【SS】海未「えっ、穂乃果がけんち 汁の具材に!?」

SS


1: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/23(土) 00:32:04.36 ID:ej7hkVFX.net
海未「怪談ライブ、ですか?」

ことり「うん、昨日ほんとかもしれない怖い夜見てたら、皆の怖い話を聞きたくなっちゃって……」

海未「理事長に話した結果、何故か我々の語りを衆目に晒す羽目になったと」

ことり「先走る人だから……」

凛「凛は怖い話苦手だなあ」

花陽「私もだよぉ……」
 
3: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/23(土) 00:34:47.82 ID:ej7hkVFX.net
凛「」

凛「」ブルブル

凛「かよちんは見るからに苦手そうだからにゃー」

花陽「う、うん」

花陽(何で今白目向いて痙攣したんだろ……)

絵里「まあ……決まってしまったものは、仕方ないんじゃない?」

希「怪談となればウチの出番や! やったるでえ!」
 
5: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/23(土) 00:39:45.35 ID:ej7hkVFX.net
にこ「それで、いつやるのよ。怪談をやるにしても、話を調達する時間くらいはあるわよね?」

ことり「今日です」

にこ「は?」

穂乃果「ええっ!? 穂乃果、怖い話の用意なんて何もないよ!?」

海未「穂乃果は昔話してくれたあれでいいのでは?」

穂乃果「ああ、あれ……でもあれはなぁ……」

ことり「とっても怖かったし、あれがいいと思うよ!」

真姫「あれ、って?」

穂乃果「実は私、昔ね……」

希「待つやん。お楽しみは後にとっておいたほうがええやろ」
 
6: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/23(土) 00:43:37.59 ID:ej7hkVFX.net
真姫「それもそうね。私としたことがとんだ失敗だわ」

絵里「私も一つあるけど、真姫は?」

真姫「怪談話のストックなら、そうそう負けないわよ!」

にこ「それは頼もしいことね。にこの番もあげたいくらいだわ」

海未「にこ、それはいけませんよ」

にこ「だって、本当に怖い話なんて……」

希「皆が話してる間に何か思い出せばええやん?」

にこ「うーん……」
 
7: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/23(土) 00:49:03.99 ID:ej7hkVFX.net


ことり「何はともあれ、怪談ライブの開幕です!」

穂乃果「わーい」

海未「拍手をしています」

希「この平坦な反応こそホラーちゃうんかな」

凛「何も思いつかなかったにゃ。かよちん、助けてー」

花陽「あれがああなって……これがこうだから……」ブツブツ

凛「かよ、ちん?」

凛「何故だろうか、嫌な気がするにゃ」

穂乃果「お客さん結構いるね」

希「穂乃果ちゃんが一番やな、ほら行ってき!」

穂乃果「うん、行ってくるよ!」
 
9: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/23(土) 00:53:57.73 ID:ej7hkVFX.net
 第一夜 「ホムラ様」 語り部 『高坂穂乃果』

 お客さん、今晩は。思ったよりも人が一杯いて驚いたよ。

 最初は穂乃果の話からなんだけど……怪談ライブなのに怖くなかったら許してね。

 え? 御託はいいからさっさと始めろ。はは、ごめんね……って、今の野次にこちゃんじゃん!

 くっそー、にこちゃんの番では絶対野次いれてやる!

 じゃあ早速……私の家は穂むらって和菓子屋さんを経営しているんです。
 
10: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/23(土) 01:00:18.89 ID:ej7hkVFX.net
 店の奥は家になっていて、私と妹、お母さんとお父さん、それにお婆ちゃんが暮らしているんだ。主に和菓子を作るのはお父さんで、店員は家族皆でやってるんだよ!

 穂むらって名前の由来は不明……ってことになっているけど、実はこれの由来かもしれないものを、私は知ってるんだ。

 どう、知りたい? 知りたいよね?

 どうしよっかなー、なんちゃって。じょ、冗談だから怒らないでよ凛ちゃん!

 さて、この穂むらの由来となったであろう『モノ』が今回の話。私が店の奥で『ホムラ様』に出会った話。
 
11: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/23(土) 01:07:12.09 ID:ej7hkVFX.net
 私がまだ……五歳くらいの頃だったかな?

 確か季節は夏だったと思う。その日はお店が凄く繁盛してて……ひょっとしたら、お盆だったのかな?

 お父さんもお母さんも、今は引退したけれど、まだまだ元気だったお婆ちゃんもずっとお店に出ずっぱりで、私は一つ下の妹と一緒にお部屋で遊んでいたんです。

 しばらくは大人しく遊んでいたんだけど、子供の二人遊びなんてたかがしれていて、昼を回る頃にはお腹もすくし退屈だしですっかり嫌になっちゃったの。

 積み木を投げて笑ってる妹を横目にぐでーっと倒れてたんだけど、そんな私に気付いたのか妹がスッと立ち上がったんだ。
 
25: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/23(土) 11:28:17.55 ID:ej7hkVFX.net
>>23
やべえ、今の今まで何故か一つ下だと思ってた
すまんな
 
12: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/23(土) 01:13:12.62 ID:ej7hkVFX.net
「ねーた、たんけんいこ」

 そう言うんです。探検って、外は暑いしお腹も空いてるし、どこ探検するのさと聞いてみると、

「おうち、おく」

 って言うんです。さっきも言った通り、私の家は和菓子屋の奥にあるんだけど、私は店から上がってすぐの部屋と二階のいくつかの部屋しか使っていなかったの。

 というのも、お婆ちゃんが奥には絶対にいくなと何度も何度も念を押していたからなんです。だから、ずっと何があるのかなとは思ってたの。

 今、家屋の側にいるのは私と妹だけ。こんなチャンスは滅多にありません。一も二もなく妹の提案に、私は乗りました。
 
13: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/23(土) 01:22:40.25 ID:ej7hkVFX.net
 早速二階にある自室から階段を下りて、働いているお父さん達には気付かれないようにこっそりと奥に行ったんだ。

 行ってすぐ、私は後悔しました。

 つまらなかったんです。そこにあったのはお父さんとお母さん、お婆ちゃんの自室くらいで、私達が大事な物を壊したり汚したりしないように注意していただけと、すぐに気付いちゃったから……。

 妹も当てが外れたような顔をしていたのを、よく覚えてるよ。仕方ない、部屋に帰ろうと妹の手を引っ張って振り返った瞬間。

 階段の下にある、扉が目に入ったんです。

 よくドラマで見るような、地下に繋がる、地面についた扉……。
 
14: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/23(土) 01:28:35.67 ID:ej7hkVFX.net
 普段通る場所からは見えないようになっていたそれに、私達は大興奮したんだ。

 前日、泥棒が地下通路を通るアニメを見たからかもしれない。とにかく、私達はそろそろと扉を開きにかかりました。

 扉は五歳の私には酷く重いものでしたが、それでも力いっぱい引っ張ると徐々に持ち上がり、なんとか開くことが出来たんだ。

 開いた瞬間、バンっ! て何かを叩くような音がしたの。

 同時に店の方からお婆ちゃんが、

「何をしとる!」

 としわがれた大きな声で怒鳴りつけてきたんです。
 
15: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/23(土) 01:38:51.40 ID:ej7hkVFX.net
 私は怖くて怖くて。つい、普段ならやらないような行動を取ってしまったんです。

 妹を抱きしめて、地下の扉の中に飛び込んだの。

 おかしいよね、いくら怒られたからって、そんな自〇みたいな真似。

 中は階段になっていたみたいで、私と妹はカビ臭い空気の中をゴロゴロと転がっていったの。

 けど一番下まで落ちそうになった瞬間、誰かが私達をガッと掴んだんです!

 それは、手の長い猿のような生き物でした。驚いたような顔で私達を凝視していて……。

 私が呆然としていると、お婆ちゃんが慌てたように階段を降りてきました。

 申し訳ありません、申し訳ありません、ホムラ様。どうか、お許しを。どうか、お許しを。

 お婆ちゃんはそれを『ホムラ様』と呼びました。見ていると、何故かしきりに謝っているのです。

 ならん、ならん。女は産まれてないと言うたな。女は産まれてないと言うたな。ならん、ならんぞ。

 木が擦れるような甲高い声です、ホムラ様はそう言ったんだ。そして、

 許せぬ、閉じ込める気だったか。犠牲も払わずして、私ばかりを犠牲にする気だったか。
 
16: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/23(土) 01:42:08.81 ID:ej7hkVFX.net
 一言口にする度に、ホムラ様が怒っていくのが分かりました。

 猿のようだった身体が、湯立つようにボコボコと肉が膨らんでいくんです。

 お婆ちゃんはガタガタ震えながら、許してください、許してくださいというばかりです。

 ならん、産まれたのなら、変わってもらおう。

 そんな声が聞こえると同時に私は意識を失いました。
 
17: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/23(土) 01:46:21.65 ID:ej7hkVFX.net
 ……私が目覚めると、家族が皆涙を浮かべながら助かってよかったと笑っていました。

 その輪の中には妹もいました。まるで自分はあの場にいなかったかのような顔をして、笑っていました。

 その日から妹は変わりました。私より悪戯好きだったのに真面目に、私より元気だったのに大人しく……。

 きっと入れ替わったんだと思いました。しばらくは怖くて近寄れなかったんですが、7歳になったある日意を決して近付いてみたんだ。

 恐る恐る声をかけると、扉の中から声がしたの。

 ねーた、って。
 
19: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/23(土) 01:50:59.44 ID:ej7hkVFX.net
 きっと今も、ホムラ様と入れ替わった妹はあの中にいるんです。

 ホムラ様は守り神か何かで、家に生まれた女の子が新しいホムラ様となる。多分そんなところだろうと思う。

 穂むらって店の名前も、きっとそれから来ているんだよ。

 だから私は、結婚したら絶対に女の子を産むつもりなんだ。

 だって、可哀相だから。

 あのカビ臭い部屋の中、交代をじっと待ち続けている、私の本当の妹が……。

 私の話は以上になります。聞いてくれて、ありがとうね!

 第一夜 ホムラ様 完
 
20: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/23(土) 01:59:05.59 ID:ej7hkVFX.net
穂乃果「ふー、疲れた。怖い話するのって、こんなに疲れるんだね」

雪穂「お姉ちゃん……?」

穂乃果「へっ、ゆ、雪穂!?」

雪穂「あの話の後、私と一緒に聞いてた友達が逃げてったんだけど。ちょーっとお話ししようか」

穂乃果「そ、それは、なんていうか怪談を盛り上げるために雪穂にしたっていうか」

雪穂「入れ替わったのは、お姉ちゃんでしょ!」

穂乃果「たはは……」
 
30: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/24(日) 04:53:34.83 ID:PTYCU4QF.net
第二夜 「嘘吐き」 語り部 『園田海未』

 今晩は、園田海未と申します。

 先程の穂乃果の話は如何だったでしょうか。私も過去に聞いたことがあるのですが、当時は穂乃果の家に行きたくなくなった記憶があります。

 だって、本当にあるんですから。地下への扉。

 私は声を聞いたことがないので事実かどうかは知りませんが……。

 しかし、穂乃果が嘘をつかないことを私はよく知っています。だから、きっと事実ではないでしょうか。
 
31: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/24(日) 04:57:37.27 ID:PTYCU4QF.net
 嘘をつく人はこの世に沢山おり、私とて一度も嘘をついたことがないと言えば嘘になります。

 たまの嘘なら許されましょうが、しきりに嘘をつく人というのはどうにも信用が出来ません。

 そんな嘘吐きが、私の通っていた小学校にもいました。穂乃果とことりは覚えていますか?

 仮に、Y君としておきましょうか。

 今回私がお話するのは、Y君の嘘が引き起こした恐ろしい事件の顛末です。
 
32: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/24(日) 05:03:29.28 ID:PTYCU4QF.net
 Y君は四年生の時に私たちの学校に転校してきました。

 転校生というものはとかくちやほやされるものなのですが、ことY君に関してはクラスの皆に嫌われていたように思います。

 というのも、いつも嘘をついてばかりだったからなんです。自分のいとこが芸能人だ、誰々は誰々のことが好きだ、と。

 それら一つ一つは他愛のないものだったのですが、それが一日に何度も続くとなると話は変わってきます。

 最初のうちは面白がって話を聞いていた皆も、次第に一人、一人と離れていきました。
 
33: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/24(日) 05:08:54.02 ID:PTYCU4QF.net
 私も嫌っていたのかというと、特にそんなことはありません。

 元々人見知りの傾向が強かった私は転校生、それも男の子に話しかけるのは非常に勇気がいることでして。

 なので彼の嘘を聞く機会というのも少なく、信用出来ないとは思っていましたが嫌うという段階まではいっていなかったと思います。

 穂乃果は早々に彼の嘘に飽きていましたが、優しいことりはよく彼の嘘に付き合ってあげていましたね。
 
35: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/24(日) 05:12:47.14 ID:PTYCU4QF.net
 彼の話をまともに聞いてくれるのが、クラスに数人程度になった頃でしたか。

 Y君も焦り始めたのか、突然こんなことを言い出したのです。

 俺は幽霊が見えるんだ、と。

 多くの人はまた嘘かと無視を決め込んだのですが、怪談好きの子たちはその言葉に大いに興味を持ち、彼は僅かにですが友人を取り戻したかのように見えました。

 しかし、それも長くは続きませんでした。

 元々見えている筈がないので、幽霊の事を話すにも限界があったんです。
 
36: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/24(日) 05:18:03.06 ID:PTYCU4QF.net
 一人、一人と消えていき。

 また彼は一人になりました。

 しかし、一度や二度でへこたれる彼ではありません。すぐに挫けるくらいなら、もともと嘘をつくのもすぐにやめたでしょうし。

 この学校には、恐ろしい人〇しの幽霊が出る。夜な夜な校舎を回って、人がいないか探しているんだ。そんなことを言い出したんです。

 ああ、その頃からですかね。学校で飼っていた動物が何者かに惨〇されるようになったのは。
 
37: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/24(日) 05:22:40.15 ID:PTYCU4QF.net
 最初は年少クラスで飼っていた金魚でした。

 早めに来ていた先生が、金魚が死んでいるのを発見したそうです。金魚はぐちゃぐちゃに握りつぶされていて、最初はゴミが浮いていると思ったそうですが。

 次にカメ、フナと小さな動物が〇されていき。

 中庭で飼っていたウサギが〇されたところで、先生たちも対策を考え始めました。

 動物が死ぬ度に、Y君が嬉々とした表情で幽霊の仕業だと言っていたのをよく覚えています。
 
38: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/24(日) 05:26:26.23 ID:PTYCU4QF.net
 そんなある日、誰かがY君にこう言ったんです。

 動物ばかりで人が死んでないじゃん、嘘吐き。って。

 その言葉を皮切りに、皆そうだそうだと彼をなじり始めたんです。

 今迄から彼の嘘を我慢してきた皆の事です。彼に対するストレスは相当のものだったんでしょう。

 彼の狼狽えようは酷いものでした。涙を浮かべて、次は人が死ぬ、絶対に人が死ぬと狂ったように呟いていました。
 
39: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/24(日) 05:30:59.01 ID:PTYCU4QF.net
 その日から彼は、しきりにクラスの人間を夜の学校に誘うようになりました。

 それも数人で行くのかと思いきや、何故か二人きりになりたがるのです。

 彼の誘いに乗るものはいませんでした。私にも声がかかりましたが、当然断りましたよ。

 怖かったんです、Y君が。血走った目で、夜の学校に誘うY君が。

 Y君の顔色は日に日に悪くなっていき、それに比例するように誘いは多くなりました。

 あまり話したことのない私でも五回は誘われたと思います。よく話していた人達は何回誘われたか……。
 
40: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/24(日) 05:35:11.82 ID:PTYCU4QF.net
 そんな日々がしばらく続いたある日、Y君が死んだんです。

 夜の教室に忍び込んで、教室の真ん中で首をナイフで掻き切られて……。

 きっと彼は耐えられなかったんです。自分がなじられることに。

 だから、誰かを〇してそれを幽霊の仕業として、また人気者になろうとしたのでしょう。

 そして、返り討ちにあい……。自〇かとも思いましたし、警察も自〇として処理したようでした。
 
41: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/24(日) 05:41:19.36 ID:PTYCU4QF.net
 けれど、私は聞いたんです。

 彼が死ぬ前日、私は教室に忘れ物をしまして。放課後の教室に、一人で取りに戻ったんです。

 教室に入ろうとした時、Y君のこんな声が、教室の中から聞こえてきたんです。

 本当か、本当に行ってくれるんだな。良かった。じゃあ今日の夜、校門前に集合な。

 けれど、事件後にクラスの皆に話を聞いても、Y君と夜の学校に忍び込んだ人なんて誰もいなかったんですよ。

 ……彼は誰と学校にいったんですかね。誰がY君を、〇したんですかね。

 クラスメートを疑いたくないので、私はY君自身が生み出した架空の幽霊に〇されたのだと、七年経つ今でも思っています。

 私の話は以上です。ご清聴、ありがとうございました。

 第二夜 嘘吐き 完
 
54: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/27(水) 01:37:29.09 ID:lkadsiKB.net
第三夜 「泥の中から」 語り部 南ことり

 皆さん、今晩は。南ことりです!

 私の話は怖い話というよりは不思議な話なんだけど……私が話すこの時間は、二人が怖い話をしていたから、怖がらずに一息つけるような時間にしたいです。

 皆さんは雨って好きですか? 舐める飴じゃないよ? お空から降ってくる、水の雨の方。

 ことりは、中学生くらいまでは雨が好きだったんだ。

 空気というか音というか、言葉にし辛いんだけど雨の日の方が嬉しかったなー。
 
55: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/27(水) 01:41:15.17 ID:lkadsiKB.net
 特に、地面と雨が混ざり合ってドロドロになっているのが好きだったんだ。長靴を履いて泥を踏むと、とっても気持ちいいの。

 だから雨の日は、いっつも泥まみれで帰ってきて叱られてたよ。けど楽しいからやめられなかったんだけどね。

 そんな雨の日のささやかな楽しみをやらなくなって、もう三年。

 皆、成長したから泥遊びをやめたんだって思ってるみたいだけど違うんだ。

 私は泥で、死にかけたの。
 
57: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/27(水) 01:48:40.93 ID:lkadsiKB.net
 中学二年生の、夏の日のこと。

 その日は朝から大雨が降っていて、地面は私好みのドロドロになってたのをよく覚えてるよ。

 学校のグラウンドも朝からグズグズで、あれを踏んだらとっても気持ちいいんだろうなってワクワクさせてくれたし。

 学校に着いた時からうずうずしてたんだけど、中学生にもなって泥遊びしているところを見られるのは恥ずかしいよね。だから、放課後になって人が少なくなるまで教室で待ってたんだ。

 海未ちゃんは弓道部の練習、穂乃果ちゃんは店の手伝いで忙しくって、私一人で夕方まで待ってたんだけど……。

 雨が降ると雲が出るから、明るい時間が短くなっちゃうんだよね。
 
58: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/27(水) 01:56:23.18 ID:lkadsiKB.net
 残って勉強をしていた最後の一人が帰って、ふと外を見ると真っ暗になっててね。

 気付かないうちにこんなに暗くなっちゃってたんだ、ってびっくりしたけど、逆にこれだけ暗いと少々遊んでても気付かれないだろうって思い直してグラウンドに向かったの。

 雨は止むどころか朝よりも強まってて、グラウンドには小さな川が出来てたのをよく覚えてる。そんな状態だから、普段はグラウンドにいる野球部の子達も陸上部の子達もいなかったし。

 一応辺りに誰もいないことを確認してから、グラウンドに一歩踏み出したの。

 期待通りのブニュッとした感覚が足全体を包み込んで、本当に気持ちよかったなあ……。

 足の先から伝わる感覚を楽しみながら、シャバシャバしてたり粘り気が強かったりする違いを楽しみながら、グラウンドを回ってたんだ。
 
59: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/27(水) 02:02:09.14 ID:lkadsiKB.net
 そしてグラウンドの中頃……そう、鉄棒のある辺りまで来たときに、突然雨音に混じってこんな声が聞こえたの。

 遊ぼう。

 さっきも言った通り、私はグラウンドに入る前に周りに人がいないことを確認してたし、私がグラウンドに入ったのを追いかけてきたんなら音もするはずだよね。

 おかしいなあと思って辺りを見回すと、やっぱり誰もいない。

 気のせいかな、雨音がたまたまそう聞こえただけなのかな。

 そう思って、また歩き出した瞬間。

 ねえ、聞こえてるでしょ。遊ぼうよ。

 今度ははっきりと、そう聞こえたの。
 
60: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/27(水) 02:08:44.95 ID:lkadsiKB.net
 流石にもう雨音とは思えなかったよ。誰もいない筈のグラウンドから、人の声だけが聞こえてくるの。

 そう気付いた瞬間、一気に冷や汗が噴き出したの。

 薄暗いグラウンドは、街灯と学校から漏れるライトに僅かに照らされている程度で、冷静に見てみたら相当不気味な様子。

 その上雨まで降っていて、日本怪談にお誂え向きな雰囲気。何でここに来ちゃったんだろう、家の庭でも泥は踏めたのに。そう思うとね。

 自分が何かに呼ばれたんじゃないか、って気分になってね。

 焦っちゃって、そのままUターンして走って帰ろうとしたの。
 
61: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/27(水) 02:13:17.26 ID:lkadsiKB.net
 だけど、不安定な泥の上で走ったからかな、転んじゃったの。

 また服が汚れる、そう思いながら私は泥に手をついたの。

 その途端、トプンって。

 まるで川か海の中に飛び込んだ時のように、私の体が沈んだの。

 変だよね、グラウンドの真ん中だよ? 小さな川が出来てたりしたとはいえ、人一人が沈むようなものじゃないし。
 
62: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/27(水) 02:17:57.55 ID:lkadsiKB.net
 泥の抵抗感もなく、本当に水に入ったときのような感じだったんだ。

 泥の中に沈んだ筈なのに、周りは透明でね。

 沈んだ瞬間驚きすぎて、私プールに落ちちゃった!? って勘違いしちゃったの。

 グラウンドの隅にプールがあったんだけど、たまたま金網が破れてたりして侵入しちゃったのかなって。

 けど、あの中学校出身の人……って、この学校にいる人はほとんどあの中学の卒業生だよね。

 分かると思うんだけど、プールって鉄棒の丁度反対側にあるの。

 だから、鉄棒近くでプールに落ちるなんてこと、有り得ない。
 
63: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/27(水) 02:25:33.86 ID:lkadsiKB.net
 それに、その落ちた先が妙に広くってね。

 とっても澄んでいるのに、向こうが全然見えないの。まるで、グラウンドの下に巨大な水槽でもあったみたい。

 上を見たら泥があって、何なんだろう、変だなって思いながら泳いで上に上がろうとしたの。

 そしたらね。

 待って。って、声が聞こえたの。

 水の中なんて、耳の周りに水があるから普通は聞こえない筈なのに、当たり前のように声が聞こえるの。

 ふっ、と下を見たら水の底から女の子が歩いてくるのが見えたんだ。
 
64: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/27(水) 02:30:46.68 ID:lkadsiKB.net
 泳ぐんじゃなくて、水の中を地面のように歩いてくるの。

 不思議な女の子だったなー。赤い着物に、真っ黒な帯を締めてた。

 遊ぼうよ、寂しいの。

 そう言いながら、私の方に歩いてくる。

 怖くなった私は、急いで泥へ向かって泳いだの。あの子に捕まったらどうなるか分からない、そもそも水の中じゃ息も出来ないしね。

 なんとか泥に辿り着いて、無理やりそれを掻き分けて這い出たら、そこはいつも通りのグラウンドだった。

 また落ちないように、急いでコンクリートのあるところまで逃げて、さっき這い出たところを見たらね。

 あの女の子が泥の中から顔を出して、ジッとこっちを見ていたの。
 
66: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/27(水) 02:38:04.93 ID:lkadsiKB.net
 次は遊ぼうね。待ってるよ。

 それだけ言って、女の子は泥に混じって沈んでいったんだ。

 ……だから私はそれ以降、雨の日に泥に近付いてないの。

 雨が降ったらコンクリートの上を歩いて、水たまりも避けて。

 たまに、泥に足を入れてみたくなるんだけどね、ダメなの。泥に紛れて、あの女の子がたまに顔を出すから。

 おいでよ、寂しいよって言いながら、ね。

 不思議な話だよねえ、泥の中にそんな広い空間があるなんて。そんな、ちょっと不思議な話でした!

 ああ、そういえば。昨日も雨が降ってたね。帰り道、泥を見つけたらよく見てみるといいよ。その子が手招きしてるかもしれないから。

 第三夜 泥の中から 完
 
81: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/28(木) 04:55:22.98 ID:e7X7Kegb.net
第四夜 「夢の中」 語り部 『星空凛』

 こんばんは、星空凛だよ!

 ことりちゃん酷いにゃー、怖くないっていいながら怖い話するんだもん。もう雨の日に泥遊びできないよ。

 凛の話はー……少し怖い? のかな?

 凛は怖いと思ってるけど、皆が怖いかは分からないよー。前の三人程は怖くないと思うけど。

 えっとね、皆は気絶ってしたことある? 急に意識を失って気付いたら倒れてるって経験、あるかな?

 凛はね、よく気絶するんだ。原因は分からないんだけど、急にふっと意識が無くなるの。
 
82: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/28(木) 05:01:46.86 ID:e7X7Kegb.net
 大体気絶している時間は短ければ一秒くらい。長くても三秒くらいなんだけどね。

 それが大体……三日に一回くらい、あるのかな。

 横断歩道を歩いている時でも、誰かと会話している時でも構わずにそうなっちゃうのにゃ。

 中々困るよねえ、時間は短いとはいえ、気絶している間は何があっても分からないだろうし。

 凛がこうなったのは一年前くらいだったかな、日にちはよく覚えてないけど、ある日突然そうなっちゃったんだ。
 
83: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/28(木) 05:11:48.37 ID:e7X7Kegb.net
 最初は時間が短いこともあって、立ち眩みかな? くらいに思ってたんだけど。

 皆に「たまに白目剥くのなんで?」って聞かれることがあって、気絶していることに気付いたにゃ。

 さっきもかよちんの前で気絶しちゃったし……恥ずかしいよ。

 でね、一か月くらい経った頃からかな。夢を見るようになったの。

 凛が、産まれる夢。

 夢の中の凛は赤ちゃんで、ママとパパの手に抱かれてるの。
 
84: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/28(木) 05:15:32.32 ID:e7X7Kegb.net
 ほんの一瞬気絶しただけの筈だったんだけどね。その夢の中では、これが夢だなんて思いもせずに赤ちゃんになってるの。

 その夢の中で、一週間くらい過ごしたのかにゃー。ママにミルクを貰おうとした瞬間、気絶から目覚めたの。

 夢の中では一週間も経ってたのに、現実の凛は一秒くらいしかそこにいない。

 最初は変だなあ、って思うくらいだったの。

 でもね、気絶を何回も繰り返すうちにおかしなことに気付いたの。

 夢の中で過ごす時間が増えてきてる。
 
85: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/28(木) 05:18:18.48 ID:e7X7Kegb.net
 最初は一週間だったのが一か月になり、二か月になり。

 幼稚園に通いだして、小学生になって、中学生になって。

 夢の中で何年も過ごすようになったんだ。

 けど、現実の凛はたった一秒ほど気絶してるだけなの。

 長くなるにつれて、戻った瞬間、あ、今の夢だったんだって思うようになってね。

 夢と現実の境が曖昧になってきたんだ。
 
86: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/28(木) 05:21:26.84 ID:e7X7Kegb.net
 お医者さんにも行ったよ? けど、皆原因が分からないって。

 脳に異常があるのかもしれないって、スキャン? とかいうのをしてもらったけどやっぱり異常なし。

 精神的なものかと思って精神科に行っても、何の解決にもならない。

 薬なんか飲んでも効くわけないにゃ。多分、そういうことじゃないんだろうから。

 それでね、最近では夢がね。

 現実に追いついてきてるの。
 
87: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/28(木) 05:25:50.56 ID:e7X7Kegb.net
 夢の中の凛は今、高校生になったの。

 皆と出会って、μ'sに入ってスクールアイドルをやってるんだ。

 かよちんとも仲良しで、にこちゃんと遊んで、穂乃果ちゃんとご飯食べて、真姫ちゃんをからかって。

 自分のした行動と全く同じことを、夢の中の凛はやってるの。

 もう凛は、同じことを繰り返す夢の中だけで、何百年も過ごしてるんだ。
 
88: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/28(木) 05:29:09.18 ID:e7X7Kegb.net
 せめて記憶が残らなければいいのに、って何度も思ったよ。

 夢の中の凛は、現実の凛の記憶なんてないからいつも楽しそうで楽しそうで。

 現実の凛ばかりが、夢から覚めた時にどっと疲れてるの。

 だけどね、最近いいことがあったの。

 夢の中の凛も、気絶し始めてるんにゃ。

 凛と同じように、何百年も同じことを繰り返すあの夢を見始めてるんだ。

 凛ばかり苦しんでたのが、夢の中の凛も苦しむようになったんだ。

 ざまぁみろ、って思ったよ。
 
89: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/28(木) 05:33:02.79 ID:e7X7Kegb.net
 だけど、もし夢の中の凛がこれからまた長い夢を見るとしたら、それを見ている凛はどうなるんだろうね。

 夢の中の凛の夢は、夢の中の凛には記憶が残っているみたいだけど、それを追体験しているだけの凛には分からないにゃ。

 もう、頭がぐらぐらしてきてね。

 今が夢か現実かなのかさえ、凛には分からないの。

 これは凛なの? 凛が見ている夢の凛なの? そのまた夢の中の凛なの?

 もしかしたら、凛が現実だと思ってる凛も、別の凛の夢かもしれないね。
 
90: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/28(木) 05:36:35.23 ID:e7X7Kegb.net
 この気絶癖はいつになったら治るんだろうね?

 このままじゃあ、夢が現実を追い越しちゃいそうだよ。夢が現実の時間と重なったら治るのかな?

 それとも未来を見ちゃうのかな? 凛は、見たくないなあ。

 凛がお婆ちゃんになる頃には、凛は夢の中で何回死を繰り返してるんだろうね。

 凛の話はこれで終わりにゃ! 皆、静かにきいてくれてありがとうね!

 第四夜 夢の中 完
 
99: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/29(金) 02:22:34.36 ID:i/53cd3s.net
第五夜 「お呼びしましょうか?」 語り部 『西木野真姫』

 今晩は。

 西木野真姫と申します、この度は私共の怪談ライブにお越し頂き……え? 硬い?

 いいのよ、こういう挨拶は少々硬いくらいで。

 敬語使うと海未みたいって、海未は普段から使ってるからそう聞こえるだけよ。

 大体穂乃果だって話してる最中に敬語が混じってたりしてたじゃない。

 挨拶が長い?

 結局、考えてきた挨拶の半分も言えなかったわ、全くもう。
 
100: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/29(金) 02:30:32.94 ID:i/53cd3s.net
 ええと、どこから話せばいいのかしら。

 まず、私の家が病院を経営してるってことは皆知ってるわよね?

 西木野総合病院っていう、大きな……なんて言ったら自慢みたいに聞こえるかもしれないけど、本当に大きな病院なの。

 私が今から話すのは、この病院で起きた出来事。

 病院っていうのは、人の生と死が同時に起きえる場所だからなんだろうけど、怪談話が多いのよ。うちの病院もその例に漏れず、怪談は多いの。

 実際に私が体験したわけじゃあないから、一部曖昧になるところもあるけれど、少しでも怖いと思っていただければ幸いです。
 
101: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/29(金) 02:42:13.97 ID:i/53cd3s.net
 うちの病院にはAさんっていう看護師さんがいるんだけど。

 年齢は聞いたことないけど、私が生まれる前から病院で勤務してたらしいから多分結構な歳ね。

 小さい頃には私もよく病院の児童コーナーなんかで面倒を見てもらってたりして、その縁から今でもたまに会って喋る程度に仲はいいわ。

 それでこのAさん、霊感はほとんど無いのにやたら霊にちょっかいを出されやすいタイプの人でね。

 会うとよく、この前はこんな霊に会った。この前はこんな霊が居た。って話してくれるの。

 それがまた、語り上手っていうのかな、妙に上手くってね。

 自分も体験しているかのように感じることもあるくらいなの。
 
102: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/29(金) 02:50:29.32 ID:i/53cd3s.net
 その中でも、特に怖かった話があるのよ。

 Aさんが夜勤をしていた時の話。うちの病院は、夜中は各階に最低三人の看護師を置いて緊急時に即時対応出来るようにするって形式を取っているの。

 といってもAさんは小児科勤務だから、親が付き添いで泊まってる病室も多いしあまりナースコールが鳴ることもないらしいわ。

 たまに一人部屋の子から、暗くて怖いって電話が来て寝かしつけに行くくらいのもの。

 だから普段はカルテの整理や備品の確認なんかの諸作業をしながら、小声で雑談したり仮眠取ったりしてるらしいんだけれど、その日はやけに忙しい日でね。
 
103: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/29(金) 02:57:50.07 ID:i/53cd3s.net
 珍しいことに、Aさんがセンター内にたった一人になっちゃったのよ。

 病院に一人なんて普通は怖いかもしれないけれど、Aさんは長いこと看護師をやっているだけあって慣れっこになってて。

 呼び出し入ったら別の階からヘルプを呼ぼうかなあくらいの気分で、作業を続けてたらしいの。

 少ししたら、ピリリリってね。

 ナースコールの呼び出しランプが点灯したの。

 一人なのに参ったなあ、そう思いながらAさんは呼び出しランプの方に近付いていって、首をかしげたそうよ。
 
104: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/29(金) 03:04:23.52 ID:i/53cd3s.net
 ナースコールの呼び出しを見たことが無い人がいるかもしれないから一応説明しておくわ。

 基本的には壁掛け電話みたいなものなんだけど、どの部屋からコールが来てるかすぐ分かるように、横の板に押しボタン式の点灯ランプがたくさんあって各部屋の番号が振り分けれているの。

 光っているボタンを押してから電話を取れば、その部屋からのコールに繋がるわけ。

 で、Aさんが首をかしげた理由なんだけど。

 ナースコールが点灯していた部屋っていうのが、空き部屋だったのよ。

 悪戯かと思ったけど、こっそりと入った子供が発作でも起こしていたら問題だと思い直して受話器を取ったらしいの。
 
105: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/29(金) 03:21:42.38 ID:i/53cd3s.net
 受話器を取ると、ゆっくりとした息遣いが聞こえてきたそうなの。

 もしもし、ナースセンターです。どうかしましたか?

 そう聞いてみたんだけど、受話器の向こうの相手はふー、ふーと息をしているだけで碌に返事もしてこない。

 息が荒かったり身じろぎするような音でもあれば、声を出すことも出来ない急病人かなとも思うんだけど、相手は嫌にゆっくりした息遣いで平然としている風だったから、Aさんも悪戯だと思ったそうよ。

 だから、電話を切って、誰かが戻ってきたら確認しに行こうと思った瞬間、電話口からしわがれた声が聞こえたの。

 呼びましょうか、って。
 
106: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/29(金) 03:24:46.32 ID:i/53cd3s.net
 その声はどう聞いても老人のそれで、小児科に入院している子供とは似ても似つかない。

 そこでAさんは考えたの。

 ああ、別の階に入院しているお爺さんかお婆さんが、ボケちゃってこの階に来ちゃったんだって。

 仕方ないなあと思いながら、もう一度声を掛けようとした時、Aさんは異変に気付いたわ。

 声が出ない。
 
107: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/29(金) 03:28:27.88 ID:i/53cd3s.net
 いや、声だけじゃない。体も動かない。

 金縛りってあるでしょう? 寝ている時に体が動かなくなるっていうあれよ。

 突然、そんな状態に陥ってしまったらしいの。

 受話器からは尚も、呼びましょうか、呼びましょうかと聞こえてくる。

 金縛りにあったこともあって、その声が妙に不気味に聞こえて仕方なかったらしいわ。

 何も呼ばなくていい、そう思っていると、後ろから、

 カツン

 カツン

 靴を鳴らす音が近付いてきたそうよ。
 
108: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/29(金) 03:31:47.87 ID:i/53cd3s.net
 同僚が帰ってきたのかと思ったけど、違う。看護師はそんなに音が出る靴を履かないしね。

 更に妙なことには、老人が呼びましょうかという声に合わせて靴の音は近付いてくるの。

 この電話を聞き続けたらまずい、そう思ったのだけれどどうしても手は動かない。

 叫びたくても声も出ない。

 呼びましょうか、とカツンカツンと響く音だけが耳に入ってくる。
 
109: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/29(金) 03:35:12.93 ID:i/53cd3s.net
 このままだったらどうなるか、恐怖のあまりAさんは無茶苦茶に体を動かそうとしたの。

 すぐ後ろまで靴の音が近付いてきた時、不意に金縛りが解けたそうなの。

 で、焦っていたAさんはね、

 呼ばなくていいです!

 って電話に向かって叫んだそうなの。すぐに電話を切るなり逃げるなりすればいいのにね。
 
110: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/29(金) 03:37:32.41 ID:i/53cd3s.net
 すると電話口の声がやんで、靴の音も止まったの。

 ああ、良かった。ホッとした瞬間、

 Aさんの肩を誰かが掴んだの。

 ごめんね、もう呼んじゃった。

 かすかに電話口から聞こえる声を最後に、Aさんは意識を手放したそうよ。
 
111: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/29(金) 03:41:47.25 ID:i/53cd3s.net
 これで話はおしまいよ。Aさんは気絶しているところを同僚に発見されて大恥かいたって言ってたわ。

 電話してきたものが何なのかは分からないし、何を呼んだのかも分からないまま。

 だからこそ、それを何でもない事のように話すAさんが怖かったわ。

 そんなことがあっても、未だに看護師続けてるしね。

 次は花陽……の筈だったんだけど、花陽は最後にしてほしいって言ってたから多分にこちゃんね。

 ……ちゃんと怪談思い出せたのかしら、にこちゃん。不安ね。

第五夜 呼びましょうか? 完
 
114: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/29(金) 20:57:09.49 ID:LFjYAnrp.net
第六夜 「友達」 語り部 『矢澤にこ』

 にっこにっこにー! あなたのハートににこにこにー、笑顔届ける矢澤にこにこー!

 怪談ライブでもにこっ!

 は?

 誰よ、今寒いって言ったの。凛? 穂乃果?

 ま、まあいいわ。少々茶々を入れられたところで、宇宙一アイドルにこにーの可愛さは揺るがないから!
 
115: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/29(金) 21:38:53.38 ID:LFjYAnrp.net
 怪談ライブってことは、やっぱり怪談しなきゃいけないのよね。前の皆も怪談してたし……。

 でも、正直なところ私、心霊体験もしたことなければ誰かに怖い話を聞いたこともないのよね。

 知ってるのは鬼婆とかのっぺらぼうみたいな古典怪談ばかりで……。

 友達がいないってわけじゃないわよ? ただ皆とそんな話する機会がなかっただけ。な、何よその憐れむような目!

 ちゃんと友達くらいいるわよ。アイドル研究部だって、そもそも友達と建ちあげたものだし。

 ああ、怪談になるか分からないけど、一緒にアイドル研究部を作った友達の中に一人妙な子がいたのを思い出したわ。
 
118: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/29(金) 22:12:32.05 ID:LFjYAnrp.net
 勝手に話していいものなのかは微妙なんだけど、今はその子も学校にいないしまあ大丈夫よね。

 その子、仮にSとしておきましょうか。

 Sは高校に入った時からの友人で、アイドルが好きって共通点から友達になったの。

 今風、って言ったらいいのかしらね。不良っぽい感じで、キャハハって笑うようなタイプの子でね、趣味は宅飲みとか言っちゃう子だからアイドル以外の趣味は全く合わなかったわね。

 そんなS達と立ち上げたのが、アイドル研究部よ。私も頑張ったんだけど、結果はご存知の通り。ぼろぼろに打ちのめされただけだった。

 活動しなきゃ人気も出ないのに、活動する度にメンバーの仲が悪くなっていくような状態に陥っちゃって、皆夢から覚めたように部活を辞めていったわ。
 
122: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/29(金) 22:45:29.22 ID:LFjYAnrp.net
 Sもすぐに辞めると思ったの。何て言うか、根性とかだるいーって言いそうな人だったから。

 けど、Sだけは最後まで部活を辞めなかったの。

 私と二人、もうアイドル活動も続けられなくなったのに、辞める気配が全くないの。

 もう誰にも見られることもないだろうに、練習にも文句言わず付いてきてくれて……。

 ある日、聞いてみたことがあるのよ。何で部活を辞めないんだって。何で、私に黙って付いてきてくれるのかって。

 Sは何でそんなこと聞かれたのか分からない、とでも言いたげな顔してこう言ったの。

 私もアイドル好きだし、それににことは友達だから。
 
123: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/29(金) 22:53:48.44 ID:LFjYAnrp.net
 嬉しかったなあ、その言葉。

 私はギャル風な雰囲気や言葉から、少し苦手意識を持ってたのに、向こうは友達だと思ってくれてたのよ。

 それからしばらく、私はSにべったりだったわ。

 放課後遊びに行ったり、休日にアイドルショップを巡ったりしてね。

 親友と呼んでも差し支えなかったと思う。少なくとも私は、Sのことをそう思ってたわ。

 SもSで、不良っぽいところを苦手にしてると分かったのか、お酒を飲むのが好きって言ってたのにそれ以降そんなこと一言も言わなくなったの。

 タバコを吸ってるところも一度見たことあるけど、私が注意したら私の前では吸わずにいてくれたし。

 そういう一面はあるにせよ、気を使ってくれてるってのは分かったわ。
 
125: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/29(金) 23:00:44.70 ID:LFjYAnrp.net
 そうしてしばらく過ごしてたんだけど……あれは夏休みの終わり頃だったかな。

 Sがね、突然こんなことを言い出したの。

 私はにこのことを本当に信頼してるから、家に呼びたい。

 Sはね、今まで私の家に来たことはあっても、自分の家には一度も呼んでくれなかったのよ。

 いきなりで驚いたけど、Sの家には前から興味があったし、行ってみたいともそれとなく伝えてたから私はすぐにそれを受け入れたの。

 今から思えば、もっと変に思うべきだった。断るべきだった。そうすればSもまだこの学校にいたかもしれないのに。
 
126: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/29(金) 23:07:14.46 ID:LFjYAnrp.net
 しばらくごちゃごちゃとした裏道を通って、Sに案内されて着いた先は、廃墟になったマンションだったの。

 例えじゃないわよ、本物の廃墟。潰れた団地って言えばいいのかしら。ボロボロで、明らかに人も住んでいないような場所。

 流石に冗談かと思ったわ。明らかに生活感もなかったし、電気も通ってなさそうだし。

 冗談冗談、ごめんね。って言ってくれることを期待してSを見ると、さも我が家に戻ってきたかのように当たり前な顔して団地の階段を上っていくのよ。

 嘘でしょ、まだこの冗談続けるの?

 そう思いながら、私もその後に続いたわ。
 
129: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/29(金) 23:14:02.84 ID:LFjYAnrp.net
 三階くらいまで上ると、Sは階段の斜め向かいの部屋を指差してね。

 私の部屋、あそこなの。中々学校から近いでしょ。

 って笑顔で言ってきたのよ。冗談もここまでくるとげんなりしてきたんだけど、Sはあまり冗談を言う人じゃないから珍しくってね。

 へえ、良い立地じゃない。

 私もそう乗ってあげたの。Sは満足げに頷いて、ドアのノブを回したわ。

 鍵がかかってると思ったんだけど、ドアは抵抗なくあっさり開いたの。鍵も壊された形跡はないし、元々かかってなかったみたい。ホームレスでも住んでるんじゃないかと思って、少し身構えちゃったわ。

 けどSは、鍵がかかっていないのは当たり前だって風に部屋の中に入っていくの。
 
130: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/29(金) 23:19:37.28 ID:LFjYAnrp.net
 その時、私にある考えが浮かんだの。

 ここは家じゃなくて、秘密基地なんじゃないかって。

 Sが秘密基地のことを家って呼んでいるだけなんじゃないかって。

 それなら「信頼してるから」って言葉の意味も繋がるわよね。不法侵入だもの、通報されたらすぐに御用よ。

 なーんだ、何も怖がる必要ないじゃない。そう思いながら、私もSが開けたドアを通って部屋の中に入ったの。
 
132: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/29(金) 23:27:52.79 ID:LFjYAnrp.net
 通った瞬間、ムワッと煙草の臭いが漂ったのが分かったわ。甘い感じの、ガラムっていうのかしら。Sが吸っているのを以前嗅いだことがあったから、すぐに分かったわ。

 きっと家では吸えないから、ここで吸ってるのね。両親は厳しい人なのかな。

 不良染みたところのあるSが、両親の前では真面目な女学生を演じているところを想像したら、少し笑えたわ。

 玄関に入ったんだけど、先にSは奥の部屋まで行ってるみたいで姿はなかったの。

 私も部屋に入ろうとした瞬間、奥からSがひょいっと顔を出したの。それが妙に怖い顔をしててね。

 何かと思ってると、私の足を指差して、

 にこ、靴脱いでよ。アメリカじゃないんだからさ。

 そう言うの。見れば、Sの靴も玄関に揃えて置いてある。脱いでも脱がなくても変わらないでしょうに。そう思いながら靴を脱いで、埃の積もった廊下を歩いてSのいる部屋へ向かったのよ。
 
133: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/29(金) 23:34:12.83 ID:LFjYAnrp.net
 廊下に足跡を付けながら進んでいくと、Sが顔を引っ込めたの。

 で、Sが顔を出してた部屋からボソボソ声が聞こえてくる。

 誰かいるのかな? そう思ったけど、聞こえる声はSのものだけ。

 パパ、ママ。今日はお友達を連れてきたのよ。にこっていうの。

 そんな声。あー、私を怖がらせる気ね、そうはいかないわよ。逆に驚かせてやるんだから。

 こんな場所S以外いるわけないもの。だから私はSのいる部屋に飛び込んで、さもそこに誰かがいるかのようにね。
 
134: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/29(金) 23:36:20.26 ID:LFjYAnrp.net
 挨拶をしたのよ。

 にっこにっこにー! って、お決まりのあれを。

 けど、最後まで言えなかった。だって、だってね。

 Sが話しかけてたの、壁の染みだったのよ。

 赤黒い色の、人型に浮いた染み。それに向かって、Sがとても楽しそうに話しかけてたのよ。
 
136: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/29(金) 23:42:13.31 ID:LFjYAnrp.net
 にこにこにーのポーズのまま固まってる私に、Sは壁の染みを紹介してくれたの。

 二つ並んだその染みの右側がパパで、左側がママらしいわ。こんなの、冗談にしても悪質だと思ったわ。

 だから、笑いながら言ったの。これ壁の染みじゃない、人じゃないわって。

 その瞬間、今までニコニコしていたSが真顔になったの。何か変だって思った瞬間。



 違ぁぁぁぁう! これは私のパパとママだぁぁぁ!


 そう言って、頭を掻き毟り始めたのよ。髪を振り乱して、鬼のような顔で……。
 
138: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/29(金) 23:50:00.20 ID:LFjYAnrp.net
 あぁぁぁぁぁ! ふざけんな! ふざけんな!

 血走った目で私を睨むSは、今までのSと同じ人物だとは思えなかった。正常には見えなかったし、この取り乱しっぷりは冗談じゃないと思えたのよ。

 どうしたの、やめなよ。今日のS、なんか変だよ。

 私がそう諫めても、Sは余計に暴れるばかり。信頼してたのに、信頼してたのにって譫言のように繰り返してる。

 廃墟のような団地の、赤黒い染みがある一室で、気の狂ったSと共にいる。その事実が怖くなってね。

 今日はもう帰るから、また明日ね。って言って私はそこから逃げ出したの。

 私がその部屋から出る時、後ろからそれまでとは違った弱々しい声で、

 本当に、にこのこと信頼してたのに。結局一緒だね。

 そんな言葉が背中に投げかけられたけど、私はそれを気にする余裕もなく家まで逃げ帰ったわ。
 
141: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/29(金) 23:56:38.28 ID:LFjYAnrp.net
 翌日から、Sに連絡が取れなくなったの。

 メールアドレスは差出人不明で戻ってくる。電話はコールだけはするんだけど、いつまで待っても出てくれない。

 学校が始まったら話せばいい。そう思っていたんだけどね。

 夏休み明けに学校に来てみたら、いつもは私より先に席に座ってるはずのSがいない。

 いくら待ってみても来なくて、ついにホームルームが始まっちゃったの。

 そのホームルームの場で、先生がこんなことを言ったの。

 Sさんは両親の仕事の都合で、夏休み中に引っ越しました。

 正直、驚いたわ。そんなこと、私には一言もなかったからね。親友だったのに、酷いって思ったわ。
 
142: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/30(土) 00:02:40.16 ID:LFjYAnrp.net
 ホームルームが終わって電話をしてみたんだけど、コールはするもののやっぱり出てくれない。

 クラスメートや、元部活仲間の皆にも何か知らないか聞いてみたんだけど誰も分からないらしくてね。親友のにこが知らないのに私達が知るわけないって返される始末よ。

 授業が終わってから職員室にも行ってみたんだけど、先生も引っ越し先は知らないし知っていても教えられないの一点張り。

 あの時ほど落ち込んだことはなかったわ。思い返してみれば廃墟でのあれも、引っ越しの悲しみを紛らわす冗談だったのかもしれないし。

 一人で部室にいると、Sと過ごした日々が思い返されてね。

 悲しくて、悲しくって。

 気付けば、あの団地の前にいたの。
 
145: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/30(土) 00:06:36.37 ID:LFjYAnrp.net
 別に深い意味があったわけじゃないわ。

 ただ、最後に別れたのがこの場所だったから何か残してくれてるんじゃないかと思ってね。

 三階まで上って、斜め向かいの部屋のドアノブを回すと抵抗なく開いたわ。

 部屋から漏れるタバコの残り香を嗅いだ瞬間、何でだろうね、涙が溢れたの。

 Sにもう一度会いたい、せめてお別れだけでも言いたい。

 泣きながら部屋の中に入って、例の染みのある部屋に向かったの。
 
148: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/30(土) 00:12:23.35 ID:4OAKrbyE.net
 その部屋には小さなテーブルがあったんだけどね。それの上に、一枚の紙が折り畳んで置かれてたの。

 きっとSのものだ。そう思いながら、紙を手にとって開いてみたの。

 ごめんね、にこ。今までありがとう。いつかまた、会おうね!

 よく知ったSの字がそこにはあったのよ。恥ずかしい話だけど、声あげて泣いちゃったわ。

 何で言ってくれなかったの、会いたいよ、もう一度会いたいよ。ってね。

 しばらく泣き通して、ようやく泣きやんでから紙を鞄の中に閉まって立ち上がったんだけど、その瞬間妙なことに気付いたの。

 壁に、あの人型の染みがない。
 
149: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/30(土) 00:18:42.56 ID:4OAKrbyE.net
 え、なんで? 自然とそんな声が出たのを、よく覚えてるわ。

 洗い落としたのかと思ったけど、そんなことをすればその場所だけやたら綺麗になるものよね?

 その壁、汚いままだったのよ。最初から染みなんて無かったかのように、黄ばんだ白塗りの壁がそこにあったのよ。

 部屋を間違えたのかと一瞬思ったけど、そんなわけがない。この手紙もあったんだからね。

 凄く不気味だったわ。悲しんでることも忘れて、また急いでその団地から飛び出したわ。何故だか、自分が代わりに染みになっちゃうような気がしたから。

 団地から出た後、一度あの部屋の方を見上げてみたの。

 夕暮れに照らされた団地には、まるで赤黒い染みがあるように見えたわ。
 
152: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/30(土) 00:24:03.54 ID:4OAKrbyE.net
 それ以来、Sとは会ってない。それに、多分会うこともないと思う。

 何故だか分からないけど、あの染みを私が否定したから、Sはいなくなったように思えるの。

 あの染み、何だったんだろう。本当にSのお母さんとお父さんだったのかな?

 だとしたら、悪いことしちゃった。もう一度会って、その辺も含めてじっくり話してみたいけどきっと無理なんだろうなあ。

 というわけで、にこにーの話はこれでお終い! 楽しんでくれたら嬉しいらぶにこ♪

 だから寒いって言わないでよ、もう!



 ……どうしたの? そんなきょとんとした顔して。

第六夜 友達 完
 
160: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/30(土) 23:28:52.19 ID:2dZvH3AY.net
第七夜 「石ころ」 語り部 『東條希』

 今晩は、東條希です。

 皆怖い話、得意なんやね。もっとグダグダになると思ってたわ。特にさっきのにこっちのなんか、怪談なんて無いって言いながら物凄い怖かったしなあ……。

 ほな、ウチも頑張って皆を怖がらせんとな!

 ウチはスピリチュアルっていうのが口癖だけあって、結構そっちの方面に興味があってな。神社でバイトしたり、カード占いに凝ってみたり、お化け屋敷に通ってみたりと色々しとるんよ。

 霊力を高めるのが好きっていうんかな。そのせいか、色々変なものに遭遇することがあるんよな。
 
161: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/30(土) 23:38:28.61 ID:2dZvH3AY.net
 まあ、そのほとんどが害の無い存在や。

 未練があってその辺ウロウロしてるだけのな。最近幽霊に襲われるとか幽霊が害をなすとか言われとるけどな、そんなん本当に一部やねん。

 確かに人間を〇そうとしたり、驚かしたりするんが好きなのもおるで? 皆の話にもそういうんは出てきたしな。

 けどな、大体のもんは近付いたり場を荒らそうとせん限り人間には興味も無いんや。

 未練を解決する気もない癖に、心霊スポットに行く若者とか見るとまあイライラするわ。面白半分で行くんやから、襲われても当然やろ。

 そういうことで、ウチの話や。今はこんなこと言ってるけどな、ウチも昔は心霊っぽいところとか好きやってん。
 
162: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/30(土) 23:49:13.68 ID:2dZvH3AY.net
 好きやってだけで、行く気はないで? 心霊スポットなんていうんは大概が他人の私有地やし、そうそう入る気も起きへん。

 ただ心霊スポットとはちゃうねんけど、ウチの家の近所に妙な路地があってな。そこを通ると、いつも誰かに見られとるような気になるんよ。

 怖いとこやないで? 日の光も差してるし、すぐそこに民家もある。ただの路地や。

 なのに、毎回毎回どこかから視線を感じる。一度、絵里ちと一緒に通ってみたこともあったんやけど、絵里ちは何も感じてないみたいやってから、多分その視線はウチ限定なんやろな。

 最初は嫌やなあと思って、その路地を勝手に心霊スポット扱いしてたんやけど、何度も通ってるうちにそれにも慣れてな。

 今は、ちょっと視線を感じるただの路地くらいにしか思ってへんの。
 
164: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/31(日) 00:05:33.77 ID:2dZvH3AY.net
 まあ、その路地であった話なんやけどな。

 何て言うか……何て言えばええんか分からんねんけどな。

 その路地に、石ころがあったんや。

 いや、その反応は分かるで? だからウチもどう言えばいいか迷ったねん。路地に石ころがあるなんて当たり前やしな。

 ただその石ころ、少し妙な石ころやってん。
 
165: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/31(日) 00:10:14.40 ID:csd9wNWc.net
 見た目はただの石ころやし、大きさも手で握りこめるくらいの小さなもの。

 けどな、それの妙なところっていうんは……。

 ついてくるんよ。

 ウチが路地に入ると毎回その石ころは、ウチが入る側の入り口にある。けど、その路地を出てから路地の出口側を見るとな、その石ころがあるねん。

 なんで見分けることが出来るんかっていうと、その石ころの形やな。

 上の方が少し尖ってるねん、その石ころ。同じような形をしてるだけって言われたら、まあ反論しにくいねんけどな。
 
166: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/31(日) 00:14:33.68 ID:csd9wNWc.net
 ただ、本当についてきてるんちゃうかと思って、一度歩いてる途中に振り向いたことがあるんよ。

 そしたらな、入り口にあった石ころが、ウチのすぐ後ろにあったんよ。それだけなら、そこにも同じような石があっただけやって言えるんやけど……。

 少し歩いて、もう一回振り向いてみたらまたその石がすぐ後ろにあったんや。

 同じような形の石が、そんなゴロゴロあるわけないやろ? だから、多分ついてきてるんやろなあ、あの石。

 その路地以外では見たことないから、あの石ころは路地から出られんのやと思う。
 
168: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/31(日) 00:24:48.37 ID:csd9wNWc.net
 でな、ウチ思うんやけど。幽霊っていうと、やっぱり人間とかの動物が真っ先に浮かぶやろ?

 でもひょっとしたら、無機物の幽霊ってのもあるんかもしれへん。

 あの石ころが幽霊やとしたら、路地に閉じ込められてる地縛霊なんかもしれんな。

 皆の周りにもおるかもしれへんで? 普段何気なく見ている光景に紛れた、無機物の幽霊が。

 地縛霊やとしたら、ウチに何を伝えたいんやろなあ、あの石ころ。触る気もないし、ウチには石ころの未練を解消出来る気もせえへんから、聞く気もないけどな。

 怪談っていうより、ただの妙な話になってもうたけど……ウチの話はこれでおしまい!

 あんまり怖くなかったかもしれんけど、これ以上の話となると聞いてる危害及ぶ可能性あるからなあ。身体がねじ切られた男とか、ゆらゆらしながら笑ってる水死体とか、皆見たくないやろうし。

 第七夜 石ころ 完
 
170: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/31(日) 00:38:09.49 ID:csd9wNWc.net
第八夜 「木と生きるもの」 語り部 『絢瀬絵里』

 今晩は、もうすっかり夜ね。三年の絢瀬絵里です。

 何かしら、今日は何だか変な気がするわね。いつもよりバラバラっていうか、皆が違うっていうか……。

 何でもないわ、始めましょう。

 私は祖母がロシア人のクォーターなの。クォーターなのに何でこんなに髪の色や目の色が日本人らしくないのかは分からないけど、きっと先祖返りってやつね。

 まあその関係で、ロシアの方にも毎年行っているの。行くといつもお婆ちゃんは歓迎してくれて、よく来てくれたね、私の賢い可愛いエリーチカやって未だに言うのよ。

 ちょっと恥ずかしいけど、普段は誰かに甘えることなんて出来ないから、毎年ロシアに行くのは楽しみだったわ。
 
171: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/31(日) 00:51:24.50 ID:csd9wNWc.net
 ロシアに行ってすることと言っても、実はあんまり無いの。

 私は日常会話くらいなら出来るけど、そんなに詳しくロシア語も知らないし、観光地を回るかお婆ちゃんとお話しするくらい。

 二年前だったかしら、その時もロシアに来たけど特にすることもなくて、スーパーで買ったひまわりの種を齧りながら、創刊したばかりの赤いフリアイを読んでいたの。

 ロシアでも漫画雑誌が作られたのね、珍しいわって興味深く読んでたんだけど、突然お婆ちゃんが私を呼んだの。

 どうしたのかと思ったら、暇なら山の麓でも散歩してきたらいいわって言うのよ。

 ひまわりの種も尽きてたし、雑誌も読み終わりそうだったから丁度いい提案だと思ったわ。 
 
172: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/31(日) 00:59:16.49 ID:csd9wNWc.net
 オーバーオールを着込んで、寒い中山に散歩に行ったの。

 家の裏をしばらく進むと山があるんだけどね、流石に麓には雪は無かったわ。

 ロシアで有名なのはエルブールス山だけど、私が行ったのはもっと小さな山。小山って表現が合うような、そんなところよ。

 暇なこともあって、人も碌にいない山の中に向かって歩いてたんだけどね、本当に綺麗だったの。

 これぞ自然風景っていいたくなるような、薄く霜の落ちた葉なんかを見てると心が安らぐの。

 寒くなかったらもっと良かったんだけどね、まあそこは仕方ないわ。
 
173: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/31(日) 01:15:32.06 ID:csd9wNWc.net
 それで一時間くらい歩いてたのかしらね。しばらくの間は平気だったんだけど、長時間外に居たせいかやっぱり寒くなってきちゃって。

 そろそろ帰ろうかしら、って思いながら来た道を引き返したの。

 そしたら、いくら歩いても麓に降りられない。どうにも、遭難しちゃったみたいなの。

 素人が山登りなんてするものじゃないわね。

 お婆ちゃんも麓を散歩してきなさいって言っただけだったのに、何で登っちゃったんだろうって本当に後悔したわ。

 いくら歩いても同じところをぐるぐる回ってる気がして、足も疲れてきた頃。私は穴を見つけたの。
 
174: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/31(日) 01:30:15.75 ID:csd9wNWc.net
 穴っていうか、何て言うんでしょうね。

 上に木が生えていて、その根っこの部分の地面が崩れて穴が空いているのよ。うろ、とはまた違うのよね。

 人が数人入ったらいっぱいになりそうなくらいの小さな穴だったけど、へとへとで歩き疲れていた私には、天の助けのように思えたわ。

 休憩していこうと思ってその穴を覗き込んだら、奥に妙なものがいたの。

 それは、裸の人間だったの。眠っているのか、目を閉じていて……。

 何より変なのがその人の様子。まるで磔にされているみたいに、その人は木の根っこに絡みつかれていたの。
 
175: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/31(日) 01:41:08.32 ID:csd9wNWc.net
 私驚いちゃって。死体でも発見したんじゃないかって、急いで近付いたのよ。

 近くで見てみると、美人なお姉さんだってことが分かったの。声をかけても反応もないし、まずいなあって思ってたらね。

 変なことに気付いたのよ。その人、死んでるように見えるのに、頬に赤みがさしている。薄くだけど、呼吸の音も聞こえる。

 まだ生きてる。気を失っているだけだってそう思って、その人をゆすったの。けど目覚めない。

 とりあえず根を千切って下ろしてあげよう。そう思った私は、彼女に絡まっている根を握って……。

 小さく、悲鳴をあげたわ。だってその根っこ、女性の体と同化してたんだもの。
 
176: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/31(日) 02:14:56.54 ID:csd9wNWc.net
 何度も見直したわ。見間違いなんじゃないかって。

 けど、確かに一体化しているの。まるでその女性から木が生えているみたいに。

 怖かったけど、それよりも興味の方が大きくなっちゃって。

 何度も女性をゆすって起こそうとしたの。けれど、何度ゆすっても声をかけても、女性は起きないの。

 起きないなら仕方ないと思って、私も隣に座ってジッとしていたの。
 
177: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/31(日) 02:19:34.79 ID:csd9wNWc.net
 しばらく座っていたら足の疲れも治まってね。

 名残惜しいけど、多分妖精か何かなのだろう、帰ったらお婆ちゃんに聞いてみよう。

 そう思いながら私は、その穴から出ようとしたの。

 その瞬間、ね。

 後ろから、くぐもった声が聞こえたの。すぐに振り返ったんだけど、相変わらず女性は眠ったようにじっとしている。

 そのまま山を下って行ったら、すぐに出られたわ。一体何だったんだろうと思いながら、私はお婆ちゃんの家に帰ったの。
 
178: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/31(日) 02:23:32.61 ID:csd9wNWc.net
 帰ったらお婆ちゃんが、こんな遅くまでどこに行っていたのって怒っていてね。

 山に登っていたらこんな変なものに出会ったの、だから遅くなったのって伝えたの。

 お婆ちゃんなら何か知ってると思ったんだけど、結局お婆ちゃんもそれが何かは知らなかったみたい。変なこともあるもんだって首を傾げてたわ。

 私の体験はこれでおしまい。山は何かが集まる場所って聞くけど、本当に何なのか分からないものってのもいるものね。

 日本でも山姥や天狗みたいな、山に出る妖怪も多いし神秘的な場所なんだと思うわ。
 
179: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/31(日) 02:25:54.79 ID:csd9wNWc.net
 だから、それ以降その山には行っていないの。

 変なことが起こっても嫌だし、最後に言われた言葉がちょっとだけ、怖かったから。

 ああ、言われた内容?

 Горе есть

 日本語に直すと一番近い言葉は……。

 災いあれ、ね。


 第八夜 木と生きるもの 完
 
183: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/31(日) 22:46:46.24 ID:FUlaRXOR.net
最終夜 「夏、終わらないで」 語り部 『小泉花陽』

 今晩は、最終夜を勤めさせて頂きます、小泉花陽です。

 皆に無理を言って最後にしてもらった、って設定なんだね。ああ、やっぱり。

 皆は怪談ライブをするって言ってたよね、けどお客さんはどこにいるのかな? 私にはお客さんがいるようには見えないし、ミューズの皆がいるようにも見えないよ。

 ただの暗い部屋なのに、なんで皆、誰かと会話したりしてたの?

 そもそも私も、皆のお話を聞いたわけじゃないの。今まではほとんど意識がなかった、というか眠っていたような。

 けど、皆の話の内容は知ってるの。そういうものだから。
 
184: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/31(日) 22:55:41.52 ID:FUlaRXOR.net
 何でかって聞かれても私にも分からないよ。ただ、何度も同じようなことをやってるうちに、そういうものだって気付いただけで。

 パラレルワールドって知ってる?

 SF映画なんかでよくあるよね。自分の世界とは別の世界が存在するっていう、あれ。

 私はね、その現象に近いことがこの身に起こっているの。

 最初は皆と楽しく遊んだり練習したりする世界だった。

 ラブライブに優勝して、三年生が卒業して。卒業式の打ち上げをした後、穂乃果ちゃんが皆を呼んだの。
 
185: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/31(日) 23:01:14.26 ID:FUlaRXOR.net
 その瞬間、世界が全く違う風に切り替わったの。

 学校に居た筈なのに、あれは……家だったかな。

 凛ちゃんと二人で、くつろいでた。なんで急にこんなところに? そう思って凛ちゃんに聞こうとしたんだけど。

 口が動かない。身体も動かない。

 ううん、正確には動いてたの。ただそれが、自分の意志ではないってだけで。

 勝手に、私の口が喋ってるの。目の前の凛ちゃんと、楽しそうに。
 
186: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/31(日) 23:08:53.41 ID:FUlaRXOR.net
 一度落ち着いてみることにして、凛ちゃんと私の話をよくよく聞いてみることにしたんだ。

 そしたらね、変なの。私が絶対言わないようなことや、凛ちゃんが絶対言わないようなことがいくつもいくつも会話の節から漏れ出してる。

 そこで気付いたの。あ、これは私の知ってる凛ちゃんじゃないって。

 夢でも見てるのかなあと思って、普段とは違う凛ちゃんを楽しんでたんだけど。

 次第に話の雲行きが怪しくなってきて。

 その世界での私と凛ちゃんは付き合ってるみたいだったの。変だよね、女の子同士なのに。

 それで、凛ちゃんが服を脱いで、私もそれに従うように脱ぎだして……。
 
187: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/31(日) 23:12:33.18 ID:FUlaRXOR.net
 している最中、何度も嫌だって叫んだよ。けど届かなかった。

 当たり前だよね、その世界の凛ちゃんにとっての小泉花陽は、目の前でよがっている小泉花陽であって、私じゃないんだから。

 しばらくしたら行為も終わって、やっと終わったかと思ったら、頭上から声が聞こえてきたの。

 オツ、とかオモシロカッタ、とかね。

 何人も何人も、重なるようにその声は響いてきて、怖かったよ。
 
188: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/31(日) 23:16:15.59 ID:FUlaRXOR.net
 そして、気付いたら私はまた別の小泉花陽になっていた。

 その世界では、私は皆に〇されたの。

 次の世界では、海未ちゃんに犯されたの。

 次の世界では、皆とお買い物にいった。

 次の世界では、誕生日を祝ってもらった。

 どれもこれも、私じゃなかった。皆も、皆じゃなかった。

 そこで、ふと思ったの。私は、別の私の人生を追体験しているんじゃないかって。
 
189: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/31(日) 23:23:06.56 ID:FUlaRXOR.net
 なんでそんなことになっちゃったのかは分からないし、何で私だけがそんな目にあうのかも分からない。

 けど、起こっちゃったものはしょうがないよね。

 何度か、元の自分の居た世界に帰れるように脱出方法を考えてみたんだけど、全部無駄だった。

 だから私は諦めて、このパラレルワールドが尽きるのを待ったの。パラレルワールドを全て消化しきれば、私も元の世界に帰れるはずだって。

 最近までは、そう思ってたんだ。

 ある世界に飛ばされた時、今迄見たことないような女の子がいることに気付いたの。その子も表面上はこの世界で決められた台詞を喋っているだけだったけど、私のように意識はあったの。
 
190: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/31(日) 23:30:47.97 ID:FUlaRXOR.net
 テレパシーっていうのかな、その子とは意識の中だけで会話が出来てね。

 私も久し振りに誰かと話せて嬉しかったし、向こうも嬉しがってた。その子は長い間パラレルワールドを渡ってきたみたいで、色んなことを教えてくれたの。

 私たちが飛ばされているこの世界は、パラレルワールドというよりは二次創作といった感じで、誰かの作り出した世界に感銘を受けた者がそれを模倣して作り出したもの。だからその世界に居る人間たちは、それぞれ性格なんかが違ったりする。

 世界が終った瞬間にオツ、とか言ってるのはその世界を鑑賞している人たち。簡単に言うと、私たちの世界は上位の存在によって作られて、また別の上位の存在が映画を楽しむかのように私たちが〇されたり犯されたりしてるのを見ているってこと。

 酷いと思ったよ。作る方も見る方も、私の意思なんか完全に無視してる。
 
191: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/31(日) 23:34:55.55 ID:FUlaRXOR.net
 いずれ作る側も飽きて、世界が無くなったらいいですね。

 私がそう言うと、その子は慌てたようにそれを否定したの。そんなことを言っちゃだめだって。

 世界が消えたら、私達は……そこまで言った瞬間、その世界が終ったんです。

 いつも通りのオツの声に混じって、彼女の消えたくないよぉって声が響いたのを、よく覚えてる。

 それ以来、彼女の姿は見ていない。

 彼女の言葉から察するに、私たちは、世界を作る人が居なくなったら消えるのかな?

 今までも何人も消えてきたのかな? なら、私もいつかは……。
 
193: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/31(日) 23:38:17.54 ID:FUlaRXOR.net
 その子は十年ほど前に作られた世界の人間で、その後十年ほどは少しずつ世界が作られていったんだけど、どんどん世界を渡る頻度が減っていったって話してたよ。

 十年後、私はどうなっているの?

 世界は作られているの? 皆飽きて、どこかに行っちゃうの?

 ねえ、この世界も誰かが作っているんでしょう? 誰かが見ているんでしょう?

 答えてよ! 私はどうなるの!? あの子みたいに消えちゃうの!?
 
195: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/31(日) 23:41:49.63 ID:FUlaRXOR.net
 ああ、部屋が崩れ始めてる。もうそろそろ、この世界も終わりなんだね。

 嫌だよ、ねえ。

 終わらないでよ。次の世界がある保証なんてないんだよ!? 終わらせないでよ!

 お願いだよ、私はもっと生きたいよ! 凛ちゃんと遊んで、真姫ちゃんとお喋りして、皆と練習に行ったりご飯に行ったりしたいよ!

 なんで、そんな普通の幸せも許されないの!? 私が何かしたの!?

 ねえ、お願いだよ。誰か、
 
196: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/08/31(日) 23:42:15.07 ID:FUlaRXOR.net
 誰か、助けて
 
199: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2014/09/01(月) 00:04:59.29 ID:jzKUFYEa.net
最終夜 夏、終わらないで 完
 
 
 
 
 
 

引用元: http://hope.2ch.net/test/read.cgi/lovelive/1408721524/

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