2: 2021/02/16(火) 23:29:27.01 ID:6IGebzoW
昔から私の親は厳しかった。
幼い私に将来医者を継がせる為にたくさん勉強させて、ピアノや色んな習い事をさせて、常に優秀でいなさいって。
自分の時間なんて全然無かったように思える。
だからあの子と2人で遊んだ事は私の特別な思い出。
毎日一緒だった訳じゃない。会ったのはたった数回だけだった気もするし、数え切れない程だった気もする。
弱虫で泣き虫なあなた。
そんな手間のかかる所だって、兄妹のいない私に妹ができたみたいですごく愛らしかった。
そんなあなたの隣を、私は一緒に歩きたかったの。
幼い私に将来医者を継がせる為にたくさん勉強させて、ピアノや色んな習い事をさせて、常に優秀でいなさいって。
自分の時間なんて全然無かったように思える。
だからあの子と2人で遊んだ事は私の特別な思い出。
毎日一緒だった訳じゃない。会ったのはたった数回だけだった気もするし、数え切れない程だった気もする。
弱虫で泣き虫なあなた。
そんな手間のかかる所だって、兄妹のいない私に妹ができたみたいですごく愛らしかった。
そんなあなたの隣を、私は一緒に歩きたかったの。
4: 2021/02/16(火) 23:31:10.86 ID:6IGebzoW
「真姫、勉強しなさい」
ママもパパも、一人娘の私にいつもそう言う。
だからって2人の事が嫌いなわけじゃない。
でも私は年相応に遊びたかった。たまに外で見る、公園で走り回る同年代の子供をいつも羨ましく思った。
「真姫、遊んできなさい」
初めてそう言われた時、私はどうしていいかわからなかった。
私は状況を飲み込めないまま、一緒に放り出された同い年の子供の顔を覗き込んだんだのを覚えてる。
両親と付き合いがあるという家の一人娘。私の家と同じで、厳しい親の元で育ったんだと思った。
でもこの子は私とは全然違う。
彼女はこの状況に、何故か泣いていた。
ママもパパも、一人娘の私にいつもそう言う。
だからって2人の事が嫌いなわけじゃない。
でも私は年相応に遊びたかった。たまに外で見る、公園で走り回る同年代の子供をいつも羨ましく思った。
「真姫、遊んできなさい」
初めてそう言われた時、私はどうしていいかわからなかった。
私は状況を飲み込めないまま、一緒に放り出された同い年の子供の顔を覗き込んだんだのを覚えてる。
両親と付き合いがあるという家の一人娘。私の家と同じで、厳しい親の元で育ったんだと思った。
でもこの子は私とは全然違う。
彼女はこの状況に、何故か泣いていた。
7: 2021/02/16(火) 23:33:51.60 ID:6IGebzoW
「ねぇ、なんで泣いてるの」
私が何か悪いことしたみたいじゃない!って、柄にもなくオドオドしながら彼女の背中をさすってあげた。
彼女は何か言おうとしているが、どうしても言葉に詰まっているようだった。
「ねぇ、私あなたに何かした?」
つい言葉が強くなってしまった。
すると彼女はビクッとして、一層シクシク泣き始めた。
埒が明かない。そう思った私は彼女をリビングに連れて行き、テーブルに置いてあったクッキーを彼女の小さな口に押し込んだ。
彼女は泣きながらムシャムシャと口を動かし、飲み込む頃には涙も止んでいた。
「…おいしい」
ぎこちない笑顔で答える彼女が、途端に愛くるしく感じた。
だから私もぎこちない笑顔で
「でしょ?」
って言ったと思う。
これが私とあなたの出会い。
私が何か悪いことしたみたいじゃない!って、柄にもなくオドオドしながら彼女の背中をさすってあげた。
彼女は何か言おうとしているが、どうしても言葉に詰まっているようだった。
「ねぇ、私あなたに何かした?」
つい言葉が強くなってしまった。
すると彼女はビクッとして、一層シクシク泣き始めた。
埒が明かない。そう思った私は彼女をリビングに連れて行き、テーブルに置いてあったクッキーを彼女の小さな口に押し込んだ。
彼女は泣きながらムシャムシャと口を動かし、飲み込む頃には涙も止んでいた。
「…おいしい」
ぎこちない笑顔で答える彼女が、途端に愛くるしく感じた。
だから私もぎこちない笑顔で
「でしょ?」
って言ったと思う。
これが私とあなたの出会い。
8: 2021/02/16(火) 23:36:14.84 ID:6IGebzoW
友達なんてできた事のなかった私は、彼女とうまくやれてたのかわからなかった。
距離感のわからない私はすぐに彼女にキツい事を言ってしまう。そして弱虫の彼女はすぐに泣き出す。
こんなんじゃ私は嫌われたって仕方ないハズなのに、彼女は会う度に私に懐いてくれた気がする。
「真姫ちゃんは将来何になりたいの?」
出会ってからしばらく経ったある日、彼女は唐突にこんな事を聞いてきた。
「私はお医者さんになるって決まってるの」
至極当たり前って顔で返したと思う。
小さい頃からパパにそう言われてきたし、私にそれ以外の選択肢なんて無いと思っていたから。
でも私のその答えを聞いて、彼女はムッとした。
距離感のわからない私はすぐに彼女にキツい事を言ってしまう。そして弱虫の彼女はすぐに泣き出す。
こんなんじゃ私は嫌われたって仕方ないハズなのに、彼女は会う度に私に懐いてくれた気がする。
「真姫ちゃんは将来何になりたいの?」
出会ってからしばらく経ったある日、彼女は唐突にこんな事を聞いてきた。
「私はお医者さんになるって決まってるの」
至極当たり前って顔で返したと思う。
小さい頃からパパにそう言われてきたし、私にそれ以外の選択肢なんて無いと思っていたから。
でも私のその答えを聞いて、彼女はムッとした。
9: 2021/02/16(火) 23:38:48.78 ID:6IGebzoW
「真姫ちゃんは自分の気持ちでやりたいって思う事はないの?」
何故か正座をして、まるでママみたいに鋭い目で問い詰めてくる。
「だからお医者さんになりたいんだってば」
「本当に?」
「本当に」
すると彼女は少し残念そうにして、一言放った。
「お医者さん、忙しいんだって」
「知ってるわよ、パパはいつも忙しそうだもん」
「真姫ちゃんがお医者さんになったら、私たちあんまり遊べなくなっちゃうね」
バカみたい。その頃には大人なんだから、今みたいに好き勝手に遊べるわけないでしょ?
そう思ったけど、あまりにも寂しそうで泣きそうな目になる彼女を見ると、心が暖かくなった。
「もう、バカなんだから」
抱き寄せて背中をさすってあげると、「バカじゃないもん」って言われた。
2人でクスクス笑った。
何故か正座をして、まるでママみたいに鋭い目で問い詰めてくる。
「だからお医者さんになりたいんだってば」
「本当に?」
「本当に」
すると彼女は少し残念そうにして、一言放った。
「お医者さん、忙しいんだって」
「知ってるわよ、パパはいつも忙しそうだもん」
「真姫ちゃんがお医者さんになったら、私たちあんまり遊べなくなっちゃうね」
バカみたい。その頃には大人なんだから、今みたいに好き勝手に遊べるわけないでしょ?
そう思ったけど、あまりにも寂しそうで泣きそうな目になる彼女を見ると、心が暖かくなった。
「もう、バカなんだから」
抱き寄せて背中をさすってあげると、「バカじゃないもん」って言われた。
2人でクスクス笑った。
10: 2021/02/16(火) 23:41:20.40 ID:6IGebzoW
「最近あの子、ウチに来ないよね」
最後に会ってから数ヶ月経つ。
話したい事がたくさんできたし、はやく会って遊びたい。
今日も彼女の母親だけが、ママとお喋りしに家に来ていた。
「そうね、あの子この時間は学校に行ってるから…前みたいにしょっちゅう来れないの」
「そうなんだ…」
「こら真姫、目上の人にはちゃんと敬語使いなさい」
「はーい」
「もう…ほら、勉強してきなさい」
勉強なんてする気になれなかった。
あの子に会いたいなって、それで頭がいっぱいだった。
最後に会ってから数ヶ月経つ。
話したい事がたくさんできたし、はやく会って遊びたい。
今日も彼女の母親だけが、ママとお喋りしに家に来ていた。
「そうね、あの子この時間は学校に行ってるから…前みたいにしょっちゅう来れないの」
「そうなんだ…」
「こら真姫、目上の人にはちゃんと敬語使いなさい」
「はーい」
「もう…ほら、勉強してきなさい」
勉強なんてする気になれなかった。
あの子に会いたいなって、それで頭がいっぱいだった。
11: 2021/02/16(火) 23:44:46.21 ID:6IGebzoW
そんなある日、ママと買い物に行った帰りのこと。
騒がしい近所の公園をいつものようにチラッと覗いた。
通りがかりの一瞬だったけど、私にはハッキリ見えた。
私じゃない、他の友達と遊ぶあなたの姿が。
眩しいくらいに笑顔のあなたは、まるで私のことなんて忘れたみたいで。
私はずっと会いたかったのに、あなたは私を置いてどこかに行ってしまったみたいで。
私はまたひとりぼっちになった気がして、あなたの事を考えるとなんだか気分が沈むようになった。
だから忘れようって思ったの。
騒がしい近所の公園をいつものようにチラッと覗いた。
通りがかりの一瞬だったけど、私にはハッキリ見えた。
私じゃない、他の友達と遊ぶあなたの姿が。
眩しいくらいに笑顔のあなたは、まるで私のことなんて忘れたみたいで。
私はずっと会いたかったのに、あなたは私を置いてどこかに行ってしまったみたいで。
私はまたひとりぼっちになった気がして、あなたの事を考えるとなんだか気分が沈むようになった。
だから忘れようって思ったの。
13: 2021/02/16(火) 23:48:27.96 ID:6IGebzoW
それからしばらく勉強を頑張って、私は私立の小学校に入った。
医者になる為の第一歩だって、パパはすごく喜んでくれた。
小学校でももちろん私の成績はいつも一番。
運動はマチマチだったけど、私は優秀でいつも褒められた。
だけどそんな私には何故か友達ができなかった。今になってみれば理由は何となくわかる。
きっと私のこのツンとした態度は、同年代の皆を怖がらせちゃったんだと思う。
でも私は友達への接し方なんてこれしか知らないから、だからどうしようもなかった。
医者になる為の第一歩だって、パパはすごく喜んでくれた。
小学校でももちろん私の成績はいつも一番。
運動はマチマチだったけど、私は優秀でいつも褒められた。
だけどそんな私には何故か友達ができなかった。今になってみれば理由は何となくわかる。
きっと私のこのツンとした態度は、同年代の皆を怖がらせちゃったんだと思う。
でも私は友達への接し方なんてこれしか知らないから、だからどうしようもなかった。
14: 2021/02/16(火) 23:52:25.85 ID:6IGebzoW
あっという間に時間は過ぎて、中学生になって、私は思春期に入ったんだと思う。
初めて親に反抗したくなった。
親に敷かれたレールから脱線してみたくなった。
私は普通にしてればそのまま進級して高校生になれたけど、家の近くの女子高をわざわざ受験した。
初めはわざわざレベルの低い高校に行くなんてって反対してたパパも、最後に医者になってくれればいいって言って許してくれた。
この頃にはもう、小さい頃の幼馴染の事なんてすっかり忘れていた。
初めて親に反抗したくなった。
親に敷かれたレールから脱線してみたくなった。
私は普通にしてればそのまま進級して高校生になれたけど、家の近くの女子高をわざわざ受験した。
初めはわざわざレベルの低い高校に行くなんてって反対してたパパも、最後に医者になってくれればいいって言って許してくれた。
この頃にはもう、小さい頃の幼馴染の事なんてすっかり忘れていた。
16: 2021/02/16(火) 23:56:15.37 ID:6IGebzoW
「ねぇ!あなたのピアノすっごく上手だね!」
一番苦手なタイプの人間だ。
初対面で名前も知らない相手にズカズカと踏み込んでくる。
放課後の音楽室は静かな場所で好きなだけピアノを弾けるから気に入ってたのに。
でもピアノを褒められるのは、悪い気はしない。
私はピアノを弾くのが好きだから。医者にならなくていいのなら、私はきっと…
顔をあげると、目をまんまるに輝かせた女の子が真っ直ぐ私を見ていた。
「こら穂乃果、いきなり失礼ですよ」
「だって凄かったんだもん!褒める時は褒めなきゃ伸びないよ!」
「何目線なんですかアナタは…」
「まぁまぁ2人とも落ち着いて、ね?」
いきなり目の前で始まった寸劇から目が離せない。
リボンの色が違う?じゃあ上級生?どうして音楽室に?頭がパンクしそうだった。
「あの、私これで失礼します」
逃げてしまった。
「え、ちょっと待っ…もう!海未ちゃんが怒るからだよ!」
「私のせいじゃないでしょう!?」
「2人ともぉ~…」
一目でわかった。多分向こうだって私に気付いてた。
一番苦手なタイプの人間だ。
初対面で名前も知らない相手にズカズカと踏み込んでくる。
放課後の音楽室は静かな場所で好きなだけピアノを弾けるから気に入ってたのに。
でもピアノを褒められるのは、悪い気はしない。
私はピアノを弾くのが好きだから。医者にならなくていいのなら、私はきっと…
顔をあげると、目をまんまるに輝かせた女の子が真っ直ぐ私を見ていた。
「こら穂乃果、いきなり失礼ですよ」
「だって凄かったんだもん!褒める時は褒めなきゃ伸びないよ!」
「何目線なんですかアナタは…」
「まぁまぁ2人とも落ち着いて、ね?」
いきなり目の前で始まった寸劇から目が離せない。
リボンの色が違う?じゃあ上級生?どうして音楽室に?頭がパンクしそうだった。
「あの、私これで失礼します」
逃げてしまった。
「え、ちょっと待っ…もう!海未ちゃんが怒るからだよ!」
「私のせいじゃないでしょう!?」
「2人ともぉ~…」
一目でわかった。多分向こうだって私に気付いてた。
26: 2021/02/17(水) 00:23:26.42 ID:YecnKOaC
考えてみればそうだ。
私が家で勉強してる時、あの子は既に小学校に通ってたんだから。
全然歳上に見えなかったから、私が勝手に同い年だって勘違いしてただけ。
そこまで耐えた冷静な思考はどんどん揺らいでいた。
急に私の前からいなくなって、急に戻ってくるなんて
校門を出たところで誰かに肩を掴まれた。
いや、ほんとは顔を見なくても誰かなんてわかってる。
私が家で勉強してる時、あの子は既に小学校に通ってたんだから。
全然歳上に見えなかったから、私が勝手に同い年だって勘違いしてただけ。
そこまで耐えた冷静な思考はどんどん揺らいでいた。
急に私の前からいなくなって、急に戻ってくるなんて
校門を出たところで誰かに肩を掴まれた。
いや、ほんとは顔を見なくても誰かなんてわかってる。
27: 2021/02/17(水) 00:27:09.44 ID:YecnKOaC
「…あの」
「…何か用?」
振り向いてみる。
そこにはあの頃と変わらず、頼りなさそうな顔をした彼女がいた。
「私、その…えっと」
「…」
出方を伺うような真似をして、私はいつからこんなに卑怯な子になっちゃったのかしら。
「覚えて…たり…」
「…誰よ」
露骨に落ち込む彼女を見て、少し嬉しくなってしまう。
顔に出やすい所は全然変わってないのね。
「嘘、覚えてるわよ海未」
顔をぱあっと輝かせて、「喫茶店でお話しましょう!」なんて言って袖を引っ張ってくる。
なんで敬語?
「…何か用?」
振り向いてみる。
そこにはあの頃と変わらず、頼りなさそうな顔をした彼女がいた。
「私、その…えっと」
「…」
出方を伺うような真似をして、私はいつからこんなに卑怯な子になっちゃったのかしら。
「覚えて…たり…」
「…誰よ」
露骨に落ち込む彼女を見て、少し嬉しくなってしまう。
顔に出やすい所は全然変わってないのね。
「嘘、覚えてるわよ海未」
顔をぱあっと輝かせて、「喫茶店でお話しましょう!」なんて言って袖を引っ張ってくる。
なんで敬語?
28: 2021/02/17(水) 00:29:26.99 ID:YecnKOaC
ほとんど10年は会ってなかったのに、私たちはまだ仲良しのままだった。
聞けば小学校に上がって遊びに行けなくなったのは私が受験を控えてるから親同士が気を使っていたらしい。
「なんだかあの頃の私は、久々に会うというのが恥ずかしくて…怖気付いてしまって」
「そう」
それでズルズルいって、なんと10年。
私は驚いていた。
10年越しの再会にではなくて、実は中身があまり変わっていない海未にではなくて。
私が海未の事を覚えていた事に。
「その、何も変わってませんね」
「高校生になったんだから…さすがに変わったわよ」
「そうですか?そのツンとした感じ、物凄く懐かしいです」
「はぁ?意味わかんない」
話していると、彼女と一緒にいた頃の事が色を着て少しずつ蘇ってきた。
聞けば小学校に上がって遊びに行けなくなったのは私が受験を控えてるから親同士が気を使っていたらしい。
「なんだかあの頃の私は、久々に会うというのが恥ずかしくて…怖気付いてしまって」
「そう」
それでズルズルいって、なんと10年。
私は驚いていた。
10年越しの再会にではなくて、実は中身があまり変わっていない海未にではなくて。
私が海未の事を覚えていた事に。
「その、何も変わってませんね」
「高校生になったんだから…さすがに変わったわよ」
「そうですか?そのツンとした感じ、物凄く懐かしいです」
「はぁ?意味わかんない」
話していると、彼女と一緒にいた頃の事が色を着て少しずつ蘇ってきた。
30: 2021/02/17(水) 00:34:12.95 ID:YecnKOaC
「海未こそ、色々変わったじゃない」
「そうですか?あまり自分では気付かないですが」
「…敬語、それなんなの?」
「え?あ、クセになってしまって」
「誰にでも敬語?」
「誰にでも敬語です」
ちょっとバカなのも変わらない。
お淑やかになっても堅くなっても、私の知ってる海未なんだと思うとなんだかホッとした。
「…さっきの2人は?」
「高坂穂乃果と南ことり、2人とも私の幼馴染です」
『幼馴染』という言葉が少し引っかかった。
2人が幼馴染なら
「だったら」
私は
「私は」
何?
「海未の何?」
「そうですか?あまり自分では気付かないですが」
「…敬語、それなんなの?」
「え?あ、クセになってしまって」
「誰にでも敬語?」
「誰にでも敬語です」
ちょっとバカなのも変わらない。
お淑やかになっても堅くなっても、私の知ってる海未なんだと思うとなんだかホッとした。
「…さっきの2人は?」
「高坂穂乃果と南ことり、2人とも私の幼馴染です」
『幼馴染』という言葉が少し引っかかった。
2人が幼馴染なら
「だったら」
私は
「私は」
何?
「海未の何?」
33: 2021/02/17(水) 00:39:15.74 ID:YecnKOaC
「え?」
らしくない事を言ってしまったと後悔する時間も与えてくれず、海未は馬鹿正直に考え始める。
「確かに、穂乃果とことりより先に知り合ってますから…」
「ていうか」
「え?なんですか?」
答えを聞くのが怖くて遮ってしまった。
「さっきから頑なに私の名前呼ばないの、何?もしかして名前忘れたとか言わないでしょうね」
「あっ、バレてましたか…」
「は?」
「あ!いや、名前はちゃんと覚えてます!西木野真姫です!」
「はぁ」
「その、なんと呼べばいいのか、と…思いまして…」
頬を染めてデレデレして気持ち悪い。
らしくない事を言ってしまったと後悔する時間も与えてくれず、海未は馬鹿正直に考え始める。
「確かに、穂乃果とことりより先に知り合ってますから…」
「ていうか」
「え?なんですか?」
答えを聞くのが怖くて遮ってしまった。
「さっきから頑なに私の名前呼ばないの、何?もしかして名前忘れたとか言わないでしょうね」
「あっ、バレてましたか…」
「は?」
「あ!いや、名前はちゃんと覚えてます!西木野真姫です!」
「はぁ」
「その、なんと呼べばいいのか、と…思いまして…」
頬を染めてデレデレして気持ち悪い。
35: 2021/02/17(水) 00:42:51.78 ID:YecnKOaC
「別に昔みたいに真姫ちゃんでいいじゃない」
「その、キャラではないというか」
「キャラ?」
「誰かにちゃん付けしないんです、あまり」
「なによそれ、意味わかんない」
「それに私は先輩ですから!後輩に呼び捨てされているのに私がちゃん付けというのも」
「あーわかったわかった、じゃあ私の事も呼び捨てすればいいじゃない」
なるほど、と言いたげな顔で目を輝かせる海未。
根っこが変わっていない事をこれでもかと何度も教えてくる。
そんなあなたを見てると私まで口元が緩んでくる。
「ま、真姫…なんだか恥ずかしいですね」
「じゃあちゃん付けする?」
「いえ、真姫って呼びます!!」
改めて呼び捨てされて恥ずかしい気持ちと、昔みたいに呼んでくれないんだってちょっと寂しい気持ちになった。
「その、キャラではないというか」
「キャラ?」
「誰かにちゃん付けしないんです、あまり」
「なによそれ、意味わかんない」
「それに私は先輩ですから!後輩に呼び捨てされているのに私がちゃん付けというのも」
「あーわかったわかった、じゃあ私の事も呼び捨てすればいいじゃない」
なるほど、と言いたげな顔で目を輝かせる海未。
根っこが変わっていない事をこれでもかと何度も教えてくる。
そんなあなたを見てると私まで口元が緩んでくる。
「ま、真姫…なんだか恥ずかしいですね」
「じゃあちゃん付けする?」
「いえ、真姫って呼びます!!」
改めて呼び捨てされて恥ずかしい気持ちと、昔みたいに呼んでくれないんだってちょっと寂しい気持ちになった。
36: 2021/02/17(水) 00:48:00.92 ID:YecnKOaC
次の日、海未のお友達の穂乃果って人からスクールアイドルの勧誘をされた。
あの海未がアイドルなんて人前に出る事やるなんて意外だけど、私は忙しいからお断り。
だって私は勉強して、ゆくゆくは医者になって…
「作曲だけでも、お願い!」
作曲だけ。それなら。
私が柄にもなく気合を入れて作った曲は、海未の書いた詩を乗せて歌われた。
そして気付けば何故か私までスクールアイドルになって、同い年の友達に挟まれて、2つ上の上級生にも友達ができて…
スクールアイドル部は大成功を収めて、私はまた勉強とピアノの日々に戻った。
あの海未がアイドルなんて人前に出る事やるなんて意外だけど、私は忙しいからお断り。
だって私は勉強して、ゆくゆくは医者になって…
「作曲だけでも、お願い!」
作曲だけ。それなら。
私が柄にもなく気合を入れて作った曲は、海未の書いた詩を乗せて歌われた。
そして気付けば何故か私までスクールアイドルになって、同い年の友達に挟まれて、2つ上の上級生にも友達ができて…
スクールアイドル部は大成功を収めて、私はまた勉強とピアノの日々に戻った。
37: 2021/02/17(水) 00:52:01.42 ID:YecnKOaC
「真姫ちゃん今日も勉強?頑張るね~」
「凛こそ勉強しなきゃ留年するわよ」
「真姫ちゃん、頑張りすぎるのも良くないよ!」
「このくらい大丈夫よ」
2年生ももう終わる。私たちはもうすぐ3年生になる。
つまり大学に向けて受験勉強の日々がやってくる。
凛も花陽も受験と聞くとゲンナリしてるけど、私はもうその辺おかしくなっちゃってるんだと思う。
当然の事だから、当然に勉強を始めた。
「高校生ってあっという間だね~、ちょっと前に受験して入学したのにまーた受験だよ」
「凛ちゃん、音ノ木坂に入る為に猛勉強したもんね」
「大学受験もバッチリ頑張るにゃ!穂乃果ちゃん達も頑張ってたし…そういえばことりちゃんって留学するんだよね?」
「うん、卒業したらすぐ海外に行くって」
「そっかー、穂乃果ちゃん達もう卒業かぁ」
「卒業…」
ペンを動かす手が意図せず止まった。
そうだ、私が3年生になるって事は海未たちは卒業するんだ。
「凛こそ勉強しなきゃ留年するわよ」
「真姫ちゃん、頑張りすぎるのも良くないよ!」
「このくらい大丈夫よ」
2年生ももう終わる。私たちはもうすぐ3年生になる。
つまり大学に向けて受験勉強の日々がやってくる。
凛も花陽も受験と聞くとゲンナリしてるけど、私はもうその辺おかしくなっちゃってるんだと思う。
当然の事だから、当然に勉強を始めた。
「高校生ってあっという間だね~、ちょっと前に受験して入学したのにまーた受験だよ」
「凛ちゃん、音ノ木坂に入る為に猛勉強したもんね」
「大学受験もバッチリ頑張るにゃ!穂乃果ちゃん達も頑張ってたし…そういえばことりちゃんって留学するんだよね?」
「うん、卒業したらすぐ海外に行くって」
「そっかー、穂乃果ちゃん達もう卒業かぁ」
「卒業…」
ペンを動かす手が意図せず止まった。
そうだ、私が3年生になるって事は海未たちは卒業するんだ。
38: 2021/02/17(水) 00:56:16.93 ID:YecnKOaC
「ありゃりゃ~?真姫ちゃん、3人が卒業するのが寂しいの?」
凛がクスクス笑いながら肩をポンポン叩いてくる。
そうか、私は寂しいんだ。
海未がいなくなるのが寂しいんだ。
「…ごめん、今日用事あるから帰るわね」
「あ、真姫ちゃん…もう凛ちゃん!真姫ちゃんに謝らなきゃダメだよ!」
「えぇ!?ご、ごめんよ真姫ちゃん!凛そんなつもりじゃ…」
「ほんとに用事があるだけよ。別に怒ってない」
そう、ただ少しムシャクシャするだけ。
だって私にはどうしようもできないんだから。
どうしようもないから、その日は当たり前にやってくる。
凛がクスクス笑いながら肩をポンポン叩いてくる。
そうか、私は寂しいんだ。
海未がいなくなるのが寂しいんだ。
「…ごめん、今日用事あるから帰るわね」
「あ、真姫ちゃん…もう凛ちゃん!真姫ちゃんに謝らなきゃダメだよ!」
「えぇ!?ご、ごめんよ真姫ちゃん!凛そんなつもりじゃ…」
「ほんとに用事があるだけよ。別に怒ってない」
そう、ただ少しムシャクシャするだけ。
だって私にはどうしようもできないんだから。
どうしようもないから、その日は当たり前にやってくる。
39: 2021/02/17(水) 01:01:55.01 ID:YecnKOaC
「穂乃果ちゃん海未ちゃんことりちゃん!卒業おめでとう!」
「わーい!皆ありがと~!!」
卒業式が終わってすぐ、スクールアイドル部は前年度卒業組の3人を呼んで部室でお祝いをしていた。
「まさかあの穂乃果が海未と同じ大学に合格するとはね…」
「私もびっくりです。あの穂乃果がですよ?」
「ねぇ!あの穂乃果ってどういう意味さ!?」
「この穂乃果がねぇ…わっかんないもんねぇ~」
「ことりちゃんに関しては留学やろ?寂しくなるね」
「えへへ、長期休みには帰ってくるよ~」
ここはお祝いの場なのに、私はモヤモヤしてなんだか乗り切れない。
「私ちょっとトイレ」
祝う気のない人間がここにいるのは場違いな気がして、私はまた逃げてしまった。
「わーい!皆ありがと~!!」
卒業式が終わってすぐ、スクールアイドル部は前年度卒業組の3人を呼んで部室でお祝いをしていた。
「まさかあの穂乃果が海未と同じ大学に合格するとはね…」
「私もびっくりです。あの穂乃果がですよ?」
「ねぇ!あの穂乃果ってどういう意味さ!?」
「この穂乃果がねぇ…わっかんないもんねぇ~」
「ことりちゃんに関しては留学やろ?寂しくなるね」
「えへへ、長期休みには帰ってくるよ~」
ここはお祝いの場なのに、私はモヤモヤしてなんだか乗り切れない。
「私ちょっとトイレ」
祝う気のない人間がここにいるのは場違いな気がして、私はまた逃げてしまった。
40: 2021/02/17(水) 01:06:26.40 ID:YecnKOaC
「はぁ…」
音楽室。やっぱりここが一番落ち着く。
カバーのかかったピアノの前に座り、少しだけ休憩しようと顔を伏せた。
「真姫」
あぁやっぱり。あなたはここに来ちゃうのね。
「…海未、私ね…ずっと、私と海未は同い年だって勘違いしてたの」
顔を伏せたまま、恥ずかしい勘違いを告白した。
自分で話そうと思って口に出してるわけじゃない。
勝手に心の声が外に漏れ出してるような、そんな気分。
「…実際同い年みたいなものですよ。3月生まれと4月生まれですから」
「海未はずっと知ってたの?自分の方が歳上だって」
「えぇもちろん」
「じゃあ歳上のクセに私の前であんなに泣いてたんだ」
「…それは言わないでください」
音楽室。やっぱりここが一番落ち着く。
カバーのかかったピアノの前に座り、少しだけ休憩しようと顔を伏せた。
「真姫」
あぁやっぱり。あなたはここに来ちゃうのね。
「…海未、私ね…ずっと、私と海未は同い年だって勘違いしてたの」
顔を伏せたまま、恥ずかしい勘違いを告白した。
自分で話そうと思って口に出してるわけじゃない。
勝手に心の声が外に漏れ出してるような、そんな気分。
「…実際同い年みたいなものですよ。3月生まれと4月生まれですから」
「海未はずっと知ってたの?自分の方が歳上だって」
「えぇもちろん」
「じゃあ歳上のクセに私の前であんなに泣いてたんだ」
「…それは言わないでください」
41: 2021/02/17(水) 01:10:46.58 ID:YecnKOaC
「海未、私ね、穂乃果とことりが羨ましいの」
「2人が…ですか?」
「私は…ほんの少しだけ生まれたのが遅かっただけじゃない」
そうだ。ほんの少し。本当に少しだけ、あなたが早かっただけ。
穂乃果より、ことりより、私が一番海未に近いはずなのに。
「私だって…海未の幼馴染なのに」
「真姫…私は歳なんて関係ないって思ってますよ」
「…じゃあなんで海未は私の前からいなくなっちゃうの?」
「……」
「私は海未と一緒に歩いていきたい。海未に先を越されるのも、私が先を行くのも嫌。隣で歩きたい」
「真姫…顔をあげてください」
そっと背中をさすってくる海未、あの頃は私が姉だったはずなのに…あぁ、やっぱりこの子は私よりお姉さんなんだなって。
だったら少しくらい、ワガママ聞いてくれるでしょ?
「……ねぇ、海未、卒業、しないでよ」
「2人が…ですか?」
「私は…ほんの少しだけ生まれたのが遅かっただけじゃない」
そうだ。ほんの少し。本当に少しだけ、あなたが早かっただけ。
穂乃果より、ことりより、私が一番海未に近いはずなのに。
「私だって…海未の幼馴染なのに」
「真姫…私は歳なんて関係ないって思ってますよ」
「…じゃあなんで海未は私の前からいなくなっちゃうの?」
「……」
「私は海未と一緒に歩いていきたい。海未に先を越されるのも、私が先を行くのも嫌。隣で歩きたい」
「真姫…顔をあげてください」
そっと背中をさすってくる海未、あの頃は私が姉だったはずなのに…あぁ、やっぱりこの子は私よりお姉さんなんだなって。
だったら少しくらい、ワガママ聞いてくれるでしょ?
「……ねぇ、海未、卒業、しないでよ」
42: 2021/02/17(水) 01:15:35.40 ID:YecnKOaC
「ずっと私と一緒にいてよ、お願いだから」
「真姫…」
そっと私を抱き締める海未。
何よ頼もしくなっちゃって。
昔は私がそうするのが役目だったのに。
「私はどこにも行きませんよ。ずっと真姫と一緒です。だから悲しくも寂しくも…」
「…嘘つき」
「そうですね…嘘つきました。見てください」
腕を解いて、今度は両手を私の肩の上に置いて、正面から私の顔を見つめてくる。
海未の目からは大粒の涙が流れていた。
「私も涙が止まらないんです。不思議ですね。私の方が先輩なのに」
忘れるところだった。
海未は私よりずっと泣き虫なんだ。
「真姫…」
そっと私を抱き締める海未。
何よ頼もしくなっちゃって。
昔は私がそうするのが役目だったのに。
「私はどこにも行きませんよ。ずっと真姫と一緒です。だから悲しくも寂しくも…」
「…嘘つき」
「そうですね…嘘つきました。見てください」
腕を解いて、今度は両手を私の肩の上に置いて、正面から私の顔を見つめてくる。
海未の目からは大粒の涙が流れていた。
「私も涙が止まらないんです。不思議ですね。私の方が先輩なのに」
忘れるところだった。
海未は私よりずっと泣き虫なんだ。
43: 2021/02/17(水) 01:20:08.54 ID:YecnKOaC
「私はまた、海未に置いてかれるの?」
「確かに、私はまた真姫を置いて先に行ってしまうのかもしれないです」
「嫌よ、そんなの」
「でも平気でしょう?私たちは幼馴染なんですから」
「平気じゃなかったら?」
「その時は私が真姫の所まで飛んでいきます」
「約束?」
「約束です」
嬉しいのか寂しいのか、よくわからない感情にぐちゃぐちゃにされて、海未の胸に飛び込んだ。
海未は優しく抱き返して何も言わずに背中をさすってくれた。
「確かに、私はまた真姫を置いて先に行ってしまうのかもしれないです」
「嫌よ、そんなの」
「でも平気でしょう?私たちは幼馴染なんですから」
「平気じゃなかったら?」
「その時は私が真姫の所まで飛んでいきます」
「約束?」
「約束です」
嬉しいのか寂しいのか、よくわからない感情にぐちゃぐちゃにされて、海未の胸に飛び込んだ。
海未は優しく抱き返して何も言わずに背中をさすってくれた。
44: 2021/02/17(水) 01:26:07.16 ID:YecnKOaC
どれくらいこうしてただろう。
音楽室の中は窓から射し込む夕日にあてられて紅く染まっていた。
「真姫、そろそろ戻りましょうか」
「…私、ピアニストになりたい」
「え?」
「……医者にもなるし、ピアニストにもなる…無理だと思う?」
「いいえ、きっと真姫ならできますよ」
「どうしてそう思うの?」
「何回も言わせないでください」
私の手を取り立ち上がって、海未は笑顔で言う。
「真姫ちゃんには幼馴染の私がついてるから」
おわり
音楽室の中は窓から射し込む夕日にあてられて紅く染まっていた。
「真姫、そろそろ戻りましょうか」
「…私、ピアニストになりたい」
「え?」
「……医者にもなるし、ピアニストにもなる…無理だと思う?」
「いいえ、きっと真姫ならできますよ」
「どうしてそう思うの?」
「何回も言わせないでください」
私の手を取り立ち上がって、海未は笑顔で言う。
「真姫ちゃんには幼馴染の私がついてるから」
おわり
46: 2021/02/17(水) 01:37:21.10 ID:YecnKOaC
48: 2021/02/17(水) 05:13:02.81 ID:6bEbJj+H
乙
うみまきの落ち着いた雰囲気好きだわ
うみまきの落ち着いた雰囲気好きだわ
49: 2021/02/17(水) 07:12:34.85 ID:sRSAOMwX
乙
よく考えると子供のころのことうみはまきちゃんと接点あっても不思議ではないか
よく考えると子供のころのことうみはまきちゃんと接点あっても不思議ではないか
50: 2021/02/17(水) 08:23:47.10 ID:jpkg9dVW
うみまきいいよね
見た目の相性もいい
見た目の相性もいい
51: 2021/02/17(水) 09:47:14.05 ID:Kll2G+Ge
運命やんね
52: 2021/02/17(水) 14:16:51.73 ID:MLTzyvcc
最初はことまきかと思って読み進めてたけどいい意味で期待を裏切られましたね……
素晴らしいうみまきをありがとう!
素晴らしいうみまきをありがとう!
53: 2021/02/17(水) 16:16:45.44 ID:Na4mspwJ
あんた最高だよ
54: 2021/02/17(水) 21:01:04.44 ID:LXA+gF4F
うみまき1番好きだから素晴らしい作品をありがとう
引用元: https://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1613485583/