鞠莉「クリスマス・アフター・クリスマス」

SS


1: (らっかせい) 2019/12/30(月) 00:00:54.87 ID:IYdW3Meg
同棲してる大学生ようまりです。

2: (らっかせい) 2019/12/30(月) 00:01:41.96 ID:IYdW3Meg
鞠莉「ん…」

冴えた空気と陽の光。さっき寝たばかりのような気がするけど、冬の朝の気配に目が覚めてしまったみたい。

鞠莉「うぅー」

私は寒さから逃げるように、布団を体にかけなおす。もぞもぞと隣を向くと、横で寝ている曜と目があった。

鞠莉「曜…」

曜「あ、起きた?」

鞠莉「んー…いま何時?」

曜「8時。もっと寝ててもよかったのに」

鞠莉「そのつもりだったんだけど…ふぁぁ…」

あくびする私の頭を撫でながら、曜はクスッと笑って。

曜「やっと仕事納めしたんだから、ゆっくりしてていいんだよ?」

そう、昨日は私の仕事納めの日だったのだ。

3: (らっかせい) 2019/12/30(月) 00:02:08.90 ID:IYdW3Meg
「仕事納め」という言葉を、大学生である私が用いるのはおかしいのかもしれないけど。年末の忙しさからの解放について、これほど端的に言い表した言葉を、私は他に知らない。

12月はもともと大学の方も慌しかったんだけど、冬休みに入ってからもサークルの行事やら小原家関係のタスクやらが舞い込んできて、土日を含め家を空ける日が続いていた。

形を変えて連日押し寄せる忙しさのおかげで、せっかくのクリスマスも二人でゆっくりする時間が作れず、寂しい思いをさせられてしまったのだ。

…いえ、寂しくさせた、が正しいわね。

そんな状況も昨日でようやく落ち着いて、やっと平穏な日常が訪れるはずだったのだけど。

鞠莉「んー…」

いつもの習慣のせいか、普段とあまり変わらない時間に起きてしまったみたい。目覚めは悪くないけど、なんだかもったいない気がする。

4: (らっかせい) 2019/12/30(月) 00:02:23.01 ID:IYdW3Meg
とりあえず体を起こそうとすると、曜はそれを優しく制して。

曜「だーめ。ちゃんと休まなきゃ、疲れが取れないよ」

子どもを寝かしつけるママみたいに、頭をポンポンとしてくれた。

鞠莉「曜だって起きてるじゃない」

曜「私はいいんだよ、朝から元気だから!それに」

鞠莉「それに?」

曜「それに、ね。鞠莉ちゃんの寝顔、もっと見てたかったし」

鞠莉「…!」

少しはにかみながら曜が呟いた。朝からこの可愛さ、ちょっとズルいんじゃないかしら。

5: (らっかせい) 2019/12/30(月) 00:03:03.72 ID:IYdW3Meg
曜「えへへっ、なーんてね。さて、私は朝ごはんの準備するから、鞠莉ちゃんはもう少しゆっくりして――えっ?」

起き上がろうとした曜をぎゅっと抱き寄せる。

曜「えっと、鞠莉ちゃん?」

鞠莉「だめ」

曜「えっ」

鞠莉「決めたわ、曜の言うとおり、ゆっくりする」

曜「う、うん」

鞠莉「だから、曜も一緒ね」

6: (らっかせい) 2019/12/30(月) 00:03:37.65 ID:IYdW3Meg
曜「ええっ?でも、ご飯が」

鞠莉「そんなのいいから、一緒にいて。もう少しでいいから、ね?」

曜「わ、鞠莉ちゃん!?」

全身で曜を包み込む。柔らかくてあったかくて、天国はやっぱりお布団の中にこそ存在するのかもしれない。

曜「な、なに言ってるの」

鞠莉「あ、声に出てた?なら説明はいらないわね」

曜「わ、わあっ」

私の気がすむまで、曜はこのまま抱き枕で決定なんだから。

7: (らっかせい) 2019/12/30(月) 00:04:47.65 ID:IYdW3Meg
……………………………………

その後、時計の長針がふた周りしてから起きた私たちは、台所に立って遅い朝食の準備を始めていた。

曜「誰かさんがお寝坊するから、朝ごはんどころかお昼ご飯だよ」

野菜を細かくカットしながら曜が言う。セリフとは裏腹に、どこか楽しげな言い方なのは、私の希望的観測というわけではなさそうだ。

鞠莉「いいじゃない、せっかくのお休みなんだから。それとも…嫌だった?」

曜「そ、そういうことじゃないよ」

ほら、やっぱりね。

8: (らっかせい) 2019/12/30(月) 00:05:19.11 ID:IYdW3Meg
鞠莉「じゃあ、良かったってことよね」

曜「ま、まあ」

鞠莉「まあじゃなくて、ちゃんと聞きたいな。どうよかったのか、曜の言葉で」

曜「う、うー。今は料理中だから後で!」

鞠莉「あー、逃げた」

曜「逃げてなんて…とにかく、後ったら後っ。今は料理に集中するよ」

鞠莉「ふふっ。その言葉、覚えたわよ」

こういうシャイで可愛いところ、大学生になった今でも相変わらずだ。

9: (らっかせい) 2019/12/30(月) 00:05:41.78 ID:IYdW3Meg
曜は細かく刻んだ野菜――ニンジン、ピーマン、玉ねぎを耐熱容器に入れて、レンジにセットした。

曜「冷蔵庫からスープのお鍋出して、あっためてもらえる?」

鞠莉「任せて」

曜は「昨日の残りでごめんね」と付け加えたけど、全然ごめんじゃない。

ちゃんとご飯を作らなきゃって思ってくれてるんだろうけど、律儀というか生真面目よね。

11: (らっかせい) 2019/12/30(月) 00:06:05.61 ID:IYdW3Meg
曜「よし、ウインナーはこんなもんかな」

スープの鍋を取って戻ると、先に小鍋で茹でていたウインナーを、曜がトングでお湯から取り出したところだった。

私は役目を終えた小鍋をシンクに移してから、スープのお鍋を火にかける。曜はその小鍋を水で十分に冷やしてから、茹で汁をシンクに流した。

流れるような共同作業に、思わずくすくすと笑いがこぼれる。お互い無意識だったけど、こう言うのを阿吽の呼吸と言うのかもね。

曜「んー?」

鞠莉「なんでもないわ」

12: (らっかせい) 2019/12/30(月) 00:06:25.16 ID:IYdW3Meg
曜「そう?なんか嬉しそうだったけど」

鞠莉「そうね。嬉しいわ、こういうのって」

曜「だねー」

トースターが甲高い音を立てた。食パンはベストまであと一歩といった焼き具合だけど、今の段階ではこれでいい。

鞠莉「パン、いい感じよ」

曜「じゃあ、ケチャップ塗ってもらえる?」

鞠莉「はーい」

13: (らっかせい) 2019/12/30(月) 00:06:34.93 ID:IYdW3Meg
曜「あと、とろけるチーズの用意もよろしくね」

鞠莉「はいはーい」

曜「はい、は一回だよー」

鞠莉「はーいっ。ねえ、チーズはどっちのタイプ?」

曜「んー、スライスの方がいいかな。具材がまとまるから」

鞠莉「りょーかいっ」

ケチャップとチーズを冷蔵庫から取り出し、まずはトーストにケチャップをスプーンで塗っていく。

…ちょっとムラができちゃったけど、これも味のアクセントよね、うん。

14: (らっかせい) 2019/12/30(月) 00:07:06.30 ID:IYdW3Meg
鞠莉「塗ったわ」

曜「ありがと。うん、いい感じだね!」

ニコッと笑って嬉しいコメントをくれる。曜って本当、褒め上手ないい子。

曜「それじゃ、この上にチンした具材と、カットしたウインナーを乗せていくよ」

慣れた手つきでトーストの上に具材を均等に乗せていく。私もやってみたけれど、やっぱり少しバランスが悪くなっちゃったかも。

曜「最後はこの上に、とろけるチーズを乗せてっと」

鞠莉「乗せて、っと」

15: (らっかせい) 2019/12/30(月) 00:07:25.36 ID:IYdW3Meg
曜「これで準備は完了。あとはトースターでチーズに色がつく程度に焼いたら」

鞠莉「美味しいピザトーストの完成、ってわけね!」

曜「そういうこと!お皿用意しちゃうから、焼き加減はお願いしていい?」

鞠莉「オフコース!一番美味しいタイミングを逃さないよう、ちゃんと見張ってるわ」

曜「よろしくー」

鞠莉「よっ、と」

具材が落ちないように気をつけながら、トースターの網にパンを乗せていく。

16: (らっかせい) 2019/12/30(月) 00:07:49.68 ID:IYdW3Meg
鞠莉「ふむ、なるほどね」

曜が「具材がまとまるから」とスライスチーズを選んだ理由がやっとわかった気がする。

全体にチーズがかかっていないと、動かしたときや食べた時に、他の具が溢れちゃうかもしれないものね。細かいことだけど、ちゃんと意味があるんだ。

曜「よし、スープはオーケーだよ。後は焼けるのを待つばかり!」

私が焼け具合に目を光らせている間に、曜は食器や飲み物の用意を済ませていた。

この手際の良さ、私が真似しようと思ってもできるものじゃないけど、せめて自分の役割くらいは全うしないとね。

チーズが熱でとろけ出し、表面がうっすらとキツネ色になり始めた。いい匂いもするし、食べごろまであと少し。

ああ、早く焼き上がらないかな。

17: (らっかせい) 2019/12/30(月) 00:08:26.64 ID:IYdW3Meg
――――――――

曜「それじゃ、いただきまーす」

鞠莉「いただきます」

できたてのピザトーストをサクッと一口すると、とろけたチーズがにゅーっと伸びて、香ばしい味と香りが広がった。

鞠莉「んー…!」

曜「熱くない?」

鞠莉「大丈夫よ。美味しくって言葉が出なかっただけ」

曜「よかった。ん、美味しいっ!」

18: (らっかせい) 2019/12/30(月) 00:08:43.71 ID:IYdW3Meg
鞠莉「ふふっ。でも、そっちが私の作った方じゃない?」

今気付いたけど、形を見るかぎりそんな気がする。私の手元にあるピザトーストの方が、見た目のバランスが整っているから。

でも変ね、ちゃんと自分の席に置いたはずなのに。

曜「ん、そうだよ」

認めたと言うことは、わざわざ入れ替えたということなのだろう。

鞠莉「交換する?」

曜「いいんだよ、鞠莉ちゃんが作ってくれたのを食べたいから」

そう言って嬉しそうにピザトーストを頬張る。もう、本当にこの子は。

19: (らっかせい) 2019/12/30(月) 00:09:05.90 ID:IYdW3Meg
曜「でも、10時半かぁ」

曜は時計を見ながら「中途半端な時間だから、夜までにお腹空いちゃうよね」と続けた。

鞠莉「なら、前に行ったパンケーキのお店に行かない?あそこのコーヒークリームパンケーキ、久々に食べたいなって思ってたの」

曜「それはいい考えだけど、んー」

鞠莉「どうかした?」

曜「それなら、ピザトーストじゃない方がよかったかなって」

鞠莉「それはそれ、これはこれでしょ」

曜「ん、そっか、そうだね。じゃあ今日はお出かけってことで!」

鞠莉「ええ、楽しみね!」

久々のデートに心をワクワクさせながら、美味しすぎるピザトーストを口に運んだ。

20: (らっかせい) 2019/12/30(月) 00:09:27.70 ID:IYdW3Meg
……………………………………

曜「いくよ、ヨーソローっ!」

掛け声とともに、曜がシャンメリーの栓に力を込めると、ポン!と勢いのある音が部屋に響いた。

曜「えへへっ、メリークリスマス!――って、うわわわわっ!?」

開栓からワンテンポ遅れて中身が吹き出してきて、大役を終えたばかりの曜を慌てさせた。

鞠莉「あらら、大丈夫?」

曜「あー、やっちゃったぁ…」

鞠莉「待ってね、拭くものを持ってくるから」

曜「ごめんね。あーもー…」

21: (らっかせい) 2019/12/30(月) 00:10:11.88 ID:IYdW3Meg
ふきんとタオルを取って戻ると、曜は手近にあったペーパータオルで手元を拭いていた。幸い、瓶を持っていた左手と、お皿の下に敷いていたマットが濡れただけみたい。

曜「料理にかからなくてよかったよ」

持ってきたタオルを手渡し、使ったペーパータオルを預かる。代わりのマットも持ってこないとね。

曜「あ、いいよ。手洗ってくるから」

そう言ってペーパータオルをもう一度手に取り、マットにくるんで台所へと向かった。

濡れちゃったのは可哀想だけど、料理の方は大丈夫そうだから、そこは一安心。

ここに並んでいる料理は、今日のためにと曜が一生懸命作ってくれた、特別なものばかりなのだから。

22: (らっかせい) 2019/12/30(月) 00:10:59.87 ID:IYdW3Meg
帰ってきた曜は、頬をかきながら少し笑って。

曜「失敗失敗。いきなり出鼻をくじいちゃったねー…」

むぅ。笑顔を作ってはいるけれど、声がちょっと落ち込んでいる。こんなときは。

鞠莉「んー、どれどれ」

曜「えっ…わ…!」

その鼻先に軽くキス。唇を離すと、曜は目をまん丸にしていた。

曜「ま、鞠莉ちゃん…」

鞠莉「ふふっ、可愛いお鼻は無事みたいよ。ご馳走さま♪」

23: (らっかせい) 2019/12/30(月) 00:11:20.89 ID:IYdW3Meg
曜「…もう、気が早いなぁ。乾杯はこれからだよ?」

鼻に手を当てて、照れくさそうに応える。曜は気にしちゃうタイプだから、ちゃんと気持ちを切り替えてあげなくちゃね。

鞠莉「練習みたいなものよ。私たちのクリスマスをお祝いする、ね」

今日は二人でゆっくり過ごす、一足遅い我が家のクリスマスの日。プレゼントはクリスマス当日に交換済みだし、ケーキも飾り付けも無いけれど、日中のパンケーキデートがその代わりだったというわけ。

鞠莉「さあ。練習も済んだことだし、そろそろ本番を始めましょうか」

曜「うん、ありがとっ。では気を取り直して」

24: (らっかせい) 2019/12/30(月) 00:12:01.20 ID:IYdW3Meg
曜はこほん、と咳払いをしてから。

曜「それでは、延期になっていた我が家のクリスマスを始めたいと思います!」

元気なあいさつとともに、シャンメリーをグラスに注いでくれた。シュワシュワと弾ける炭酸とさわやかな甘い香り。

鞠莉「実にいい感じね」

曜「でも、とびっきりのシャンパンでもよかったんだよ。クリスマスは年に一度なんだから」

鞠莉「いいのよ、今日は曜との時間を大事にしたいから。だからお酒はまた今度で」

25: (らっかせい) 2019/12/30(月) 00:13:41.03 ID:IYdW3Meg
「もちろん、曜は飲んでもいいのよ?」と付け加える。

曜「なら私もノンアルコールで!」

きっとそう言ってくれると思ったわ。曜のグラスにシャンメリーを注ぐ。

曜「鞠莉ちゃん。一年間お疲れ様でした」

にこやかに微笑む曜の顔。心があたたかくなる、私にとってなによりも大切なもの。

鞠莉「曜が支えてくれるからよ。いつもありがとう、お疲れ様」

曜「えへへっ。じゃあ、乾杯しようか。いいクリスマスと、一年間のお疲れ様に」

鞠莉「来年もこうして、仲良く笑顔で過ごせますように」

ちょっと遅めのクリスマス。すっかり時期を逃しちゃったけど、こうやって時を共有できるひとときが、私たちの最高の幸せなの。


終わり

26: (らっかせい) 2019/12/30(月) 00:14:02.92 ID:IYdW3Meg
全弾撃ち尽くしました。仕事納めの後、一足遅いクリスマスを過ごすようまりでした。

下記の続編です。

曜「鞠莉ちゃんとのレモンな生活」
http://fate.2ch.net/test/read.cgi/lovelive/1570283140/

↓は前に書いたものです。よろしければ併せてお願いします。

曜「鞠莉ちゃん先生とお泊り勉強会」
https://fate.2ch.net/test/read.cgi/lovelive/1575104529/

ありがとうございました。

引用元: https://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1577631654/

タイトルとURLをコピーしました