【SS】しずく「二日前の私へ」【ラブライブ!虹ヶ咲】

SS


1: (もも) 2023/01/12(木) 15:57:27.18 ID:WUnY7Lc1
ちょっと前に書いたSSなんですが、完全に機を逸したので供養投稿です
ホラーでは無いです
 
2: (もも) 2023/01/12(木) 15:59:23.09 ID:WUnY7Lc1
──部室

しずく「あれ、もしかして今日って一年生だけ?」

璃奈「本当だ」

栞子「そうですね。今日は色々な用事が重なり、私たちだけのようです」

かすみ「先輩たちがいない部室ってなんだかワクワクする!普段できない話もできそうじゃない?」

璃奈「普段できない話って……例えば?」

かすみ「う~ん……。あ、恋バナとか?」

栞子「私たちに恋バナの適性があると思いますか?」

かすみ「こういうのは適性云々の話じゃないでしょ。一年生だけって修学旅行みたいなもんだし、恋バナは避けては通れないよ!」

しずく「恋バナ、か……。うん!かすみさんの意見に賛成!やろうよ恋バナ!」

璃奈「おおう。ノリノリだね」

しずく「え、う、うん……じゃ、じゃあまずはかすみさんから言ってよ!」

かすみ「え〝」

栞子「言いだしっぺの法則という俗論があります。それに従うべきです」

かすみ「うぇ……。生徒会長モードになってるし……。で、でも恋バナって何を話せばいいんだっけ……」

璃奈「そんなの決まってる。好きな人の話だよ。璃奈ちゃんボード『キリッ』」
 
3: (もも) 2023/01/12(木) 16:01:18.73 ID:WUnY7Lc1
かすみ「好きな人、かぁ……」

しずく「ほらほら。後がつかえてるんだから!」

かすみ「うぅ……。かすみんは聞く側がよかったのにぃ……。ご意見番ってわけにはいかない?」

栞子「ノシバンバン!!ノシバンバン!!」

璃奈「栞子ちゃん。それは口で言うことじゃないよ」

栞子「え、そうなんですか」

かすみ「わ、分かった!私の好きな人は……えと、あの……好きなことに夢中になってる人!!」

しずく「まぁ……実名を出すのは私も躊躇するし、それで許しましょう」

かすみ「なんでそんな上から目線なの……?」

栞子「しかし、好きなことに夢中になってる人ですか。理由はなぜです?」

かすみ「え?好きなことに夢中になってる人って、なんだか魅力的な気がするんだよね。しお子はそう思わないの?」

栞子「そうですね……。よく考えれば姉さんに憧憬を抱いたのは、スクールアイドルに夢中になっている姿を見た結果かもしれません」
 
4: (もも) 2023/01/12(木) 16:02:53.79 ID:WUnY7Lc1
璃奈「好きなことに夢中な人は確かに魅力的。でもそれって、恋に足る理由には不足してると思う。他に無いの?」

かすみ「えぇ?他って言ってもなぁ……。後はねぇ……」

しずく「顔でしょ」

かすみ「まぁ、そうだね。顔、だね……。顔だけで選んでるわけじゃないけどね!」

栞子「ふむ……単純明快で実に分かりやすいです。ですが、顔というのは情緒に欠ける気がしませんか?」

璃奈「ふぅん?栞子ちゃんは恋愛に顔以外を望むロマンチストさん?」

栞子「え、そう見えますか?」

璃奈「だって、人が恋する理由の一番って、現実的に言えば顔だよ。適性適性言ってるリアリストな栞子さんから情緒って言葉が出るとは思わなかった」

かすみ(何気に酷いこと言ってない?)
 
7: (もも) 2023/01/12(木) 16:04:20.37 ID:WUnY7Lc1
しずく「そう言えば、栞子さんの部屋って少女漫画が多いよね」

栞子「あれは……姉さんが『いらないから栞子にあげるね!』って半ば押し付けられたものなので……」

しずく「でも最近の新刊も結構あったよね」

かすみ「へぇ~。しお子も可愛いところあるじゃん」

璃奈「そうだ。みんな、試しにそれぞれの顔をお絵かきしよう。はい、璃奈ちゃんボード『分離』」バリバリ

栞子「それは……急ですね……。かすみさんの恋バナはいいんですか?」

璃奈「まあまあ。これで傾向が掴めるかもしれない」

~…少女お絵かき中…~

しずく「ふぅ、こんなものかな」

かすみ「私はりな子。りな子はしお子。しお子はしず子。しず子は私を描いてくれたんだよね。でも、これで何が分かるの?」

璃奈「まあまあ。ほら、一斉にオープンザプライス!」バンッ!!
 
8: (もも) 2023/01/12(木) 16:05:55.30 ID:WUnY7Lc1
栞子「……画力の差が表れていますね」

かすみ「お~。りな子はボードで描き慣れてるだけあって上手いね。デフォルメチック?な感じ」

璃奈「『テレテレ』。しずくちゃんはちょっと写実的だね」

しずく「あはは……。なんだかちょっと浮いちゃってるような」

栞子「かすみさんのは……なんというか、前衛的ですね」

璃奈「前衛的っていうか、ただの棒人間。丸い顔にしず子って描いてあるだけ。手抜きにもほどがある」

かすみ「でもその分、しお子もりな子も描いたじゃん」

しずく「いや、そういうゲームじゃないから」

栞子「それで璃奈さん、これで何が分かるんですか?」

璃奈「うん。絵ってその人の心象風景がそのまま表れる気がする。栞子ちゃんの絵は思った通り少女漫画風だった」

栞子「え……あ、確かにそうですね」
 
9: (もも) 2023/01/12(木) 16:07:28.76 ID:WUnY7Lc1
璃奈「それはそれだけ読み込んでるという証拠。しずくちゃんの写実風な絵は、演劇とか映画とかを多く見ているせいだと思う。でも……」

しずく「でも?」

璃奈「でも、かすみちゃんはこんな可愛いポーズ取ってなかったし、髪飾りも今日は付けてない」

しずく「それは……まぁ、その、あれ。想像を膨らませてね──」

璃奈「しずくちゃんは現実に即しているようで妄想も織り交ぜてる。それがそのまま絵に反映されてる」

かすみ「あぁ……確かに。しず子ってそういうところあるよね」

栞子「すごいですね、璃奈さん。的確だと思います。犯罪心理学でも嗜まれているんですか?」

璃奈「私のも妄想みたいなもんだよ。それで、最後にかすみちゃん」

かすみ「おぉ。なんだか心理テストの結果みたいでワクワクする!」

璃奈「かすみちゃんの絵は雑。それに尽きる」

かすみ「えぇ!?もっと他にないの!?」

璃奈「ない。棒人間を描いたかすみちゃんが悪い」

しずく「じゃあかすみさんは雑ってこと?」

栞子「ふむ……」

かすみ「ちょ、雑で話を進めるなぁ!それに!しお子はなんでそんな考え込んでるの!?」
 
13: (もも) 2023/01/12(木) 16:09:00.04 ID:WUnY7Lc1
栞子「いえ、思い当たる節がある……ような、気がするだけですね。はい、すみません」

かすみ「何で最後気遣ってる感じなの!謝らないでよ!そんなの私が雑って肯定してるようなもんじゃん!うぇええええええええん!!」グスグス

璃奈「かすみちゃん……ごめんね。これは別に心理テストじゃないし、最初から栞子ちゃんの少女漫画脳を証明するためのものだから……」

かすみ「うぅ……こんなことなら最初から気合入れて描けばよかったなぁ……」

しずく「そうだよかすみさん。あの時やっておけばよかった、なんて今さら言っても遅いんだよ?」

かすみ「なんだかかすみん……これからもそういう人生を歩みそうで怖い……」

栞子「だ、大丈夫ですよ!軽い遊びでそんな悩まないでください!」

かすみ「じゃあしお子が次恋バナしてよ!!」

栞子「え〝」

かすみ「ほらほら!早く!私を慰めるんでしょ!早く言ってくれないと、私大号泣しちゃうよ!」

璃奈「……落ち込んだフリ。これはかすかすと呼ばれても仕方がない」ボソッ
 
14: (もも) 2023/01/12(木) 16:10:30.04 ID:WUnY7Lc1
栞子「大号泣は困りますね。でも、恋バナですか……」

しずく「あれ、もしかしてだけど、栞子さんって恋した経験は……?」

栞子「……ありませんね。包み隠さず話せばそうなります」

かすみ「えぇーっ!そんなのつまんないよ!グッと来たこともないの!?」

栞子「過去の偉人の名言であれば……」

かすみ「それは恋じゃないよぉ!!」

璃奈「学術的意義に感心しちゃってるんだよ、それは」

栞子「そう言われましても……。あぁでも、告白されたことはありますよ?」

かすみ「お」

しずく「ほう」

璃奈「ふむ」

栞子「……」

栞子「え、何ですか今の沈黙」

かすみ「いや、なんていうか、一気に生々しい話になる雰囲気を感じて……」

しずく「実体験が混じった話になると湿度が高くなるというか……」

璃奈「恋愛弱者の私たちにとっては刺激が強すぎる」
 
15: (もも) 2023/01/12(木) 16:12:01.35 ID:WUnY7Lc1
栞子「えぇ?恋バナしたいんですよね?じゃあやめますか?」

かすみ「い、いやぁ~?別に聞きたくない訳じゃないけどっ!ほら、言ってみてよ!また大号泣のチャンスが来ちゃった!!」グスグス!!

栞子「大号泣のチャンスってなんですか……。まぁいいです。あれは私が中学生の頃の話ですね。確か同じ……委員会?部?だった方から告白されました」

璃奈「あぁ……(察し)」

しずく(委員会と部で迷っている時点でもう……)

栞子「まぁ断ったんですが」

かすみ「展開が早すぎるよ!話に情緒が無い!風情も赴きも面白味もない!」

栞子「えぇ……。だってそうだったんですもん……」

璃奈「少女漫画的なときめきは無かったの?」

栞子「ありませんよ、一切」

璃奈「Oh……」

しずく「ちなみに、告白された時の言葉は?」

栞子「忘れました」

かすみ「しお子……やばいよそれは。そこはもうちょっと少女漫画的なノリで考えてもいいんだよ?」
 
16: (もも) 2023/01/12(木) 16:13:42.35 ID:WUnY7Lc1
栞子「仕方がないじゃないですか。だって、何も感じることが無かったんですから。ちなみに、断る時はもちろん丁寧に言いましたよ?」

璃奈「まぁ……栞子ちゃんも私たちと同じ恋愛弱者ってことだよ。ベクトルはなんだか違う気がするけど」

栞子「では、璃奈さんはどうなんですか?先ほどからやや居丈高な物言いをしていますけど、恋愛に関して一家言あるのではないですか?」

璃奈「……私の番だね。でも、面白いことにはならないよ」

しずく「まあまあ。話してみてよ」

かすみ「……一応ワクワクしておく」ワクワク!!

璃奈「ではまず、恋とは、愛とは、その定義から始めていくよ」

かすみ「……ん?」

璃奈「フィクション作品の多くは、愛や恋とは半ば神聖視された概念だよね。壮大なハードSFかと思えば愛の物語だったとか。フィクション作品の中では、愛とか恋とかって最もフィクションしてると私は思ってる。そして、そう弁えた上で楽しむのがフィクション作品」

栞子「……これは恋バナですか?」

璃奈「恋とか愛は脳科学で説明できる。それらは全て脳から分泌されるホルモンによって引き起こされる感情に過ぎない。怒りや喜び、悲しみと何ら変わらない感情が愛や恋なんだよ」

しずく「あぁ……(諦め)」

璃奈「よく言われるのが、三年で恋の正体であるドーパミンの効力が切れる。だから三年目で離婚に至る夫婦が多く、四年目で愛を考え出す夫婦がその後も続くと言われている。ちなみに愛はオキシトシンとかセロトニンとかって──」

かすみ「ああああああああ!!ストップ!!ストップりな子!!」
 
17: (もも) 2023/01/12(木) 16:15:22.33 ID:WUnY7Lc1
璃奈「え、ここからが面白いのに」

かすみ「いやいやいや!そういう話じゃないから!恋バナって!」

璃奈「でも……論議を交わすにはそれぞれの共通認識である恋や愛という抽象的概念の具体的な共有を──」

かすみ「論議じゃない!てか論議ってなに!議論でいいじゃん!!」

璃奈「……だから言ったのに。面白くないって」

かすみ「いや、まぁ……興味はあるけども。ちょっと面白かったけども」

栞子「TikTokみたいな浅い話がしたかったのに、濃密なゆっくり解説動画を出されたような感覚ですね」

しずく「ゆっくり解説かぁ。あれって気づいたら延々と見ちゃうよね」

栞子「分かります(キリン)」

璃奈「実は私もゆっくり解説動画出してる。時代の潮流に乗ろうと思って」

栞子「え、ほんとですか?」

璃奈「うん。数学者の面白エピソードを解説する動画が主。フェルマーとかね」

しずく「あ、私それ見たことある。あれ璃奈さんだったんだ」

璃奈「どうだろう。ようつべは動画の再生産に再生産が加わるコンテンツ。別の人が挙げた動画かも──」

かすみ「スト~~~~~~~~ップ!脱線してる!恋バナはどこへ!!」
 
18: (もも) 2023/01/12(木) 16:16:54.54 ID:WUnY7Lc1
栞子「う~ん。私たちにはそもそも恋バナの適性が無かったんですよ。やっぱり」

かすみ「やっぱりって言わないでよ!ほら!しず子の番だよ!」

しずく「あ、うん……」

璃奈「……?」

栞子「……」

かすみ「……???」

しずく「えぇと、その……」モジモジ

かすみ「え、なんでそんなもじもじしてるの?」

しずく「ご、ごめんね。実はみんなに相談したいことがあったんだ……」

栞子「えぇ、何でも話してください。恋バナに適性の無い私たちですが、やれることはやるつもりです」

璃奈「うん。何でも言ってよ。璃奈ちゃんボード『むんっ!』」

しずく「うん……。あのね、幼馴染って……どう思う?」

かすみ「幼馴染?侑先輩と歩夢先輩みたいな?」

しずく「ぇあ……っ。う、うん!そ、そうだねぇ~?」アセアセ

璃奈(これは……)

栞子(恐らく、侑さんについての恋バナですね……)
 
19: (もも) 2023/01/12(木) 16:18:25.91 ID:WUnY7Lc1
しずく「あのね!侑先輩とか歩夢先輩は関係ないけどさ!幼馴染って強いよね!絆がすごいっていうか、二人だけに見える絆の線があるっていうか!」

かすみ「あ~、確かにね。侑先輩と歩夢先輩を見てると、幼馴染って特別な関係性って思える」

しずく「う、うん!二人は関係ないけど!一切!全く!関与してないけど!」

しずく「え、えと、その……」

しずく「幼馴染と後輩って言ったら……どっちが勝つと思う……?」

璃奈「え……」

栞子「それは……」

かすみ「そりゃあ幼馴染でしょ」ズバッ

しずく「ぐへぇっ!」

璃奈(くっ、この鈍チン!侑さんの話だって全く気づいてない!)

栞子(これは……窮ですね……)

しずく「そうだよねぇ……」ズ~ン…

かすみ「だって侑先輩と歩夢先輩を元に考えるなら、二人の間で流れる空気って全く別だよね。たまに二人の間に入れない時とかあるし。ただの後輩じゃあ太刀打ちできないかも」

しずく「じゃ、じゃあさ、幼馴染に勝つには、どうすればいいと思う!?」
 
20: (もも) 2023/01/12(木) 16:19:57.90 ID:WUnY7Lc1
かすみ「幼馴染に勝つかぁ……う~ん……」

しずく「二人は!?二人はどう思う!?」

栞子「え、えぇと、ですねぇ……。これは非常にデリケートな案件なので、検討に検討を重ねて慎重に討議を開き、臨機応変でフレキシブルな対応を──」

璃奈「……ちなみに、どうしてそういう話をしようとしたの?」

しずく「え〝ぇ〝それは、その……つ、次の舞台の役がそういう役だから!幼馴染の二人の間に挟まろうと頑張る後輩の役なんだよ!」

璃奈「ふ~ん……」

かすみ「そういうことなら!実はその後輩も幼馴染だったって展開はどう!?」

しずく「……え?」

かすみ「よく漫画とかであるじゃん!実は小さい頃に会ってて、結婚の約束を交わしてました~って奴!」

しずく「それは……無し!過去を改変するのは無し!できないし!あくまでも後輩は後輩!幼馴染じゃない!」

かすみ「え~……。いい案だと思ったのにぃ」

栞子「ふむ。ではどうでしょう。お邪魔虫である幼馴染の流言飛語を流すというのは」

かすみ「りゅ……?なにそれ」

璃奈「流言飛語。根拠の無い噂のことだよ。大体悪意を持って流される噂」

かすみ「えぇ?その発想はやばいよしお子……」
 
22: (もも) 2023/01/12(木) 16:21:29.40 ID:WUnY7Lc1
栞子「その幼馴染が極悪非道な行いを日常的に行っているだとか、そういう噂を流すんです。そうすれば幼馴染と言えど、仲を裂けるかもしれません」

栞子(ここはかすみさん同様、侑さんの話と気づいていないことにしましょう)

しずく「う~ん。栞子さん、それは危ないよ」

かすみ「うんうん。嘘で仲を裂くなんて物騒だよね」

しずく「その場合、幼馴染同士なら結束をより深めるイベントになりかねないよ。大体噂の元を探し当てて糾弾されて、逆に仲が深まっちゃう」

かすみ「え、そっちの危ない?」

栞子「あ~、確かにそうですね。漫画の当て馬的な感じでしたね」

璃奈「それも、『少女』漫画のね。縦ロールとか巻いてそうな性格の悪い」

かすみ「ぬぬぬ……なんか、ホントに恋バナの適性がないって思えてきた」

栞子「そうでしょうそうでしょう」

かすみ「何で満足げに頷いてるの……」

栞子「でも、楽しかったですよ。恋バナというか、一年生だけでお話すると言うのも」

璃奈(無理やり締めに入った……!!)

かすみ「ま……確かにね!期待していたものとは違ったけど、これはこれでね!」
 
23: (もも) 2023/01/12(木) 16:23:01.83 ID:WUnY7Lc1
しずく「そう、だね。あんまりこういう話ってしないし」

璃奈「それじゃあ……そろそろ帰ろっか。帰りにお台場に寄って遊ぶ?」

栞子「名案ですね。実は皆さんと寄りたいところがあったんですよ」

かすみ「しお子から言うなんて珍しいね」

栞子「実はランジュから誘われていた場所なんですが、生徒会長の仕事が忙しくてなかなか行けなかったんですよ」

璃奈「……え、それって」

かすみ「……しお子。まずはランジュ先輩と一緒に行った方がいいよ」

栞子「え?でもせっかくですし……」

かすみ「だめ!!今からでもいいからランジュ先輩を誘って二人で行きなさい!」

璃奈「たった一人の幼馴染でしょ?大切にしないとだめだよ。璃奈ちゃんボード『ヤレヤレ』」

栞子「そこまで言うのなら……あ、ランジュ?前言っていた──」
 
24: (もも) 2023/01/12(木) 16:24:31.01 ID:WUnY7Lc1
しずく「……そう言えば、栞子さんも幼馴染属性を持っていたんだったね」

璃奈「自分に向けられる好意にはひどく鈍感なところとか、ちょっと似てるかもね」

しずく「あぁ、確かに……。って、璃奈さん、誰のこと言ってるの?」

璃奈「さあ?」

かすみ「それじゃあ私たち三人はどうする?」

しずく「あ、ごめん。私はちょっと寄るところあるから。先に帰ってて」

かすみ「えぇ~……。しょうがないなぁ。じゃありな子、行こっか」

璃奈「うん。ばいばい、しずくちゃん、栞子ちゃん」

栞子「──では、駅前で。はい、さようなら、かすみさん、璃奈さん」

しずく「ばいばい、かすみさん、璃奈さん」
 
25: (もも) 2023/01/12(木) 16:26:12.34 ID:WUnY7Lc1
──音楽科・廊下

しずく「まだ、いるかな……」

 私の放課後の日課。侑先輩が音楽科の用事で忙しく、同好会に来られない時はこうして音楽科へ歩くのが日課となっている。

しずく「あ……この音色」

 廊下にいても聞こえてくるピアノ音色。
 ピアノの音の良し悪しが分かるほどの耳は持っていないけれど、侑先輩の弾くピアノだけはすぐに分かる。

しずく「……」

 教室をこっそりのぞくと、侑先輩がピアノを弾いていた。集中しているのか、とても真剣な眼差しで弾いている。

しずく「カッコいいなぁ……」

 ぽつりと、そんな言葉が漏れ出てしまう。

しずく「……ふぅ。よし、頑張れしずく!やれるぞしずく!」

 最近の私は、意図して侑先輩との時間を増やそうとしている。
 少しでも長い時間、侑先輩と同じ時間を過ごし、あの幼馴染の先輩に追い付くためだ。
 けれど過ごす時間に関して言えば、一生追い付けないだろうな、とも心のどこかで分かっていた。

侑「……あ、しずくちゃん。今日も来たんだ」

しずく「はい。侑先輩のピアノが聞きたくて」

 ピアノの音色が聞きたい。それは建前だ。
 私はただ、侑先輩と二人きりで同じ時を過ごしたい。もうすでに、目的は達成させられている。
 
26: (もも) 2023/01/12(木) 16:27:17.50 ID:WUnY7Lc1
侑「嬉しいなぁ。じゃあ何かリクエストとかある?」

しずく「では、ドビュッシーの亜麻色の髪の乙女をお願いします」

侑「しずくちゃんも好きだねぇ……。何度弾いたか分からないよ。それじゃあ、ご清聴ください!」

 侑先輩の細くしなやかな指先が、踊るように華麗に舞う。奏でられる音色は、私の耳へと柔らかに届けられる。
 何度同じリクエストをしたのか分からないこの曲。なぜ、繰り返し同じ曲をリクエストしてしまうのだろうか。
 それは恐らく、同じ場所で、同じ曲を、同じ時間を、繰り返し繰り返し、何度も何度も過ごしたいからだ。
 それがきっと、幼馴染というものであり、桜坂しずくにとってそうした時間を過ごせる少ない機会だからだ。

侑「はい、おしまい!今日はもう遅いからね。一曲だけだけどごめんね」

しずく「いえ。今日も素敵でしたよ!」

侑「あはは……素敵ってちょっと大人っぽい褒め方だね。ありがと」

しずく「それでは、帰りましょうか」

侑「うん。ちょっと片付けるから待ってて」

しずく「はい」
 
27: (もも) 2023/01/12(木) 16:28:34.13 ID:WUnY7Lc1
──帰り道

侑「あ、そういえば今日って一年生だけだったんでしょ?ちゃんと練習はした?」

しずく「はい。自主練が主で、その後はちょっと談笑してましたけど」

侑「一年生だけで集まるなんてなかなかないもんね。栞子ちゃんとか生徒会長になってから忙しそうだし、そういう時間は大事にしないと!」

しずく「えぇ、楽しい時間でした」

侑「ちなみに一年生だけって、どんな話をしたの?」

しずく「え、いやそれは……」

侑「あ、一年生だけの秘密の話?なら聞けないかぁ」

しずく「いえ、別にそういうわけではありませんけど……。えぇと、恋バナ、ですね……」

侑「へぇ、恋バナ、ねぇ……」

しずく「結果から言うと、散々な結果に終わったんですけど……あはは」

侑「まぁ同好会のみんなって、あんまり恋バナしないもんね。恋バナよりもスクールアイドル関連の話だもん」

しずく「でも……新鮮で楽しかったですよ?侑先輩も次は一緒にどうですか?」

侑「えぇ?私はみんなの話を聞くだけでいいかなぁ?」

しずく「ふふっ。かすみさんも同じこと言っていました」

侑「え、そうなの?でも確かに、かすみちゃんって人の恋バナに興味津々ぽい気がする」

しずく「でも、話し手になったらしどろもどろになってました」
 
29: (もも) 2023/01/12(木) 16:29:43.01 ID:WUnY7Lc1
侑「あははっ。様子が目に浮かぶね。ちなみに、しずくちゃんはどんな話をしたの?」

しずく「うぇ……。え、えぇとですね、ちょっと待ってください」

侑「……?どしたの、そんなに動揺して」

しずく「い、いえ。ちょっと思い出すのに時間がかかっているだけです!」

侑「ついさっきのことなのに……?」

しずく「みんなとの話が楽し過ぎて、私自身の記憶が希薄になっちゃったんですっ!」

侑「あぁ、なるほど?」

しずく(侑先輩の前で直接的に幼馴染の話をするわけにはいかない!いくら自分への好意に鈍感だからって、さすがにバレる!)

しずく(あ、かすみさん達の前では逆に伏せていたことを言えばいいのかも)

しずく「え~っと……。あ~、あれですね、私の誕生日の話でした」

侑「しずくちゃんの誕生日?確か、四月三日だったよね」

しずく「……はい。それでもし、私が二日前に生まれていたら、別の出会いもあったんじゃないかって話になりまして」

侑「……?どういうこと?四月一日に生まれていたら、って……。あ、早生まれか」

しずく「そうです。私があと二日早く生まれていたら、今は高校一年生ではなく高校二年生だったんです」
 
30: (もも) 2023/01/12(木) 16:30:49.67 ID:WUnY7Lc1
侑「あ~、うるう年とか満年齢の数え方でそういう決まりなんだよね、確か。あ、そう考えると私と同級生だった可能性もあったんだ」

しずく「は、はい。その通りです」

侑「なるほどなぁ。学年が違えば出会う人も違うだろうし、それで違う恋の出会いもあったんじゃないかって思ったんだ」

しずく「……えぇ。その通りです」

侑「そっかぁ……。しずくちゃんが同級生かぁ……」

しずく「……その場合、歩夢先輩とも同級生ですよね」

侑「そうだね。愛ちゃんやせつ菜ちゃん、ランジュちゃんとも同級生。わーお、同好会の二年生率高いね」

しずく「えと、それで……もし、もし私が二日早く生まれていたら」

侑「うん」

しずく「──侑先輩と幼馴染だった、みたいな人生もあったのかもしれませんね」

侑「え?」

しずく「住まいは離れていますけど、人生において出会いって未知数じゃないですか。なので、そういう別の出会い方もあったのかもしれないと思って……」

しずく(……って。これもう告白みたいになってない?い、いや、まだ雑談の範疇のはず……)

侑「なるほど。私としずくちゃんが幼馴染、か……」

しずく「……やっぱりその、幼馴染って特別じゃないですか。だから、二日違うだけで深い仲になれる可能性があったのに、生まれた瞬間から機会を逸していたことになるんじゃないかって……」
 
31: (もも) 2023/01/12(木) 16:31:58.04 ID:WUnY7Lc1
しずく「そんな風に、思ってしまうこともあるんです……」

侑「なるほどねぇ……」

しずく「侑先輩なら……どう思いますか?」

侑「そうだなぁ……。私は別に、幼馴染が特別とは思わないかも」

しずく「え……?」

しずく(それは、歩夢先輩を特別に思っていないってこと?いや、そんなはずは……)

侑「あ、そういうことか」ポンッ

しずく「え……?突然どうしたんですか?」

侑「しずくちゃんがそこまで幼馴染って肩書きにこだわる理由だよ」

しずく「え〝」

侑「それはきっと、しずくちゃんが役者だからだよ!」

しずく「……ん?どういうことですか?」

しずく(私の恋心がバレたわけじゃないの?)

侑「例えば、映画とか舞台で幼馴染の設定の子がいるとするでしょ?脚本にもよるけど、幼馴染なら家族と同じくらい仲が深い、とか、相手のことを知り尽くしてる、とか考えるよね」

しずく「そう、ですね。役者目線の話ですが、やはり設定を元に役作りを始めるので」

侑「だからしずくちゃんは設定である幼馴染を特別に考えるんじゃないのかな?実際は、幼馴染って後から付いてくるものなのに」

しずく「後から……?」

侑「ふふっ。しずくちゃん、幼馴染は幼馴染だから大切なわけじゃないんだよ?歩夢は歩夢だから、私にとって大切な人なんだよ。幼馴染はね、ただの結果に過ぎないんだ」

しずく「あ……」
 
33: (もも) 2023/01/12(木) 16:33:15.56 ID:WUnY7Lc1
侑「逆に歩夢が一つ年下とか、年上であったとしても、いずれ私たちは同じような関係になっていたと思う。現実で大事なのは肩書きじゃないんだ。その人自身の在り方なんだよ」

しずく「それは……そうかも、しれません……」

しずく(歩夢先輩は、歩夢先輩だから侑先輩にとって大切な人。それは幼馴染なんて関係なく、歩夢先輩だからこそ大切な人なんだ……)

しずく(私が……もし、二日前に生まれていようが、侑先輩の幼馴染でも、きっとその関係は変わらないんだ……)

しずく(とんだお笑い種だった。恐らく私はそのことに気づいていて尚、気づきたくなくて幼馴染という逃げ道を作っていたのかもしれない)

しずく「……はは。あははは。そう、ですよね。ちょっと、視野が狭かったみたいです」

しずく(だから……私が二日前に生まれていたとしても……)

しずく(──意味なんて、ありはしない)

侑「でも例えば、しずくちゃんもしずくちゃんなんだよ?」

しずく「え……」

侑「私にとって、歩夢が歩夢だから大切なように。しずくちゃんもしずくちゃんだから、私にとって大切な人なんだよ?」
 
34: (もも) 2023/01/12(木) 16:34:27.82 ID:WUnY7Lc1
しずく「侑先輩……」

しずく(……これだ。侑先輩はこういう人だ)

しずく(こういう人だから……私は好きになってしまった)

しずく(歩夢先輩と侑先輩の関係性がどうあっても変わらないように)

しずく(私が侑先輩を好きになるのも、いつ生まれようが変わらないのだろう……)

侑「それに、さ……。私はしずくちゃんとの出会い方は、これでよかったって思ってるよ」

しずく「え、そうなんですか……?」

侑「同好会の先輩と後輩で。私が作曲して。それを歌って貰って。こうして一緒に帰る仲になって……」

侑「しずくちゃんが四月三日に生まれてきてくれたからこそ……」

侑「──私はここまで、しずくちゃんが大好きになれたんだって、そう思うよ」

しずく「……え」

しずく「え、え……?」

しずく「……だ、大好きって言いましたか?」

侑「うん。言ったかもね?」
 
35: (もも) 2023/01/12(木) 16:35:42.51 ID:WUnY7Lc1
しずく「ちょ、え……侑先輩っ!もう一回!もう一回言ってください!」

侑「ふふふ……言葉の価値はね、言えば言うほど落ちちゃうんだよ?」

しずく「何言ってるんですか!もう一回だけ!もう一回だけでいいので言ってください!」

侑「まあまあ。ほら!私ここから別の道だから!ばいばいしずくちゃん!」

侑「私の後輩になってくれて、本当にありがとうね!!」タッタッタ…
 
37: (もも) 2023/01/12(木) 16:36:57.54 ID:WUnY7Lc1
……
…………

しずく「行っちゃった……」

 最後に見た侑先輩の表情は、夕日のせいか分からないけれど、少し赤みがかっていたような気がする。そしてそれは……私も同様のはずで……。

しずく「……大好きって言ってたよね」

 大好き。侑先輩は日頃よくその言葉を使うけれど、今日は別の意味が含まれているような気がした。

しずく「後輩になってくれて、ありがとうって……」

 後輩。私にとって後輩とは、幼馴染という肩書きには勝てないものだと思っていた。
 けれど、後輩の桜坂しずくとしてなら?
 大好きと言ってくれた桜坂しずくなら、きっと……。

しずく「なんだ……悩む必要なんて無かったんだ」

しずく「侑先輩は侑先輩だったから。私は私だったから。今、ここにいるんだ」

しずく「ふふっ。いつまでも、ただの後輩を演じているとは思わないことですよ!侑先輩っ!」
 
38: (もも) 2023/01/12(木) 16:38:12.04 ID:WUnY7Lc1
──二日前の私へ。

──外の世界は楽しいです。とても充実していて、新鮮なことばかりです。

──だからと言って、今すぐ外に出ることはおすすめしません。

──二日後、外に出るのをおすすめします。

──それがきっと、一番幸福な出会いをする生まれ方だから。

おわり
 
41: (もも) 2023/01/12(木) 16:40:42.53 ID:WUnY7Lc1
書いたはいいものの、誕生日SSなんで4月3日に投稿しようとしてたんですが、似たような発想のスレが立っててビビりました
やっぱみんな思ってることなんですね

jΣミイ˶º ᴗº˶リ私→4月3日産まれ 歩夢さん→3月1日産まれ
https://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1673500571/

乙でした
 
44: (おにぎり) 2023/01/12(木) 17:13:04.69 ID:RY5QBZC2
乙です💙
 
43: (SIM) 2023/01/12(木) 16:56:37.44 ID:6zhZiZTs
神SSありがとう😭
ゆうしず最高
 
45: (SB-iPhone) 2023/01/12(木) 17:23:20.77 ID:0piJlrtX
心が浄化された
 
48: (光) 2023/01/12(木) 19:33:19.23 ID:ZIB2XDfJ
良いタイトル回収だった
 

引用元: https://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1673506647/

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