【SS】善子「わたしずーっと気になってる事があるんだけど……」【ラブライブ!サンシャイン!!】

SS


1: 2016/09/08(木) 23:05:32.88 ID:IM9kG3v60.net


 放課後の浦の星女学院「スクールアイドル部」部室
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3: 2016/09/08(木) 23:06:24.26 ID:IM9kG3v60.net
梨子「んー、今日の予報は一日雨だって言ってたけど…」

千歌「やっぱりやみそうにないねぇ…」

花丸「今日の練習は無理そうずら…」

果南「天気はどうしようもないし、この機会にちょっと曲作りのほうをすすめない?」

鞠莉「そうね、この前ダイヤが言ってた曲でも作ろうか」

ダイヤ「あ、あれですか…そうですわねぇ…」

ルビィ「ルビィも手伝うよー」

ダイヤ「やーん、そんなところも可愛いですわ~」

4: 2016/09/08(木) 23:07:19.04 ID:IM9kG3v60.net
曜「じゃあ千歌ちゃん、作詞がんばろっか」

千歌「うぅ、まだ全然できてないよぅ…」

梨子「私も手伝うからがんばりましょ」


善子「…………」

花丸「…………」

善子「ねえずら丸」

花丸「なんずら?」

善子「わたしずーっと気になってる事があるんだけど……」

花丸」んー?」

善子「屋上で練習してるのって、他に場所がなかったからなのよね?」

花丸「そうずらよ~、ルビィちゃんの提案で屋上になったずら」

善子「グラウンドとかも他が使ってるからと……」

花丸「そうずら。それがどうかしたずらか?」

5: 2016/09/08(木) 23:09:14.38 ID:IM9kG3v60.net
善子「え、これ…気にならない?」

花丸「ん~?」

善子「体育館…ここいつも空いてない?」

花丸「バスケ部とかなかったずら?」

善子「いや、今もいないし、アンタ部活の時間とかにここで誰かが何かをしてるの、見たことある?」

花丸「はー…そう言われてみると、見たことないかも…?」

善子「授業とかで使う事はあるけど、うちの学校ってバスケ部とかないんじゃないの?」

6: 2016/09/08(木) 23:10:14.41 ID:IM9kG3v60.net
花丸「お~、という事は?」

善子「ちょっと出てみましょ」

花丸「貸し切りずら~?」

善子「あ、ちょっとまちなさいって…」

花丸「あ、何か落ちてるずら~」

善子「なによ、ほんとに誰も使ってないじゃないの~!」

花丸「ここなら雨の日でも練習できるずらっ!」

善子「アンタ何持ってるの?」

花丸「そこに落ちてたバスケットボールずら」

善子「誰かが片付けないでそのままなのね…」

花丸「オラちょっと直してくるずら」

善子「はいよっ」

7: 2016/09/08(木) 23:11:31.13 ID:IM9kG3v60.net
善子「それにしても……」

 今日は外が雨のせいもあって、人のいない体育館は薄暗く肌寒い…まるで…

善子「ちょっと雰囲気あっていいかも…」

 誰もいない広々とした体育館の中央でちょっとクルクルと踊ってみる

善子「堕天使ヨハネの黒魔術儀式とかで、ここ使わせてくれないかな~」

 最近定期放送の内容がまんねり気味なので、ここらで何か大きなイベントがしたいなーと考えていた
 もしこの体育館を使わせてもらえるなら、おもしろいものが出来ると思うのだけど…無理かなぁ…

ダイヤ「善子さんっ!」

善子「ん、ダイヤ?」

ダイヤ「なにをしてらっしゃるの!?」

善子「なにって…ちょっとダンスレッスン…とか?」

 嘘ではない。ないのだけど、ダイヤの声色はどこかきつく感じる。おこなの?

ダイヤ「とにかく戻りなさい、そこはダメです!」

善子「ん?」

8: 2016/09/08(木) 23:12:27.93 ID:IM9kG3v60.net
善子「え、使用禁止?」

ダイヤ「知らなかったのですか…体育館は放課後使用禁止なのです」

果南「そういえば一年生にはちゃんと説明してなかったんじゃない?」

鞠莉「そんな決まりもあったような…?」

千歌「去年そういうの聞いたきがするけど、結局なんでダメなのかな?」

梨子「わたしも知りませんでした…」

曜「校則とか、そういうのじゃないからね」

ダイヤ「これは決まり事…というよりも、暗黙の了解とでもいうのでしょうか…」

10: 2016/09/08(木) 23:13:57.49 ID:IM9kG3v60.net
ダイヤ「それは私達が入学するよりも前、まだこの浦の星にもたくさんの生徒が在籍していたころの話です…」

ルビィ「…………」ゴクッ

ダイヤ「今よりも部活動が盛んだったこともあり、放課後もこの体育館にはバレー部やバスケ部などの運動部が利用していました」

 ダイヤの語り口調には、この話が決して明るいものでないという事を物語っていた。
 
 その昔、浦の星バスケ部は全国大会でも上位に名を連ねるそこそこの強豪校だったという。
 
 勿論ただ強豪校だったわけではなく、それを裏付けるハードな練習メニューにスパルタ指導、厳しい規律なども合わせて有名だったらしい。

 それでも部員は年々増え続け、伝統となりつつあった先輩から後輩へのシゴキもエスカレートする傾向にあった。

梨子「どこの高校にもそういった面があるのね」

千歌「音ノ木坂にもそういうのあったの?」

梨子「実際に目にしたわけじゃないけど、噂程度には聞いた事があるわ…」

曜「んー?でも今の浦の星ってそういうのはないような…?」

ダイヤ「ええ、浦の星はある年を境に変わったのです…」

善子「変わった?」

11: 2016/09/08(木) 23:15:15.42 ID:IM9kG3v60.net
 ある年の夏、ハードな練習メニューの後、片付けをしていた一年生が疲労で倒れ、運悪く亡くなったって、

 それが大きな問題となり、バスケ部はその体制を問われて最終的に廃部になる。

ダイヤ「元々危惧されていた部分もあり、他の運動系の部活にもすぐにその影響はでたそうです」

曜「そんな事が……」

梨子「でも、それと放課後体育館を使わないというのは繋がらないような…」

善子「そうね、体制が改善されたのならどうして……」

ダイヤ「それは………でるからです……」

ルビィ「………」ビクッ

13: 2016/09/08(木) 23:16:50.00 ID:IM9kG3v60.net
千歌「で、でるって……まさか…!?」

ダイヤ「授業中や休み時間にはまったくそういう気配はないそうなのですが…放課後になると……」

ルビィ「………」((プルプル))

鞠莉「亡くなったバスケ部員の怨霊がこの体育館にー!!」

ルビィ「ピギャアアアアア!!」…カクッ

曜「お、怨霊ってまさか……」

ダイヤ「勿論そういう噂はあったのですが直接的な被害がでたという報告はありません」

梨子「被害が…ない?」

ダイヤ「ないのです…が、あまりにも目撃情報が出たために、自然とその時間帯は体育館を使用しないという流れになっていったのです」

果南「まぁ実際この暗黙の了解っていうのも私達の代ですら知らない子もいるくらいだし、そのうち風化するんじゃないかと思ってたよ」

梨子「それでいつも空いてたのね…納得」

14: 2016/09/08(木) 23:19:30.31 ID:IM9kG3v60.net
千歌「でもそんなに目撃情報出てたのに、私達がこの部室使うようになってからそういう話ってあった?」

曜「いやー、少なくとも今年はそんな話聞いた事ないかな~」

ダイヤ「わたしも見たことはありませんし、あまり信じているわけではありませんが、どうやら予兆のようなものもあるそうですわ」

善子「予兆?」

鞠莉「バスケットボールよ!」

果南「そういえばそんな話もあったねぇ」

 バスケットボール……なんだろ、なんか引っかかる。

鞠莉「誰もいない、何もないはずの体育館に…ポツンと置かれたバスケトットボール…それは亡くなったバスケ部がそこにいて、こっちを誘いこもうとしていると…」

千歌「じ、じゃあもしも一個だけボールが落ちてたとしても……」

ダイヤ「見なかった事にするのがいいかもしれませんね…」

善子「……………」

 あれ……そういえば……さっき………。

善子「っ!」

16: 2016/09/08(木) 23:25:30.31 ID:IM9kG3v60.net
善子「ずら丸!!」

千歌「わっ、善子ちゃんどうしたの!?」

 叫ぶと同時に部室を飛び出す。ダイヤの話に聞き入ってたのもあるけど、どうして気づかなかったの、あいつまだ戻ってないじゃない!

善子「ずら丸~!」

 バスケットボールを片付けると言っていた…きっと用具倉庫にいるはず!誰かが直し忘れていたバスケットボールを……。

善子「バスケット…ボール……」

 いやいや、そんなタイムリーな話があってたまるか…!

善子「倉庫……開いてる…」

 明かりも点けないでいるから中は真っ暗だ。それでも倉庫はそんなに広くないし、ボール一つを片付けるのに時間なんてかかるはずが…。

善子「ずら丸、いるの?」

18: 2016/09/08(木) 23:33:09.38 ID:IM9kG3v60.net
善子「ちょっと…返事くらいしなさいよー!」

 何も見えない暗闇にわたしの声が吸い込まれていく…ただの倉庫のはずなのに…なんなの……。

善子「ずら丸……ず………は、花ちゃんー!!」

千歌「どうしたの善子ちゃんー?」

善子「ひやあぁぁぁ!」

千歌「び、びっくりした…どうしたの、いきなり飛び出して…」

善子「なんだ千歌か…は…ずら丸が……」

千歌「ん、花丸ちゃんがどうかしたの?」

善子「いないの……どこにも……」

千歌「部室にいるよ?」

善子「あいつボールを片付けるって……へ?」

千歌「花丸ちゃんなら今部室にいるよ?」

善子「は、はあぁ!?」

20: 2016/09/08(木) 23:37:42.16 ID:IM9kG3v60.net
花丸「おトイレいってたの」

善子「な…なによもう……」

鞠莉「なにかあったのー?」

 一瞬いろんな想像をしたせいで、この安易な結果に安堵すると同時に脱力する。そうよね、そんな事ありはしないわよね…。

善子「もう、心配させないのっ…」ペシ

花丸「あぅ」

脳天に手刀をお見舞いする。いたずらっ子のように舌をだすずら丸…。

ダイヤ「ま、そういうわけですので今日は大人しく部室での作業に専念してください」

善子「しょうがないわねぇ…」

花丸「はーい」

善子「………………」

 ダイヤの話が終わりみんなそれぞれの作業に戻る。ずら丸は千歌達の作業を楽しそうに眺めている。

 わたしは少し離れたところで作業に集中しているみんなを見つめる。何もかわらない…いつものみんな…だけど…。

22: 2016/09/08(木) 23:46:51.16 ID:IM9kG3v60.net
善子「ずら丸っ!」

花丸「ん、なーに?」

 その視線に心がざわつく……いやいや、何を考えているんだわたしは…。

花丸「?」

善子「あ…な、なんでもない…かな……」

花丸「ん……」

 そう告げるとずら丸はまた千歌達のほうに向きなおる。その後ろ姿はやっぱりいつものずら丸で…。

善子「そうよ…そんなもんあるはずないのよ……」

 ダイヤのせいで変な想像が止まらない……そんなはずないってわかってるのに、この空気はなんだろう…

24: 2016/09/08(木) 23:51:53.90 ID:IM9kG3v60.net
果南「善子?」

善子「……え?」

果南「どうしたの?さっきからボーっとして…大丈夫?」

善子「だ、大丈夫……だよ…」

果南「…………」

善子「な、なによ…わたしの顔に何かついてる?」

果南「いつものヨハネはどうしたのよ…ほんとに大丈夫?」

善子「……………」

鞠莉「ん、ヨハネどうかしたの~?」

善子「な、なんでもないったら!」

 変に声をあげたせいでみんなが一斉に振り向く。

25: 2016/09/08(木) 23:52:58.95 ID:IM9kG3v60.net
千歌「………」

梨子「………」

曜「………」

ダイヤ「………」

果南「………」

鞠莉「………」

 な、なによ、なんでみんなわたしを見るの…?わたしなにか変な事言った!?そりゃまぁいつも言ってるかもしれないけど…。

26: 2016/09/08(木) 23:54:21.52 ID:IM9kG3v60.net
善子「や、やめてよ、見ないでっ!」

 みんなの視線から逃れるようにわたしは背中を向ける。なんなのこの雰囲気……。

善子「………ん?」

 向きを変えたわたしの視線に飛び込んできたのは、ガラス戸の向こうにひろがる…誰もいない体育館。

 だけどそこに………。

善子「-なに?」

 さっきあんなのあったっけ……いや、なかった…なかったはず……だからこれは……。

善子「バスケット………ボール……」

 これは……普通じゃないものなんだ……。

31: 2016/09/09(金) 00:01:43.46 ID:kdrgVM5p0.net
善子「ひっ……い……!!」

花丸「善子ちゃん!!」

善子「っ!?」

 不意に肩を叩かれて体が硬直してしまう。心臓が…ありえない速度で動いている…。

花丸「さっきからどうしたの?」

善子「あ………は、花…丸…?」

 振り向くとわたしの正面にはずら丸が立っていた。いつもと変わらない…いつもの…。

曜「あ、雨があがってるよ~」

千歌「んー、ちょっと遅かったか…もうあんまし時間もないよ」

梨子「今日は練習はできそうにないわね」

ダイヤ「ほらルビィ、いつまで寝てるんですの」

ルビィ「う…うゅ………」

善子「…………」

35: 2016/09/09(金) 00:18:38.75 ID:kdrgVM5p0.net
 さっきまで曇り空で薄暗かった周囲が、陽の光でほんのりと明るくなっていた。

 わたしの見ていたもの……それはもうそこにはなかった……。

花丸「今日はもう終わりですかね」

千歌「そうだね、ちょっと早いけど今日はここまでにしよう」

鞠莉「かな~ん、クレープ食べにいきましょ~!」

果南「えーまたぁ?あのお店遠いんだよねぇ…」

千歌「梨子ちゃん曜ちゃん、家でちょっと作詞手伝ってくれない?」

梨子「なにか浮かんだの?」

千歌「うん、ちょっとインスピレーションが…」

曜「ヨ~ソロ~!のってる時に進められるだけ進めたいね」

善子「…………」

36: 2016/09/09(金) 00:24:05.09 ID:kdrgVM5p0.net
 わかってる……堕天使だとか…ヨハネだとか、リトルデーモンなんて…ないのくらい…わかってる。

ダイヤ「ルビィ、いきますわよ」

ルビィ「まって~お姉ちゃん」

 わかってる…それらは全部わたしの妄想で…あこがれで……本当はないんだって……。

花丸「それじゃ私達もいこうか、善子ちゃん」

 さっき見たのだって、変な話を聞いたせいでわたしが見間違えただけかもしれないし……。

善子「ず……花丸っ」

花丸「ん、なーにー?善子ちゃん」

 振り返りつつ髪をかき上げる花丸。わかってる……。

善子「ん、なんでもない…帰ろ……」

花丸「ふふ、変な善子ちゃん…」

 不思議な事なんてこの世にはない…わかってる……それでも……。

善子「帰りになんか食べてく?」

花丸「んー、大丈夫かな、もうじき晩御飯だと思うし」


 『この花丸がおかしい』ことくらい……わかるよ…。

37: 2016/09/09(金) 00:26:18.38 ID:kdrgVM5p0.net
今日はこのへんで。続きます
もうちょっと書き溜めておけばよかったです;

54: 2016/09/09(金) 17:43:01.05 ID:LXSNfHUQ0.net
 次の日 浦の星女学院1年生教室


ルビィ「おはよ~善子ちゃん」

花丸「おはよ~ずら」

善子「…………」

花丸「ん、どうしたずら?」

善子「べ、別になんでも……おはよ…」

 一晩中あれこれ悩んでたわたしの時間を返せといいたい気分だけど…。

善子「ずら丸……なんともないの?」

花丸「え、なにがずら?」

 キョトンとしてるこの顔はわたしの良く知るずら丸の顔だ…ホントに…。

善子「なんともないならいいわよ…」

花丸「?…変な善子ちゃんずら」

55: 2016/09/09(金) 17:44:56.87 ID:LXSNfHUQ0.net
 --放課後「スクールアイドル部」部室


千歌「むぅ…午後から雨って言ってたけど…」

曜「どしゃぶりだね」

梨子「梅雨明けしたって聞いたんだけど、もうちょっとぐずつきそうね」

果南「どうするの、部長さん」

千歌「むぅぅ…しょうがない、今日も曲作りと衣装作りに専念しよっか」

曜「あ、じゃあルビィちゃん、この間見せてくれた新しい衣装の細かい部分、詰めてこうか」

ルビィ「はい、あ…えっと…」

果南「へーおもしろそう、私も見せてもらっていい?」

ルビィ「はい…でも参考にしてた世界の民族衣装、図書室に返しちゃってて…」

曜「じゃあ図書室で作業しよっか」

ダイヤ「他の生徒の邪魔にならないよう、静かにするのですよ」

ルビィ「はーい、花丸ちゃんもいく?」

花丸「オラはこの機会にいんたーねっとを覚えたいずら。善子ちゃん教えてくれる?」

善子「構わないわよ」

57: 2016/09/09(金) 17:46:39.14 ID:LXSNfHUQ0.net
梨子「ダイヤさん、この譜面のこの部分、ピアノの入りを抑え目にしたほうがいいと思うんですけど…」

ダイヤ「ふむ…なるほどですわ。実際に聞いて見たいところですが…」

花丸「あ、ぱそこん使うずら?」

ダイヤ「いえ大丈夫ですよ。梨子さん、音楽室へ行きましょう」

梨子「勝手に使っちゃって平気なんですか?」

ダイヤ「生徒会長が許可します!」

梨子「は、はは……でも先生には…」

鞠莉「理事長が許可しマース!」

梨子「うーん、考えてみればすごい部ね、ここ……」

58: 2016/09/09(金) 17:48:30.79 ID:LXSNfHUQ0.net
千歌「ぐぬぅ……」

鞠莉「ちかっちはまだスランプ中?」

千歌「んー、昨日帰ってから結構進めたんですけど…ここんとこいい言葉ないかなって…」

鞠莉「ふむ…どれどれ……」

千歌「どうしても固くなっちゃうっていうか、続けて言葉にしたらやたら長くなるというか…」

鞠莉「シャープにまとめるなら、英文とかで表現するのは?」

千歌「え、英語かぁ……うーん…簡単なのしか…単語とか…」

鞠莉「それなら理事長室に外国のいい詩集があるわ、見に行く?」

千歌「ほんと?あ、できれば翻訳してあるのが…」

鞠莉「一緒に見てあげるからノープロブレムよ。というわけで、ちょっと行ってくるわね~」

花丸「いってらっしゃいずら~」

善子「…………」

59: 2016/09/09(金) 17:52:22.88 ID:LXSNfHUQ0.net
  

 あれだけ騒がしかった部室が一瞬で静寂に包まれる。

花丸「………」カチカチッ

善子「………」

 ずら丸はわたしが教えたとおりにマウスを操作している。ただ単に触れる機会がなかっただけで、慣れればすぐに扱えるようになりそうかな。

花丸「………」カチッ…カチカゥッ

善子「………」

 それにしても集中してるな…おかげで会話もないわ……。

善子「雨……どんどん強くなってるわね……」

花丸「………」カチカチッ

 引き戸に近づき外を眺める。普通の雨模様だと思っていた空は暗闇に覆われていた。


花丸「………」カチカチッ

60: 2016/09/09(金) 17:58:18.23 ID:LXSNfHUQ0.net
 いよいよ本格的に大雨になってきたのか、その音は部室の中にも響いている。遠くで雷がその猛威をふるっているようだった。 

善子「ずら丸……ねぇ……」

 声を掛けているのにずら丸は反応がない。ただじっと同じ動作を繰り返している。

花丸「………」カチ…カチ…

 ただパソコンに集中しているだけならそれでいい…だけど……ずら丸の向こうに広がる空間が…わたしの思考を無理やり切り替えようとする。

善子「………」

 部室の蛍光灯だけじゃ照らしきれない…暗い…誰もいない…体育館…。どうしても意識が昨日の事を思い出させる。
 背後からする大雨の音がわたしの背中を押すように強くなっていく。でも…それはまるで…あの闇に…誘われるような…。

善子「あーもう、一体なんだって言うのよ!」

 音に逆らうように強張っていた体に活を入れ、このよくわからない状況を無理やりに変えようとわたしはずら丸に詰め寄った。

善子「いい加減返事しなさいよっ!」

花丸「………」

 いつのまにかマウスを操作していたずら丸の手は止まっていた。それでもただじっと画面を見つめ続けるずら丸の肩を掴むと、わたしは強引にこちらに向きを変えさせる。

善子「なんかわかんないけど、ワザとやってるんじゃ…え!?」


 直後、光が消えた。

  

61: 2016/09/09(金) 18:00:31.16 ID:LXSNfHUQ0.net
善子「いやああぁぁ、なに、なんなの!?」

 突然の事に思わず叫んじゃうけど、今はそれどころじゃない、これって…!?

善子「て、停電!?」

 先の雷の勢いから想像できる状況といえば、近くに落ちたかなんかに違いない…はず…!

善子「ず、ずら丸、大丈夫?」

 掴んでいるずら丸の体は騒ぐ様子もなく、じっとしているようだ。この状況でも動じないって、どんだけ……。

善子「…………ずら丸?」

 ほんとに真っ暗闇になると、目の前のずら丸の様子すらわからなくなる。わからなくなると、人は想像する…見えないこの状況を……。


   タンッ


善子「ひっ!?」

 な、なに…なんか音がした……?

   タンッ  タンッ

善子「や、やっぱり…雨じゃない……どこから…?」

   タンッ  タンッ

善子「………」ゴクッ

 何も見えないから…いつもより頭が色んなものを想像してしまう…この音の正体を……わたしは……知っている…。

   タンッ  タンッ

 知っているから……ダメだ…考えないように……でも…無理だ………なんで、こんな……。

善子「あ……あぁ………」

 音の方向は……体育館……そしてこれは………。

   タンッ  タンッ

 ボールが……跳ねる……音………。

善子「ぁぁ………ぅぅ……」

62: 2016/09/09(金) 18:01:58.25 ID:LXSNfHUQ0.net
 

 ダイヤ(それは…でるからです…)


善子「よ……予兆……は………」

   タン……

善子「………え……?」

 あれだけハッキリ聞こえていた音が止まった。ボールが跳ねる音が…消えた。

善子「ハァ……ハァ………」

 消えた…音はもうしない……でも、まだ停電は復旧しない……どうするの……どうするのこれ…。
 目の前に広がっている暗闇の中、さっきの音の正体があるかもしれない……でも、それをわたしはどうしたい?
 堕天使なんていない、この世はずっとリアルで……不思議な事なんて…ないんだから…だからわたしはそれを確認できるはず…そう言い聞かせても…。

善子「ハァ…ハァ……ん…くっ……ハァ…」

 理想は?理想は…やっぱり誰かが片付け忘れていたボールが…雷の衝撃で……そ、そうよ天井から…落ちてきて…。
 ホントに?…でもわたしは…この先にあるものに対して、明確な答えを持ち合わせていない…いない状態でなにを確認するというの…?
 それを見た後、ほっと胸をなでおろせるだけの答えが……答えがわたしには…無いというのに!

花丸「善子ちゃん」

善子「きゃあああああぁぁぁぁ!!」

63: 2016/09/09(金) 18:05:42.44 ID:LXSNfHUQ0.net
 
 

 気が付くと、わたしはずら丸の顔を見上げていた。

花丸「大丈夫?」

善子「え……な、に……?」

 情けなくも気を失ってしまっていたらしい…恥ずかしい……でも…。

善子「停電は直ったのね…でもこの状況……」

花丸「ん……」

 ずら丸に膝枕されている。やわらかい……って、そうじゃなくて!

善子「だ、大丈夫よ…って」

花丸「じっとしてて…」

 体を起こそうとするとずら丸に肩を抑えられる。

善子「こ、こんなとこ誰かに見られたら…」

花丸「だいじょーぶ…」

 こっちの意見をまるで聞かないずら丸がじっとわたしを見つめてくる。見つめ……え…?

64: 2016/09/09(金) 18:06:45.94 ID:LXSNfHUQ0.net
善子「ず…ずら丸………」ゴクッ

花丸「善子………ちゃん……」

 どど…どうしちゃったのずら丸…そんな目を……あれ……。

善子「……………」

 視線は合ってるのに、目の前のずら丸の目は、どこか虚ろだった…。わたしを…まるで見ていないような…。

花丸「や……っと……ね……」

善子「え…?」

花丸「見つけたの……やっと……」

 前後の会話がかみ合わない……だから…考える……この状況……もしかして……。

花丸「苦しかったの……誰にも……」

善子「……………」

花丸「誰…にも…声……届かなくて……私…」

 目の前のずら丸と、わたしの中のずら丸が交差する……そこに一つの答えを残して……。


善子「あなた……誰?」
 

66: 2016/09/09(金) 18:08:18.04 ID:LXSNfHUQ0.net
花丸「私……わからない……」

善子「ずら丸じゃないって…そこは認めるのね…」

 なんでだろう…状況は一変してるのに…。

善子「よっと…」

花丸「あ……」

善子「大丈夫よ、どこにもいかないから…」

 目の前にいるのは……わたしの根源を否定するもののはずなのに…。

善子「ふぅ……んっ」

花丸「…………」

 体を起こし、グっと背伸びをする。なんでこんなに心が落ち着いているのか…自分でも不思議だけど…それはきっと…。

善子「えっと…ずら……花丸」

花丸「それは…この子……だね…」

善子「そうよ花丸。国木田花丸…ってそれはいいのよ」

花丸「花丸……ふふっ」

 笑った…それはわたしの知ってる花丸の笑顔だった。これなのかな…わたしがこうも落ち着いていられるのは…。

67: 2016/09/09(金) 18:09:48.43 ID:LXSNfHUQ0.net
善子「は?自分がなにかわからない?」

花丸「………」コクッ

善子「散々人のことを驚かせておいて……」

花丸「それは…違うの……」

善子「まぁそのへんの事情はいいわ、それで…」

花丸「…………」

善子「あなたは何がしたいの?」

花丸「…………」

善子「花丸の身体を乗っ取るとか言うつもり?」

花丸「それは…無理……私、学校からでられないから……」

 うーん……やっぱりこれ…本物なのかなぁ……。

善子「それじゃあなに…やっぱり恨みとか…そういう系?」

 ん、でもこの子がダイヤの言ってたバスケ部員というのも確証がないのか…。

68: 2016/09/09(金) 18:10:52.90 ID:LXSNfHUQ0.net
花丸「私…なにかを伝えないとって…それだけで…」

善子「そういえばさっき声がなんとか言ってたわね…」

花丸「それは…この子…」

善子「ずら丸?」

花丸「この子すごいの…こんな霊感が強く、安定してる子…いままでいなかった…」

善子「まぁそこはさすが寺の娘といったところか…」

花丸「それと……あなた…」

善子「え…わたし?」

花丸「うん…とても強くて…でも、脆い、ガラス細工みたいな…」

 霊感……わたしが……まじで?

花丸「私の声をちゃんと聞いてくれたの…花丸ちゃん」

善子「もしかして……いま花丸の意識って……」

花丸「もちろん、ちゃんとある…よ?」

 んー…面倒な事になりそうだぞ……。

69: 2016/09/09(金) 18:11:53.12 ID:LXSNfHUQ0.net
花丸「助けてあげるずら!」

 案の定というか……まあ、らしいっちゃらしいんだけど…。

善子「簡単に言うけど、なにをどうすればいいのか、アンタわかってんの~?」

花丸「そ、それは……なん…とか…?」

 わたしとあのバスケ部員…だと思われる…えっと、なんか言葉にすると一気に安っぽくなっちゃいそうだけど、幽霊?
 あの幽霊との会話を同じように聞いていたずら丸の第一声がこれである。

善子「何か目的があるのは本当みたいだけど…」

花丸「きっとなんとかなるずら」

善子「んー、やっぱり面倒事になりそうっ!」

花丸「大丈夫ずら…善子ちゃんには……よっ」

   プスッ

善子「……ん?」

 ずら丸が何か取り出したかと思うとわたしのおだんご頭にすっと差し込む。それは黒い羽根だった。

善子「…………」

花丸「………あや?」

善子「ん…?」

 ずら丸が不思議そうにわたしの顔を覗き込む。

花丸「善子ちゃん…大丈夫ずら?」

善子「平気よわたしは…なんなの?」

 花丸がキョトンとしている。そこへ他の場所で作業をしていた千歌達が戻ってきた。
 霊感的なものの差なのか、千歌達にはこの状況は認識できないみたい。

善子「ま、明日また色々考えて見ましょ」

花丸「………‥…」

70: 2016/09/09(金) 18:14:41.07 ID:LXSNfHUQ0.net
 

 次の日のお昼休み 資料室


花丸「こ、この中から探すずら~?」

善子「なにも全部見る必要はないわよ、ダイヤの話である程度の年代は絞り込めているし」

 新曲のイメージ作りにって適当な事を言ってダイヤと鞠莉に資料室の鍵を借りてきた。ちなみに一般生徒は普段立ち入り禁止だ。
 本来こんな話だけで納得してくれそうもないんだけど、あの二人と果南の三人は今スクールアイドルの事になると躊躇いとかないのよね。

善子「このあたりから…探ってみるか……」

 今日ここに来たわたし達の目的はずばり、あの正体不明の幽霊の正体を突き止める事。話の中でも一番可能性が高いのが…。

花丸「本を読むのは好きだけど、これは退屈ずら…」

善子「文句言わないのっ!ずら丸もあの子を助けたいんでしょ?」

花丸「勿論ずら!」

 可能性として、昔にあったというバスケ部の練習中に亡くなった生徒の幽霊…伝えたい事ってのがなんなのかはわからないけど、当時の状況がわかればきっと…。

71: 2016/09/09(金) 18:15:56.58 ID:LXSNfHUQ0.net
善子「あ、これかな?」

花丸「もう見つけたずらか?」

 当時の新聞の切り抜きまでファイルしてある…これならすぐにわかるかも。

善子「うん……たぶんこれだ……えっと…」

花丸「マルも見るずら~」

 わたしとずら丸は、当時の悲しい出来事を断片的にだけど知ることができた。だけど……。

善子「え………」

 期待していた情報と、予想もしていなかった新情報にわたしとずら丸はしばし固まってしまう…だってこれじゃぁ……。

花丸「細かい事は…書いてないずら…それに……」

 情報として練習中に亡くなった女生徒がいたのは事実だった。だけど氏名などは掲載されておらず、かわりに……。


善子「この一件で亡くなった女生徒が………」

花丸「ん…二人いるずら………」


 …どゆこと?
 
 

83: 2016/09/10(土) 17:30:38.33 ID:i0ZdKPRF0.net
 
  -生徒会室


ダイヤ「どうしたんですの?」

善子「ちょっと…ダイ…生徒会長にお願いが…」

花丸「卒業アルバムを見せて欲しいずら、昔のっ」

ダイヤ「昔の?確かにここには過去の卒業アルバムが保管されていますけど…」

善子「お願いっ、生徒会長!」

花丸「お願いずら~」

ダイヤ「ま、まあそれは構いませんけど…なにかあるのです?」

善子「やれることはやっときたいの」

ダイヤ「……?」

花丸「ちょっと人探しするずら」

ダイヤ「はぁ……」

84: 2016/09/10(土) 17:32:54.20 ID:i0ZdKPRF0.net
 目当てのアルバムはバスケ部が問題を起こす前の年…そこにはきっと部活風景写真とかもあるはず。
 当時の顧問が誰なのか、取り敢えずそこから…。

花丸「なかったら…どうするずら?」

善子「廃部になってるとはいえ、どこかに部の活動記録とか残ってるとは思うから、次はそこかな」

花丸「あ、これ…バスケ部ずら」

善子「集合写真ね…この人が顧問かな……」

 スパルタって聞いてたからもっと厳しそうな人を想像していたけど、写っていたのは優しそうなおばあちゃん…。

善子「ダ…生徒会長、ちょっといい?」

ダイヤ「ダイヤでいいですわ。なんです?」

善子「ここに写ってる人…先生、今もこの学校にいるかな?」

ダイヤ「えっと……この方は……」

 会えれば直接話を聞けるかもと思ったわたしの期待は、ダイヤの表情が曇るのを見て打ち砕かれる。

ダイヤ「その先生は…わたくしが入学した年の秋ごろ、亡くなられました…」

善子「…そ、そう………」

 とても優しく、温厚な先生だったとダイヤが付け足してくれるけど……。

善子「他の手段を考えるか…」

花丸「…………あれ?」

85: 2016/09/10(土) 17:34:28.80 ID:i0ZdKPRF0.net
花丸「善子ちゃん、この人……」

善子「え…?」

 ずら丸が示したのはバスケ部の集合写真…の、端に写る人物。

善子「一年生…かな……」

花丸「マル、この人知ってるずら」

善子「え、まじで!?」

花丸「というか、善子ちゃんも知ってる人ずらよ?」

善子「ま、まじ…?」

花丸「まじずら、もしかしたら当時の話が聞けるかもしれないずら」

 ずら丸の示す人にわたしはあまり覚えがない…というか、この人っていまだと……。

善子「あ……もしかして……」

花丸「ん……」

 わたしが思い描いた人物はずら丸の言うその人だった。

86: 2016/09/10(土) 17:38:33.88 ID:i0ZdKPRF0.net
すいません用事であまり書く時間がなくてここまで;
次に終わりまで書きたいと思いますー

95: 2016/09/11(日) 21:37:32.12 ID:kSvYzAia0.net
 -放課後 二年教室


千歌「え、今日?」

善子「うん、急な話で迷惑かなーって思うけど…」

花丸「お願いするずら」

千歌「私は別にいいけど……」

 千歌に唐突なお願いをしてみた。勿論ちゃんとした目的があっての話なのでおかしいところはない。

善子「ほ、ほら、千歌の家って旅館でしょ?もうじき夏休みだし、きっと忙しくなるんでしょ?」

千歌「そうだねぇ、シーズン中は色々と手伝うようにも言われてるし…」

善子「ねっ、だから今のうちかなーって…」

花丸「…………」

千歌「とりあえず家に聞いて見るよ、他のみんなは?」

善子「そっちはわたしから伝えておくから。もうじき部室にみんな集まるだろうし」

 先週末沼津で行われた花火大会に、わたし達Aqoursがゲストとして呼ばれた。
 色々なゴタゴタを経て9人になったAqoursの初ライブとして気合の入ったいいライブだったと思う。

善子「やっぱり祝勝会というか、なんかこう、みんなで集まってパーっとやりたいじゃない?」

千歌「それは楽しそうだね。あ、ちょっと電話するね」
 

96: 2016/09/11(日) 21:40:08.47 ID:kSvYzAia0.net
ダイヤ「千歌さんのお宅でお泊り…ですか」

ルビィ「わぁ、楽しそう!」

花丸「みんなでお祭りするずら」
 
曜「おー、いいね!楽しそう!」

果南「ライブの後も落ち着いた時間ってなかったからね」

梨子「で、でも急にお邪魔しちゃって大丈夫なの?」

花丸「それは今千歌ちゃんが聞いてくれてるずら」

鞠莉「ん、もし無理そうでもうちのホテルが使えるわよ?」

花丸「ホテルずら!?未来満載ずら!」

97: 2016/09/11(日) 21:41:40.97 ID:kSvYzAia0.net
千歌「聞いてきたよー、オッケーだって!」

ダイヤ「それでは一度帰宅して、準備してから千歌さんのお家に集合でよろしいでしょうか?」

曜「それなら早めに帰らないとバスなくなっちゃうかも…」

果南「今日は練習早めに切り上げるといいんじゃない?」

鞠莉「それにいざとなったら車を出すから心配ないデース」

善子「それじゃ、今日は基礎トレだけにしましょっ」

花丸「…………」

98: 2016/09/11(日) 21:42:49.03 ID:kSvYzAia0.net
花丸「ねえ善子ちゃん……」

善子「ん、なに?」

花丸「みんなに……相談しないの?」

善子「え………」

花丸「…………」

 相談……みんなに?わたしが………?

花丸「一人で抱え込まなくてもいいずら……」

善子「一人って……アンタは付き合ってくれないの?」

花丸「マルは善子ちゃんの味方ずらよ……でも…」

善子「じゃあそれでいいじゃない…こんなよくわかんない面倒事…みんなには…」

花丸「…………」

   プスッ

善子「ん?」

 ずら丸がわたしのおだんごに何か刺した……これ、また羽根か…。

花丸「…………」

善子「なんなのよ…一体……」

花丸「マルは………善子ちゃんの味方ずらよ……」

善子「ん…ちゃんと聞いたわよ……?」

花丸「…………」

99: 2016/09/11(日) 21:50:54.13 ID:kSvYzAia0.net
 -夜 高海宅二階


千歌「いらっしゃ~い」

ダイヤ「お邪魔します」

鞠莉「oh、ちかっちの部屋かわいい~」

曜「この向かいにある家、梨子ちゃん家なんだよ」

果南「へー、お隣さんなんだ」

ルビィ「そういえば梨子ちゃんはまだかな?」

花丸「さっきしいたけに追いかけられてるのみたずら」

千歌「いっ!?り、梨子ちゃ~~~~ん!」

善子「…………」


千歌「え…どうして?」

善子「ちょっとお話ししたいと思って…ダメ?」

千歌「ううん、それはいいんだけど…善子ちゃんって……」

善子「ん…?」

千歌「ん、まぁいいか…じゃあちょっと聞いてみるね、まだ仕事中だと思うし」

善子「ごめんね、ありがとう……」

千歌「うん………」

101: 2016/09/11(日) 21:53:16.97 ID:kSvYzAia0.net
 
 -夜 旅館十千万 一階ロビー


花丸「おまたせずら」

善子「ん、みんな何か言ってた?」

花丸「善子ちゃんと内緒の話してくるっていったずら」

善子「ふむ…」

花丸「梨子ちゃんが顔を赤くしてたずら」

善子「ま、まぁいいわ…それにしても…」

 こちらからの一方的な申し出だから、場所の指定に文句は言わないけど…。

善子「営業終わった後のロビーって暗くてちょっと雰囲気あるわね」

花丸「あいかわらず好きずらね~、そういうの」

善子「オバケとかでそうじゃない…」

花丸「えっ?」

 と、花丸と適当に会話をしていたらロビーの一画、わたし達が待機していたテーブル席の周辺の明かりがついた。

102: 2016/09/11(日) 22:02:16.05 ID:kSvYzAia0.net
志満「ごめんなさいねー、お待たせしちゃったかしら。千歌ちゃんたら電気つけてなかったのね」

 千歌のお姉さん、高海志満さんが来てくれた。
 わたしの突然の呼び出しに応じてくださった…あの写真の人…。


善子「あ、あの…すいません、いきなり…」

志満「ああ、いいのよ座ってて~、簡単で申し訳ないけどお茶淹れてきたから」

花丸「わぁ~ありがとうございます」

志満「えっと…千歌ちゃんのお友達で…アクア…だっけ、アイドルやってる…えっと…」

善子「は、はい…わたし津島善子っていいます」

花丸「マル……私、国木田花丸です」

志満「善子ちゃんに花丸ちゃんね、千歌ちゃんがいつもお世話になってます」

善子「あ、いえ…こちらこそ…」

 すごい穏やかな…優しそうな人……。聞いちゃって…大丈夫かな…。

志満「それで、お話しってなにかしら?」

善子「えっと……そのぉ……」

 どう切り出そう……考えてみれば、明るい話題でもないのに、いきなりは不躾だったかも…うぅん…。

花丸「むかしのバスケ部について教えて欲しいんです」

善子「ずらまっ!?」

志満「バスケ……部……」

103: 2016/09/11(日) 22:04:16.66 ID:kSvYzAia0.net
 
 -深夜 海岸沿い


 千歌のお姉さん、志満さんは当時のバスケ部に所属していた二年生だった。まさしくあの悲しい出来事を良く知る人物で…。

善子「………………」

花丸「………………」

 決していい思い出ではない内容だけど、志満さんは話してくれた。もう昔の事とし、心に整理もついた大人な語りだったけど…。

善子「さて……と……」

 昔の事ではない…まだ終わってないヤツのために………。

花丸「善子ちゃん……?」

善子「いこっか……」

花丸「…………」

 千歌と梨子に自転車を借りておいたから、今から行って……。

花丸「ねえ…善子ちゃん……」

善子「ん、なに?」

   プスッ

善子「って、なに刺してるのよ…またこの羽根?」

花丸「取らないでっ…!」

善子「ずら丸……?」

花丸「お願いずら……」

 変なの……別に構わないけどさ……。
 

104: 2016/09/11(日) 22:10:52.83 ID:kSvYzAia0.net
 
 -深夜 浦の星女学院


善子「さすが夜の学校は別世界ね」

花丸「ちょっとドキドキするずら」

 いつも見ている校舎が異界の建造物に思えてくる。月明りがなかったらとても入れそうにないわ。

善子「とりあえず部室にいきましょ」

花丸「鍵はどうするずら~?」

善子「フッ……」チャリ

花丸「すごいずら~」

 千歌のをこっそりと…見つかったら怒られるだろうけどね…。
 体育館は閉まってるけど、部室の裏手から中に入ってそのまま内側から開けてしまえば中に入れるって作戦よ。

善子「アイツいたら、またずら丸に憑依するんでしょ?」

花丸「オラにはわからないけど…というか、憑依されてるのかどうかもよくわからないずら」

善子「昨日あんなにガッツリと憑依されておいて…」

花丸「なんか意識がボーっとなって、気づいたらなんか自分で口を開いてる感じずら」

善子「まさにそれじゃないの…まぁでも悪い幽霊じゃなくてホントよかったわね…アイツ」

花丸「あの子はイイ子ずら」

105: 2016/09/11(日) 22:11:54.42 ID:kSvYzAia0.net
 
 -深夜「スクールアイドル部」部室


善子「電気、点けるわよ…」

花丸「誰もこないずら?」

善子「あ、そっか…宿直の先生とかいるかもしれないのか…わかんないけど」

 じゃあこのまま体育館へ……。

善子「暗いけど、スマホで照らせる範囲でなんとか…」

花丸「………」

 隣接する体育館へ繋がる引き戸の鍵をはずす。ガチっという音が目の前の暗闇に吸い込まれていく。
 何も見えない本当の闇…だけど心は落ち着いている。ここにいるアイツが悪い霊じゃないという事実が…。

花丸「………っ!?」

善子「さて、じゃあ中に………」

 小さな明かりを頼りに進もうと、スマホを前にかざす。

善子「え……?」

 そこに………いや、わたしの………目の前に………。

善子「っっっっ!!」


 -知らない女が立っていた。
 

106: 2016/09/11(日) 22:15:20.32 ID:kSvYzAia0.net
 

 -堕天使なんているはずない……この世に…不思議な事なんて…何一つない…。
  この世は圧倒的にリアルで…わたしの幻想をすべて打ち砕いくれる…だから…。

  だから…わたしはすがったんだ…無いものに……自分には手に入れられないなら…自分で……。
 

107: 2016/09/11(日) 22:16:08.88 ID:kSvYzAia0.net
 
 
善子「あ……れ……?」

 どこか霞がかった意識がゆっくりと鮮明になっていく。

善子「わたし…どうして……あれ…?」

 わたしは冷たい床で横になっていた。この感触は……体育館?

善子「なんで……」

 確か……さっきずら丸と一緒に……。

善子「っ!」

 そうだ、わたし…なんか見たんだ…それで……それで……?

善子「ず、ずら丸!いるんでしょ!?」

 思わず声を荒げてしまうけど、その声は広い体育館で反響し、やがて消えてしまう。

善子「ずら丸!ずら丸ーーー!!」

 反響するわたしの声はすべて闇に飲まれるように消えていく。それはわたしが一人だというのを強く意識させた。

善子「じ、冗談でしょ?隠れてるんでしょー!?」

 そ、そうだ…スマホで……明かりを……え?

善子「ない…そんな…っ!」

 そういえばここに倒れる直前に……正面を照らして………そうだ、見たんだ……わたし……。
  

108: 2016/09/11(日) 22:16:52.93 ID:kSvYzAia0.net
 
  タンッ


善子「!!」

 い、いまの…音……まさか……!?


  タンッ タンッ


 あの時の……ボールの音……?

善子「ず、ずら丸?ずら丸なんでしょ?ねえ……ねえってば!!」


  タンッ……


善子「っ!?」

 近くで跳ねていたボールの音が……消えた……なに…?

善子「…………」

 そ、そうよ、きっとアイツが…あの幽霊がまた…これきっと……イタズラみたいな…。

善子「も、もういいから…さ……ねえ、でてきてよ……」

 ちょっとホントに……怖いんだって……もう……もうっ!!

善子「っ!……え?」

 思いっきり暗闇に向かってどなりつけようとした時、わたしの足元に何かが転がってきた。

善子「………」ゴクッ

 ボール……バスケットボール……じゃ…ない……なに…?
 

109: 2016/09/11(日) 22:17:35.55 ID:kSvYzAia0.net
 
 足元に転がってきた何かが……暗くて見えないはずなのに……。

善子「…………」

 わたしは……なにかと……視線を……合わせている…ような…錯覚を…。

善子「………あっ…」

 足元のなにかが…動いて……わたしの…足に……まとわりついてきた!?

善子「な……なに……や……!」

 その感触は決してボールなんかじゃない…だってこれ………。

善子「や、やめ………」

 それはわたしの足に絡みつくように…わたしの身体をよじ登ろうとしてる…!

善子「うぅ………ぐ……ぅ……」

 そうだ…この感触、思い出した……で、でも……でも…じゃあこれって……。


 それはわたしの身体を器用に登る。恐怖で動けないわたしの脚から……腰……背中……あぁ…。

善子「ぐ……ぅぅ……」

 絶対そうだ、間違いない……これ…頭だ……なんの?…誰の?……そんなの……一つしか…。

善子「や、やだ………っ」

 髪の毛のような感触…それに……これ…耳もとで聞こえているのって……!?


 ニクイ……ユルセナイ……ニクイ……ユルセナイ……
 

110: 2016/09/11(日) 22:18:11.17 ID:kSvYzAia0.net
 
 
善子「い、いやああああ!!」

花丸「善子ちゃん!!」

 ドンという衝撃とともにわたしの体は浮き上がっていた。一瞬の事でそれを理解する前に…。

善子「あうっ!」

 衝撃ととも床に打ち付けられる。なにかに吹き飛ばされた?っていうか!

花丸「善子ちゃん、大丈夫!?」

善子「ず、ずらまっ……うぅ……」

花丸「ああ、私花丸ちゃんじゃないです」

善子「え?あ、あれ…じ、じゃあ……」

 ちょっと混乱気味のわたしの耳にはずら丸の声。だけどその口調は最近聞いた…。

善子「アンタ昨日の?」

花丸「はい…ごめんなさい、遅れちゃって…」

 まだ暗闇に目が慣れていないせいで目の前にいると思われるずら丸の姿は見えない。
 だけど先の恐怖から解放された心は徐々に落ち着きを取り戻していった。

善子「な、なんなのよ!やっぱりアンタの仕業だったわけぇ!?」

 正直マジで怖かったんでそれに比例して怒りが込み上げてくるんですけど!!
 

111: 2016/09/11(日) 22:19:17.35 ID:kSvYzAia0.net
善子「アンタなんの恨みがあってあんな…」

花丸「あの、すいません…それ、私じゃないです……」

善子「は……?」

花丸「だから、私じゃないです……さっきの…」

 私…じゃない? えっと……つまり……。

花丸「善子ちゃん、よく聞くずら」

善子「え、あ、ずら丸?」

 ようやく夜目に慣れてきたわたしの正面にはさっきまで隣にいたずら丸。それだけで単純なわたしの心は安堵を覚える。

花丸「マル、志満さんのお話を聞いて思ったずら…」

善子「志満さんの?」

 それは今日二人で聞いた昔のお話しの事だと思うけど…。
 

112: 2016/09/11(日) 22:19:56.84 ID:kSvYzAia0.net
 
 それはこの浦の星女学院にあったバスケ部の新入部員の話。
 強豪校として有名だったバスケ部にはその年も多くの新入部員が入ってきた。

 そのうちの一人の女の子が練習中に倒れ、不幸にも亡くなってしまった。
 そしてその出来事から二日後、体育館で一人の女の子が死んでいるのが発見される。

善子「その子は……」

花丸「自〇…ずら…そして…」

 自〇した女の子も新入部員だった。遺書などはなく、どうしてその女の子が自〇したのか色々噂が流れたが、
 状況的、かつ周囲にあたえた影響から見ても、バスケ部の体制に問題があるとされた。

 バスケ部は強豪校であるがゆえに部員数も増え続けていて、どうしても監視しきれない暗部が生まれていた。
 最初に倒れた女の子は、上級生からの虐めの標的にされていた。どう考えても一年生には無理なロードワークにハードスケジュール
 それに加えての雑用…炎天下の中繰り返されるしごきという名の虐めが存在していた。

花丸「志満さんのお話しだと、当時の二人はとても仲が良かったって…」

善子「倒れて亡くなった子に対して、ずっとごめんなさいって呟いていたのを他の部員も聞いていたらしいわね」

花丸「そう…だから……ねぇ………」

 ずら丸はわたしから視線をはずし、中空を見つめながら口にした。

花丸「ハナエちゃんは……あやまりたかったんだよね……」
 

113: 2016/09/11(日) 22:20:41.40 ID:kSvYzAia0.net
 
 ずら丸がその名を呼ぶと、正面の花丸の体が一瞬ピクっと跳ねた。

善子「ずら………ハナエ?」

花丸「私………そうです……ずっと……あやまりたかった……私が…」

 わたしにはよく見えていないけど、ずら丸は泣いていた。それがどっちの心からくるものかはわからないけど…。

善子「アンタのせいじゃないわよ…あれはむかしの……」

花丸「違うんです……私……一緒にやろうって……バスケ……一緒にって…」

善子「…………」

花丸「私達、ずっと一緒だったのに…子供のころから……だから……一緒になにかしたかったから…」

 幼馴染…か……。

花丸「あの子…漫画とかオカルトが大好きで…運動なんて……あんまりしたことなかったのに……私の我儘に…」

善子「…………」

花丸「うぅ…それなのに…私……先輩に虐められてるって…知ってたのに……何も…できなくて…」

善子「…………」

花丸「あの時もそうだった……あの子……つらそうに走って……でも私…手をだすなって…いわれて…ただ…見てた…」
 

114: 2016/09/11(日) 22:21:37.30 ID:kSvYzAia0.net
 
 幼馴染と何かしたい…か……その気持ちは……。

花丸「だから…きっと怒っているんです…恨んでいるんです…私を……!」

善子「ずら丸……あ、ハナエか……」

花丸「さっきもきっと私を恨んで……善子ちゃんが危ない目にあったのだって…私のせいで…」

 あ、さっきのあれって…やっぱり危なかったの?

花丸「ごめん、ほんとに…ごめんなさい!助けてあげれなくて……ごめん…なさい……」

 ハナエのこの言葉が届いたのか、周囲の空気は震えたのがわかった。もしかして…。


  タンッ  タンッ


善子「こ、この音って…また!?」

花丸「聞いて!善子ちゃんと花丸ちゃんは関係ないの!悪いのは私なの!恨んでいるのは私でしょ!?」

善子「ハナエ……」

 ハナエは突然立ち上がり、聞こえてくる音の方に向かって叫ぶ。彼女は友達を見〇しにした後悔から後を追うように自〇した。
 その後悔の念からこうしてここに留まっているというのなら、あの子はやっぱり、恨みを晴らしたいの?

善子「…………」


  タンッ  タンッ


 音は徐々に近づいてくる。そして同時にさっきは聞こえなかった小さな声も聞こえてくる。

  ニクイ……ユルサナイ……ニクイ……ユルサナイ……

善子「ひっ!?こ、これさっきの…!」
 

115: 2016/09/11(日) 22:22:18.00 ID:kSvYzAia0.net
 
花丸「お願い!あなたの恨みは私が全部受け止めるから、この二人は関係ないの!」

善子「う、受け止めるって…体はアンタのじゃないのよ?」

花丸「わかってます、これは気持ちを伝えるためだけに借りているだけで……」

 ニクイ……ユルサナイ…

善子「ひぃ、ち、近くなってる?」

花丸「お願い、私の声を聞いて!」

 ハナエの訴えも聞こえていないのか、この深淵から響く声はすぐ傍まで…。

善子「や、やばいんじゃないの?」
 
花丸「そん……な……」

 まずい…状況がハッキリしていないけど、このまま何もしないというのだけは絶対に間違ってる気がする…ど、どうしよ?
 逃げる…どこに…どうやって?光がないから1メートル先もまともに見えないのに…それに…相手は…。



花丸「言うべき相手が違うずら」
 

116: 2016/09/11(日) 22:23:27.42 ID:kSvYzAia0.net
 
善子「え……?」

花丸「ハナエちゃん…悪い事をして、あやまりたい時はね…」

 ずら丸が話してる?な、なんなのこの状況で…え?

善子「ず…ずら……丸…?」

花丸「こうやって…ちゃんと相手の目を見て、言わないとダメずら」

 ずら丸がわたしの肩に手を置くと、じっと見つめてくる。その表情にはとても強い意志が感じられた。

善子「な、なにしてんの…?」

花丸「善子ちゃん、ちゃんとマルの目を見て…聞いてほしいずら」

善子「ず……っん………」

 わたしはずら丸のその迫力に圧されていた。その感覚、この状況は覚えている…そうだ……。
 大切な幼馴染が……天使だってわかったあの日のようだ……。

花丸「マルは、ハナエちゃんに憑依…というか、取り憑かれてるずら」

善子「そ…そうみたい…ね……」

 こうもケロっとしてるのはハナエが言ってた体質的な問題なのだろうか、お寺の娘はやはり…。


花丸「善子ちゃんも取り憑かれてるずら」

 やはり寺の娘は……は!?
 

117: 2016/09/11(日) 22:24:51.07 ID:kSvYzAia0.net
 
花丸「取り憑かれてるずら」

善子「い、言いなおさなくても聞こえてるわよ…って、なにいってんの?」

花丸「だから、マルはここで自〇した女の子の霊に取り憑かれて…」

善子「…………」

花丸「善子ちゃんは、練習中に倒れて亡くなった女の子の霊に取り憑かれてるずらよ」

善子「は、はあぁぁぁ!?」

 取り憑かれてる…わたしが?女の子の霊に?

花丸「志満さんの話を聞いて、違和感の正体がわかったずら」

善子「あ、あんた何言って……」

花丸「善子ちゃんは、志満さんの話を聞いてどうしようと思ったずら?」

善子「え、どうって…自分の事がわからない幽霊にあんたはハナエだって言って、目的を思い出させて…」

花丸「それで目的が達成されたら成仏すると思ったずらか?」

善子「するんじゃないの?」

 え、なんでそんな目で見るの?

花丸「目的を達成するための対象がどこにいるかもわからなかったのに?」
 

118: 2016/09/11(日) 22:25:55.10 ID:kSvYzAia0.net
 
善子「ん、どこかにいないとダメだったの?」

花丸「当たり前ずら。地縛霊なめてちゃいけないずら」

善子「そ、そんなのわからないじゃない!」

花丸「マルにはわかるずら。というかお寺の周辺って似たようなのたくさんいるし…」

 お寺怖ぃ!

善子「で、でもわたしにって、わたし別になんともないわよ!?」

 いちおう自分の体をペタペタ触るけど…うん、やっぱりおかしいとこはなにも…。

花丸「マルからしたら十分おかしいけど…まぁ今はいいずら」

善子「な、なによっ!」

花丸「まぁ問題は善子ちゃんじゃなくて、こっちの子に問題があるから、しょうがないずら」

善子「こっちって…わたしを指してるじゃない…」

花丸「だから、こっちずら。ヨシコちゃん?」

 
 -ヨシコちゃん


善子「…………」(え…なに?)
 

119: 2016/09/11(日) 22:27:14.00 ID:kSvYzAia0.net
 
花丸「取り憑くっていう意識すらないのも無理ないずら」

善子「………」(そ、そんな!体が動かない?なんで!)

花丸「ヨシコちゃん…自分が死んだ事もわかってない…よね」

善子「………」(ど、どういう事…?)

花丸「善子ちゃんに憑いても大きな影響がでないのはそういう事ずら」

 ヨシコ……志満さんに聞いた名前…正直むず痒くなるんだけど…死んだ女の子の名前。彼女は…。

花丸「まぁ善子ちゃんの霊感も変な部分だけ強くて面倒ではあるけど…」

善子「………」(知らないわよ!んなも~ん!)

花丸「きっと死ぬ直前に強く意識していた感情だけがさっきの状況を引き起こしてたんだろうけど…」

善子「………」(許さないって…ずっと…それだけを…?)

花丸「だから、ハナエちゃん!謝りたいのなら今目の前にいるヨシコちゃんにだよ」
 

120: 2016/09/11(日) 22:28:18.37 ID:kSvYzAia0.net
 
花丸「ぅぅ…ヨシコちゃん……ごめんね……私…」

善子「………」

花丸「私が…弱くて……一緒にいたい我儘だけで…無理やり…ぅぅ……」

善子「………」

花丸「ごめんなさい…助けてあげられなくて…ごめんなさい……ごめんなさい…」

善子「………」

花丸「ヨシコちゃんが死んで…私もう…なにも考えられなくて……ぅぇぇ」

善子「………」ピクッ (ん、動いた?)

花丸「どうやったら死んだヨシコちゃんに謝れるだろうって、そればっかり考えて……ただ会いたくて…」

善子「……‥ハ」(わたし、動いてる…)

 わたしじゃないわたしの体が…ううん、これはきっとヨシコの意思がそうさせているんだ…。

善子「ハナ……エ…」

花丸「え………グスッ」
 

121: 2016/09/11(日) 22:28:54.75 ID:kSvYzAia0.net
 
 動かず、ずら丸の手に抑えられていた体がすっと動く。腕が上がり……涙でぐしゃぐしゃになった花丸の頬を撫でた。

善子「ハナエ……」

花丸「びぇ……ぇぇ…ヨシコちゃん………ぅぅ…っっ」

善子「そっか…私死んじゃってたんだ…」(うおぉ…自分の声が…)

花丸「あぅぅぅ…ごめんなさいー……」

善子「なんでハナエが謝るの?」

花丸「だって…だってえぇぇぇ!」

善子「私、ハナエを恨んでたんじゃないよ?」(ん?)

花丸「で、でも私…あなたを見捨てて……」

善子「ハナエが断れない性格だってのは私がよく知ってるし、それで心をずっと痛めてるのも…知ってる…」

花丸「うぅ……ズズ……」

善子「あなたむかしからそうだったじゃない…だからね、私はそんなハナエを悲しませてるあいつらが許せなかった…!」
 

122: 2016/09/11(日) 22:29:47.44 ID:kSvYzAia0.net
 
善子「今でも覚えてるよ…あいつらのあの時の顔…絶対に…許さない!」

花丸「ヨシ…コ……ちゃん」

善子「でもそれも終わりっ…だって…私もハナエも、もう死んじゃってるんだし」

花丸「ごめん……」

善子「だからもういいんだって、私こそごめんって言わないと」

花丸「そ、そんな…事……」

善子「ううん、私も悪いんだ。なんであれ、ハナエと一緒になにかしたかったのは私も同じだし、無理しすぎてたのも…」

花丸「………そんな……事……」

善子「それに、疲れてダウンしてた私にいつも手を貸してくれたのはハナエじゃない…私、それだけでがんばれると思ってたの」

 あ…この暖かい……心地いい気持ちは……ヨシコが感じているもの?
 そうか……だからハナエの傍にいた時…わたしの心はあんなにも穏やかだったんだ…。

 

123: 2016/09/11(日) 22:30:22.45 ID:kSvYzAia0.net
花丸「私は…そんなの当たり前で……」

善子「それだけでがんばれるって…そう思ってた自分も悪かったの…」

花丸「そんな事ない!ヨシコちゃんが悪い事なんて……なにも…」

 あー、なんか話が進まなくなってきた…。

花丸「お互い気持ちが通じ合えたら、それでいいずら」

善子「ずら丸!?あ、あれ…?」

花丸「ハナエちゃんも、ヨシコちゃんも、あとでゆっくり話すといいずら」

善子「か、体が動く……?」

 これって、わたしの体からヨシコがもういないってこと?

善子「こ、これでようやく…」(あ、ごめんまだいる)

善子「わあぁ、び、びっくりした…ってどこ?」(ホントごめんね、色々と…)

善子「そ、それはいいから、早く成仏しなさいよ…」(一言ちゃんといいたくて…)

花丸「傍から見てる分にはおもしろいずら」
 

124: 2016/09/11(日) 22:31:45.54 ID:kSvYzAia0.net
 
善子「それで…なんなの?」(ハッキリと言えないけどキミとは相性がよかったのかなって)

善子「はぁ?なんで…」(天使とか悪魔とか、好きでしょ?)

善子「な、なによ急に…」(私も好きだよ、そういうの。もしかしてそこに惹かれたのかな?)

善子「だとしても愚問よ…」(そうだね、でも一つだけ…この世の未練になりそうだから教えて)

善子「死んでから未練作らないでよ…」(どうして堕天使なの?)

善子「はぁ?どういう意味?」(普通みんな天使とかそういうのに憧れるじゃない?)

善子「たんに好き好きじゃないの?」(私もそういうの好きだけど、やっぱ自分は天使がいいなって)

善子「そんなの…カッコイイからに決まってるじゃない」(そうなんだ…まぁいいか)

 心に思う事がもし筒抜けなら……そっちで納得しておいて…。
 わたしは天使にはなれない……だって……。
 

125: 2016/09/11(日) 22:32:48.81 ID:kSvYzAia0.net
 
花丸「あ………」

善子「ん?」

 小さな声をあげ、花丸が天を仰ぐように…見つめている…。

善子「あ………」

 同じように視線をやると、小さな光のようなものが……二つ……。

善子「うーん……摩訶不思議ね……」

花丸「そうずら?お寺の周辺じゃやっぱりよく見かけるずら」

善子「だからマジで怖いからそういうのっ!」

 笑うずら丸…つられてわたしも………そう…わたしは天使にはなれない……。

花丸「ん~~~なんだかいい気分ずら」

善子「わたしはどっと疲れたわよ……」

 あの日見た…強い光に……思ったんだ……。

花丸「さ、帰ろ…善子ちゃん」

善子「そうね……」


 わたしとって最高の天使が…そこにいたって…。

 

126: 2016/09/11(日) 22:33:46.47 ID:kSvYzAia0.net
 
 -次の日 千歌ちゃんの部屋


善子「……………」

花丸「……………」

ダイヤ「それで、夜中にコソコソと出かけて、学校に忍び込んで…なにをしていたんです?」

善子「そ、それは…なんといいましょうか……」

ダイヤ「聞こえませんわよ?」

花丸「こ、怖いずら…」

 昨日学校を出て帰ろうとしたわたしとずら丸の前には衝撃の光景がまっていた。
 なんと、まだ深夜だと思っていた時間はすでに早朝!しかも傍に落ちてたスマホがもう鳴りっぱなし!

千歌「ホントビックリしたよ、自転車で近くを走るっていうから貸したのに、まさか一晩中帰ってこないなんて」

梨子「あ、ああ…あの…ふ、二人は…そういう…?」

 あぁ…ついでのように誤解されてる。

果南「朝起きたら二人も行方不明だよ?どれだけみんな心配したと思ってるの!」

善子「ご、ごめんなさい…」

花丸「ずらぁ…」

曜「部室の鍵まで持ち出して…」
 

127: 2016/09/11(日) 22:35:04.81 ID:kSvYzAia0.net
 

鞠莉「まぁ、とりあえず無事でよかったわ…」

ルビィ「ほんと心配したよー…」

花丸「ごめんなさい……」

ダイヤ「とにかく、あとできっちりと追及しますから覚悟するように!」

善子「うぅ………」

ダイヤ「ふぅ……とりあえず疲れたでしょ…千歌さんのお姉さま方が朝食を用意してくださってますから、いただきなさい」

花丸「ご、ご飯ずらぁ!」

善子「うぇ…疲れて食欲が……」

花丸「食べないと、元気でないずら~~~っよ」

   プスッ

善子「っ!」ギランッ

花丸「~♪」

善子「深淵の深き闇より、ヨハネ、堕天!」シャキン


千歌「あれ、善子ちゃんの羽根、新しいの?」

花丸「マルが曜ちゃんに手伝ってもらって作ったずら」

曜「夜道も安全なように、光る黒き羽根だよ!」

千歌「防災意識の高い堕天使だね」

花丸「だってマルの堕天使さんは、すぐ闇にまぎれてどっかいっちゃうずら」

梨子「ま、まま、まるの!?」

花丸「だから、ちゃんと捕まえられるように…ずらっ」
 

129: 2016/09/11(日) 22:36:30.15 ID:kSvYzAia0.net
 
善子「さぁ、今日も下界での業を払うため、自ら課した試練を乗り越えるのよ!ヨハネ!」

鞠莉「んー、まだ読解能力がおいつかない」

花丸「今日も練習がんばろ~って意味ずら」

善子「そこっ!雰囲気壊さないの!」

ダイヤ「善子さんの堕天使への憧れ、わからなくもないですが…実際あるかわからないものに…」

善子「ん、なにいってるの、堕天使なんているわけないじゃない」

鞠莉「oh…ついに発言が破城しだしたデス」

千歌「でも善子ちゃんいつもいってるよね」

善子「善子じゃなくて、ヨハネ!」

 そう…堕天使なんているわけない…不思議な事なんてなにもない……あってたまるかっての!

花丸「やっぱり、善子ちゃんはこうじゃないと」
 

130: 2016/09/11(日) 22:37:46.44 ID:kSvYzAia0.net
 
 天使だと思った…自分じゃなれないものだと感じた。だったら堕天使になるしかないと思った。
 だから堕天使なんて存在されちゃ困るんだ…だって……無いからこそ、成れるんだから!

 わたしが成りたい堕天使に、わたしが成るために!


善子「ヨハネ!降臨!!」

花丸「ず~ら~~♪」
  
 

131: 2016/09/11(日) 22:40:30.90 ID:kSvYzAia0.net
おしまい

っでございます。長文駄文、読んでくれた方はありがとうございます
なんか最初と雰囲気ガラっといっちゃいましたけど
重なる保守支援、ありがとうございましたっ

132: 2016/09/11(日) 22:45:11.66 ID:bTfPxQiA0.net
こういうの読むと感情移入しすぎちゃってまあ…。
マルとよっちゃんに似たハナコとヨシコが向こうで仲良くやれる事を切に願って、冥福を祈る

おつでした!いい話だった

141: 2016/09/12(月) 15:23:49.70 ID:rvjQCYALp.net
>>132
あうん今更だけど名前打ち間違えてたハナエだったねごめん

133: 2016/09/11(日) 22:50:52.86 ID:3KBgIF420.net
おつ
すごい良かった
最後怖かったけどなんかほっこり?した

134: 2016/09/11(日) 23:09:49.70 ID:PqkmP5d/0.net
いいものだったよ乙

135: 2016/09/11(日) 23:10:27.35 ID:kfRx7Nq6x.net
丸が善子に羽差す伏線が良かった
また良かったら書いてほしいヨハねぇ
お疲れ様リトルデーモン

136: 2016/09/11(日) 23:31:28.35 ID:Myf4wD0a0.net
これはいいものだ

138: 2016/09/11(日) 23:49:35.10 ID:YsnUqDmaa.net
うぐえぇぇー
いい話だよおー
乙!!

139: 2016/09/12(月) 01:13:24.59 ID:jvxjh3Tv0.net
乙よしまる

引用元: http://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1473343532/

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