【SS】かすみ「行ってきまーす!」 カミカザŌ ᴗ Ōリ 「……」【ラブライブ!虹ヶ咲】

かすみん SS


3: (もなむす) 2021/10/05(火) 23:22:24.79 ID:OVkrp7SN


かすみ「ふんふふ〜ん♪」

かすみ「よーし!鏡チェックターイム!」

かすみ「うんうん!今日も可愛い!完璧!」

かすみ「じゃあ、行ってきまーす!」ガチャッ

バタンッ



カミカザŌ ᴗ Ōリ ……

5: (もなむす) 2021/10/05(火) 23:30:23.45 ID:OVkrp7SN
カミカザŌ ᴗ Ōリ 吾輩は髪飾りである。名前はまだない。

カミカザŌ ᴗ Ōリ ……なーんて、私に名前が貰えるなんて一生ないだろうけど。

カミカザŌ ᴗ Ōリ 私はただのしがない髪飾り。

カミカザŌ ᴗ Ōリ 今はマスターの『中須かすみ』という少女のもとで暮らしている。

カミカザŌ ᴗ Ōリ 私の仕事は髪に飾ってマスターの見栄えを良くすること。

カミカザŌ ᴗ Ōリ つまり、机の上に置かれてマスターの帰りをただぽつんと待っている私は、無職であることに他ならない。

6: (もなむす) 2021/10/05(火) 23:37:40.94 ID:OVkrp7SN
カミカザŌ ᴗ Ōリ 自慢ではないが、私は己の出自に対してそれなりの誇りを持っている。

カミカザŌ ᴗ Ōリ 私がとあるアンティークショップで暇を持て余していたところ、一人の少女に出会った。

カミカザŌ ᴗ Ōリ 栗毛色の髪に大きなリボン、その瞳に水色の輝きを宿した少女であった。

カミカザŌ ᴗ Ōリ 確か名前は『桜坂しずく』と言っただろうか。記憶が曖昧である。

8: (もなむす) 2021/10/05(火) 23:45:28.09 ID:OVkrp7SN
カミカザŌ ᴗ Ōリ 桜坂しずくはそのアンティークショップで大層時間をかけていた。

カミカザŌ ᴗ Ōリ あれがいいかこれがいいかどれにしようか。

カミカザŌ ᴗ Ōリ 身動きが取れないこちらとしては実にじれったい気持ちであった。

カミカザŌ ᴗ Ōリ そして長考の末、彼女は私を選んだのだ。

カミカザŌ ᴗ Ōリ その時の彼女の言葉を今も私ははっきりと覚えている。


「うん、これにしよう。きっとかすみさんも気に入ってくれるはず」


カミカザŌ ᴗ Ōリ 桜坂しずくは優しい目をしていた。

9: (もなむす) 2021/10/05(火) 23:57:06.47 ID:OVkrp7SN
カミカザŌ ᴗ Ōリ 彼女のもとでは数日ほど暮らしていた。

カミカザŌ ᴗ Ōリ 今のマスターの部屋とは違い、とかくお淑やかな部屋であった。

カミカザŌ ᴗ Ōリ 私はそこで宝石のように丁重に扱われていた。髪飾りとして使われることはなかったが。

カミカザŌ ᴗ Ōリ 毎日まめに拭き掃除をして私の体をピカピカにしてくれるのは有難いが、仕事を与えてくれないのでは体裁が悪い。

カミカザŌ ᴗ Ōリ なかなかどうして難儀なものである。

カミカザŌ ᴗ Ōリ そんな日々が続き、しばらくしたある日、彼女はようやく私を手に取ったのであった。

12: (もなむす) 2021/10/06(水) 00:06:41.90 ID:uwabWsNM
カミカザŌ ᴗ Ōリ 連れて行かれた先は、祭典のようなものが催されていた。

カミカザŌ ᴗ Ōリ 彼女の同年代であろう少女達が、歌い、踊り、舞い、笑顔を交わす。

カミカザŌ ᴗ Ōリ えもいわれぬ光景であった。

カミカザŌ ᴗ Ōリ 現代風では『エモい』とでも言うべきだろうか。

カミカザ> ᴗ <リ クスッ

14: (もなむす) 2021/10/06(水) 00:16:11.39 ID:uwabWsNM
カミカザŌ ᴗ Ōリ 桜坂しずくはヒーローショーと呼ばれる舞台の上に立っていた。

カミカザŌ ᴗ Ōリ あのお淑やかな少女があそこまで勇猛さを際立たせるとは……役者とは奥深いものである。

カミカザŌ ᴗ Ōリ ヒーローショーが終わってから、彼女は一人の少女のもとに近付いた。

カミカザŌ ᴗ Ōリ その少女こそ、先ほど舞台上で悪役として彼女と共演しており、後に私のマスターになる、

カミカザŌ ᴗ Ōリ 中須かすみである。

16: (もなむす) 2021/10/06(水) 00:30:17.95 ID:uwabWsNM
カミカザŌ ᴗ Ōリ このとき私は確信していた。

カミカザŌ ᴗ Ōリ 私が桜坂しずくのもとから離れ、この中須かすみという少女の手に渡るということを。

カミカザŌ ᴗ Ōリ その行為が何を意味しているのかを。

カミカザŌ ᴗ Ōリ 難しいことではない。桜坂しずくの言動のひとつひとつを踏まえればその結論に至るのは自明である。

カミカザŌ ᴗ Ōリ が、そのときの私にとってそのような論理的思考は不要であった。

カミカザŌ ᴗ Ōリ 直感的に理解したのだ。

カミカザŌ ᴗ Ōリ 彼女の手から伝わる脈動が。

カミカザŌ ᴗ Ōリ その息遣いが。

カミカザŌ ᴗ Ōリ その火照りが。

カミカザŌ ᴗ Ōリ 中須かすみに悟られぬように抑えていた━━━演じていたとしても、私からすれば丸裸であった。

18: (もなむす) 2021/10/06(水) 00:40:14.16 ID:uwabWsNM
しずく「かすみさん、ちょっといい?」

カミカザŌ ᴗ Ōリ ここに来て私は髪飾りとしての初仕事を迎えることになる

かすみ「?」

カミカザŌ ᴗ Ōリ 桜坂しずくは中須かすみの髪を優しく掬うと、そこに私をそっと添えた。

かすみ「これって……」

しずく「演劇祭のお礼。似合うと思って、買っておいたの」

カミカザŌ ᴗ Ōリ 恥ずかしそうに微笑む桜坂しずく。

カミカザŌ ᴗ Ōリ 対する中須かすみも、呼応するかのようにニッコリと笑ってみせる。

カミカザŌ ᴗ Ōリ えもいわれぬ光景である。エモい!

19: (もなむす) 2021/10/06(水) 00:50:34.57 ID:uwabWsNM
カミカザŌ ᴗ Ōリ かくして私は中須かすみのもとへと渡ることになった。

カミカザŌ ᴗ Ōリ 彼女の部屋は、洗練されてこそいないがどこか落ち着く、居心地の良さそうな部屋だった。

カミカザŌ ᴗ Ōリ 私は髪から解放されると机の上に置かれた。

カミカザŌ ᴗ Ōリ その横には、この娘が幼い頃に授与したであろう小さなトロフィーがいくつか置かれていた。

カミカザŌ ᴗ Ōリ 彼女は私をトロフィーか何かだと同一視しているのだろうか。

カミカザŌ ᴗ Ōリ 大切なものであるという意思は伝わってくるが……勲章扱いも、髪飾りとしては歯痒いものである。

20: (もなむす) 2021/10/06(水) 01:01:12.65 ID:uwabWsNM
カミカザŌ ᴗ Ōリ そして今日も、私はこの机の上で退屈そうにしながら漫然と座しているのである。

「暇そうだねぇ〜髪飾りちゃん」

カミカザŌ ᴗ Ōリ !

カミカザŌ ᴗ Ōリ トロフィーさんだって、暇そうじゃないですか。

トロフィー「そうだね〜…ふぁ〜あ…」

トロフィー「仕事をするにもお客さんがいないと暇で暇でしょうがないよ〜」

カミカザŌ ᴗ Ōリ …………

22: (もなむす) 2021/10/06(水) 01:10:08.13 ID:uwabWsNM
カミカザŌ ᴗ Ōリ トロフィーは、ある者の偉業や功績を形として残し、それを別の物に伝えていくという仕事を担っている。

カミカザŌ ᴗ Ōリ 前者だけでも十分に仕事をしているようにも思えるが、トロフィー本人としては後者の仕事も大切にしたいらしい。

カミカザŌ ᴗ Ōリ それこそが『やりがい』だと評していた。

カミカザŌ ᴗ Ōリ 私にはこの仕事におけるやりがいなど分からぬ。

カミカザŌ ᴗ Ōリ 髪飾りとしての仕事を何一つ果たせていないのだから。

カミカザŌ ᴗ Ōリ そんな私からすれば、トロフィーの言っている事は、なんとまあ贅沢な悩みである。

23: (もなむす) 2021/10/06(水) 01:21:55.79 ID:uwabWsNM
トロフィー「あ、ま〜た『贅沢な悩みで羨ましい』って考えてる〜」

カミカザŌ ᴗ Ōリ してませんよ

トロフィー「顔に書いてあるよ〜」

トロフィー「でもさあ、髪飾りちゃん。君だって、贅沢な悩みかもしれないぜ〜?」

カミカザŌ ᴗ Ōリ ?

トロフィー「だって君は贈呈品、いわゆる『プレゼント』ってやつじゃないか」

トロフィー「ある者がある者への思いを何かしらの形として送る」

トロフィー「つまり君はすでにその役目を果たし終えてるってわけだよ〜」

カミカザŌ ᴗ Ōリ ……

24: (もなむす) 2021/10/06(水) 01:37:58.23 ID:uwabWsNM
カミカザŌ ᴗ Ōリ 確かに私は他の髪飾りとは事情が異なる。

カミカザŌ ᴗ Ōリ 私の背景には桜坂しずくが存在する。

カミカザŌ ᴗ Ōリ 家に帰ってきたマスターが私の方をふと見た時に、桜坂しずくのことが頭に浮かぶのかもしれない。

カミカザŌ ᴗ Ōリ すなわち、私がここに存在しているだけで、中須かすみと桜坂しずくを結ぶものとして機能しているのだ。

カミカザŌ ᴗ Ōリ ……だとするならば

カミカザŌ ᴗ Ōリ 髪に飾られることへのこだわりは間違っているのだろうか?

カミカザŌ ᴗ Ōリ ……間違っているとするならば

カミカザŌ ᴗ Ōリ 私は、はたして髪飾りと言えるのだろうか?

カミカザŌ ᴗ Ōリ 私とは何者なのか?

カミカザŌ ᴗ Ōリ 私はこれからどう振る舞うべきなのだろうか?

カミカザŌ ᴗ Ōリ …………

カミカザŌ ᴗ Ōリ ……やめよう。

25: (もなむす) 2021/10/06(水) 01:45:17.32 ID:uwabWsNM
◇◆◇翌朝◇◆◇

かすみ「じゃあ、行ってきまーす!」ガチャッ

バタンッ

カミカザŌ ᴗ Ōリ 私は考えることをやめた

◇◆◇ 別の日の朝◆◇◆

かすみ「じゃあ、行ってきまーす!」ガチャッ

バタンッ

カミカザŌ ᴗ Ōリ 私は髪飾りのような造形ではあるものの、髪飾りではないのだ

◇◆◇翌朝◇◆◇

かすみ「じゃあ、行ってきまーす!」ガチャッ

バタンッ

カミカザŌ ᴗ Ōリ 自分が髪飾りであるという小さなプライドが、自分を苦しめているのだ

26: (もなむす) 2021/10/06(水) 01:49:44.42 ID:uwabWsNM
◇◆◇別の日の朝◇◆◇

かすみ「じゃあ、行ってきまーす!」ガチャッ

バタンッ

カミカザŌ ᴗ Ōリ そう思うと、自分が髪飾りとして選ばれないことへの劣等感や罪悪感も、だんだんと薄らいでいった

◇◆◇さらに別の日の朝◇◆◇

かすみ「じゃあ、行ってきまーす!」ガチャッ

バタンッ

カミカザŌ ᴗ Ōリ そうだ、私の悩みは贅沢者の発想だったんだ

◇◆◇また別の日の朝◇◆◇

かすみ「じゃあ、行ってきまーす!」ガチャッ

バタンッ

カミカザŌ ᴗ Ōリ 私自身の役目はあの時━━━桜坂しずくが中須かすみに私を贈った時、すでに終わっていたんだ

27: (もなむす) 2021/10/06(水) 02:00:06.61 ID:uwabWsNM
◇◆◇朝◇◆◇

かすみ「うーん……今日の髪飾りはどうしようかなぁ…」

「マスター!今日もわたしを選んでー!」

「だーめ!今日こそ私なんだから!」

「久々に私なんかどうでしょうマスター!」

カミカザŌ ᴗ Ōリ 髪飾りたちが聞こえるはずがない言葉を必死になってマスターに訴えている。

カミカザŌ ᴗ Ōリ 毎朝元気だなと思う。もはや見飽きた光景だ。

かすみ「むむむ……じゃあ、今日はこれ!」

「やったー!」

「えぇー」「ブゥーブゥー」

かすみ「じゃあ、行ってきまーす!」ガチャッ

バタンッ

カミカザŌ ᴗ Ōリ …………

カミカザŌ ᴗ Ōリ 羨ましいとは思わない。自分が何度も何度も飾り付けられるような代物でないことは自覚している。

カミカザŌ ᴗ Ōリ ただ、この体で生まれてきた以上は

カミカザŌ ᴗ Ōリ せめてあと一回、私を飾り付けてほしい

カミカザŌ ᴗ Ōリ そんなことをつい考えてしまうのである。

30: (もなむす) 2021/10/06(水) 07:18:34.23 ID:uwabWsNM
━━━━━
━━━━
━━━

◇◆◇とある日の朝◇◆◇

かすみ「ふんふんふ〜ん♪」

カミカザŌ ᴗ Ōリ 今日のマスターはいつになくご機嫌である

かすみ「う〜ん、着ていく服、どっちにしようかなあ……」

かすみ「こっちもいいけど、こっちも捨てがたいし……うーん……」

かすみ「……決めた!今日はこっち!」

カミカザŌ ᴗ Ōリ 今日の彼女はいつになくオシャレである

かすみ「よーし!鏡チェックターイム!」

かすみ「うーん、やっぱりさっきの服の方が、しず子に褒めてもらえるかなぁ…」

カミカザŌ ᴗ Ōリ しずこ?

かすみ「……ってもうこんな時間!?」

かすみ「やば!せっかくのデートなのにしず子に怒られちゃう!」

かすみ「行ってきまーす!」ガチャッ

バタンッ

31: (もなむす) 2021/10/06(水) 07:29:06.77 ID:uwabWsNM
カミカザŌ ᴗ Ōリ

カミカザŌ ᴗ Ōリ マスターの言ったしずことは、察するに桜坂しずくのことだろう

カミカザŌ ᴗ Ōリ デートということは、二人の関係があの日から良好なまま、いや、それ以上になってるのかもしれない

カミカザŌ ᴗ Ōリ なるほど。だから今朝の彼女は普段以上に浮かれていたのか

ガチャッ

かすみ「いけなーい!肝心なの忘れてた!」

カミカザŌ ᴗ Ōリ ?マスターが戻ってきた

かすみ「危ない危ない、しず子にガッカリされちゃうところだった」

カミカザŌ ᴗ Ōリ そう言いながら、私の方に詰め寄るマスター……

かすみ「えへへ。あの時から決めてたんだよね」

かすみ「しず子から貰った特別な髪飾りだから、今日みたいな特別な日に付けるって」

カミカザŌ ᴗ Ōリ ………!

かすみ「今まで付けられなくてごめんね。その代わり、今日はたっぷり活躍してもらうからっ!」ギュッ

カミカザŌ ᴗ Ōリ 彼女は私を手に取った

32: (もなむす) 2021/10/06(水) 07:37:51.52 ID:uwabWsNM
カミカザŌ ᴗ Ōリ そうだったのか

カミカザŌ ᴗ Ōリ 私が普段から髪飾り扱いされなかったのは、今日この日のためだったのか

カミカザŌ ᴗ Ōリ 髪飾りとしての私は死んでなどいなかったのだ

かすみ「最後の鏡チェックターイム!」

かすみ「しず子の髪飾りをつけて……」

かすみ「……うん!完璧!」

カミカザŌ ᴗ Ōリ マスターの中須かすみと融合した姿を私は初めて見た。

カミカザŌ ᴗ Ōリ 存外に似合っている。桜坂しずくの目利きも大したものである。

かすみ「それじゃ、行ってきまーす!」ガチャッ

カミカザŌ ᴗ Ōリ

「行ってらっしゃ〜い、髪飾りちゃん」

カミカザŌ ᴗ Ōリ !クルッ

カミカザŌ ᴗ Ōリ

カミカザ^ ᴗ ^ リ

33: (もなむす) 2021/10/06(水) 07:38:10.51 ID:uwabWsNM

35: (茸) 2021/10/06(水) 08:07:37.10 ID:tx7o/DLs
文章が読みやすくてすごい
髪飾りちゃんかわいい

36: (SB-iPhone) 2021/10/06(水) 08:11:09.67 ID:uTqeA5sY
どうやら絆は強く結び直されたようですね

引用元: https://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1633443437/

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