迷惑をかけたくないから」

かすみ「しず子…待ってよしず子…」

しずクマ「待てない。かすみさんが行かないなら、置いてっちゃうだけだから」

かすみ「やだよ…!置いてかないでよ…!しず子…!」

しず子「…最後の最後まで、いつもは私はかすみさんを置き去りにしてるね。……本当にごめん

かすみ「やめてよ!今さら謝らないでよ!そんなのずるいよ!」

かすみ「分かってたよ!しず子が私のこと避けてたってことくらい!しず子が部に行った理由が私にあることくらい!だってしず子、本心を隠してるつもりかもしれないけど、演技下手くそだもん!」

かすみ「だからムカついたよ!サイテーだって罵ったよ!私に言いたいことあるなら言えばいいのに、汚かろうが醜かろうが全部晒せばいいのに、良い子ぶってるしず子がムカついてしょうがなかったよ!」

かすみ「私は…!私は…!」

かすみ「私のせいでしず子を苦しめたくなかった…!」

かすみ「しず子のそばにいいのか離れればいいのかも分かんなくて…!何もしてあげられなくて…!」

かすみ「願うことしかできなかった…!」

かすみ「しず子と笑い合える日が来るようにって、願い続けてた…!」

かすみ「それが高望みだとしても、せめてしず子が幸せだったらそれだけでいいって、ずっと…!ずっと…!」


しずクマ「……ありがとう。最後にかすみさんの声が聞けて良かったよ」

しずクマ「バイバイかすみさん。私、かすみさんに出逢えて本当に幸せだった」ニコッ

かすみ「ダメ…!お願い…行かないで…!しず子…!」

45: 2020/11/06(金) 03:05:15.51 ID:UY75+2Qj
ここで「甲エンドルート」と「乙エンドルート」に分岐します
と言っても終わり方が変わるだけですが

まずは甲エンドルートから入ります

46: 2020/11/06(金) 03:27:12.85 ID:UY75+2Qj
ーーーーーーー
ーーーーー
ーーー

かすみ「ん…」

かすみ(あれ、ここは…どこ…?)

「あ、起きたあ!」

かすみ(え?この声は…)

かすみ「千歌…せんぱい?」

千歌「いやー良かったよお~死んじゃってるかと思ったよ~

かすみ「えっと、何で千歌先輩がここに…?」

千歌「だってここはチカの旅館なんだから、チカはいるよ~。下に梨子ちゃんもよーちゃんもいるよ?」

かすみ「旅館…?」

千歌「かすみちゃんはね、道端で倒れてたの。そこをチカが発見して、こっちまで連れてきたわけ」

千歌「具合は大丈夫?倒れてた時、すごく目が腫れてたから」

かすみ「あ…大丈夫です…たぶん…」

かすみ「…!」

かすみ「あの…!しず子は…!?しず子はどうなりましたか…!?」

千歌「しず子?しずくちゃんがどうかしたの?未だに行方不って聞いてるけど…」

かすみ「違います!しず子は居たんです!千歌せんぱいが教えてくれた熊は、しず子だったんです!」

47: 2020/11/06(金) 03:43:28.91 ID:UY75+2Qj
梨子「………えぇーっと、つまりかすみちゃんの話を要約すると、内浦で出没してる熊は実はしずくちゃんで、かすみちゃんはその熊のしずくちゃんとお話しした…ってこと?」

曜「……夢じゃなくて?」

かすみ「夢じゃありません!現実です!かすみん嘘ついてません!」

曜「どうする千歌ちゃん?かすみちゃんが嘘ついてるとは思えないけど…」

千歌「うーーーーん……にわかには信じられないけど」

千歌「かすみちゃんはその熊とお友達ってことだよね」

かすみ「そうです!かすみんの大事な大事な友達なんです!」

梨子「…じゃあ千歌ちゃん、あの話もかすみちゃんも耳に入れておいた方がいいわね」

かすみ「?」

千歌「さっきダイヤさんからメールがあったんだけどね」

千歌「今日、熊ハンターの人達が内浦に見えることになるんだって」

かすみ「熊…ハンター?そうなったら…熊はどうなっちゃうんですか…?」

梨子「……」

曜「…被害からすると、〇処分、かも」

かすみ「…〇処分?」

48: 2020/11/06(金) 03:45:13.95 ID:UY75+2Qj
すいません途中ですが眠いので一旦ここで止めます
夜に甲エンド続きと乙エンドを書き上げる予定でいます
ちなみに元ネタは中島敦の『山月記』です

65: 2020/11/06(金) 21:12:00.94 ID:UY75+2Qj
かすみ「しず子が…〇されるってことですか…!?」

曜「…!いや、そうと決まったわけじゃなくて」

梨子「そ、そうよ。麻酔銃で眠らせて保護することだってあるわけだし」

かすみ「……結局、しず子がどうなるか分からないってことですよね」

曜「そ、それは……」

梨子「……」

かすみ「決めました!かすみん、昨日しず子と会った所に行ってきます!」

かすみ「しず子にまた会って、内浦から逃げるように説得してきます!」ダッ

梨子「あ、かすみちゃん!」

曜「私、追いかけてくる!」ダッ

梨子「……今のかすみちゃんには、黙ってた方が良かったかもしれないね」

千歌「…んー、何で梨子ちゃんはそう思うの?」

梨子「何でって…あまりにもかすみちゃんの姿が可哀想だからよ」

梨子「熊のことを失踪した友達だと勘違いしてるなんて」

66: 2020/11/06(金) 21:44:47.09 ID:UY75+2Qj
梨子「数ヶ月前に沼津で起きた、とある女子高生の失踪事件」

梨子「目撃者の証言だと、ホテルから猛ダッシュで外に飛び出して行った女の子の姿が確認されてる」

梨子「ホテルの宿泊者リストから身元を調べた結果、その女の子が桜坂しずくちゃんであることが分かった」

梨子「その後のしずくちゃんの動向は不明。唯一の手がかりは道中に落ちていた、いつも着けていた赤色のリボン」

梨子「警察は警察犬を使って沼津周辺を探すものの、どこに行ったのかのヒントになりそうな手がかりは一切見つからなかった」

梨子「今もしずくちゃんの捜索は続いてるけど、捜査の進まなさからして、署の中では諦めムードになりつつある…らしい」

梨子「赤色のリボンもお家の人に返却したみたいだし…」

千歌「そのリボン、今は虹ヶ咲の部長さんが保管してるって聞いたよ」

梨子「……あの時の虹ヶ咲の同好会はスクールアイドル部のことで色々な問題が起きてたわよね」

梨子「部員の失踪事件を色んなメディアが取り上げて、スクールアイドル部と理事の癒着が発覚。そこから部の勢いは急転直下して、同好会の勝利で終わったみたいだけど……」

千歌「果林ちゃんや愛ちゃんが同好会に復帰する中、しずくちゃんだけが戻ってこなかった。消えて、しまった」

千歌「……本当に悲しい事件だって思うよ」

68: 2020/11/06(金) 22:02:01.52 ID:UY75+2Qj
梨子「……特にかすみちゃんは、しずくちゃんと仲が良かっただけに、尚ショックだったんだと思う」

梨子「昨日のイベントではそんな事おくびにも出さないで振る舞ってたけど…」

梨子「今日の様子を見るに、相当引き摺ってるんだと思うのよね…」

千歌「……梨子ちゃんは、かすみちゃんの言ってること、嘘だと思う?」

梨子「嘘…というよりは、熊をしずくちゃんだって思い込んでるかすみちゃんからすれば、あくまで事実を喋ってるのかな」

千歌「……そっか」

梨子「千歌ちゃんは?」

千歌「……チカはね、かすみちゃんは本当のこと言ってるんだと思う」

千歌「熊はただの熊なんじゃなくて、もしかしたらしずくちゃんかもしれない、って思ってる」

梨子「……え?」

70: 2020/11/06(金) 22:24:20.78 ID:UY75+2Qj
◆内浦 外◆

曜「待ってって!かすみちゃん!」ガシッ

かすみ「あっ!やめてください!離してください!」

曜「ひとまず落ち着こ!落ち着こうか!」

かすみ「落ち着いてなんかいられません!しず子が危ないんですから!」

曜「今ヘタに動くと、かすみちゃんも危ないんだって!死んじゃうかもよ!」

かすみ「し、死んじゃう…?」ピタッ

かすみ「どういうことですか…?曜せんぱい…」

曜「…さっき、ダイヤさんからメールがあったって話はしたよね」

曜「『今日、内浦に熊狩りの方が来る』って」

曜「あのメールには続きがあるんだよ」

曜「『とくに、熊の出没が多いポイントには、安全が確認されるまで、決して入らないでください』って」

71: 2020/11/06(金) 22:40:13.56 ID:UY75+2Qj
曜「かすみちゃんが熊…じゃぁなくて、しずくちゃんと会ってた所って、今朝かすみちゃんが倒れた所でしょ?」

曜「そこは…まだ安全が確認されてない。かすみちゃんが入っちゃうと逆にかすみちゃんが危ないんだ」

かすみ「…死んじゃうかもとか、危ないとか、強い言葉でかすみんを脅迫するのはやめてください。曜せんぱい」

曜「……」

かすみ「しず子は、かすみんを食べるような悪い熊さんじゃありません!」

曜「……違うんだよ、かすみちゃん。そうじゃないんだよ」

曜「私ね。かすみちゃんが嘘ついてるとは思えない」

曜「そして、熊をしずくちゃんだって思い込んでる…わけでもないと思う」

曜「昨日かすみちゃんが会った熊は、しずくちゃんなんじゃないかなって…そんな気がするんだよ」

かすみ「……かすみんの話、信じてくれるんですか?」

曜「……私が一番不可解に思ってるのは」

曜「キスマーク、なんだよね」

73: 2020/11/06(金) 23:05:43.27 ID:UY75+2Qj
◆内浦 旅館◆

梨子「キスマーク?」

千歌「そう、キスマーク。かすみちゃんを介抱したとき、首に何個か付いてたんだよね」

梨子「でもそれは、かすみちゃんが熊に襲われた証拠ではあるけど、熊がしずくちゃんである証拠にはならないんじゃないの…?」

千歌「でも梨子ちゃん、変だと思わない?」

梨子「え?」

千歌「キスマークは首に集中してて、首から下にはキスマークが1個も付いてなかったんだよ?」

千歌「そもそも私が道端で倒れてるかすみちゃんを見つけた時、かすみちゃんは服を着ていた。裸じゃなかった」

千歌「『裸になってて』『全身キスマーク』が今までの被害ケースだったのに、かすみちゃんだけは例外だったんだよ」

梨子「…でも、かすみちゃんだけ被害が抑えめだから、熊がしずくちゃんってのは早計じゃないの?」

梨子「たとえば、しずくちゃんが熊の好みじゃなかったとか…」

千歌「まあそれはあるかもしれないけど」

千歌「『人に会うと見境なく襲いかかる』熊が、襲う人を選り好みしてるって、それも変な話じゃない?」

76: 2020/11/06(金) 23:45:51.86 ID:UY75+2Qj
梨子「……なりふり構わず襲ってはみたものの、充分に襲う時間がなかったから、首から下は襲われずに済んだ…とかは、考えられない?」

千歌「かすみちゃんは旅館を出て真っ直ぐ駅に行こうとしてたから、その道中にあそこで襲われたんだとしたら……時間は充分にあったと思う」

梨子「……なるほど」

梨子「今までのケースと条件はさして変わらないのに、かすみちゃんがキスだけで済んでるのは、確かに引っかかるポイントね…」

梨子「あれ?じゃあそれって…」

梨子「熊はかすみちゃんを襲おうとして、キスしながら裸にしようとした途中で、かすみちゃんであることに気付いて、襲うのをやめたってこと?」

千歌「そこは…どうなんだろ」

千歌「ちょっと少女漫画チックな考え方になっちゃうけど…」

千歌「お別れのキスでも、したんじゃないかな…」

千歌「…なーんてね!」

梨子「…もう、千歌ちゃんったら」

77: 2020/11/07(土) 00:01:43.73 ID:U4kBRI9e
◆内浦 外◆

かすみ「このキスマークは…」

ーーーーー(回想)ーーーーー

しずクマ「かすみさんのぷっくりとした唇……とっても美味しそう…… ♡♡♡(恍惚)」

もはや人間の心失ってない!?

しずクマ「いただきます♡♡♡(やらしい声)」

や、や、や、アーーーッ!!!


ブチュチュチュチュチュチュチュ(自主規制)


しずクマ「ふぅ…ごちそうさまでした♡♡♡」

ア…ア…カスミンノ…カスミンノハジメテガ…

ーーーーー(回想 終わり)ーーーーー

かすみ「……」

曜「……なんかごめん」

かすみ「いや、大丈夫です……」

曜「もうちょっとロマンチックな感じだったんかなって、千歌ちゃんと話してて盛り上がっちゃってたから…」

かすみ「…まあ、色んな意味で一生忘れられないファーストキッスになったと思います」

82: 2020/11/07(土) 06:04:18.89 ID:U4kBRI9e
かすみ「でもこのキスマークでかすみんの言葉を信じてもらえたなら、結果オーライです」

曜「…」

かすみ「かすみん、しず子は悪い熊じゃないって信じてます。確信してます」

かすみ「熊狩りの人達にもお伝えすれば、きっと分かってくれるはずです」

かすみ「曜せんぱい。かすみん、しず子を守りたいんです。だから…先に行かせてください」

曜「……ダメ。ここからは先には行かせない」

かすみ「…何でですか…!」

曜「……かすみちゃん。今私が一番に恐れてることはね、しずくちゃんに遭うことじゃないの」

曜「熊狩りの人達に、かすみちゃんが熊と間違えられて発砲する……いわゆる『誤射』ってやつが、一番怖いの」

曜「メールの続きにもあった、関係者以外の立入禁止ってのは、その誤射を防ぐためなんだよ」

かすみ「誤射……そんなことも、ありえるんですね……」

曜「…そんな危ない所に、かすみちゃんを行かせるわけにはいかない」

かすみ「それは…確かにかすみんもいやですけど…」

かすみ「でも!このままだとしず子が

\ バァンッ /

かすみ「……!銃声…!」

かすみ「しず子!!」ダッ

曜「あっ!待ってかすみちゃん!」

曜「……こうなったら」

ポチポチポチポチ

曜「……よし、一斉送信完了」

86: 2020/11/07(土) 11:06:49.79 ID:U4kBRI9e
かすみ「しず子!しず子ー!」

遠くの方で銃声を耳にした私は、気が付いたら林の中を駆けていました。

ーーー曜「かすみちゃんが熊と間違えられて撃たれる危険があるから、この先には行っちゃダメだよ」

そんな曜せんぱいのご心配も、今の私からすればどうでもいいことで。

立ち止まってることなんて出来ませんでした。

林の中を駆ける中、頭の中にあるのは、しず子のことだけでした。

ーーーしずクマ「お願いかすみさん。今日のことは皆さんには黙っててほしい」

ーーーしずクマ「桜坂しずくは死んだことにしてほしい」

あの時の、しず子の表情が、頭から離れなくて。

桜坂しずくとしての生を捨て去って、熊として生きる覚悟を決めた表情。

でもその裏には、幾多にも重なる葛藤がきっとあったはずで。

ーーーしずく「私、スクールアイドル部に、行こうと思います」

しず子が同好会の離反を決意表明したときの光景を、私は思い返してしまいます。

あの時も、そして今も、言ってることやってることはおんなじで。

桜坂しずくは今も生きているってようやく実感できます。

だから、神様、お願いです。

桜坂しずくを、死なせないでください。

どうか。

88: 2020/11/07(土) 11:27:55.00 ID:U4kBRI9e
かすみ「はぁ…はぁ…しず子…しず子…」

「ガルルルル…」

かすみ「…!」

しずクマ「ガルルルル…」

かすみ「しず子!」

かすみ(見たところ怪我はなさそう…!よかった…!生きててよかった…!)

しずクマ「ガルルルル…」

かすみ「しず子ーーー

しずクマ「ガァオォォォリ!!」バッ

かすみ「!」

かすみ(まずい、今のしず子は人間の頃の記憶がないんだ!)

しずクマ「ガルルルルルルル…!」

かすみ(しず子の話だと、人間の記憶が戻った時の光景に、人を犯した形跡はあるけど、人を食い〇した形跡は一度もなかった、って言ってた…!)

かすみ(だから、食べられることはないと思うけど……!)

モゾッ

かすみ(ん?)

しずクマのしず子「ピクピク…♡♡♡」

かすみ「ゔぇえ!?」

かすみ(ちょ、ちょっと待ってください!なんですかこの凶悪なフォルムは!かすみん聞いてませんけど!)

ーーー千歌(そして生えてるらしい…おち〇〇〇が)

かすみ(そんな可愛い表現できる代物じゃないんですけど!?)

92: 2020/11/07(土) 11:58:27.80 ID:U4kBRI9e
しずクマ「ガルルルル…!」ガシッ

かすみ「だめ!しず子だめ!離して!」

しずクマ「ガルル…!ウゥガ…!」レロレロ…♡

かすみ「んぁ…///首なめるのやめて…!///」


しずクマ「ガルルル…」レロレロレロレロ…♡♡

かすみ「だめ…///だって…///言ってるのに…///」

しずクマ「……」グッ

かすみ「し、しず子…?かすみんの服なんか握ってどうしたの…?」

しずクマ「フンッ!」

ビリビリビリビリビリッ!!

かすみ「ぎゃぁぁああぁぁ!しず子のケダモノぉーーーー!」

しずクマ「ガルル…!ガルル…!」フゥーッ♡フゥーッ♡

しずクマのしず子「ムクムクムクムク♡♡♡」

かすみ(げぇ!さっきより膨れ上がってる!あんなの挿れられたら、かすみん壊れちゃいますよ!)

かすみ「しず子、だめっ!だめったらだめ!かすみんのことが分からないのっ!?」

かすみ「昨日あんなに話ししたじゃんか!もう忘れちゃったの!?」

しずクマ「ガルルルル…!」

かすみ(ダメだ…!話が通じてない…!言葉がダメだったら…イチかバチか、アレで思い出させるしか…!)

かすみ「かすみんだって、しず子にキスできますけど!」

ズギュゥゥゥゥン!

しずクマ「ガゥ…!?」

94: 2020/11/07(土) 12:13:01.64 ID:U4kBRI9e
ブチュチュチュチュチュチュチュ

かすみ(今のしず子はかすみんの事を完全に忘れている…!きっと言葉も通じない…!)

ブチュチュチュチュチュチュチュ

かすみ(でも!昨日しず子がかすみんにキスした時の感覚は、しず子の体に残ってるのかもしれない…!)

ブチュチュチュチュチュチュチュ

かすみ(だったら!その感覚を思い出させれば、しず子がかすみんのこと思い出す可能性は、ゼロじゃないんじゃないですか!?)

ブチュチュチュチュチュチュチュ

かすみ(しず子…!お願い…戻って…!)プハァッ

かすみ「げほ、げほ…はぁ、はぁ……し、しず子……」

しずクマ「ハァ……ハァ……ガズミ、ザン…?」

かすみ「…!」

かすみ(今たしかに『かすみさん』って呼んだ!昨日ほどじゃないけど、人間のしず子がよみがえってきてるんだ!)

かすみ「しず子ーーー



パァンッ

しずクマ「……ッ!」

かすみ「…え?」

バタンッ

102: 2020/11/07(土) 13:21:19.49 ID:U4kBRI9e
◆ 林の中 ◆

曜「銃声はこっちの方からした…!」

曜「かすみちゃん…!無事でいて…!」

ダッ

曜「……!いた!」

曜「かすみちゃーーー

曜(私の目の前に広がっていたのは、猟師と思われる風貌の二人の大人達と、一匹の倒れている熊と、その熊に必死に声を掛けているかすみちゃんという光景だった)

しずクマ「アグゥ…ガ…」

かすみ「しず子!しず子!しっかりして、しず子!!」

しずクマ「ガゥ…ズ…ミ…」

かすみ「……どうして…どうして」

かすみ「どうしてしず子を撃ったんですか!!」

猟師1「……お嬢さん。危ないですので離れて下さい」

かすみ「質問に答えてくださいよ!それにしず子は危ない熊じゃありませんから!」

猟師2「危ない熊じゃない?さっきまでそこで襲われていたじゃねーか」

猟師2「その熊に襲われたって報告が何度もあがってんだよ。なんで撃ったか?駆除するために決まってるだろ」

かすみ「駆除なんて…させません!」ギロッ

ダッ

曜「かすみちゃん!怪我はない!?」

かすみ「…曜せんぱい。はい、かすみんは大丈夫です。服は破られちゃいましたけど……体は無傷ですので」

103: 2020/11/07(土) 13:37:14.11 ID:U4kBRI9e
猟師1「ああ、あなたは渡辺さんの娘さんじゃないですか。あの子とはお知り合いなんですか」

曜「…はい、私の可愛い後輩です」

猟師1「それなら話が早い。あなたにあの子を説得してほしいのです」

猟師1「彼女は今かなり錯乱状態にある。そこにいる熊を自分の友達だと主張しており、我々の話には聞く耳持たずという状況です」

曜「……」

猟師1「先ほどまで彼女は熊に襲われていました。彼女への誤射がないように、タイミングを見計らって発砲し、熊の方に命中して彼女を助けることはできました」

猟師2「だが、あの様子からして致命傷には至ってねえ。足の方を狙ったから、立ったり歩いたりは難しいだろうがな」

猟師2「そしたらあの娘、俺たちを人〇し呼ばわりだ。熊に襲われたショックが精神的に相当きてるのかもしれねえ…早く保護してやってくれ」

曜「……彼女と話をしてみます」

104: 2020/11/07(土) 14:19:22.71 ID:U4kBRI9e
曜「…かすみちゃん、ちょっといいかな」

かすみ「何ですか曜せんぱい…先に言っておきますけど、かすみんはここから動きませんからね!」

かすみ「しず子を守るって決めたんですから!」

曜「……かすみちゃんは、しずくちゃんをどうしたいのかな」

かすみ「……どうしたいもこうしたいもありません。しず子には、ただ生きてほしいだけです」

かすみ「人間のときも熊のときも、しず子はしず子なんです。皆さんからすればただの熊にしか見えないかもしれませんが…かすみんにとって、かけがえのない友達なんです」

曜「…そっか。でもそれは、かすみちゃんの意見だよね」

曜「しずくちゃん本人は、本当に熊として生きたいって思ってるのかな?」

かすみ「……何が言いたいんですか、曜せんぱい」

曜「私だったらイヤだなぁ。こんな薄暗い林の中で生活してさ。いつだって怖がられて、恐れられて、疎まれて、拒まれて、憎まれて、嫌われて。時には追われて、迫害されて、逃げて、隠れて、死に臆して、死を望まれていて。親もいなくて、友達もいなくて、一人ぼっちで、孤独で」

曜「そんな生活を、しずくちゃんが本当に望んでると思う?」

105: 2020/11/07(土) 14:53:13.42 ID:U4kBRI9e
かすみ「……なんで、そんな意地悪なこと言うんですか…?曜せんぱい…」

曜「……」

かすみ「そんな生活がイヤなことくらい、しず子が望んでないことくらい、かすみんだって分かりますよ…」

曜「でも、かすみちゃんはしずくちゃんに生きてほしいって思ってる。それはつまりさ、そういう寂しい生活を送れって言ってるようなもんじゃないの?」

かすみ「違います…かすみんは…そんなこと……」

曜「ここで野放しにされたら、夜な夜な襲われる娘がこれからもっと増えるだろうね。町の人たちの警戒態勢も今以上に厳重になる。駆除の要請もバンバン増えてさ、しずくちゃんの居場所はどこにも無くなって、ここで生き抜いていくことはどんどん難しくなるだろうね」

曜「それならいっそ、今のうちにーーー

かすみ「もういいですよ!!!」

曜「……」

かすみ「何なんですかさっきから!!何が言いたいんですか!?曜せんぱい!!」

かすみ「ここでしず子を明け渡せってことですか!?町の平和のために見〇しにしろってことですか!?」

曜「……そんなことは言ってないよ」

かすみ「じゃあ、どうすればいいんですか!!!」

106: 2020/11/07(土) 15:18:32.82 ID:U4kBRI9e
かすみ「分かってますよ!!私の言ってることがチグハグなことくらい!!」

かすみ「しず子には生きてほしいけど、熊として生きてほしくない」

かすみ「矛盾してるなんてことくらい分かってますよ!!」

かすみ「でも、しょうがないじゃないですか!!しず子はもう熊なんだから!!」

かすみ「熊になっちゃったんだから、もう今更どうにもこうにもならないじゃないですか!!」

かすみ「もうしず子は人間には戻れないんですから!!」

曜「……」

かすみ「……私だって!しず子が人間だった頃に、戻りたいですよ…!」

ーーーしずく(かすみさん?)

かすみ「もっと一緒に練習して」

ーーーしずく(うん、かすみさんのライブはやっぱり可愛くって…凄いって思った)

かすみ「曲とか歌とか踊りのことで、もっとお話しして」

ーーーしずく(またイタズラして~…かすみさん、めっ!)

かすみ「もっと遊んで、もっとお出かけして」

ーーーしずく(怖かったけど頑張ったね。かすみさん、なでなで)

かすみ「くだらないことで喧嘩したら、仲直りして、またくだらないことで喧嘩して」

ーーーしずく(かすみさん、今日は演劇部はお休みなのでどこか寄ってから帰りましょうか)

かすみ「そんな風にしず子とまた過ごせるなら、そうしたいですよ!!」

ーーーしずく(かすみさん)

かすみ「しず子は、同好会のメンバーですから!!」

かすみ「私の親友なんですから!!」

曜「……そっか」

109: 2020/11/07(土) 15:54:13.38 ID:U4kBRI9e
曜「ねえ、かすみちゃん」

かすみ「…何ですか、曜せんぱい」

曜「今、かすみちゃんは『しず子が人間だった頃に、戻りたい』って言ったよね」

かすみ「…はい、そう言いましたけど…」

曜「ってことはさ、しずくちゃんを元にーーー人間だった頃に戻してあげれば、まだ何とかなるんじゃないかな」

かすみ「え…?」

曜「確かに過ぎていった時間を帳消しには出来ないけど…けも今からでも始められれば、けして遅すぎることないんじゃないかな?」

曜「練習も、お出かけも、喧嘩も、仲直りも、二人が居れば、これからいくらだって出来るんだから」

かすみ「よ、曜せんぱい…?何言ってるんですか…?」

曜「……私ね、ここに来る前に、ちょっとした連絡が入ってさ」

曜「『私の目で見て確かめたい事があるから、Hunterと鉢合わせしたら、少しでも時間を稼いでほしい』って」

ロロロ…………

曜「その人が到着するまでの時間稼ぎ。折角だからその時に、かすみちゃんの本心を確かめたかった」

曜「少し強い言葉を使うことになってでも、かすみちゃんのしずくちゃんへの想いを知りたかった」

ブロロロロロ……

猟師1「何ですかあれは…?こっちに近付いてきてますね」

猟師2「ヘリコプターか…?」

ブロロロロロロロロロ

曜「かすみちゃんの想い……すごく響いたよ。かすみちゃんは、本当にしずくちゃんのことが好きなんだなって」

曜「だから、この娘達は助けてあげなきゃいけないって、改めて思ったよ」

ブロロロロロロロロロロロ

曜「かすみちゃんの言葉を借りるなら……合格!」

バタンッ



「チャオー!曜、かすみ、しずく!Hunterの足止めは大丈夫そうかしら?」

111: 2020/11/07(土) 16:26:39.81 ID:U4kBRI9e
かすみ「えっ…?ま、鞠莉せんぱい…?」

鞠莉「って!かすみんの服がburstしてるじゃないの!しずくも横になってるし!」

曜「ごめん鞠莉ちゃん。しずくちゃんは致命傷を受けてないから、大丈夫だとは思うけど」

鞠莉「油断は禁物よ?今のしずくの体の状態は精密に検査してみないと判断がつかないんだから」

曜「あれ?ところで果南ちゃんとダイヤさんは?」

鞠莉「果南とダイヤは虹ヶ咲に少し用があって、先にそっちに寄ってからこっちに向かってるわ。果南の水上バイクで」

鞠莉「時間的にはそろそろ着く頃合いじゃないかしら?

曜「そっかそっか」

かすみ「あの…鞠莉せんぱい、どうしてここに…」

鞠莉「あら?曜から聞いてない?マリーの目で確かめたい事があるって」

かすみ「確かめたいこと…ですか?」

鞠莉「イェース!かすみの隣に居るのがしずくね、ちょっとお顔見ていいかしら?」

かすみ「あっ…ダメ!無闇に近付いたら危ないです!鞠莉せんぱい!」

鞠莉「no problemよ、かすみ。だってこの子はしずくでしょ?」

かすみ「でも、今のしず子は、熊で…」

鞠莉「……『熊』、ねえ」

鞠莉「まあいいわ、ちょっとお顔持ち上げるわよ~よいしょっ」

しずクマ「ガゥゥ…アゥ…」

鞠莉「……ふぅーむ、なるほど。まあ大体、予想通りね」

かすみ「…予想通り?」

鞠莉「ねえかすみ?マリー、曜から話を聞いて疑問に思った事があるの」

鞠莉「あの失踪が起きたあの日、人間だったしずくはいつのまにか熊になってしまった、みたいだけど…」

鞠莉「人間が熊になる、なんてこと、あり得るのかしら?」

かすみ「……え?」

鞠莉「しずくを処置したいから手短に話すわ」


鞠莉「桜坂しずくは熊になんかなってない。人間のまま、この数ヶ月を生きてきたの」

116: 2020/11/07(土) 17:21:12.46 ID:U4kBRI9e
鞠莉「失踪事件の発端となったあの日、とある事情からしずくはホテルを飛び出した」

鞠莉「その事情は私には確信をもって答えられない。推測するなら、部の活動に対する反発心、同好会に対する罪悪感、そういった積もりに積もったストレスが爆発した結果なのかもしれない」

鞠莉「私が知りたいのはそのあと、つまり、ホテルを飛び出したしずくの身に何が起きたのか。説明の便宜上、身体面と精神面に分けて考えてみるとしましょうか」

鞠莉「まず身体面。昔と今のしずくの容姿を比較して一番変わった箇所は何ですかって問われたら、十人中十人が毛量って答えるでしょうね」

鞠莉「しずくの髪の毛はダークブラウン。頭部だけじゃなく全身に毛が生えたなら、彼女が人間よりも熊のように見えたっておかしくないと思わない?」

鞠莉「ところで、体毛と男性ホルモンには大きな関係があるってのはご存知かしら?一般的に女性は体毛が薄いと言われてるけど、体毛が濃い女性もいる。その違いは男性ホルモンが多く分泌されるか否か、がカギを握っているそうよ」

鞠莉「つまり桜坂しずくの身体面は、失踪を機に、ホルモンバランスが大きく乱れ、男性ホルモンが異常なまでに分泌され、熊のような外見に至ったんじゃないかしら?」

鞠莉「そう考えれば、今までは無かったはずのpenisが生えても不思議じゃない。まあ、陰核が大きくなってpenisみたいに見える可能性もあるけど。実際、ホルモンバランスの異常によって後天的に性機能が変化するケースも確認されてるわ」

鞠莉「ホルモンバランスの乱れの主な原因は過剰なストレスと言われているの。ただし、いくらホルモンバランスの異常とはいえ、1日や2日で起きる変化とは考えにくい。……おそらく、しずくが失踪してから2~3ヶ月は経って、今の姿になったと考えられるわ」

120: 2020/11/07(土) 18:06:52.61 ID:U4kBRI9e
鞠莉「じゃあ、しずくの精神面には何が起きたのか。その説明に入るけど……かすみちゃんは『二重人格』って知ってる?」

鞠莉「二重人格。正式には、解離性同一性障害。心に強いストレスを受けたときに、自分の心を守るために、自分ではないもう一人の人格を自分の中に作り上げる、重大な精神障害の一つね」

鞠莉「……その人が今まで生きてきた中で得た知識や記憶、知覚、そこから培われたアイデンティティが、その人本来の人格。しずくのケースで言えば、昨晩かすみと喋っていた時のしずくが、しずく本来の人格と言えるんじゃないかしら」

鞠莉「一方で、失踪事件を境に表出したのが、彼女の熊としての人格。桜坂しずくを守るために作られた別人格」

鞠莉「ーーーおそらく、同好会のことも、部のことも、そのしがらみ全てから逃れたいという彼女の弱さを正当化する意味合いを込めて、『自分のことを熊だと思い込んでる人格』が生まれたのかもしれないわね……」

鞠莉「え?しずくが似たようなこと言ってた?」

鞠莉「……ふむぅ。『猛獣』、ねぇ…。流石演劇部ね。自分とは違う誰かを演じることに長けただけあって、自己人格には人一倍理解が進んでいる」

鞠莉「もし彼女が……部からの強制命令で演劇部をやめることにならなければ……失踪事件なんて起きなかったのかもしれないわね」

122: 2020/11/07(土) 18:39:08.32 ID:U4kBRI9e
かすみ「……えーーっと…」

鞠莉「要するに、身体面ではホルモンバランスの異常な乱れから生じる外見の変化と、精神面では自分の逃避行を正当化する別人格の形成」

鞠莉「その両方の原因だと推測されるのが、耐え切れないほどのーーー普通の人間だったら、自〇してもおかしくないほどの、過剰なストレス」

かすみ「ストレス……」

鞠莉「……同じスクールアイドルの仲間として、あの時に彼女を救えなかったことが、本当に悔やまれるわ」

かすみ「……鞠莉せんぱい」

鞠莉「…それでも、しずくは強かな子よ。こうして彼女は生きているんだから」

かすみ「だけど…鞠莉せんぱい。しずくが人間だったとしたら、食事はどうしてたんですかね…?」

鞠莉「ふむぅ…、食欲不振だったとしてもおかしくないわね。水と草木さえあれば生きることができたのかも」

鞠莉「それか、食欲に代わる何かで自分の欲求を満たす事ができたのかも。たとえば……性欲」

かすみ「……」

ーーーーー(回想)ーーーーー

しずクマ「いただきます♡♡♡(やらしい声)」

や、や、や、アーーーーッ!

ブチュチュチュチュチュチュチュ(自主規制)

しずクマ「ふぅ…ごちそうさまでした♡♡♡」

ーーーーー(回想 終わり)ーーーーー

かすみ「……なるほどですね」

鞠莉「納得いったかしら?」

かすみ「はい」

135: 2020/11/07(土) 22:22:34.33 ID:U4kBRI9e
かすみ「えっと、じゃあ…今ここにいるしず子は、熊になんかなってない、ってことですか…?」

鞠莉「マリーの推測ではね。これからDNA検査でもすれば明らかになるとは思うけど」

かすみ「……じゃあ、しず子は…しず子は、人間に戻れるんですか?」

かすみ「今までみたいな生活を送れるように……なるんですか?」

鞠莉「of course!小原グループが責任を持って治療してみせるわ!」

かすみ「しず子が…元に、戻れる…」

曜「ふふっ、良かったね、かすみちゃん」

かすみ「……うぁ、……あ」ポロッ…ポロッ…

かすみ「ありがどぅござぃまず…!!」ポロポロポロ…

かすみ「しず子…!人間に戻れるよ……同好会に、戻れるんだよ!」

しずクマ「……ガルルルル」

鞠莉「Oh~かすみん、そんなに泣いたら、せっかくの可愛い顔が台無しよぉ?」

かすみ「ひっく…かずみんば…泣いでだって、世界一可愛いでずから…!」

曜「ふふっ、本当だね」


「すみません、大変恐縮なのですが、少しよろしいでしょうか?」

鞠莉「?」

136: 2020/11/07(土) 22:44:13.60 ID:U4kBRI9e
猟師1「あなた方の会話を聞いていて、得心する部分もありました。確かに、今我々が相対してる熊は、普段我々が相対する熊とはかなり差異があります」

かすみ「むぅ…熊じゃなくてしず子です!」

猟師1「しかしそれは全て憶測に過ぎません。その熊が熊じゃないという決定的な証拠でもない限り、我々は今回引き下がることはできません」

猟師2「駆除対象の熊に被弾させてなお取り逃したとなりゃあ、何かあった時にこっちの落ち度になっちまう。熊狩りとしての信用もガタ落ちだ。それは避けてえ」

かすみ「な、何言ってるんですか!」

曜「そんなの、そっちの勝手な都合じゃんか!」

猟師1「そう、我々の都合です。ですが、我々のような大人が己の仕事を不意にするにあたって、皆さんのような女子供の言葉は信用に値しないのです」

猟師1「今この場で、その熊が熊ではないことを証明してみせてほしいのです」

曜「なんて頭の固い人達なんだ…こういう大人にはなりたくないな…」

かすみ「でも、しず子が熊じゃない決定的な証拠なんて言われましても…」

かすみ「昨日のしず子はかすみんとお喋りできてましたけど、今のしず子はそんな感じじゃないですし…」

曜「……どうしよっか」

137: 2020/11/07(土) 22:53:20.85 ID:U4kBRI9e
鞠莉「あら2人とも?何をそんなに難しく考えてるのよ」

鞠莉「証拠を出せばいいんでしょ?そんなの簡単じゃない」

曜「え?鞠莉ちゃんは、持ってるの?」

かすみ「ただの証拠じゃあいつら引き下がりそうにありませんよ!」

鞠莉「don't worry!マリーに任せなさい!」

猟師1「決定的証拠があるようでしたら呈示していただきましょうか」

鞠莉「Sorry~。実は私の手元には無いのよ~」

猟師2「あ?アンタ何言ってるか分かってんか?」

鞠莉「えぇ、今はまだ、ね」

猟師2「…?」

鞠莉「曜、そもそもはあなたが呼んだのよ?しずくの事に夢中で、あの2人のことすっかり忘れちゃってるんじゃない?」 

曜「…あ!」

「お、お待ちください果南さん!わたくし、もう足が限界で……」

「何言ってるのさダイヤ、頑張ってよ。鞠莉の話だと、この辺にいると思うんだけどな~」

鞠莉「ふふっ、ほんと、タイミング良いんだから」

果南「…お!ビンゴビンゴ。ほらダイヤ、こっちに居たよ」

ダイヤ「はぁ…はぁ…あぁ、鞠莉さんに曜さんにかすみさん。それに熊狩りのお二方も…ご機嫌ようですわ」

138: 2020/11/07(土) 23:40:20.44 ID:U4kBRI9e
鞠莉「ずいぶん遅かったじゃないの」

果南「いやいや、これでもかっ飛ばしてきた方だよ?ま、ダイヤが振り落とされないか心配でスピード落とした所もあるけど」

ダイヤ「あれでスピード落としてたのです…!?ご冗談でしょう…!?」

果南「ダイヤは運転中に叫び過ぎなんだよ。運転してるこっちからしたら気が散ってスピードも出せないよ」

ダイヤ「な…!元はと言えば果南さんがよーし200km/h出そうかとかご冗談を言うからーーー

鞠莉「はーいはい。喧嘩はまた後でやってくれるかしら?今はマリーの見せ場なんだから」

かすみ「果南せんぱいにダイヤせんぱい……鞠莉せんぱいの話だと、かすみんの学園に用があったそうですけど……何かあったんですか?」

ダイヤ「……虹ヶ咲学園から拝借したい物品がありました。皆さんにとってとても大事な物です。事情を説明して特別に許可を得て拝借して参りました」

果南「いやぁ~ダイヤが居てくれて助かったよ。私、バイクとかは運転できるけど、他学校に許可を得る事務処理とかやったことないから」

ダイヤ「まあ、その為に果南さんに同行したようなものですから」

かすみ「かすみん達にとって、大切な…もの?」

鞠莉「ねえダイヤ。一番おいしい役は、折角ならかすみんの方が一番良いんじゃないかしら?」

ダイヤ「ええ、確かにそうですわね。…かすみさん、少しよろしいですか?」

かすみ「は、はい…」

139: 2020/11/08(日) 00:18:12.55 ID:hFGOGsXV
ダイヤ「かすみさん、手をお出しください」

かすみ「えっ…はい」

ダイヤ「こちらを」スッ

かすみ「…!これって…!」

ダイヤ「ええ。もうお分かりでしょう」

かすみ「……どうして、これを」

鞠莉「しずくが熊か熊じゃないかを確かめる証拠として、もし借りることが出来るならば借りておきたかったの」

鞠莉「Hunterの人達がただでは帰れないだろうってことも予想できてたし、その保険としてね」

果南「ほーんと、ちゃっかりしてんなあ」

鞠莉「ねえ、かすみん?もし今のしず子がただの熊なんだとしたら、それを見てどう感じるかしら?」

かすみ「……何にも感じないと思います」

鞠莉「じゃあ、ただの熊じゃなかったら?」

かすみ「……それは、しず子に聞いてみないと、分かんないです」

鞠莉「そう。じゃあ、しずくに聞いてみれば?」

かすみ「…はい!」

曜「頑張れ、かすみちゃん」

かすみ「はい!」

143: 2020/11/08(日) 01:52:08.61 ID:hFGOGsXV
しずクマ「ガルルルル…」

かすみ「ねえ、しず子」

かすみ「かすみんは、しず子がしず子だって、ちゃんと分かってるよ」

かすみ「てっきりしず子が熊になっちゃったとばかり思ってたから、鞠莉せんぱいの話にはびっくりしちゃったけど……」

かすみ「でも、しず子が元に戻れるって聞いて、かすみん安心した!」

しずクマ「……グゥルルル…」

かすみ「ねえ、しず子?昨日かすみんに、今でも時々夢を見るって話してくれたよね?」

かすみ「同好会の皆んなと、練習が始まるまで部室でお喋りしてる時の夢」

かすみ「一緒に練習してる時の夢。練習が終わって皆んなで寄り道してる時の夢」

かすみ「休日に皆んなと遊んでる時の夢。μ'sやAqoursの皆んなも交えてお出かけしている時の夢」

かすみ「イベントが始まる前の控え室で話してる時の夢。お客さん達の前に出て曲を披露してる時の夢」

かすみ「そして、放課後に部室に向かってる時の夢を見るって」

かすみ「……でもそれは、かすみんにとってもしず子にとっても、こないだまでは現実なんだよ」

かすみ「かすみん達は今、悪夢の中にいるんだ」

しずクマ「………」

かすみ「もう夢から醒めようよ。現実に戻ろう」

かすみ「ひとりぼっちで夢見るんじゃなくて、皆んなで現実を見よう」

146: 2020/11/08(日) 10:13:53.63 ID:hFGOGsXV
かすみ「いつまでも夢の中に逃げてちゃダメだよ、しず子」

かすみ「そりゃ現実は、良い事ばっかりじゃないけどさ」

かすみ「痛い事も、悲しい事も、理不尽な事も、もちろんあるよ」

かすみ「でも、現実には皆んながいる」

かすみ「独りで背負いこまないで、皆んなで分かち合えるから」

しずクマ「…………」フルフル

かすみ「心配ないよ、しず子。きっと皆んな歓迎してくれる」

かすみ「しず子と同好会の皆んなとの絆は、ほどけてなんかいなくて、今も結ばれているんだから」

かすみ「だって、ほら、見て」スッ

しずクマ「……!」

かすみ「覚えてる?ずっと部室に保管しておいたんだよ」

離れ離れになった私たちが結ばれるために。纏まるために。

桜坂しずくの居場所は同好会にあるんだと知らしめるように。

いつの日か元の形の私たちの姿に戻れるように。

そう願いを込めて。

かすみ「そう、これはね、しず子が失くしたリボン。しず子がすっごく大事に使ってたリボン」

桜坂しずくという少女のトレードマークだったリボンは、今となっては彼女と同好会をつなぐ絆そのもので。

もし目の前の熊がただの熊だったら、食べ物でもないリボンに興味を示すことはないだろう。

もし目の前の熊がただの熊じゃなかったらーーーー。




ポロッポロポロッ

しずクマ「ガゥゥゥゥゥ…」ポロボロ…

かすみ「しず子…」

かすみ「泣かないでよ…かすみんも泣いちゃうじゃんかぁ……うえええええん」ポロッ…ポロッ…

147: 2020/11/08(日) 10:21:24.15 ID:hFGOGsXV
鞠莉「ねえ、Hunterさん。マリーは熊の専門家じゃないからよく分からないんだけど」

鞠莉「どうしてただの熊がリボンを見て涙を流すことがあるのかしら?」


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148: 2020/11/08(日) 10:53:02.85 ID:hFGOGsXV
◆ 虹ヶ咲学園 同好会部室 ◆

栞子「中島敦の『山月記』…ですか?はい、もちろん知ってますよ。高等学校の教科用図書にも指定されてますし、数ある中島作品の中でも特に有名なんじゃないでしょうか」

かすみ「ふーん…そうなんだ。かすみんも読んでみたらいいよってこないだ梨子せんぱいにオススメされててさ」

璃奈「私も、授業で読んだ。漢文だから、読み解くのが難しかったけど」

璃奈「一番難しかったのは、『臆病な自尊心と尊大な羞恥心』ってところ。最初に読んだときは、スーッと頭に入ってこなかった」

栞子「自尊心と羞恥心……両者が同時に存在することは、一見矛盾しているように見えて、実は今を生きる私たちにも共感できる心理状態だと思います」

璃奈「自分のプライドが傷つくのが怖い気持ち。恥から逃げるために虚勢をはりたがる気持ち。……こう考えると、すごく分かる」

かすみ「……うーん。かすみんには難しそうだなあ」

栞子「ところでかすみさんは、ご存知なかったのですか?おそらく授業でやっているはずですが」

かすみ「へ?」

璃奈「まさか、かすみちゃん、居眠り……」

かすみ「わわっ。しお子の前で余計なこと言わないでよ、りな子!」

栞子「……全く、そのようでは、しずくさんに怒られてしまいますよ」

かすみ「うう…」

璃奈「璃奈ちゃんボード『かすみさん、メッ!』」

149: 2020/11/08(日) 11:25:35.02 ID:hFGOGsXV
愛「『山月記』かー、また懐かしい作品もってくるねぇ、かすかす」

かすみ「かすみんです!」

歩夢「懐かしいといえば懐かしいけど、2年生の時に授業で出てきたから、記憶に新しい方ではあるかな」

せつ菜「高校生なら全員が通る道ですからね!おそらく彼方さん達も知ってると思いますよ!」

かすみ「うーん……果林せんぱいが話を覚えてる気ががしませんが…」

せつ菜「失念してました!」

歩夢「エマさんの話だと、果林さんの教科書、新品同然だったらしいからね…卒業前だったのに…」

愛「んー、でも『山月記』かー。授業で読んだっきりで、愛さん的にはあんまり読み返したいとは思わないかなー」

かすみ「何でですかぁ?」

愛「愛さん、あーゆーバッドエンドって、得意じゃないんだよねー。最後、主人公が虎として吼えてる光景を、その親友が遠くから泣きながら眺めるって所で終わりじゃん?後味悪いなーって思って」

せつ菜「いやいや、愛さん。バッドエンドと決めつけるのは早いですよ。主人公は自分の思いの丈を全て吐き切って、心配事も親友に託したことで、心置きなく虎になれた」

せつ菜「つまり、主人公にとっては救いの物語、ハッピーエンドとも解釈できるんじゃないでしょうか。最後の雄叫びは一種の決意表明でもあるんです」

歩夢「…でも、残された親友からすればハッピーエンドじゃないと思うよ。昔の友達が人食い虎になってて、話をきいたり頼み事をしたりして、主人公は報われたかもしれないけど、親友からすれば救いがないよ。だから最後の場面、雄叫びを聞いて泣いちゃったんだと思う」

かすみ「むぅ…やっぱりかすみんには難しそうですねぇ」

ガチャッ

部長「ごめん、遅くなった!」

150: 2020/11/08(日) 11:51:18.04 ID:hFGOGsXV
かすみ「あーん!♡せんぱい!♡すきすき!♡」

愛「我が部長はどう思ってるんだろうねぇ」

せつ菜「確かに気になりますね!」

部長「ん?なに?なんの話?」

歩夢「ふふっ、実はね…」


部長「『山月記』かあ、懐かしいね。まあ私も愛さんと同じバッドエンドかなとは思ってたけど……、でも、主人公はハッピーエンドを迎えたっていうせう菜ちゃんの解釈も一理あるかな」

歩夢「わ、私のはどうかな?」

部長「歩夢ちゃんの考え方も大事だと思う。残された側は確かにつらいもんね」

歩夢「私の考え方は大事……私のことが大事……もう、あなたったら♡」

愛「歩夢、どうどう」

部長「そう考えると一番しっくり来るのは、『メリーバッドエンド』って解釈かなぁ」

かすみ「マリーバッドエンド?」

部長「マリーじゃなくてメリー。あんなに懇意にしてくれた鞠莉さんを曇らせちゃうよ」

部長「簡単に言っちゃえば、メリーバッドエンドっていうのは、物語の解釈の仕方によってハッピーエンドにもバッドエンドにもなる終わり方のことなんだよね」

部長「たとえば、主人公の視点だと、心置きなく虎として生まれ変わるハッピーエンドで終わる。でも、親友の視点だと、その主人公の境遇に胸を痛めるバッドエンドで終わる」

部長「だから、どっちかが正しくて、どっちかが間違ってるんじゃないて、どっちも正解なんじゃないかな」

151: 2020/11/08(日) 12:28:22.87 ID:hFGOGsXV
かすみ(こうして、現3年生の皆さんで盛り上がりを見せた、ハッピーエンドかバッドエンド論争は、先輩のメリーバッドエンドという解釈で、決着が着いたそうです)

かすみ(かすみんは読んでないので議論に参加する資格はなかったと思いますが、率直な感想を言わせてもらうならば、愛せんぱいの考え方に基本的に賛成です)

かすみ(かすみんも、後味の悪い話とか、バッドエンドは好きじゃありません。子供の頃に読んだ『泣いた赤鬼』とか、悲しすぎて大泣きした記憶があります)

かすみ(たとえ物語がハッピーエンドとして終わったとしても、バッドエンドを迎えてる人が居るとしたら、それは本当にハッピーエンドと言えるのでしょうか?)

かすみ(かすみんのこのモヤモヤに、演劇を通してハッピーエンドにもバッドエンドにも精通してるであろう彼女なら、なんて答えるのでしょうか)

コツンコツン

部長「…!この足音は…!」

かすみ(…まあ、長々と思考をはり巡らせてみましたが、実のところ、かすみんはどっちだっていいんです)

かすみ(今のかすみんにとっては、物語なんかよりも、現実の方がよっぽど大事なんですから)

コツンコツン

かすみ(物語は、ハッピーエンドやらバッドエンドやら色々あって良いと思いますけど、)

かすみ(現実は、全ての人がハッピーエンドを迎えてほしいものです。誰一人バッドエンドに終わることなく)

コツンコツン

かすみ(だから、やってみせましょう)

かすみ(この騒動に、事件に、錯綜に、ハッピーエンドという終止符を打ってみせましょう)

かすみ(言いたくて言いたくて仕方なかった、かすみんの言葉を添えてーーー)

ガチャッ

かすみ「もーう遅いよ、皆んなしず子待ちだよ?」

しずく「……ただいま、かすみさん。同好会の皆さん」

かすみ「おかえり、しず子」

152: 2020/11/08(日) 12:30:12.96 ID:hFGOGsXV
くぅ~疲れました!これにて終わりです

当初の予定から大きく変わってるので別ルートは書かないかもしれません
これで一応完結とさせていただきます

本当にありがとうございました!

153: 2020/11/08(日) 12:32:31.07 ID:pReTBD3Y
お疲れ様でした。
これは名作

154: 2020/11/08(日) 12:33:42.05 ID:AsArE0SZ
乙!
これは名作!!

156: 2020/11/08(日) 13:11:09.36 ID:3VL9G+JA
乙です
素晴らしかった!

157: 2020/11/08(日) 13:14:59.07 ID:CRcOMVR+
名作をありがとう

158: 2020/11/08(日) 13:23:27.94 ID:k4MSI1v2
あんた 化け物と グルだったとはな!

159: 2020/11/08(日) 14:18:08.57 ID:76H+DBS+
ありがとナス!名作だったゾ

160: 2020/11/08(日) 16:07:04.08 ID:xTrX9+8b
お疲れ様!
当初の展開とルート分岐が気になるな

164: 2020/11/08(日) 21:38:31.59 ID:hFGOGsXV
>>160
当初の展開だと
甲ルート→しずクマがかすみを庇って銃〇エンド
乙ルート→イチャラブしてたら山の神となったくまみこエンド
という風にバッドエンドとハッピーエンドで考えてました

ただバッドエンドを書くのがかすみ推し兼しずく推しとして滅茶苦茶辛かったのと、イチャラブが23のようにギャグ描写になる下手さだったので、急遽鞠莉たちを出して甲ルートをハッピーエンドに無理やり変えた次第です

鞠莉の推理パートのくだりは当初全く予定になったのでおそらく穴があると思うけど笑って許してゾ

167: 2020/11/08(日) 22:18:49.99 ID:e2/BYI4m
>>164
レスサンクス!
しずくが帰ってくるエンドで良かった…
最近ツラいSSが多いからハッピーにまとまって良かったよ

162: 2020/11/08(日) 20:41:57.17 ID:j4pbhuKe
これはいいクマかすSS

168: 2020/11/08(日) 23:59:47.36 ID:YqlItbKd
完結乙
山月記のパロディで話が進んでたから終盤の展開にはやられたぜ

本筋とは外れたとこだとせっつーの「山月記は李徴のにとって救いの物語」ってハッピーエンドの解釈も目から鱗だわ

172: 2020/11/09(月) 12:13:13.43 ID:9HNxeAoZ
20章の反動で感動系のしずかすSSが最近増えてウレシイ…ウレシイ…

引用元: https://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1604583097/

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