【SS】雨水槽サンクチュアリ

SS


1:※えりうみ(テレビ埼玉)@\(^o^)/ (ワッチョイ 9b8e-P4Lm) 2015/11/24(火) 21:26:04.31 ID:mlwBKV400.net
 雨が降っていた。


 くすんだ窓の表面に張り付いた水滴が
 ときどき重なっては自らの重さに堪えかねて落ちてゆく。
 吹き付ける風が水滴を揺らし、遠くぼやけた枝葉を揺らす。

 頭上の真っ白な蛍光灯は
 光とともに目映い熱まで運んでくるようだけど、
 部屋が明るいほど、
 かえって外のうす暗さ、心もとなさが窓越しに染み込んでいく。


 雨音の流れに混じってキーを叩く音がしばらく続いている。

 テーブルを挟んだ向こうの席で
 あの子は生徒会のパソコンとにらめっこしてる。

 キーボードの上をなめらかに走る白い指先が
 ピアノでも奏でるみたいで、
 ディスプレイの青白い灯に照らされたまじめな顔が、
 その目がふいに細められ
 小首をかしげた仕草に思わず頬がゆるんでしまったところで

 あの子が私を見た。


 ぱっと見開いた瞳、
 赤みの差す頬、
 視線をそらしたままどうにかして私に言う。


「……絵里、暇そうなら手伝ってください」

 少し唇をとがらせて、軽い当てつけみたいな声を出して。
 

2: (テレビ埼玉)@\(^o^)/ (ワッチョイ 9b8e-P4Lm) 2015/11/24(火) 21:27:04.02 ID:mlwBKV400.net
 順調そうだったじゃない。
 私がそういうと

「そうですね。絵里がじゃまするまでは」
 なんて言われちゃう。


「見てただけよ」

「それが気になるんですっ!」

「かわいい後輩の成長を見守るのも先輩の役目でしょう?」

 重たいため息。
 肩まで落としてる。
 あの子ったら、
 次にこっち見る時にはきっと冷め切った目を向けてくるだろう。

 ……自分でも、しらじらしいって分かってたけど。
 
4: (テレビ埼玉)@\(^o^)/ (ワッチョイ 9b8e-P4Lm) 2015/11/24(火) 21:29:25.48 ID:mlwBKV400.net
 鼻の奥をくすぐる芳醇な香り、
 二人分のティーカップには注がれたばかりの紅茶の深い色、
 漂ってくる熱にぽーっとしちゃう前に
 片方をあの子の手元へ。


「ありがとうございます。
 絵里の方は終わったんですか?」

「ざっとチェックしたけど、長くはかからないと思うわ。
 特に直すところはなかったから。
 きっと副会長さんが優秀なのね?」

 まるで友達みたいなやり取り、

「鍛えられてますから」
 とあの子が目をそらしてカップに口を付ける。

 いきおいで唇を火傷しそうになってる姿に
 吹き出しそうなのをこらえるのが、もうつらくって。
 
5: (テレビ埼玉)@\(^o^)/ (ワッチョイ 9b8e-P4Lm) 2015/11/24(火) 21:31:11.23 ID:mlwBKV400.net
「まだ続きそうですね」
 海未が言った。


 あの子はカップを片手に私の方を、
 その後ろの窓を眺めている。

 耳元でさらさらと流れる雨音、
 それを降らす灰色の景色の奥で
 かすかに白くなった向こうをきっと見ている。

 胸の奥まで見透かすほど深いまなざし、
 でもきっと海未は遠くを見つめてる。
 そうね、ってつぶやく私の声、聞こえてないみたいな顔。


 手に持ったカップの中で
 赤茶色の水面に私の顔がうっすら映り込んで、
 自分と目が合わないうちに口をつけて水面を乱す。

 まだ熱くって、
 小さい棘が刺さるような痛みごと飲み干す。
 
6: (テレビ埼玉)@\(^o^)/ (ワッチョイ 9b8e-P4Lm) 2015/11/24(火) 21:32:22.29 ID:mlwBKV400.net
 止んだら帰りましょうね。

 そんな当たり前のこと、
 わざわざ口に出したのは
 自分に言い聞かせたかったからかもしれない。

 生徒会室の壁にうつろな声が響いて溶け込む。


「そうですね。
 それまでに終わらせます」

 なんだろう、海未の相づちが何かの救いに思えてくる。
 だからどうしても返したくなって、



「……晴れたら、今度の日曜にでも晴れてたらどこかに行かない?」
 
7: (テレビ埼玉)@\(^o^)/ (ワッチョイ 9b8e-P4Lm) 2015/11/24(火) 21:34:10.17 ID:mlwBKV400.net
 かたっ、とカップが立てる音。

「急ですね。
 一時には稽古が終わりますので、
 それ以降でしたらぜひご一緒させてください」

 流れるような返事、もとから私の台詞を待っていたような。

 あの子にだけ見えない台本が配られていて、
 私ひとりで遅れているように思える。


「行く先は何か考えてるんですか?」

 そうこう考えるうちに期待のまなざし、パスが渡されて。

「そうねえ……」

 言いながら探す、
 想像する、
 ふたり並んで歩ける場所を。

 きっとそこはからりと晴れきった陽の当たる場所で、
 遮るものもなく澄んだ空気に満たされていて、
 目に映るものすべてが真新しくあの子を楽しませて、
 いつわりなく溢れ出た笑顔がその表情を満たすのだ。

 そうきっと、
 こんな場所じゃなくって、
 もっと私らしく振る舞えるような。
 
8: (テレビ埼玉)@\(^o^)/ (ワッチョイ 9b8e-P4Lm) 2015/11/24(火) 21:37:56.21 ID:mlwBKV400.net
「そういえば、私も行ってみたいところがあるんです」

 取って付けたような空想に反して
 胸の奥に縛り付けられた重力が泥の深くまで私を沈めはじめた時、
 引き揚げてくれたのは海未の声。

 真新しい酸素が胸を満たすような、
 やっと息継ぎできたような感覚、
 ふぅんどんなところって何気なさそうに返す私の喉の調子も弾んでる、

 あの子の言葉だけで私こんなになっちゃって。


「池袋にジュンク堂ありますよね?
 そこの地下でおいしいパンケーキが食べられるって
 後輩から聞いたんです」

「いいわね。
 じゃあ、ついでにハンズにも寄ろうかしら。
 キルティングの生地がそろそろ切れそうなのよ」

 いいですよ、ってうなづいてくれた。
 
9: (テレビ埼玉)@\(^o^)/ (ワッチョイ 9b8e-P4Lm) 2015/11/24(火) 21:38:37.49 ID:mlwBKV400.net
 紅茶を片手に話が続く。

 二時頃に駅に集合、
 そのままメトロ丸ノ内線で池袋へ、
 うわさのパンケーキをいただいたらサンシャイン近くの東急ハンズ。

 そしたら一階のスクールアイドルコーナー、
 でなきゃ道を隔てた反対側のゲームセンター?

 具体化していく未来像、
 日曜の今頃には
 東口を出たあの五叉路で人混みに流されてるはず、

 予定を作って地に足を着けあおうとする私たち、
 でも、
 なぜか目に浮かぶ光景にはリアリティがないままで。



 晴れきった舗道が想像できないのも、
 きっと降り続く雨のせい。
 そういうことにしたって向こう側の海未は近づかない。
 
10: (テレビ埼玉)@\(^o^)/ (ワッチョイ 9b8e-P4Lm) 2015/11/24(火) 21:39:13.17 ID:mlwBKV400.net
 テーブルを挟んでぽっかり空いた冷たい隙間、
 途切れた会話を雨音に埋めてほしかった、
 なのに窓を叩く音は少しずつかすれていく。

 きっと夕方までには雲間も破けて、
 乾いた風が水分を奪い取ってしまう。
 リップクリームで埋めきれずに裂けた唇の痛みが、
 小さな棘となって乾いた私を刺してしまう。


 ごまかすように紅茶をすする、なるべく減らさないように。
 けれども口を付ける度に水量は減っていく。

 熱もとうに冷めてしまって、
 腰掛けているイスまで冷たく乾いていくみたい。

 たかが百数十ccの安らぎ、
 あの子だってもうじき飲み干してしまう。

 そうよ、
 今日は生徒会の仕事を手伝うために私はここに来たのよ。
 ふらちなことなんて考えるべきじゃないわ、

 そうやって私は
 まるで自分がそれを望んでいるかのように思い込んで
 海未とのやり取りを中断しようとしている。


 こういうの、春先まではもっとうまくできてた。
 
11: (テレビ埼玉)@\(^o^)/ (ワッチョイ 9b8e-P4Lm) 2015/11/24(火) 21:41:38.08 ID:mlwBKV400.net
 あの子がまだ私の向こうを見ている。

 雲が晴れた先のこと、
 せめて私がいる景色に思いを馳せていてほしい。

 長い睫毛と二重瞼に飾られた瞳は透き通って、
 波ひとつ立てず静かに満たされた湖のようで、
 私はその小さな鏡面に自分が映るのをいつも期待している。

 カップを片手にぼんやり外を眺める姿と、
 艶やかな髪や
 指先の白さや輪郭の線が、
 まるで完璧な水彩画のように見えた。

 しゃれた題名でもつけて
 額縁に入れてしまいたいほど美しい絵に、
 この手で触れて汚してしまうのがこわかった。


 ガラス窓の向こうで
 海未たちが練習する姿を見ていた。

 狭いファインダーの中から
 あの子たちが歌い踊る姿を見ていた。

 今では同じ部屋の、
 たった数メートル先にあの子がいるのに、
 私はあなたにもっと近づくことが許されているはずなのに、
 まだガラス越しに眺めているような錯覚が続いている。
 
13: (テレビ埼玉)@\(^o^)/ (ワッチョイ 9b8e-FFEh) 2015/11/24(火) 21:43:47.73 ID:mlwBKV400.net
 か細い雨音や
 強すぎる蛍光灯の明かりが、
 いつもなら気にせずにいられたことに
 はっきりと陰や質感を付けていく。

 言葉だけで取り決めた関係性なんて、
 光のまぶしさや
 陰の重たさに比べたら、
 すぐに乾いて消えてしまいそうだった。


 ねえ、海未。

 呼んでしまって、
 こっちに振り向くあの子に、
 
14: (テレビ埼玉)@\(^o^)/ (ワッチョイ 9b8e-FFEh) 2015/11/24(火) 21:44:18.62 ID:mlwBKV400.net
 ……続ける言葉は出てこない。
 スカートを握ってる指の汗が気になって手も伸ばせない。


「そうですね。
 そろそろ再開しましょうか」

 海未が最後の一口を飲み干した。
 同じようにしたくても、私のカップはもう空っぽで。

 そんな言い訳をしながら
 まだ、私は二人の関係を隠そうとしてしまう。
 
15: (テレビ埼玉)@\(^o^)/ (ワッチョイ 9b8e-FFEh) 2015/11/24(火) 21:44:49.73 ID:mlwBKV400.net
 残っている仕事も大したものなんてなかった。
 各部活や委員会から出された予算や
 施設利用の申請に不備がないかを確かめるだけ。

 考えずに手を動かせる分だけ
 キーボードを叩く音が大きく聞こえた。
 かたかたと続き、時々途切れて、また鳴り出す。

 そこにあの子の息づかいを感じ取ろうとして、
 どうしても耳を澄ましてしまう。

 もう帰ってしまおうか、なんてついに思った。
 本当は三十分もあれば終わる作業を
 引き延ばそうとしたってもう限界なのは分かってる。

 いくらゆっくり味わおうとしたって、
 カップ一杯はカップ一杯でしかない。
 
16: (テレビ埼玉)@\(^o^)/ (ワッチョイ 9b8e-FFEh) 2015/11/24(火) 21:45:20.57 ID:mlwBKV400.net
「お待たせしました。終わりました」

 乾いた声が聞こえて、
 そこで作業の音が止まっているのに気づく。
 こちらの手持ちぶさたに気づいてスピードを上げたのかもしれない。


 また、気を使わせてしまった。……年上なのにね。



「傘、持ってる?」

「ええ。折りたたみですが」

 そう、よかった。
 って言う私の声、
 ちゃんとうれしそうに聞かせられたかしら。


 海未はきっとうれしいはず。
 予定より早く終わって、別のことに取りかかれる。
 自主練でも
 来月のテストに向けた勉強でも
 家のことだってなんだってできる。

 今のうちから穂乃果のフォローをしてもいい。
 そういえば、ことりの衣装は順調かしら、
 なんてね。


 止むまではここに居ませんか、って聞こえた。

 帰り支度をして鞄もまとめた頃なのに、
 あの子は部屋の照明のスイッチに手を掛けたままそう言った。
 
17: (テレビ埼玉)@\(^o^)/ (ワッチョイ 9b8e-FFEh) 2015/11/24(火) 21:45:51.63 ID:mlwBKV400.net
「海未も忙しいんでしょう?
 気にしないで、
 これからもっと忙しくなるんだから自分の時間は大事にして」

 軽くほほえみの形を作ってみせる私の唇、
 でも海未はそこで立ちすくんだまま動かない。


 とにかく部屋を出なきゃいけない、
 時間は無駄にできないんだから、
 これから雨が強くなって風邪でも引いたら大変だから、

 私の頭の中がありもしない理由ばかり並べようとする。




「絵里。

 ……私は、絵里のことが好きです」


 突然だった。
 
18: (テレビ埼玉)@\(^o^)/ (ワッチョイ 9b8e-FFEh) 2015/11/24(火) 21:46:49.43 ID:mlwBKV400.net
「何でそんなこと言うのよ、帰るんでしょう」

 だって、と弱々しく付け加える。
 こんな声を出させたくなかったのに。

 海未は見えない風に震えて
 縮こまるような格好で、
 どうにかしてあげたいと思った、
 でも私たちは家に帰らなきゃいけないし
 やることだっていっぱいある、そうよ、
 μ'sのみんなに迷惑を掛ける訳にはいかないわ、
 ああうん大丈夫
 落ち着いてきたちゃんとしなきゃ私、


「だって今言わないと、
 分からなくなりそうだったんです。
 このままだと、全部こわれてしまいそうな気がして、」

 なのに海未が続けてしまう。
 聞きたくない、
 聞きたい、


「……私は絵里の恋人でいられて、本当に光栄だと思っています」
 
19: (テレビ埼玉)@\(^o^)/ (ワッチョイ 9b8e-FFEh) 2015/11/24(火) 21:47:20.29 ID:mlwBKV400.net
 私だってそうよ、
 って言った自分の声の白々しさったら!
 なにが「私だって」よ、
 今だってこの関係をみんなに隠し続けているっていうのに。


 下手な言い訳で互いをだまして
 二人だけの時間を無理に作ったりするくせに、
 手を引いて白日の下で誇るどころか、
 あの子に本当の意味で触れることさえ恐れ続けているんだから。



「そうですか。
 それは……嬉しいです」


 ああ違うの、
 そんな声出させたくない、
 そんな声で下手な嘘言わせたくないの、

 私は海未の恋人としてリードしてあげるって誓ったのよ、
 ちゃんとデートして健全なお付き合いをして、

 なのに海未はしおれた花のような顔色で
 もう何も言わない、

 雨音がじりじり苛むように続いてる、
 潮が引くように離れていくのを感じる、
 いや、
 それだけはだめ、
 堪えきれずに腕を伸ばしてしまった先は海未の小さな肩で
 後ろの壁にぶつかって声が漏れてそれでもしがみつこうとした時、



 背中でパチンと音がして、
 一瞬で暗闇に堕とされてしまう。
 
20: (テレビ埼玉)@\(^o^)/ (ワッチョイ 9b8e-FFEh) 2015/11/24(火) 21:47:54.07 ID:mlwBKV400.net
 ひっ、

 と自分の息が止まって動かない、
 固まった腕も指先も、
 冷たい海に投げ落とされたみたいで自分の手足もばらばらになる、

「海未、……ねえっ海未い!」

 だからその身体をつかんだ、
 小さい子が浮き輪にしがみつくようにして、
 ふたりはそのままバランスを崩してへたりこむ、

 重なったまま私の重みに堪えかねて深く滑り落ちてしまう。
 
21: (テレビ埼玉)@\(^o^)/ (ワッチョイ 9b8e-FFEh) 2015/11/24(火) 21:48:30.42 ID:mlwBKV400.net
 目も開けられないままその熱に包まれている。
 あなたの胸元に頭を当てたまま、
 外の雨風より激しい心臓音を聞いている。

 おなかの方がかすかにふくれたりしぼんだりして、
 熱い息が耳元にかかっていて、
 制服で隔てたはずの二人の身体は同じ速さで脈打っている。

 その頭に何かがふれる、
 やわらかい手が私の髪をすべってゆく。
 私も海未の首を近づけるように手を伸ばす、
 重なったままつぶれてしまうくらい落ちていく。


 身体を近づけるほど
 息が落ち着いていくのを感じてた。

 膝の肌に床の冷たさが染み込むのさえ心地よくって、
 目を閉じても雨音が染み込むから、
 このまま二人で
 雨の中に沈んでいける気さえした。


 いまは光なんていらない、海未の体温だけでいい。
 そう感じる自分をもう抑えなくてもよかった。

 人目を気にしたかっこいい嘘が
 やさしい熱に全部剥がされて溶けてしまうのが、
 こんなによかったなんて。

 暗いところが、こんなに暖かいなんて。
 
22: (テレビ埼玉)@\(^o^)/ (ワッチョイ 9b8e-FFEh) 2015/11/24(火) 21:49:01.47 ID:mlwBKV400.net
 海未、あのね――

 顔を上げないまま、胸の奥に直接話しかける。
 聞いてくれる。

「もし、日曜にも雨が降ってたら、うちでこんな風にしててもいい?」

 首を振って頷いた、身体で分かった。


 でもいいの?
 出かけるの、楽しみだったんじゃないの?

 不安で確かめてしまう、
 これほど近くしたって他人の心は見えないものだから。


「ちがいますよ」

 恵みの声が降り注いだ。

 絵里と一緒にいていいのがうれしいんです、
 だから本当は、
 どこだっていいんです。
 
23: (テレビ埼玉)@\(^o^)/ (ワッチョイ 9b8e-FFEh) 2015/11/24(火) 21:50:02.41 ID:mlwBKV400.net
「……なあんだ、
 じゃあ、
 無理に出かけることなかったのね」

 思わず言っちゃったし
 顔も作れずにうれしくしちゃって、
 悪かったかなって思ったけど、すぐそばの彼女も同じ顔してた。



「というか、無理してたんですね」

 ごめん今のなし。取り消して。

 って言っても忘れてなんてくれない海未のことが、
 やっぱり、
 私は。
 
24: (テレビ埼玉)@\(^o^)/ (ワッチョイ 9b8e-FFEh) 2015/11/24(火) 21:50:33.49 ID:mlwBKV400.net
「ごめんなさい、やっぱりパンケーキ、今度でいい?」


 映画でも借りておうちで見ましょう、
 最近良いの見つけたのよ、
 数学の天才なのに荒れてる男の子と心理学者の話なんだけど、

 なんてつたない言い訳も海未は楽しそうに聞いてくれる。


 そう言って結局見ないのかもしれないけど、
 それはそれで良いって、私たちだからしょうがないって思えた。



 だから今度こそ、
 こんな言葉だって自然と言えちゃったのかもしれない。

 昇降口で靴を履き替えながら、
 まだ降り続く雨のにおいにほだされて、自分の傘を探す合間に何気なく。



 ――海未、今度のライブが終わったら、みんなには話そうと思うの。
 
25: (テレビ埼玉)@\(^o^)/ (ワッチョイ 9b8e-FFEh) 2015/11/24(火) 21:51:04.55 ID:mlwBKV400.net
「え、……ほんとう、ですか?」

 ほどけていく海未の頬、
 心を隠しきれないあなたがまたいとおしくなる。


 もっともっと近づきたかった、
 そのためには、
 私たちがそうすることを許してもらわなくちゃって思ってた。

 抱きしめるだけじゃ足りない、
 恋人同士がするようにキスだってしたい、
 海未がほしい、
 溶けちゃうほど一緒になりたい。


 いつか祝福されて、
 今度は陽の当たる道を二人で歩くの。
 あなたとそうするために、もう自分を偽るのはやめにする。

 もし外の陽射しが強すぎたって、傘一本くらいは差せるから。



 海未は向こうで、
 自分の鞄から取り出し掛けた折りたたみ傘をしまい直した。

 靴を履き替えた私が濡れた土に踏み出す時、
 指が重なって絡まり合う。

 窓越しに叩いていた雨音が頭の上で続いて、
 二人では狭い傘の中で、
 腕の先なんかを一緒に濡らすことができた。
 
26: ◆rB0CA7jVXk (テレビ埼玉)@\(^o^)/ (ワッチョイ 9b8e-P4Lm) 2015/11/24(火) 21:52:10.13 ID:mlwBKV400.net
 雨がまだ降っている。

 だから今もまだ、二人で傘を差していられる。




おわり。
 

引用元: http://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1448367964/

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