【SS】にこ「ボーダーライン」

にこ (2) SS


1:みじけぇ!(図書館の中の街) 2019/10/05(土) 21:14:20.89 ID:p5jS65we
いつも通りの帰り道。

八人と別れ、大分陽の陰ってきた路地を歩いている時のこと。

後ろから、せわしない足音と弾んだ息遣いが近付いてきた。

2: (図書館の中の街) 2019/10/05(土) 21:15:01.49 ID:p5jS65we
花陽「にこちゃん」

 
聞き慣れた声に振り返ると、側まで駆けてきた花陽は荒い息を吐きながらえへへと笑みを浮かべた。


にこ「花陽ー」


不思議そうに目を丸くすると、花陽はふにゃふにゃと嬉しそうな表情のままスクールバッグからCDの入ったケースを取り出した。


花陽「これ、返すの忘れちゃって」


先日渡した、私が好きなアイドルソングを焼いたCD。

欲しいと言われてあげるためにコピーしたものなんだけど。

3: (図書館の中の街) 2019/10/05(土) 21:15:29.99 ID:p5jS65we
にこ「はぁ?そのためにわざわざ走ってきたの?っていうかあげるつもりで渡したんだけど」

花陽「でも、なんか悪い気がしちゃって」

にこ「はぁ?」


花陽に限ってたかが知れたCD一枚の価値や音楽のデータがPCに保存されていることがわからない訳がない。

感謝を伝える方法なんていくらでもあるだろうに。

純粋さを感じさせるような上目遣いでえへへと見つめてくる。

4: (図書館の中の街) 2019/10/05(土) 21:15:55.91 ID:p5jS65we
にこ「……ありがと」


素直に受け取って、恥ずかしさを誤魔化すように、視線を逸しながらつぶやく。

花陽らしい優しさもそうだけど、何より口実を作ってまで会いに来てくれたことが嬉しかった。


花陽「お礼を言うのはこっちだよ~」


かわいいやつめ。

5: (図書館の中の街) 2019/10/05(土) 21:16:34.74 ID:p5jS65we
にこ「んーどうする?うちで夕食食べてく?」

花陽「ううん、いいよいいよ」


カフェかファミレスにでも、と言いたいところだけど、あいにく私はチビたちの夕食を作らなければならない。

家まではほんの数分。送ろうか?と尋ねようとした時、花陽が先に口を開く。


花陽「迷惑かけちゃったら悪いし、にこちゃんちまで見送ってくね?」


催促する花陽につられて歩き出す。

6: (図書館の中の街) 2019/10/05(土) 21:16:50.92 ID:p5jS65we
花陽「でさ、聴いたんだけど、すごくよかったよー!特ににこちゃんのおすすめしてくれた二曲目!」

にこ「でしょ?!あれほんと最っ高だから。あー失敗したあれライブ音源版も最っ高で」

花陽「ライブ音源版?!」

にこ「うんほんと聴いてほしい会場の一体感というか……」
 
 
──
──

7: (図書館の中の街) 2019/10/05(土) 21:17:21.19 ID:p5jS65we
にこ「っふー……」

花陽「……」


唯一の"ヲタク"である花陽と熱く語り合っていると時間が経つのはおどろくほどあっという間で、ものの数十秒という体感速度でアパートが目前に迫ってきていた。

ふと冷静になると、夕日に伸びる影がふたつ隣り合っていることに気がついて、心地いいような、くすぐったいぬくもりを感じる。

花陽も汲み取ってくれたのだろう、どこか憂いすら帯びた眼差しで私を見つめていた。

花陽らしからぬ大人びた表情。

8: (図書館の中の街) 2019/10/05(土) 21:18:08.16 ID:p5jS65we
にこ「……ちょっと待ってて」


先に出るようにして振り返って言うと、花陽はちょこんと首を傾げた。


にこ「CD焼いてくる」


頷くのではなく、何を思ってか不意に表情を明るくする。

9: (図書館の中の街) 2019/10/05(土) 21:18:42.25 ID:p5jS65we
花陽「あ、それなら今度にこちゃんに連れてってほしい!……なんて」


伺うような上目遣いは幼く見えるようで、蠱惑的にも思えた。


にこ「それもそっか。わかった、今度誘うから」

花陽「……ほんとに?」


くすぐったい。


にこ「……嘘なんてつかないでしょ」

10: (図書館の中の街) 2019/10/05(土) 21:19:19.05 ID:p5jS65we
百合営業でもしている気分になりながら、オーバーに肩を落として勢いにまかせて尋ねてみる。


にこ「で、どうしたの?なにか相談?」


一瞬の間。


花陽「そう、かな」


……。


にこ「ここで言えないなら、後日どっか」

11: (図書館の中の街) 2019/10/05(土) 21:19:43.59 ID:p5jS65we
花陽「ううん」


その含蓄を込めたような言葉、勿体ぶるような仕草は実に花陽らしくない。


花陽「やっぱり大丈夫」


はにかんだ先には二つの影。

12: (図書館の中の街) 2019/10/05(土) 21:20:02.90 ID:p5jS65we
にこ「遠慮とかしてないでしょうね」

花陽「え、そう見える?」

にこ「別に?」


まるで敢えて気まずさを与えるかのように花陽が動きを止める。

影の顔がそっとこちらを向いた。

13: (図書館の中の街) 2019/10/05(土) 21:20:23.10 ID:p5jS65we
花陽「ねえ、にこちゃん」


艷やかに潤む瞳をじっとに私に向け、待つように、誘うように、ともすれば弄ぶように微笑む。


花陽「ライブ、楽しみにしてるね」

にこ「あーうん、日程とか決まったら連絡するから」

花陽「ありがとう。じゃあね、ばいばい」

にこ「うん……また明日」


見えなくなるまでその場で見送りながら、ぼうっとしていた。

部活で見る花陽の影はそこにはなかった。
 
 
──
──

14: (図書館の中の街) 2019/10/05(土) 21:20:47.31 ID:p5jS65we
返ってきたCDの空きに色々詰め込んで再度渡してやろうと思ったら既に空きは埋まっていた。

純粋にその花陽らしい優しさが嬉しかった。

だからこそ彼女との距離感に悩んでいる。

私は未だライブに誘う勇気を持てずにいる。




終わり

引用元: https://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1570277660/

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