【長編SS】歩夢「パラレルワールド?」【ラブライブ!虹ヶ咲】

ぽむ SS


655: (しまむら) 2021/05/24(月) 03:49:03.85 ID:u5mHBfvt
【Members walking together】

【NEXT】

【天王寺璃奈】

682: (しまむら) 2021/05/25(火) 23:16:27.04 ID:v+NaDEeT
『ねぇ! きみ、なんて名前なの!?』

『え?』


──これは、また夢だろうか?

教室? かな?
そこにはたくさんの子供達で賑わっていた。

でも、不思議な事に顔や声を認識できるのは2人だけだった。

教室の入口のすぐ近くの席に座る、2人の女の子。

私をその子達を第三者目線で見つめていた。


『あっ! ごめん。まずは自分から自己しょーかいだよね!?』

若葉『わたしは五十嵐若葉! よろしくねー!』


小さい頃の侑ちゃんと同じ見た目をしたその子は、私の知らない名前だった。
「ぱ」と1文字だけ書かれた不思議なTシャツを来ているその子は、ニカッと笑い──小さい頃の私に声をかけている。


歩夢『わ、わたしは……上原歩夢』

若葉『歩夢ちゃん!』パァァァァ

若葉『かわいい名前だね!』ニコッ

歩夢『か、かわ……!?////』

若葉「うん! 歩夢ちゃん、見た目もかわいいけど名前もかわいい!」

歩夢「え、えぇぇぇぇ!////」


顔を真っ赤にしている私。なんだか微笑ましいなぁ。

684: (しまむら) 2021/05/25(火) 23:31:47.07 ID:v+NaDEeT
若葉『ねぇねぇ! 歩夢ちゃんどこに住んでるの!?』

歩夢『え、えっとね。し、東雲』

若葉『ほんと!? 私も東雲だよー!』ニコニコ

歩夢『そ、そうなの?』

若葉『うんっ!』

若葉『東雲の団地に住んでてね! 場所は──』


グイグイと私に話をかける若葉……ちゃん?

──うん。若葉ちゃん。

彼女は、小さい私に話しかけ続ける。
中々のマシンガントークだけど、私と満更でもない表情をしている。

私は自分から話しかけるのがあまり得意ではないから、こうして率先して話し掛けてくれるのは非常に助かる。
それは昔から変わらないの。

685: (しまむら) 2021/05/25(火) 23:37:57.47 ID:v+NaDEeT
若葉『でも、良かったぁ〜』

歩夢『んー?』

若葉『歩夢ちゃんと席がとなりで! いがらしとうえはらで席があいうえお順だから良かったよぉ〜。私、今日の入学式……友達できるか不安だったんだ〜』

歩夢『わ、わたしも……』

若葉『そうなんだ! 一緒だっ』ニカッ

歩夢『ふふふっ。そうだねっ』ニコッ


そっか。これは入学式の日の映像なんだ。

という事は、やっぱり前見た夢もそうだけど……これは──この世界の上原歩夢の……記憶?

私と侑ちゃんは小さい頃からの幼馴染で、幼稚園も一緒だった。
でも、この子と若葉ちゃんは今日が初対面みたい。

ただ、若葉ちゃんがどうにも知らない子には思えない。話し方、笑顔、見た目。全て私の大好きな子と一緒だ。

……若葉ちゃん、あなたはもしかしてこの世界の──

──侑ちゃん?







『ねぇ』

歩夢「──え?」


誰かから声をかけられる。

その瞬間──私が見ていた景色は消え去り、変わる。

686: (しまむら) 2021/05/25(火) 23:41:44.86 ID:v+NaDEeT
歩夢「え!?」


教室ではなくなる。周りには何も無い白の世界。

奥行きも分からない、空も地面も何も無い世界。

そこに私は立っていた。


『ねぇ』

歩夢「!?」ビクッ!!


──後ろから再び声をかけられる。

恐る恐る振り返る。


歩夢「え?」

歩夢『……』


──私が立っていた。

687: (しまむら) 2021/05/26(水) 00:03:55.44 ID:/IyPZPaL
歩夢「え? わ、私……?」

歩夢『……』

歩夢「あ、あの──」

歩夢『人の身体で好き勝手するのは楽しい?』ニコッ

歩夢「──え?」キョトン

歩夢『ふふっ』クスクス

歩夢「す、好き勝手……?」

歩夢『あなたの行動、わたしはずっと見てるよ』

歩夢「え? ……え?」

歩夢『……まぁ、別にいいんだけどね。感謝してる事もあるし』

歩夢『だから何したって構わないよ。……別に、未練も何も……ないし』

歩夢「…………」

歩夢『でもね』

歩夢「!?」





歩夢『わたしと若葉ちゃんの思い出には関わらないで』

690: (しまむら) 2021/05/26(水) 00:30:47.37 ID:/IyPZPaL
ガバッ!!

歩夢「はぁ……!! はぁ……っ……はぁ……!!」

歩夢「ゆ、夢? い、今の……私……?」

歩夢「ッッ!! ──あたま……いたい……ッ……!!」ズキズキ

歩夢「はぁ、はぁ、はぁ……!」

歩夢「…………」

歩夢「……」


歩夢「わたしと若葉ちゃんとの思い出に、関わらないで」


歩夢「──え?」

歩夢「私……今……勝手に……?」

歩夢「喋った……?」

696: (しまむら) 2021/05/26(水) 11:55:25.56 ID:/IyPZPaL
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

私の朝はコーヒーを飲んでから始まる。もちろんブラック。
昔は嫌いだった苦いブラックコーヒー。今ではすきな味だ。

これを飲むようになったきっかけはお母さん。

お母さんが淹れてくれたコーヒーにミルクと砂糖を入れる? と聞かれた時。私は何も考えずに頷いてしまったんだ。

──お母さんと話すのが久しぶりで、何話していいかちょっと分からなかったんだよね。

思いを伝えるのって難しい。


璃奈「……」ズズ

璃奈「うま」


学校に行く前の朝。

──家には私以外誰もいない。

709: (しまむら) 2021/05/26(水) 14:55:04.75 ID:/IyPZPaL
>>696

誤字あります。


私は何も考えずに首を横に振ってしまったんだ。


です。流してくれると助かります。

697: (しまむら) 2021/05/26(水) 12:02:55.97 ID:/IyPZPaL
『──つまり、魂というのは、肉体とは別のものなのです。精神的実体として存在する、想像上の概念なんですね』

『なるほどぉ〜』

璃奈「……」ズズッ


私の両親は仕事でとても忙しい。その為、ほとんど家に帰ってこない。
お父さんは海外で仕事をしているし、お母さんは日本にいるけれど、泊まり込みの仕事が多い。

だから、私はほとんど一人で過ごしている。もはや一人暮らしだ。

でも、静か過ぎるのも嫌なので適当に朝から興味もないニュース番組を垂れ流している。内容は頭に入らない。だって興味ないもん。

……なに? 寂しくないかって? ──寂しいに決まってる。そんなの当たり前だ。まだまだ甘えたい年頃だもん。

でも、わがままは言わない。お父さんもお母さんも、人を救う為の仕事をしている。

両親は私の誇りだ。そんな人達に心配かけるような事はしたくない。

だから──我慢出来る。

698: (しまむら) 2021/05/26(水) 12:19:01.21 ID:/IyPZPaL
『そんな魂と呼ばれるものが肉体から離れそうになる瞬間。例えるなら大きな事故にあった時などですね。生きるか死ぬかの時。その時に私達人間は、不思議な体験をす──』

ピッ

璃奈「ご馳走様でした」


コーヒーと軽食を食べ終わる。そのタイミングでテレビも消す。

そろそろ身支度を整えなければいけない。


璃奈「今日はどんな一日になるかな」

璃奈「学校、楽しみだ」


前までちょっと退屈だった学校も、今では楽しみの一つだ。

早く同好会の皆と会いたい。あそこは心地良い。


璃奈「ふふふ……今日もしずくちゃんと一緒にかすみちゃんをからかってやろっと」


自然と笑みが零れてしまう。早く学校に行こう。

そう思い私は身支度を整えるのだった。

700: (しまむら) 2021/05/26(水) 12:41:33.03 ID:/IyPZPaL
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

〜放課後 部室〜


朝の頭痛もまるでなかった事かのように治まり、いつもの日々が始まった。

私が今の上原歩夢になって、約1ヶ月。夏が近づいてきたと思えるように、少し気温は上がってきている。

時が動いているという事がよく分かる。──前の私は今どうなってるんだろうか。

疑問が尽きないまま、今日も一日が始まる。


彼方「はぁぁぁぁぁ……」

しずく「すー……すー……」zzz

彼方「寝てるしずくちゃん……可愛い……かえーしきゃー」ウットリ

果林「え!? 彼方もしかして私と一緒の八丈島出身!?」

エマ「いや、果林ちゃんの真似してるだけだと思うなぁ。八丈島出身なら同い年の果林ちゃんは昔から彼方ちゃんと会ってるでしょ?」

果林「あっ、そっかぁ〜!」

歩夢「ふふっ。私もしずくちゃん可愛いと思います。癒されますよね」ニコニコ

彼方「だよね!? 歩夢ちゃんは分かる子だね」

歩夢「でも、本当に彼方さんはしずくちゃんの事が好きですよね。二人共とっても仲良しですし」

彼方「うん。私にとってしずくちゃんはもう一人の妹みたいなもんだからね〜。──さて」

彼方「そろそろ私は帰るね」

かすみ「今日もアルバイトですか?」

彼方「うん。その前に寄りたい所もあるし、今日も皆気を付けて練習してね」

彼方「あんまり参加できなくてごめんね」

エマ「大丈夫だよ〜。彼方ちゃん、お仕事頑張ってね!」

彼方「うん! みんなまたねー」


眠っているしずくちゃんの頭をぽんぽんと優しく撫でて、そのまま彼方さんは部室を出ていく。

彼方さん、本当に忙しそう。ちゃんと休めてるのかな?

私の世界の彼方さんは、寝るのが大好きな人だった。

でも、この世界の彼方さんは全くと言っていいくらい寝てる姿を見ない。
いつもハキハキとしていて、少し緩い雰囲気はあるけれど頼りになる先輩って感じだ。

……無理してたりしないかなぁ?

701: (しまむら) 2021/05/26(水) 13:09:08.76 ID:/IyPZPaL
璃奈「歩夢さん」クイクイ

歩夢「ん? 璃奈ちゃんどうしたの?」

璃奈「今日、ボーカル練習をしようと思っているんだ」

璃奈「良かったら色々と教えてほしい。端的に言うなら、一緒に練習して」

歩夢「え? 私が?」

璃奈「うん」

歩夢「うんっ、いいよ! あんまりお役に立てないかもだけど」

璃奈「それはないよ」

璃奈「歩夢さんから色々教わる事が出来る。それだけでバフが乗るってもんだよ」

歩夢「バフって……あはは……」

璃奈「やる気が絶好調になるよ」グッ

歩夢(面白い例え方だなぁ)

702: (しまむら) 2021/05/26(水) 13:25:16.91 ID:/IyPZPaL
かすみ「すごいやる気じゃん。天王寺璃奈」

璃奈「かすみちゃんはいつになったら私の事を名前だけで呼んでくれるんだい?」

かすみ「お墓に入った後かな」

璃奈「死してなお私の名を呼ぶとは……さてはあなた私の事がすきだね?」

かすみ「本当にそのポジティブさだけは見習いたいよ。それだけはね」

璃奈「照れる」

かすみ「はぁ……」イライラ

歩夢「あはは……二人共仲良くね?」

璃奈「超絶仲良しだよ。私とかすみちゃんはなかよし同好会だもん」

かすみ「まって、なにそれ初耳なんだけど。今すぐ退部したいんだけどそのなかよし同好会」

璃奈「照れるなよかすみちゃん」

かすみ「あああああああ!! 私、本当にこの子苦手!! 私に近づくな!!」

璃奈「分かった」グイッ

かすみ「来るなっての!!」

歩夢(なんだかんだ仲良し……なのかな?)

703: (しまむら) 2021/05/26(水) 13:36:24.56 ID:/IyPZPaL
璃奈「まぁ、イチャイチャするのはこれくらいにしておくね」

かすみ「イチャイチャじゃない!!」

せつ菜「かすみさん、しずくさんが起きちゃいますから……」

せつ菜「──あ! あと歩夢さんとのボーカル練習は私も混ざりますね!」ペカー

璃奈「うん。いいよ。一緒に練習しよう」

璃奈「今はすごく練習を頑張りたい気分なんだ」

愛「そうなのか?」

璃奈「うん」コクリ

璃奈「この前の皆のライブは本当に素晴らしかったよ」

璃奈「色々とトラブルはあったけれど、お客さんは皆満足していた。関係者にしかトラブルが起きた事が分からない。全てパフォーマンスとアドリブでカバー出来た。そんなライブだった」

璃奈「本当に、見ていて胸が熱くなったよ」

704: (しまむら) 2021/05/26(水) 13:52:01.00 ID:/IyPZPaL
璃奈「初ライブとは思えないくらいの仕上がりだったし、かっこよかったせつ菜さん」

せつ菜「ほんとですか!? 嬉しいです!」

璃奈「一生懸命頑張っていた、めちゃめちゃ可愛かった愛さん」

愛「か、かわ!?////」

璃奈「そんな愛さんをフォローしつつ、自分の可愛さを全力でお客さんに見せて、かすみんワールドを作っていた凄いかすみちゃん」

かすみ「……ふん」プイッ

璃奈「アドリブだったのに完璧な歌をアカペラで歌った私の憧れの歩夢さん」

歩夢「璃奈ちゃん……」

璃奈「そして……あまりの歌唱力の高さで会場の全員を魅力させたエマさん」

璃奈「お客さん、サイリウム振る事を忘れさせた人もちらほらいたよ」

エマ「……皆のおかげだよ。皆がいたから出来たの」ニコッ

璃奈「そしてその静寂さを、楽しいライブへと切り替えさせた果林さん。最後の締めの『Starlight』は本当にかっこよかった」

果林「えへへ〜! どーもよい!」

璃奈「つまり、端的に言うならね」

璃奈「皆、本当にすごかったよ」

璃奈「私も皆みたいなライブがしたいと思った」

璃奈「だから練習、頑張りたいんだ」

705: (しまむら) 2021/05/26(水) 14:04:38.95 ID:/IyPZPaL
璃奈「私に皆みたいなライブが出来るかは分からないけど」

かすみ「──それはあなたの頑張り次第でしょ」

璃奈「え?」

かすみ「努力は裏切らないよ」

かすみ「やるって言うなら全力でサポートしてあげるよ」

璃奈「かすみちゃん……」ポカーン

かすみ「私以外の皆がね」プイッ

せつ菜「かすみさんはツンデレなんですか?」キラキラ

かすみ「全く違います。期待の眼差しと変な例え方やめてください」

愛「そんなこと言ってて何かあったら璃奈の事助けるんだろ? かすみは本当に良い奴だよなぁ〜、うりうり〜」ナデナデ

かすみ「髪が乱れるのでなでなでしないで下さいっ!」

璃奈「……ふふ」

璃奈「そっかぁ〜。なら全力で助けてもらおうかなぁ〜。かすみちゃんに」ニヤニヤ

かすみ「絶対助けない。寄るな天王寺璃奈」

璃奈「あはは! ツンデレめ〜」ニコニコ

かすみ「ツンデレじゃない!!」

璃奈(──ほんと、スクールアイドル同好会はいい所だ)

璃奈(だいすき)

706: (しまむら) 2021/05/26(水) 14:14:26.51 ID:/IyPZPaL
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

♪〜

璃奈「──ふぅ、どうだった? 歩夢さん」

歩夢「うん! すごく良かったよ璃奈ちゃん!」

歩夢「ほどよく緊張も抜けてて、とっても聞き取りやすい歌だった」ニコッ

璃奈「ほんとーかい? ありがとう」

せつ菜「私もそう思います!」

愛「独特な歌い方だけど、印象に残るよな。──あっ、勿論良い意味で独特って事だからな?」

璃奈「二人もありがとう」

璃奈「ふむふむ……なるほど」

璃奈「歌は問題ないとしたら、後はダンスを猛特訓しなきゃだね」

せつ菜「ダンスですか?」

璃奈「うん」コクリ

707: (しまむら) 2021/05/26(水) 14:28:10.52 ID:/IyPZPaL
璃奈「お客さん目線でライブを楽しむとしたら、勿論歌はとても重要だけど、それ以外にダンスも大事だと思うんだ」

璃奈「例えば頭の上で指をクイッ、クイってさせる動きをする。お客さんも真似しやすいような振り付けにしたら、その動きに合わせてお客さんもサイリウムを動かせるかもしれない」ピョン、ピョン

璃奈「そんなお客さんも楽しめる、参加型のライブ。それが出来たら良いなと思ってるんだ」

璃奈「折角ライブに参加してもらうんだ。CD聞くだけでは味わえない事も体験してほしいんだよね」

愛「なるほどなぁ……」フムフム

愛「──それ、めっちゃいいな!」

愛「アタシもそんな、参加してくれる皆が楽しめるライブがやりたい!」

璃奈「だよね? 気が合うね愛さん」

愛「アタシは便乗した感じだけどな! 璃奈のおかげで目標が決まったんだよ」ニカッ

せつ菜「本当に良いですねそれ! 私も参考にしますっ!」

璃奈「でしょ? これからもこんな感じで切磋琢磨していこう。えいえいおー」グッ

愛「おー!」
せつ菜「おー!」

708: (しまむら) 2021/05/26(水) 14:38:54.80 ID:/IyPZPaL
歩夢「私も応援するから、頑張ってね! 璃奈ちゃん」ニコニコ ナデナデ

璃奈「!?////」ビクッ!!

せつ菜「!!」

歩夢「あっ、ごめんね? ついまた頭を撫でちゃった……髪乱れちゃうよね?」

璃奈「もっと撫でて! もっともっと!」グイ、グイッ

歩夢「え、えぇ!?」

せつ菜「あ、歩夢さん! 私も撫でてください!」

歩夢「なんで!?」

歩夢「せつ菜ちゃん撫でるのは……ちょっと恥ずかしいよ……」

せつ菜「!? ──な、なんでですか!」

歩夢「ほ、ほら! 同級生だし……」

せつ菜「璃奈さんの方が大事なんですか!?」

歩夢「違うよ!?」

愛(こいつら歩夢の事好き過ぎるだろ……)

716: (もんじゃ) 2021/05/26(水) 23:49:10.04 ID:SsS5DdNB
見てます
ポニテぽむは制服着崩してたりするのかなぁと思い

717: (しまむら) 2021/05/26(水) 23:59:11.79 ID:/IyPZPaL
>>716

イラストありがとうございます!
励みになります
ゆっくり更新になりますが楽しんで頂けていたら嬉しいです

718: (しまむら) 2021/05/27(木) 00:16:13.30 ID:1tUGM5w7
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

璃奈(お昼ご飯、どこで食べようかな)


お昼ご飯はいつも学食で済ませているんだけれど、本日はおサイフを家に忘れてしまった。

仕方なくコンビニでスマホの電子マネーでお弁当を買って、今はそれを食べるスポットを探している途中だった。


スタ、スタ、スタ ──ギュッ

しずく「りーな!」

璃奈「え? しずくちゃん?」

しずく「やっほ〜」ニコッ


後ろから同級生のしずくちゃんに抱きつかれる。すごくいい匂いがする。

719: (しまむら) 2021/05/27(木) 00:34:39.86 ID:1tUGM5w7
しずく「こんなとこで奇遇じゃん! どしたの?」

璃奈「お昼ご飯を食べるスポット探してるんだけど、どこにするか絶賛迷い中なんだ」

しずく「マジ?」

しずく「ならあたしのおすすめスポットで一緒にご飯食べる?」

璃奈「え? いいの?」

しずく「あったりまえじゃ〜ん! あたし達友達なんだし!」

璃奈「え……?」

しずく「ん? どしたん?」

璃奈「……う、ううん。なんでもないよ」ニコッ

しずく「そっか!」

璃奈「ならお言葉に甘えて、ご一緒させてもらおうかな」

しずく「いいねいいね! じゃあいこ!」

ギュッ

璃奈「あっ」

しずく「早く早く〜」ニコニコ

璃奈「……うん!」ニコッ

璃奈(友達……うん、友達!)

璃奈「ふふっ」ニコニコ




720: (しまむら) 2021/05/27(木) 01:29:32.97 ID:1tUGM5w7
かすみ「──で? 連れて来たと?」

しずく「うん! 連れて来ました!」ニコッ

璃奈「連れられて来ました!」ニコッ

かすみ「はぁ……」

しずく「そんな溜め息つかなくていいじゃ〜ん! 同じ部活の仲間だぞ〜?」

璃奈「そーだそーだ」

かすみ「ちっ」

しずく「舌打ちやめろって」

璃奈「まぁ、冗談はさておきご一緒させてもらっていいかな?」

かすみ「……しょーがないからいいよ」

璃奈「ありがとう」

しずく「大丈夫だよ璃奈。この子、本当に嫌いな人とは話さないし!」

かすみ「余計なこと言うなしずく」ムギュー

しずく「いひゃいいひゃい〜!」

しずく「──ほっぺたつまむな!」

かすみ「自分のせいでしょ!」

721: (しまむら) 2021/05/27(木) 02:09:03.74 ID:1tUGM5w7
璃奈「2人は本当に仲良しだね」

璃奈「私と出会った長さはあんまり変わらないのに、よくそこまで仲良くなったね」

しずく「ふふーん! 仲の良さに交流の長さは関係ないのだよ〜!」

かすみ「長さは関係ないって……しずくが色んな人と仲良くなるのが早すぎるだけでしょ」

しずく「そんな事ないって。ちゃんと相手選んでるよあたしは」

かすみ「はいはい。そーですねーそーですねー」

しずく「っておい! 聞き流すなっつの」

璃奈「ふふっ」ニッコリ

璃奈「いやぁ、誰かとこうやってご飯食べるのって楽しいもんなんだね」

璃奈「いつもは一人で食べてるし、心地良いよ」

しずく「え? お家で家族と一緒にご飯食べたりしないの?」

璃奈「私の家は両親が共働きですごく忙しいからね。ほとんど家に帰ってこないからさ。だから基本的にいつも一人で食べてるよ」

しずく「!! ごめん……」

璃奈「謝ることじゃないよ」

璃奈「お父さんもお母さんも、人を助ける仕事をしてるの。私の誇りだよ。だから、それでいいんだよ」

璃奈「──確かに寂しいけど、わがままは言えないよ」ニコッ

しずく「璃奈……」

かすみ「…………」

723:1(茸) 2021/05/27(木) 09:03:40.46 ID:pvDk2ymb
璃奈「それに、家に誰もいないのも利点ではあるんだ。好きなタイミングで私のだいすきな開発ができる」

しずく「開発?」

璃奈「うん」

璃奈「小さい頃は今みたいに我慢出来るって素直に言えなかったからね。両親にあんまり構ってもらえないというフラストレーションを発散出来るものを探していた時期があるんだ」

璃奈「そして、たどり着いたのが色々な物を作るという開発」

璃奈「脳にある知識をフル活動させて、物を作る。くっふふふ……! サイコーだよ?」

かすみ「笑い方が怖い」ジトー

璃奈「あっ、ごめんごめん。開発の事になるとテンションが上がっちゃうんだ」

璃奈「──まぁ、つまりはそういう事。フラストレーションの吐き出し口はあるし、全然平気だよ」

璃奈「たまに開発して作ったものを見せると、お母さんも喜んでくれて、私の事褒めてくれるし」ニコッ

しずく「……」

かすみ「……」

724: (茸) 2021/05/27(木) 09:14:15.99 ID:pvDk2ymb
璃奈「とまぁ、自分語りはおしまいだ。折角の皆でランチなんだ。もっと色々な話をしよ──」

ギュッ!!

璃奈「!?」

しずく「璃奈」

しずく「良かったらこれから毎日、私達と一緒にお昼食べない?」

璃奈「──え?」

しずく「ね?」ニコッ

璃奈「しずくちゃん……」

しずく「ねぇ、いいでしょ? かすみ」

かすみ「……好きにすれば」

璃奈「かすみちゃん……」

璃奈「本当にいいの……?」

しずく「うん!」

しずく「友達と一緒に食べるご飯は格別だよ?」

璃奈「!!」

璃奈「……うん! 私も2人とご飯食べたい!」

しずく「うーん! よしよし〜素直で可愛いよ璃奈〜!」ギュウ~

璃奈「そんなに抱き締められると、照れちゃうよ?」

しずく「ほんと璃奈かわいいんだけど! 店長! テイクアウト出来ますか!?」

かすみ「どんなテンションなの?」

璃奈「ふふっ」ニコニコ

璃奈(……友達って)

璃奈(いいね)

725: (茸) 2021/05/27(木) 09:28:40.86 ID:pvDk2ymb
かすみ「…………」

かすみ(家でほとんど一人……かぁ)

かすみ(学校行って、部活やって、帰ってきても誰も家にいないんでしょ?)

かすみ「…………」

かすみ(寂しい、よね?)

かすみ(そんなの絶対)

璃奈「ん? かすみちゃんどうしたの?」

かすみ「え?」

璃奈「さっきからすごい静かだよ? いつもの騒がしさはどこへ?」

しずく「確かに! いつもうるさいくらいなのにね〜」

かすみ「言っておくけど私をうるさくさせている原因は大体あなた達二人だからね?」

かすみ「……別に、考え事してただけ」

璃奈「そっか」

璃奈「なら今度私がやる事になったライブに向けてアドバイスしてほしいんだ。いいかな?」

かすみ「……仕方ないなぁ」

しずく「デレた?」

かすみ「…………」ギュュュュュ

しずく「いたたたたたたっ!! あたしの綺麗な二の腕がぁ!!」

かすみ「うっさい」プイッ

しずく「すぐそうやって暴力振ってきて! もーぷんぷんだよ! おこなんだけど!!」

かすみ「そんな強くやってないでしょ!?」

璃奈「まぁまぁ二人共。ここは私に免じて仲直りしてくれよ」

かすみ「あなたは何キャラなの!?」

726: (茸) 2021/05/27(木) 09:34:15.53 ID:pvDk2ymb




〜放課後 職員室前〜


かすみ「…………」

スタスタ

しずく「おまたせー。どしたん? こんな所に呼び出して」

かすみ「……その……手伝ってほしいことがあって」

しずく「ま?」

かすみ「ま」コクリ

しずく「かすみからお願い事なんて珍しいね〜」

かすみ「…………」

かすみ「こんなことするの、私らしくないってのは分かってるんだけどね……」

かすみ「その……えっと……」

しずく「いいんじゃない?」

かすみ「え?」

しずく「やりたいと思ったことがあるんでしょ?」

しずく「なら私に出来ることがあるなら、全力でサポートするよ」

しずく「友達じゃん?」ニコッ

かすみ「……うん!」

かすみ「実はね──」

731: (しまむら) 2021/05/28(金) 00:03:24.39 ID:uDM94UCa
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

朝起きて、学校へ行き、ライブに向けて練習をする毎日の繰り返し。

──とても有意義だった。


歩夢「璃奈ちゃん。ステップを踏む時のコツはね──」


──私達はソロアイドルの集まりなのに、みんな私の練習に付き合ってくれた。


彼方「お腹から声を出す技術も大事だけど、私達は踊りながら歌うからね。一番大事なのは体力なの。だからこれから──」


──最近スクールアイドルになったばかりの私が、お客さんが満足するライブの開催に向けて、日々練習に取り組む。生半可な気持ちではダメだ。毎日必死に練習した。





かすみ「ほら! あと2週! スピード遅れてきてるよ!」

璃奈「はぁ、はぁ……ッ、はぁ……!」


体力があまりない私にとっては中々辛い時もあった。


かすみ「ライブ中は体力が無くなっても誰も助けてくれない。ファンの皆は満足出来ない。自分は悔しい思いをする。何も良いことない。ただただ後悔するだけだよ!」

璃奈「はぁ、はぁ……」

かすみ「後悔を美談で終わらせるんじゃなく、成功を美談にさせるの!」

璃奈「!! ──うん!」コクリ


何でこんな事やってるんだろう?

辛い、辛い。こんなに汗を流して、果たして意味があるのだろうか?

そんな風に思う時だってある。けど、練習後のお水の美味しさは格別だし、やり切った時の達成感も凄い。


璃奈(身体動かすのって、楽しい……!)


開発くらいしか楽しいことが無かった私の日々が、変わり始めたんだ。

──これが青春、なのかなぁ?

733: (しまむら) 2021/05/28(金) 00:47:35.92 ID:uDM94UCa
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

──そして、ついに迎えたライブ当日。

いつもはギリギリに起きるのに、今日は目覚ましのアラームがなる前に目が覚めてしまった。


璃奈「う〜ん……清々しい朝だ」


適当に独り言を呟き、身支度を整える。

顔を洗おうと思い洗面所に向かう。途中、リビングを経由するんだけれど、テーブルに目が行く。


璃奈「え?」

璃奈「……おにぎり?」


サランラップに包まれた、おにぎりが置いてあった。


璃奈「お母さん?」


近くには「いつも寂しい思いをさせちゃってごめんね」とだけ書かれたメモが置いてあった。お母さんの字だ。


璃奈「……ふふ。別に気にしなくていいのに」クスクス

璃奈「はむ」パクッ

璃奈「……」モグモグ

璃奈「ん、美味しい」


普通のおにぎり。塩味でさっぱりとした味。──それだけなのに、すごく美味しく感じる。


璃奈(ありがとう、お母さん)

璃奈「今日のライブ……頑張るよ」

璃奈(──でも、欲を言えば)

璃奈「今日のライブ……見て欲しかったなぁ」

璃奈(今日、ライブがある事すら……教えてないけれどね)

734: (しまむら) 2021/05/28(金) 00:59:52.14 ID:uDM94UCa
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

歩夢「ついにライブが始まるね、璃奈ちゃん」

璃奈「うん! 色々練習付き合ってくれてありがとうね。歩夢さん」

歩夢「ううん、全然平気だよ」ニコッ

愛「璃奈、すげぇ練習頑張ってたもんな。楽しみにしてるからな!」

せつ菜「全力で応援していますよ!」

エマ「リラックスして、楽しんできてねっ」

彼方「3年生のみんなで作った、璃奈ちゃんフラッグで応援するよ〜」

果林「今日の璃奈ちゃんのライブのために作ったの! 璃奈ちゃんがんば〜!」

璃奈「みんな……!」

璃奈「本当に、ありがとう。全力で頑張ってくるよ」ニッコリ

735: (しまむら) 2021/05/28(金) 01:05:14.31 ID:uDM94UCa
しずく「璃奈!」

かすみ「…………」

璃奈「しずくちゃんとかすみちゃん!」

璃奈「二人も色々とライブの準備してくれたり、手伝ってくれてありがとうね」

しずく「良いってことよ〜!」

かすみ「…………」

かすみ「ねぇ」

璃奈「ん?」

かすみ「……私としずくは観客席で応援するよ」

璃奈「え? 観客席で?」

しずく「うん!」

かすみ「あんまり大きな会場じゃないから、私達の事……見れると思う」

かすみ「だから、あなたが歌う前。その時に全力であなたの名前を呼ぶから、その瞬間私としずくのいる所を見てほしい」

璃奈「う、うん。分かった」

かすみ「ん。よろしくね」

璃奈「……?」キョトン

736: (しまむら) 2021/05/28(金) 01:15:32.82 ID:uDM94UCa
かすみ「……あのさ」

璃奈「んー?」

かすみ「………………」

かすみ「が」

璃奈「が?」

かすみ「……っ……」

かすみ「が……頑張ってね……////」フイッ

璃奈「!!」

しずく「デレた〜!」

かすみ「うっさい!」

せつ菜「やっぱりツンデレなんですね! かすみさん!」キラキラ

かすみ「違います! テンション上げないでください! ツンデレじゃないですから!」

かすみ「──たくっ。じゃあ移動するよしずく」

しずく「アイサー! 璃奈、頑張ってね!」ピシッ

かすみ「……中途半端なライブしたら、校庭のグラウンド50周だからね!」

スタスタ

璃奈「…………」

歩夢「璃奈ちゃん」

璃奈「ん?」

歩夢「いい笑顔だね。璃奈ちゃん」ニッコリ

璃奈「──うん!」

璃奈「絶好調だよっ」

璃奈「私、頑張ってくる!」ニッコリ

737: (しまむら) 2021/05/28(金) 01:25:16.43 ID:uDM94UCa
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

スタスタ

璃奈「皆さん、こんにちは」

璃奈「新人スクールアイドルの天王寺璃奈です」

璃奈「今日は集まってくれて、本当にありがとう」

璃奈「出来ることを全力でやるから、みんなには楽しんでほしい!」

璃奈(はぁ、緊張する)

璃奈(でも、ドキドキもする)

璃奈(頑張ろう……!)

璃奈「それでは、一曲目の──」


「璃奈────────!!!!」


璃奈「!?」ビクッ!!

738: (しまむら) 2021/05/28(金) 01:30:29.57 ID:uDM94UCa
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

スタスタ

璃奈「皆さん、こんにちは」

璃奈「新人スクールアイドルの天王寺璃奈です」

璃奈「今日は集まってくれて、本当にありがとう」

璃奈「出来ることを全力でやるから、楽しんでほしい!」

璃奈(はぁ、緊張する)

璃奈(でも、ドキドキもする)

璃奈(頑張ろう……!)

璃奈「それでは、一曲目を──」


「璃奈────────!!!!」


璃奈「!?」ビクッ!!


会場に響くしずくちゃんの声。


璃奈(あっ、そう言えばさっき、かすみちゃんが──名前を呼んだら私達を見てって言っていたっけ?)


急いでしずくちゃん達を探す。すぐに見つかった。

UOをグルグル回しているしずくちゃんはよく目立った。

おいおい、まだ曲は始まって──


璃奈(──え?)


一瞬、目を疑った。

739: (しまむら) 2021/05/28(金) 01:31:46.60 ID:uDM94UCa
璃奈母「璃奈、がんばって!」




璃奈「」


そこにはお母さんがいた。

740: (しまむら) 2021/05/28(金) 01:39:53.83 ID:uDM94UCa
璃奈「……っ!!」


サイリウムを慣れない手つきで振る準備をしているお母さん。

その横にUOをハイテンションでブンブンさせているしずくちゃん。すごく目立つようにしてくれている。

そして、その横にはかすみちゃんもいる。


かすみ「…………」


かすみちゃんは静かに私を見ている。

──彼女と目が合う。かすみちゃんはそのまま私に向けて拳を突き出す。

……人の心なんて、分からないものだけれど。

この時は、かすみちゃんの声が聞こえた気がした。


かすみ(──見せ付けてやれ)グッ

741: (しまむら) 2021/05/28(金) 01:42:54.34 ID:uDM94UCa
♪〜

璃奈「はずむ ココロ」

璃奈「飛ぶような テンション!」

璃奈「さぁ コネクト」

璃奈「しよ!」

742: (しまむら) 2021/05/28(金) 01:43:36.93 ID:uDM94UCa
【ツナガルコネクト】

743: (しまむら) 2021/05/28(金) 01:50:46.96 ID:uDM94UCa
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

正直、ライブの時の記憶はあんまりない。

やれる事を全力でやりきり、お客さん達の歓声を聞いて、私はライブが終わったことに気が付いた。

──そのまま流れるままにステージ裏へと戻り、皆からもみくちゃにされた。

沢山褒めてくれた。

……嬉しかったよ。

でも、私はすぐにかすみちゃんとしずくちゃんを探し、見つけ出し、声をかけた。


璃奈「なんで二人が……!?」


色々聞きたいことがあったけれど、上手く言葉に出来なかった。

744: (しまむら) 2021/05/28(金) 01:57:55.58 ID:uDM94UCa
しずく「かすみがさ、色々動いてたんだよ」

璃奈「え?」

かすみ「…………」

かすみ「職員室に行って、あなたのクラスの担任にあなたのお母さんの連絡先を聞いたの」

しずく「いやぁ、中々教えてくれなかったんだよね。個人情報だしね」

かすみ「……数日間聞き続けて、何とか聞き出せたから……直接電話して、今日のライブのこと伝えたの」

璃奈「…………」

璃奈「ど、どうして?」

かすみ「……あなたとお昼ご飯に、色々聞いてさ」

かすみ「その……えっと……」

かすみ「や、やりたくなったの!」

かすみ「あなたとお母さんの……一緒にいられる時間を……作ってあげたかった」

璃奈「かすみちゃん……」

745: (しまむら) 2021/05/28(金) 02:03:50.44 ID:uDM94UCa
かすみ「余計なことして、本当にごめん」

かすみ「他人の家庭の事情に首を突っ込むなんて、やってはいけないことだもん」

かすみ「……けど……ずっと一人だなんて」

かすみ「寂しいじゃん……」

璃奈「……っ……」

かすみ「か、勘違いしないでよ!」

かすみ「私はあなたの事、苦手だから!」

かすみ「何考えてるかわかんないし」

かすみ「無駄にテンション高いし」

かすみ「時々笑い方怖いし」

かすみ「私の事すぐにからかってくるし」

かすみ「本当に……苦手……だよ」

璃奈「……」

かすみ「──でも!」

かすみ「私は頑張ってる子が報われないのが、本当に嫌なの!」

璃奈「!!」

746: (しまむら) 2021/05/28(金) 02:12:34.18 ID:uDM94UCa
かすみ「あなたは……頑張ってる」

かすみ「寂しい思いはあるって言いながらも、心配させないよう笑ってるし」

かすみ「練習だって! 私の想像以上に頑張ってくれた」

かすみ「……だからその……」

しずく「かすみなりに、璃奈の為に色々と考えてくれてたんだよ」

しずく「かすみからのサプライズ!」

かすみ「あなたのライブの話をした時、あなたのお母さん……すごく喜んでた」

璃奈「──え?」

かすみ「ライブ、絶対行くって言ってたよ」

かすみ「……あなたは、ちゃんと……愛されてるよ」

璃奈「……はは……あはは……!」ニッコリ

璃奈「……まったく……」

璃奈「泣いちゃうよ?」

かすみ「……対応がめんどくさいから泣かないで」

璃奈「あはは! 相変わらずツンツンデレデレだなぁ、かすみちゃんは」

かすみ「なんか多いしツンデレじゃないっての!!」

747: (しまむら) 2021/05/28(金) 02:21:31.19 ID:uDM94UCa
璃奈「でも本当に、ありがとう」

バッ!! ──ギュッ!!

かすみ「!? ちょ、いきなり抱きつくな!」

璃奈「嫌だね。これから私の嫁って事をお母さんに紹介しに行くから」

かすみ「寒気すること言うなっての!」

しずく「えぇ〜? 私は?」

しずく「私も色々手伝ったんですけど〜!」

璃奈「多妻制だからカモンしずくちゃん!」

しずく「やった! ──あと、あたしも抱きつかせろ!」バッ!!

かすみ「だぁぁぁぁあああっ!! あっついよ! 離れろ!!」

璃奈「そんな事よりかすみちゃん」

かすみ「そんな事!?」

璃奈「私のライブ、どうだった?」

かすみ「……………………」

かすみ「ま、まぁまぁ良かったよ」

璃奈「間が長すぎるんだけど」

かすみ「うっさい!」

かすみ「まだまだ沢山教えることはあるから、真面目に練習してよね!」

かすみ「──璃奈!」

璃奈「!!」

しずく「……」ニヤニヤ

かすみ「ちっ……しずく。その無言のニヤニヤをやめ──」

璃奈「だいすき!!」ニコッ

ギュュュュュ!!

かすみ「!? ──は、離れろ!! 早くお母さんに会いに行ってあげなさいよ!!」

748: (しまむら) 2021/05/28(金) 02:29:08.09 ID:uDM94UCa
ワイワイ、ギャーギャー


歩夢「ふふっ。璃奈ちゃん達、楽しそうで微笑ましいね」ニッコリ

愛「だなっ」ニカッ

歩夢(璃奈ちゃん、よかったね)

歩夢(最近、皆のキズナが深まってきてる)

歩夢(同好会の雰囲気もすごく良くなってると思う)

歩夢「……やっぱり、始めて良かったなぁ」ボソッ


せつ菜「歩夢さん」クイクイ

歩夢「ん? どうしたの? せつ菜ちゃん」

せつ菜「少し前になりますけど、覚えていますか?」

歩夢「え?」

せつ菜「他の学校の子達に聞いてみるって伝えていた」

せつ菜「高咲侑さんの件でお話があります」

歩夢「──え?」

749: (しまむら) 2021/05/28(金) 02:37:44.15 ID:uDM94UCa
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

彼方「──そんなこんなあってね、本当に良いライブだったんだ〜」

彼方「凄かったんだよぉ、璃奈ちゃんのライブ」

彼方「きっと、遥ちゃんも仲良しになれると思うよ。同じ一年生だしっ」

彼方「私、最近ね。同好会の活動がすごく楽しいの」

彼方「皆良い子ばっかだし! 友達も沢山できた。歩夢ちゃんが同好会に入ってから、良いことばかりだよ」

彼方「でも……やっぱり勉強優先になっちゃうけどね……」

彼方「……だから、そろそろ……キリもいいし……」

彼方「……辞め時なのかもね」

彼方「スクールアイドル」

彼方「──な、なんてね! 冗談冗談! あははは〜……」

彼方「……さて。そろそろ家に帰って、夕ご飯の支度しなきゃ」

彼方「また来るね」


遥「………………………………」


彼方「遥ちゃん」

750: (しまむら) 2021/05/28(金) 02:38:46.79 ID:uDM94UCa
【Members walking together】

【NEXT】

【近江彼方】

771: (しまむら) 2021/05/30(日) 00:12:59.27 ID:/Lc2DyOy
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

歩夢「…………」


夜、一人部屋の中で宿題を進める。

今日もお母さんは遅いみたいで、家の中はとても静かだ。

静か過ぎるのも中々落ち着かないなぁっと思ってしまう。
いつも侑ちゃんと通話しながら宿題していたから、余計かもしれない。


歩夢「…………」

歩夢「侑ちゃん……」


……侑ちゃんに会いたいなぁ。

772: (しまむら) 2021/05/30(日) 00:21:56.54 ID:/Lc2DyOy
せつ菜『他の学校の方々にも聞いてみたのですが』

せつ菜『やはり高咲侑さんを知っている方はいませんでした』

歩夢『……そっか』

せつ菜『SNSを本名でやっていたりしないかな? って思って調べてみたりもしたのですが……見つかりませんでした』

せつ菜『お役に立てなくてごめんなさい……』シュン

歩夢『う、ううん! 大丈夫だよせつ菜ちゃん! ありがとうね』ニコッ

せつ菜『いえ! また何かあったらいつでも頼ってくださいっ』ペカー

歩夢(やっぱり侑ちゃん……いないのかな?)

歩夢(……もしかしたら……)

歩夢(五十嵐若葉ちゃんの事を聞いてみたら!)

歩夢(でも……)

歩夢(“この子”は『わたしと若葉ちゃんの思い出に関わらないで』って言ってたし……)

歩夢『…………』

せつ菜『歩夢さん?』

歩夢『──あっ、ごめんね。少しぼーっとしちゃってた』

歩夢『また何かあったらお願いするね』ニコッ

773: (しまむら) 2021/05/30(日) 00:30:13.08 ID:/Lc2DyOy
歩夢「…………」


侑ちゃんと、五十嵐若葉ちゃん。

夢で見た若葉ちゃんは、侑ちゃんと同じ見かけをしていた。いや、声も笑顔も明るい性格も侑ちゃんと同じだった。

私を引っ張ってくれる、大切で大好きな子。


歩夢「……」

歩夢「また、夢の中でもいいから」

歩夢「この世界の歩夢と会話できないかな……」


夢の中で私に声を掛けてきた子は、恐らくこの世界の上原歩夢。

774: (しまむら) 2021/05/30(日) 00:57:07.00 ID:/Lc2DyOy
──────────

歩夢『人の身体で好き勝手するのは楽しい?』ニコッ


歩夢『あなたの行動、わたしはずっと見てるよ』

──────────


歩夢(“この子”は、私の中にいるの……?)

歩夢(いや……“私”がこの子の中に入ってしまったの?)

歩夢(別世界の上原歩夢である私が……この子の中に?)

歩夢「そんな事……あるの?」

歩夢(いや……今私の身に起きている現象から考えると、全然ありえる話だよね)

歩夢(ありえないなんて事はありえないのかも)

歩夢(愛ちゃんから話を聞いた──パラレルワールドの話。その話から、私は別世界の上原歩夢だって考え付くことが出来た)

歩夢「…………」

歩夢(そう考えると……本当に、私がいた世界の私は……今どうなっているのかな?)

776: (しまむら) 2021/05/30(日) 01:11:21.25 ID:/Lc2DyOy
歩夢「……そう言えば」

歩夢「私って」

歩夢「前の世界で」

歩夢「どんな状態だったんだっけ?」

歩夢「確か……スクールアイドル同好会のみんなと練習してて」

歩夢「……ランニング……してたよね?」

歩夢「それで──」

歩夢「──ッ!!」ズキッ!!

歩夢「ぁ……ッ……!!」ズキ、ズキ


頭が再び痛くなる。

最近、頭が痛くなる頻度が増えている気がする。

頭を鈍器で殴られたような感覚。頭が割れるんじゃないかってくらい……痛い。痛い、痛い!

気を失いそう。──でも、気を失ったら……戻って来れない気がする。

そんな気がしてしまった。

781: (しまむら) 2021/05/30(日) 17:06:20.15 ID:/Lc2DyOy
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

歩夢「行ってきます」

ガチャ

スタスタ

歩夢(うぅ……まだ少し頭がズキズキする……)

歩夢(こんなに長引く事、なかったんだけどなぁ)

歩夢(頭痛薬とか、効くかな? あんまり身体に良くないから薬には頼りたくないんだけど……)

タッタッタッタ

愛「──歩夢っ」

歩夢「あっ、愛ちゃん。おはよう!」ニッコリ

愛「ちーっす! おはよ歩夢!」

歩夢「どうしたの? こんな朝から」

愛「学校行く前に軽くランニングしてたら歩夢んちの近くに来たからさ」

愛「寄ってみた」

歩夢「そうなんだ。朝から偉いね、愛ちゃん」ニコッ

愛「もっと体力付けないとだからな」ニカッ

歩夢「今でも充分体力すごいあると思うけどなぁ」

歩夢「かすみちゃんも前、愛ちゃんの体力の多さ褒めてたよ?」

愛「マジ? 直接褒めてくれねぇかなぁ……」

歩夢「かすみちゃん、ちょっと照れ屋さんな所あるもんね。だからこそ褒めて貰えると嬉しいよね〜」

愛「わかるわかる」

782: (しまむら) 2021/05/30(日) 17:39:00.08 ID:/Lc2DyOy
愛「このまま一緒に学校行こうぜ」

歩夢「うん、いいよ」

スタスタ

歩夢「愛ちゃん、勉強の方はどう?」

愛「勉強は問題ないけど……授業サボりまくってたからグループ学習が辛いかな」

歩夢「あー……もうグループ出来てるもんね」

愛「そーなんだよなぁ……まぁこればっかりは今までの自分の行動が悪いから仕方ないさ」

愛「──てかさ歩夢」

歩夢「どうしたの?」

愛「ここでの生活にも大分慣れてきた?」

歩夢「あー、うん。もうこの子としての生活も1ヶ月くらい経つからね」

愛「そっか」

愛「……まだ皆には話さねぇの?」

歩夢「え?」

愛「今の上原歩夢は、別世界の上原歩夢の人格だってこと」

歩夢「…………」


私が“この子”とは別世界の上原歩夢である事は……愛ちゃん以外誰も知らない。

783: (しまむら) 2021/05/30(日) 17:48:25.13 ID:/Lc2DyOy
歩夢「正直、非現実的すぎるよ。話しても……信じられないだろうし……余計な心配させちゃうかもしれないもん……」

歩夢「…………」

愛「…………」

愛「ま、まぁでも……あれだよな! 中々話にくい内容でもあるからそう思うのも仕方ねぇよ」

愛「アタシは上原と結構長い関わりがあったし、歩夢から上原として過ごした日々は全部知らないって話を聞いてたから、すっと頭に入ってきたけどさ。記憶喪失って感じでもなかったし」

愛「そ、その! 少し暗い雰囲気にさせちゃってごめんな歩夢」

歩夢「う、ううん! 私こそ暗くなっちゃってごめん」

愛「──あっ! そーだ。今オリジナル曲作ってる途中なんだけどアドバイスしてくれないか? この前のライブはかすみの曲を一緒に歌わせてもらったから、そろそろ自分の曲が欲しくってさ!」

歩夢「うん。私で良ければ全然いいよっ」

愛「サンキュ!」




784: (しまむら) 2021/05/30(日) 18:00:33.41 ID:/Lc2DyOy
愛「──でさぁ」

歩夢「うんうん」

スタスタ

愛「ん?」

歩夢「? どうしたの愛ちゃん」

愛「あれ、しずくと彼方さんじゃね?」ジー

歩夢「え?」ジー



しずく「──」

彼方「──」



歩夢「あっ、ほんとだね。お話しながら歩いてるね」

愛「二人で登校中っぽいなぁ」

愛「へへーん……ここで会ったのも何かの縁だ。後ろから急に大きな声をかけて、驚かしてやろーっと」ニヤニヤ

歩夢「えぇ!? 朝からそんな子供っぽい事……ダメだよ」

愛「しー! 声がでけぇよ歩夢。バレちゃうだろ?」

歩夢「もー……怒られても知らないよ?」

愛「大丈夫大丈夫〜」ニヤニヤ

愛「んじゃ、ちょっと行ってくるわっ」

歩夢「私は止めたからね?」

愛「わーってるよ」

785: (しまむら) 2021/05/30(日) 18:11:32.94 ID:/Lc2DyOy
愛(よーし……ゆっくり、ゆっくり近づいて……)スタ、スタ

愛(……よしよし、バレてないバレてない)スタ、スタ

愛(よし! そろそろ──)


しずく「かな姉、今日も帰りに病院よるの?」

彼方「うん。そうしようかなって思ってる」


愛(──え?)ピタッ


しずく「あんまり無理しないでね? ──あっ、私も一緒に行こうか?」

彼方「大丈夫だよ。しずくちゃん、同好会の練習あるでしょ? まだまだ1年生なんだから楽しんだ方がいいよ」

しずく「…………」

彼方「あっ、でも今度の日曜日は付き添いしてほしいかなぁ」

しずく「──うん! わかった!」ニッコリ

彼方「よろしくね〜」ナデナデ

しずく「うん!」

スタスタスタスタ


愛「………………」

786: (しまむら) 2021/05/30(日) 18:21:14.58 ID:/Lc2DyOy
スタスタ

歩夢「愛ちゃん? どうしたの?」

愛「…………」

愛「あ、歩夢」

歩夢「うん?」

愛「彼方さん……どこか体調悪いのかな?」

歩夢「え?」

愛「……今日も病院によるの? ってしずくが彼方さんに聞いてて……そうするって彼方さんが言ってた」

歩夢「え!?」

愛「……な、何かあったのかな?」

歩夢「…………」

歩夢「……彼方さん、アルバイトや勉強、最近は同好会の活動も参加してくれることが増えてきたよね」

愛「確かに毎日忙しそうだよな……」

歩夢「前から結構思ってた事があるの」

歩夢「彼方さん、ちゃんと休めているのかな? って……」シュン

愛「!!」

愛「……何かあってからじゃ遅い」

歩夢「え?」

愛「……おばーちゃんの時みたいに……なったら……アタシ……」プルプル

歩夢「愛ちゃん……」

787: (しまむら) 2021/05/30(日) 18:23:27.81 ID:/Lc2DyOy
愛「…………」ピッ

prrrrrr!!

愛「あっ、もしもし? エマさん?」

愛「朝からごめんなさい」

愛「少し相談したいことがあって……」

愛「彼方さんの事で」




788: (しまむら) 2021/05/30(日) 18:36:11.39 ID:/Lc2DyOy
〜放課後〜

彼方「ふわぁぁぁああ……」

彼方(ねっむ)

彼方「!! だめだめ! あくびなんてみっともない……私は眠くないぞー」

彼方(眠気に負けてちゃダメ!)

彼方(今日の授業の内容復習も、明日の予習も休み時間中に終わらせたし、少し同好会に顔を出してから病院に行こう)

彼方(そんで帰ったら勉強だ。あと料理も作らなきゃ。お母さん、今日も遅いだろうからお夜食作っておこうかな)

スタスタ

ガラガラ

彼方「皆、おはよ〜」


「「「!!」」」ビクッ!!


彼方「──え? 皆にどうしたの? そんなに集まって……」

タッタッタッタ!! バッ──ギュッ!!

果林「彼方ッ!!」

彼方「え、えぇ!?」

789: (しまむら) 2021/05/30(日) 18:44:59.43 ID:/Lc2DyOy
果林「あだんして!?」

彼方「あ、あだ!?」

果林「何かあったなら……相談してよぉ……!」グスグス

彼方「相談?」

エマ「か、果林ちゃん! 落ち着いて?」

彼方「あっ、エマちゃん……この状況は何なの?」

エマ「……彼方ちゃん」ギュッ

彼方「!?」

エマ「わたしに力になれることあったら……なんでも言って?」

エマ「ね?」ウルウル

彼方「???」

タッタッ

かすみ「か、彼方先輩! これ、私が作った特製コッペパンです! すごく美味しいので……食べて下さい!」

かすみ「あと、私に何か出来ることありませんか?」

彼方「なんでみんな今日異常に優しいの!? あいや、いつも皆優しいけど!」

791: (しまむら) 2021/05/30(日) 19:04:59.79 ID:/Lc2DyOy
璃奈「彼方さん。これ、私が今日作った栄養ドリンクなんだけどあげる」

彼方「あ、ありがとう……」

璃奈「炭酸を抜いたコーラを原料として扱ってるんだ」

せつ菜「炭酸抜きコーラ!?」

せつ菜「……」メガネスチャ

せつ菜「ほう、炭酸抜きコーラですか…」

かすみ「真面目にやれ!」

793: (しまむら) 2021/05/30(日) 20:15:40.45 ID:/Lc2DyOy
彼方「……」ポカーン

せつ菜「あぁ! ごめんなさい!」スッ

せつ菜「彼方さん! これ私が作ったクッキーですっ」

せつ菜「これを食べて、元気出して下さいっ!」スッ

彼方「……せ、せつ菜ちゃん?」

彼方「なんでクッキーが紫色なの?」

せつ菜「色々と英気を養える材料を混ぜて作ってみたらこうなりました」

彼方「あ、ありがとう……」

彼方(今度せつ菜ちゃんにお料理教えてあげよ……)

彼方「──というか! 皆どうしたの!?」

彼方「なんか変だよ!?」

スタスタ

愛「彼方さん……」

歩夢「その……」

彼方「あっ! 愛ちゃんと歩夢ちゃん。ねー、これどういう──」

歩夢「病院に行くって……本当ですか?」

彼方「え?」

愛「その……ごめん。朝、聞いちゃったんだ」

愛「しずくと彼方さんの会話を」

彼方「え? あぁ、そうなんだ」

彼方「うん、病院には行くつもりだよ?」

795: (しまむら) 2021/05/30(日) 20:34:28.92 ID:/Lc2DyOy
愛「!!」

愛「彼方さん! アタシに何か出来ることないか!?」

歩夢「さ、最近あんまり休めてないですよね?」

歩夢「病院に行くくらい疲労が溜まっているんじゃ……あまりにも……」

彼方「ん?」

彼方「あの……みんな?」

彼方「勘違いしてない?」

彼方「別に私に何かあって通院してるわけじゃないよ?」

「「「え?」」」

ガラガラ

しずく「ごめんごめーん! ちょっと日直で遅れちゃったよ〜」

「「「……」」」

しずく「ん? あれあれ? なんか皆静かじゃん? どしたん?」

彼方「あっ、しずくちゃん! やっほー」

しずく「あっ! かな姉やっほほ〜!」

彼方「ごめん、少し脱線しちゃったけど」

彼方「私、定期的に病院へ行ってるの」

彼方「その理由はね、お見舞いの為なの」

彼方「入院してる、私の妹の遥ちゃんの」

歩夢「──え?」

796: (しまむら) 2021/05/30(日) 20:46:51.50 ID:/Lc2DyOy
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

ガラガラ

彼方「さっ、歩夢ちゃんここの病室だよ? 入って入って〜」

歩夢「し、失礼します」

彼方「そんなに畏まらなくて大丈夫だよ〜」

彼方「個室だし」

歩夢「……はい」コクリ

彼方「遥ちゃーん。お客様だよ〜?」

彼方「私の自慢の後輩で、お友達の歩夢ちゃんだよ〜」ニコニコ


遥「…………………………」


歩夢「遥……ちゃん……」


とある病院の、病室のベッドの上。

そこには──静かに眠っている遥ちゃんがいた。

797: (しまむら) 2021/05/30(日) 20:57:03.06 ID:/Lc2DyOy
彼方『こちらが彼方ちゃんの自慢の妹の遥ちゃんで〜す!』

遥『よ、よろしくお願いします!』ペコリ


遥ちゃんがスクールアイドル同好会の練習の見学に来た時の事を思い出す。

なんだか懐かしいなぁ。


彼方「綺麗な顔してるでしょ?」

歩夢「はい……綺麗だし、とっても可愛いです……」

遥「おぉ〜、歩夢ちゃんは分かってるなぁ。しずくちゃんの時もそうだったし、私達は可愛いと思うモノの対象が似てますな」

歩夢「ふふ……そうですね」

彼方「遥ちゃんが起きたら、存分に可愛がってあげようね」ニコッ

歩夢「……」

歩夢(遥ちゃん)

歩夢(この子は、生きている)

歩夢(けど──目を覚まさないらしい)

802: (しまむら) 2021/05/30(日) 21:45:16.58 ID:/Lc2DyOy
>>797
誤字修正。


彼方『こちらが彼方ちゃんの自慢の妹の遥ちゃんで〜す!』

遥『よ、よろしくお願いします!』ペコリ


遥ちゃんがスクールアイドル同好会の練習の見学に来た時の事を思い出す。

なんだか懐かしいなぁ。


彼方「綺麗な顔してるでしょ?」

歩夢「はい……綺麗だし、とっても可愛いです……」

彼方「おぉ〜、歩夢ちゃんは分かってるなぁ。しずくちゃんの時もそうだったし、私達は可愛いと思うモノの対象が似てますな」

歩夢「ふふ……そうですね」

彼方「遥ちゃんが起きたら、存分に可愛がってあげようね」ニコッ

歩夢「……」

歩夢(遥ちゃん)

歩夢(この子は、生きている)

歩夢(けど──目を覚まさないらしい)

798: (しまむら) 2021/05/30(日) 21:15:20.76 ID:/Lc2DyOy
彼方「さっきも皆に話したから重複した内容になっちゃうけど」

彼方「遥ちゃんは昔から身体が少し弱い子だったの。心臓が少し、他の子よりも悪くてね」

彼方「それが原因で、学校もおやすみする事が多かった」ナデナデ

歩夢「…………」

彼方「それで、私が3年生になってすぐ、かな? 遥ちゃんの手術をしたの」

彼方「身体が前よりも元気になる為の、大事な手術をね」

彼方「手術は無事に成功したの。心の底から喜んだよ」

彼方「……でも」

彼方「遥ちゃんはまだ目を覚まさないんだ」

799: (しまむら) 2021/05/30(日) 21:28:38.69 ID:/Lc2DyOy
彼方「身体は元気になったし、ちゃんと生きてるのに」

彼方「目を覚まさないの……」

彼方「どの医者も原因不明だって言ってて……匙を投げた」

彼方「まるで……“魂だけ離れちゃってる”みたいだって、お医者様は皆言ってたね」

歩夢「彼方さん……」


あの後彼方さんは、妹の遥ちゃんの状態について同好会の皆に話した。


歩夢(よかったら一緒にお見舞いに来ない? って誘われたから来たけれど)

歩夢(自分が知っている子が……入院している姿を見るのは……辛い……)

歩夢「…………」

彼方「歩夢ちゃん、ごめんね」

歩夢「へ?」

803: (しまむら) 2021/05/30(日) 21:54:27.96 ID:/Lc2DyOy
彼方「突然家庭の事情を話されて、こんな状態見せられても困っちゃうよね」

歩夢「そ、そんなことないです!」

歩夢「その、話してくれてありがとうございます」

歩夢「それと……気の利いたことが言えなくて……ごめんなさい」

彼方「歩夢ちゃん……」

彼方「君は本当に良い子だねぇ〜」

彼方「狂犬って呼ばれていたのが本当に嘘みたいだよ」

歩夢「あはは……」

彼方「本当に遥ちゃん、いつ起きるんだろうね」

彼方「まるで眠り姫だよ」

彼方「キスでもしたら起きるかな?」

歩夢「…………」

彼方「じょ、冗談だよ?」

歩夢「あっ! いえ、ごめんなさい。……考え事しちゃってて」

彼方「考え事?」

歩夢「何かできる事ないかなって……」

彼方「……本当に優しいね、歩夢ちゃん」

歩夢「…………」

805: (しまむら) 2021/05/30(日) 22:06:40.69 ID:/Lc2DyOy
彼方「その気持ちだけでも、嬉しいよね」

彼方「ありがとうね」ニッコリ

歩夢「いえ……」

彼方「それにね、歩夢ちゃん」

歩夢「?」

彼方「遥ちゃんは……私がなんとかする」

彼方「その為に……沢山勉強しなきゃいけないの」

彼方「今よりも、もっと」

彼方「もっともっともっと、勉強しなきゃいけないの」

歩夢「!!」

彼方「遥ちゃんの為に、ね」

歩夢「…………」

808: (しまむら) 2021/05/30(日) 22:23:47.49 ID:/Lc2DyOy
───────────

彼方『んー、アルバイトまで勉強したいしなぁ……』

しずく『……かな姉、最近頑張りすぎだよ! 気持ちは分かるけど……』

しずく『ちゃ、ちゃんと寝てるの!?』

彼方『寝てるよ? 4時間くらいは毎日寝てる』

しずく『ぜ、全然足りないよ! 15分くらい仮眠取りなって! ほら、私……ひざ枕するから!』

彼方『大丈夫だって』

彼方『しずくちゃん。私が勉強頑張る理由、知ってるでしょ?』

───────────


歩夢(そういう事……だったんだ……)

彼方「歩夢ちゃんが良かったらさ」

彼方「またお見舞いに来てほしいな」

彼方「この病院、個人経営なのに入院設備もあってね。先生はフランクで良い人だから気軽にお見舞い来やすいし」ニコッ

歩夢「……はい」コクリ

歩夢「絶対にまた来ます」

彼方「ありがとね」

811: (しまむら) 2021/05/30(日) 22:33:46.86 ID:/Lc2DyOy
彼方「──さて、そろそろ帰ろっか」

彼方「歩夢ちゃんは1回ニジガクに戻るの?」

歩夢「そう……ですね。みんな練習してると思いますので」

彼方「そっか」

彼方「いつもごめんね。部長なのにあんまり出れなくて」

歩夢「いえいえ! 彼方さんのタイミング会う時に顔出してくれたら嬉しいので」

彼方「そう? ありがと〜」ナデナデ

歩夢「……」

歩夢(優しい撫で方……安心する)

歩夢「彼方さん」

彼方「ん?」

歩夢「何かあったら、いつでも頼って下さい」

歩夢「力になりたいから……」

彼方「……ふふっ」ニコニコ

彼方「歩夢ちゃんの事はいつだって頼りにしてるよ」

彼方「君のおかげで同好会は活発になったし、かすみちゃんやしずくちゃんも、前より明るくなった気がするもん」

彼方「私も同好会の活動楽しいから、本当はもっと沢山出たいし」

812: (しまむら) 2021/05/30(日) 22:46:53.60 ID:/Lc2DyOy
彼方「同好会の練習、土日もたまにやってるでしょ?」

歩夢「はい。まぁ、結構自由参加な所ありますけれど」

彼方「あはは、ゆるーい感じが私達らしくっていいよねぇ」

彼方「平日は練習出れること多いけど、土日の練習は全く参加できてないからね。今度タイミング見て参加するよー」

歩夢「え? ほんとですか?」

彼方「うん!」

彼方「歌うの好きだからね、私」

歩夢「……」

歩夢(!! ──そうだ)

歩夢「彼方さん」

彼方「ん?」

歩夢「来週の日曜日、予定空けてくれませんか?」

彼方「来週の日曜日?」

歩夢「はい」

歩夢「詳細は追って連絡しますので」

彼方「うん! 分かった。予定空けておくね」ニッコリ

歩夢「はいっ」ニコッ

歩夢(少しでも……彼方さんの為に、遥ちゃんの為に。出来ることをやろう)

歩夢(みんなにも、協力してもらおう)

813: (しまむら) 2021/05/30(日) 23:06:55.95 ID:/Lc2DyOy
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

私、近江彼方はいつも全力です。

全てのことに、全力で取り組んできた。

お料理も、勉強も、運動も、大好きなお料理も。

そして──


遥『うぅ……うぅ……』グスグス

しずく『は、はるかぁ……な、泣きやんでよぉ……』オドオド

彼方『ありゃ? お二人ともどーしたの?』ヒョコ

しずく『あっ、かなたおねーちゃん……』

しずく『えっとね、はるかが大事に育ててたお花がかれちゃったの……』

遥『うぅ……おねぇちゃ〜ん……!』グスグス

彼方『そっか……』

しずく『それで……はるかが悲しそうで……上手く励ますことができなくて……わたしも悲しくなっちゃって……うぅ……!』グスグス

彼方『あはは……優しいお姫様達だなぁ』

彼方『でも……悲しいよね。──よし! 二人とも〜!』

彼方『彼方ちゃんのお歌を聴いて!』

しずはる『え?』


──大好きな歌も、全力だった。

814: (しまむら) 2021/05/30(日) 23:24:52.29 ID:/Lc2DyOy
彼方『♪〜』

遥『わぁ……!!』

しずく『……』ドキドキ


遥ちゃんも、しずくちゃんも私の歌が大好きだったみたい。

私も歌う事が大好きだから、こうやって二人が泣いてる時は、よく歌を歌って励ましていた。

遥ちゃんなんかは特に、私の歌を気に入ってくれて……怖い夢を見た時や不安な時は自分から私の歌をせがむくらいだった。

なんだか、懐かしい。

遥『お姉ちゃん!』

遥『もっとうたって〜!』


ピピピピピピッ!!

彼方「ん〜……」

彼方「……」ポー

彼方「ふわぁぁぁぁああ……」

彼方「あさか……」

彼方「なんか懐かしい夢を見てた気がする〜」

彼方「……」ポケー

彼方「んっ」パチンッ

彼方「よし、眠くない眠くない」

彼方「彼方ちゃんは起きとりますよ〜」

彼方「……あ、違う違う」

彼方「私だ、私」

彼方(立派な大人にならないと……)

彼方(──今日は日曜日で、歩夢ちゃんと約束した日だ)

彼方「部室に集合だったよね?」

彼方「……よし、がんばろー」




816: (しまむら) 2021/05/30(日) 23:53:45.29 ID:/Lc2DyOy
彼方「うーん、良い天気だ」ノビー

彼方(良い練習が出来そうだね)

スタスタ

彼方(よし、そろそろ部室だ)

彼方(みんな私が日曜日の練習に参加したら驚くだろうなぁ)

彼方「えへへ」ニコニコ

彼方(みんなに会えるの楽しみ〜)

ガラガラ

彼方「みんな、おっはよー!」


いつもよりテンションが高くなってしまったのか、自分が思ったよりも大きな声が出てしまった。

落ち着け落ち着け〜?

大人はいつも冷静でないといけないもんね。

そんな事を思っていると、皆から挨拶が返ってくる。

817: (しまむら) 2021/05/31(月) 00:07:26.17 ID:YL2vnRYy
果林「彼方おっはよー!」

エマ「おはよう彼方ちゃんっ」

しずく「かな姉おっはー!」

かすみ「おはようございます。彼方先輩」

璃奈「おはよ、彼方さん」

せつ菜「おはようございますっ!! 彼方さん!」

愛「おはよーございます! 彼方さんっ」

歩夢「彼方さん、おはようございますっ」

彼方「!!」

彼方(……いつの間にか、こんなに賑やかで)

彼方(明るい同好会になってたんだよね)

彼方(なんとなく作った同好会が、皆と集まれる大好きな場所になって)

彼方(嬉しいな)

彼方「──うん! 皆おはようっ!」ニッコリ

818: (しまむら) 2021/05/31(月) 00:19:15.70 ID:YL2vnRYy
彼方「ねぇ、歩夢ちゃん。今日は何の練習をするの?」

彼方「集合場所しか連絡なかったし、気になってるんだ〜」

歩夢「あっ、えっとですね。正確には今日は練習の日ではないんです」

彼方「え?」

歩夢「とりあえず、皆で移動します」ニコッ

果林「彼方〜、道に迷わないようにエス……んーと……えっと、エスパーダ……? ん?」

エマ「エスコート?」

果林「そうそれ! エスコートしてあげるね!」

彼方「いや、果林ちゃんの方が道に迷う気が……」

果林「なっ!?」

エマ「あはは、言えてるかも〜」

果林「エマ!?」

彼方「てかてか、移動? 学校外に?」

しずく「まぁまぁ、細かい事はいいじゃんいいじゃん〜」

しずく「着いてからのお楽しみだよ、かな姉!」

彼方「え、えぇ? 気になるよ……」

しずく「ふふっ、歩夢さん」

歩夢「うん?」

しずく「ありがとうね」ニコッ

歩夢「いーえ」ニッコリ

彼方「???」

せつ菜「まぁまぁ、とりあえず早く行きましょ皆さん!」

璃奈「だね」

愛「おっし、皆ちゃんと荷物持ってな?」

かすみ「分かってますよ愛先輩」

彼方「……」ポカーン

彼方(な、何が始まるの!?)

819: (しまむら) 2021/05/31(月) 00:47:44.23 ID:YL2vnRYy
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

「わー!」

「にげろにげろー!」

果林「ちょ、ちょっとぉ! わたしのポーチは大事に扱ってよー!」


愛「ほら、ばーちゃん? 大丈夫か? アタシに捕まって」

「おぉ、お嬢ちゃんありがとうねぇ〜」


璃奈「つまり、積み木はこの角度で重ねる事によってバランスを保つ事が出来てだね」ブツブツ

「そ、そーなんだ」

かすみ「はいはいー、この難しい話をしてるお姉さんは無視して私と遊ぼうね皆〜」


せつ菜「本日は本当に私達のお願いを聞いて頂き、本当にありがとうございます」

「いえいえ! この病院、入院している子供やお年寄りが少し多いからこうやってボランティアしてくれるの本当に助かりますよ」


ワイワイガヤガヤ


彼方「………………」ポカーン

彼方(ここ、遥ちゃんが入院している病院だ……)

彼方「な、何が起きてるの?」

820: (しまむら) 2021/05/31(月) 00:56:30.15 ID:YL2vnRYy
歩夢「驚いちゃいますよね? ごめんなさい」

彼方「う、ううん。大丈夫なんだけど……」

歩夢「私、結構ボランティア活動に色々参加してるんです」

歩夢「その伝手もあって、ここの病院でもボランティア活動できないかなって色々考えたんです」

歩夢「せつ菜ちゃんや皆にも協力してもらって、学園からの活動としてこの病院の先生に話を通してもらったりもしたんです」

彼方「……」

歩夢「遥ちゃんがお世話になっているこの病院に、何かできることないかなって思って」

歩夢「色々企画しちゃいました」

彼方「!!」

歩夢「勝手なことして、ごめんなさい」ペコリ

彼方「あ、謝らないで? 嬉しいよ歩夢ちゃん! ありがとうねっ」

彼方「でも、ちょっとサプライズ過ぎで驚いちゃったよ」

歩夢「ふふっ。少し驚かせたかった気持ちもあるので」ニコッ

821: (しまむら) 2021/05/31(月) 01:09:53.95 ID:YL2vnRYy
エマ「皆ー! あつまって〜」

エマ「わたしと一緒に歌って、踊ろう〜?」

「わーい!」

「おどるおどる!」

エマ「無理しないでね〜? かる〜く身体をうごかそうね〜!」

エマ「ララ〜ララ〜ラ ラ〜♪」

「わぁぁぁぁ……!!」


愛「おぉ……やっぱエマさんの歌声ってめちゃめちゃ綺麗だよなぁ」

果林「うんうん。癒されるよね〜」

璃奈「うん。歌には癒し効果があるって聞くけど、エマさんの歌声はとてつもないヒーリング効果がある気がするね」

愛「ははっ、なんか前にもその歌のくだり聞いたな〜」

璃奈「そーだっけ?」


彼方「…………」

彼方(皆、楽しそう)

彼方(歌……かぁ……)

歩夢「彼方さん」

歩夢「一緒に来てほしい所があるんです」

彼方「──え?」

823: (しまむら) 2021/05/31(月) 01:21:11.17 ID:YL2vnRYy
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

しずく「──よし! 色々と準備は終わった」


遥「……………………」


しずく「相変わらず可愛い寝顔ですなぁ遥さんや〜」

しずく「早く起きてよ〜。チューしちゃうぞ?」

しずく「遥が起きたら、遊びに行きたいとこも沢山あるし、紹介したい友達もいるからさ」

しずく「……アタシもバイトして遥や、かな姉の助けになりたいなぁ」


遥「……………………」


しずく「あはは……じょーだんだよ? バイトはダメってかな姉から止められそうだよね〜」

スタスタスタスタ

しずく「お? 来たかな?」

ガラガラ

歩夢「彼方さん、ここです」

彼方「ちょ、ちょっと歩夢ちゃん? ここの病室って……」

しずく「歩夢さん、待ってたよ。ありがとね。準備は整ってますよ〜」

歩夢「うん。ありがとうしずくちゃん」

彼方「ん? んん?」

824: (しまむら) 2021/05/31(月) 01:31:30.31 ID:YL2vnRYy
歩夢「彼方さん」

歩夢「今日のスクールアイドル同好会の活動は、この病院のボランティア活動です」

歩夢「そして、彼方さんにしてほしいことは」

彼方「う、うん」

歩夢「なんでもいいです」

彼方「え!?」

歩夢「この遥ちゃんの病室で、ボランティア活動が終了するまでの間──何をしても構いません」

歩夢「勉強を進めても大丈夫ですし、ゆっくり休んでもいいです。本当は大好きなお昼寝をしたって大丈夫です」

彼方「!!(な、なんで私が本当はお昼寝好きって知ってるの……?)」

彼方「ど、どうして?」

歩夢「彼方さん、本当に色々忙しいですから」

歩夢「お見舞いだって間の時間を見つけて来てるから、あんまりゆっくり出来てないですよね?」

彼方「それは……まぁ……」

歩夢「だからです」

歩夢「今日は予定、空けてくれたんですよね? 同好会の活動として、今日は自由に……なんでもしていいです」ニコッ

歩夢「歩夢ちゃん……」

しずく「簡易的だけど、勉強机もお昼寝スペースも用意したよ。もちろん先生には許可取得済!」

彼方「しずくちゃんも……」

862: (しまむら) 2021/05/31(月) 22:51:58.59 ID:YL2vnRYy
>>824 誤字修正


歩夢「彼方さん」

歩夢「今日のスクールアイドル同好会の活動は、この病院のボランティア活動です」

歩夢「そして、彼方さんにしてほしいことは」

彼方「う、うん」

歩夢「なんでもいいです」

彼方「え!?」

歩夢「この遥ちゃんの病室で、ボランティア活動が終了するまでの間──何をしても構いません」

歩夢「勉強を進めても大丈夫ですし、ゆっくり休んでもいいです。本当は大好きなお昼寝をしたって大丈夫です」

彼方「!!(な、なんで私が本当はお昼寝好きって知ってるの……?)」

彼方「ど、どうして?」

歩夢「彼方さん、本当に色々忙しいですから」

歩夢「お見舞いだって間の時間を見つけて来てるから、あんまりゆっくり出来てないですよね?」

彼方「それは……まぁ……」

歩夢「だからです」

歩夢「今日は予定、空けてくれたんですよね? 同好会の活動として、今日は自由に……なんでもしていいです」ニコッ

彼方「歩夢ちゃん……」

しずく「簡易的だけど、勉強机もお昼寝スペースも用意したよ。もちろん先生には許可取得済!」

彼方「しずくちゃんも……」

825: (しまむら) 2021/05/31(月) 01:42:42.38 ID:YL2vnRYy
歩夢「……彼方さん」

歩夢「たまには自分へのご褒美も……用意してあげてください」

彼方「自分への……ご褒美」

歩夢「彼方さんは……本当に凄い人だと思います」

歩夢「遥ちゃんの為に勉強も頑張って、アルバイトもして……同好会にも出てくれて……みんなのライブや練習の手伝いもしてくれる」

歩夢「いつも……本当にありがとうございます」

彼方「っっ」


ふと、涙が出そうになる。

だめだめ、後輩の前で、妹の前で泣いちゃダメだ。


歩夢「……彼方さん」

歩夢「私、願いを口に出して言い続ければ」

歩夢「その願いはいつか叶うと思っているんです」

歩夢「ゆっくりかもしれないけれど、少しずつ」

歩夢「一歩ずつ進んで」

歩夢「いつか願いは叶うと思う」

彼方「……」

歩夢「私は、遥ちゃんが目覚める事を願っています」

歩夢「そして──彼方さんの夢が叶う事も願っています」ニッコリ




826: (しまむら) 2021/05/31(月) 01:51:20.27 ID:YL2vnRYy
彼方「…………」

遥「……………………」

彼方「いやぁ、平和だね〜」

彼方(こんなにゆっくり出来たの、いつぶりだろ?)

彼方(遥ちゃんの目が覚めなくなってからは……出来てないかなぁ)

遥「……………………」

彼方「……」ナデナデ

彼方「はぁ……可愛いなぁ……」

彼方(ふふっ、こんな日があっても……良いかも)

彼方「……」ボー

彼方(……なんか眠くなってき──)

彼方「!! ──だ、ダメ!」

彼方「私、勉強しなきゃ……」

彼方「遥ちゃんの為に……たくさん……勉強して」

彼方「遥ちゃんが目を覚ます為に」

彼方「医者になるために……!」

彼方「それが私の!」

彼方「──彼方ちゃんのッ!!」



歩夢『私、願いを口に出して言い続ければ』

歩夢『その願いはいつか叶うと思ってるんです』



彼方「!!」

彼方「医者になることが……彼方ちゃんの……願い? 夢……?」

827: (しまむら) 2021/05/31(月) 01:56:12.30 ID:YL2vnRYy
彼方「……」


──違う。


彼方「……彼方ちゃんの願いは……」

彼方「遥ちゃんが……目を覚ましてくれる事……」

彼方「……」

遥「……………………」

彼方「……遥ちゃん」

彼方「目を覚ましてよ」

彼方「……彼方ちゃんは、遥ちゃんと一緒に歳を取りたいよ……」

彼方「……だから……目を覚まして?」

遥「……………………」


──違う。覚まして? じゃない。


彼方「…………」

彼方「──遥ちゃん」

彼方「目を覚ますって──信じてるから」

828: (しまむら) 2021/05/31(月) 02:02:26.22 ID:YL2vnRYy
──今は何をしたって、構わないかぁ。

彼方「……歌」

彼方「歌いたい」


今は思い切り、大好きな歌を──全力で歌いたかった。

そう、彼方ちゃんはいつも全力なのです。


彼方(昔、遥ちゃんは彼方ちゃんの歌が大好きだった)

彼方「全力で、たくさん歌うね」

彼方「聴いてて。遥ちゃん」

彼方「──」スゥゥゥゥ


昔、遥ちゃんが好きだった曲や、最近流行りの曲。同好会の皆の歌も、覚えている範囲で沢山歌った。

──時間は少しずつ経ち、気が付けば夕暮れ時になっていた。

829: (しまむら) 2021/05/31(月) 02:07:41.35 ID:YL2vnRYy
彼方(もうすぐ、ボランティア活動も終了かな)

彼方「はは……ずっと歌ってた気がする」

彼方「こんなに歌ったのいつぶりだろう?」

彼方「今日は久しぶりの事が多いや」

遥「………………」

彼方(次が──最後の曲)

彼方「遥ちゃん」

彼方「今から歌うのはね、最近作った曲なんだ〜」

彼方「遥ちゃんにだけ、初披露しちゃうね?」

彼方「えへっ」ニコッ

彼方「──」スゥゥゥゥ

830: (しまむら) 2021/05/31(月) 02:10:39.79 ID:YL2vnRYy
【Butterfly】

831: (しまむら) 2021/05/31(月) 02:19:48.46 ID:YL2vnRYy
♪〜

──ねぇ、遥ちゃん。


彼方「一人きりじゃ もう」

彼方「両手いっぱい」

彼方「広げても」

彼方「まだ」


──彼方ちゃんは、遥ちゃんがいないとダメなの。


彼方「足りないほどに」

彼方「大きな Dreams」

彼方「いま」

彼方「一緒に」

彼方「抱きしめよう」


──遥ちゃん。


彼方「Butterfly」

彼方「羽を 広げたら」

彼方「ハルカカナタ」

彼方「勇気の向こうに 美しい空」


──いつか目を覚ますって、信じてるから。


彼方「待ってるの──」

832: (しまむら) 2021/05/31(月) 02:23:47.42 ID:YL2vnRYy
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

彼方「……いやぁ……」

彼方「歌い過ぎて……喉痛い」

彼方「全力で歌い過ぎちゃったよ……あはは」

遥「……………………」

彼方「さて、と」

彼方「そろそろみんなの所に戻るよ」

彼方「また来るね、遥ちゃん」

遥「……………………」


立ち上がり、身支度を整える。

遥ちゃんに背を向けて、扉に向かって歩く。






──後ろから声が聞こえた気がした。

833: (しまむら) 2021/05/31(月) 02:27:10.14 ID:YL2vnRYy
「──ぃ──ん……?」



彼方「……へ?」


聞き覚えのある声だった。

──大好きな子の声。

私は、振り返り──声の主を見つめた。

834: (しまむら) 2021/05/31(月) 02:29:03.74 ID:YL2vnRYy
彼方「──────」

彼方「うそ」



遥「おねぇ……ちゃん?」



彼方「遥……ちゃん……?」

838: (しまむら) 2021/05/31(月) 02:38:39.95 ID:YL2vnRYy
彼方「うそ……うそ……」

遥「あれ……な、んで私……あれ?」

遥「それ、に……声、出し……辛い」

彼方「──は、遥ちゃん!?」

彼方「遥ちゃんッ!!」

バッ!!

──ギュッ!!

遥「!?」

彼方「よかった……よかった……!!」

彼方「遥ちゃん……良かったよぉ……!!」ポロ、ポロ

遥「お、おねぇ、ちゃん?」

彼方「ひっぐ……!! は、遥ちゃん……っ……遥ちゃん!!」ギュュュュ

遥「???」

839: (しまむら) 2021/05/31(月) 02:45:47.74 ID:YL2vnRYy
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

遥「──って事がこの前お見舞いに来てくれた時にあってね?」

遥「お姉ちゃんったら、私の事全然離してくれないんだよ? もうベッタリなの……」

しずく「えー、いいなぁ。羨ましい」

遥「嬉しいけど! やっぱ少し過保護過ぎるよ……」

しずく「あはは! まぁかな姉らしいじゃん」

遥「そうなんだけどさぁ……」

しずく「ところでさ遥」

遥「ん? しーちゃんどうしたの?」

しずく「もーすぐ退院だけど、目を覚まさなかった時の事とかってやっぱり覚えてないの?」

しずく「ずっと寝てたんだし、なんか夢とか見てないのかなぁって」

遥「夢……かぁ……」

遥「うーん……あんまり覚えてないなぁ」

しずく「ですよねー」

841: (しまむら) 2021/05/31(月) 03:01:23.79 ID:YL2vnRYy
遥「……」

しずく「どしたの遥? ぼーっとして」

遥「あっ、ごめん」

遥「……少しだけ、なんだけどね」

遥「ぼんやりとなんだけど、何かを体験してた気がするの」

しずく「へ?」

遥「夢……なのかな?」

遥「なんだろ……あんま覚えてないんだけど……なんかね」

遥「その夢? その中ではね、自分の周りの環境が全然違うの」

遥「私の知り合いや友人もいたんだけど……私の知る人とは少し別人みたいになっててね?」

しずく「別人みたいになってる……?」

遥「私の生まれた環境も違くて……」

しずく「う、うん」

遥「……なんか」

遥「自分なんだけど、自分じゃない。別の自分の人生を」

遥「──体験してきた気がするの」

842: (しまむら) 2021/05/31(月) 03:02:20.70 ID:YL2vnRYy
【Members walking together】

【NEXT】

【桜坂しずく】

872: (しまむら) 2021/06/02(水) 19:41:02.21 ID:DNtg6GcO
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

──何事も適度に、ゆるく楽しむ。

それが私の生き方だ。

しずく「……」ポケー

しずく(今日もいい天気だなぁ)

しずく(お昼寝したら気持ちいいだろうなぁ)


そうすることによって、今日も平和に生きられる。
そう考えると自然と心も穏やかになってくる。


「桜坂さん?」


──そんな事をぼけーっと考えていたら、先生から声をかけられる。

そりゃそうか。授業中によそ見してたんだし。


「授業中によそ見なんて、ずいぶん余裕ですね?」

「この問題解けますか?」

しずく「……」ジー

しずく(X=4)


問題を見てすぐに正解の答えが分かった。

でも、ここで正解を答えてはいけない。


しずく「あ、あはは……ごめんなさい! わかりません!」

「……まったく。よそ見はせず授業は聞くこと! 罰として課題を──」

しずく「あー! せんせーごめんなさい! よそ見してたあたしが悪かったです! この通り反省してますので、どうかご勘弁をー!!」


少しオーバーリアクション気味に動き、全力で謝る。それを見たクラスメイトが皆楽しそうに笑う。

授業の雰囲気が明るくなったからか、先生もそんなに不満そうではない。

──そう。これでいいんだ。

下手に正解を答えて、授業なんか聞かなくても出来るアピールか? なんて思われて角が立つのはごめんだ。


しずく(これでいいんだ)

しずく(私は、これでいい)


今日もゆるく、平和に生きよう。

874: (しまむら) 2021/06/02(水) 19:59:43.85 ID:DNtg6GcO
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

かすみ「しずく」

かすみ「そろそろあなたもライブやろうよ」

しずく「へ?」


放課後、スクールアイドル同好会にて練習中。私の大切な友人である中須かすみから唐突にそう言われる。


しずく「いや、私はいいよ」

かすみ「…………」ジトー

しずく(すっごい不満そう……)


ここ最近、スクールアイドル同好会の動きが活発化している。

上原歩夢さんが同好会にやってきて、その影響で部員も増えて、皆一生懸命頑張っている。

本当にすごいと思う。

何かに全力で取り組める人を私は尊敬するし、一生懸命応援したいと思う。

──でも、私には何かに対して一生懸命になる事は出来ない。

875: (しまむら) 2021/06/02(水) 20:07:48.81 ID:DNtg6GcO
しずく「ほ、ほら! あたし達スクールアイドル同好会はソロ活動メインだから、その辺自由にやれるのが良い所じゃん?」

かすみ「それ前も聞いたよ」

しずく「あ、あはは……」

かすみ「璃奈だってライブやったんだよ?」

しずく「まぁ、そうなんだけどね」

しずく「あたしは皆のサポートをしたいからさ〜」

かすみ「……それでいいの?」

しずく「うん!」

しずく「あたしは、一生懸命頑張る人は応援したいし、何かを始めようって思ってる人をサポートしたいと思ってる」

しずく「主役じゃなくて脇役に徹する。それでいいんですよ、あたしは」

かすみ「……勿体ない……」

しずく「え?」

かすみ「なんでもない」フイッ

しずく「いやはや、せっかく誘ってくれたのにごめんね?」

かすみ「んーん。別にしずくがそう言ってるんだから大丈夫だよ。無理強いするもんじゃないし」

かすみ「──ただ、ね?」

しずく「?」

かすみ「主役になるのも、いいもんだよ?」

しずく「…………」


──無理だよ、かすみ。

私は主役になれない。

何かに対して、一生懸命になるのは──怖いもん。

876: (しまむら) 2021/06/02(水) 20:18:38.57 ID:DNtg6GcO
彼方「ほらほら2人とも〜? そろそろ練習再開するよ?」

かすみ「あっ、はい。わかりました」コクリ

彼方「たっくさん練習メニュー考えてきたからね! 今日も頑張るよ〜」

エマ「ふふ、彼方ちゃん気合い入ってるね〜」ニコニコ

彼方「あたぼうよ!」

彼方「遥ちゃんもそろそろ退院するし、テストの結果も良かった……私は今ノリに乗っているんだぜ〜!」

せつ菜「すっごいテンションですね! 私も負けてられません!」

愛「アタシも負けてらんねぇな!」

しずく「……」

しずく(みんな……楽しそうだなぁ)

歩夢「あっ、練習再開前にみんなごめんね? 私、少しお手洗い行ってくるね」スタスタ

璃奈「うん。歩夢さん行ってらっしゃい〜」

877: (しまむら) 2021/06/02(水) 20:38:46.14 ID:DNtg6GcO
彼方「しーずくちゃん!」ギュッ!!

しずく「わっとと! か、かな姉どうしたの?」

彼方「なんか静かだったからね?」

彼方「疲れてない? 大丈夫?」ナデナデ

しずく「うん。大丈夫だよ?」

彼方「何かあったらすぐ彼方ちゃんに言うんだぞ〜?」ギュュュュ ナデナデ

しずく「あはは……うん!」ニッコリ

エマ「二人ともとっても仲良しさんだよね〜」

エマ「ほほえまだよ〜」ニコッ

愛「エマさんだけに?」

エマ「!! ──愛ちゃん、お上手だね!」キラキラ

愛「え!? そんな絶賛されます!?」

果林「中々早い返しだったよ!」

果林「あっ! ダジャレ系スクールアイドルってのもありじゃない!?」

愛「いやいや……そんなの──」

かすみ「斬新でありかもしれませんね」

愛「嘘だろありなの!? 意外なとこから反応きたんだけど!」

果林「ふふっ、セクシー系スクールアイドルのわたしとコンビでも組んでみるかしら?」

愛「セクシー系とダジャレ系ってアンバランス過ぎっしょ。というかほんと、カリンさんと言いかすみと言い……スクールアイドルの時とキャラが違いすぎます」

璃奈「わかる。演技みたいだよね」

しずく「!!」

しずく「………………」

彼方「ん? しずくちゃん?」

しずく「……ごめん、かな姉」

しずく「私、少しお手洗い行ってくるね」


──演技、か。

出来ればあんまり聞きたくない言葉だ。

私はそこから逃げるように、部室をあとにした。

878: (しまむら) 2021/06/02(水) 22:47:46.28 ID:DNtg6GcO
しずく「……」

スタスタ

しずく(逃げちゃった)

しずく(……演技、かぁ)

しずく「…………」


かすみ『主役になるのも、いいもんだよ?』


しずく「…………」

しずく「……私には無理だよ……」

しずく「……一生懸命やったら……何かに、のめり込んじゃったら……」

しずく「……あ、あの時みたいに……!」


「……! ──!」


しずく「ん?」

しずく(何の音? それに、なんか……声がする?)

しずく(水道の方から?)

スタスタ


しずく「──え?」


歩夢「はぁ……はぁ、はぁ、はぁ……ッ!!」


そこには、頭を手で抑えながら座り込んでいる──歩夢さんがいた。

879: (しまむら) 2021/06/02(水) 23:01:32.84 ID:DNtg6GcO
しずく「あ、歩夢さん!?」タッタ

しずく「だ、大丈夫!?」

歩夢「……しずく、ちゃん?」

歩夢「あ、あはは……ご、ごめん……大丈夫だよ?」

しずく「ぜ、全然大丈夫そうじゃないよ!? あ、頭が痛いの!?」

歩夢「へ、平気……──ッ!!」ビクッ!!

歩夢「ッ、ぁ……いっ……!!」

しずく「あ、歩夢さん……」

しずく(ど、どうしよう)

しずく「とりあえず皆に──」

歩夢「だ、大丈夫!」

しずく「そんな風に見えないよ!」

歩夢「心配かけたく、ないの」

歩夢「し、しばらくすれば……なお、る……から……」

しずく「…………」

歩夢「ご、ごめんね……あはは……」

しずく「……」

歩夢「最近、ね。……頭痛がひどいんだ」

歩夢「市販の薬も全然効かなくて、ね」

歩夢「……さっきも、急に頭が痛くなっちゃって……部室から逃げちゃったの」

しずく「な、なんでよ……言ってくれれば」

歩夢「……しんぱい、かけちゃうから……」

しずく「…………」

しずく(さっきも聞いたよ……)

880: (しまむら) 2021/06/02(水) 23:27:26.70 ID:DNtg6GcO
しずく「……」スッ

歩夢「え?」

しずく「……」フキフキ

しずく「汗、とりあえず拭くね? 私のハンカチだけど、ごめん」

歩夢「ううん。……ありがとう」

しずく「いーえ」スッ、スッ

しずく「──よし。これでおーけ」

歩夢「ありがとう、しずくちゃん」

歩夢「頭痛も……少し治まってきたよ」

しずく「なら良かった」

歩夢「本当に、ありがとう」ニコッ

しずく「……」

しずく「何かあったら、言ってね?」

歩夢「……うん」

しずく「それにさ。私は心配かけたいよ」

歩夢「え?」

しずく「一人で抱え込むのって辛いじゃん?」

しずく「その辛さは……知ってるから……」

しずく「だから、私に出来ることがあるなら……何でもしたい」

歩夢「しずくちゃん……」

881: (しまむら) 2021/06/02(水) 23:34:42.99 ID:DNtg6GcO
歩夢「しずくちゃんってさ、優しいよね」

しずく「え?」

歩夢「私ね」

歩夢「しずくちゃんに……すごく感謝してるの」

しずく「え? わ、私に?」

歩夢「うん!」ニコッ

歩夢「……初めて……だね。うん。──同好会の部室に来た時」

歩夢「しずくちゃんは私を迎え入れてくれた。何か用事があったんでしょ? って言ってくれて、それ以上は何も聞かないで、優しく迎え入れてくれた」

しずく「あー、なんか懐かしいね」

歩夢「……本当に……あの時、私は救われたの」

しずく(そんな大したことしてないと思うけどなぁ)

歩夢「あ、あとね! かすみちゃんから色々言われちゃった時も──」

しずく「ちょ、ちょいちょい! なんか恥ずかしくなってくるからやめてやめて〜!」

しずく「そんな大したことしてないってば!」

歩夢「そんなことないのに……」

882: (しまむら) 2021/06/02(水) 23:49:59.74 ID:DNtg6GcO
しずく「てかさ、なにげこんな感じで二人きりで話すのほんと久しぶりだよね」

歩夢「あっ、確かにそうかも」

しずく「今の同好会はにぎやかですからなぁ〜。楽しくていいけど」

歩夢「ふふ、そうだね。最近みんな本当に楽しそうだもんね」

しずく「……歩夢さんも楽しい?」

歩夢「私? それはもちろん楽しいよ?」

歩夢「“今の”スクールアイドル同好会も、私はすごく楽しいよ……」

しずく「……そっかぁ」

歩夢「しずくちゃんは?」

しずく「え? 私は……」

しずく「うーん。皆でわちゃわちゃするのは楽しいけど……どうだろ」

しずく「ゆるーくやってるから、よくわかんないや……」

しずく「──って、一生懸命スクールアイドルやってる人に対して、私はゆるくやってるなんて言うの失礼だよね!? ごめん」

歩夢「え? 全然大丈夫だよ?」

しずく「あー、ならよかった……」

しずく(失言したと思った。あぶないあぶない)

歩夢「ふふっ、しずくちゃんってさ。一つ一つの会話にすごく気遣いしてるよね」

しずく「──え?」

883: (しまむら) 2021/06/03(木) 00:06:43.80 ID:XMwhArLc
歩夢「よく冗談とか言って場を和ましてくれるし、聞き上手だし、本当にすごいと思う」

歩夢「いつもありがとうね」

しずく「…………」

歩夢「あれ? しずくちゃん?」

歩夢「え?」

しずく「……あたしは……私は……!」

歩夢「し、しずくちゃん?」

しずく「っ!!」バッ!!

タッタッタッタ!!

歩夢「し、しずくちゃん!?」


──気付かれてた? いつから? 最初から?

……私が気を使って会話をしている事。気付かれてたの?

歩夢さんだけ? それとも、皆に?


しずく(まずい、まずいまずい)

しずく(気を使って会話しているなんてバレたら)


──嫌われる。あの時みたいに。

884: (しまむら) 2021/06/03(木) 00:25:01.07 ID:XMwhArLc
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

しずく『わぁ……!!』

しずく『おもしろい……!!』ドキドキ


──私は小さい頃から昔の映画とか小説が好きだった。というか、創作された物語が大好きだった。

主人公を中心に動く物語のシーンの一つ一つに心が躍って、物語にずっと浸っていたくなる感覚が、大好きだった。

そして何時しか、“もし私があの世界の登場人物だったら?”と思うようになり、あれこれ妄想や空想ばかりしていた。

そんな私は小さい頃、仲良しの友達に沢山そんな話をした。


しずく『あのねあのね! そこで運転手であるわたしがね──』


何の疑問もなく、皆、私と同じだと思っていたから。

でも、違った。

885: (しまむら) 2021/06/03(木) 00:35:40.14 ID:XMwhArLc
『うーん……』

『しずくちゃんのはなし、よくわかんない』

しずく『え?』

『あっちいこー』

『うん』

しずく『……』


空想の話をすればするほど、周りの子から変な顔をされる事が増えた。

話を聞くのは面白くなかったのかな? ──なら話をするのではなく、実際に皆で遊べばいいんだ。

お馬鹿な私はそんな事を考えていた。


しずく(この前見た、お母さんにつれていってもらった演劇! あれほんとーに楽しかったなぁ!)

しずく『あんなかんじのおままごとを、皆をさそってやればいいんだ!』

しずく『そーしたら皆楽しんでくれるよね!?』


この時の私は──皆から変な顔をされるという意味を、理解出来ていなかったんだ。

886: (しまむら) 2021/06/03(木) 00:44:00.78 ID:XMwhArLc
しずく『ねぇねぇみんな!』

しずく「おままごとしよ?」

『おままごと!?』

『いいねー!』

しずく『!!』パァァァァ

しずく『うん!』

しずく『えっとね! おままごとの設定なんだけど〜』

『せ、せってい?』

『へー、なんかおもしろそー』

しずく『えへへ!』


設定をしっかりと練った、物語のようなおままごと。

皆、楽しそうにしてくれていた。

──最初のうちは。





しずく(えへへ! 今日もおままごと楽しみー!)

しずく『あっ!』

しずく『みんなー!』

『あっ、しずくちゃん』

『……』

しずく『ねぇねぇ、みんな!』

しずく『おままごとしよー?』

887: (しまむら) 2021/06/03(木) 00:50:33.48 ID:XMwhArLc
『やだ』

しずく『──え?』

『しずくちゃんとやるおままごと、よくわかんないんだもん』

『え? えっと……』

『最初のうちはたのしかったけど……やりたくない。つまんないもん』

しずく『え? ……え?』


ひどく困惑したのを覚えている。


『あっちいこ』

『う、うん』

スタスタ

しずく『……』ポツーン


この辺りから、私は自分の行動を後悔し始める。



『……あの子ってさ、へんな子だよね』

『……そ、そうかも』

『いつもよくわからない話するもんね』

『おかーさんからへんな子とはかかわるなって言われてる〜』


しずく『…………』


思い出したくない記憶。

──でも、心に残ってしまっている。

888: (しまむら) 2021/06/03(木) 01:06:55.29 ID:XMwhArLc
『ねぇねぇ、あの子って変な子なんでしょ?』ヒソヒソ

『いっつもよくわからない話してるよね〜』ヒソヒソ


しずく『…………』


最初は噂話されるくらいだった。

でも、小学校低学年くらいの時かな?

変な子だって噂話される程度の話ではすまなくなった。


『しずくちゃんってさ、嘘つきなんでしょ?』

しずく『へ?』

しずく『ち、違うよ! 私は嘘なんて……』

『え? だって皆しずくちゃんが変な事ばかり言ってたって言ってるよ?』

『物語の主人公の私が〜とか話してたんでしょ?』

しずく『そ、それは空想の話で……』

『空想〜? えー、こわいんだけど』

『お母さんから空想する子やもーそーへき? みたいな子は変な子だって言ってたよ!』

しずく『わ、私は変な子じゃ……!』

『いやいや』

しずく『えっと……わ、私は──』

『しずくちゃんは変な子だよ』

しずく『』


少しずつ、私は省かれ始めた。

889: (しまむら) 2021/06/03(木) 01:20:12.87 ID:XMwhArLc
皆、あまり私と会話してくれなくなった。


しずく(……なんでだろう?)

しずく(私が……悪いのかな?)

しずく(そうだよね……そうだ)

しずく『私が変な事言ったから……いけないんだ』


そう思い、私は普通の子になろうとした。努力をした。

周りの子に気を遣い、上手くやろうと立ち回った。

──でも、結果は失敗に終わった。


『しずくちゃんってさ、私達と会話してて楽しいの?』

しずく『え?』

『なんかいっつも作り笑顔な気がするし』

『すごい気を使ってる感じがするよね』

しずく『そ、そんなことないよ?』

しずく『ご、ごめんね!』

『そうやってすぐに謝るのもさ、なんか気遣いしてる感じがする』

しずく『え?』

『なんか……』

『演技してるみたい』

しずく『──────』


私は──他人とどうやって関わればいいのか、分からなくなってしまった。

890: (しまむら) 2021/06/03(木) 01:26:45.39 ID:XMwhArLc
皆から省かれていても、全員が全員そうではなくて、話してくれる子も数人はいた。

だから、失敗しないように、上手く立ち回ろうとした。

でも、失敗した。

私は失敗したんだ。


しずく『………………』

しずく『おかーさん』

しずく『私』

しずく『学校に行きたくない』

893: (しまむら) 2021/06/03(木) 01:42:29.57 ID:XMwhArLc
『しずくちゃん。ここが新しい私達のお家よ?』

しずく『…………』


お母さんに連れられて、私は知らない家の前に立っていた。

学校に行きたくない。その悩みをお母さん達に話してからの事は、あんまり覚えていない。

色々と理由を聞かれたと思うけど、詳しい理由は言えなかった。

でも、とにかく学校に行きたくない事と、どこか遠くへ行きたいというわがままを言い続けた。

──本当に、迷惑をかけてしまった。


『ここはね、お母さんの地元なの。いい所だから、ゆっくり休もう?』

しずく『うん……』

『ここならしずくちゃんを知ってる子もいないから、のんびりできるよ』

しずく『……』


お父さんは鎌倉のお屋敷に残って、私とお母さんだけは東雲に引っ越して来た。

離婚はしていない。私の実家は古くから続くお屋敷だから、誰かが残らなきゃいけなかったみたい。

鎌倉と東雲の雰囲気はだいぶ違くて、私は異世界に来たような感覚だった。

894: (しまむら) 2021/06/03(木) 01:53:48.83 ID:XMwhArLc
しずく『……』ポケー

しずく(でっかい建物が隣に立ってる。団地かな?)


ベランダに腰掛けながら、私は家の隣に建っている団地を見つめていた。


しずく『でっかいなぁ……』

ササッ

しずく『ん?』

しずく(物音……?)

ヒョコッ

遥『……』ジー

しずく『……』


外から私の家のべランドを覗き込む、小さな女の子が柵越しに顔を出した。


遥『……』ジー

しずく(す、すごく見られてる……)

しずく『……えっと……』

遥『!!』ビクッ!!

ヒョコッ!

しずく『え、えぇ……』


何事だと思った。声をかけた瞬間、顔を引っ込め逃げられた。

猫かな?

895: (しまむら) 2021/06/03(木) 02:03:46.54 ID:XMwhArLc
しずく『……』


スタスタ

『はやく! はやくー!』

『ちょ、は、遥ちゃん!? そんなに引っ張らないで〜?』

しずく『!!』

しずく(また来た!?)

ヒョコッ

遥『……』ジー

しずく(また来た……)

遥『……』ジー

しずく『こ、こんにちは』

遥『!!』ビクッ!!

ヒョコッ!

しずく『えぇ……』

しずく(なにこれ?)

ヒョコッ

しずく『!!』ビクッ!!

遥『ほらお姉ちゃん! みて!』

彼方『は、遥ちゃん……そこ登っちゃダメだってば……も〜』

彼方『んで、なになに? お人形さんが喋ったって?』

遥『うん! あそこにいる!』ピシッ

しずく(お人形さん!?)

彼方『えー?』ジー

しずく『……』ジー

彼方『あれま、ほんとだ。綺麗なお人形さんだね〜』

遥『だよね!? でもあれ喋るんだよ!?』

しずく『』

しずく『あの、私! 人間なんですけど!?』

遥『え?』

彼方『お?』


──これが私と、近江姉妹の出会いだった。

896:1(茸) 2021/06/03(木) 08:47:31.75 ID:duzyFc9s
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

『じゃあ、ゆっくりしてね? 私は2階にいるから何かあったら呼んでね』

彼方『なにからなにまで申し訳ないです……お家にまであげて頂いて』ペコリペコリ

『ふふ、礼儀正しい子だね? いいのよ。しずくちゃんと仲良くしてあげてね?』

彼方『はい!』


遥『……』ジー

しずく『……』


あの後お母さんがベランダに来て、流れのままに家の中に招待された女の子二人。


遥『……』ジー

しずく(めっちゃ見られてる……)


警戒してる猫みたいだなって思っていたのを覚えている。


遥『……ねぇ!』

しずく『!!』ビクッ!!

しずく『な、なに?』

遥『いくつ!?』

しずく『へ?』

897: (茸) 2021/06/03(木) 08:58:40.80 ID:duzyFc9s
彼方『こーら、遥ちゃん? まずはご挨拶でしょ?』

遥『あっ……ごめんなさい』

遥『近江遥。小学二年生〜』

彼方『ん〜、遥ちゃんいい子いい子』ナデナデ

遥『えへへ〜』ニコニコ

彼方『彼方ちゃんはこの子のお姉ちゃん。小学四年生だよ〜』

しずく『……お、桜坂しずくです。小学二年生……です』ペコリ

遥『うそ!? はるかと一緒だ〜!』

遥『よろしくねー!』

しずく『う、うん』

しずく(元気な子だなぁ……)

898: (茸) 2021/06/03(木) 09:03:53.39 ID:duzyFc9s
彼方『しずくちゃんかぁ。さっきはごめんね? お人形さんだと思っちゃって』

しずく『い、いえ……』

遥『え〜? だってこんなに可愛くて、高そうなドレス着てるんだもん。お人形さんだと思うじゃん? ネズミさんの国でしか見たことないよ、こんなドレス』

彼方『まぁ、確かに。すっごい可愛いもんね、しずくちゃん』

遥『うん!』

しずく『か、可愛くなんて……』

しずく『……っ……////』カァァァァ

遥『かおまっか!』

彼方『可愛いね〜』

しずく『か、からかわないでくださいよ!』

彼方『からかってないよ〜』ニコニコ

遥『そーだよ!』

しずく『もう……』

899: (茸) 2021/06/03(木) 09:11:52.46 ID:duzyFc9s
遥『!!』

遥『こほ、こほ!』

彼方『!! 遥ちゃん? 大丈夫?』

遥『……う、うん……だいじょぶ……』

しずく『え?』

しずく『体調、悪いの?』

遥『う、ううん。違うの。……えへへ、はるか……生まれつき、身体が弱くてね……』

彼方『……』

遥『たまーにこうなっちゃうんだけど……なかよくしてね?』

遥『しーちゃん!』

しずく『え? しーちゃん?』

遥『うん! しずくちゃんだから、しーちゃん!』

遥『あだ名だよ〜!』

しずく『…………』

しずく(あだ名なんて……初めて付けてもらったなぁ)

しずく『……気持ちは嬉しいけど』

しずく『私とは……仲良くしない方がいいよ』

遥『え?』

しずく『……私……変な子だから……』

900: (茸) 2021/06/03(木) 09:20:14.18 ID:duzyFc9s
彼方『変な子?』

しずく『はい』

しずく『私は、変な子なんです』

しずく『……だから……私とは……一緒にいない方がいいです』

遥『え? え?』オドオド

彼方『……しずくちゃん』

しずく『は、はい』

彼方『えい!』

ギュッ!!

しずく『え?』ポカーン

彼方『なでなで〜』ナデナデ

しずく『え? ──え?』ポカーン

彼方『何か……あったんだね』

彼方『でもね、大事なのは──しずくちゃんの気持ちだよ?』

しずく『……私の……気持ち?』

彼方『うん』

彼方『しずくちゃんは、遥ちゃんと仲良くしたくないの?』

しずく『──そ、そんなこと!』

彼方『ほんと? なら思うがままにすればいいじゃ〜ん』

彼方『大事なのは、自分の気持ちだよ?』

しずく『……』

902: (茸) 2021/06/03(木) 09:46:31.98 ID:duzyFc9s
彼方『それにさ、変な子って決めるのはしずくちゃんじゃないよ』

しずく『……』

彼方『こうやって話してるけど、彼方ちゃんはしずくちゃんを変な子だと全然思わないし』

彼方『それに、変な子代表の彼方ちゃんがいるからね!』

彼方『安心したまえよ!』

しずく『』ポカーン

しずく『ふふっ』クスクス

しずく『なんですか、それ』ニコニコ

彼方『おっ、笑ってくれた! 可愛いね〜!』ナデナデ

しずく『……////』

遥『……』ムスー

遥『ずるい!』

遥『はるかの方が先にしーちゃんと会ったのに! はるかも仲良くしたいよ〜!』

彼方『順番だよ〜?』

遥『わりこませていただく!』

彼方『こらこら、ダメだぞ〜?』

遥『フリーパスもってるもん!』

しずく『あっはは! 何のフリーパスですか』ニコッ


──この二人のおかげで、楽しい日々を過ごす事が出来たんだ。

ゆるーく、いつもぽわぽわしてる優しい、学校で人気者の彼方お姉ちゃん。

そして、身体が弱いのに明るくて、少し変わった子だけれど可愛い学校で人気者の遥。

二人とも──私の親友になった。

……そして──


しずく(私も、この2人みたいになったら)

しずく(もう、省かれたりしないかな?)

しずく(平和に生きることが、できるかな?)


──私は、“あたし”を作った。

923: (しまむら) 2021/06/04(金) 21:31:55.64 ID:J3Hop33v
二人は私の親友だけど、同時に憧れの人でもあった。

そんな2人をモデルにした、“あたし”。

あたしは、明るいけどすこしのほほんとしているのんびり屋さん。ちょっと変わった子だけど、どこか憎めない子。それが“あたし”だ。

私はあたしになっている時は、楽だった。

楽なだけじゃなく、楽しかった。
あたしはみんなと楽しく過ごしたかったんだ。

皆とワイワイする日々は、本当に楽しくて大好き。友達もできた。

──大事なのは、自分の気持ち。

かな姉に言ってもらった言葉は、私を救ってくれた。

──でも、気を遣いながら会話をする癖だけは、治らなかった。

あたしになっても、それは変わらなかった。



しずく「はぁ、はぁ、はぁ」タッタッタッタ


歩夢『ふふっ、しずくちゃんってさ。一つ一つの会話にすごく“気遣い”してるよね』


しずく「やだ……嫌だ……」スタスタ

しずく「嫌だ嫌だ嫌だ」スタ、スタ


『演技してるみたい』


しずく「───────」

しずく「嫌だ……!!」


嫌われたくない。

924: (しまむら) 2021/06/04(金) 21:42:26.73 ID:J3Hop33v
上手く立ち回れていたと思っていた。

あたしとして、私は上手くできていると思っていた。

──でも、気遣いしていると気付かれていた。歩夢さんに。

もしかしたら、みんなに気付かれているのかもしれない。そう思ってしまうと、またあの時みたいに嫌われるんじゃないかと思って、怖くなった。

完全なトラウマスイッチ? なのかな?

怖くて震えが止まらない。


しずく「嫌われたくない……もう……」

しずく「あたしは」

しずく「私は」

しずく「……嫌われたくない」

しずく「……平和に生きたい……」


誰もいない空き教室に入り、私は端っこで座り込む。


しずく「………………」


大事なのは、自分の気持ち。そんな事はわかっている。
何事も適度に、ゆるく楽しむ。私は平和に生きたい。それが私の気持ち。

──でも、それって本当の私の気持ち? あたしの気持ち?


しずく「………………」


──今の私は誰?

──何を想うの?

嫌われるのが怖くて震えている私。

平和に生きたい私。

みんなと楽しく過ごしたいあたし。


しずく「………………」


私は──誰?

925: (しまむら) 2021/06/04(金) 21:47:39.51 ID:J3Hop33v
しずく「……」

ブー、ブー

しずく「……」

ブー、ブー

しずく(スマホの通知……すごいや……)

しずく「……」

しずく(そろそろ部室戻らなきゃ)

しずく(……でも……)

しずく(立ち上がれない)

タッタッタッタ!! ──ガラガラ

歩夢「はぁ、はぁ……──しずくちゃん!」

しずく「!!」

しずく「歩夢……さん……」

歩夢「……やっと見つかった……」

926: (しまむら) 2021/06/04(金) 21:53:02.38 ID:J3Hop33v
しずく「………………」

歩夢「しずくちゃん、ごめんね?」スタスタ

しずく「え?」

歩夢「私……何かしずくちゃんの気に触ること言っちゃったんだよね……?」

しずく「……」

歩夢「本当にごめん。で、でもねしずくちゃん! 私──」

しずく「歩夢さん」

しずく「大丈夫だよ!」ニコッ

歩夢「え?」

しずく「いやはや〜、心配かけてごめんね〜?」ニコニコ

しずく「ほんと、全然大丈夫だからさ! そろそろ同好会にもど──」

歩夢「大丈夫じゃない」

しずく「!?」

歩夢「全然大丈夫じゃないよ」

歩夢「しずくちゃん。身体、震えてるよ?」

しずく「………………」

歩夢「何かあったの?」


心配そうに、私を見つめる歩夢さん。

……これは、もう……逃げることができない。


しずく「……歩夢さん……」

しずく「私」

しずく「嫌われたくない」

927: (しまむら) 2021/06/04(金) 22:00:21.98 ID:J3Hop33v
歩夢「え?」

しずく「もう……私……」

しずく「嫌われたく……ない……」

歩夢「しずくちゃん?」

しずく「皆に……嫌われたくないよ……!」

歩夢「嫌わないよ」

しずく「!?」

歩夢「誰もしずくちゃんの事、嫌わない」

しずく「…………」

しずく「……なんでそんなこと言えるの……?」

しずく(本当の私を知ったら)

歩夢「嫌うわけないよ」

歩夢「だって私」

歩夢「しずくちゃんの事、大好きだもん」

しずく「!!」

歩夢「それは私だけじゃないよ」


タッタッタッタ!! ガラガラ!! ──バンッ!!

果林「あー!!」

しずく「!?」ビクッ!!

果林「みんな! こっちこっち! しずくちゃんいたよ!!」

しずく「か、果林さん!?」

ダッダッダッダ!!

彼方「し、しずくちゃん!? よ、よかった……こんなとこにいたんだね?」

しずく「!! かな姉……」

エマ「果林ちゃんナイスだよ〜」

せつ菜「よく見つけられましたね」

璃奈「果林さん、方向音痴なのにお手柄だね」

愛「だな!」

果林「むぅ〜……余計な一言が多いよ〜!」

かすみ「……」

928: (しまむら) 2021/06/04(金) 22:16:13.61 ID:J3Hop33v
しずく「み、みんな……なんで?」

彼方「なんでじゃないよ!」

彼方「しずくちゃん、全然部室に戻って来ないし……連絡も取れないし、心配になっちゃったから……」

彼方「だから皆でしずくちゃんを探してたの」

しずく「……」

かすみ「し〜ず〜く〜?」

しずく「!?」ビクッ

かすみ「マイペースに練習するのは構わないけどさ……おサボりはよくないよね〜?」ニコニコニコニコ

しずく「!? ──ちょ、ちょいかすみ! 違うから! あいや、違くないけど……えっと……そのぉ……!」

歩夢「ね?」

歩夢「みんなしずくちゃんの事、大好きなんだよ?」

しずく「──!!」

しずく「…………」

歩夢「何かあったのなら……なんでも話、聞くよ? ゆっくりでも大丈夫だから……話してほしいな」

歩夢「私達は、同じ同好会の仲間だけど」

歩夢「その前に、友達だもん」

しずく「!!」

しずく「………………」

しずく「皆さんに……」

しずく「聞いてもらいたい事があるの」


私は、今までの事を全部話した。

ぽつり、ぽつりと。雨粒のよう。

私は全ての事を話した。

──あたしと、私の過去の事を。





932: (しまむら) 2021/06/05(土) 03:51:27.51 ID:hQAG6YlX
しずく「──以上が、私の今まで……全てです」


みんな、私の話を真剣な表情で聞いてくれた。


しずく(どう思われたんだろう)

しずく「……」

しずく(自分の過去をさらけ出したのは初めてだから……怖いや)


歩夢「しずくちゃん」


話し終えた後の第一声の主は歩夢さん。その反応は──


歩夢「話してくれて、ありがとうね」ニコッ

しずく「え?」


──意外なものだった。

933: (しまむら) 2021/06/05(土) 03:58:15.45 ID:hQAG6YlX
しずく「ありがとうって……なんで?」

歩夢「だって、自分の事を話してくれたじゃない?」

歩夢「辛かったと……思う。私がしずくちゃんの立場だったら、すごく辛いと思うから……」

歩夢「だから、話してくれてありがとう」

しずく「……」

歩夢「あと、ごめんね」

歩夢「さっき、不用意に気遣いしてるなんて言っちゃって」

しずく「う、ううん! 大丈夫だよ……私が勝手に……こうなっただけだから」

歩夢「でもね、しずくちゃん」

歩夢「私は一つ一つの会話に気遣いできるしずくちゃんを、尊敬してる」

歩夢「本当に、優しい子だと思う」

しずく「!!」

しずく「優しくもないし、尊敬できる事じゃないよ……!」

しずく「それに、私は嫌われたくないからそうしてるだけで!」

歩夢「嫌われたくないのは、当たり前だよ」

歩夢「私だって一緒」

しずく「……」

歩夢「しずくちゃん。人ってのは誰もが怖がりなんだよ」

歩夢「嫌われたくないって気持ちがあるのは、しずくちゃんだけじゃないの」

しずく「私だけじゃ……ない……?」

歩夢「うん」

歩夢「だからね、しずくちゃん」


歩夢「しずくちゃんは変な子なんかじゃないよ」

934: (しまむら) 2021/06/05(土) 04:12:26.83 ID:hQAG6YlX
しずく「で、でも! 私は……あたしは……」

しずく「別の自分を作り出して!」

しずく「──演技してただけで!!」

かすみ「だぁぁぁぁああああ!!」

しずく「!?」ビクッ!!

しずく「か、かすみ……?」

かすみ「さっきからうじうじうじうじと!」

かすみ「しずくらしくない!!」

しずく「えぇ!?」

かすみ「いつものあなたはどこへいったの!?」

しずく「!! そのいつもの私は……あたしで……」

かすみ「そんなの関係ない!」

かすみ「あなたは桜坂しずくでしょ!?」

かすみ「私とか、あたしとか、演技してたとか! 関係ない! しずくはしずくで、私の知る桜坂しずくと何も違いはないよ!」

しずく「かすみ……」

935: (しまむら) 2021/06/05(土) 04:25:52.18 ID:hQAG6YlX
かすみ「私の知る桜坂しずくは!」

かすみ「明るくて、のんびり屋さんでマイペースで変わった子だけど……どこか憎めない」

かすみ「私とは真逆の子」

かすみ「だけど、私とは真逆だからこそ、一緒にいて楽しいの!」

しずく「……」

かすみ「嫌われたくないから演技してた? だからどうしたの?」

かすみ「嫌われたくないって思っちゃうしずくも、桜坂しずくの一面でしょ?」

しずく「そ、それは……」

かすみ「それに、誰が嫌ってやるもんか!」

かすみ「出会ったばっかの私だけど……しずくとはずっと友達でいたい! 離れてなんかやらない!!」

しずく「……っ……」

かすみ「私は!!」

かすみ「──桜坂しずくの事、大好きだからっ!!」

しずく「!!」

かすみ「それに、今更なにさ……よく私とケンカするくせにさ」

かすみ「なのに、今更こんな事で不安になってないで……いつもみたいにゆるく、楽しくやろうよ」

かすみ「ね?」ニコッ

936: (しまむら) 2021/06/05(土) 04:35:05.62 ID:hQAG6YlX
璃奈「かすみちゃんの言う通りだよ」

しずく「璃奈……」

璃奈「私、しずくちゃんからお昼ご飯誘った貰った時……本当に嬉しかった」

璃奈「友達でしょ? って言ってくれて、本当に嬉しかった」

璃奈「……その気持ちも、演技してたしずくちゃんの想いなの?」

しずく「!!」

しずく「ち、ちがう……私は……!」

璃奈「ふふっ、だよね?」ニコッ

璃奈「つまり、かすみちゃんの言う通りだよ。しずくちゃんは、しずくちゃんだ」

璃奈「私はしずくちゃんの事、大好き」

璃奈「あなたは私の友達で、大切で大好きな子」

璃奈「尚且つ、しずくちゃんは私の嫁の一人だ。そんな子を私達が嫌うはずないよ」

璃奈「分かった? しずくちゃんっ」ニッコリ

937: (しまむら) 2021/06/05(土) 04:49:08.72 ID:hQAG6YlX
彼方「しずくちゃん」

スタスタ ──ギュッ

しずく「かな……姉……」

彼方「ごめんね」

しずく「え?」

彼方「彼方ちゃんが……しずくちゃんに重荷を与えちゃってたのかもしれない」

しずく「!! そ、そんなことないよ!!」

しずく「私は、あなたがいなかったら……ううん! かな姉がいたから、救われたんだよ!」

彼方「……しずくちゃん……」

彼方「彼方ちゃんもね、しずくちゃんに救われたんだよ?」

しずく「え?」

彼方「遥ちゃんが目を覚まさなかった時、しずくちゃんがずっと私を励ましてくれた。しずくちゃんだって辛かったはずなのに……」

彼方「それに、勉強の事にしか目を向けられなくなっちゃった私を……何回も心配してくれて……」

彼方「本当に……ありがとう」

しずく「かな姉……」

彼方「っ……だめだ。ごめん……私、お姉ちゃんなのに……皆みたいに上手く……良い言葉を、かけられないや……」ポロポロ

彼方「だから、代わりに……沢山なでなでするね?」

彼方「今まで……すごく、……っ……頑張ったんだね、しずくちゃん……!」ポロポロ

彼方「いい子、いい子」ナデナデ

しずく「っ……!!」ポロポロ


我慢が出来なくなって、涙が溢れ出てしまう。

938: (しまむら) 2021/06/05(土) 04:59:16.51 ID:hQAG6YlX
せつ菜「私達の想いも、みんなが口に出しちゃいましたね」

愛「全くだよ。──てかカリンさん」

果林「うぅ……しずくちゃ〜ん……!」グスグス

愛「そろそろ泣き止んで下さいよ」

果林「だ、だっでぇ……しずくちゃんの事を考えると……がなじくなっちゃっで……」ポロポロ

愛「!! や、やめてくださいよ……」

愛「──アタシまで泣いちゃうかもしれないだろ!?」ブワッ

せつ菜「いや、もう泣いてますよ!?」

せつ菜「ほらお二人共? ハンカチです」スッ

果林「……うぅ……」グスグス
愛「……うぅ……」グスグス

しずく「みんな……」

939: (しまむら) 2021/06/05(土) 05:07:26.68 ID:hQAG6YlX
エマ「しずくちゃん」

エマ「みんな、想いは一つだよ」

しずく「エマさん……」

エマ「誰も、しずくちゃんを嫌ったりしないよ」

エマ「むしろ、みんなあなたが大好きなの」

エマ「当然、わたしもしずくちゃん大好きだよ」

エマ「お茶目でキュートで、甘えん坊なしずくちゃんが、大好き」

しずく「……」

エマ「──ただ、ね」

しずく「?」

エマ「……その昔しずくちゃんを省いた子達は許せないね」

愛「……え、エマさん……?」ガクブルガクブル

果林「天使のような声を持つエマからとんでもないほど恐ろしい声がぁ……」ガクブルガクブル

璃奈「優しい人程怒ると怖いからね」

璃奈「でも怖いエマさんもギャップがあって、すき」

940: (しまむら) 2021/06/05(土) 05:18:37.15 ID:hQAG6YlX
歩夢「しずくちゃん」

歩夢「分かったでしょ?」

歩夢「みんな、あなたの事が……大好きなの」

しずく「……」

歩夢「しずくちゃんは、どうなの?」


──本当に、怖かった。嫌われるのが、怖かった。

あんな思いは、二度としたくないと思っていたから。

……でも、私が間違っていた。


しずく「みんな」

しずく「ごめん」


みんなのおかげで、気が付けた。

私は全部、“私”なんだ。

嫌われるのが怖いのも私。

平和に生きたいのも私。

皆と楽しく過ごしたいのも私で──


しずく「ありがとう」

しずく「私、皆の事」

しずく「大好きっ!!」


──皆が大好きなのも、私なんだ!

全部、桜坂しずくの気持ちだったんだ。


しずく「だからみんな」

しずく「これからも──よろしくね!」ニコッ


心の底から、笑顔になれた瞬間だった。

941: (しまむら) 2021/06/05(土) 05:26:19.96 ID:hQAG6YlX
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

〜後日 講堂〜

スタスタ

璃奈「音響セット、完了したよ」

彼方「璃奈ちゃんありがとうね〜」ナデナデ

璃奈「照れるぜ」グッ

彼方「お手柄なんだぜ」グッ

しずく「璃奈、ありがとうね!」ニコッ

璃奈「ううん。嫁の為ならお安い御用さ」

しずく「いやはや、頼りになる夫ですなぁ〜」

かすみ「しずく……ライブ前だよ? おふざけ禁止」

せつ菜「リラックス出来てる証拠ですよ!」ペカー

かすみ「まぁ……物は言いようですね」

果林「しずくちゃんらしくていいよね〜」ニコニコ

エマ「ね〜」ニコニコ

しずく「あはは、ゆる〜くやっていきますよ」

942: (しまむら) 2021/06/05(土) 05:38:28.02 ID:hQAG6YlX
愛「それにしても、しずくから急にライブやりたいって言葉が飛び出した時はビックリしたな」

かすみ「急にスクールアイドル紹介動画も撮りたいって言いましたもんね」

しずく「ふっふ〜。あたしは欲張りですからね〜」

しずく「本気でやるって決めたら、全力で取り組むんですよ」

かすみ「完全燃焼しないようにね?」

しずく「わかってますよ〜」

しずく「……スクールアイドルとしての私は、ここから始まるんだもん」

しずく「これからどんどん燃えてやるんだから」

かすみ「……ふふっ」

かすみ「期待してる」

愛「頑張れよ、しずく!」

しずく「おうともさ!」

彼方「しずくちゃ〜んっ! 自家製ラブリーしずくフラッグで全力応援するからね〜!! 遥ちゃんも配信で観るって言ってたよ!」

しずく「あはは! 今朝めちゃくちゃ連絡来たし、電話も掛かってきたよ〜」

しずく「現地で見れないのほんと辛いよー! 退院したら絶対に生しーちゃんライブを見せてもらうからねっ!」

しずく「──って嘆いてたよ」

彼方「今の遥ちゃんの真似!? すっごい似てた……」

しずく「ふっふっふ……演技は得意だからね〜!」ニコッ

943: (しまむら) 2021/06/05(土) 05:47:14.84 ID:hQAG6YlX
歩夢「しずくちゃん!」タッタッ

歩夢「マイクアナウンスも終わったから、全部準備完了だよっ」

しずく「歩夢さん! ありがとう!」


ライブ前。ドキドキと心臓が鼓動する。

でも、不思議と怖くなかった。


しずく「みんな、改めまして……本当にありがとうございます」

しずく「私が立ち上がれたのは、本当にみんなのおかげ」

しずく「ありがとう」ニコッ

しずく「──歩夢さん!」

歩夢「?」

しずく「私、もう逃げないから」

しずく「これが私の1stライブ! ──伝説を作る気持ちで歌ってくるから!」

しずく「見ててね!」

歩夢「──うん!」ニコッ

しずく「今から私は、主役になってくる」

かすみ「……」コクリ

しずく「もう、脇役人生はおしまいにする」

しずく「これが私の」

しずく「夢への一歩!」




944: (しまむら) 2021/06/05(土) 06:01:31.50 ID:hQAG6YlX
しずく「……」

ステージは現在真っ暗。全ての証明を落としてもらっている。

歌い出しの位置に立って、タイミングを測る。

私は、失敗してばかりの人生を歩んできた。

結果、私は臆病になってしまい、なにかに本気になるのを恐れていた。

嫌われるのが怖くて、自分を見失っていた。


しずく(でも、怖がるのはもうおしまい)

しずく(おしまいじゃなくて……怖がる私も、あたしを演じてしまう私も……全て桜坂しずくだから)

しずく(ここから始めるんだ)


桜坂しずくの人生は、まだ始まったばかりだから。


──どのように言えばいいのでしょう。とにかく私の人生はとても幸せでした。

……私の大好きな、憧れの大女優の言葉。


しずく(私も、そう思える人生を歩むんだ)

しずく(いこう、桜坂しずく)

しずく(私と想いを詰め込んだ! 今から歌う、この歌の名は──)

945: (しまむら) 2021/06/05(土) 06:01:51.49 ID:hQAG6YlX
【オードリー】

946: (しまむら) 2021/06/05(土) 06:12:48.08 ID:hQAG6YlX
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

しずく「……」

しずく(や、やばい……めちゃくちゃ緊張する)

しずく「い、今からじゃ遅い……よね……?」

しずく「いや、待て待て! ここまで来たんだぞ〜……桜坂しずく……」

しずく(勇気を出せ。何事も全力で取り組むって決めたじゃないか)

しずく「と、とりあえず深呼吸を──」

「あなた、演劇部の部室の前でどうしたの?」

しずく「!?」ビクッ!!

しずく「あ、えっと! その……」

「?」

しずく(──いこう、桜坂しずく!)

しずく「私は、桜坂しずくです。スクールアイドル同好会に所属してるのですが」

しずく「演劇が大好きなので」

しずく「──演劇部にも入部したいです!!」

947: (しまむら) 2021/06/05(土) 06:30:40.11 ID:hQAG6YlX
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

最初は、わけが分からなくて……怖くて震えていた。


歩夢「……」スタスタ


でも少しずつ、“今”の上原歩夢の生活にも慣れてきた。


歩夢「みんなー、おはようっ」


放課後、スクールアイドル同好会の部室へと私は入室する。


せつ菜「あっ! 歩夢さん!」パァァァァ

しずく「歩夢さん! おはよう〜!」


8人全員、一斉に私に目を向け挨拶をしてくれる。

この子の生活も、今はとっても楽しい。


璃奈「……でね、話の続きなんだけど……」

彼方「うーむ、なるほどねぇ」

しずく「なんとか解決させたいよね」

愛「皆で協力して、問題解決しよーぜ」

果林「だねー!」

エマ「じゃあまずは──」


スクールアイドル同好会のキズナもとっても深まっている。

……私がいない間も、皆がそれぞれ関わりを持って──問題があっても解決する。

本当に──良い場所だ。

──大好き。


愛「歩夢! 一緒に少し璃奈の悩みを聞いてほしいんだけど」

歩夢「うん! 今い──」

歩夢(あれ?)クラッ


バタンッ


せつ菜「──え?」

愛「歩夢……?」


歩夢「…………」


かすみ「──歩夢先輩!?」


後ほど皆から聞いて分かった。この時、私は気を失ってしまったみたい。

そして、私は同時に悟ってしまった。

──もう終わりは近いんだと言う事に。

948: (しまむら) 2021/06/05(土) 06:32:32.29 ID:hQAG6YlX
【Members walking together】

【Next last member】

【上原歩夢】

5: (しまむら) 2021/06/06(日) 23:38:03.76 ID:1jpHzNXf
若葉『歩夢ちゃん!』

歩夢『どうしたの? 若葉ちゃん』


歩夢(あ、あれ? なにこれ?)

歩夢(夢……だよね?)

歩夢(目の前にいるのは、小さい女の子。侑ちゃんと全く同じ見かけをした女の子)

歩夢(五十嵐……若葉ちゃんだよね……?)


若葉『えっへへ〜!』

歩夢『ん?』


歩夢(口が勝手に動く!?)

歩夢(今までこんな感じの夢を見た時は、第三者目線でこの子達の会話を見つめていたのに)

歩夢(今回は違う)

10: (しまむら) 2021/06/06(日) 23:48:46.31 ID:1jpHzNXf
若葉『私、音楽始めようと思うの!』

歩夢『お、音楽?』

若葉『そう!』

歩夢『具体的にどんなの……?』

若葉『うーん、ピアノかな!』

歩夢『また突然だね若葉ちゃん……』

若葉『いやぁ、歩夢ちゃんが前にスクールアイドルになるために頑張ろうかなって言ってくれたじゃん!?』

歩夢『若葉ちゃんが推してきたからね』

若葉『当たり前じゃん! 歩夢ちゃん可愛いから絶対スクールアイドルに向いてるもん。──って、話がズレちゃったよ』

若葉『歩夢ちゃんがスクールアイドルになって歌を歌う! そしてその歌を私が作る!』

歩夢『わ、若葉ちゃんが!?』

若葉『うん! はぁ〜……歩夢ちゃんが歌う姿を想像するだけで、ときめいちゃう〜!』

歩夢『』ポカーン

13: (しまむら) 2021/06/06(日) 23:56:34.79 ID:1jpHzNXf
歩夢(ときめいちゃう、か……なんか懐かしい)

歩夢(侑ちゃんもよく言っていた)

歩夢(やっぱり……この世界の若葉ちゃんは……侑ちゃんなんだろうなぁ)


若葉『ね!? いいでしょ!?』

歩夢『す、すごく魅力的なお話だけど……』

歩夢『わたし、歌えるかなぁ……』

若葉『大丈夫だって! 私達はまだまだ小学生! 人生これからだよ歩夢ちゃん!』

歩夢『……』

若葉『大丈夫だって』

若葉『私、歩夢ちゃんの事たくさんサポートするから!』

歩夢『!!』

若葉『歩夢ちゃんならすっごいスクールアイドルになれるよっ』ニコッ

歩夢『──うん!』ニッコリ

若葉『えへへ! 約束!』

歩夢『わたしはスクールアイドルになって!』

若葉『私が歩夢ちゃんの歌を作る!』

歩夢『えへへっ──約束だよ、若葉ちゃん!』



──風景が突然切り替わる。

14: (しまむら) 2021/06/07(月) 00:02:10.51 ID:V+EEXKrK
歩夢(え?)

歩夢(ここ……屋上?)

歩夢(さっきまで、教室にいたのに……?)


若葉『………………』


歩夢(わ、若葉ちゃん?)

歩夢『わ、若葉ちゃん?』

歩夢(なんでそんな所に立っているの?)

歩夢『なんでそんな所に立っているの?』


若葉『………………』

若葉『……見つかっちゃったか……』


若葉ちゃんが屋上にいる。

フェンス越しに立っている。

──なんでそんな所に立っているの?

18: (しまむら) 2021/06/07(月) 00:08:51.57 ID:V+EEXKrK
歩夢『わ、若葉ちゃん……だ、ダメだよ』

歩夢『危ないから……戻ってきて? ね?』

若葉『………………』

歩夢『危ないから……ほら……』

若葉『疲れちゃった』

歩夢『え?』

若葉『歩夢ちゃん』

若葉『私もう、疲れちゃったよ』

歩夢『な、何言ってるの……?』

若葉『……どうやったら楽になれるか、考えてたの』

若葉『そしたら……ここに立ってた』

歩夢『』

歩夢『だ、ダメだよ若葉ちゃん』

若葉『………………』

歩夢『戻ってきて……?』

若葉『…………疲れちゃったよ……歩夢ちゃん』

歩夢『や、やめて』

歩夢『やめて……やめてやめてやめて!!』

歩夢『若葉ちゃんッ!!』

歩夢『やめてッ!!』

若葉『………………』

19: (しまむら) 2021/06/07(月) 00:16:21.91 ID:V+EEXKrK
歩夢『お願い、戻ってきて』

歩夢『わ、若葉ちゃんまで……いなくならないでよ……』

歩夢『お願いだから……やめて……っ……!』

若葉『………………』

歩夢『ほ、ほら!』

歩夢『や、約束したじゃない』

歩夢『わたしがスクールアイドルになって、若葉ちゃんがわたしの歌を作る』

歩夢『……ね?』

若葉『……そんな約束、してたね』

歩夢『え?』

若葉『もうさ』

若葉『いいよ、そんなの』

歩夢『』

若葉『それにさ』

若葉『私が……こんなに……辛い思いをするようになったのは』

若葉『──歩夢ちゃんのせいじゃん』

20: (しまむら) 2021/06/07(月) 00:20:42.69 ID:V+EEXKrK
ガバッ!!

歩夢「わ、若葉ちゃんッ!! 待って!!」

歩夢「──え?」

歩夢「あれ……ここ……?」

歩夢(ほ、保健室?)

せつ菜「あ、歩夢さん?」

歩夢「せつ菜ちゃん?」

歩夢「あれ……私……」

歩夢「なんでここに……」

せつ菜「歩夢さん!」バッ!!

ギュッ!!

歩夢「え!?」

せつ菜「よかった……よかったです……!」

歩夢「……」ポカーン

21: (しまむら) 2021/06/07(月) 00:25:54.26 ID:V+EEXKrK
歩夢「せつ菜ちゃん?」

せつ菜「あ、あぁ!! ご、ごめんなさい!!」パッ

せつ菜「つ、つい……」

歩夢「う、ううん。別に抱きつくのはいいんだけど……」

歩夢「なんで私……保健室に?」

せつ菜「歩夢さん……倒れたんです」

せつ菜「部室に入ってすぐに」

歩夢「わ、私が!?」

歩夢「どうして……?」

せつ菜「いや、私が聞きたい事ですよ!? 本当に心配したんですからね!?」

歩夢「ご、ごめんなさい」

29: (しまむら) 2021/06/07(月) 00:37:39.44 ID:V+EEXKrK
せつ菜「どこか身体に異常はありませんか?」

歩夢「えーっと……うん。大丈──」


若葉『えへへ! 約束!』


歩夢「──ッ!!」ズキッ!!

歩夢「は、ぁ……ッ……!!」

せつ菜「あ、歩夢さん!?」

歩夢(頭が、割れる)

歩夢「痛い……いたい!!」

歩夢「あたまが……痛いよぉ……!!」

せつ菜「あ、頭が痛いんですか!?」

せつ菜「え、えっと……こ、氷! なにか冷やせるものを!!」タッタッタッ

歩夢「はぁ、はぁはぁ……っ!!」


何回も、何回も頭を鈍器で叩かれる感覚だった。──意識が飛びそうになる。

でも、必死に耐えた。

これ以上、みんなに心配をかけたくなかった。

31: (しまむら) 2021/06/07(月) 00:45:53.89 ID:V+EEXKrK
せつ菜「歩夢さん! 氷を袋に詰めてきました」

せつ菜「おでこに当てますよ? ヒヤッとしますけど、我慢してください」

歩夢「あ……あり、が……」

せつ菜「大丈夫です。喋らないで、ゆっくり深呼吸をして? 今は自分の安静を第一に考えて下さい」スッ

歩夢「……」コクリ


せつ菜ちゃんが優しく私に声をかけてくれる。

なんか、安心する。


せつ菜「大丈夫、大丈夫ですから」

せつ菜「歩夢さん」

歩夢「……」

せつ菜「大丈夫だから」

35: (しまむら) 2021/06/07(月) 00:57:11.00 ID:V+EEXKrK
歩夢(少し……治まってきた……?)

歩夢「せつ菜ちゃん……ありがとう」

歩夢「だいぶ楽に……なってきた」

せつ菜「よ、よかったです」

歩夢「本当に……ごめんなさい」

せつ菜「謝らなくて大丈夫ですよ、歩夢さん」

せつ菜「仲間を助けるのは、当然の事ですし」

せつ菜「歩夢さんの力になれるのなら! 私はなんでもします!!」ペカー

歩夢「な、なんでもは言い過ぎな気が……」

せつ菜「いえいえ」

せつ菜「歩夢さんは私の憧れで、大好きな方ですから!」ペカー

歩夢「せ、せつ菜ちゃん!? は、恥ずかしいよ……」

せつ菜「自分の大好きは正直に伝えた方がいいですからね!」ニッコリ

歩夢「ストレート過ぎるよぉ!」

36: (しまむら) 2021/06/07(月) 01:03:15.14 ID:V+EEXKrK
せつ菜「……少し、落ち着いたみたいですね」

せつ菜「よかった」

歩夢「せつ菜ちゃん……」

歩夢「ありがとう」ニコッ

せつ菜「いえ!」

せつ菜「ただ、今日はもう帰宅した方が良いです」

歩夢「……そう、だよね」

歩夢「また頭痛……起きるかもしれないもんね」

せつ菜「かもしれない?」

歩夢「うん」

歩夢「最近、頭痛が起きる頻度が多くてね」

歩夢「お薬も効かなくて……」

歩夢「タイミングもバラバラなの」

せつ菜「……さっきみたいな感じの頭痛が、頻繁に起きるんですか?」

歩夢「うん……」

歩夢「前より痛みも増している気がする」

せつ菜「……」

37: (しまむら) 2021/06/07(月) 01:15:01.38 ID:V+EEXKrK
せつ菜「とりあえず今日は、お家に帰りましょう」

せつ菜「送っていきます」

歩夢「うん。ありがとう、せつ菜ちゃん」

せつ菜「大丈夫ですよ」

せつ菜「部室にある歩夢さんのバック等、取ってきますね」

せつ菜「少し、ゆっくりしてて下さい。行ってきますっ」タッタッタ!

歩夢「気を付けてね」フリフリ

38: (しまむら) 2021/06/07(月) 01:24:38.29 ID:V+EEXKrK
歩夢(五十嵐若葉ちゃん)

歩夢(夢で見たあの景色は)

歩夢(過去? それとも、ただの……夢?)

歩夢「…………」

歩夢「──ッ!!」ズキッ!!


また頭が痛くなる。

この現象は、本当に何?


歩夢「……はぁ、はあ、ッ……」ズキ、ズキ


──辛いよ。侑ちゃん。


歩夢「はぁ、はぁ、はぁ……」


──痛い。辛い。怖い。


歩夢(侑ちゃんに……会いたい)



歩夢「わたしは若葉ちゃんに会いたいよ」



歩夢「──え?」


前にも、起きた謎の現象が始まる。

──私の意志と異なる事を、勝手に話し始める。

かすみちゃんと愛ちゃんの時に起きた、謎の現象。


歩夢「……や、やっぱりこの子は……」


この世界の上原歩夢の人格は──残っている。

39: (茸) 2021/06/07(月) 01:45:58.53 ID:75Pum9yP
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

〜部室〜

エマ「はい、せつ菜ちゃん。これ、歩夢ちゃんのバッグ」

彼方「荷物も全部まとめ終わってるよ」

せつ菜「ありがとうございます」ペコリ

せつ菜「私もこのまま歩夢さんをお家まで送って来ますので、先に上がります」

彼方「うん。歩夢ちゃんをよろしくね?」

せつ菜「はい! ──では、お疲れ様でしたっ」

スタスタスタスタ

「「「…………」」」

果林「み、みんな! 暗いよ!」

果林「大丈夫だよ! 歩夢ちゃんも頭痛以外なんともなかったってせつ菜ちゃん言ってたし! 心配なのは分かるけど……」

果林「その……げ、元気出そうよ!」

璃奈「……そうだね」

璃奈「確かに歩夢さんが倒れたのはショックだったけど……落ち込んでるばかりじゃダメだよね」

しずく「そう……だね」

彼方「うん。……練習しよう、みんな」

彼方「私達が暗くなっちゃったら、歩夢ちゃんから心配されちゃうよ」

かすみ「…………」

エマ「かすみちゃん……」

かすみ「……皆さんの言う通りですね。ごめんなさい。練習しましょう」

彼方「じゃあ、まずはストレッチからやろ。じゃあみんな。それぞれ──」

愛「……」

40:1(茸) 2021/06/07(月) 01:54:56.90 ID:75Pum9yP
愛(歩夢……)

愛(頭痛、か)

スタスタ

璃奈「愛さん」

璃奈「ストレッチ、一緒にやろう」

愛「──あ、あぁ。璃奈。いいぜ、やろっか」

璃奈「ありがとう」


───────────

歩夢『わたしも思ってたよ。──あなたのこと、名前で呼びたいって』

歩夢『こちらこそよろしくね』

歩夢『愛』ニコッ

───────────


愛「……」

愛「なぁ、璃奈」

璃奈「うん?」

愛「聞きたいことがあるんだけど、今いいか?」

璃奈「いいけど……どうしたの?」

愛「もし、もしもの話なんだけどさ」

璃奈「うん」コクリ

愛「一人の人間に、別の人間の人格が入ったら……どうなると思う?」

璃奈「え?」

41: (しまむら) 2021/06/07(月) 02:31:38.65 ID:V+EEXKrK
璃奈「……どういうこと?」

愛「そのまんまの意味だよ」

愛「例えば、Aに別人であるBの人格が入るとしてさ」

愛「そうだなぁ……」

愛「設定を加えるけど、その子はBが主人格として生活するようになるんだ。Aの人格はちゃんと中に残っているんだけど、表に出てこれない。二人の人間の人格が、一人の人間になると……どうなると思う?」

愛「ちなみにBにはAの今まで見てきた記憶はないものとする」

璃奈「そんな現象起きるわけ──」

愛「まぁまぁ、もしもの話だからさ」

璃奈「……うーん……そうだな」

璃奈「確実に、脳への負担はものすごいと思うよ」

愛「!!」

璃奈「人間の脳ってのは、ちゃんと容量が決まっているんだ。生きる為に必要な知恵や知識。“記憶”を保存出来る容量がね」

愛「……」

璃奈「でもそれは、一人の人間の為の……専用のものだ」

璃奈「その専用のものに別人の記憶してきた、同様のとてつもない容量の知識や記憶が入り込んだら、それはものすごい負担になるんじゃないかな」

璃奈「BさんがAさんとしての記憶はないとしても、身体はAさんのものだ。──つまり脳はAさんのもので生活をする」

璃奈「何かの拍子でAさんの記憶を思い出したりするかもしれない。生活するとなるとBとしての過ごした新しい記憶や思い出が増えていく。その記憶の蓄積で脳への負担も当然増していくと思う」

璃奈「いつかパンクしてしまうんじゃないかな?」

愛「……」

璃奈「まぁ、今述べた事は全て可能性の話だけどね」

璃奈「脳科学は専門外だからね。冗談半分で聞いてほしい」

愛「…………」

璃奈「……愛さん?」

璃奈「大丈夫?」

璃奈「汗、すごいよ?」

愛「──え?」

42: (しまむら) 2021/06/07(月) 02:38:42.78 ID:V+EEXKrK
愛「わ、わりぃな璃奈!」

愛「大丈夫だから!」

璃奈「う、うん……わかった」

愛「ストレッチだよね? よし。背中押してあげるから、とりあえず座ってくれ」

璃奈「うん」コクリ スタッ

愛「……」

愛(歩夢の中に……この世界の上原歩夢の人格は、まだ絶対に残っている)


璃奈『確実に、脳への負担はものすごいと思うよ』


愛「……っ……」

愛(ものすごい脳への負担。それによって、頭痛が起きてるんじゃないか?)

愛(歩夢……)




43: (しまむら) 2021/06/07(月) 02:45:26.61 ID:V+EEXKrK
せつ菜「……」スタスタ

せつ菜(歩夢さん、また頭痛で辛い思いしていないかな?)

せつ菜(あー、急ぎたいけど廊下は走ってはいけない……あぁ〜! 全力ダッシュしたい気分なのに〜!!)

せつ菜「早歩きなら……うん……!」スタスタ!!


歩夢『わ、若葉ちゃんッ!! 待って!!』


せつ菜「!!」ピタッ

せつ菜(歩夢さんが起きた時の一言)

せつ菜「……若葉ちゃん……?」

せつ菜「もしかして──五十嵐若葉さん……?」

せつ菜(なぜ歩夢さんが、突然彼女の名前を?)

せつ菜「…………」

せつ菜「まぁ、いいや。急ぎましょう」

せつ菜「歩夢さんが待ってる」

スタスタスタスタ

51: (しまむら) 2021/06/07(月) 17:40:27.02 ID:V+EEXKrK
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

せつ菜「歩夢さん、明日も無理しないで大丈夫ですからね? ゆっくり休んでください」

歩夢「うん。ありがとうね、せつ菜ちゃん」

歩夢「色々助かったよ」

せつ菜「いえいえ! では私はこれで!」

歩夢「うんっ。またね、せつ菜ちゃん」

せつ菜「はい!」ペカー

タッタッタッタ

歩夢「……」

スタスタ ガチャ

歩夢「ただ……いま……」

ドサッ!

歩夢「うぅ……ぁ……ッ……!」


家の中に入ってすぐ、私は玄関に座り込んでしまう。

頭が割れそうで、全然痛みが引かない。

今まではこんなことなかったのに。

52: (しまむら) 2021/06/07(月) 17:46:53.21 ID:V+EEXKrK
歩夢「でも……みんなに……心配かけた、く……ない」

ガチャ

歩夢「!?」

歩夢母「ただいま〜──って歩夢? 帰ってたの? 大丈夫?」

歩夢「おかえりなさい、お母さん!」スタッ

歩夢母「え、えぇ。座り込んでたみたいだけど……大丈夫?」

歩夢「うん! あっ、お買い物行ってたの? 荷物持つよ」

歩夢母「ふふ、ありがとうね。歩夢」

歩夢「うんっ」

歩夢(大丈夫。我慢、出来る。いや、我慢するんだ)

53: (しまむら) 2021/06/07(月) 17:53:42.65 ID:V+EEXKrK
歩夢「お母さん。今日は早めにお仕事終わったの?」

歩夢母「とりあえずは、ね。でもまだやる事は山積みだから夜にはまた家を出ちゃうわよ」

歩夢母「夕ご飯作るのと、少し休憩で戻ってきたの」

歩夢「……無理しないでね、お母さん」

歩夢母「無理なんてしてないよ。……いつも寂しい思いをさせてごめんね? 歩夢」ナデナデ

歩夢「私は全然大丈夫だよ。いつもありがとう、お母さん」

歩夢母「……」ポカーン

歩夢「お母さん?」キョトン

歩夢母「ふふふ、なんだか昔の日々に戻ったみたい」クスクス

歩夢「へ?」

歩夢母「お父さんが亡くなって、社長だった彼の仕事を私が引き継いで……忙しくなっちゃって」

歩夢母「段々……歩夢から笑顔が減ってきちゃったのに……私は母親らしい事が出来なくなって……」

歩夢母「本当に……ごめんね、歩夢」

歩夢「お母さん……」

歩夢母「ふふっ、前にお母さんって呼んでくれた時も嬉しかったのよ?」

歩夢「え?」

歩夢母「それまではずっと『ねぇ』とか『ちょっと』って呼ぶだけで、お母さんだなんて呼んでくれなくなっちゃったから」

歩夢「……」

歩夢母「まぁでも当然よね。私……母親らしいこと……できてなか──」


歩夢「──そんな事ない」

歩夢「わたしはお母さんの事、本当は大好き」

歩夢「……今まで……素っ気ない態度取っちゃって……ごめんなさい」

歩夢母「歩夢……」


歩夢(──また、勝手に話し始めた。……でもこれは)

歩夢(この世界の上原歩夢の気持ちなんだと思う)

54: (しまむら) 2021/06/07(月) 18:00:32.04 ID:V+EEXKrK
歩夢「…………」

歩夢母「歩夢?」

歩夢「あっ、ごめんなさい……私、少しぼーっとしちゃってた」

歩夢(終わったみたい)

歩夢母「歩夢」

歩夢母「ありがとうね」ニッコリ

歩夢「う、うん!」ニコッ

56: (しまむら) 2021/06/07(月) 18:07:29.36 ID:V+EEXKrK
歩夢母「そう言えば歩夢」

歩夢母「最近、日記は書いてるの?」

歩夢「に、日記?」

歩夢母「あらあら、とぼけちゃって。お母さん実は知ってたのよ?」

歩夢母「あなたが隠れて日記書いてること」

歩夢母「あっ、でも安心して。中身は見てないから」

歩夢「……」ポカーン

歩夢母「あ、歩夢……? 歩夢〜?」

歩夢母(ど、どうしよう。歩夢怒っちゃったかな?)

歩夢「……」

歩夢(日記……?)

歩夢(“この子”が書いていた?)

57: (しまむら) 2021/06/07(月) 18:18:27.20 ID:V+EEXKrK
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

歩夢「日記……日記……」ガサゴソ、ガサゴソ


お夕飯をお母さんと一緒に食べて、今は夜。自分の部屋に篭もる。

そして、日記を探す。


歩夢(日記を読めば)

歩夢(この子の事が……この世界の歩夢の事が分かると思う)

歩夢(勝手に読むのは、許してね)

歩夢「──ッ!」ズキッ!!

歩夢「……い、痛くない……痛くない」

歩夢「痛くないもん……痛くない」


頭痛がまたひどくなる。──でも、止まっちゃダメ。我慢するんだ。上原歩夢。


歩夢「──もう、やめた方がいいよ。上原歩夢」

歩夢「!?」

歩夢(また勝手に、話し始めた!?)

歩夢(この世界の……歩夢……)

58: (しまむら) 2021/06/07(月) 18:25:19.56 ID:V+EEXKrK
歩夢「──頭、痛いでしょ? 日記を探せば探すほど、痛くなるでしょ?」

歩夢「……痛くないもん」

歩夢「──嘘だね。わたしの意思が表に出やすくなってる。前はたまにしか出られなかったのに。──それ、あなたの意識が薄れてきている証拠だよ?」

歩夢「……私はまだ、あなたについて何も知らない」

歩夢「──わたしの事なんてどうでもいいでしょ? なんで別世界のわたしの事を気にするのよ。もうこの身体はあなたのものなんだから、自分の生活をしなさいよ」

歩夢「私の身体じゃないよ。それに……あなた、言ったよね? ──若葉ちゃんに会いたいって?」

歩夢「──若葉ちゃんは関係ないでしょッ!?」

歩夢「関係あるよ。若葉ちゃんに会いたい気持ちが、あなたの願いでしょ? 私はその願いを叶えてあげたい」

歩夢「──なんで……わたしの願いを叶えたいのよ……」

歩夢「私は勝手にあなたの中に入ってしまった。理由は分からないけれど……その結果、あなたの今までの生活を変えてしまった」

歩夢「──……」

歩夢「人の身体で、好き勝手しちゃったんだもん。そのお詫びとして、あなたの願い事を叶えてあげたい」

歩夢「──そんなの、偽善だよ」

歩夢「わかってる。余計なお世話だと思う。……でも私、約束したの」

歩夢「──……」

歩夢「侑ちゃんと、“みんなの為のスクールアイドル”になるって」

歩夢「そのみんなの中には、あなたも含まれてる。だから……あなたの為にも何かしたいの」

歩夢「余計な事しようとしちゃって、ごめんね」



歩夢「──若葉ちゃんが生きているかも分からないのに?」

59: (しまむら) 2021/06/07(月) 18:36:04.32 ID:V+EEXKrK
歩夢「──あなた、わたしの過去を夢で見たでしょ? あの屋上の……」

歩夢「……」

歩夢「──あんな光景見たら、最悪な事が起きたって容易に想像できるでしょ?」

歩夢「……」

歩夢「──だから……若葉ちゃんが生きているか分からないんだから……余計な事……しないで」

歩夢「生きてるでしょ? 若葉ちゃん」

歩夢「──!?」

歩夢「若葉ちゃんは、絶対に生きている」

歩夢「──な、なんで……?」

歩夢「だって、あなたが生きてるもん」

60: (しまむら) 2021/06/07(月) 18:42:44.10 ID:V+EEXKrK
歩夢「あなたは、別世界の私だけど……同じ上原歩夢だもん」

歩夢「若葉ちゃんは、多分別世界の侑ちゃん」

歩夢「侑ちゃんは私の一番大切な存在で、若葉ちゃんはあなたの一番大切な存在でしょ?」

歩夢「──そ、それは……」

歩夢「そんな子が、この世の人じゃなくなっていたら」

歩夢「周りの人には申し訳ないけど──私も後を追ってるよ」

歩夢「そんな世界、耐えられないもん」

歩夢「それはあなたも同じでしょ?」

歩夢「──……」

62: (しまむら) 2021/06/07(月) 19:14:13.43 ID:V+EEXKrK
歩夢「!! 日記、見つけた」


中々分厚い。ずっしりとした重さの日記は、机の中の奥深くに入れてあった。


歩夢「す、すごい奥に入れてあるんだね」

歩夢「──誰かに見られたら、嫌だもん」

歩夢「……気持ちは凄くわかるけど、取り出し辛くない?」

歩夢「──うるさいよ」

歩夢「ふふ、ごめんごめん」

歩夢「……見るね?」

歩夢「──勝手にすれば? ……今だって頭痛がひどいはずなのに、どうなっても知らないからね?」

歩夢「ごめん。ありがとう」

歩夢(行こう、歩夢。この子の過去を知るために)

歩夢「……」ペラッ


私は、日記を1ページ目を開く。

──瞬間、私の中にこの世界の歩夢の記憶が蘇ってくる。


歩夢「───────」


そして私は──気を失った。

73: (しまむら) 2021/06/07(月) 23:03:02.33 ID:V+EEXKrK
・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・

わたしは小さい頃、とても人見知りだった。

自分から話しかけるのは苦手なタイプであり、どちらかと言うと話を聞いている方が好きだった。


歩夢母『ねぇ、新しいお家どうする? 団地に住むか、一軒家に住むか……そろそろ決めましょうよ』


リビングからお母さんとお父さんの声が聞こえる。

どうやら新しいお家の事を話しているみたい。


歩夢(新しいお家、かぁ)

歩夢(別にどこでもいいけどなぁ)


これは幼稚園を卒園する前の話。

もうすぐ、わたしは小学生になる。


歩夢(……友達は……できないんだろうなぁ)


そんなネガティブな事ばかり考えていたのを、よく覚えている。

74: (しまむら) 2021/06/07(月) 23:26:34.73 ID:V+EEXKrK
───────────

〇月〇日

あたらしいおうちがきまりました

いっけんやだって、おかあさんはよろこでた

ひっこしもおわって、あしたからはしょうがくせい

にゆうがくしきです

ともだちできるかふあんです

あときょうからにっきをつけることにしました

おとうさんからにゅうがくいわいでおおきいにっきちょうをもらったからです

おっきくておもい。

まいにちがんばります

───────────

75: (しまむら) 2021/06/07(月) 23:36:13.84 ID:V+EEXKrK
歩夢『…………』ソワソワ

歩夢(き、緊張する)

歩夢(周りも知らない子ばっかだし……友達、やっぱりできないかなぁ)

『ねぇ! きみ、なんて名前なの!?』

『え?』


突然、隣の席の子から話をかけられる。ビックリしてしまった。


『あっ! ごめん。まずは自分から自己しょーかいだよね!?』

若葉『わたしは五十嵐若葉! よろしくねー!』


可愛いツインテールの女の子だった。なぜだか毛先が緑色だ。かわいい。

「ぱ」と1文字だけ書かれた不思議なTシャツを着ているその子は、ニカッと笑い──わたしに声をかけてくれたんだ。

歩夢『わ、わたしは……上原歩夢』

若葉『歩夢ちゃん!』パァァァァ

若葉『かわいい名前だね!』ニコッ

歩夢『か、かわ……!?////』

若葉「うん! 歩夢ちゃん、見た目もかわいいけど名前もかわいい!」

歩夢「え、えぇぇぇぇ!////」


急なべた褒め。顔が熱くなってくる。

かわいいだなんて、お母さん達くらいにしか言われたことがなかった。

76: (しまむら) 2021/06/07(月) 23:44:56.50 ID:V+EEXKrK
若葉『ねぇねぇ! 歩夢ちゃんどこに住んでるの!?』

歩夢『え、えっとね。し、東雲』

若葉『ほんと!? 私も東雲だよー!』ニコニコ

歩夢『そ、そうなの?』

若葉『うんっ!』

若葉『東雲の団地に住んでてね! 場所は──』


グイグイと私に話をかけてくれる若葉……ちゃん?

──うん。若葉ちゃん。若葉ちゃんって呼ぼう。

彼女は、わたしにどんどん話しかけてくれた。
中々のマシンガントークだけど、話を聞くのが好きなわたしからしたらすごく助かる。


若葉『でも、良かったぁ〜』

歩夢『んー?』

若葉『歩夢ちゃんと席がとなりで! いがらしとうえはらで席があいうえお順だから良かったよぉ〜。私、今日の入学式……友達できるか不安だったんだ〜』

歩夢『わ、わたしも……』

若葉『そうなんだ! 一緒だっ』ニカッ

歩夢『ふふふっ。そうだねっ』ニコッ

若葉『これからよろしくね! 歩夢ちゃん!』

歩夢『うん! 若葉ちゃん!』


この日が、わたしの世界で一番大切な子との出会いだった。

77: (しまむら) 2021/06/07(月) 23:48:55.06 ID:V+EEXKrK
───────────

〇月◇日

ともだちができました。

なまえは、いがらしわかばちゃん。

やさしくて、かわいくて、おもしろいこ。

これから、なかよくなれるかな?

ううん。なかよくなりたい。

せきもとなりだし、あしたもがこうたのしみです。

きょうははやくねて、あしたにそなえます。

おやすみなさい。

───────────

78: (しまむら) 2021/06/08(火) 00:07:40.62 ID:nZPZXIYr
わたしと若葉ちゃんが出会って1年と少しが経った。

仲良くなれるか不安だったけれど、わたし達はお互いを親友と呼び会える仲になった。

わたしは若葉ちゃんが大好き。若葉ちゃんもわたしを大好き。そんな日々が続いた。

彼女はいつも楽しそうで、いつもわたしを引っ張ってくれた。

──若葉ちゃんとずっと一緒にいたい。常日頃そう思っていた事も、よく覚えている。

そんな彼女は、今日も楽しそうにわたしに声をかけてくれる。


若葉『ねぇねぇ! 歩夢ちゃん!』

歩夢『んー?』

若葉『この雑誌見て! これ!』

歩夢『わぁ……可愛いお姉さん達がいっぱいうつってるねぇ』

若葉『だよねだよね!? スクールアイドルっていうんだって!』

歩夢『スクールアイドル?』

若葉『うん!』


雑誌を広げ、楽しそうに話す若葉ちゃん。かわいい。


若葉『はぁ……可愛いなぁ……──ねぇねぇ!』

歩夢『どうしたの?』

若葉『歩夢ちゃん、スクールアイドルになってみない!?』

歩夢『え、えぇ!? わたしが!?』


どんな無茶振り!? って思った。雑誌に載っているかわいいお姉さん達は、みんなキラキラしていた。

地味なわたしとは雲泥の差だ。


若葉『うん! 歩夢ちゃん可愛いしぜったいなれるよ! スクールアイドルに!』

歩夢『……うーん……自信ないなぁ』

若葉『そっかぁ……ざんねん……』


肩を落とし、しゅーんとする若葉ちゃん。

それを見たわたしは、とにかく彼女に元気を出してもらいたかった。

若葉ちゃんがそういうんだもん。やろう。頑張ってみよう。──わたしはそう決心したんだ。


歩夢『でも……』

若葉『ん?』

歩夢『──若葉ちゃんがそう言うなら、がんばってみようかなぁ』ニコッ

若葉『ほ、ほんと!? やったー!!』ギュッ!!

歩夢『わ、若葉ちゃん!?////』

若葉『もう、ときめきが溢れてサイッコーだよ!!』ギュュュュ

歩夢『こ、声大きいよ〜』オドオド


──幸せだった。

79: (しまむら) 2021/06/08(火) 00:16:29.38 ID:nZPZXIYr
───────────

◇月〇日

日記をかくことにもすこしなれてきた。

もう一年くらいかいてます。

若葉ちゃんからおしえてもらったスクールアイドル。

みんなかわいくてキラキラしてたなぁ。

わたしもなれるかな? 若葉ちゃんはわたしをかわいいっていってくれるけど、あまり自信はありません。

けど、がんばろー。

若葉ちゃんのために!

今日も早めにねよう。

あ、あと今度お父さんのたんじょう日だ。

なにプレゼントしようかなぁ〜。こんどお母さんとそうだんしよう。そうしよう。

───────────

81: (しまむら) 2021/06/08(火) 00:23:12.45 ID:nZPZXIYr
若葉『歩夢ちゃん!』

歩夢『どうしたの? 若葉ちゃん』

若葉『えっへへ〜!』


若葉ちゃんの笑顔は今日もかわいい。大好き。


歩夢『ん?』

若葉『私、音楽始めようと思うの!』

歩夢『お、音楽?』

若葉『そう!』

歩夢『具体的にどんなの……?』

若葉『うーん、ピアノかな!』

歩夢『また突然だね若葉ちゃん……』

若葉『いやぁ、歩夢ちゃんが前にスクールアイドルになるために頑張ろうかなって言ってくれたじゃん!?』

歩夢『若葉ちゃんが推してきたからね』

若葉『当たり前じゃん! 歩夢ちゃん可愛いから絶対スクールアイドルに向いてるもん。──って、話がズレちゃったよ』

若葉『歩夢ちゃんがスクールアイドルになって歌を歌う! そしてその歌を私が作る!』

歩夢『わ、若葉ちゃんが!?』

若葉『うん! はぁ〜……歩夢ちゃんが歌う姿を想像するだけで、ときめいちゃう〜!』

歩夢『』ポカーン

82: (しまむら) 2021/06/08(火) 00:28:09.04 ID:nZPZXIYr
若葉『ね!? いいでしょ!?』

歩夢『す、すごく魅力的なお話だけど……』

歩夢『わたし、歌えるかなぁ……』

若葉『大丈夫だって! 私達はまだまだ小学生! 人生これからだよ歩夢ちゃん!』

歩夢『……』

若葉『大丈夫だって』

若葉『私、歩夢ちゃんの事たくさんサポートするから!』

歩夢『!!』

若葉『歩夢ちゃんならすっごいスクールアイドルになれるよっ』ニコッ


若葉ちゃんは、いつもわたしを引っ張ってくれた。

この子と出会えて、本当によかった。心の底からそう思う。


歩夢『──うん!』ニッコリ

若葉『えへへ! 約束!』

歩夢『わたしはスクールアイドルになって!』

若葉『私が歩夢ちゃんの歌を作る!』

歩夢『えへへっ──約束だよ、若葉ちゃん!』


──本当に幸せだった。

84: (しまむら) 2021/06/08(火) 00:39:46.06 ID:nZPZXIYr
───────────

△月〇日

若葉ちゃんと大切な約束をした。

わたしはスクールアイドルになって、若葉ちゃんはわたしの歌を作ってくれる。

そしてそれを歌う。

なんて幸せなんだろう。

スクールアイドルになろう! ぜったいに!

お歌も練習して、体もきたえよう!

お勉強も頑張ろう。かわいい子になれるように、けんこうにも気をつけよう。

やることたくさんできた。

あと、お父さんのプレゼントも買いました。

おっきいヘビさんのぬいぐるみ! かわいいの!

よろこんでくれるかなぁ?

今日も早く寝て、明日にそなえよう。

本当に、幸せだなぁ。

───────────

85: (しまむら) 2021/06/08(火) 00:45:45.27 ID:nZPZXIYr
歩夢母『……歩夢……』

歩夢母『明日から少しの間……学校おやすみよ』

歩夢『──え? な、なんで?』

歩夢『わたし、学校行きたいよ、お母さん』

歩夢『あれ、あと……お父さんは? もういつもなら帰ってきてるはずなのに……』

歩夢母『……っ……!』ポロポロ

ギュッ

歩夢『え? おかーさん?』キョトン




──幸せな日々は崩れ始めた。

87: (しまむら) 2021/06/08(火) 01:02:17.38 ID:nZPZXIYr
───────────

×月〇日

お父さんが家に帰って来なくなっちゃった。

学校もなぜかお休みになって、よく知らない場所につれて来られた。

みんなくろいお洋服を着ていて、みんな泣いている。

大きな箱がおいてあって、のぞき見ようとしたら、みんなから止められた。

お母さんが、お父さんが寝てるからって泣きながら言っていた。

なんで起こしてあげないの?

そしてしばらくたって、お父さんの寝てるって言われている箱がたくさんの人に持ってかれちゃった。

そして、かそう場? ってところにわたしもつれてこられた。

なにするの? ってお母さんに聞いたら、今からお父さんはお空へしごとしに行くのよって言われた。

だめだよ! お父さんはわたし達からはなれちゃダメ! まだプレゼントあげれてないもん。

わたしがそう言うと、お母さんもまわりの大人もみんな泣きはじめた。

なんで? なんでみんな泣いてたの?

お父さん……いつお空のおしごとから帰ってくるのかなぁ〜。

早くプレゼントあげたいのに……。

───────────

89: (しまむら) 2021/06/08(火) 01:11:35.99 ID:nZPZXIYr
歩夢『………………』


しばらく経って、わたしはお父さんが亡くなった事に気がついた。


若葉『歩夢ちゃん……』

ギュッ

歩夢『わ、若葉ちゃん……!!』


若葉ちゃんはわたしを、優しく抱きしめてくれた。

頭を撫でて、一緒に泣いてくれた。

わたしは、お父さんにあげるはずだったヘビのぬいぐるみを、若葉ちゃんにあげた。

代わりに持っていてほしかった。それを見ると泣きそうになっちゃうから。

若葉ちゃんは快く受け取ってくれた。サスケって名前を付けるって言っていた。

なんかの漫画の影響かな?

90: (しまむら) 2021/06/08(火) 01:21:44.32 ID:nZPZXIYr
───────────

△月△日

お父さんに会いたい。

お父さんに会いたい。

お父さんに会いたい。

3回書いたら夢が叶うっておまじないを聞いた事があるけど、本当かな?

……お母さんも、忙しくなってしまった。今日もわたしは家でひとりぼっち。

家政婦さんが来て家事はしてくれる。ありがたい。けど、わたしはお母さんとお父さんがいい。

あの時の幸せな日々に、戻りたい。

……無理だよね。そんなの。

……若葉ちゃん。

若葉ちゃんに会いたい。

今日も早く寝て、早く学校に行って若葉ちゃんと会おう。

明日から4年生だ。クラス替え。

嫌だなぁ……若葉ちゃんと同じクラスになれるかな?

───────────

92: (しまむら) 2021/06/08(火) 01:32:08.25 ID:nZPZXIYr
若葉『…………』

ワイワイ、ザワザワ

若葉『…………』


わたしは、若葉ちゃんと別のクラスになってしまった。


若葉『…………』キョロキョロ

若葉(周りの子達、みんな楽しそう)

若葉(……学校って、こんなのだったっけ?)

若葉(……若葉ちゃんは友達、できたかな?)

若葉(──いや、できたに決まっている。若葉ちゃん、可愛くて明るいから、クラスの人気者だったし)

若葉(わたしとは……大違いだ)


『ねぇ! あなた!』

歩夢『!?』ビクッ

歩夢『わ、わたし?』

『あなた以外いないでしょ! お名前なんて言うの?』

歩夢『!!』パァァァァ

歩夢(若葉ちゃんの時と一緒だ! わたしに話しかけてくれる優しい子。友達になれるかも)

歩夢『わ、わたしの名前は上原歩夢! よろしくね!』ニコッ

『うえ……はら?』

『──あぁ! あなた……あれか!』

『お父さんいない子でしょ?』

歩夢『──え?』


──わたしの幸せな日々が、崩れ始める。

94: (しまむら) 2021/06/08(火) 01:34:38.59 ID:nZPZXIYr
>>92 誤字修正。


歩夢『…………』

ワイワイ、ザワザワ

歩夢『…………』


わたしは、若葉ちゃんと別のクラスになってしまった。


歩夢『…………』キョロキョロ

歩夢(周りの子達、みんな楽しそう)

歩夢(……学校って、こんなのだったっけ?)

歩夢(……若葉ちゃんは友達、できたかな?)

歩夢(──いや、できたに決まっている。若葉ちゃん、可愛くて明るいから、クラスの人気者だったし)

歩夢(わたしとは……大違いだ)


『ねぇ! あなた!』

歩夢『!?』ビクッ

歩夢『わ、わたし?』

『あなた以外いないでしょ! お名前なんて言うの?』

歩夢『!!』パァァァァ

歩夢(若葉ちゃんの時と一緒だ! わたしに話しかけてくれる優しい子。友達になれるかも)

歩夢『わ、わたしの名前は上原歩夢! よろしくね!』ニコッ

『うえ……はら?』

『──あぁ! あなた……あれか!』

『お父さんいない子でしょ?』

歩夢『──え?』


──わたしの幸せな日々が、崩れ始める。

95: (しまむら) 2021/06/08(火) 01:43:44.38 ID:nZPZXIYr
歩夢『え……えっと……』

歩夢『わ……わたし……その……』


身体が震えた。

悲しいとかじゃなくて、恐怖だった。

なんでそんなこと平然と言えるの? って思ってしまった。
上手く声が出せない。


『え? そうなの?』

『あっ、あたしも聞いたことあるかも』

『授業参観とか運動会も、誰も来てくれないみたいだよね、あの子』

『複雑な家庭なのかな?』


ザワザワザワザワ


歩夢『……』プルプル


教室がざわつく。──やめて。


『ちょっと、みんな騒がしいよ! 上原さん困ってるじゃん』

■■『私の名前は■■だよ! これからよろしくね、上原さ〜ん』ニコッ


──この人の事は名前すら覚えていない。

96: (しまむら) 2021/06/08(火) 01:54:09.35 ID:nZPZXIYr
■■『ねぇ、みんなとは違う上原さん!』

■■『これから私と仲良くしよーよ!』

歩夢『……え?』

■■『お父さんがいないかわいそーな上原さんと仲良くしてあげるよ!』

歩夢『…………』


嘘だ。絶対に裏がある。

この人は、わたしと仲良くしたいだなんて絶対に思っていない。悪意が見える。


■■『ねっ! 可哀想な可哀想な』

■■『うーえーはーらーさん!』

歩夢『──っ……!!』ジワッ


涙が出そうになる。こんな人と仲良くなりたくない。

怖くて目を瞑ってしまう。

怖い。──助けて。


歩夢(若葉ちゃんッ!!)


スタスタ──バンッ!!


歩夢『──え?』


わたしの机を思いっきり叩く音がする。


若葉『………………』

歩夢『若葉ちゃん……?』


目を開けると、そこには若葉ちゃんがいた。

97: (しまむら) 2021/06/08(火) 02:09:28.77 ID:nZPZXIYr
■■『え? きゅ、急に何よあなた……』

若葉『隣のクラスの五十嵐若葉だよ。歩夢ちゃんに会いに来たんだけどさぁ』ニコニコ

若葉『途中からキミと歩夢ちゃんが会話してるのを聞いたの』ニコニコ

■■『そ、そうなんだ』

若葉『……』

若葉『そうなんだ、じゃないでしょ?』ギロリ

■■『!?』ビクッ!!

若葉『お父さんがいない? みんなとは違う子? 可哀想な可哀想な上原さん?』

若葉『……なんでそんな事平然と笑いながら言えるのさ……!!』

歩夢『わ、若葉ちゃん……わ、わたし……大丈夫だから……』

歩夢『ね?』

若葉『謝りなよ』

■■『へ?』

若葉『歩夢ちゃんに、謝りなさいよッ!!』ガシッ

■■『いっ、……いったいわね!! 離せよ!!』

歩夢『わ、若葉ちゃん!! だ、ダメだよ!! やめて!!』


そこからはもうその人に掴みかかる若葉ちゃんを止めるのに必死だった。ケンカが始まってしまった。

クラスはもう大騒ぎ。

ざわつく教室。二人のケンカに止めに入ろうとする学級委員長もいて、先生が来るまでそのパニックは続いた。




98: (しまむら) 2021/06/08(火) 02:18:53.54 ID:nZPZXIYr
───────────

■月〇日

若葉ちゃんにケンカをさせてしまった。若葉ちゃんを怒らせてしまった。

わたしがすぐにあの子に「そんなひどいこと言わないで!」って言い返せばよかったのに……出来なかった。

若葉ちゃん。ごめんなさい。

弱いわたしのせいで、あなたがケンカをする原因を作ってしまった。

でも、若葉ちゃんはわたしを守ってくれるって言ってた。

本当に、ごめんなさい。弱いわたしを許してください。

あのひどい子も、泣いちゃってた。若葉ちゃんを絶対に許さないって言ってた。

……新しいクラス。嫌だなぁ。

学校に行きたくない。

けど、若葉ちゃんがいるから頑張れる。

明日も頑張ろう。

おやすみなさい。

───────────

99: (しまむら) 2021/06/08(火) 02:34:29.60 ID:nZPZXIYr
若葉『歩夢ちゃん。その後はクラスメイトから酷いことされたりしてない?』

歩夢『え? う、うん。何もされてないよ』

若葉『ほんと?』

歩夢『うん。ほんと』コクリ

若葉『まぁ、歩夢ちゃんは嘘つかない子だし本当なんだろうなぁ』

若葉『よかったよかった!』ニッコリ

歩夢『よくないよ……』

歩夢『……若葉ちゃんがいない教室なんて……つまらないもん……。ずっと若葉ちゃんと一緒にいたかった』

若葉『歩夢ちゃん……!』キュンッ

若葉『あーもう! 歩夢ちゃんは可愛いなぁ!!』ギュッ!!

歩夢『わ、若葉ちゃん!?////』

歩夢『うぅ……恥ずかしいよ……』

若葉『そういう恥ずかしがっちゃう所も可愛いYO!』

歩夢『も、もぉ〜!///』

若葉『えへへ!』ニコニコ

歩夢『……もうっ若葉ちゃんったら……』ニコニコ

歩夢『──そう言えば若葉ちゃんも、新しいクラスはどうなの?』

若葉『え?』

歩夢『楽しい?』

若葉『………………』

若葉『うん! 楽しいよ!』

若葉『でも、歩夢ちゃんいないから私も前のクラスの方がいいかなぁ〜!』

歩夢『おぉ、同じ考えだね〜』

若葉『うん!』

若葉『……歩夢ちゃん』

歩夢『ん?』

若葉『歩夢ちゃんは私が守るからね』

歩夢『──うん!』ニコッ



──どうしてわたしは、この時の若葉ちゃんへの違和感に気がつけなかったんだろう。

一生後悔する。

100: (しまむら) 2021/06/08(火) 02:41:21.82 ID:nZPZXIYr
───────────

×月◇日

書くことない。

若葉ちゃんがいない教室はやっぱりつまらない。

若葉ちゃん、今日も可愛かったし、かっこよかったなぁ〜!

大好き! すきすき! 大好き!

そうだ。若葉ちゃんの好きな所をひたすら書いていこう。そうしよう。

えーと、まずはわたしより背が小さいのに勇気があって、かっこいい。でも優しくて可愛くて愛おしくて可愛い!

あれ? 可愛いがいっぱい書かれちゃってる。

まぁでもいいか。

若葉ちゃんが可愛いのは当たり前だもんね。

───────────

101: (しまむら) 2021/06/08(火) 02:49:57.27 ID:nZPZXIYr
───────────

〇月△日

若葉ちゃんの様子がおかしい気がする。

前より、笑わなくなった気がする。多少は笑うけど、前みたいに常に楽しそうな感じはなくて、なんか疲れてる気がする。

何があったんだろう?

それに、一緒に帰る時、たまに髪が濡れていることもあるし、上履きも何故か持ち帰っている。それに上履きの交換頻度が多い気がする。

なんなんだろう。……もしかして、あの時のケンカが原因でなにかされてるのかな?

そう思って若葉ちゃんに聞いてみても、若葉ちゃんは「歩夢ちゃんのせいじゃないよ」って言う。「私は大丈夫だから」とも言う。

……若葉ちゃん、本当に大丈夫かな?

本当に……同じクラスが良かったな。

会える時間が減ったから、何が起きているのか分からない事もある。

今日も早く寝よう。

おやすみなさい。

───────────

102: (しまむら) 2021/06/08(火) 02:57:07.60 ID:nZPZXIYr
───────────

◇月■日

若葉ちゃんの様子がおかしい。

帰り道、突然泣き始めちゃった。

若葉ちゃんが泣いている所、初めて見た。

どうしたの? 若葉ちゃん。

何を聞いても、若葉ちゃんは「なんでもない。歩夢ちゃんのせいじゃない」って言う。

本当に? 本当にわたしのせいじゃないの?

……とにかく、明日学校に行ったらすぐに若葉ちゃんの教室に行こう。

……集団登校ルールのせいで、若葉ちゃんと一緒に学校行けないのほんとやだ。

同じ東雲なのに、グループ違うし……。早く会いたい。

明日に備えて、早く寝よう。

おやすみなさい。

───────────

103: (しまむら) 2021/06/08(火) 03:05:34.65 ID:nZPZXIYr
歩夢『若葉ちゃん、どこにいるの?』


朝学校に来て、若葉ちゃんの教室に行く。

でもそこに若葉ちゃんの姿はなかった。

若葉ちゃんのクラスの子に「若葉ちゃんはどこ?」って聞くと、まだ来てないねって言われた。

色々な所を探す。学校内全てを、探す。

──見つからなかった。


歩夢(若葉ちゃん、どこにいるの?)

歩夢(あと行ってない箇所は……うーん……)

歩夢(屋上はまだ行ってないよね?)

歩夢(でも、先生から入っちゃいけないって言われてるよね……?)

歩夢『……とりあえず、行ってみよう』


屋上目指して、早歩きをする。


──本当に、ごめんなさい。

104: (しまむら) 2021/06/08(火) 03:08:05.19 ID:nZPZXIYr
重い扉を開いて、屋上に入る。

──若葉ちゃんは、いた。


若葉『………………』


歩夢『わ、若葉ちゃん?』

歩夢『なんでそんな所に立っているの?』


若葉『………………』

若葉『……見つかっちゃったか……』


若葉ちゃんが屋上にいた。

フェンス越しに立っていた。

──なんでそんな所に立っているの?

105: (しまむら) 2021/06/08(火) 03:11:28.91 ID:nZPZXIYr
歩夢『わ、若葉ちゃん……だ、ダメだよ』

歩夢『危ないから……戻ってきて? ね?』


──声が震える。


若葉『………………』

歩夢『危ないから……ほら……』

若葉『疲れちゃった』

歩夢『え?』

若葉『歩夢ちゃん』

若葉『私もう、疲れちゃったよ』

歩夢『な、何言ってるの……?』

若葉『……どうやったら楽になれるか、考えてたの』

若葉『そしたら……ここに立ってた』

歩夢『』

歩夢『だ、ダメだよ若葉ちゃん』

若葉『………………』

歩夢『戻ってきて……?』

若葉『…………疲れちゃったよ……歩夢ちゃん』

歩夢『や、やめて』


わたしの脳裏に、最悪な事態が想像される。


歩夢『やめて……やめてやめてやめて!!』

歩夢『若葉ちゃんッ!!』

歩夢『やめてッ!!』

若葉『………………』

106: (しまむら) 2021/06/08(火) 03:14:43.72 ID:nZPZXIYr
歩夢『お願い、戻ってきて』

歩夢『わ、若葉ちゃんまで……いなくならないでよ……』


いなくなっちゃったお父さんと、若葉ちゃんの姿が重なる。

わたしは必死に若葉ちゃんへ声を掛け続けた。


歩夢『お願いだから……やめて……っ……!』

若葉『………………』

歩夢『ほ、ほら!』

歩夢『や、約束したじゃない』

歩夢『わたしがスクールアイドルになって、若葉ちゃんがわたしの歌を作る』

歩夢『……ね?』

若葉『……そんな約束、してたね』

歩夢『え?』

若葉『もうさ』

若葉『いいよ、そんなの』

歩夢『』

若葉『それにさ』

若葉『私が……こんなに……辛い思いをするようになったのは』

若葉『──歩夢ちゃんのせいじゃん』


歩夢『──え?』

107: (しまむら) 2021/06/08(火) 03:19:29.56 ID:nZPZXIYr
歩夢『わたしの……せい……?』

若葉『!?』

若葉『え? いや……ち、違う……!』

若葉『わ、私……そんな事思ってなかったのに……!!』プルプル

歩夢『──わ、若葉ちゃん! 危ないよ!!』

歩夢『早く、戻ってきて……!!』

歩夢『お願いだからッ!!』

若葉『歩夢ちゃん……』

歩夢『お願いだから……戻ってきて……』

若葉『…………』クルッ

若葉『歩夢ちゃん』ニコッ

歩夢『!!』パァァァァ

歩夢『若葉ちゃん! 戻ってきてくれ──』



若葉『ごめんね。それは……できないや』



歩夢『──へ?』

108: (しまむら) 2021/06/08(火) 03:23:21.33 ID:nZPZXIYr
若葉『私……もう……心に余裕が無いんだ』

若葉『歩夢ちゃんのせいじゃないのに……私……』

歩夢『わ、若葉ちゃん……』

歩夢『お願い、やめて……!!』プルプル

若葉『えへへ……歩夢ちゃん』

若葉『ごめんね』ニコッ



──若葉ちゃんの姿が、わたしの視界から消えた。

109: (しまむら) 2021/06/08(火) 03:26:30.33 ID:nZPZXIYr
歩夢『』

歩夢『』

歩夢『』

歩夢『』

歩夢『』

歩夢『ぁぁ……!』

歩夢『ああああ……』

歩夢『いや……いやぁ……ぁあ……!!』

歩夢『───────』

歩夢『あああぁぁぁああああああああッ!!』

110: (しまむら) 2021/06/08(火) 03:28:33.33 ID:nZPZXIYr
───────────

■月■日

ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい

わたしのせいだわたしのせいだわたしのせいだわたしのせいだわたしのせいだわたしのせいだわたしのせいだわたしのせいだわたしのせいだわたしのせいだわたしのせいだわたしのせいだわたしのせいだわたしのせいだわたしのせいだわたしのせいだわたしのせいだわたしのせいだわたしのせいだわたしのせいだわたしのせいだ

───────────

111: (しまむら) 2021/06/08(火) 03:33:46.90 ID:nZPZXIYr
───────────

〇月〇日

若葉ちゃんは生きていたと聞いた。

木に引っかかって、衝撃が緩和され、両足の骨折で済んだと聞きました。

でも、誰も会えない状態らしい。

精神的問題で。

……わたしのせいだ。

本当にごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。

なんで若葉ちゃんの様子がおかしかった事を、もっと気にしなかったんだろう。

わたしのせいだ。

わたしは、世界で一番大切な子の人生を、壊してしまったんだ。

ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。

───────────

112: (しまむら) 2021/06/08(火) 03:40:22.28 ID:nZPZXIYr
───────────

◇月◇日

若葉ちゃんのクラスの子から、若葉ちゃんのことを聞きました。

若葉ちゃんは酷いイジメにあっていたようだ。

わたしは自分のおろかさを呪います。



なんでもっと若葉ちゃんによりそわなかったんだろう。

わたしは、ばかだ。

若葉ちゃんのじんせいは、わたしのせいでこわれてしまいました。

ほんとうに、ごめんなさい。

───────────

113: (しまむら) 2021/06/08(火) 03:50:52.54 ID:nZPZXIYr
───────────

■月◇日

神様はなんでこんなに残酷なの?

なんでわたしから大切な人ばかり奪っていくの?

お父さん。仕事で忙しくなってしまった、お母さんとの楽しい時間。

世界で一番大切な若葉ちゃんとの日々。

わたしは若葉ちゃんとずっと一緒にいたかった。それだけなのに。

なんでわたしから全部奪うの?

分かってる。わたしのせいでしょ?

でも、あまりにも理不尽過ぎる。

なんでわたしから全部奪うの?

……なんで若葉ちゃんがイジメられなくちゃいけなかったの?

わたしのせいだよね? そんなのは知ってるよ。

じゃあ、なに? わたしはこの世に産まれちゃいけなかったの?

若葉ちゃんとわたしの大切な日々は、なくなっちゃったのに。

若葉ちゃんとずっと一緒にいたいという夢は、叶わなくなっちゃったのに……。


な ん で 楽 し そ う な 人 達 が た く さ ん い る の ?

───────────

114: (しまむら) 2021/06/08(火) 03:52:53.69 ID:nZPZXIYr
───────────

■月□日

絶対に許さない。

───────────

131: (しまむら) 2021/06/09(水) 17:35:53.18 ID:O8e54w7C
『ね、ねぇ■■ちゃん。五十嵐さんの事……本当に隠すつもりなの?』

■■『当たり前でしょ! なに、あなた先生にでも言おうと思ってるの!?』

『ち、違うよ! でもだって……あんな事になるだなんて……』

■■『う、うるさいよ! 他クラスの事なんだから……わ、わたし達は関係ないよ!!』

■■『このまま静かに過ごせば……バレないよ』

『……■■ちゃんが五十嵐さんのクラスの子達に指示出てたんじゃん……』

■■『!! あんた達だって楽しんでたじゃない!!』

『そ、それは■■ちゃんが!!』



歩夢『おはようございまぁす』


■■『!?』ビクッ

『『!?』』ビクッ!!

133: (しまむら) 2021/06/09(水) 17:48:04.23 ID:O8e54w7C
■■『う、上原さん……』

歩夢『みんな早いね〜。どうしたのこんな朝早くから下駄箱前で集まって』

『な、なんでもないよ』

『う、うん!』

■■『たまたま早く登校しただけ! 行きましょうみんな』

歩夢『動いたら〇す』

■■『──へ?』

歩夢『動いたら〇す』

■■『……な、何言ってるの……?』

バァンッッッ!!

『ひぃ!!』ビクッ!!

歩夢『聞いてる? 動かないで。全員だから。──わかった?』

『う、うん……わかった』

『…………』

歩夢『……』

バァンッ!!

『わ、わかった!! わかったから下駄箱叩かないでよ!! こわいよ!!』

■■『……』

歩夢『……ねぇ、あなたも聞いて──』

■■『やだ! こわーい』

歩夢『…………』

134: (しまむら) 2021/06/09(水) 17:59:06.42 ID:O8e54w7C
■■『上原さん、そんな子だったっけ? もっと大人しい子だも思ったのにどうしたの? 急にイキリ始めてない?』

■■『それに、〇すってひどくな〜い? 暴言だよそれー』

『た、たしかに……』

『せ、先生が〇すとか死ねとか言っちゃいけない事だって言ってたもんね!』

歩夢『じゃあ隣のクラスの五十嵐若葉ちゃんの事はイジメても良かったの?』

■■『──へ?』

歩夢『ふーん、そっかぁ』

歩夢『〇すとか暴言はダメで、イジメはやってもいいんだ』

歩夢『すごいねぇ』

■■『な、なんで……』

歩夢『隣のクラスの子達に普通に聞いたら教えてくれたよ?』

■■『な、なんで!!』

『みんな言わないって言ってたのに……』

■■『!! ちょっとあんた、変な事言わないでよ!! ──上原さん、嘘だよそんなの。隣のクラスの子達の嘘だよ!!』

『そ、そうだよ!!』

歩夢『そうなの?』

『う、うん!』コクリコクリ

135: (しまむら) 2021/06/09(水) 18:09:14.49 ID:O8e54w7C
歩夢『全部■■さん達の指示だったって聞いたけど……嘘なの?』

歩夢『へ〜』

歩夢『ほんと?』

『あ、当たり前じゃん』

歩夢『ほんと?』

『な、何回聞くの!?』

歩夢『ほんと?』

『……う、うん』

歩夢『ほんと?』

『……』

『み、■■ちゃん……こ、この子怖いよ……』ガクガク

■■『……』ゴクリ

■■『……証拠出しなさいよ証拠!』

歩夢『は?』

■■『わたし達が五十嵐さんをイジメてたって証拠を!!』

歩夢『……』

■■『ほら、証拠ないじゃん! 証拠ないんだったらその子達の嘘に決まってるよ!!』

136: (しまむら) 2021/06/09(水) 18:23:46.48 ID:O8e54w7C
ピッ ──ザザッッ

『……■■ちゃんが五十嵐さんのクラスの子達に指示出てたんじゃん……』

『!! あんた達だって楽しんでたじゃない!!』

『そ、それは■■ちゃんが!!』


■■『……え……?』

歩夢『ついさっきあなた達が話してたじゃない』

■■『──』サァァァ

歩夢『最近の録音機って音質良いよね〜』ニコニコ

歩夢『お小遣い無くなっちゃったけど、良いのが買えたよ』

歩夢『あっ、何を指示していたかしっかり録音されてないって言うかな? 大丈夫安心して。若葉ちゃんのクラスの子達の証言も録音してあるよ』

歩夢『トイレの中で水掛けたりとか上履きに落書きしたり捨てたりとか典型的なイジメもやってたんだってね』

歩夢『しかも指示出すだけじゃなくてあなた達も参加してたこともあったんでしょ? よくそれで他クラスだから関係ないとかバレないなんて言えたね〜』

歩夢『ね?』ニコニコ

『……』

歩夢『……』ニコニコ

『……』

歩夢『……』ニコニコ

■■『……え、えっと……』

歩夢『…………』

歩夢『あと……なんだっけ……?』

歩夢『画鋲で……若葉ちゃんの……ッ、身体に……穴、開けて遊んでたんだって…………?』

137: (しまむら) 2021/06/09(水) 18:34:21.06 ID:O8e54w7C
『う、上原さん! 違うの!! 全部■■さんの指示なの!!』

『そ、そうだよ!! 私達は巻き込まれただけ!!』

■■『ふ、ふざけないでよ!!』

『黙っててよ! 最低な人の癖に!!』

■■『う、上原さん!』

歩夢『なに?』

■■『お、お願い……先生に言わないで……』

■■『ま、ママ達に……お、怒られちゃう』

歩夢『』ピキッ

歩夢『怒られる?』

■■『ん、ん!』コクリコクリ

■■『わ、私の家……親が厳しいから……こ、こんな事バレたら』

歩夢『怒られる?』

■■『……う、うん』

歩夢『怒られる?』

バンッ!! ──バン、ガンガンッ!! バァンッッッ!!

『『『!?』』』ビクビク

歩夢『怒られる?』ボタ、ボタ

『……』ガクガク

『ひ、ひぃ……! ち、血が……手から……』

■■『…………』プルプル

139: (しまむら) 2021/06/09(水) 18:46:21.18 ID:O8e54w7C
歩夢『──』ボソボソ

『へ?』

歩夢『こんな時にまで自分の心配してるのおかしいでしょなんで若葉ちゃんがこの子がああなればよかったのにわたしの世界で一番大切な若葉ちゃんへの謝罪よりも自分の心配──』ブツブツブツブツ

■■『ヒッ……!!』

歩夢『』

歩夢『』

歩夢『』

歩夢『……』ニコッ

歩夢『大丈夫!』ニコニコ

歩夢『先生には言わないよ』ニッコリ

歩夢『というか言うつもりは無かったもん』

■■『!? ほ、ほんと?』

歩夢『うん!』

143: (しまむら) 2021/06/09(水) 19:02:02.98 ID:O8e54w7C
歩夢『ねぇ、■■さん』

歩夢『親に怒られるのが怖いんだよね?』

■■『う、うん』

歩夢『なら、わたしから良い提案があるの!』

■■『い、良い提案……?』

歩夢『うん』

歩夢『屋上から飛べば良いんだよ』

■■『は?』

歩夢『そうしたら、二度と怒られる心配もないよ』

■■『い、いやいや……何言ってるの……?』

歩夢『え? いやなの?』

歩夢『仕方ないなぁ』

ガシッ

■■『え、ちょ、ちょっと』

歩夢『ほら、屋上行こうよ。連れてってあげる』

歩夢『あっ、なんなら一緒に飛ぼうよ! わたしも一緒に飛ぶっ』ニッコリ

歩夢『うん。そうだよね。若葉ちゃんがイジメられちゃったのは──わたしのせいだもんね!』ニコニコ

■■『』

歩夢『さっ、一緒に行こう』ズル、ズル

■■『』

歩夢『これで怒られなくなるよっ』ニッコリ

■■『や、やだ……』

■■『やだやだやだやだ!!』

■■『やだぁ!! 離してよぉ!!』

146: (しまむら) 2021/06/09(水) 19:18:40.06 ID:O8e54w7C
歩夢『でも羨ましいなぁ……怒ってくれる親がいるなんて幸せだよね』スタスタ

■■『助けて! だ、誰かぁ!!』

『『……』』

歩夢『わたしはあんまり怒られたことないからなぁ……すっごく寂しいの』スタスタ

■■『離して! 離して離して!!』グイ、グイッ!!

歩夢『あっ、でも若葉ちゃんはわたしに優しくしてくれるだけじゃなくて、たまーに怒ってくれるの。そういう所も大好きなんだぁ』スタスタ

歩夢『若葉ちゃんに会いたいなぁ』

■■『う、上原さん……聞いてる!?』

歩夢『若葉ちゃん、サスケの事大事にしてくれてるかな? もう捨てられちゃったかなぁ』スタスタ

歩夢『若葉ちゃんが飛んじゃったのはわたしのせいだもんね』スタスタ

歩夢『若葉ちゃんに会いたいなぁ』

■■『ひぃぃぃ……!』ガクブルガクブル

■■『──助けてぇぇぇ!!』




──この後、騒ぎに気がついた先生から止められた。

わたしはその後、呼び出しをくらって、お説教を受けました。

ケンカのやりすぎは良くないって言われてね。

わたしは黙ってそのまま怒られ続けた。特に何も言わず、黙って怒られた。

わたしの様子を■■さんはオドオドしながら見ていた。──わたしが先生に若葉ちゃんの事を言わないか、心配してたんだろうな。

甘やかされて育った、親の見ていないところで好き勝手するずるい人。──わたしと二度と関わらないでほしい。

心の底からそう思った。

147: (しまむら) 2021/06/09(水) 19:26:15.78 ID:O8e54w7C
───────────

◇月△日

今日、初めて先生に怒られた。

初めての経験だ。あんな感じなんだね。

それにしても、今日はいけない事をたくさんしてしまった。


他人の下駄箱なのに、いっぱい叩いてしまった。

物に当たっちゃダメだよね。

歩夢ちゃん。若葉ちゃんがいたらそう言って怒ってくれるかな?

基本的には甘やかしてくれるから、どうだろ?

まぁ、もう若葉ちゃんはわたしに会いたくないだろうから、考えるのはやめよう。

おやすみなさい。

───────────

148: (しまむら) 2021/06/09(水) 19:30:41.26 ID:O8e54w7C
───────────

●月〇日

若葉ちゃんが転校した。

若葉ちゃんのクラスの担任から聞きました。

もう二度と会えないんだろうね。

本当にごめんなさい。

───────────

149: (しまむら) 2021/06/09(水) 19:42:57.96 ID:O8e54w7C
『う、上原さん』

歩夢『……なに?』

『い、五十嵐さんの事……他のクラスの子から聞いたの……』

歩夢『……』


ある日、突然一人のクラスメイトから話をかけられた。

確かこのクラスの学級委員長の子だ。

若葉ちゃんと■■さんがケンカした時に止めに入った子。


『えっと……その……友達だったんでしょ?』

歩夢『……いきなりなに?』

『その……残念だったなって思って』

歩夢『は?』

『わ、私達になにか出来ることあったら言って! 同じクラスメイトなんだし!』

歩夢『』


この子の掛け声に連動するかのように、クラスのみんなが騒がしくなる。

ざわざわざわざわと、騒々しい。

とても耳障りだった。

150: (しまむら) 2021/06/09(水) 20:04:08.23 ID:O8e54w7C
『なにかしてほしい事とかあったら言って! わたし、なんでもす──』

歩夢『──じゃあ時間を戻してくれる?』

『え?』

歩夢『すっごく後悔してることがあるの』

『そ、それは……』

歩夢『ほら、何も出来ないよね?』

『……』

歩夢『意地悪な事言ってごめんね。──でも、大抵何も出来ないよね?』

『そ、それでも!』

歩夢『……あなたすごいね』

『え?』

歩夢『よく事情も知りもしないのに、この個人の問題に首突っ込めるなんて……本当にすごいよ』ニッコリ

『……』

歩夢『……』スタ

ガシッ スッ──

『え? 急にイス持ち上げて……ど、どうしたの?』

『あ、危ないよ……?』

151: (しまむら) 2021/06/09(水) 20:18:33.30 ID:O8e54w7C
歩夢『ッ!!』ブンッ!!

──ガンッッ!!

『へ? ──え?』ペタン…

歩夢『……』

ザワザワザワザワ

『な、何……なんで急にイス投げたの……?』

『こ、こっわ……!』

『あの子、上原さんの為に色々言ってたのに……』

ザワザワザワザワ

歩夢『ッ……!!』ギリッ

歩夢『……るさい』

『へ?』

歩夢『うるさいんだよ……どいつもこいつも……ざわざわざわざわと──うるっさいんだよッ!!』

歩夢『全員黙っててよ!!』

歩夢『──それにあなたも……中途半端な偽善が!! 一番いらないのッ!!』

『ひっ……! ご、ごめんなさい! ごめんなさい!』ビク、ビク

歩夢『……っ……』

歩夢『──次は当てるから』ギロリ

歩夢『わたしに二度と話しかけないで』

154: (しまむら) 2021/06/09(水) 20:25:16.34 ID:O8e54w7C
『『『…………』』』

歩夢『……』


教室が静まり返る。

昨日のテレビの話題で楽しく会話してた子達も、楽しそうにじゃれあっていた子も──わたしとこの子の様子を見て話していた子も……みんな静かになる。

──わたしのせいで。


歩夢『…………』


とある子の声が、私の耳に届く。

静かな教室だったから、よく響いた。


■■『あの子、狂ってるよ……』



──わたしの幸せな日々は、もう無くなってしまった。

158: (しまむら) 2021/06/09(水) 20:32:06.12 ID:O8e54w7C
───────────

●月●日

また物に当たってしまったし、わたしに話しかけてくれた子にひどいことを言ってしまった。

でも、我慢できなかった。イライラしちゃったんだもん。

あと、狂ってるって言われた。

その通りだね。

あの子の言う通り、わたしは狂ってる。

だから誰もわたしに話しかけないでほしい。

人が嫌いだから。

誰もわたしに関わらないで。

───────────

161: (しまむら) 2021/06/09(水) 20:43:33.55 ID:O8e54w7C
───────────

■月●日

今日から中学生。

変わった事は特にない。

お小遣いが少し増えるくらい。

あと制服か……なんか少し大人になった気分。

お母さんからお小遣い増えるの嬉しい? って聞かれたけれど、何も答えずに家を出て学校へ向かってしまった。

無視しちゃってごめんなさい。でも最近、どうやってお母さんと話せばいいのか分からないの。

本当にごめんなさい。

───────────

163: (しまむら) 2021/06/09(水) 21:14:17.69 ID:O8e54w7C
───────────

◇月●日

中学生活にも少し慣れてきた。小学生の頃みたいな、みんなで仲良く! みたいな雰囲気も無くなって、グループでいる子達が増えた。

その為、他人に関わろうとしないわたしには皆あまり話しかけてこない。楽。

ただ、変な子に目をつけられた。

所謂不良という感じの子。

あまりにもしつこい。それに、その不良の周りにもわらわらと人が集まっている。

ご主人様に従う犬みたいだ。

毎日毎日楽しそうにしている。

ムカつく。本当にムカつく。

わたしに関わらないで。

───────────

164: (しまむら) 2021/06/09(水) 21:22:32.53 ID:O8e54w7C
───────────

△月■日

不良の子を無視し続けていたら、遂に手を出された。

ひっぱたかれた。

痛かったなぁ……。

まさか手を出されるとは思わなかった。無視されるのがイライラするって言ってた。

わたしはその事に無性にイライラしてしまって、やり返してしまった。

楽しそうな日々を送っているあなた達が、無視された程度でイライラしないでよ。

本当にムカつく。ムカつくムカつくムカつく。

わたしの身体を傷付けていいのはあの子だけなのに。

───────────

165: (しまむら) 2021/06/09(水) 21:32:25.69 ID:O8e54w7C
───────────

■月〇日

今日もケンカしてしまった。

最近、ケンカしてばかりだ。髪型も動きやすいポニーテールに変えてしまった。そっちの方がやりやすいから。

なんなんの? 本当に。

わたしはケンカをする為に身体を鍛えていたわけじゃない。

誰かとケンカすると、その人の仇だって感じで別の誰かがケンカを吹っかけてくる。

馬鹿なんじゃないの?

勝手にやっててほしい。わたしを巻き込むな。

……でも、やられっぱなしは腹が立って仕方ないから、わたしはやり返してしまう。

わたしも馬鹿なんだよね。

ケンカは同じレベルの子達でしか起こらない。

お父さん、お母さん。こんな子に育っちゃって、ごめんなさい。

───────────

168: (しまむら) 2021/06/09(水) 21:49:20.76 ID:O8e54w7C
───────────

◇月■日

明日から高校生だ。

選んだ高校は、虹ヶ咲学園。

虹ヶ咲学園を選んだ理由は、何となく。自由な校風に惹かれた。

あと、制服かな。若葉ちゃんが着たらすごく似合いそうな制服が目に映って、受験することにした。

若葉ちゃんと一緒に着たかったなぁ。虹ヶ咲学園の制服。

最近、自分がどういう風に生きたいのかわからない。

このまま生きていて良いのかもわからない。

若葉ちゃん、今あなたはどう過ごしていますか?

幸せな時を過ごせていますか? 過ごせていたのなら、嬉しいです。

わたしは高校生になっても、中学生の頃と変わらない生活しか送れないんだろうな。

どうせ同じ事の繰り返しなんだ。

生きていて、良い事なんて何も無い。

───────────

169: (しまむら) 2021/06/09(水) 21:59:26.80 ID:O8e54w7C
歩夢(校舎……でっか……)


今日からわたしが通う虹ヶ咲学園。

虹ヶ咲学園前駅があり、そこからですらよく校舎が見える大きい学園だ。

中学校とはレベルが違う。少し、すこーしだけワクワクする自分がいた。

校舎内を目指し、歩く。


歩夢『……ん?』ピタッ



愛『おぉ〜……!』パァァァァ



歩夢『……』


キラキラした表情で、虹ヶ咲学園を見上げる金髪の女の子がいた。

170: (しまむら) 2021/06/09(水) 22:06:19.42 ID:O8e54w7C
歩夢『……』


別にそのまま気にせず校舎に入ればよかったのに、わたしにはそう出来なかった。


歩夢『ねぇ』

歩夢『そこに立たれるの』

歩夢『邪魔なんだけど』


こんなこと言うつもりもなかった。

でも──楽しそうな表情が少し気に食わなかった。


歩夢(本当に、どうしようもないな。わたし……)


自分で自分が嫌になる。

──ただ、金髪の女の子からは意外な反応が返ってきた。


愛『あ?』

愛『こんなに道広いんだから少しズレて歩けば良いだろーが』

歩夢『……』

歩夢(あっ、この子)

歩夢(わたしと同じか)


──こんな子に育ってしまって、ごめんなさい。

171: (しまむら) 2021/06/09(水) 22:11:09.00 ID:O8e54w7C
歩夢『こんな道のド真ん中で校舎見上げながら立たれると邪魔なんだって言ってるんだけど?』

歩夢『日本語分からないの? 頭悪そ〜』


──嫌い。


愛『……アタシ、この学校で一番成績の良い情報処理学科の新入生なんだけど。普通科と偏差値の差が凄いの知ってるか?』ニコニコ

歩夢『…………』

愛『はっ』

愛『ちゃんと調べてからマウント取れよ。ばーか』

歩夢『……』

歩夢『ふふっ』

愛『あ?』

歩夢『頭の良い情報処理学科の人も、あんなお子ちゃまみたいな表情で学校見るんだね』

歩夢『頭脳は大人、見かけはお子ちゃまなんだね』クスクス


──嫌い。


愛『』ピキッ

愛『おい』

愛『今アタシの事、馬鹿にしただろ?』

歩夢『……最初から馬鹿にしてるよ?』

歩夢『頭良くても、そんな事も分からないんだねぇ』


──こんなこと言ってしまう自分が大嫌い。

175: (しまむら) 2021/06/09(水) 22:16:58.52 ID:O8e54w7C
愛『……』

歩夢『……』

愛『表出ろ』

歩夢『……ここ外だっつの』

歩夢『ばーか』

歩夢(自然と煽ってしまう。本当にろくな人間じゃないなぁ……わたし)

愛『ッッ……!!』プルプル

愛『ケンカする時のお約束だろうが!!』

歩夢『知らないっての』

歩夢『てか、声デカいんだけど』

歩夢『それに、さっきから余計な事ばっかペラペラ喋ってさ』

愛『』

歩夢『ほんっと』

歩夢『弱い犬ほど良く吠えるんだよなぁ』

愛『』ブチッ


わたしの入学式初日は、こんな感じだった。

176: (しまむら) 2021/06/09(水) 22:26:44.55 ID:O8e54w7C
───────────

◎日■日

今日から高校生。

中学の頃と変わらず、またケンカをしてしまった。

本当に、どうしようもない。

消えたい。こんな自分が大嫌い。

すぐにイライラしてしまう、自分をコントロール出来ないわたし。

本当に、なんのために生きているんだろう。

他人の人生を壊す、親不孝者。上原歩夢。

今日の金髪の女の子とケンカしてしまった原因。明らかにわたしのせいだ。

……虹ヶ咲学園はとても広いから、学科も違うし二度と関わらないだろうけど、本当に悪いことをしてしまった。

ごめんね。

───────────

177: (しまむら) 2021/06/09(水) 22:41:44.04 ID:O8e54w7C
愛『おい』

歩夢『……』

愛『昨日はよくもやってくれたなぁ……!』

歩夢(まさか連日話すことになるなんて思わなかったよ)

歩夢『……はぁ……』

歩夢『なんの用?』

愛『決着付けるぞ』

歩夢『はぁ?』

歩夢『10対0でわたしの勝ちでしょ』

愛『まだアタシは負けを認めてねーんだよ』

歩夢『……そんなくだらない事言う為にわざわざ普通科の教室まで探しに来たの?』

歩夢『こんな広い学校の中でご苦労さまだね〜。暇人だね〜』


正直、こんなこと初めてだった。わたしとケンカして負けた子は、二度とわたしに話しかけてこない子しかいなかったから。


歩夢『その頭のしっぽを揺らしながらここまで来たんだね』

歩夢『んー、えらいえらい。可愛いワンちゃんだぁ〜……ナデナデしてあげよーか?』

愛『……ッッ』プルプル

愛『てめぇもアタシと同じ髪型してんだろーが!!』バンッ!!

歩夢『……机叩くなよ』

歩夢『うるさい』

歩夢(適当に煽って、時間を稼いで帰ってもらおう。ホームルーム始まって先生が来たら追い出してもらえるでしょ)

178: (しまむら) 2021/06/09(水) 22:49:30.95 ID:O8e54w7C
ザワザワザワザワ

『え? なに? ケンカ?』

『こわ……』

『……絶対にあぁいうヤンキーっているよねぇ』

ヒソヒソヒソヒソ


歩夢『!!』

───────────

ザワザワザワザワ

『な、何……なんで急にイス投げたの……?』

『こ、こっわ……!』

『あの子、上原さんの為に色々言ってたのに……』

ザワザワザワザワ

───────────

歩夢『…………』


ざわつく教室は、あの時の事を思い出してしまう。


歩夢『ねぇ』

歩夢『静かにしててくれる?』

歩夢『うるさいんだけど』


──イライラするなぁ。

179: (しまむら) 2021/06/09(水) 22:54:27.73 ID:O8e54w7C
『『『……』』』

歩夢『……』


教室がシーンと静まり返る。


歩夢(決着付けに来た、か)

歩夢『……場所変えよ』

愛『!!』

歩夢『昨日みたいにまたボコボコにしてあげるよ』

歩夢『このバカ犬が』


こんな完全に八つ当たりだ。

──本当に、ごめんなさい。

180: (しまむら) 2021/06/09(水) 23:03:07.36 ID:O8e54w7C
───────────

〇月◎日

入学から2日目。

まさかの邂逅でびっくりした。

いや、まぁあの子が教室に乗り込んで来たから邂逅ではないか。そんなことはどうでもいいね

ケンカする気は無かった。

あんな事する気は無かったのに、騒々しい、ざわつく教室にイライラしてしまってダメだった。

本当にごめんなさい。

ごめんなさい。

生まれてきてごめんなさい。

───────────

182: (しまむら) 2021/06/09(水) 23:11:22.50 ID:O8e54w7C
───────────

■月◎日

入学してからしばらく経った。

今日も変わらず、金髪の女の子に声をかけられる。

名前は宮下愛。ヤンキーだ。

彼女は執拗にわたしと決着を付けようとする。

最初は無視してケンカを断っていたけれど、あの子は何回もわたしにケンカを吹っかけてくる。

決着付けるぞ! って何回も言ってくる。

なんなんだろう。いったい。

こんなのはじめて。

いやまぁこんなはじめて嫌なんですけどね普通に。

明日も学校だし、早く寝よう。あの子とのケンカで怪我したくないし。

そうだ。宮下愛の為に仕方ないから救急セットも持っていこうかな?

舐めんなって怒られそうだけど。まぁいいや。

おやすみなさい。

───────────

184: (しまむら) 2021/06/09(水) 23:18:52.45 ID:O8e54w7C
───────────

△月△日

今日も今日とて宮下愛とのケンカの日々。

でもなぜかお昼ご飯を一緒に食べた。

というか勝手に横に座られた。

なんなんだろう。本当に。

それだけじゃなく、あの子のファンの子達の愛トモ? とかいう集団ともご飯を食べた。

意味わからない。

あの子達もケンカ仕掛けてきたから1回ボコボコにしたけど、「めっちゃ強いね〜」とか言いながら翌日普通に話しかけてきた。鋼メンタル過ぎるでしょ。

……調子が狂う。

私に関わらないでほしいのに、虹ヶ咲学園の子達は、なんか違う。

今日も早めに寝よう。

おやすみなさい。

───────────

187: (しまむら) 2021/06/09(水) 23:25:46.12 ID:O8e54w7C
───────────

○月✕日

最悪!

なんかわたし、虹ヶ咲学園の狂犬って呼ばれてるんだけど!?

わたしは犬じゃないもん!

ムカつく、ムカつくムカつくムカつく!!!!

これも宮下愛とのケンカの日々のせいだ!!

許さない!

明日に備えて、今日も早く寝よう。

おやすみなさい!!!!

───────────

191: (しまむら) 2021/06/09(水) 23:33:06.25 ID:O8e54w7C
───────────

○月■日

わたしが虹ヶ咲学園の狂犬って呼ばれている原因はあなただって言ったらなぜかすっごく笑われたのでボコボコにした。

宮下愛だって狐みたいな髪型してるのに!

なんでわたしは狂犬であの子は愛さんなの!?

納得いかない!

虹ヶ咲学園の狂狐ってあだ名を誰か命名してよ。
↑なんか人狼の役職みたい。

……宮下愛、変な子だよね。

なんか、グイグイ来る感じとニカッて笑う雰囲気が



少し若葉ちゃんと似てる気がする。

───────────

197: (しまむら) 2021/06/09(水) 23:50:11.32 ID:O8e54w7C
愛『はぁ……はぁ……!!』

歩夢(今日も今日とていつものケンカ)

歩夢『ほんと毎回毎回──あなたしつこいんだけど』

歩夢『そんなに殴られるのが好きなの?』クスクス

歩夢(宮下愛……本当に変わった子)

歩夢(こんな感じでやられても、普通に話しかけてくるんだもん)

愛『好きなわけ、ねぇだろうが!!』 ヒュッ!!

歩夢『おっとっと』ヒョイ

歩夢『あははっ。女の子の顔を狙うなんて、ナンセンスだね♪』

愛「ッ!! こ、この……ッ!!」プルプル

愛『絶対一発入れてやるからなァ……!!』

歩夢『……やれるもんならやってみなよ』

歩夢(すごい子だよ、あなた)


周りの野次馬は邪魔だったけれど、正直この時間も嫌いではなかった。

わたしと宮下愛はこうすることでしか気持ちを表現出来ないんだ。

それもそうだ。別にわたし達は友達ではないから。

──お昼ご飯も、たまに一緒に食べるけれど、特に笑うような会話もない。

お互い無言の時だってある。


歩夢(でもなんだろうね)

歩夢(あなたの事は、嫌いじゃない)


──そんな風に思っていた時だった。


エマ『だ、ダメッ!!』

愛『へ?』

歩夢『は?』


──わたしは結局、あの時と変わらない、自分をコントロール出来ない人間なんだってこの時に気が付いたんだ。

199: (しまむら) 2021/06/09(水) 23:54:58.05 ID:O8e54w7C
歩夢『…………』

歩夢(え? 誰? この人)

エマ『…………』

愛『お、おいあんた! 何して……危ねぇから離れろって!』

エマ『やだ!』

愛『!?』

エマ『ケンカ……ダメ』

愛『え、えぇ……』

歩夢『……ふふっ』クスクス

エマ『!!』ビクッ!

歩夢『なんですか? あなた急に』

歩夢『ケンカを止めるのが美徳とでも思ってるんですか? 何か漫画やドラマでも見て影響されたんですかぁ?』

歩夢(邪魔しないでよ)

歩夢(早くどこかへ行って)

エマ『ち、違う! でも、ケンカ……ダメだよ』

歩夢『……』

200: (しまむら) 2021/06/10(木) 00:03:57.94 ID:DFifZNka
歩夢『!!』

───────────

『えっと……その……友達だったんでしょ?』

『その……残念だったなって思って』

『わ、私達になにか出来ることあったら言って! 同じクラスメイトなんだし!』

───────────

歩夢『……』


──部外者が入ってこないでよ。


歩夢『ムカつくなぁ』

愛『!! ──おい、上原! カンケーねぇ奴は巻き込むなよ!!』

歩夢『は? 関係ない?』

歩夢『ケンカ止めに介入して来たんでしょ? ならもう関係あるんじゃない?』

愛『ッッッ』

歩夢『それにさぁ……』

歩夢『ムカつくんだよねぇ』

歩夢『──こういう偽善者が、いっちばんね』ギロリ

エマ『……』ジッ

歩夢『……』

201: (しまむら) 2021/06/10(木) 00:17:44.44 ID:DFifZNka
エマ『なんでケンカしちゃったの……? 理由があるなら、わたし聞くから』

歩夢『……』

歩夢『話して何かしてくれるんですか?』

エマ『で、できること……あるかもしれない』


───────────

『なにかしてほしい事とかあったら言って! わたし、なんでもす──』

───────────


あの時のあの子と、この人の姿が重なって仕方がない。


歩夢『ははっ、面白いこと言いますねぇ』

歩夢『そういう場合、大抵なにも出来ませんよ?』

エマ『……』

歩夢『……個人の問題に首突っ込んでさ。あなたみたいな人は……最終的には何もしてくれないんだよ』

愛『……上原?』

歩夢『このケンカ見てるだけの野次馬よりもタチが悪いね』

歩夢(あっ、ダメだ)

エマ『……』

歩夢『──中途半端な偽善が一番いらないの』

歩夢(わたしやっぱり)

シュッ!!

愛『!! 避け──』

歩夢(──自分をコントロールできない、ダメな人間なんだ)



パシッ

歩夢『──へ?』

エマ『……』ギュュュュ

愛『……と、止めた?』

歩夢『』ポカーン

歩夢(う、うそ……止められた……?)

202: (しまむら) 2021/06/10(木) 00:27:22.85 ID:DFifZNka
歩夢『……離してよ』


──最近、わたしは少しずつ変わってきていたと思っていた。

でも、違かった。


エマ『……ケンカやめるって言わなきゃ離さない』

歩夢『──ッ!! わたしに触んないでよ!!』

エマ『!!』ビクッ!

エマ『……ねぇ。何があったのか話してみてよ』ギュュュュ

エマ『何か出来ること──』


ピピー!!


菜々『あなた達! 何してるんですか!! この騒ぎはなんですか!?』


愛『やっべ、生徒会だ』

歩夢『……』

歩夢(力が緩んだ)

パシッ

エマ『あっ……ま、待って!』

歩夢『待ちません。帰ります。さよなら』スタスタ

愛『おい! 上原! ──待てよ!』タッタッタッタ!!


エマ『…………』


歩夢(……一般の人を巻き込んじゃった)

歩夢(最低だな、わたし)

歩夢(こんなわたし)

歩夢(大嫌い)

203: (しまむら) 2021/06/10(木) 00:35:31.26 ID:DFifZNka
───────────

●月□日

変われたと思っていた。

でも、違った。

結局、わたしはイライラするとすぐに手を出してしまう最低のクズなんだ。

それに、わたし……なんで最近学校生活を楽しんでいたの?

わたしは世界で一番大切な、若葉ちゃんの人生を壊した人間なのに。

そんなわたしが、なんで楽しい日々を過ごしているんだ。

ダメだ。そんなの。

最低でクズなわたしは、幸せになっちゃダメなんだ。

若葉ちゃん。こんなわたしが楽しい日々を過ごしてしまってごめんなさい。

ごめんなさい。

───────────

204: (しまむら) 2021/06/10(木) 00:43:05.76 ID:DFifZNka
───────────

○月◎日

昔の日々に戻った。

ケンカばっかりの、あの日々に。

わたしにはこれがお似合いなんだ。

ただ、宮下愛から不良同士でケンカをするなってルールを言い渡された。エマさん? からの約束だって言われた。誰。

まぁ元よりそのつもりだったから、別にどうでもいい。

もうすぐ、高校2年生になる。

若葉ちゃん。わたし達、もうすぐ大人になっちゃうね。

あなたも今、こんな風に思っているかな?

本当にごめんね。

───────────

233: (しまむら) 2021/06/10(木) 08:16:37.18 ID:DFifZNka
>>204 誤字修正

───────────

○月◎日

昔の日々に戻った。

ケンカばっかりの、あの日々に。

わたしにはこれがお似合いなんだ。

ただ、宮下愛から不良同士以外でケンカをするなってルールを言い渡された。エマさん? からの約束だって言われた。誰。

まぁ元よりそのつもりだったから、別にどうでもいい。

もうすぐ、高校2年生になる。

若葉ちゃん。わたし達、もうすぐ大人になっちゃうね。

あなたも今、こんな風に思っているかな?

本当にごめんね。

───────────

205: (しまむら) 2021/06/10(木) 00:49:37.19 ID:DFifZNka
歩夢『ねぇ』

歩夢『もうわたしに、関わるのやめてよ』


わたしは放課後、宮下愛にそう告げた。

今日はケンカではなく、本当にたまたま出会えた。


愛『は?』

歩夢『……』

愛『なんでだよ』

歩夢(あなたと過ごすと、楽しんじゃうからだよ)

歩夢(でも、そんなこと言えない)

歩夢『……嫌いなの』

歩夢『人が』


もう、全部終わらせよう。そう思ったんだ。

楽しい日々とは、決別だ。


愛『…………』

歩夢『だから、もうわたしに関わるの──』

愛『いやだね』

歩夢『!!』


でもこの子──愛はそうさせてくれなかった。

206: (しまむら) 2021/06/10(木) 00:54:05.40 ID:DFifZNka
歩夢『はぁ?』

愛『なんでアタシがお前の言うこと聞かなきゃいけないんだよ』

歩夢『……』

愛『……それに』

愛『アタシはまだお前に負けたって思ってないから』

愛『決着付けるまで、付きまとってやるからな』


──本当に、こんな子初めてだった。


歩夢『…………』

歩夢『……ふふっ』


自然と笑みが零れてしまう。


愛『んだよ』

歩夢『少しはわたしに攻撃当てられるようになってから言いなよ』

歩夢『宮下』

愛『うるせぇ』

歩夢(ありがとうね、愛)

歩夢(あなたにはだいぶ救われたよ)


──もっと早くあなたと出会えてたら、友達になれていたかもね。


歩夢(さようなら)

歩夢(愛)

207: (しまむら) 2021/06/10(木) 01:11:08.22 ID:DFifZNka
───────────

4月30日

明日から学校がお休みになる。今年のゴールデンウィークは土日が重なるから少し長い。その為明日の5月1日からゴールデンウィークみたいなものだ

お父さんからもらったこの日記、すっごく分厚いのにだいぶ残りのページが少なくなってきた。

まるで辞書みたいな分厚さなのに、だいぶ書いたなぁ……。

お父さん、この日記はわたしの大切な物です。本当にありがとうね。

そっちにもう少ししたら、わたしも行きます。

お母さん、ごめんなさい。

わたし、生きるのが辛くなっちゃった。

生きてて、申し訳なくなっちゃうんだ。

夢の中で、若葉ちゃんの人生を壊したのにって、自分に言われ続けるの。

これ以上は、あの子に申し訳ないの。

だからごめんなさい。

死にます。

今度生まれ変われたなら
わたし、可愛くて優しくて、真っ直ぐな子で生まれたいな。

あっ、でもお母さんから生まれたい。

……前に見た映画で、パラレルワールドっていう言葉が出てきたんだ。

自分の住んでいる世界ではなく、別の世界。そこは別の可能性から想像された世界。

……わたしが、わたしの思い描く理想の女の子である上原歩夢になれる世界もあったのかな?

可愛くて、優しくて、真っ直ぐな上原歩夢に、さ。

長くなっちゃったね。

ごめんなさい。

若葉ちゃん。本当にごめんなさい。

大好き。

───────────

208: (しまむら) 2021/06/10(木) 01:24:45.46 ID:DFifZNka
歩夢『……』スタスタ


適当に、お台場を歩く。

虹ヶ咲学園は、大好きだった。なんだかんだ思い出もあって、楽しかった。

──わたしは楽しんではいけないのにね。


歩夢(ダイバーシティ、あんまり寄ったことないんだよなぁ)

歩夢(最後くらい、ちょっと行ってみようかな)


本当に、適当に歩く。

──そんな時だった。


歩夢(……なんか、騒がしいなぁ)


ワー、ワー!!


しずく『さーさ! 期待の新人スクールアイドル中須かすみちゃんのライブがもうすぐ始まるよ〜!』

しずく『場所はあそこ! かっこいいユニコーンガンダム先輩が立っているあそこ! えーっと……と、とにかくあそこの階段です!』

しずく『詳しくは地図アプリで検索して下さーい! そこでライブがあるよー!』

しずく『あの子はひゃくぱ〜伸びるスクールアイドルだよ! 古参を名乗りたい民よ! 今すぐ我に続くのじゃ〜!!』ブン、ブン!


歩夢『!?』


メガホンを使い、ライブ告知をする女の子。その声に誘導されるお客さんの列。なんだかお祭りの雰囲気に似ている。


歩夢『スクールアイドル……?』


とても懐かしいワードだった。

209: (しまむら) 2021/06/10(木) 01:33:27.28 ID:DFifZNka
歩夢(若葉ちゃんとの約束だった……スクールアイドル)

歩夢(……最後くらい)

歩夢(見てみよう)


わたしはそう思い、列に混ざり移動する。

ライブなんて、初めて見る。

スクールアイドルになるなんて約束を若葉ちゃんとしていた割に、わたしはスクールアイドルについて何も知らなかった。

しばらくすると、無事に会場へとたどり着く。

会場の雰囲気は、なんともいけない感じだ。

静かに待つ人。
友人? 知人? 年齢層が離れていそうなのに、今から出てくるスクールアイドルの子について語っている人達もいる。

どんな関係?

女の子もわりと多い。よく見ると虹ヶ咲学園の制服の子もいる。

さっとわたしは帽子を被る。バレたら面倒くさそうだ。

──そんな事をしていたら、スクールアイドルの子がステージに出てきた。

210: (しまむら) 2021/06/10(木) 01:40:01.49 ID:DFifZNka
かすみ『みっなさーん! こんにちは〜!』

かすみ『宇宙一可愛い、かすみんだよ〜?』


歩夢『』

歩夢(か、かすみん……? 宇宙一?)

歩夢(な、何言ってるのあの子──)

『きゃー!!』

『かすみーん!! かわいいよ〜!!』

『L! O! V! E! かすみん!!』

歩夢(すっごいウケてる!?)


わたしの知らない世界だった。


かすみ『こーら! まだラブコールは早いですよ〜?』

かすみ『でもぉ、かすみん嬉しいっ。ありがとう♡』

かすみ『きゅんきゅんさせちゃうぞ?』キャピッ

『『『かわいい────!!』』』


歩夢『』

歩夢(い、胃もたれしそう)

212: (しまむら) 2021/06/10(木) 01:50:57.11 ID:DFifZNka
かすみ『さぁ、MCもそろそろ終わりにしますよ〜』

かすみ『……本日は皆様お集まり頂き、誠にありがとうございます』ペコリ


歩夢(いきなり雰囲気が変わった!?)


かすみ『私の為にライブを見に来てくれた方、たまたま通りかかって見に来てくれた方……色んな方々がいると思います』

かすみ『また、色々と悩みを抱えた方々もいるかもしれません』


歩夢『!?』


かすみ『でも、そんな方々も──ここにいる方々全員! 今は何も考えず!』

かすみ『──かすみんのワンダーランドを見てくださいっ!』キャピッ

かすみ『さぁ、いきますよ〜!!』

かすみ『──』スゥゥゥゥゥ


──若葉ちゃんが、よく使っていた。ときめきという言葉。

わたしはあまり使うことはなかった。

けど──この日、わたしは生まれて初めてときめきを感じた。

世界が──変わり始めた。

213: (しまむら) 2021/06/10(木) 01:59:02.16 ID:DFifZNka
見ている景色が、切り替わる。

わたしの目に映ったのは、まさにワンダーランド。

先程いたお台場とは違う世界へと変化する。

メルヘンチックなその世界に、スクールアイドルの中須かすみちゃんがまるでお姫様のように歌い、踊る。

動きの激しい所は激しく、可愛い所は可愛く。一つ一つの動作が洗練されていた。

声が出なかった。

周りのお客さん達のコール、中須かすみちゃんのパフォーマンス。それらが一帯となり、夢のような時間を作り出す。

なんて表現していいか、わからない。

ただ──この瞬間だけは、わたしの中にあったごちゃごちゃとした思考は消え去り、スクールアイドル中須かすみの歌に魅力されていた。

214: (しまむら) 2021/06/10(木) 02:12:58.25 ID:DFifZNka
かすみ『ありがとうございましたー!!』タッタッタ!!


歩夢『……』


数曲のライブとMC、その後のアンコールが終わり会場からも少しずつ人が減っていく。

わたしはただただ、立ち尽くしていた。


歩夢『……』

歩夢(これが……スクールアイドル)

歩夢(若葉ちゃんと約束した)

歩夢(わたしの……なろうとしていたもの)


───────────

若葉『歩夢ちゃん! スクールアイドルになってみない!?』

若葉『うん! 歩夢ちゃん可愛いし絶対になれるよ! スクールアイドルに!』

若葉『歩夢ちゃんがスクールアイドルになってなって歌を歌う! そしてその歌を私が作る!』

若葉『歩夢ちゃんならすっごいスクールアイドルになれるよっ』ニコッ

───────────


歩夢『っ……っ……!!』ポロ、ポロ

歩夢『簡単に……言うなぁ、若葉ちゃんは……』

歩夢『こんな……すごいの……簡単には、なれないよ……っ』

歩夢『若葉ちゃん……っ……!』ニコッ


──なぜだか、涙が止まらなくなってしまった。

216: (しまむら) 2021/06/10(木) 02:24:12.29 ID:DFifZNka
歩夢(若葉ちゃん)

歩夢(わたし、ただ逃げようとしていた)

歩夢(わたしはあなたの人生を壊してしまった)

歩夢(許されない事をしてしまった)

歩夢(わたしを守ってくれたあの時のケンカが原因で、あなたはイジメられてしまったんだよね?)

歩夢(本当に、ごめんなさい)

歩夢(その罪を償うために、わたしは今日、死のうと考えていた)

歩夢(──でも、そんなのはただの逃げだ)

歩夢『わたしはまだ……あなたに謝ることが出来ていない』

歩夢『直接、会えていない』

歩夢(……会って、謝りたい)

歩夢『わたしは、若葉ちゃんと会いたい』

歩夢『そして……約束も果たせていない』

歩夢『わたしはスクールアイドルに……なるよ』


果てしない苦労が待っていると思う。

こんなろくでもない、不良のわたしがいきなりスクールアイドルになるだなんて……妄言かもしれない。
周りからもきっと受け入れてもらえるまで時間がかかると思う。

──でも、わたしはやるよ。若葉ちゃん。


歩夢(すごい子のライブが見れて)

歩夢(わたしもスクールアイドル、好きになれたもん)

歩夢『あの子みたいにすごい子になって、どんどん有名になれば』

歩夢『若葉ちゃんに会えるかもしれない……!』

歩夢(いこう、上原歩夢)

歩夢(若葉ちゃんに会うために)

歩夢(今、わたしはここで)

歩夢(スクールアイドルへの夢への一歩を、歩み始めるんだ!)

220: (しまむら) 2021/06/10(木) 02:40:39.60 ID:DFifZNka
歩夢(中須かすみちゃん、かぁ)

歩夢(本当に可愛い子だったなぁ)

歩夢(どうやら虹ヶ咲学園の生徒みたいだし、会ってみたい)

歩夢『……虹ヶ咲学園の狂犬って呼ばれている不良のわたしがスクールアイドルになるなんて言ったら……怒るんだろうなぁ……』

歩夢(でも、わたしはやるよ)

歩夢(スクールアイドルになるんだ! あの子との約束だもん!)

歩夢『まず、色々準備しないとだよね?』

歩夢『スクールアイドルになるためには、もっと可愛い服とか持っておかないと……だよね?』スタスタ

歩夢(スクールアイドルとしての上原歩夢。今のわたしと違う、可愛くて優しくて、真っ直ぐな……まごころ溢れる子にならないと!)

歩夢(頑張ろう、歩夢)

歩夢『わたしの目指すスクールアイドル像は、今のわたしとは全然ちが──』スタスタ



わたしは新たな目標ができて、色々と考えながら歩いていた。──そんな時だった。

その光景を見て、わたしは一瞬で悟った。ああ、これはいままで色々な人を傷付けてきたわたしへの裁きなんだろうなぁ。

──本当に、神様って意地悪なんだね。


キィィィィィィ!!

歩夢『──へ?』


──視界に映るのは1台の車。

わたしの意識はここで途絶えた。

221: (しまむら) 2021/06/10(木) 02:43:32.21 ID:DFifZNka
5月1日 16時29分

虹ヶ咲学園 普通科2年生 上原歩夢

居眠り運転により走行していた車と衝突し意識不明となりお台場総合病院へと搬送。

222: (しまむら) 2021/06/10(木) 02:47:40.66 ID:DFifZNka
「歩夢! 歩夢っ!!」

「う、うそだ……うそだよ!! こ、こんな……ことって……!!」

「だ、だめです! 侑さん!!」

「歩夢!!」

「──歩夢ッ!!」

223: (しまむら) 2021/06/10(木) 02:54:39.06 ID:DFifZNka
10月5日 16時29分

虹ヶ咲学園 普通科2年生 上原歩夢

同好会活動中。校外をランニングしていた途中。
公園から道路に飛び出す子供と走行中の車が衝突しそうになる。上原歩夢が身を呈し、走行していた車と衝突。飛び出した子供は無事であるも、上原歩夢は意識不明。お台場総合病院へと搬送。

命は助かるも、ずっと眠りについたままである。

医師はまるで魂だけが抜け落ちた状態だと語る。

224: (しまむら) 2021/06/10(木) 02:57:24.53 ID:DFifZNka
5月5日

上原歩夢の意識が回復。

225: (しまむら) 2021/06/10(木) 02:59:45.05 ID:DFifZNka
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

ピー ピー

歩夢「…………」

歩夢(……え?)

歩夢(ここ……どこ……?)


「え? 上原さん?」


歩夢「……?」

歩夢(視界がぼやける。知らない天井と、横から知らない人の声が、耳に届く)

歩夢(頭がぼーっとする)


「せ、先生! 上原さんが目を覚ましました!! 先生ー!!」 タッタッタッタ


歩夢「?」



歩夢『な、なんでわたしの身体……勝手に動いているの……?』

226: (しまむら) 2021/06/10(木) 03:00:33.36 ID:DFifZNka
つづく。

239:1(茸) 2021/06/11(金) 08:14:44.76 ID:s04LDY0E
自分の意思とは関係なく自分の身体が動く。

何をしようとしても、わたしの思いは一切の行動に映されないし、何を言っても意味がなかった。


歩夢『ねぇ、あなた……誰なの?』


こんな体験をすることになるだなんて思わなかった。

──しかも、それだけじゃなかった。


歩夢母「よかった……よかった……!! 先生、本当にありがとうございます」

歩夢『お母さん……』


歩夢(泣きながらお医者様? に頭を下げるお母さん)

歩夢(私、病院にいるみたいだった)

歩夢(どこの病院だろ? というか私、なんでこんな所にいるんだろう?)

歩夢(同好会の皆は、どこ?)

歩夢(……分からないことが多すぎる……)


歩夢『……』


今のわたしを動かしている“この子”の考えている事は、わたしにも伝わってきた。

240: (茸) 2021/06/11(金) 08:20:03.43 ID:s04LDY0E
歩夢「うぅ……侑ちゃん……ぅぅ……」グスグス


歩夢『………………』


今のわたしを動かしている子は、自分を上原歩夢と認識している。

どういうことなんだろう? あなたは、本当に誰?

上原歩夢なの?

ただ、分かる事もあった。


歩夢「ひっぐ……うぅ……」

歩夢「……侑ちゃん……!」


歩夢『…………』


──この子には大切なものが沢山あったんだろう。それが突然なくなってしまったんだ。


歩夢『………………』

歩夢『……ごめんね……』


なぜだか謝りたくなってしまい、わたしは意味の無い謝罪を行う。そして──夜が明け、時間は無情にも過ぎていった。

241: (茸) 2021/06/11(金) 08:23:59.56 ID:s04LDY0E
歩夢「行ってきます……」


歩夢『…………』


ずっと泣いていたこの子だったけれど、しっかりと学校に行く準備をしていた。

今は学校を目指し歩いている。


歩夢『学校……なんか久しぶりな気がするなぁ……』


スタスタ

歩夢「……侑ちゃん……」ウルウル


歩夢『…………』


愛「よぉ」

歩夢「え?」

愛「……」

歩夢『っ!! 愛……』

歩夢「──!!」


目の前には宮下愛。──なんだかひどく懐かしく感じた。

242: (茸) 2021/06/11(金) 08:30:06.17 ID:s04LDY0E
愛「……ひさ──」


バッ──ギュッ!!


歩夢『!?』

愛「は? は……?」

歩夢「……愛ちゃんだ……愛ちゃん……!!」

愛「ちゃ、ちゃん!?」

歩夢『ちょ、ちょっと!? な、ななななな……!!』

歩夢『なにして!?』

歩夢「ひっぐ……! ぁぅ……っ……!!」ポロポロ

愛「え、えぇ……」

歩夢『え、えぇ……』

歩夢「ごめんね……急に泣いて……でも……でも……」

歩夢「愛ちゃんに会えて……嬉しくて……!!」ギュッ

愛「…………」

歩夢『…………』

243: (茸) 2021/06/11(金) 08:32:01.80 ID:s04LDY0E
この子は、しっかりと前を向いて歩く子だった。

突然今までの自分の生活は無くなってしまい、いきなりわたしとしての生活が始まったこの子。


歩夢「はぁ、はぁ」

歩夢(適当に走って来ちゃって……)

歩夢「──!!」

─スクールアイドル同好会─


歩夢『!! スクールアイドル……』


歩夢「あっ……!」

歩夢(同好会のプレート……!)

歩夢「って事は……同好会はあるんだ!」

歩夢「……」

歩夢(でも……愛ちゃんみたいに……)

歩夢「っっ!」

歩夢(……怖がるな、歩夢)

歩夢(怖がったって、何も変わらない)

歩夢(自分で、歩み始めるんだ)

歩夢(……中に、入ろう)


歩夢『…………』


──わたしなんかとは比べ物にならないくらい、強い子だった。


歩夢「……」ゴクリ

歩夢「失礼します」

244: (茸) 2021/06/11(金) 08:33:37.04 ID:s04LDY0E
しずく「ふわぁぁぁ……」

しずく「ん〜……」

しずく「誰?」


歩夢『!!(この子、中須かすみちゃんのライブを宣伝していた子だ)』


歩夢「えっ、えっとぉ……」

歩夢「わ、私はその……」

しずく「……」

しずく「!?」

しずく「う、上原歩夢さん!?」ガタッ

歩夢「う、うん……」

しずく「え、えぇ……」

歩夢「……」


歩夢『………………』

歩夢『わたしの事……やっぱり知ってるんだ』

歩夢『まぁ……悪い意味で有名だもんね、わたし』

245:続きは夜更新します(茸) 2021/06/11(金) 08:38:43.06 ID:s04LDY0E
しずく「……」


歩夢『……まぁ、受け入れてくれないよね……』


しずく「──まぁ、とりあえず。座りません?」

しずく「あとなにか飲みますー?」

歩夢『!?』

歩夢「え?」

歩夢「い、いいの……?」

しずく「だって」

しずく「なんかよーじがあったから来たんですよね?」

しずく「ならお客様じゃん」

しずく「座って座って〜」

歩夢「!!」パァァァァ

歩夢「うんっ!」ニコッ

しずく「」ポカーン

歩夢「ん?」

しずく「上原歩夢さん……ですよね?」

歩夢「うん」コクリ

しずく「……」

しずく「ふふっ」クスクス

しずく「ようこそ、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会へ」ニコッ

歩夢「!! ──うん!」


歩夢『……』


優しい子だなって、心の底から思った。


歩夢『…………』

歩夢『あ、ありがとう……!』


届かないお礼を呟く。
当然声には出ないけれど……いつか直接伝えたいな。

そう思った。

252: (しまむら) 2021/06/12(土) 00:49:47.78 ID:TtkQCqqO
今の上原歩夢になって、わたしの学校生活は一変し始める。

後輩の、桜坂しずくちゃん。生徒会長である中川菜々。新しい交流が増えていった。

──本当に、何者なんだろう。この子は……。

ただ、本当に強い子なのは確かだ。

ケンカばかりしていたわたしとしての生活は辛いはずだろうに、腐らずに頑張っている。


歩夢『……すごいよ、本当に……』


ただ、今はショックを受けているみたいだった。

先程、中川菜々と会話してから、元気がなくなってしまった。


歩夢『(どうしたんだろ?)』


スタスタ

歩夢「……」

歩夢(ショックだった)

歩夢(せつ菜ちゃんが……スクールアイドルじゃないし、興味もないなんて……)

歩夢(私の憧れのせつ菜ちゃんが……大好きなライバルのせつ菜ちゃんが……)

歩夢(ここにはいないの……?)


歩夢『せつ菜って生徒会長の裏垢なんじゃないの? スクールアイドル? 憧れの大好きなライバル? ど、どういうこと……?』


歩夢「っっ……!!」

歩夢(泣くな、上原歩夢。泣いちゃダメ)

歩夢「……」

歩夢「……っ……!!」ポロポロ

歩夢「……ひっぐ……ひぐ……っ、……!!」ポロポロ

歩夢(せつ菜ちゃん……!)


歩夢『……な、泣かないでよ……』

歩夢『(なんかわたしまで泣きそうになってしまう)』


スタスタ ──ピタッ


「!?」ビクッ

「…………」

「……」

スタスタ


歩夢『ん? いま誰かいた……? なんか足音聞こえたし気配も感じたんだけど……』


歩夢「っ……うぅ……!!」グスグス


歩夢『……な、泣かないでって……』

歩夢『うぅ……』

歩夢『……若葉ちゃんだったらこんな時、どうしてたんだろう……』

歩夢『自由に身体も動かせないし……はぁ……』

歩夢『(不自由だし、この子に申し訳ないよ……)』

253: (しまむら) 2021/06/12(土) 01:01:16.16 ID:TtkQCqqO
この子が泣き止むまで、結構な時間が掛かった。

でも今は再び歩き始めた。

今はスクールアイドル同好会の部室に入る所だ。


歩夢『本当にすごいね、あなた』


パンッ!! パーン!!

歩夢「へ!?」ビクッ!!

歩夢『!?』

歩夢(く、クラッカー!?)

しずく「ようこそ!」ニコニコ

かすみ「スクールアイドル同好会へー!」ニコニコ

歩夢「」ポカーン


歩夢『!? な、中須かすみちゃん!?』


しずく「いやぁ、待ってましたよ〜?」

かすみ「しずくから聞きましたよ? 新しく入部してくれる人が来──」

歩夢『な、生の中須かすみちゃんだ……か、かわいい……!!』


自分でもビックリするくらいテンションが高くなってしまった。

直接話せないのが辛いレベル。


歩夢『世界一かわいい子は若葉ちゃんだけれど! 次にかわいいのはかすみちゃんだね!! ……あぁ……本当にかわいい……!!』


恐るべし、スクールアイドルの魅力。


歩夢「あ、あはは」ニコニコ

かすみ「──は?」

歩夢「え?」

歩夢『え?』


──ただ、現実は甘くない。

それもそうだ。わたしは不良。
虹ヶ咲学園の狂犬、上原歩夢だもん。──受け入れて貰えることの方が、珍しいんだ。

255: (しまむら) 2021/06/12(土) 01:11:18.35 ID:TtkQCqqO
かすみ「えっと、上原先輩?」

歩夢「あっ、は……はい」

かすみ「お引き取りいただけますか?」ニコッ

歩夢「──え?」


歩夢『………………』


当然の反応だ。……これが、普通なんだ。


しずく「何考えてんのかすみ! 入部希望者の人に!」

かすみ「しずくこそ何考えてんの!?」

かすみ「この人は、不良だよ!?」

かすみ「そんな人が急にスクールアイドル同好会に入りたいなんておかしいでしょ!」

歩夢『!!』

歩夢「わ、私は! 本当にスクールアイドルになりたくって!」

かすみ「はっ!! どうせ思い付きですよね?」

かすみ「なんです? 何かスクールアイドルの動画でも見て、感化されたんですか?」

かすみ「でもですね。私はあなたの入部、認めませんから!」プイッ

しずく「なんでそんな酷いこと言うのさ! なりたいって言ってんだから、入れてあげればいいじゃん!」

かすみ「触らぬ神に祟りなしって言葉があるでしょ!? この人を入部させて、この人を狙う人とかに……しずくとか彼方先輩が巻き込まれたらどーすんのさ!!」

しずく「っっ……! 心配してくれてるのは嬉しいけど──心配し過ぎだって!」

歩夢「…………」


歩夢『……ごめん、ね……』


謝ることしか出来なかった。

スクールアイドルになるって決めた、わたしがやるべき事なのに……やろうと決意していた事なのに。

それをやらせてしまっている。

今、わたしは──この子の行動を見ていることしかできないんだ。

258:1(茸) 2021/06/12(土) 09:39:07.43 ID:jA78hoVo
かすみ「まぁ、そういう事です。上原先輩。もう一度言いますが、お引き取りいただけますか?」ピシッ

かすみ「だいたい、不良でケンカばかりしているあなたがスクールアイドルになりたいって言っても、信用できません」

かすみ「部室から出て行ってください」プイッ

歩夢「……」

歩夢「わかった」

かすみ「……聞き分けがよくて──」

歩夢「そうだよね。不良の私がスクールアイドルになりたいって言っても、信用出来ないよね?」

かすみ「は?」

歩夢『!!』


──でも、この子は立ち止まらなかった。不良のわたしになってしまったことを受け入れて、一歩一歩進もうとする。


歩夢『な、なんでそんなに……強くいられるの? 前を向いて歩くことができるの……?』


最初は困惑した。その後はこの子がなんでこんなに強いのか気になり始めた。


歩夢『(もっと……この子の事、見ていたい)』

歩夢『(この上原歩夢の事が)』


この想いは──いつか憧れへと変わっていた。

259: (茸) 2021/06/12(土) 09:40:04.68 ID:jA78hoVo
歩夢「行ってきます!」


歩夢「よーし」グッ

歩夢(まずは、クラスのみんなから認めてもらわないと。どうやっ──)

スタスタ

愛「……よぉ」

歩夢「!! 愛ちゃん」

愛「だから愛ちゃんって呼ぶなって……」

愛「まぁもういいや。──昨日ぶりだなぁ、上原」

歩夢「……もしかして、ケンカのお誘い?」

愛「おっ? 話が早いじゃん。やっと調子戻って──」

歩夢「やらないよ」

愛「は?」

歩夢「私、もう二度とケンカしない」

歩夢(した事ないけど……前の私はしてたみたいだし、ハッキリ言わないとダメだよね?)

愛「な、なんでだよ! 本当お前どうしたんだよ!!」

歩夢「スクールアイドルになりたいから」

愛「は? はぁ!?」

愛「す、スクールアイドル!?」

歩夢「うん。だから、不良もやめる」

愛「」ポカーン


歩夢『…………』

歩夢『ごめん、愛』

歩夢『うん……』

歩夢『もうケンカ、しないよ』

歩夢『わたし』


この子との日々は続いていく。

260: (茸) 2021/06/12(土) 09:41:30.42 ID:jA78hoVo
かすみ「単刀直入に聞きます」

かすみ「なんで……スクールアイドルになりたいんですか?」

歩夢「!!」

歩夢「私がスクールアイドルになりたい理由……?」

歩夢『…………』

かすみ「はい」

かすみ「私にあれだけ言われても諦めないんです。何か理由があるんですよね?」

かすみ「不良を辞めて、善行を尽くしてまでやりたい理由が」

歩夢「…………」

歩夢「かすみちゃん」

歩夢「私」


歩夢「『──わたしね』」

歩夢「『あの子と約束したの』」

歩夢「『スクールアイドルになるって』」

歩夢「『わたし、本当はケンカなんてしたくない』」

かすみ「!!」

歩夢「『わたしは……あの子と一緒に、ずっと一緒にいたかっただけ……!』」

歩夢「『でも……それはもう叶わない夢だから』」

歩夢「『だから……だから……わたしは……それが許せなくて……!!』」


──ただ、八つ当たりしていただけなんだ。本当に、わたしって馬鹿だよね。

──って、あれ?


かすみ「」ポカーン

歩夢「!! あ、あれ……?」

歩夢(私、何言ってるの!?)


歩夢『!?』

歩夢『今……わたしの言葉……この子の口から出てた……?』


見ているだけじゃなく、わたしの気持ちを吐き出せる時もあった。
理由は分からなかったけれど……。

この子との日々は続いていく。

261: (茸) 2021/06/12(土) 09:42:52.31 ID:jA78hoVo
歩夢「新人スクールアイドルのあゆぴょんだよ〜!」

歩夢「臆病だから、寂しいと死んじゃうの〜」

歩夢「だから、皆であゆぴょんの事を応援してね?」

歩夢「えへへ」ニコッ

歩夢「ぴょん♪」


ピピッ

かすみ「」

しずく「」

歩夢『』

歩夢『な、ななななななな……!!』

歩夢『何してるのよ!?』


歩夢「はぁ、はぁ、はぁ……////」

歩夢(は、恥ずかしかったぁ……!!)


歩夢『わ、わわわ……わ、わたしの身体で……////』

歩夢『なにしてるのよぉ!!』


恥ずかしい時もあった。ふざけるなって思った時もあった。

262: (茸) 2021/06/12(土) 09:44:09.38 ID:jA78hoVo
歩夢「──皆さん」

歩夢「本日はお集まり頂き、ありがとうございます」ニコッ

歩夢「……余計な事は言いません」

歩夢「今はただ」

歩夢「私の歌を聞いて下さい」ニコッ

歩夢「──」スゥゥゥゥ


それでも──この子はわたしの理想のような子だった。

もちろん、全てが全て、憧れになったわけじゃない。
わたしの持っていないものをたくさん持っているこの子は、少しだけ嫉妬の対象でもあった。

ただ、その持っていたものを無くしたのにも関わらず歩み続けるこの子は……本当に強い子だ。

264: (茸) 2021/06/12(土) 09:48:34.57 ID:jA78hoVo
でも──


歩夢「幸せな日々が、無くなっちゃったんだよ!」

歩夢「同好会の皆と過ごしてた日々が、急に無くなってて!」

歩夢「気が付いたら私は一人になっちゃってて! みんな私の事を不良の上原歩夢だって怖がってて!」

歩夢「ケンカなんて、した事ない私を……怖がって!」

歩夢「みんな……みんな……別人になってて……」

歩夢「でも……それでも……前に進まなきゃいけないと思って……頑張って……!」

歩夢「皆もいい子で……やっぱりみんなのこと好きなんだって思えて……!!」

歩夢「楽しいけれど……嬉しい事もあるけど……」

歩夢「……私は……私は……!!」

歩夢「……前の……上原歩夢の日々に……!」

歩夢「もどりたい……!」

愛「…………」

歩夢「……っ……!!」ポロポロ

歩夢「ゆうちゃんに……」

歩夢「会いたいよぉ……っ……!!」ポロポロ

愛「…………」

歩夢『…………』


──辛くないわけがない。


歩夢『ごめんね』

歩夢『本当に……ごめんね……』


それでもこの子は歩み続ける。

この子との日々は、まだまだ続く。

265:続きは夜に更新します(茸) 2021/06/12(土) 09:49:42.53 ID:jA78hoVo
この子のおかげで、愛と仲良くなることができた。

交流する子達も増えた。

愛。せつ菜ちゃん。かすみちゃん。しずくちゃん。璃奈ちゃん。エマさん。果林さん。彼方さん。

人が嫌いだったわたしだけど、この子を通して皆との関わりが増えた。

直接話が出来た子はほとんどいないけれど、わたしは皆が好きになっていた。


歩夢『ねぇ』

歩夢「──え?」


そしてわたしは、夢の中で今の上原歩夢と少しだけ対話した。

271: (しまむら) 2021/06/12(土) 23:57:39.19 ID:TtkQCqqO
歩夢『(うそ……目の前に私がいる……?)』

歩夢『(夢の中でなら、直接話が出来る時があるんだ)』

歩夢「え? わ、私……?」

歩夢『……』


話したい事は沢山あった。聞きたいことも沢山ある。

でも──わたしは素直になれなかった。

人と話す機会が減り、ケンカばかりしてきた弊害かもしれない。


歩夢「あ、あの──」

歩夢『人の身体で好き勝手するのは楽しい?』ニコッ


素直になれない自分は、やっぱり好きになれない。

あなたみたいな子になりたいけれど、難しいや。


歩夢「──え?」キョトン

歩夢『ふふっ』クスクス

歩夢「す、好き勝手……?」

歩夢『あなたの行動、わたしはずっと見てるよ』

歩夢「え? ……え?」

歩夢『……まぁ、別にいいんだけどね。感謝してる事もあるし』


──感謝している事ばかりだ。


歩夢『だから何したって構わないよ。……別に、未練も何も……ないし』


──これも嘘。


歩夢「…………」

歩夢『でもね』

歩夢「!?」


歩夢『わたしと若葉ちゃんの思い出には関わらないで』


──あなたはもう、わたしではなく……あなたとして過ごしてほしいから。

272: (しまむら) 2021/06/13(日) 00:13:03.14 ID:cdZKLA7N
ガバッ!!

歩夢「はぁ……!! はぁ……っ……はぁ……!!」

歩夢「ゆ、夢? い、今の……私……?」

歩夢「ッッ!! ──あたま……いたい……ッ……!!」ズキズキ


歩夢『……それに、あなたは……』

歩夢『……わたしの記憶や、自分の記憶を……思い出すほど』

歩夢『頭痛を引き起こしてしまう』

歩夢『だから──』


歩夢「はぁ、はぁ、はぁ……!」

歩夢「…………」

歩夢「……」


歩夢「『わたしと若葉ちゃんとの思い出に、関わらないで』」

歩夢『その方が……幸せだよ』


歩夢「──え?」

歩夢「私……今……勝手に……?」

歩夢「喋った……?」


歩夢『…………』

273: (しまむら) 2021/06/13(日) 00:22:35.87 ID:cdZKLA7N
でも、そんな事はお構い無しに、この子は苦しみ始めてしまった。


歩夢「──ッ!!」ズキッ!!

歩夢「は、ぁ……ッ……!!」

せつ菜「あ、歩夢さん!?」

歩夢(頭が、割れる)

歩夢「痛い……いたい!!」

歩夢「あたまが……痛いよぉ……!!」


歩夢『な、なんで……頭痛の頻度が増えすぎてる……!』

歩夢『(まるでわたしの中からこの子を追い出そうとしているみたい……な、なんで!)』

歩夢『今日だっていきなり倒れちゃったし……ど、どうすればいいの……?』


せつ菜「あ、頭が痛いんですか!?」

せつ菜「え、えっと……こ、氷! なにか冷やせるものを!!」タッタッタッ

歩夢「はぁ、はぁはぁ……っ!!」

275: (しまむら) 2021/06/13(日) 00:40:38.52 ID:cdZKLA7N
でも、この子は歩み続けてしまう。


歩夢(五十嵐若葉ちゃん)

歩夢(夢で見たあの景色は)

歩夢(過去? それとも、ただの……夢?)


歩夢『ダメ! 思い出したら、また痛むよ!?』


歩夢「…………」

歩夢「──ッ!!」ズキッ!!


歩夢『もう、何も考えず……頭痛を治す方法を考えようよ』

歩夢『璃奈ちゃんとかに相談してみたら……』

歩夢『……ッ……やっぱり夢の中じゃないと対話できないか』


歩夢「……はぁ、はあ、ッ……」ズキ、ズキ

歩夢(侑ちゃんに……会いたい)

歩夢『ッ!!』

歩夢「『わたしは若葉ちゃんに会いたいよ』」

歩夢『──ただ、今はあなたが……って、今……あー! もう! 不便すぎる!』

歩夢「──え?」

歩夢「……や、やっぱりこの子は……」


歩夢『残ってるよ、最初から!』

歩夢『はぁ……』

歩夢『……ただ、最初よりはわたしの言葉が出る頻度も増えてる』

歩夢『頭痛で、この子の意識が薄れてきているからかもしれない……あまり良い事とは言えないけれど……タイミングがあって対話出来れば!』

歩夢『伝えられる』

歩夢『もう、やめた方がいいって』

276: (しまむら) 2021/06/13(日) 00:55:07.07 ID:cdZKLA7N
──そしてようやく、わたしはこの子と再び対話することが出来た。


歩夢「『もう、やめた方がいいよ。上原歩夢』」

歩夢「!?」

歩夢(また勝手に、話し始めた!?)

歩夢(この世界の……歩夢……)

歩夢「『頭、痛いでしょ? 日記を探せば探すほど、痛くなるでしょ?』」

歩夢「……痛くないもん」

歩夢「『嘘だね。わたしの意思が表に出やすくなってる。前はたまにしか出られなかったのに。──それ、あなたの意識が薄れてきている証拠だよ?』」

279: (しまむら) 2021/06/13(日) 01:05:23.34 ID:cdZKLA7N
歩夢「……私はまだ、あなたについて何も知らない」

歩夢「『わたしの事なんてどうでもいいでしょ? なんで別世界のわたしの事を気にするのよ。もうこの身体はあなたのものなんだから、自分の生活をしなさいよ』」

歩夢『(もう……楽になろうよ。歩夢)』

歩夢『(わたしになって、苦労したでしょ? でもあなたは頑張った)』

歩夢『(だから、あなたは今は自分の事を考えようよ)』

歩夢「私の身体じゃないよ。それに……あなた、言ったよね? ──若葉ちゃんに会いたいって?」

歩夢『!!』

歩夢「『若葉ちゃんは関係ないでしょッ!?』」

歩夢「関係あるよ。若葉ちゃんに会いたい気持ちが、あなたの願いでしょ? 私はその願いを叶えてあげたい」

歩夢「『なんで……わたしの願いを叶えたいのよ……』」

歩夢「私は勝手にあなたの中に入ってしまった。理由は分からないけれど……その結果、あなたの今までの生活を変えてしまった」

歩夢「人の身体で、好き勝手しちゃったんだもん。そのお詫びとして、あなたの願い事を叶えてあげたい」

歩夢「『そんなの、偽善だよ』」

歩夢「わかってる。余計なお世話だと思う。……でも私、約束したの」

歩夢「侑ちゃんと、“みんなの為のスクールアイドル”になるって」

歩夢「そのみんなの中には、あなたも含まれてる。だから……あなたの為にも何かしたいの」

歩夢「余計な事しようとしちゃって、ごめんね」

歩夢『…………』


この子は、歩む事を止めなかった。

自分が一番苦しいはずなのに。

280: (しまむら) 2021/06/13(日) 01:12:11.36 ID:cdZKLA7N
──歩む事を、止めなかった。


歩夢「!! 日記、見つけた」

歩夢「す、すごい奥に入れてあるんだね」

歩夢「『誰かに見られたら、嫌だもん』」

歩夢「……気持ちは凄くわかるけど、取り出し辛くない?」

歩夢「『うるさいよ』」

歩夢「ふふ、ごめんごめん」

歩夢「……見るね?」

歩夢『…………』


もう、何を言っても聞かないことが分かった。

この子と一緒の日々も、わりと長いから何となく分かる。


歩夢「『勝手にすれば? ……今だって頭痛がひどいはずなのに、どうなっても知らないからね?』」

歩夢「ごめん。ありがとう」

歩夢『……っ……!』

歩夢(行こう、歩夢。この子の過去を知るために)


ペラッ


──そして、この子との日々も……終わりが近い。

そんな気がしてしまった。

281: (しまむら) 2021/06/13(日) 01:15:44.83 ID:cdZKLA7N
歩夢『…………』


世界が──景色が変わる。

そこは、真っ白な世界。周りには何も無く、目に映るのは、一人の女の子。


歩夢「……」

歩夢『……』

歩夢『こんにちは』

歩夢『上原歩夢』


ここは、わたしとこの子が最初に対話した──夢の世界だ。

私達は再び邂逅し、対話した。

282: (しまむら) 2021/06/13(日) 01:22:21.25 ID:cdZKLA7N
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


歩夢(ここは……どこ?)

歩夢(さっきまで見ていた光景は……?)


真っ白な世界に囲まれている。

そして──目の前にいるのは、もう一人の私だった。


歩夢『こんにちは』

歩夢『上原歩夢』

歩夢「あなたは……私と同じ、上原歩夢だよね?」

歩夢『うん』コクリ

歩夢『愛の言っていた、パラレルワールド理論を元に考えると』

歩夢『この世界の上原歩夢だね』

歩夢「!!」

287: (しまむら) 2021/06/13(日) 10:17:19.85 ID:cdZKLA7N
歩夢「…………」

歩夢『その様子だと、わたしの事……全部わかったみたいだね』

歩夢「……うん……」

歩夢『……そっか……』

歩夢『若葉ちゃんの事も、知れた?』

歩夢「……うん」

歩夢「全部、見てきた」

歩夢「あなたの人生、全てを……」

歩夢『……そっか……』

歩夢「……めんね……」

歩夢『え?』

歩夢「ごめんね」ポロ、ポロ

歩夢『ちょ、え!? な、なんで泣いてるの!?』

歩夢『謝るのはわた──』

歩夢「軽々しく後を追うとか言っちゃって……」

歩夢『!!』

歩夢「あなたに対して……言っちゃいけない事だった……!」ポロポロ

歩夢『……』

歩夢『あなたってさ』

歩夢「?」

歩夢『細かい事に気を使いすぎだよね』

歩夢「!?」

288: (しまむら) 2021/06/13(日) 10:25:31.24 ID:cdZKLA7N
歩夢『もっと自分の事考えなよ』

歩夢『そんな細かい事、わたし自身全く気にしてなかったよ?』

歩夢「だって……」

歩夢『しずくちゃんの事、何も言えないよ。あなたも周りに気を使いすぎ』

歩夢「……」

歩夢『……まぁ、それがあなた達の良い所か』

歩夢『すごいと思うよ、そういうところ』

歩夢『憧れるし、尊敬してる』

歩夢「……な、なんか変な気分。自分に褒められるなんて」

歩夢『自分と言っても別人みたいなもんだからね』

歩夢『あなたはわたしと違って優しくて、いい子だもん』

歩夢「……そんなことないよ」

歩夢『謙遜しないでよ。あなたはわたしの憧れなんだから、堂々としていてよ』

歩夢「……」

歩夢「あなただって……優しいよ」

歩夢『それはない』

歩夢「そ、そんなことあるもん!」

歩夢『どんな感覚してるのよ。わたしが優しいわけないでしょ』

歩夢「……」ムスー

289: (しまむら) 2021/06/13(日) 10:44:51.57 ID:cdZKLA7N
歩夢『じゃあ、本題に入ろうよ』

歩夢『あなたは恐らく今、気を失っていると思う』

歩夢『目覚めたあとの事を考えよう』

歩夢「うん」

歩夢『とにかく、まずは頭痛をなんとかしないといけないから、璃奈ちゃんあたりに相談──』

歩夢「──違うよ」

歩夢「今……私が戻った後にするのことは、そんなの事じゃない」

歩夢『え?』

歩夢「若葉ちゃんに会いに行くことだよ」

歩夢『──は?』

290: (しまむら) 2021/06/13(日) 10:57:44.99 ID:cdZKLA7N
歩夢『何言ってるの?』

歩夢『……まだそんなこと言ってるの?』

歩夢『わたしの事じゃなくて、今はあなたの事──』

歩夢「あなたの身体は、私の身体じゃない」

歩夢「だからあなたのやりたい事をすぐにするべきだよ」

歩夢『ッ!』

歩夢『それが若葉ちゃんと会うって事!? わたしは──』

歩夢「それがあなたの一番やりたいことでしょ?」

歩夢『違う! もうわたしは!』

歩夢「違くない!!」

歩夢「私は!! あなたの全てを、見てきたの!!」

歩夢「だから、分かるの……」

歩夢『……っ……』

歩夢『違う、わたしはあなたを!! ──もういいの!! いいんだよっ!! もういいの!!』

歩夢「自分の気持ちに嘘ついちゃ、ダメだよ!」

歩夢『嘘じゃないッ!!』

歩夢「じゃあ若葉ちゃんと会いたくないの!?」

歩夢『──!!』

291: (しまむら) 2021/06/13(日) 11:10:07.34 ID:cdZKLA7N
歩夢「あなたはずっと思っていたし、何回も口に出していた」

歩夢「若葉ちゃんと会いたいって」

歩夢「スクールアイドルになろうとしたのだって……若葉ちゃんの為じゃない」

歩夢『……本当に、全部見てきたんだね』

歩夢「見てきたよ。私があなたになってからの事も」

歩夢「ずって見てくれていた事も」

歩夢「──私の世界の私が、どうなったのかも」

歩夢『!?』

歩夢「事故にあって……目覚めたらあなたの中に入っていた。私の精神があなたの中に入ってしまったって事は……つまり……もう私は……」

歩夢「私の世界の私は……いないんだと思う……」

歩夢「行き場を失ってしまって……あなたの中に入っちゃったんだと思う」

歩夢「ちょうど同じ時刻で意識を失っていたあなたの中に」

歩夢『っ……』

歩夢『なら……もうわたしの身体を使って、生きていけば良いじゃない……』

歩夢「……自分の事だから、分かるのかもしれない」

歩夢「私はもう、長くないと思う」

歩夢「感覚で、分かっちゃうの」

歩夢「自分の終わりの時が近いって」

292: (しまむら) 2021/06/13(日) 11:23:53.77 ID:cdZKLA7N
歩夢「分かっちゃうんだ……」

歩夢『…………』

歩夢「……死の感覚って言うのかな……」

歩夢『…………』

歩夢「それに」

歩夢「一人分の陽だまりに、二人は入れないの」

歩夢「無理やりあなたの中に入っちゃった私は……最初から長くここにはいられないんだよ」

歩夢『……でも……それじゃ、あまりにもあなたが……』

歩夢『可哀想……だよ……!』ポロポロ

歩夢「…………」

歩夢『わたしのやってきてしまった、自分とは無関係の償いをして……良い事をして……皆から認められて……!』

歩夢『この世界でも……スクールアイドルになれたのに……!!』

歩夢『なんであなたが……っ……!!』

歩夢「…………」

293: (しまむら) 2021/06/13(日) 11:37:43.14 ID:cdZKLA7N
歩夢「やっぱりあなたは、優しいよ」

歩夢「他人の為に泣ける子が優しくないわけがないよ」

歩夢『……』

歩夢「ねぇ、この世界の歩夢」

歩夢「一緒に、あなたの願いを叶えようよ」

歩夢『──え?』

歩夢「私はあなたになった時、侑ちゃんに会いたくて頑張ったの。たとえそれが私を知らない侑ちゃんでも、私はあの子に会いたかった」

歩夢「……この世界の侑ちゃんは、若葉ちゃんだよ」

歩夢『……』

歩夢「だから私は」

歩夢「──若葉ちゃんに会いたい」

歩夢『……』

歩夢「……あなたの一番やりたい事は──あなたの願いはなに?」

歩夢「わ、わたしの願いは……!」

歩夢「もう、我慢しなくていい」

歩夢「あなたの願いは、私の願いと一緒だから!」

歩夢「私が一緒に、歩むから」

歩夢「だから! 手を伸ばして!」スッ

歩夢『……』

歩夢「一緒に夢を叶えようよ!」

歩夢「上原歩夢!」

歩夢『──ッ』

ギュッ

歩夢『わたしは!!』

歩夢『若葉ちゃんと──会いたいッ!!』

歩夢「──うん!」

歩夢「一緒に、会いに行こう」

歩夢「『若葉ちゃんに!!』」

294: (しまむら) 2021/06/13(日) 11:47:24.26 ID:cdZKLA7N
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

歩夢「うっ……うぅ……」

歩夢「……うーん……」

歩夢「!!」ガバッ

歩夢「今何時!?」


夢の世界から、戻ってきたのだろう。

私は横たわっていた床から飛び起きる。


歩夢「!? 嘘……もう……夕方前……?」


昨日の夜、日記の中身を見てから相当長い間気を失っていたみたい。

お母さんに見られていたら絶対病院に運ばれていたと思う。幸い、お母さんは夜中に仕事へ出かけてから帰ってきていないみたい。


歩夢(余計な心配かけさせちゃう所だった……良かった)

295: (しまむら) 2021/06/13(日) 12:00:48.14 ID:cdZKLA7N
歩夢(あっ……みんなからすごい沢山連絡が来てる)


スマホにはスクールアイドル同好会の皆からの着信やらメッセージ等が多く届いていた。

昨日の事もあったから、学校をサボってしまったのにも関わらず私を心配する内容のものばかりだった。


歩夢(……みんな優しいなぁ)

歩夢「ありがとうね、みんな。大好きだよ」


スマホを胸で抱え、皆の事を思う。

──再び頭痛が襲いかかってくる。


歩夢「ッ、大丈夫……痛くない。まだ動ける……」

歩夢「私とこの子の願いを叶える為に……若葉ちゃんが今どこにいるのか調べないと」

歩夢(それに……)


──他にもやるべきことがある。

私は同好会のみんなに向けて、メッセージを送った。

私の家に来てほしいと言う内容のものを──

297: (しまむら) 2021/06/13(日) 14:23:17.34 ID:cdZKLA7N
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

エマ「歩夢ちゃん、大丈夫?」

果林「ほんと心配したんだからね!?」

歩夢「あはは……ごめんなさい。平気ですよ」

せつ菜「私は大事を取ってお休みしているはずですって思っていたし言ってましたので大丈夫でした! 案の定その通りでしたし、やはり歩夢さんの事は私が一番理解してますね!」ペカー

愛「おーい。マウント取るなー?」

せつ菜「申し訳ないです!!」ペカー

彼方「テンションたっかいね……」

璃奈「まぁ気持ちは分かるよ」

しずく「本当に無事で良かったよ歩夢さん……なんならこうやって家に呼ばれる前に家凸する!? って話してたからね?」

かすみ「ちょっと皆、騒ぎすぎだよ。歩夢先輩病み上がりなんだから少し静かに」

「「「はーい」」」

歩夢「…………」

歩夢「ふふっ、みんなありがとう」

歩夢「わざわざ家に来てくれて、ありがとうねっ」ニコッ

歩夢「私ほんと……皆のこと大好き」

かすみ「な、なんですか急に……」

せつ菜「私も大好きですよ!!」

璃奈「せつ菜さん、しー」

せつ菜「あっ……ごめんなさいつい……」

298: (しまむら) 2021/06/13(日) 14:36:22.86 ID:cdZKLA7N
歩夢「……」


皆が私の部屋に集まる。

雰囲気は本当に明るい。皆、もうとっても仲良しだ。

私達は最初はバラバラで、集まったきっかけもそれぞれ異なっていて、私の知る皆とは違う部分もある。けれど、私はスクールアイドル同好会の皆が大好き。

──お別れは寂しいけれど、ちゃんと伝えないのいけない。

歩夢「皆に、聞いてほしいことがあるの」


皆の視線が一斉に私に集まる。

私は、愛ちゃんに目を向ける。


歩夢「愛ちゃん」

愛「どうした?」

歩夢「みんなに話すね」

愛「え?」


私は深呼吸をして、語り始める。


歩夢「皆さん……初めまして」

歩夢「改めて、挨拶をするね」

歩夢「私の名前は上原歩夢」

歩夢「──別の世界からやって来ました」


私の体験した、不思議な物語を──

299: (しまむら) 2021/06/13(日) 14:48:22.85 ID:cdZKLA7N
この世界の上原歩夢としての事ではなく、私の事を語る。

幼馴染である高咲侑ちゃんと一緒にせつ菜ちゃんの歌を聞いた事がきっかけで、スクールアイドルを始めた事。

そこから体験してきた事、全てを語る。

最初は皆、何を言っているんだと困惑していた。
けど、私は真剣に語る。

──私の世界で聞いた、この世界で聞いていない皆の情報も混ぜて語る。
この世界の皆と共通している内容のものもあったようで、なぜその事を知っているんだと言いたげな子もいた。

全部、全部話した。

私が事故にあって、今の上原歩夢──この子として行動するようになってからの事も、話した。

上原歩夢は別人のように変わった。そう思っていた皆の思いが、言葉の通り──別人になっていたんだという状況へと結び付く。

300: (しまむら) 2021/06/13(日) 14:57:31.60 ID:cdZKLA7N
せつ菜「そんな……事って……ありえるんですか?」

歩夢「私も最初はそう思っていたの」

歩夢「でも……事故にあって、この子になって……事実を受け入れるしかなかったの……」

せつ菜「そんな……」

璃奈「…………」

愛「……」

璃奈「愛さん、もしかして……昨日聞いたことって……」

愛「……」

璃奈「……ごめん。なんでもない」フイッ

璃奈「…………」


───────────

『──つまり、魂というのは、肉体とは別のものなのです。精神的実体として存在する、想像上の概念なんですね』

『そんな魂と呼ばれるものが肉体から離れそうになる瞬間。例えるなら大きな事故にあった時などですね。生きるか死ぬかの時。その時に私達人間は、不思議な体験をす──』

───────────


璃奈「……前にテレビで、流し見したやつの内容みたいだ……」ボソッ

301: (しまむら) 2021/06/13(日) 15:01:49.13 ID:cdZKLA7N
エマ「別人みたいだなってことは思っていたけれど……」

彼方「本当に別人になっていたなんて……思わないもんね」

果林「歩夢ちゃん。状況は分かった。でも、どうして急にそんな話をし始めたの?」キョトン


皆の疑問点はそこに落ち着いたようで、再び私へと視線が集まる。


歩夢「…………」

歩夢「私がもうすぐ」

歩夢「──消えるからだよ」

302: (しまむら) 2021/06/13(日) 15:12:04.32 ID:cdZKLA7N
せつ菜「──え?」

しずく「嘘……ですよね?」

歩夢「ううん。嘘じゃないの」

歩夢「昨日倒れちゃったことも……今日学校に行けなかった事も……昨日と同じで気を失ってしまった事が原因なの」

歩夢(今日、気を失っていたのは日記を見た事が原因でもあるけれど……身体が耐える事が出来ず意識を手放してしまったんだ)

歩夢「今だって……正直、いつ気を失うか分からない」

歩夢「そして多分なんだけれど」

歩夢「次、意識を手放したら」

歩夢「私は戻れないと思う」

歩夢「そのまま……消えると……思う」

歩夢「自分の事だから、よく分かるんだ」

「「「…………」」」


皆の表情が、暗くなる。青ざめてしまっている子もいる。

ごめんなさい。


歩夢「いきなりこんな信じられないような話をした後なのに……ごめんなさい」

歩夢「でも……言わなきゃ一生後悔するから」

歩夢「最後だから……みんなには伝えたかったの」

303: (しまむら) 2021/06/13(日) 15:17:04.55 ID:cdZKLA7N
部屋の中が、先程までワイワイ盛り上がっていたとは思えないくらい静まり返る。

でも、その沈黙の中──


「……──だ……」

歩夢「え?」


一人の女の子の呟いた。





かすみ「いやだ」

歩夢「かすみ……ちゃん?」

305: (しまむら) 2021/06/13(日) 15:21:37.31 ID:cdZKLA7N
かすみ「やだ……いやだ」

かすみ「いやだいやだいやだ」

かすみ「……い、嫌だよ!!」

かすみ「いやだッ!!」

歩夢「か、かすみちゃん?」

かすみ「なんで……?」

かすみ「なんで……歩夢先輩が消えちゃうの……?」

かすみ「歩夢先輩!!」バッ

ギュッ

歩夢「かすみちゃん……」

かすみ「じょ、冗談ですよね? 歩夢先輩……?」

かすみ「わ、私がいつまでも……あなたに素直にならないから……そ、そうですよね?」

かすみ「い、意地悪……なんですよね……?」

歩夢「……かすみちゃん……」

かすみ「やだ……いやだ」

かすみ「やだ……やだやだやだやだやだ!!」

かすみ「歩夢先輩が消えちゃうなんて……」

かすみ「──嫌だッ!!」

歩夢「…………」

307: (しまむら) 2021/06/13(日) 15:34:36.26 ID:cdZKLA7N
かすみ「いやだ!! 嫌だよ!!」

しずく「……かすみ……」

かすみ「す、素直になるから……! ──あっ、あれですか!? 私が最初に意地悪してしまった事も原因なんですか……?」

しずく「かすみ」

かすみ「謝るから……ごめんなさい……最初に部室で会った時に……酷いこと言っちゃって……ごめんなさい……歩夢先輩」

かすみ「だから……だから……!」

歩夢「…………」

かすみ「いなくならないでよぉ!!」

しずく「かすみッ!!」

かすみ「!!」

しずく「……歩夢さんが……困っちゃう……よ」

しずく「一番……辛いのは……歩夢さん……なんだから」

しずく「……だから……!!」

かすみ「ッッッ……!」

しずく「困らせちゃ……だめ……」

しずく「……」ポロポロ

しずく「っ……! ご、ごめんなさい……」

しずく「ぁ……っ……わ、わたし……泣くつもりなんて……ないのに……!」

しずく「……うぅ……っ……!」ペタン

しずく「ひっぐ……ひぐ……!!」

歩夢「しずくちゃん……」

308: (しまむら) 2021/06/13(日) 15:39:46.98 ID:cdZKLA7N
せつ菜「………………」

せつ菜「ッッッ!!」

バンッ! タッタッタッタ!!

エマ「!! せ、せつ菜ちゃん!!」

愛「──ッ、追うな!!」

エマ「!!」ビクッ

愛「……アタシ……さ。せつ菜が悲しい表情をしてるの、見たことないんだ。多分、皆に見せないようにしてるんだと思う」

愛「でもアイツ……歩夢の事……大好きだから……」

愛「今は……そっとしといてあげてよ……エマさん……」

エマ「……ごめんなさい……」

愛「……ううん……アタシこそ大きな声出してごめん」

歩夢「…………」

309: (しまむら) 2021/06/13(日) 15:49:57.08 ID:cdZKLA7N
璃奈「……ねぇ、歩夢さん」

歩夢「璃奈ちゃん……」

璃奈「私、さ」

璃奈「天才なんだよね」

歩夢「え?」

璃奈「あなたの話……本当だとしたら……世の中まだまだ研究することが沢山あるよ……」

歩夢「…………」

璃奈「沢山研究して……なんとか……するから……」

璃奈「消えないでよ。もう少し……待ってよ……歩夢さん」プルプル

歩夢「璃奈ちゃん……」

歩夢「ごめんね」

璃奈「ッ!!」

璃奈「……わ、私は……泣かない!!」

璃奈「泣か……ない……!」

璃奈「泣かない!」

果林「……璃奈ちゃんも……みんな、さ」

果林「我慢しなくていいと思うんだよね」

彼方「果林ちゃん……っ」

果林「歩夢ちゃんが……勇気を持って話してくれたんだから……」

果林「わたし達も……思い残すことは……ないようにしなきゃ」

果林「だから、だから……泣きたいって思ったら……」

果林「泣いていいと……思う……!!」ポロポロ

璃奈「果林さん……」

310: (しまむら) 2021/06/13(日) 16:00:14.17 ID:cdZKLA7N
その果林さんの一言がきっかけで、皆の泣き始める。

私は……泣かないように我慢した。必死に。

ここで私が泣いちゃったら、ダメだ。

私のこんな話を受け止めてくれた皆に、申し訳ないもん。


──暫く経って、目を赤くさせたせつ菜ちゃんが部屋に戻って来る。


せつ菜「歩夢さん」

せつ菜「勇気を出して話してくれて、ありがとうございます」

歩夢「せつ菜ちゃん……」

せつ菜「私達に、その事を話してくれたってことは」

せつ菜「何か、あるんですよね?」

歩夢「うん」

歩夢「皆にお願いがあるの」

かすみ「おねがい……?」

歩夢「うん」コクリ

312: (しまむら) 2021/06/13(日) 16:10:12.02 ID:cdZKLA7N
歩夢(ごめん、皆に教えるね。あなたのこと)

歩夢「──“この子”の事を、知ってほしい」

愛「この世界の歩夢の事か……?」

歩夢「うん」

歩夢「この日記に、全部書いてあるから」

歩夢「かすみちゃん、受け取ってくれる?」スッ

かすみ「……はい」ギュッ

歩夢「ありがとう」ニコッ

歩夢「私が消えちゃった後……この子の事、よろしくね?」

かすみ「……」

歩夢「もうひとつは──」

せつ菜「五十嵐若葉さんの事、ですよね?」

歩夢「え? な、なんで分かるの?」

せつ菜「ふふっ……実は私、超能力者なんです!」

歩夢「……」

せつ菜「じょ、冗談ですよ」

せつ菜「……あなたが保健室で起きた時に、呟いていたからです」

歩夢「せつ菜ちゃん……若葉ちゃんの事知ってるの?」

せつ菜「はい」

歩夢「ど、どうして……?」

313: (しまむら) 2021/06/13(日) 16:14:57.63 ID:cdZKLA7N
せつ菜「私が虹ヶ咲学園の生徒会長だからです」

歩夢「え?」

せつ菜「私は、“全生徒”の事を覚えています」

歩夢「──え? 生徒……?」

せつ菜「はい」

せつ菜「歩夢さん。五十嵐若葉さんには、ちゃんと会えますよ」

せつ菜「──音楽科2年生。五十嵐若葉さん」

せつ菜「彼女は今年の4月に」

せつ菜「虹ヶ咲学園へ転校してきた」

せつ菜「私達と同じ、虹ヶ咲学園の生徒です」

314: (しまむら) 2021/06/13(日) 16:19:23.88 ID:cdZKLA7N
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


「五十嵐さーん。まだ練習してくの?」

若葉「うん。もう少しだけ弾いてから帰ろうと思ってるの」

「そっかぁ」

「あんまり無理しないでね?」

若葉「うん! ありがとう!」

若葉「学生寮の門限前にはちゃんと帰るから大丈夫だよ! ありがとうねっ」ニコッ

「いえいえー」

「またね〜」

「音楽室の鍵閉めはよろしくねっ」

若葉「うん! 皆またねっ」フリフリ

若葉「……」



若葉「……歩夢ちゃん……」

328: (しまむら) 2021/06/13(日) 20:37:49.62 ID:cdZKLA7N
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

歩夢「……」

歩夢(若葉ちゃん……虹ヶ咲学園にいたんだ)


せつ菜ちゃんから聞いた、五十嵐若葉ちゃんの事。

今年の4月に転入してきたってことは、私の事も知っているはずだ。

──でも、会えていない。


歩夢(この子が虹ヶ咲学園にいること、知らないだけ? それとも……会いたくないの……?)

歩夢(若葉ちゃんに直接会って……確かめないとだね)

329: (しまむら) 2021/06/13(日) 20:43:49.66 ID:cdZKLA7N
せつ菜『とりあえず皆さん。今日は一度家に帰って……気持ちを整理させましょう』

せつ菜『……色々と思うこともあると思うので……』

せつ菜『歩夢さん』

せつ菜『明日は土曜日で学校も休みですけれど、若葉さんは音楽室でよくピアノを練習していると聞きます』

せつ菜『…………』

せつ菜『明日会えるように、段取りは組むので』

せつ菜『今日はとりあえず、ゆっくり休んでください』

せつ菜『また、連絡します』


せつ菜ちゃんがそのようにみんなに指示を出して、本日はお開きとなった。

330: (しまむら) 2021/06/13(日) 20:48:13.97 ID:cdZKLA7N
歩夢「明日……か……」

歩夢「もう……私は……そこで……」

歩夢「……」フリフリ

歩夢「大丈夫、怖くないよ……歩夢」

歩夢「若葉ちゃんに、会おう」

歩夢「──ッ!!」ズキンッ!!

──ガタンッ!!

歩夢「ッ……ぐぅ……頭……いた……!」

歩夢「はっ……はぁ、ッ……──痛くない……!」


再び、激しい頭痛が襲いかかってくる。

頭に出来た傷口に、何度も鈍器で殴られるような感覚。

──床に倒れ伏せてしまう。


歩夢「痛くない……痛くない痛くない痛くない痛くない痛くない痛くない痛くない……!!」

歩夢「痛くない……ッ!!」


意識を他の所へ向けないといけない。

このまま気を失ったら、戻って来れなくなる。


歩夢「……皆の……歌……」


私はスマホに手を伸ばし──スクールアイドル同好会の皆の歌を聴く。

331: (しまむら) 2021/06/13(日) 20:54:31.22 ID:cdZKLA7N
♪〜

歩夢「…………」

歩夢「……良い歌……」

歩夢「……璃奈ちゃんが言ってた……」

歩夢「歌には……人を癒す力があるって……」

歩夢「…………」

歩夢「大丈夫、痛くない」

歩夢「……若葉ちゃんと……会おう……」

歩夢「……みんな……今まで本当にありがとうね」

歩夢「大好き」


──そのまま、夜が明けた。

332: (しまむら) 2021/06/13(日) 21:09:12.74 ID:cdZKLA7N
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

歩夢「…………」

歩夢(朝……だ……)

歩夢「ずっと皆の歌を聞いてたら……朝になってた……」

ピローン

歩夢「ん?」


───────────

せつ菜ちゃん:歩夢さん

せつ菜ちゃん:おはようございます

せつ菜ちゃん:準備が整いました

せつ菜ちゃん:若葉さんは音楽室にいますので、歩夢さんの準備が整い次第、学校にいてください

せつ菜ちゃん:待ってます

───────────


歩夢「……ありがとう……せつ菜ちゃん……」

歩夢「でも……待ってます……? どういう事だろ?」


頭がぼーっとしてしまい、上手く考えられない。


歩夢「……準備して、行こう」

歩夢「若葉ちゃんに会いに」


──でも、私は歩み続けるよ。私とこの子の夢の為に。

夢はここから始まるんだ。


身支度を整え、家を出る。


歩夢「行ってきます」

歩夢「──え?」


家を出るとそこには──


しずく「おはよ、歩夢さん」


──しずくちゃんがいた。


歩夢「しずくちゃん……?」

しずく「……最後の」

しずく「皆との通学時間だよ」ニコッ





333: (しまむら) 2021/06/13(日) 21:21:04.01 ID:cdZKLA7N
しずく「せつ菜さんがさ、一人一人の時間を作ろうって提案したの」

しずく「歩夢さんと一緒にニジガクを目指しながら……それぞれ歩く場所を分けて……歩夢さんと話す時間をね」

歩夢「私も皆と話したかったから……嬉しいや」ニコッ

しずく「パシャリ!!」パシャッ

歩夢「!?」ビクッ!!

しずく「えっへへ〜! 歩夢さんの笑顔、ゲットだぜ〜!」

歩夢「もー……いきなりビックリしちゃうよ」

しずく「いやはや、ごめんごめん」

しずく「家宝にするね」

歩夢「家宝!?」

しずく「じゃあ国宝?」

歩夢「国にまで巻き込んじゃうの!?」

しずく「良いツッコミするね〜歩夢さん!」

歩夢「したくてしてるわけじゃないよぉ……」

しずく「あはは!」ニコニコ

334: (しまむら) 2021/06/13(日) 21:30:48.79 ID:cdZKLA7N
しずく「──こんな感じの会話が、大人まで続くと思ってたんだけどなぁ」

歩夢「!!」

しずく「一緒に大人になって、お酒飲めるようになったら一緒に飲んで……昔話に花を咲かせて……楽しく過ごせると思ってたんだ……」

歩夢「…………」

しずく「……歩夢さん……」

しずく「もう……おしまいは近いの……?」

歩夢「……うん」

歩夢「なんとなくだけど……もう数時間も……持たない気がする」

しずく「……そっか……」

歩夢「……ごめんね……」

しずく「謝らないでよ」

しずく「一番辛いのは、歩夢さんだもん」

歩夢「…………」

しずく「歩夢さん」

しずく「私……バッドエンドが嫌いなの」

歩夢「え?」

しずく「古い映画とか小説が好きなんだけどさ、その中でもバッドエンドで終わる作品……好きじゃないんだ」

歩夢「……」

しずく「バッドエンドとハッピーエンド、どっちで終わる方が良いのか11万人にアンケート調査した所……どんな結果になったと思う?」

歩夢「……50パーセントくらい?」

335: (しまむら) 2021/06/13(日) 21:41:04.72 ID:cdZKLA7N
しずく「結果はね」

しずく「93パーセントの人がハッピーエンドが良いって答えたみたいだよ」

歩夢「そ、そんなに!?」

しずく「うん」

歩夢「……そ、そうなんだ……ちょっと意外かも」

しずく「別にバッドエンドの全てを否定するわけじゃないんだけどね」

しずく「私はハッピーエンドの方が好き」

しずく「物語は綺麗に終わった方が、絶対にいいよ」

歩夢「…………」

しずく「まぁ、つまりね」

しずく「私は……あなたの物語が……」

しずく「このままバッドエンドで終わってほしくない」

歩夢「しずくちゃん……」

しずく「ハッピーエンドを迎える事が出来るって……信じてるから」

しずく「こんなに優しくて……頑張っていた歩夢さんが報われない世の中なんて嫌だし」

しずく「そんな運命にした神様がいたら──私は絶対に許さない」

歩夢「……」

しずく「歩夢さん」

しずく「今まで、本当にありがとう」

しずく「私、歩夢さんの事……本当に大好き」

歩夢「うん」

歩夢「私もしずくちゃん、大好きだよ」

歩夢「最初に私の事を受け入れてくれて、本当にありがとうね」ニコッ

しずく「──ッ!!」

しずく「……っ……」

しずく「うん……うん!」

しずく「さ、最後は……笑顔で……お別れ……!」

歩夢「……うん」コクリ

しずく「歩夢……さん」

しずく「──」スゥゥゥゥ



しずく「今まで、ありがとう!」ニコッ

336: (しまむら) 2021/06/13(日) 21:55:28.57 ID:cdZKLA7N
彼方「見て見て! 歩夢ちゃん!」

彼方「じゃじゃーん!!」

彼方「我が愛しの妹の一人、遥ちゃんでーす!!」

遥「…………」

遥「お姉ちゃん、うるさい」

彼方「遥ちゃん辛辣!?」

歩夢「あはは……」

歩夢「はじめまして……だね。遥ちゃん」

遥「はい! うちの姉としーちゃんがいつもお世話になっています」ペコリ

歩夢「礼儀正しい……」

彼方「えっへん!」

遥「なんでお姉ちゃんが偉そうなのさ……」

歩夢「遥ちゃん、退院出来たんだね」

遥「はい! その節はお世話になりました」

歩夢(……遥ちゃん、しずくちゃんから少し変わった子だって聞いたけれど、全然普通な気がするんだけど。なんならいい子な気が……)

歩夢「ううん。私は何もしてないよ」

歩夢「彼方さんが信じ続けた結果だと思うの」ニコッ

遥「お姉ちゃん、歩夢さん良い人過ぎて私惚れちゃいそうなんだけど」

遥「お持ち帰り予約受付ってしてますか?」

彼方「予約でいっぱいですね〜」

遥「まじか」

歩夢「……」

歩夢(やっぱり少し変わった子かも)

歩夢(でもこんな遥ちゃんも新鮮で可愛いなぁ)

338: (しまむら) 2021/06/13(日) 22:01:30.78 ID:cdZKLA7N
歩夢「……」

歩夢(でも、彼方さん……思いの外元気そう)

歩夢(いや、良い事なんだけどね!? 最後なのに少し寂しい気持ちも……)

彼方「…………」

彼方「歩夢ちゃん」

歩夢「え?」

彼方「彼方ちゃんは、お姉ちゃんだからさ」

彼方「妹の前では強くいなくちゃダメなの」

歩夢「!!」

彼方「今日遥ちゃんを連れてきたのも……こうでもしないと……悲しくって……上手く会話できないからさ……」ボソッ

歩夢「彼方さん……」

遥「ん? お姉ちゃんどうしたの?」

彼方「……」

彼方「んーん! なんでもないよ〜!」ニコッ

彼方「さっ! 虹ヶ咲学園を目指して皆でお散歩しよ〜!」

遥「うん!」

歩夢「……はい!」ニコッ

341: (しまむら) 2021/06/13(日) 22:12:47.41 ID:cdZKLA7N
彼方「歩夢ちゃん」

彼方「私、調理師目指してるんだ〜」

歩夢「え? お医者様は?」

彼方「遥ちゃんが治ったからもういいの!」

彼方「今は自分のやりたい事を真っ直ぐ目標にして頑張りたいんだぁ〜!」

歩夢「ふふっ、良いと思います」ニッコリ

彼方「でしょでしょ?」ニコニコ

彼方「それと歩夢ちゃんが言っていた、夢を口に出すといつか叶うっていうやつあるじゃん?」

彼方「あれもやってみてるよ! 私は調理師になるぞ〜って!」

遥「歩夢さん。お姉ちゃん家でいつも騒がしいんですよ?」

彼方「ひどい!」

遥「でもそんなお姉ちゃんがすき」

彼方「私も遥ちゃんすき!」

歩夢(仲良し過ぎる……)

彼方「──とまぁ! そういうこと」

彼方「歩夢ちゃん」

歩夢「?」

彼方「歩夢ちゃんは元の世界に戻れるよ」

彼方「絶対に、戻れる」

歩夢「え?」

彼方「私はそう信じてる」

彼方「ずっと……そう言い続けるから」

彼方「夢は口に出すと……いつか叶うんだから……」

歩夢「彼方さん……」

342: (しまむら) 2021/06/13(日) 22:25:02.64 ID:cdZKLA7N
遥「せ、世界……?」

彼方「ふふふ……大人の話だよ遥ちゃんや」

遥「何言ってるのさ……」

歩夢「あはは……」

遥「でも、世界かぁ……」

遥「私も入院中でずっと寝ていた時、世界に関わる夢を見てた気がするから……少し気になるなぁ」

歩夢「え?」

遥「あ、夢の話ですよ? もうほとんど内容も覚えてないんです。なんか別世界? 私のいる場所とは同じなのに全然違う所に……いた気がするんだけどぉ……」

遥「……うーん……やっぱり上手く思い出せない」

遥「──あっ、でも目覚めるきっかけになったのは覚えてます」

遥「お姉ちゃんの歌が聞こえてきたんです」

歩夢「歌……?」

遥「はい」

遥「どこかへ引き寄せられて、歩いていた気がしたんですけれど……後ろからお姉ちゃんの歌が聞こえて……お姉ちゃんの歌の方に向かって歩いたんです」

遥「そして気が付いたら、起きてました」

歩夢「…………」

遥「そ、そんな真剣な表情で聞くことですか?」

歩夢「え? あっ……ご、ごめんね。気にしないで!」

遥「?」

彼方「……まぁ、そういう事だよ。歩夢ちゃん」

彼方「私は、信じてるから」

彼方「あなたが遥ちゃんと同じように、戻れるって!」

彼方「だから、悔いのないように」

彼方「若葉ちゃんとお話してくるんだよっ」ニコッ

歩夢「──はい!」ニコッ

彼方「うんうん! いい笑顔だ!」ナデナデ

歩夢「えへへ……照れます」

遥「あ、歩夢さん……なでなでずるい……!」ジトー

歩夢「えぇ!?」

彼方「あはは〜。順番だよ〜?」ニコニコ


彼方(歩夢ちゃん)

彼方(今までありがとうね)

343: (しまむら) 2021/06/13(日) 22:32:33.53 ID:cdZKLA7N
璃奈「──ほうほう。それでそれで?」

歩夢「えっと、その後璃奈ちゃんが『りなちゃんボード』って言うのを作ってね」

璃奈「『りなちゃんボード』? 良いネーミングセンスだ。さすが別世界の私。非常に興味深いね」

歩夢「……」

歩夢(璃奈ちゃんからものすごく私の世界の璃奈ちゃんの話を聞かれる)

歩夢「やっぱり気になる? 別世界の自分の事」

璃奈「歩夢さんや」

歩夢「おばあさんやみたいな言い方だね……」

璃奈「そもそもこれはすごい話なんだよ」

歩夢「え?」

344: (しまむら) 2021/06/13(日) 22:37:34.12 ID:cdZKLA7N
璃奈「今まで私達人類で可能性理論としてしか語られていなかった、アナザーワールドの存在が確定したんだからね」

璃奈「本当にすごい事だよ」

璃奈「端的に言って、胸が熱くなるね」

歩夢「そ、そっか」

璃奈「うん!」

歩夢「璃奈ちゃんが楽しそうでなによりだよ」

璃奈「撫でていいよ?」

歩夢「甘えん坊さんだぁ……」

歩夢「でも可愛いからなでなでしちゃうね」ナデナデ

璃奈「優しい。さては歩夢さん、私の事が好きだね?」

歩夢「うん。大好きだよ」

璃奈「え? ……ぁぅ……////」

歩夢(かわいい)

璃奈「か、からかわないでよ……歩夢さん……」

歩夢「からかってないのに」

345: (しまむら) 2021/06/13(日) 22:44:03.97 ID:cdZKLA7N
璃奈「──と、とにかく!」

璃奈「私はこの事について、たくさん研究するよ」

璃奈「そして、また皆であなたと……繋がれるようにしたい」

歩夢「!!」

璃奈「それが私の夢だよ」

歩夢「……璃奈ちゃんは……強い子だね」

璃奈「みんなのおかげでこうなれたんだよ」

歩夢「……嬉しいよ」

璃奈「でも、私は歩夢さんに一番感謝してる」

歩夢「え?」

璃奈「あなたは私が同好会に入るきっかけの人。憧れの人」

璃奈「あなたがいなかったら……こんなに素晴らしい仲間とは出会えていなかった」

璃奈「お母さんが私のライブを見てくれる事も、一生なかった」

歩夢「……あれはかすみちゃんとしずくちゃんが……」

璃奈「ううん。そうじゃない」

璃奈「あなたがいなかったら、その出来事すら起きていないんだよ」

歩夢「璃奈ちゃん……」

346: (しまむら) 2021/06/13(日) 22:48:08.00 ID:cdZKLA7N
璃奈「今は少しの間……お別れかもしれない」

璃奈「でも、絶対に……最後のお別れにだなんてさせないから」

璃奈「だから、さよならは言わないよ。歩夢さん」

歩夢「……うん……」

歩夢「私も、言わないよ。璃奈ちゃん」

歩夢「ありがとうね」ニコッ

璃奈「っ……!」

璃奈「……」ゴシゴシ


璃奈「歩夢さん」

璃奈「今まで本当にありがとう」

璃奈「あなたはいつまでも、私の憧れだよ」

璃奈「またいつか、会おうねっ!」ニッコリ

347: (しまむら) 2021/06/13(日) 23:18:37.77 ID:cdZKLA7N
果林「わたしさぁ」

果林「──田舎の雰囲気が苦手だったんだよねぇ」

歩夢「え? そ、そうなんですか?」

果林「うん」

果林「いや、すっごい良い所なんだよ?」

果林「自然も豊かだし、ご飯も美味しいし。周りの家の人達も優しいし」

果林「……でも、プライベートが全部筒抜けなんだぁ」

歩夢「うーん……なんかイメージが湧かないです」

果林「ずっと都会に住んでると分からないと思う」

果林「昨晩22時半くらいに部屋の明かり付いていたけれど勉強でもしてたの? 声が聞こえたから友達と通話かな? って言うのを別の家のおばちゃんから聞かれるよ」

歩夢「」

歩夢「え? そんな細かく……?」

果林「そんなの日常茶飯事だよ?」

歩夢「えぇ……」

果林「ぜーんぶ筒抜けなの! 田舎ネットワークは凄いのさ」

歩夢「本当にごめんなさい……なんかちょっと怖いかもです……」

果林「うんうん。それが普通の反応だよ」

果林「私もさっき言った通り、苦手だったしちょっと怖かったの」

348: (しまむら) 2021/06/13(日) 23:24:02.58 ID:cdZKLA7N
果林「そんでね、わたしと同じ考えを持つ、わたしの憧れの人が近くに住んでたの」

果林「その人が突然いなくなっちゃったの」

歩夢「え?」

果林「都会に行った親不孝者だってみんな言ってた。何も挨拶されずに出ていかれちゃったから……寂しかったなぁ」

歩夢「……」

果林「その人、どうなったと思う?」

歩夢「え? えっと……」

歩夢「有名人に……なってた?」

果林「おぉ! せいかい!! さっすが歩夢ちゃん!」

歩夢(合ってたんだ……)

果林「雑誌モデルになってたの! すごいよねぇ」

歩夢「あっ……だから果林さん……モデルになりたいんですか?」

果林「そーいうこと!」

349: (しまむら) 2021/06/13(日) 23:31:41.84 ID:cdZKLA7N
果林「セクシーで、すごいのよ? こんな感じでね」

歩夢「本当に声変わりますね、果林さん」

歩夢「最初会った時、ビックリしちゃいましたよ」

果林「え? そうなの? 歩夢ちゃんの世界にいるわたしってどんな感じなの?」

歩夢「セクシーです」

果林「セクシー」

歩夢「あと情熱的です」

果林「情熱的」

歩夢「そしてクールです」

果林「クール」

果林「わたしがスクールアイドルやってる時のキャラまんまじゃん!」

歩夢「そうなんですよね……だからビックリしちゃいました。声高!? って」

果林「へぇ〜……会ってみたきゃ〜」

歩夢(あなた誰よ!? 本当にわたしなの!? って反応しそうだなぁ……果林さん)

350: (しまむら) 2021/06/13(日) 23:41:40.68 ID:cdZKLA7N
果林「あっ、もうエマと交代する場所に着きそう」

歩夢「え? 本当ですか? 時間経つの早い……」

果林「ねー!」ニコニコ

歩夢「なんか……最後って感じしなかったです」

果林「うん。だって最後じゃないもん」

歩夢「へ?」

果林「いつかまた、わたしの憧れの歩夢ちゃんとわたし達は会えると思ってるからさ」

果林「ポジティブに考えた方が、絶対幸せだもん」ニッコリ

歩夢「果林さん……」

歩夢「ふふっ、私もそう思います!」ニコッ

果林「でしょでしょ〜?」

歩夢「……果林さんのポジティブには、みんな救われていると思います」

果林「そっかなぁ……別にあんまり深く考えてないんだけどなぁ」

歩夢「果林さん。本当に、ありがとうございました」ペコリ

果林「……お礼を言うのはわたしの方だよ」

果林「こんなに楽しいスクールアイドルになるきっかけを作ってくれたのは、歩夢ちゃんだもん!」ニッコリ

果林「また、会おうね」

果林「──絶対に!」ニコッ

歩夢「はい!」ニコッ


果林(本当にありがとうね。歩夢ちゃん)

果林(風邪……ひかないようにね)

351: (しまむら) 2021/06/13(日) 23:52:38.34 ID:cdZKLA7N
歩夢「……」

エマ「……」

歩夢「……」

エマ「あ、歩夢ちゃん……喉乾いてない?」

歩夢「喉は……はい。大丈夫です」

エマ「そ、そっかぁ……」

歩夢「……」

エマ「……うぅ……」

エマ「ごめんなさい……」

歩夢「え、えぇ!? ど、どうしたんですかエマさん……」

エマ「何て話していいか……わかんなくて……」

歩夢「…………」

エマ「わたし……3年生なのに……」

歩夢「エマさん」

歩夢「いつも通りでいいですよ」

エマ「え?」

352: (しまむら) 2021/06/13(日) 23:59:43.25 ID:cdZKLA7N
歩夢「ここに来るまでに、私はみんなと色々な話をしました」

歩夢「みんな、私の事を……本当に良く思っていてくれて……」

歩夢「また会おうねって言ってくれるし、私が元の世界に戻れるって信じてくれているんです」

エマ「……」

歩夢「本当に……大好きです。みんなの事」

エマ「……」

歩夢「もちろん、エマさんも大好きですよ」

エマ「わ、ワッツ!?////」

歩夢「正直に今の気持ちを伝えてくれて、謝ってくれる。本当に心優しい人です」

歩夢「正直になるのって、中々難しい事ですよ」

エマ「歩夢ちゃん……」

353: (しまむら) 2021/06/14(月) 00:07:27.96 ID:IMaCiRB2
歩夢「それにエマさんは、この子の話を聞こうとしてくれた」

歩夢「愛ちゃんとこの子がケンカしていた時」

エマ「あっ……あの時の」

歩夢「この子も本当は、嬉しかったと思います」

歩夢「あの時は……少し複雑な時だったから……エマさんを巻き込んじゃったけど」

歩夢「その事も後悔していました」

エマ「……そう、なんだ……」

歩夢「はい」

歩夢「エマさん」

歩夢「……この子は、本当に色々と苦労してきた子なんです」

エマ「……」

歩夢「だから、エマさんの優しさで──包み込んであげてください」

歩夢「この世界の歩夢の事……よろしくお願いします!」ペコリ

エマ「──うん!」

エマ「わたしに、任せて」

エマ「いっぱい甘えさせちゃうからっ」ニッコリ

歩夢「よろしくお願いしますっ」ニコッ

エマ「……歩夢ちゃん」

エマ「最後に、これだけ言わせて?」

歩夢「?」

エマ「あの時、わたしに勇気をくれて……夢への一歩を歌ってくれて!」

エマ「本当に──ありがとう!」

エマ「だいすき!!」ニッコリ

354: (しまむら) 2021/06/14(月) 00:14:05.03 ID:IMaCiRB2
愛「歩夢」

歩夢「なぁに? 愛ちゃん」

愛「アタシ」

愛「神様嫌いだわ」

歩夢「……急にどうしたの?」ジトー

愛「そんな目で見るなっつの」

愛「だってさ、意地悪じゃん」

歩夢「い、意地悪?」

愛「こんなに頑張ってる歩夢と、頑張ってきた歩夢が共存できない運命を作っちゃったんだからさ」

歩夢「…………」

愛「な?」

歩夢「…………」

歩夢「全部神様が悪いわけじゃないと思うんだけど」

愛「マジレス!? なんか今日の歩夢辛辣じゃね!?」

愛「さてはお前この世界の歩夢だな!?」

355: (しまむら) 2021/06/14(月) 00:19:15.07 ID:IMaCiRB2
歩夢「ふふっ、どっちだと思う?」

愛「……」ギュュュュ

歩夢「いひゃいいひゃい〜!」

愛「からかい過ぎだぞ」

歩夢「ご、ごめんなさい」

愛「たくっ……」

歩夢「──愛ちゃん」

愛「ん?」

歩夢「お別れしたくない」

愛「……」

歩夢「……みんな、優しくってさ……」

歩夢「……色々言ってくれる度に……」

歩夢「みんなと……お別れしたくない気持ちが……強くなってきちゃった……」

愛「歩夢……」

356: (しまむら) 2021/06/14(月) 00:24:57.36 ID:IMaCiRB2
歩夢「だ、ダメだよね……また会えるって信じてくれてる人や、私が元の世界に戻れるって信じてる人達もいるのにさ……」

愛「みんな同じ気持ちだよ」

歩夢「──え?」

愛「アタシだって……歩夢とお別れしたくない」

愛「この世界の歩夢も好きだけど……アタシ……今の歩夢だって……好きなんだよ……」

歩夢「愛ちゃん……」

愛「……あの時、酷いこと言っちゃって……ごめんな……」

愛「アタシの知っている上原を返せって言っちゃった事」

歩夢「……ううん」

歩夢「あの時、愛ちゃんと話せたから……私はまた前に向けたの」

愛「……」

歩夢「愛ちゃん」

歩夢「弱音吐いちゃって、ごめんなさい」

歩夢「愛ちゃんにはつい……色々心置き無く言えちゃうんだよね」

歩夢「あはは……」

357: (しまむら) 2021/06/14(月) 00:32:21.67 ID:IMaCiRB2
愛「歩夢」

愛「絶対これを、お別れになんてさせねぇから」

歩夢「!!」

愛「璃奈と一緒にたくさん勉強して、お前と必ず再会出来るようにする」

愛「約束だっ」

歩夢「愛ちゃん……」

歩夢「──うんっ!」

歩夢「約束っ!」ニッコリ

愛「歩夢」

愛「また会おうな」グッ

歩夢「……うん! また、会おうね」グッ

愛「……っ……」

愛「……歩夢……」

愛「大好き」ポロ、ポロ

歩夢「私も、大好きだよ。──愛ちゃん」ニコッ

コツンッ

358: (しまむら) 2021/06/14(月) 00:37:58.87 ID:IMaCiRB2
歩夢(校舎内に入る)

歩夢(もうすぐ、若葉ちゃんがいる所に……辿り着く)

せつ菜「それでですね、私はあなたの歌を聞いて──」

歩夢「うん」

歩夢(せつ菜ちゃんのマシンガントークが止まらない)

歩夢「せ、せつ菜ちゃん」

せつ菜「ん? どうしました?」

歩夢「疲れない? 凄く喋ってるけど」

せつ菜「全然疲れません! 歩夢さんと話すの、楽しいですから!」

せつ菜「なんなら一緒にいられるだけで、幸せですっ」ギュッ

歩夢「あはは……なら良いんだけど。無理はしないでね?」

歩夢(この光景を侑ちゃんに見られたら……羨ましいって言われそうだなぁ)

360: (しまむら) 2021/06/14(月) 00:43:36.03 ID:IMaCiRB2
歩夢「せつ菜ちゃん。そう言えば若葉ちゃんと話したの?」

せつ菜「えぇ。少しだけですけれど」

せつ菜「音楽室で大切な話があるので、ピアノ弾いて待っててくださいって伝えました」

せつ菜「今頃私を待っていると思います」

歩夢「えぇ!? それで急に私が現れたらビックリするんじゃ……」

せつ菜「それも狙いのひとつなので!」ペカー

歩夢「せつ菜ちゃん?」

せつ菜「じょ、冗談ですよ」

せつ菜「あなたとお話したい子を連れていきます。私は行けない可能性があるって事は伝えてあります」

歩夢「もう……」

歩夢「けど、色々と準備してくれて、ありがとうね」ニコッ

せつ菜「……」

歩夢「せつ菜ちゃん?」

361: (しまむら) 2021/06/14(月) 00:47:14.94 ID:IMaCiRB2
せつ菜「これだけしか……できないんですよ」

せつ菜「本当なら……あなたがいなくなること自体……なんとかしたい」

せつ菜「魔法や超能力が使えたら……使いたいですよ」

歩夢「せつ菜ちゃん……」

せつ菜「私は……あなたに……憧れて……スクールアイドルになりました」

せつ菜「あなたが私に、大好きを教えてくれたんです」

せつ菜「そんなあなたの為に……私はこれくらいの事しか」

歩夢「──これくらいの事なんかじゃない」

363: (しまむら) 2021/06/14(月) 00:58:39.72 ID:IMaCiRB2
歩夢「私はこの世界でもあなたの歌に救われたし、自分の世界でも……スクールアイドルになるきっかけを作ってくれたの」

せつ菜「……」

歩夢「せつ菜ちゃん」

歩夢「スクールアイドルになってくれて」

歩夢「本当にありがとう」ニコッ

せつ菜「!!」

せつ菜「……んでそんなに……」

歩夢「え?」

せつ菜「なんでそんなに……優しいんですか」

歩夢「せつ菜ちゃん?」

せつ菜「が、我慢しようと……思ってたのに……」



せつ菜「そんなこと言われたら……」

せつ菜「泣いちゃうじゃないですか……!!」

364: (しまむら) 2021/06/14(月) 01:06:45.72 ID:IMaCiRB2
せつ菜「なんで……!!」

せつ菜「なんで歩夢さんが……そんなに辛い目に合わなくちゃいけなかったんですか!!」

せつ菜「どうしてあなたが……消えなきゃならないんですか!!」

せつ菜「まだ! あなたとたくさんやりたい事、いっぱいあるのに!!」

せつ菜「なんで! ──なんで!!」

せつ菜「いなくなっちゃうのよッ!!」

歩夢「…………」

せつ菜「お別れしたくない!! ──したくないよ!!」

せつ菜「もっと歩夢さんと……一緒にいたいよぉ!!」

歩夢「……っ……!」

せつ菜「どうして……歩夢さんが……っ……!」

歩夢「……せつ菜、ちゃん……」

ギュゥ

歩夢「私、幸せだよ」

歩夢「せつ菜ちゃんにそんなに思って貰えて……本当に──幸せ」

せつ菜「ひっぐ……ひぐ……!!」

せつ菜「歩夢……さん……!」ギュュュュ

365: (しまむら) 2021/06/14(月) 01:16:25.31 ID:IMaCiRB2
歩夢「私、本当に……嬉しかったんだ」

歩夢「──菜々ちゃんが……この世界でもスクールアイドルになってくれて」

せつ菜「!!」

歩夢「私の大好きな歌を歌ってくれて」

歩夢「本当に……嬉しかった」

せつ菜「歩夢さん……」

歩夢「あの時とは、逆だね。菜々ちゃん」

せつ菜「……」

歩夢「──あの時の、お返し」

歩夢「我慢しなくて、いいよ」

歩夢「誰だって沢山泣きたい時はあるもん」

歩夢「だから今は」

歩夢「思いっきり泣いていいよ」ギュュュュ

せつ菜「!! 歩夢さん……!!」

せつ菜「ッ──」


ギュッ!!




せつ菜「──うああぁぁぁあああああああああッ!!」




せつ菜(歩夢さん)

せつ菜(今まで、ありがとう)

せつ菜(大好きです)

366: (しまむら) 2021/06/14(月) 01:24:26.71 ID:IMaCiRB2
かすみ「歩夢先輩」

かすみ「この世界の歩夢先輩って、今どうしてるんですか?」

歩夢「え?」

歩夢「あ、あんまり考えてなかったなぁ」

歩夢「──あっ、もしかして私の目を通して、ずっとこのやり取りを見てるかも」

かすみ「え? そうなんですか?」

歩夢「うん」

かすみ「なら、この世界の歩夢先輩」

かすみ「聞いてください?」

歩夢「……」コクリ

かすみ「スクールアイドルへの道は厳しいですからね。ビシバシ教えますから、覚悟して下さいね!」ピシッ

歩夢「!! かすみちゃん……この子の入部認めてくれるの!?」

かすみ「あ、当たり前じゃないですか」

かすみ「……でも、まぁ……その反応されても仕方ないか」

かすみ「私……酷いこと言っちゃいましたもんね」

歩夢「かすみちゃん……」

367: (しまむら) 2021/06/14(月) 01:30:07.13 ID:IMaCiRB2
歩夢「そんなこと、ないよ」

歩夢「あの時だって、しずくちゃんと彼方さんを巻き込まないように──」

かすみ「違うんです。歩夢先輩」

かすみ「その理由も一つではありますけど……私が……」

かすみ「単純に不良が嫌いだったから……あぁ言っちゃったんです……」

歩夢「…………」

かすみ「しずくの言う通りだったんだよ」

かすみ「誰だって好きで……不良になったわけじゃないんだ……」

かすみ「考えが子供だったんだよ……私」

歩夢「──そんな事ない」

歩夢「そうやって自分の行動を振り返って反省できるの……すごく大人だよ」

かすみ「歩夢先輩……」

歩夢「自分にストイックで、努力家で……かっこよくて優しくて可愛いかすみちゃん」

歩夢「私、大好きだよ」ニコッ

かすみ「……」

歩夢「尊敬してる」

かすみ「……」

368: (しまむら) 2021/06/14(月) 01:32:59.53 ID:IMaCiRB2
かすみ「本当に……お別れしたくないですよ……」

かすみ「もっとあなたと一緒に……いたかった……」

かすみ「素直になれば……良かった……」

歩夢「……」

歩夢「かすみちゃん」

かすみ「え?」

歩夢「スクールアイドルの基本って、なんだっけ?」

かすみ「!!」

かすみ「笑顔……です」

歩夢「だよね? かすみちゃんが教えてくれたんだよ?」

かすみ「……」

歩夢「悲しい顔をしてるの、似合わないよ」

歩夢「私……かすみちゃんの笑顔が見たいなぁ」

かすみ「…………」

369: (しまむら) 2021/06/14(月) 01:35:41.43 ID:IMaCiRB2
かすみ「もう! 歩夢先輩は仕方のない人ですね!」

かすみ「そんなに私の笑顔が見たいなら、もっと早く言ってくださいよー!」ニコッ

歩夢「あはは! ありがとう」

歩夢「可愛いよ、かすみちゃん」ナデナデ

かすみ「……」

かすみ「歩夢先輩って、タラシですよね」

歩夢「え!?」

かすみ「しかも天然タラシ。タチが悪いよ」

歩夢「悪口言われてる!?」

かすみ「褒め言葉ですよ」

歩夢「嘘だよね!?」

かすみ「はい」

歩夢「もぉー!!」

かすみ「あっはは!」ニコッ

370: (しまむら) 2021/06/14(月) 01:41:48.76 ID:IMaCiRB2
かすみ「歩夢先輩……見えてきました」

かすみ「この道を真っ直ぐ進んで、突き当たりを右に進むと音楽室です」

歩夢「うん。分かった」

かすみ「では、お見送りはここまでです」

かすみ「歩夢先輩」

かすみ「行ってらっしゃい!」ニッコリ

歩夢「──うん!」

歩夢「笑顔を作ってくれて、ありがとうね。かすみちゃん」

かすみ「スクールアイドルの基本をかすみんが破るわけにはいきませんからね!」

歩夢「ふふっ、かすみちゃんらしいや」

歩夢「かすみちゃん……今まで本当にありがとうね」

歩夢「またいつか、会おうね!」

かすみ「はい!」ニコニコ

歩夢「この子の事……よろしくね!」

かすみ「任せてくださいっ!」ニッコリ

歩夢「じゃあ、またね!」

歩夢「本当にありがとう!」

スタスタ



かすみ「…………」

かすみ「行っちゃった、か……」

372: (しまむら) 2021/06/14(月) 02:01:21.05 ID:IMaCiRB2
かすみ「…………」

かすみ(日記……読んだよ、歩夢先輩)


歩夢『だから、かすみちゃんに信用してもらえるように頑張る。ケンカも絶対にしない。もう、悪いこと絶対にしないから』

歩夢『私、本気だから』


歩夢『……皆とまた一緒にいたいから……』


かすみ(自分の事じゃなかったのに……お人好し過ぎますよ。歩夢先輩は)


歩夢『飛び立てる Dreaming Sky』


歩夢『かすみちゃん!』

歩夢『ありがとう……!』

歩夢『私、頑張るから!!』ギュュュュ


歩夢『うんっ。放送聞いてたよ。ありがとうねかすみちゃん』


歩夢『ふふっ、そうなんだ』ニコッ


歩夢『かすみちゃん!』

歩夢『かすみちゃん?』

歩夢『おはよっ、かすみちゃん』ニコッ


歩夢『私……かすみちゃんの笑顔が見たいなぁ』


かすみ「…………」

かすみ「ごめん、歩夢先輩」

かすみ「私……!」

かすみ「スクールアイドルの基本……っ……!!」

かすみ「破っちゃう……!!」



かすみ「──ああぁぁぁあああああんッ!! ひっぐ! ぅ、……ッ……──うあぁぁぁぁあああああああああッッ!!」




かすみ(歩夢先輩)

かすみ(大好き)

373: (しまむら) 2021/06/14(月) 02:05:42.73 ID:IMaCiRB2
歩夢「……」


──音楽室から、ピアノの音が耳に届く。


歩夢「……ここに……若葉ちゃんが」


目の前には音楽室の扉。


歩夢「……行こう、歩夢」

歩夢「若葉ちゃんに会いに」


一呼吸、またその後に深呼吸。緊張を和らげる。

そして私は──音楽室の扉を開けた。

374: (しまむら) 2021/06/14(月) 02:10:33.27 ID:IMaCiRB2
♪〜

耳に、ピアノの音が良く聞こえる。

ピアノを弾いている子は、愛しの子。

私の大好きな侑ちゃんと、同じ見かけをした女の子。

──この世界の、高咲侑ちゃん。


若葉「──へ?」

若葉「あ、歩夢ちゃん……?」

歩夢「……」


私に気が付いたみたいだ。


歩夢「若葉……ちゃん……」

歩夢「会いたかった」ニコッ


みんな、ありがとう。


───────さよなら。

375: (しまむら) 2021/06/14(月) 02:13:25.90 ID:IMaCiRB2
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

歩夢「あれ……?」

歩夢「え?」

歩夢「わたし……あれ?」

若葉「あ、歩夢ちゃん……?」

若葉「どうしたの……?」

歩夢「!! わ、若葉ちゃん……」

歩夢「歩夢は……?」

若葉「へ?」

若葉「歩夢ちゃんは……キミじゃん」

歩夢「……」ポカーン


この日、この瞬間──わたしの憧れの上原歩夢が消えてしまったことが分かった。

377: (しまむら) 2021/06/14(月) 02:18:03.54 ID:IMaCiRB2
若葉「ふふっ、変な歩夢ちゃん」

歩夢「…………」

若葉「久しぶり、だね。歩夢ちゃん」

歩夢「……うん……」

若葉「……」

歩夢「……」

若葉「あ、あはは……久しぶりだと……何話していいか分からないね」

歩夢「……そう、だね……」

歩夢「……わ、若葉ちゃん」

若葉「……うん」

歩夢「わたし、若葉ちゃんにずっと」

歩夢「謝りたかった」

若葉「……どうして……?」

378: (しまむら) 2021/06/14(月) 02:22:03.73 ID:IMaCiRB2
歩夢「若葉ちゃんは……わたしのせいで──」

若葉「私も歩夢ちゃんに言いたいことがあったの」

歩夢「え?」

若葉「ずっと、ずっと……言いたかったことがあるの」

歩夢「……」

若葉「歩夢ちゃん」

若葉「あなたのせいじゃないよ」

歩夢「!!」

若葉「ずっと……後悔してた」

若葉「あの時の……言葉を……」

若葉「謝りたかった」

若葉「ずっと……ずっと……!!」

歩夢「若葉ちゃん……」

379: (しまむら) 2021/06/14(月) 02:27:43.21 ID:IMaCiRB2
若葉「それだけじゃない……」

若葉「歩夢ちゃんとした約束も……そんなのいいって酷いこと言っちゃって」

若葉「本当に、後悔してる」

歩夢「…………」

歩夢「でも……いま、ピアノを弾いてるって事は」

若葉「うん」

若葉「中学から、始めたの」

若葉「歩夢ちゃんとの……約束だったから」

歩夢「……覚えててくれたんだね」

若葉「それは私だけじゃなくて、歩夢ちゃんもでしょ?」

歩夢「へ?」

若葉「歩夢ちゃんも……すっごいスクールアイドルになってた」

若葉「感動しちゃったよ」

歩夢「あれは……」

若葉「……本当はさ……もっと歩夢ちゃんに早く会いに行くつもりだったの」

若葉「でも……声掛けられなかったの」

380: (しまむら) 2021/06/14(月) 02:40:28.57 ID:IMaCiRB2
スタスタ

若葉(虹ヶ咲学園……ひ、広いなぁ)

若葉(学生寮があるし、音楽のこともっと学びたいから転入したけれど……迷っちゃうよ)


スタスタ

歩夢『……』


若葉(──え?)

若葉(今の女の子……あ、歩夢ちゃん!?)

若葉(お、追ってみよう!)


歩夢『っっ……!!』

歩夢『……』

歩夢『……っ……!!』ポロポロ

歩夢『……ひっぐ……ひぐ……っ、……!!』ポロポロ

歩夢(せつ菜ちゃん……!)


スタスタ ──ピタッ


若葉『!?』ビクッ

若葉(やっぱり、歩夢ちゃんだ! え? ……な、泣いてる!? ど、どうし──)

若葉『…………』

若葉(でも……今更私が声掛けたって……困らせちゃうだけだよね……歩夢ちゃん……)

若葉『……』

若葉(ごめんね、歩夢ちゃん……)

スタスタ

381: (しまむら) 2021/06/14(月) 02:51:42.81 ID:IMaCiRB2
若葉「すぐに謝るべきだったのに……逃げちゃったんだ、私……」

歩夢「……」

歩夢(あの時の気配と足音は……若葉ちゃんだったんだ)

歩夢「こんなに近くにいたんだね。若葉ちゃん」

若葉「……だね」

歩夢「若葉ちゃん」

歩夢「わたし、若葉ちゃんと話したいこと沢山あるの」

歩夢「今までの事、不思議な体験をしたこと……色々あるの」

若葉「……私も同じだよ、歩夢ちゃん」

歩夢「一緒に……やり直そう」

若葉「うん……」

歩夢「若葉ちゃん」

歩夢「これからもわたしと、一緒に歩んでくれる?」

若葉「歩夢ちゃん……」

若葉「──うん!」

若葉「一緒に……やり直そう」

若葉「もう、離れたりしないから」

若葉「絶対に!!」

歩夢「──うん!」




歩夢(わたしの憧れた。優しくて可愛い、まごころ溢れる……わたしの憧れのスクールアイドル。──別世界の上原歩夢)

歩夢(わたしの願いを叶えてくれて)

歩夢(ありがとう)

382: (しまむら) 2021/06/14(月) 03:01:27.89 ID:IMaCiRB2
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

──白い世界に私はいた。

目の前には、どこまでも続く道があった。


歩夢「…………」

歩夢(なんだろ……これ……)

歩夢(この道を進めば、いいんだよね?)

歩夢「…………」

歩夢(身体が、導かれる)


──後ろから、音が聞こえてくる。


歩夢(え? なに、これ……)

歩夢(ピアノ……?)

歩夢(歌も……聞こえる……)

歩夢「………………」


『──へ引き寄せられて、─────────────ど──後ろから────歌が聞こえて……─────歌の方に向か───歩いた───』


歩夢「………………」

歩夢「前じゃない」

歩夢「後ろに歩くんだ」

歩夢「音の聞こえる……方へ……」


────────────

383: (しまむら) 2021/06/14(月) 03:08:02.51 ID:IMaCiRB2
とても長い夢を見ていた気がする。

頭が上手く、働かない。照明が、眩しい。

耳に、ピアノの音と歌が届く。


侑「♪〜」


歩夢「」

歩夢「ゆう……ちゃ……ん」


侑「──へ?」


歩夢「ピアノと……うた……じょうずに……なったね」


私の横に、愛しい子がいた。

侑ちゃんに会いたくて、ずっと……長い夢を見ていた気がする。

いつか会うって、約束もした気がする……。

──でも、今は気持ちを整理できない。上手く、考えられない。


歩夢「会い、たかった……!!」


涙が溢れ出てしまった。

384: (しまむら) 2021/06/14(月) 03:11:30.70 ID:IMaCiRB2
侑「あ、あぁ……うそ……」

侑「あ、歩夢……」

侑「歩夢!!」バッ

ギュッ!!

歩夢「くる、しいよ……侑ちゃん……」

侑「歩夢……!! 歩夢!!」ギュュュュ

歩夢「……侑、ちゃん……」

侑「!!」

歩夢「ただいま」ニッコリ

侑「──ッ!!」

侑「うん……っ……うん!」

侑「おかえり!!」

侑「──歩夢っ!!」

385: (しまむら) 2021/06/14(月) 03:21:42.12 ID:IMaCiRB2
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


「みんな、準備はOK?」

「モチのロンだぜ」

「愛さん、それ古い」

「ねー!」

「今時それ使う子いないよね〜」

「あれ? なんでしずくちゃん目を逸らしてるの?」

「そ、ソラシテナイデスヨ!?」

「わぁ……カタコトだぁ〜……」

「こーら皆さん! ライブ前なんですから! 集中です!」

「せつ菜先輩の言う通りですよ」

「──では、歩夢先輩。いきましょうか」

「うん」

「あなたの努力を……見せる時ですよ」

「ふふっ、期待しててね。かすみちゃん」

「わたしの憧れのスクールアイドルを目指して、頑張ったから!」

「……はい!」

「じゃあ、一曲目……いこう!」



「──夢がここからはじまるよ!」

386: (しまむら) 2021/06/14(月) 03:22:13.32 ID:IMaCiRB2
歩夢「パラレルワールド?」


おしまい。

396: (SB-iPhone) 2021/06/14(月) 03:37:32.97 ID:O74g6w+J
歩夢ちゃんの学生証拾った
no title

403: (もんじゃ) 2021/06/14(月) 04:23:50.86 ID:kQCTpuu3
乙です
この約1か月間毎日更新が楽しみでした
素敵なSSをありがとうございました
お粗末ですがパラレル歩夢ちゃんを添えさせて頂きます
no title

439: (しまむら) 2021/06/14(月) 22:35:18.70 ID:IMaCiRB2
約一ヶ月の更新でしたが、読んで頂きありがとうございました。感想レスも嬉しいです。3rdライブで大西亜玖璃さんの「夢は口に出すと〜」のMCの一言がこの作品を作るきっかけでした。
続編とかは考えていないですが、侑視点の話は気が向いたら書くかもしれません。
長編を書く事の難しさや、全てのキャラクターを上手く動かす事の難しさを知れたので書いて良かったです。
自分語りの長文失礼致しました。


>>396

ありがとうございます! これを初めて見た歩夢はビックリしたでしょうね……

>>403

可愛いイラストありがとうございます! ポニテ歩夢もかわいいYO!

402: (もんじゃ) 2021/06/14(月) 04:03:38.79 ID:8PpU4LJJ
乙です
完結まで1ヶ月の超大作

405: (もこりん) 2021/06/14(月) 05:26:06.70 ID:iwBDukSD

凄く面白かった!

410: (もんじゃ) 2021/06/14(月) 06:22:55.49 ID:LUX0A64r
乙乙乙

すごく良かった
本当にありがとう

416: (SB-Android) 2021/06/14(月) 07:42:06.09 ID:pJ72H5p0

本当に面白かったありがとう

421: (茸) 2021/06/14(月) 09:12:47.04 ID:LKAYLLvi
乙!今年一番のSSを読んでしまった
最後に個々人のエピソードを振りかえさせるなんて反則でしょ…
歩夢が目覚めてから侑ちゃんに再会するまでの時間は読者に委ねるって感じかな?

428: (なし) 2021/06/14(月) 12:44:28.85 ID:ItACinh4

1ヶ月間最高でした

429: (SIM) 2021/06/14(月) 13:50:24.73 ID:Zyp+u8zv
良いお話だった

459:おまけ編(しまむら) 2021/06/17(木) 22:19:22.88 ID:UrmQtizu
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

朝、スマホのアラームが鳴り目を覚ます。


歩夢「……んん……ん……」ポー


眠りから目が覚めるのは、とても久しぶりの感覚だった。寝るのすら久々だったので、なんだか変な感じ。

昨日、わたしの憧れの人がきえてしまった。──その人はらわたしのなりたかった自分。理想のような子だった。

──それは別世界の歩夢。
彼女は消えてしまい、わたしの中からいなくなった。

正確に言えば、わたしが中にいた状態だった……けれどね。

彼女のおかげで、わたしは若葉ちゃんと仲直り出来た。再びあの子と歩むことができるようになった。

……でも、わたしはあの子とも、出来ることならずっと人生を歩んでいきたかった。

そんな事を思っていると、スマホがピロンっと音を鳴らす。メッセージが届いた。


歩夢「!!」


メッセージの送り主は──中川菜々生徒会長。今は優木せつ菜ちゃん。


歩夢「………………」


──わたしは、彼女達に許してもらえるのだろうか。

そんな想いを胸に抱えながら、わたしは身体を起こした。

460: (しまむら) 2021/06/17(木) 22:34:38.25 ID:UrmQtizu
歩夢「行ってきます」


メッセージの内容は、スクールアイドル同好会の部室に来てほしいというものだった。

軽く身支度を整え、家を出る。


歩夢「え?」

かすみ「…………」


家の前に──中須かすみちゃんがいた。


歩夢「中須かすみ……ちゃん……」

かすみ「お、おはようございます……歩夢先輩」

歩夢「…………」


なんて言っていいのか、分からなかった。

ただ、自然とわたしは──


歩夢「ごめんね」

かすみ「へ?」


──謝ってしまった。

461: (しまむら) 2021/06/17(木) 22:41:16.79 ID:UrmQtizu
かすみ「歩夢先輩……?」

歩夢「ごめんなさい」

歩夢「わたしが残って……あの子が……」

かすみ「………………」

スタスタ

かすみ「歩夢先輩」スッ

歩夢「!!」ビクッ

ギュッ

歩夢「へ?」

かすみ「部室、行こ?」

かすみ「皆……待っていますので」

歩夢「か、かすみちゃん……? そ、その……手……!////」


顔が熱くなる。あの子と同じくらい憧れのかすみちゃんから手を握られる。


かすみ「……顔、真っ赤ですね」ジー

歩夢「だ、だって……かすみちゃんが……!」

かすみ「……」

かすみ「歩夢先輩」

歩夢「な、なに?」

かすみ「可愛いですね」

歩夢「──え?」

歩夢「え!?」

462: (しまむら) 2021/06/17(木) 22:47:43.52 ID:UrmQtizu
かすみ「全然狂犬じゃないじゃん」


かすみちゃんの手が、さっきよりも強く握る。
指を絡め、ぎゅっと握りしめる。


かすみ「可愛いですよ。歩夢先輩」

歩夢「…………」

歩夢「かすみちゃん」

かすみ「なんですか?」

歩夢「わたしはもう──あの子じゃないよ」

かすみ「!!」

歩夢「だから……」

歩夢「そんなお世辞はやめて?」

かすみ「…………」

かすみ「先輩」

歩夢「なに?」

かすみ「私はもう素直に生きるって決めました」

歩夢「素直に……生きる?」

かすみ「はい」

かすみ「もう意地張って、ツンツンするのはやめたんです」

かすみ「思った事を言葉にしただけです」

歩夢「…………」

かすみ「だから……さっきのあなたへの可愛いですね、という言葉の意味を理解してほしいかな……」

歩夢「かすみちゃん……」

463: (しまむら) 2021/06/17(木) 22:55:49.96 ID:UrmQtizu
歩夢(もっと、罵倒されるかと思っていた)

歩夢(責められると思っていた)

歩夢(……なんなら、一緒に行こうって誘ってくれたんだ。優しいよ)

歩夢(でも、その優しさだって……あの子が築き上げてきたものがあるから……こうしてくれるんだ)

歩夢「……わたしは、あの子に……どれだけ感謝すればいいんだろう」ボソッ

かすみ「歩夢先輩……?」

歩夢「…………」

歩夢(感謝の気持ちでいっぱいだけど、同時に罪悪感もすごい)

歩夢「…………」

かすみ「……」


そんな気持ちのまま、わたし達は学校を目指し──歩いた。

464: (しまむら) 2021/06/17(木) 23:08:26.20 ID:UrmQtizu
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

かすみ「皆さん、おはようございます」


かすみちゃんに手を引かれ、部室へ入室する。

皆の視線が、わたしに集まる。


歩夢「…………」


わたしは何も言えずに、俯いてしまう。みんなの顔が見れない。

──でも、そんな時だった。


しずく「歩夢さん! おはよっ!」

歩夢「……え?」


顔を上げると、しずくちゃんがわたしに笑顔を向けながら挨拶をしてくれる。


璃奈「おはよ、歩夢さん」

果林「おっはよー! 歩夢ちゃん!」

エマ「おはようっ、歩夢ちゃん」

彼方「歩夢ちゃんおはよ〜」

せつ菜「おはようございますっ! 歩夢さん!」

愛「よっ! 歩夢っ」

歩夢「…………」ポカーン


開いた口が塞がらなかった。

465: (しまむら) 2021/06/17(木) 23:18:16.96 ID:UrmQtizu
歩夢「……どうして……?」

歩夢「どうしてみんな……普通に挨拶してくれるの?」

愛「いや、朝に誰かと会ったら挨拶すんだろ普通」

歩夢「…………」

歩夢「愛」

歩夢「久しぶり、だね」

愛「……おう」

歩夢「この言葉の意味、わかるでしょ? ──皆も、愛も」

歩夢「──わたしはッ! あの子じゃないんだよ!?」

歩夢「な、なのになんで皆……そんな何も言わないの……」

歩夢「わたしが残って……あの子が消えちゃったのに……」

歩夢「わたしを責めないの……? 」

せつ菜「歩夢さん」

歩夢「!! せ、せつ菜ちゃん……」

歩夢「あ、あなたは一番あの子の事が大好きだったよね? な、なら」

せつ菜「あなたの中で私達は、あなたを攻めて罵倒するような集団なんですか?」

歩夢「!!」

473: (しまむら) 2021/06/18(金) 23:48:23.78 ID:p0pUeIcI
歩夢「……違う……」

歩夢「みんなが優しいのは、知ってる」

歩夢「あの子を通して見てたから……」

歩夢「でも! その優しさだって……あの子が……」

せつ菜「……」

せつ菜「歩夢さん」

せつ菜「私は、あの人が大好きでした」

歩夢「……うん。知ってるよ」

せつ菜「でも、あなたもあの人の事が大好きでしたよね?」

歩夢「!!」

せつ菜「多分、私よりも……」

歩夢「……大好きに差なんてないよ」

せつ菜「大好きな事は否定しないんですね」

歩夢「……」

474: (しまむら) 2021/06/18(金) 23:55:35.37 ID:p0pUeIcI
せつ菜「歩夢さん」

せつ菜「確かに、あの人に会えなくなったのは辛いです。それは……同好会の皆さんも一緒に感じている想いです」

せつ菜「──ただ、あなたが一番辛いと思う」

歩夢「……っ……」

せつ菜「罪悪感を抱え込まないでよ」

せつ菜「あの人だって、あなたに良い未来を過ごして欲しいことを願っていると思います」

歩夢「……せつ菜ちゃん……」

475: (しまむら) 2021/06/19(土) 00:13:21.90 ID:dLEGAELH
かすみ「歩夢先輩」

かすみ「あなたが今やりたいことは何ですか?」

歩夢「え? わたしのやりたいこと……?」

かすみ「はい」

かすみ「今日はみんなで、それを確認したかったから集まったんです」

かすみ「あなたがやりたい事、みんなでサポートしますから」

歩夢「ど、どうして……?」

かすみ「今度は、私達の番だから」

歩夢「え?」

476: (しまむら) 2021/06/19(土) 00:32:03.92 ID:dLEGAELH
しずく「あの人は私に」

しずく「自分らしく生きる事の大切さを教えてくれた」


しずくちゃんがわたしに手を差し伸べる。


彼方「願いを信じる大切さを教えてくれた」


彼方さんがわたしに手を差し伸べる。


璃奈「歌の素晴らしさを教えてくれた」


果林「勇気を出す大切さを教えてくれた」
エマ「勇気を出す大切さを教えてくれた」


愛「真っ直ぐ生きる事の大切さを教えてくれた」


せつ菜「私に大好きを教えてくれた」


かすみ「コツコツと、夢へ向かって一歩一歩踏み出す事の大切さを教えてくれた」


璃奈ちゃんも、果林さんもエマさんも、愛とせつ菜ちゃんもかすみちゃんも──皆わたしに手を差し伸べてくれる。


歩夢「みんな……」

かすみ「歩夢先輩」

かすみ「私達はあの人から沢山大切な事を教えてもらいました」

かすみ「いつも笑顔で、私達を支えてくれたんです」

かすみ「だから……だから!!」

かすみ「今度は、私達の番」

かすみ「今度は私達全員が──あなたを支えます」

歩夢「みんな……!」

かすみ「歩夢先輩。──手を伸ばして」

かすみ「私達は全員」


「「「あなたの味方だから」」」

478: (しまむら) 2021/06/19(土) 00:45:54.86 ID:dLEGAELH
歩夢「っ……!」


視界が少し、ぼやけてしまう。


歩夢「わ、わたしが……やりたい事は……!!」


──でも、泣いてはいけない。

わたしの憧れのあの子は、笑顔の時が多かったから。

だから──今は笑顔で、みんなに想いを伝えよう。


歩夢「わたしは!」

歩夢「スクールアイドルに、なりたい!!」

歩夢「きっかけは、一人の女の子との約束だったけど……この想いは、今のわたしの気持ちです!!」

歩夢「だから皆……わたしと一緒に」

歩夢「──スクールアイドルとして、一緒に歩んで下さいっ!!」

479: (しまむら) 2021/06/19(土) 00:54:34.08 ID:dLEGAELH
その瞬間──皆がわたしに抱き着く。


しずく「歩夢さん! 一緒に歩いていこっ!」

彼方「一緒に夢を叶えよう、歩夢ちゃん」

璃奈「一緒に頑張ろう、歩夢さん」

果林「歩夢ちゃん! ようこそ!」

エマ「スクールアイドル同好会へ! だよ〜!」

愛「これからもよろしくな、歩夢」

せつ菜「一緒に大好きを、貫きましょう!!」

かすみ「歩夢先輩。スクールアイドルへの道は厳しいですから、ビシバシいきますよ!」

歩夢「わっとと! み、みんな……ふふっ、苦しいよ」ニコッ


泣きそうになるけど、必死に笑顔を作った。

──そして、その時だった。

同好会の部室の入口扉から、数回のノック音が響いた。

480: (しまむら) 2021/06/19(土) 00:59:42.38 ID:dLEGAELH
彼方「あれ? お客様かなぁ? 日曜日なのに誰だろ……」

彼方「はいはい〜。行きますよ〜」


彼方さんが扉へ向かい、開ける。

そこに立っていたのは──わたしの愛しの子。


若葉「こ、こんにちは! 私、五十嵐若葉って言います」

若葉「いきなりでごめんなさい」

若葉「──私、スクールアイドル同好会のマネージャーになりたくて、来ました!」


──わたしの幸せな日々が、また始まった。

481: (しまむら) 2021/06/19(土) 01:12:38.61 ID:dLEGAELH




璃奈「若葉さん。今度のライブについてなんですけれど」

若葉「うん。前に言ってた特別照明の件だよね? 準備整ってるから後で詳細内容説明するね」

璃奈「ありがとう!」

せつ菜「若葉さん、MCのせつ菜スカーレットストームの時、実はウェーブがやりたくて……」

若葉「扇状にお客さんが配置されるから、出来ると思うよ! MCパフォーマンスとして取り入れよっか。あとで少しタイムテーブル組み直そうよ。せつ菜ちゃん」ニコッ

せつ菜「!! ありがとうございますっ!!」ペカー

愛「おーい、若葉〜」
しずく「若葉先輩っ」
エマ「若葉ちゃ〜ん!」
果林「若葉ちゃん!」

若葉「ちょちょ! み、みんな順番!」

ザワザワザワザワ


歩夢「………………」

483: (しまむら) 2021/06/19(土) 01:22:22.08 ID:dLEGAELH
歩夢(若葉ちゃんがマネージャーになってから数ヶ月)

歩夢(彼女はモテモテだった)

歩夢「…………」ムスー

かすみ「すーごい顔してますよ、歩夢先輩」

歩夢「え?」

彼方「嫉妬マシマシだね〜」

歩夢「そ、そんなことないもん!」プイッ

歩夢「別に!! 全然!! 気にしてないもん!! 嫉妬なんてしてません!!」プイッ

かすみ「嘘でしかない。せつ菜先輩並に声大きくなってますよ?」


せつ菜「!?」


彼方「乙女心は複雑だね〜」ニヤニヤ

かすみ「まぁ、若葉先輩めちゃめちゃ優秀だし、なによりものすごく優しいですからね。あぁなるのも仕方ないですよ」

歩夢「そんなこと幼馴染のわたしが一番知ってるもん!!」プイッ

かすみ「めんどくさ……」

彼方「こらこらかすみちゃん、違うでしょ? めんどくさかわいいでしょ?」

かすみ「それです彼方先輩」

歩夢「むぅ〜……わたしの若葉ちゃんなのにぃ……!!」プクー

かすみ(かわいい)
彼方(かわよ)

485: (しまむら) 2021/06/19(土) 01:32:09.73 ID:dLEGAELH
彼方「仕方ないなぁ」

かすみ「ですね」

歩夢「え?」

彼方「おーい、若葉ちゃ〜ん!」

かすみ「歩夢先輩が呼んでますよ〜?」

歩夢「!?」


若葉「へ? 歩夢ちゃんが!? ──ごめんみんな、ちょっと待ってて!」

スタスタ

歩夢「え? へ?」

若葉「歩夢ちゃん、どうしたの?」

歩夢「か、彼方さん? かすみちゃん?」キョロキョロ

かすみ「あとはお二人でごゆっくり!」

彼方「そゆこと! さっ、みんな! 外で練習するよ〜」

歩夢「え? え!?」


そのまま皆、流れるままに部室から姿を消した。先程までの騒がしさはどこへいったんだろう。

部室にわたしと若葉ちゃんだけになる。


若葉「み、みんなどうしたんだろ……?」

若葉「──まぁいいや。歩夢ちゃん? 何かあったの?」

歩夢「え!? えっと……その……」

若葉「ん?」キョトン

歩夢「そ、その……」モジモジ

486: (しまむら) 2021/06/19(土) 01:40:01.40 ID:dLEGAELH
若葉「ふふっ、モジモジしてる歩夢ちゃんも可愛いね!」

歩夢「!! わ、若葉ちゃん!? からかわないでよ」

若葉「へ? からかってないよ?」

歩夢「そういう事平気で言うんだから……」

若葉「ホントの事言ってるだけなんだけどなぁ」

歩夢「……ねぇ、若葉ちゃん」

若葉「ん?」

歩夢「わたし、若葉ちゃんの皆に優しい所が、大好き」

若葉「え?」

歩夢「でも……」

歩夢「もっとわたしにも……構ってよ」

若葉「!!」キュン

歩夢「……」

若葉「はぁぁぁぁぁ……!!」

ギュッ!!

歩夢「!?////」

若葉「私の幼馴染は世界一かわいい!!」

歩夢「は、恥ずかしいよ!!」

若葉「えっへへ〜!」

バッ

若葉「もしかして歩夢ちゃん、嫉妬してた?」

歩夢「うっ……」

487: (しまむら) 2021/06/19(土) 01:46:10.93 ID:dLEGAELH
歩夢「若葉ちゃん……優しいから……」

若葉「歩夢ちゃん……」

歩夢「……」

若葉「同じだね」

歩夢「へ?」

若葉「歩夢ちゃんもみんなからモテモテだから、私も実は嫉妬してた時あったよ?」

歩夢「え、えぇ!?」

若葉「ふふっ」ニコニコ

歩夢「わ、私が世界一大切なのは──」

若葉「それも一緒だよ」

歩夢「え?」

若葉「私も君が、世界一大切だよ」

若葉「歩夢ちゃんを最初に可愛いと思ったのは、私なんだからね」

若葉「だからキミのことは、特別視してるよ」

歩夢「わ、若葉ちゃん……?」

若葉「証明してあげるよ」


若葉「歩夢」

歩夢「!?」

488: (しまむら) 2021/06/19(土) 01:50:48.17 ID:dLEGAELH
若葉「これからは、歩夢って呼ばせて」

若葉「キミだけ、唯一の呼び捨ての子だよ」

若葉「いいかな?」

若葉「歩夢」ニコッ

歩夢「わ、若葉ちゃん……!」

歩夢「大好き!!」ニコッ

ギュッ!!

若葉「うん。私もだよ」

若葉「歩夢っ!」ニコリ

490: (しまむら) 2021/06/19(土) 02:08:06.19 ID:dLEGAELH
───────────

10月5日

わたしには大切な仲間が沢山います。

可愛くて優しいのに、トークが面白くて一緒にいて楽しいしずくちゃん。

おっとりしているのにしっかりしていて優しい彼方さん。

頭が良くて、あの子に会うために色々と努力してくれている、可愛くて優しい璃奈ちゃん。

明るくて優しくって可愛い。なのにスクールアイドルの時はセクシーでかっこいい果林さん。

優しくって一緒にいると心がぽかぽかする、歌が本当に上手なエマさん。

一番気を許せる、仲間でライバルのわたしの親友である愛。

いつも元気で優しい、切磋琢磨し合える、大好きなせつ菜ちゃん。

わたしに若葉ちゃんとの約束を思い出させてくれた、憧れで大好きなかすみちゃん。

そして……世界一大切な若葉ちゃん。

みんな、あの子のおかげ。
あの子がいたから、この幸せな日々に戻る事ができたんだ。

ありがとう、歩夢。

わたしはあなたを目指して、今日も頑張るから。
夢への一歩を歩むから。見守っていて下さい。そして、

いつかまた会いましょう。

あと、若葉ちゃんから歌が届きました。わたしの為に作ってくれたの。約束の歌。

すっごく良い名前の歌で、わたしの気持ちを表してくれているの。

その歌の名前を、ここに残します。

その歌の名前は──

───────────

491: (しまむら) 2021/06/19(土) 02:10:04.98 ID:dLEGAELH
【Say Good-Bye 涙】

492: (しまむら) 2021/06/19(土) 02:10:59.39 ID:dLEGAELH
おまけ編


おしまい。

493: (しまむら) 2021/06/19(土) 02:13:50.41 ID:dLEGAELH
先日専ブラが途中アクセス出来なくなって完結に2日間掛かってしまいました。申し訳なかったです。
ここまで読んで頂き、本当にありがとうございました!

441: (しまむら) 2021/06/14(月) 22:39:29.28 ID:IMaCiRB2
先々月に書いた過去作の一部です↓


侑「見た相手の考えている事が分かるメガネ?」璃奈「うん」
【SS】侑「見た相手の考えている事が分かるメガネ?」璃奈「うん」【ラブライブ!虹ヶ咲】
■約30000文字■璃奈「遂に完成したの」 璃奈「私が裏でひっそりと作っていた」 璃奈「ツナガルメガネversion1が」スチャ キラーン 侑「へ、へぇ……」



しずく「侑さんって私の事、どう想っていますか?」侑「え?」
【SS】しずく「侑さんって私の事、どう想っていますか?」侑「え?」【ラブライブ!虹ヶ咲】
■約19000文字■かすみ「うわぁぁぁあああん!! 侑せんぱぁぁあああい!!」 ダッ 侑「わっとっと!」ギュッ かすみ「愛先輩ひどいと思いません!? かすみんボックスに落書きしたんですよ!?」 愛「デコレーションだよ! 可愛いっしょ?」 かすみ「星マークの主張が強すぎるんですよぉぉぉおおおお!!」 侑「ほらほら、泣き止んでかすみちゃん」ナデナデ かすみ「うぅ……侑せんぱ~い」ギュュュュ 愛「ごめんってばぁ! アメあげるから泣き止んでよかすかす~」 かすみ「かすかすじゃなくてかすみんです~! べーっだ!」ベー かすみ「でもアメはもらってあげてもいいですよ!」 侑「あはは……」ナデナデ しずく「……」ジー

505: (たこやき) 2021/06/19(土) 15:45:17.43 ID:bsrUH1vF
おまけも神だった…おつ!
神SSをありがとう

510: (茸) 2021/06/19(土) 21:42:02.55 ID:PA08WCjm
改めておつ!
おまけも最高に良かった……!
マジでキャラが全然違うにも関わらずめちゃくちゃすんなり入ってきてこっちも愛着湧くぐらい好きになったわ。
ほんとに素晴らしい作品をありがとう…

引用元: https://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1622990026/

引用元: https://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1620824611/

【SS】侑「歩夢が目を覚まさなくなった世界」【ラブライブ!虹ヶ咲】
■約37000文字■侑「歩夢! 歩夢っ!!」 ──何が起きたか、理解出来なかった。 それは、今まで見た事のない景色。赤色の世界。 私の見ているこれは、何? 頭が上手く、動かない。──ただ、信じられなかった。 私の見ている赤色の世界は、大切で愛おしい幼馴染で作られたモノ。 侑「う、うそだ……うそだよ!! こ、こんな……ことって……!!」 視界が歪む。冷や汗が止まらず、身体が震える。 せつ菜「だ、だめです! 侑さん!!」 横から歩夢に触れようとする私を止めるせつ菜ちゃんの声が聞こえる。同好会の皆もざわめいている。──救急車を呼ばなきゃという声が聞こえた気がする。 でも、私は歩夢を見る事しか出来なかった。 侑「歩夢!!」 侑「──歩夢ッ!!」 呼びかけても、反応はない。 ──この日から、私の幼馴染は目を覚まさなくなった。

※侑視点のSS

【SS】かすみ「あの人みたいに優しく」【ラブライブ!虹ヶ咲】
私の名前は中須かすみ。スクールアイドルだ。そして、不良が嫌いである。 何故かって? 理由は簡単。他人に迷惑をかけるから。 別に一人で何かするのなら何も文句は言わない。ただ、“不良と呼ばれる人種”が他人に迷惑をかけないだろうか? 答えは否。そう呼ばれる人達は、基本的に人に迷惑をかける。 喧嘩。イタズラ。授業をサボる。そして騒ぐ。挙げたらキリがない。これらの行為は誰かに何かしらの迷惑をかけている行為なんだ。 両親、クラスメイト、教師。――これも挙げたらキリがない。 何度授業中に騒がれて集中出来なかった事か。スクールアイドルの練習をしている時にからかわれた事もある。 ――ただ、それは不良というよりもそういう行動をする人間が嫌いなのでは? と思われるだろう。うん。間違ってはいないと思う。 でも、私が人生を過ごしてきて不快に思ってきた人達は、皆不良と呼ばれている人種だったんだ。 その結果、イメージがついてしまったんだ。――不良は私にとってノイズでしかないとね。
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