【SS】かすみ「ハロウィンの夢」【ラブライブ！虹ヶ咲】

重たいです。

かすみ「そうだ！やり返そう！」

しずく「なに？いきなり」

璃奈「たぶんあれ」

璃奈「さっきあれをじーっと見てた」

しずく「ハロウィン？」

かすみ「さすがりな子！大せーかい！」

しずく「で？やり返すってのは？」

かすみ「果林先輩達にだよ」

かすみ「前、合宿の時驚かせようとして失敗しちゃったでしょ？」

璃奈「夜仮装したやつ？」

かすみ「そうそう！」

かすみ「負けっぱなしってわけにはいかないでしょ？」

しずく「別に勝ち負けの問題じゃないような…」

しずく「大体ハロウィンって驚かせるようなイベントだっけ？」

かすみ「似たようなものでしょ？」

璃奈「まぁ、あながち間違いでもない」

璃奈「かすみちゃんにしては良い指摘」

かすみ「ちょっとりな子？どういうことかな？」

しずく「どういうこと？」

璃奈「これ」

かすみ「無視しないで！」

しずく「ハロウィンとは？」

しずく「亡くなってしまった人達が家族の元へ戻る」

璃奈「その時に悪霊も一緒についてきちゃう」

かすみ「だから、仮装して驚かせるってわけ！」

かすみ「しず子知らなかったでしょ？」

しずく「かすみさんだって知らなかったくせに」

かすみ「か、かすみんはわかってましたし！」

璃奈「昔のことだからどこまでが本当かは分からないけれど」

璃奈「由来の出来事はこんな感じみたい」

璃奈「要は、死者が会いにくる」

かすみ「そう言われるなんだか怖いね」

しずく「それがどんどん変わっていって今みたいなイベントになったってことだね」

璃奈「正解」

かすみ「そんなのいいからどんな仮装するか決めようよ」

しずく「だめだよかすみさん」

かすみ「へ？」

しずく「やっぱり演じる時はしっかり背景まで知っておかないと」

かすみ「別に演劇の相談してないじゃん！」

しずく「は……そうだった」

かすみ「しず子？」

璃奈「一生懸命なしずくちゃんらしい」

かすみ「そういう話だっけ？」

かすみ「いいから！どうするか決めるんだってば！！」

しずく「はーい」

璃奈「私は前と一緒でいい」

かすみ「えー、もっと何か変えようよー」

しずく「具体的なのは出てこないんだね……」

かすみ「じっくり考えるとそれはそれで難しい」

かすみ「そうだ！猫耳ロボットとか！」

璃奈「却下」

かすみ「なんでー」

かすみ「絶対可愛いのに」

璃奈「私に道具は出せない」

しずく「あはは、どうしてもね、猫とロボットだとイメージがそうなるよね」

かすみ「確かに、そう言われれば」

かすみ「でも、りな子好きじゃないの？ああいう道具みたいなの」

璃奈「面白そうではあるけど」

璃奈「作れるものでもないし、作りたいとも思わない」

しずく「意外かな、なんでも試しそうなのに」

璃奈「どう頑張ったってあんな都合の良い道具なんて作れない」

かすみ「ドライだね」

璃奈「あくまでフィクションだから許される」

しずく「現代にあれば色々と問題起きそうだもんね」

璃奈「誰かにとって都合の良い道具は誰かにとっては不都合かもしれない」

かすみ「なんだか難しい話しようとしてる？」

しずく「未来にはあってもいいかもだけど、今は困ることも多いかな？」

璃奈「強い力には制限がいる」

璃奈「道具の効果を抑えたり、色々と法整備もしなくちゃいけない」

しずく「そうだね、便利さは誰もが求めるところだけどね」

かすみ「ちょっと？」

かすみ「仮装の話は？ハロウィンは？」

璃奈「そもそも…………」


・
・
・

かすみ「……はっ！」

しずく「かすみさん起きた？」

璃奈「ぐっすりだったよ」

璃奈「璃奈ちゃんボード『Zzz…』」

かすみ「何かすごい変な夢見てた気がする」

しずく「どうせまた一夜漬けでもしたんでしょ？」

かすみ「んぐっ……」

璃奈「一夜漬けより普段から継続的にする方が効率がいいはず」

かすみ「わかってるけどー！」

かすみ「それより、仮装！」

しずく「ダメダメ、そろそろ帰らないと」

璃奈「結構時間経った」

かすみ「えー、起こしてくれれば良かったのに」

しずく「あまりにもぐっすり眠ってたから」

璃奈「起こすのかわいそう」

かすみ「むぅ……」

かすみ「とにかく！また考えるからね！」

しずく「はいはい」

璃奈「かすみちゃん、しずくちゃん、また明日」

かすみ「ばいばい、りな子、しず子」

しずく「うん、さようなら」

——


かすみ「どうかな？」

しずく「うん、可愛いよかすみさん」

かすみ「へ？」

かすみ「ま、まぁ、かすみんですから？」

かすみ「当たり前なんですけど？」

かすみ「……ありがとう」

かすみ「しず子も！……しず子は……」

かすみ「怖い！」

璃奈「見えない」

しずく「またずれちゃってるね」

かすみ「だからやっぱり猫耳の方が……」

璃奈「よいしょ……もうバッチリ」

しずく「そういえば、この間危なかったみたいだね」

かすみ「あぁ、車が突っ込んできたってやつ？」

璃奈「かすみちゃんが一夜漬けしてなかったらその辺りにいたかも」

かすみ「ちょっと怖いこと言わないで！」

かすみ「何もなかったみたいで良かったけど……」

かすみ「って、そうじゃなくて、今日のミッション開始だよ！」

しずく「もう部室かな？」

璃奈「おそらく」

かすみ「よし、突撃！」

かすみ「トリックオアトリート！！」

果林「あら、可愛い吸血鬼さんね」

彼方「みんないらっしゃーい」

エマ「いっぱいお菓子用意してあるよ？」

璃奈「美味しそう」

しずく「果林先輩も彼方先輩もエマ先輩もありがとうございます」

かすみ「やったね……じゃなくて……」

かすみ「それでもやっぱりイタズラしちゃいます！」

かすみ「トリックアンドトリートです！」

果林「あら、かすみちゃん今日は欲張りね」

果林「で？どんなイタズラしてくれるのかしら？」

かすみ「ぐぬぬ……それは……」

果林「それは？」

果林「吸血鬼らしく……シてみる？」

かすみ「な、なにしてっ……」

果林「ほら、その立派な牙で……首に……」

かすみ「…………」

しずく「牙？」

エマ「果林ちゃん？」

彼方「やり過ぎだよー」

果林「ふふ、ごめんなさい」

果林「2人もそんなに怒らないでよ」

璃奈「かすみちゃん？」

かすみ「…………」


目が……離せない。
私、ナニを……し……？


果林「かすみちゃん？」


距離が縮まっていく。
いただき……ます……？


しずく「何してるの」

かすみ「イタッ」

かすみ「もう！しず子痛い！」

果林「……あ」

果林「かすみちゃん？」

かすみ「ごめんなさい、果林先輩」

かすみ「やりすぎちゃいました！」

かすみ「どうでした？かすみんの演技」

果林「え？えぇ、少し驚いちゃった」

エマ「はい、おしまいおしまい」

彼方「今日は2年生は少しだけ遅いみたいだから先にお菓子食べちゃおっか？」

エマ「璃奈ちゃん、しずくちゃん手伝ってくれる？」

璃奈「……」

璃奈「あ、うん」

彼方「ほら、果林ちゃんも」

かすみ「しず子？」

しずく「ん？どうしたの？」

かすみ「えっと……ううん、なんでもない、ありがと」

しずく「？？、どういたしまして？」

——


かすみ「……さっきの」

かすみ「でも……」

かすみ「あれじゃ、本当に……」

璃奈「吸血鬼みたいだった」

かすみ「っ！！」

かすみ「りな子！？」

かすみ「な、なに言ってるのさ」

かすみ「そんな非現実的な……」

しずく「ね、かすみさん」

かすみ「しず子もいたの！？」

しずく「笑ってみて？」

かすみ「な、なんで？」

しずく「じゃあ、ほら……見て？」

かすみ「やめて……お願い、やめて……」


怖い、悲しい、そんな感情。
痛い、痛い、痛い。
相手への想い、これは？


傷つけたくない、そう思えば私が痛い。
好きだから。
それでも……。

足りない。
満たされない。
欲しい。


璃奈「えいっ」

かすみ「……りな子？」

かすみ「私……」

しずく「大丈夫だよ」

かすみ「しず子……」

かすみ「ねぇ2人とも……」

かすみ「私は……誰？」

璃奈「かすみちゃんだよ」

しずく「うん、アイドルで誰より可愛いかすみさん」

かすみ「私が？」

かすみ「かすみんはまだ……私の？」

しずく「大丈夫、ずっとかすみさんはかすみさんだよ」

——


喉が渇く。
お腹が空いたままだ。


かすみ「……ごちそうさま」

しずく「もう食べないの？」

かすみ「……うん」


何を飲んでも何を食べても満たされない。
何を食べたんだっけ？


この手で、この指で、この指先で。
まるで悪霊に呪われたこの身体は。


ナニの未来を奪った。
ナニの今を食べたのか。

かすみ「……違う」

かすみ「一緒じゃない」


生きるため。
仕方ない。


かすみ「仕方なくない！！」

璃奈「かすみちゃん？」

しずく「……かすみさん」

しずく「試して……みる？」

かすみ「ダメに決まってるでしょ！？」

璃奈「それでも、もうだいぶやつれてきてる」

しずく「ほら、指先なら少し、ね？」

かすみ「あ……ぁ……」


もう止まれない。
身体は喉を押さえて止めるけれど。

しずく「……っ、ぁ……」


おいしい、美味しい、オイシイ。
痛みに耐えるその声が私を刺激する。
もう止められない。


渇いた喉を掻きむしって、それでも満たされる。
私はナニ？


かすみ「……っ！」

かすみ「しず子！！」

かすみ「ごめん、ごめんね……」

しずく「うん、大丈夫だから

璃奈「かすみちゃん、次、私」

かすみ「いらない」

かすみ「できない、こんなの」

かすみ「これ以上」

——

それでも。
髪が伸びた。
爪が鋭く伸びる。


何度も何度も伸びた牙で自分自身を傷つけた。
唇を噛み締めても、自分では満たされない。
伸びた爪を何度も何度もへし折った。


何度も何度も何度も何度も。
お腹を叩いた。


何度吐いても何度も喰らった。
今も未来も持つ夢も全てはただの味付けに過ぎない。

かすみ「もういい」

かすみ「もういい」

かすみ「もういいのに……」

かすみ「いただきます」

しずく「っぁぁ……っっ」

しずく「……だい……じょ、だから……」

しずく「……ぁ……」

かすみ「あああああああ！！！！」


声が。悲しみが。
私の心を満たす。
飽きるほど繰り返してもやめられない。


どれだけ泣いたってこの涙に意味はない。
どれだけ零しても溢しても、私は満たされたままだ。

璃奈「かすみちゃん」

かすみ「りな子、泣いてるの？」

璃奈「うん、そうみたい」

璃奈「かすみちゃんも泣いてるよ？」

かすみ「私は泣いてないよ」


そうどれだけ泣いたって。
ずっとずっと舌なめずりをしている。


その泣き声が私を酔わせる。
心地良く感じる。

かすみ「もういらない」


もっと泣いて？


かすみ「もう食べたくない」


おかわりを頂戴？


かすみ「もう傷つけたくない」


いただきます。


もっともっともっともっと頂戴。
お腹が空いた。

璃奈「かすみちゃん泣かないで？」

かすみ「…………」


もう何も動かない感じない。
身体が言うことを聞かない。
心が壊れてしまった。


荒く熱を帯びた呼吸も。
大好きだという大切な想いも。
満たされたはずの欲求も。


全て薄れていく。
長い長い夜を1人で過ごして。


きっと孤独にも慣れていく。
寂しいなんて感じない。


かすみ「夢なら覚めて欲しい」


それでも、覚めない方がいいのかもしれない。

かすみ「最低な夜に最低な自分のまま」

かすみ「全て叩いて潰して切り裂いて」

かすみ「なくしちゃおう」

かすみ「アイドルなんて夢も」

かすみ「でも……ある意味では達成したのかも」


思い描いてた理想とはかけ離れて……。
偶像。


似たような存在かもね。


かすみ「さぁ、この夢が覚める前に」

かすみ「全てを」

——


かすみ「うわあぁぁぁ！！！！」

かすみ「はぁ……はぁ……」

かすみ「ここは？」

かすみ「何してたんだっけ？」

璃奈「かすみちゃんおはよう」

かすみ「りな子？」

かすみ「なにこれ？ゴーグルみたいなの？」

璃奈「あれ？」

璃奈「忘れちゃった？」

璃奈「かすみちゃんが協力してくれるって」

かすみ「あぁ、道具の実験だっけ？」

かすみ「これは……なにするやつ？」

璃奈「夢を見せる道具だよ」

璃奈「中々夢が見れないって人のためにね」

かすみ「あぁ、そうだったけ」

璃奈「で？どんな夢だった？」

かすみ「ん……なんだっけ？」

璃奈「うーん……まだまだか」

かすみ「でも、なんだか疲れたんだけど？」

璃奈「とりあえず、あっちでもう一回詳しく話聞くね？」

かすみ「うん」

しずく「かすみさんお疲れ様」

かすみ「しず子！」

かすみ「しず子もいたんだね」

しずく「いたんだねって……」

しずく「ここまで一緒に来たじゃない」

璃奈「むむ、軽い記憶障害？」

璃奈「実用段階までは遠そう」

かすみ「覚えてないけどなんだか悪い夢見た気がする、疲れたし」

かすみ「見たいものを見れるようにさできないの？」

かすみ「ほら、夢の中で勉強すれば、試験勉強しなくていいし」

かすみ「アイドルになれば、歌もダンスも上達しそうだし」

しずく「夢が現実に影響与えるってこと？」

かすみ「りな子ならできるでしょ？」

璃奈「うーん、これから次第」

璃奈「軽く改良した」

璃奈「かすみちゃん、また少しだけいい？」

かすみ「次はいい夢にしてよね」

しずく「あ、2人とも！」

しずく「行っちゃった」

しずく「はぁ、そんなに都合の良い道具なんて作れるものなのかな？」

しずく「都合の良い夢、都合良く影響する現実」

しずく「どこまでが夢でどこからが今になるんだろ」

しずく「はたまた全てが夢なのか」









おしまい。