【SS】侑「消えていく世界を愛している」【ラブライブ!虹ヶ咲】

ゆう SS


1: 2021/03/09(火) 17:53:51.37 ID:OtcX0sut
侑「うーん……」

侑「ん?」

侑「げっ!もうこんな時間じゃん!」

侑「え?歩夢の電話聞き逃した?」

侑「……きてない?」

侑「さては、歩夢も寝坊してたりして?」

侑「ふふ、仕方ないなぁ」

侑「たまには私が起こしてあげるとしますか!」

prrrrr!prrrrr!

歩夢「はい、もしもし?」

侑「歩夢ー!」

歩夢「……え?」

歩夢「あ、侑ちゃん?」

歩夢「どうしたの?」

2: 2021/03/09(火) 17:54:11.51 ID:OtcX0sut
侑「ん?」

侑「いや、今日電話なかったから、歩夢寝過ごしたのかなーって」

歩夢「あれ?私今日電話してなかったっけ?」

侑「着信履歴なんてなかったよー!」

歩夢「本当?」

侑「嘘なんてつかないよ!」

侑「あーあ、私忘れられてたんだぁ」

侑「そっかぁ……」

歩夢「ちょ……侑ちゃん、そんなのじゃないってば!」

侑「ふふ、ごめんね意地悪しちゃった」

侑「いいよいいよ、たまにはそういうこともあるよね」

5: 2021/03/09(火) 17:57:53.74 ID:OtcX0sut
侑「大体ずっと歩夢に起こしてもらうのもあれだしね」

歩夢「私は全然いいんだけどな」

侑「今度は私からも起こしてあげるね」

歩夢「侑ちゃんそれいつも言ってるけど、一度も成功したことないよ?」

侑「うぐっ……」

侑「今度こそ!」

侑「何度目か分からないけど……何度目かの正直ってやつ!」

歩夢「はいはい、期待しないで待っておくね」

侑「もう!歩夢!」

歩夢「あはは、ごめんね?」

6: 2021/03/09(火) 17:59:57.46 ID:OtcX0sut
歩夢「それにしても……」

侑「しても?」

歩夢「ううん、どうして電話忘れてたんだろうって」

侑「えー、さっきも言ったじゃん」

侑「そういうこともあるって!」

歩夢「そうかなぁ?」

侑「そうなの!」

歩夢「うーん、そういうことにしとくね」

侑「それでよろしい!」

歩夢「ふふ、なにその口調」

歩夢「それじゃあ、また後でね」

侑「はーい!」

侑「またね」


何かを忘れる。
そんなのよくあることだって、そう思ってた。

7: 2021/03/09(火) 18:02:47.51 ID:OtcX0sut
――

侑「歩夢!おはよ!」

歩夢「侑ちゃん、おはよう」

歩夢「珍しいね、先出てるなんて」

侑「え?そんなに珍しい?」

歩夢「あれ?いつも私が待ってるようなイメージが……」

侑「もう!そんなことないよ!」

侑「さっきの電話が残ってるからじゃない?」

歩夢「そうかな?」

歩夢「うん、そうだった気がする」

8: 2021/03/09(火) 18:06:48.79 ID:OtcX0sut
侑「ちょっと歩夢今日なんか変だよ?」

侑「熱でもある?」

歩夢「え?そんなことないよ」

歩夢「とっても元気だよ」

侑「そう?それならいいんだけど……」

侑「それよりさ、今日はお休みだし久しぶりに一緒にどこか行こうよ!」

歩夢「ん、いいね」

侑「やったね!」

9: 2021/03/09(火) 18:08:52.20 ID:OtcX0sut
侑「可愛いものまた着るようになった歩夢なら今度こそぴょんしちゃう?」

歩夢「ぴょんしちゃうってなに?」

侑「あゆぴょんだぴょんって?」

侑「ぬいぐるみとか服とかさ」

歩夢「よく分からないけど、ぴょんしません」

侑「えー!」

侑「いいじゃんいいじゃん」

侑「可愛いのになぁ」

歩夢「くだらないこと言ってないでさっさと学校行くよ?」

侑「はーい」

10: 2021/03/09(火) 18:11:12.66 ID:OtcX0sut
それから、特に何かがあったわけでもなく、普通に学校で勉強して、普通に遊んで……。
朝のことなんて忘れてしまって、ベッドに潜り込む。



明日はどんなことがあるのかな。
毎日がワクワクドキドキでときめいちゃう。

11: 2021/03/09(火) 18:13:14.97 ID:OtcX0sut
――


侑「寝坊だぁー!」


次の日。
また、電話はなかった。


起きたのがギリギリだったから、電話して茶化す余裕もなくって。
慌てて準備をして、玄関のドアを開く。


侑「良かった」


もしかしたら誰もいないんじゃないかって。
そんな不安が安らいでいく。
良かった、本当に。良かった。

12: 2021/03/09(火) 18:15:51.94 ID:OtcX0sut
侑「ごめんね、歩夢」

歩夢「あ……えっと、侑?ちゃん?」

侑「ん?」

侑「どうしたの?」

歩夢「ううん、なんでもないよ?」

侑「そう?それならいいんだけど」

歩夢「…………」

侑「…………」

侑「歩夢?」

歩夢「はいっ!」

13: 2021/03/09(火) 18:19:07.74 ID:OtcX0sut
歩夢「えっと……なにかな?」

侑「歩夢、やっぱり体調悪かった昨日?」

歩夢「あ、ううん、そんなこと、ないと思う」

侑「ほんと?」

侑「ちょっとごめんね?」

歩夢「ゆ、侑ちゃん!?」

侑「うん……熱はないみたいだけど……」

侑「無理はしちゃだめだからね?」

歩夢「うん、ありがとう侑ちゃん」

14: 2021/03/09(火) 18:21:23.17 ID:OtcX0sut
侑「授業中とかしんどくなったら帰るとか、練習もしんどかったら休まなきゃダメだよ?」

歩夢「ふふ、大丈夫だよ」

歩夢「侑ちゃんとっても心配してくれるんだね」

侑「当たり前でしょ」

侑「歩夢は大切な人だから!」

侑「伊達にずっと一緒じゃないからね」

侑「歩夢がいつもと少し違ったら分かるんだからね?」

侑「しんどいの隠しててもすぐ分かるんだから!」

歩夢「うん」

15: 2021/03/09(火) 18:23:45.77 ID:OtcX0sut
侑「嘘ついてたら怒っちゃうよ!」

歩夢「侑ちゃんが怒る?」

侑「なにさ」

歩夢「あんまり覚えにないなーって」

侑「そうかなぁ?」

歩夢「でも、ありがとうね」

侑「どういたしまして!」

侑「さ、のんびりしてたら遅れちゃう!」

歩夢「うんっ!」

歩夢「……ずっと、一緒……だったんだよね?」

侑「歩夢ー?」

歩夢「うん、ごめんごめん、すぐ行くよー」

16: 2021/03/09(火) 18:26:26.13 ID:OtcX0sut
――


侑「あ、かすみちゃんとしずくちゃんだ!」

歩夢「本当だ」

侑「おーい、おはよー!」

歩夢「おはよう、かすみちゃん、しずくちゃん」

かすみ「ん?」

かすみ「あ、歩夢先輩!……と、先輩もおはようございますー」

しずく「おはようございます」

侑「えー、なんか私ついでみたい……」

かすみ「あ……」

侑「でも、今日もかすみちゃんは可愛いねー!」

侑「よーしよし」

かすみ「ふっふーん、先輩よく分かってますね!」

17: 2021/03/09(火) 18:30:00.78 ID:OtcX0sut
かすみ「今日のかすみんは昨日のかすみんの百倍可愛いんですよ!」

侑「さっすがかすみん!!」

侑「ということは、明日になると……?」

かすみ「そう!更に百倍可愛くなります!」

侑「つまり……?」

かすみ「昨日のかすみんより千倍可愛いんです!!」

侑「すごいすごい!」

しずく「かすみさん計算間違ってるよ」

歩夢「あはは……」

かすみ「とにかく!とーっても可愛いんですぅ!」

しずく「はいはい、急いでるんだからもう行くよ?」

しずく「すみません、失礼します」

かすみ「失礼しまーす」

侑「バイバーイ、また後でねー」

歩夢「ばいばい」

18: 2021/03/09(火) 18:30:40.17 ID:OtcX0sut




しずく「ところで」

かすみ「歩夢先輩の隣の先輩……」

かすみ・しずく「誰?(どなたでしょうか?)」

しずく「かすみさんも分からないんですか?」

かすみ「うーん、どこかで見たことあるような気もするんだけど……」

かすみ「でもでも、かすみんのこと可愛いって言ってくれたから、きっといい人だよ!」

しずく「うーん、じゃあかすみさんのファンとか、かなぁ?」

しずく「でも、私も知ってるような気がするんだけど……」

かすみ「それにそれに歩夢先輩と仲良さそうだったよ」

20: 2021/03/09(火) 18:31:12.11 ID:OtcX0sut
かすみ「一緒に学校来てるみたいだし」

しずく「歩夢先輩のクラスメイトでしょうか?」

かすみ「まぁ、いいじゃん!」

かすみ「とにかく、いい人だし!」

しずく「かすみさん、変な人とか詐欺に騙されないでね……」

かすみ「あー!なんでため息つくのさ!」

かすみ「かすみんがそんなのに騙されるわけないでしょ!」

しずく「さぁ、どうだか……」

21: 2021/03/09(火) 18:32:06.61 ID:OtcX0sut
――
お昼休み


侑「はんぺーん」

侑「久しぶり」

侑「はんぺんはいつも元気だねぇ」

侑「私はなんだか元気ないかも?」

侑「違和感がね?うーん……」

愛「あれ?先客かな?」

璃奈「さすがはんぺん、人気者」

侑「ん?」

侑「愛ちゃんに璃奈ちゃん」

22: 2021/03/09(火) 18:32:37.62 ID:OtcX0sut
璃奈「え?」

侑「2人もはんぺん狙い?」

愛「うん、そうだよー!」

侑「そっか、はんぺんGo!!」

愛「わっ!」

璃奈「む、中々のはんぺんとの連携」

璃奈「負けてられない」

璃奈「璃奈ちゃんボード『メラメラ』」

侑「あはは、さすがに璃奈ちゃんには勝てないかな?」

侑「おっと、早く行かないと遅れちゃう」

侑「ごめんね、2人とも音楽科の先生にレッスン見てもらう予定だからもう行くね」

25: 2021/03/09(火) 18:33:43.27 ID:OtcX0sut
愛「音楽科って大変なんだね」

侑「うーん、でも今のところ楽しいよ」

愛「ふーん、そうなんだ、頑張ってね」

璃奈「頑張ってください」

璃奈「璃奈ちゃんボード『むんっ』」

侑「なんでけ……あぁー、もう時間ないや!」

侑「ごめんねまたね2人とも!」

愛「バイバーイ!」

璃奈「さようなら」

26: 2021/03/09(火) 18:35:55.90 ID:OtcX0sut
愛「急いでるんだろうね、すっごく脚早い」

璃奈「私達がさよならって言う前にはもうだいぶいなかった」

璃奈「脚が早いと言うより消えたみたい」

愛「なに言ってんのりなりー、人が消えるわけないでしょ?」

璃奈「うん、そう……なんだけど」

愛「それにしても音楽科かー、大変そうだね」

璃奈「音楽科は知り合いにいない、元気ちょっとなさそうだったから心配」

愛・璃奈「え?」

愛「りなりーの友達じゃないの?」

璃奈「私は愛さんのお友達だと……」

27: 2021/03/09(火) 18:37:37.59 ID:OtcX0sut
愛「うーん、友達は多い方だと思うんだけど、見たことないなぁ」

璃奈「でも、2年生だったよ?」

愛「転校生とか?」

璃奈「せつ菜さんなら把握してるかも」

愛「まぁ、またねって言ってたし、はんぺんに会いに来てればまた会えるでしょ」

愛「その時に仲良くなろうよ」

璃奈「賛成」

愛「お、りなりー珍しくすっごく乗り気だね」

璃奈「なんだか他人?な気がしない」

璃奈「仲良くなってみたい」

愛「それなら明日もまた来ようか」

愛「はんぺんもよろしくね!」

29: 2021/03/09(火) 18:39:52.66 ID:OtcX0sut
――
放課後


侑「うーん……」


正直気分が乗らない。
朝からの違和感がなくならない。


侑「なんでこんな時に早く終わるかなぁ……」

侑「昼も先生来なかったし……」

侑「でも……」


教室もなんだか居心地が悪かった。
まるで、私がいないみたいで。

31: 2021/03/09(火) 18:40:45.12 ID:OtcX0sut
侑「よし!」

侑「こんな時はみんなの練習を必死に応援するに限るよね!」

侑「あれ?もう誰か来てる?」

侑「この声は……3年生かな?」

侑「失礼しまーす」

侑「……っ!」
やめてやめてやめてやめて。
なんでそんな目で見るの?
さっきまであんなに楽しそうに話していたのに。

32: 2021/03/09(火) 18:41:25.99 ID:OtcX0sut
果林「あら?」


どうして?
どうしてそんなに物珍しそうに見るの?
果林さん。お願い。


エマ「こんにちはー」


エマさんどうして名前を呼んでくれないの?
なんで立ち上がって迎えようとするの?
私はお客さんじゃないよ?


彼方「んー?」


お願い、お願い、彼方さん。
今は起きないで、寝たままでいて欲しかった。
安心したままの姿を見せてよ。


聞きたくない。

33: 2021/03/09(火) 18:41:58.72 ID:OtcX0sut
果林「ふふ、私のファンの子かしら?」

エマ「果林ちゃん、この子困っちゃうでしょ?」

果林「なによ、本当に私のファンかもしれないじゃない」

エマ「ごめんね?もしかして入部希望!だったりするのかな?」

エマ「ん?入部?でいいのかな?」

彼方「いいんじゃない?」

彼方「それか、入会?」

彼方「それより、いらっしゃーい」

侑「…………」

侑「……っさいっ」

34: 2021/03/09(火) 18:42:21.85 ID:OtcX0sut
果林「え?」

侑「ごめんなさい……」

果林「あっ……」

果林「どうしたのかしら?」

エマ「果林ちゃん脅かした?」

果林「そ、そんなことするわけないじゃない」

エマ「だよねー」

彼方「部屋、間違えたのかなぁ」

果林「にしては、ひどく顔真っ青だったけど……」

彼方「心配だねぇ」

エマ「どこに行っちゃったんだろう……」

35: 2021/03/09(火) 18:43:25.34 ID:OtcX0sut
――


違和感が形になった。
イタズラじゃないことぐらい分かる。


朝からだってずっと変だった。
知らない人を見る目。




怖い。
怖いよ。

37: 2021/03/09(火) 18:45:45.18 ID:OtcX0sut
侑「……はぁ……はぁ……」


息が切れる。
喉が渇く。
手が震える。


侑「……声、でな……ぃ」


私は消えるの?
だって、あんなに走っても誰もこっちを見ない。
もう、消えてるの?


侑「あの……」


私の姿は見えますか?なんて聞けない。
すんでのところで思い止まる。

38: 2021/03/09(火) 18:48:06.17 ID:OtcX0sut
侑「でも、確かめなくちゃ」

侑「怖い……怖いよ……」


どれだけ振り払おうとしても恐怖が消えない。


震える手でノックをする。
部屋の中から聴き慣れた声が聞こえる。


良かった、まだ、私はここにいる。
そうだよね?

40: 2021/03/09(火) 18:49:04.60 ID:OtcX0sut
侑「……しつれっ、します」

菜々「……?こんにちは?」

侑「こんにちは……」

菜々「えっと、何か御用でしょうか?」

菜々「っと、その前に何科のどなたかお伺いしてもよろしいでしょうか?」
あぁ、私はここにあるだけなんだ。
ここにいるわけじゃない。

41: 2021/03/09(火) 18:49:33.04 ID:OtcX0sut
侑「すみません、やっぱりなんでもないです」

菜々「え?」

侑「失礼します」

菜々「はぁ……?」

菜々「あ、すみません、お名前お聞きしてもいいですか?」

侑「高咲、侑です」

侑「きっと、名前はないですよ」

42: 2021/03/09(火) 18:49:58.44 ID:OtcX0sut
菜々「どういう……?」

侑「さようなら」

菜々「さよ……あっ……」

菜々「閉まってしまいました」

菜々「それより……ないって?」

菜々「そんなはずが……でも、私が覚えてないなんて……」

菜々「2年生のはずですが……転校生の情報も入ってませんし……」

菜々「部外者……にも見えませんでした」

菜々「でも……名簿に、ない?」

43: 2021/03/09(火) 18:50:42.04 ID:OtcX0sut
――

私が消えるのかな。
私の中の世界が消えるのかな。


ううん、まだ、だって。
朝、覚えていたから。


侑「歩夢……歩夢なら」

侑「せつ菜ちゃんも3年生も覚えてない」

侑「かすみちゃんもしずくちゃんも愛ちゃんも璃奈ちゃんも」

侑「あの驚いた目はそういうことだったんだよね」

侑「クラスメイトも先生も」

侑「そりゃそうだよね」

侑「だって、私はいないんだから」

侑「お願い、歩夢、帰ってきて」

侑「なんでこんなところにいるの?って心配そうに聞いてよ」

侑「なにしてるのって怒ってよ」

侑「それからバカだなぁって笑ってよ」

侑「歩夢」

44: 2021/03/09(火) 18:51:44.52 ID:OtcX0sut





寝ていたのか気を失っていたのか。
もうそんなことどうでもいいけど。


外は暗くなってきた。
もうすぐかな。


全部夢だったんだ。
タチの悪い夢だったんだ。


だって、まだ歩夢からの電話がないから。
きっと今、歩夢の家の前でしゃがんでいるのもきっと夢の中で。

45: 2021/03/09(火) 18:54:12.67 ID:OtcX0sut
歩夢、早く起こしてよ。
「侑ちゃん」って優しいその声で名前を呼んで。


歩夢「どなたでしょうか?」


聞こえた!
歩夢!
早く呼んでよ、私の名前を呼んで!


歩夢「あのぉ……」

歩夢「私のお家なのですが……」

歩夢「部屋お間違えじゃないでしょうか?」

46: 2021/03/09(火) 18:55:10.13 ID:OtcX0sut
侑「……どうして?」

歩夢「え?」

侑「どうしてどうしてどうしてどうして????」

歩夢「あの」

侑「なんで!名前を!呼んでっ!!」

侑「くれないの……?」

侑「歩夢……」

48: 2021/03/09(火) 18:55:37.79 ID:OtcX0sut
歩夢「あの、すみません」

歩夢「失礼ですが、私達、会ったことありましたっけ?」

歩夢「あ!間違ってたら失礼ですが、スクールアイドルで応援してくれてるとかですか?」

歩夢「あれ?あの……」

歩夢「大丈夫、ですか?」

歩夢「行っちゃった……」

歩夢「なんだっただろう?」

歩夢「なんだかフラフラだったけど……」

歩夢「あれ?隣の家のドアに何か……バッグ?」

歩夢「それより……このお家は子どもいなかったような……」

50: 2021/03/09(火) 18:56:13.14 ID:OtcX0sut
――


ここはどこだろう。
ずいぶん遠くまで来たような、すぐ近くのような。



冷たいのは雨のせい?
それとも体温を感じないこの体のせい?



歩いてもふわふわして、宙に浮かんでいるような。
もう、お化けになってたりして。



笑えないよ。

52: 2021/03/09(火) 18:56:56.79 ID:OtcX0sut
侑「こんばんは」


そんな声も世界に掻き消されていく。
きっと今私がここでなにをしても誰も気づかない。
たとえ、消えたとしても、新しく生まれたとしても。


だって私はもう誰にも見えてない。
そんな夜。


侑「さっき寝ちゃったの失敗だなぁ」

侑「夢の方が現実味あるよ」

侑「どうして?」


零れる。
声?涙?
それとも私?


この世界から私が溢れて消えていく。
私の心だけ残って、もう体はどこかに置いてきちゃったのかな?

53: 2021/03/09(火) 18:57:41.69 ID:OtcX0sut
私の未来はもうないのかな?
この世界は続かない?私の世界だけが続かない?


侑「いやだなぁ」

侑「寂しいよ」

侑「誰にも見てもらえないのは、誰にも声が届かないのは」

侑「誰にも覚えていてもらえないのは、怖い」


このまま私は消えちゃっても、みんなは何もかも忘れて……。
ううん、私は、なかったから。


私がいた世界が消えて、私だけが消えて、みんなは幸せに。
それでいいんじゃないかなぁ。

54: 2021/03/09(火) 18:59:55.23 ID:OtcX0sut
本当に?


だって、私そこまで鈍感じゃないよ。
みんなが大切に思ってくれていることぐらい、もう気づいてるよ。


侑「うん」

侑「このまま消えてしまうんだとしても」

侑「このまま消えてなんてやらない」

侑「たとえ私が消えるのだとしても」

侑「たとえ世界が消えてしまうのだとしても」

侑「私が大好きなみんながいるから」

侑「きっとみんなも私を大好きでいてくれるから」

侑「消えていく世界を愛しているから」

55: 2021/03/09(火) 19:01:03.81 ID:OtcX0sut
侑「1人でも」

侑「今は1人でも歩いてみせる」

侑「きっといつか……また」

侑「みんなで歩ける日が来るから」

侑「私はここにいる」

侑「私は今、確かにここにいるから!」


もう、涙なんてお別れ。
雨宿りをして、濡れた瞼の中で傘をさす。


私を忘れてくれますか?なんて絶対に言わない。
私はここから、みんなとの心の繋がりをたぐり寄せるから。


未来への帰り道を探し続けるよ。

56: 2021/03/09(火) 19:02:24.31 ID:OtcX0sut
侑「だから……」

侑「彼方さん、エマさん、果林さん」

侑「愛ちゃん、璃奈ちゃん」

侑「かすみちゃん、しずくちゃん」

侑「せつ菜ちゃん」

侑「歩夢」

侑「どうか……どうか、どうか」

侑「私を見つけてね」

57: 2021/03/09(火) 19:03:21.38 ID:OtcX0sut
おしまい。
コメントくださった方ありがとうございました。

58: 2021/03/09(火) 19:05:52.25 ID:OtcX0sut
一応これでおしまいのつもりだったんですが、書いててちょっとつらいなぁって思ったので、
蛇足後であげてもいいですか?

ちょっと予定あるので夜になりますが。

61: 2021/03/09(火) 19:07:22.36 ID:OtcX0sut
間違った、これ消せないのか。
とりあえず後で少しあげます。

63: 2021/03/09(火) 19:08:11.34 ID:OtcX0sut
コメントありがとうございます。
また見て頂けると嬉しいです。

71: 2021/03/09(火) 21:51:45.77 ID:OtcX0sut
戻りました。
以下、続き?あげていきます!

コメント本当にありがとうございます。
嬉しいです。

72: 2021/03/09(火) 21:52:11.32 ID:OtcX0sut
歩夢「消えてしまった貴女を愛している」

73: 2021/03/09(火) 21:52:55.76 ID:OtcX0sut
せつ菜「あの……」

愛「どうしたの?せっつー」

せつ菜「皆さん、最近弛んでいませんか?」

彼方「えぇ~、そんなことないよぉ?」

せつ菜「今寝ている人が何言ってるんですか!」

エマ「でも、彼方ちゃんの言うとおりそんなつもりはないんだけどなぁ?」

エマ「ねぇ、彼方ちゃん?」

彼方「そうだそうだー」

果林「膝枕中に抗議しても、ねぇ?」

74: 2021/03/09(火) 21:54:34.70 ID:OtcX0sut
果林「まぁ、確かに2人の言い分も分かるわ」

果林「私も手を抜くとかそんなつもりはないのだけれど……」

愛「愛さんもなんとなーく力が入りきらないとういうか」

璃奈「私も」

璃奈「璃奈ちゃんボード『ぐでー』」

しずく「璃奈さんそれだとほとんど力抜けてるんじゃ……」

かすみ「ふっふっふ~!」

かすみ「皆さん弛んでるならかすみんが一気にトップアイドルの座を奪っちゃいますよ~?」

かすみ「まぁ、かすみんは可愛いからもうすでトップなんですけどね!」

75: 2021/03/09(火) 21:55:08.17 ID:OtcX0sut
せつ菜「歩夢さんはどうですか?」

かすみ「無視しないでください!」

璃奈「かすみちゃんドンマイ」

歩夢「私?」

歩夢「私もいつも通り……だと思うんだけど」

歩夢「でも、なにかが引っかかってはいるんだよね」

愛「どんなこと?」

歩夢「うーん、それが思い出そうとしても、思い出せなくて……」

歩夢「思い出せないようなことだからそんなに大したことじゃないと思うんだけど」

77: 2021/03/09(火) 21:56:15.87 ID:OtcX0sut
せつ菜「歩夢さんが引っかかってることが私達全員に関わることでしょうか?」

かすみ「かすみん達の共通の思い出が消されてるんですか!?」

しずく「そんな大袈裟な……」

璃奈「でも、映画とかでもあるよねそういうの」

果林「映画はフィクションでしょ?」

エマ「現実でそういう類のことあればニュースとかになっちゃうよね」

彼方「分からないよ~?」

彼方「お化けがこっそり連れて行ったりとか……」

かすみ「ひぃっ!」

歩夢「ごめんね、きっと大したことじゃないと思うから」

歩夢「そろそろ練習始めないと」

歩夢「みんなして本当に弛んでることになっちゃう」

せつ菜「そうですね、では行きますよ皆さん!」

78: 2021/03/09(火) 21:57:34.61 ID:OtcX0sut
――


せつ菜「歩夢さん!」

歩夢「せつ菜ちゃん?」

せつ菜「良ければ途中まで一緒に帰りませんか?」

歩夢「うん、もちろん」

歩夢「せつ菜ちゃんと一緒に帰れて嬉しいよ」

せつ菜「そう言って頂けると嬉しいです」

歩夢「なんだか1人で帰るのって慣れなくて」

せつ菜「??」

せつ菜「もうずっと通っているのにですか?」

79: 2021/03/09(火) 21:59:13.61 ID:OtcX0sut
歩夢「え?」

歩夢「あ、そうだね、そうだった」

歩夢「でも、なんだか最近、行きも帰りもなんだか寂しいなって思って」

せつ菜「最近ですか……」

せつ菜「それより!」

歩夢「きゃ、なにどうしたの?」

歩夢「急に大声出して」

せつ菜「あ、すみません……」

せつ菜「寂しいなら呼んでくださいよ!」

80: 2021/03/09(火) 22:01:52.82 ID:OtcX0sut
せつ菜「私、歩夢さんのお友達のつもりだったんですが、私じゃ頼りないですか?」

歩夢「あ、ううんそんなことない!」

歩夢「ごめんね、そんなつもりないんだけど」

歩夢「ありがとう、せつ菜ちゃん」

せつ菜「いえ、どういたしまして」

せつ菜「なにかあったら言ってくださいね?」

せつ菜「お友達で仲間で、ライバルでもあるんですから!」

せつ菜「ライバル同士の協力……こんなに熱いことないんですから!」

歩夢「ふふ、そうだね」

82: 2021/03/09(火) 22:05:19.20 ID:OtcX0sut
歩夢「私ね、やっぱり気になるの」

せつ菜「思い出せないこと、ですか?」

歩夢「うん、なにか、なにか分からないんだけど、いつもと違う気がするの」

せつ菜「違う、ですか」

せつ菜「どうしても曖昧になりますね……」

せつ菜「あ、すみません、責めてるようなつもりじゃなくて」

歩夢「うん、分かってるよ」

歩夢「ごめんね、またなにか思いついたらみんなに相談するね」

83: 2021/03/09(火) 22:09:47.27 ID:OtcX0sut
せつ菜「はい!決して1人で抱えないでくださいね」

せつ菜「私達は大切な仲間です!」

せつ菜「私達の未来に関わること……だと思ってます」

せつ菜「歩夢さんの、そのなにかを私は信じています」

せつ菜「どれだけ険しくて、心が折られたとしても、歩夢さんの味方です!」

歩夢「うん、ありがとうせつ菜ちゃん」


少し熱が入ったその口調にちょっとだけ口角が上がる。
せつ菜ちゃんが伸ばした拳に私の拳を軽くぶつけて、お互い笑う。


ありがとう。
なんだか少し心が軽くなった気がする。

86: 2021/03/09(火) 22:11:59.79 ID:OtcX0sut
――


歩夢「……ふわぁ」

歩夢「んーっ……」


目覚めて大きく伸びをして、それからスマホを手に取る。
別に何かをするわけじゃないのに……。


それから、ベランダの方へ足を向ける。
あれ?


歩夢「なにしてるんだろ」

歩夢「まだ寝ぼけてるのかな?」

88: 2021/03/09(火) 22:14:33.33 ID:OtcX0sut
歩夢「でも……」


毎日、自然と足がそちらへ向く。
何年もそうしてきたかのように。


歩夢「朝からベランダに出たって別になにもないはずなのに」

歩夢「…………」

歩夢「いい天気」


スマホ片手にベランダに出てみる。
画面を見て、隣を覗き込む。


なにもない。
当たり前なんだけど、なんだか当たり前じゃないような気もして。

89: 2021/03/09(火) 22:19:37.22 ID:OtcX0sut
歩夢「準備しなきゃ」


しばらくベランダでぼーっとして、はっとする。
いつものように準備して学校へ向かう。


歩夢「いってきます」

歩夢「いない」

歩夢「ん?」

歩夢「なにが……?」

歩夢「この間ここに……」

歩夢「思い出せない……」

90: 2021/03/09(火) 22:22:14.25 ID:OtcX0sut
歩夢「いつも……?」

歩夢「……おかしい」

歩夢「どうして……?」


ここで誰かと会った気がする。
いつもお話してた気もする。


何かが足りない。
誰かが分からない。


この間といつもはイコールなのか、そうじゃないのかも。
どれだけ考えても思考が消えていく。


自分の記憶を信じながら、疑いながら、もやもやしたまま歩き始める。
なにか、簡単なきっかけさえ掴めれば……。

91: 2021/03/09(火) 22:24:15.30 ID:OtcX0sut
――


せつ菜「タイム計測します!」

かすみ「え」

せつ菜「一度現実を見ましょう」

せつ菜「弛んでないというならタイム前回より縮んでるはずです!」

愛「確かに一理あるね」

愛「一里くらい走っちゃおうか!」

愛「いちりだけに!」

愛「…………」

愛「あれ?」

92: 2021/03/09(火) 22:26:21.87 ID:OtcX0sut
璃奈「愛さんドンマイ」

璃奈「そういう時もある」

愛「あれ~、おっかしいなぁ……」

かすみ「なにもおかしくないですよ」

愛「えー、いつも誰か笑ってくれてたじゃん……」

エマ「ねぇねぇ果林ちゃん、一里ってどれくらい?」

果林「え?一里?、えーっと、確か……」

彼方「確か大体4kmぐらいだったよね、果林ちゃん」

果林「えぇ、そうね、それくらいよ」

エマ「そうなんだ!」

エマ「ありがとう、2人とも」

せつ菜「一里はもういいです」

95: 2021/03/09(火) 22:31:14.57 ID:OtcX0sut
せつ菜「大体いつもと走る距離変わったら意味ないでしょう」

かすみ「でもでも、アイドルは走らないですしー……」

しずく「でも、歌って踊っては体力必要だよ、かすみさん」

かすみ「分かってるけどぉ」

璃奈「かすみちゃんに負けない」

璃奈「璃奈ちゃんボード『むんっ』」

かすみ「かすみんだって負けないもん!」

せつ菜「さ、やる気になったところで行きますよ」

歩夢「タイム計測か……」

せつ菜「どうかしましたか歩夢さん?」

歩夢「ううん、なんでもないよ」

歩夢「すぐ行くね」

98: 2021/03/09(火) 22:34:34.11 ID:OtcX0sut





歩夢「はぁ……はぁ……」

歩夢「どうだった?」

せつ菜「いえ、それが……」

歩夢「なにかあったの」

せつ菜「少し困ったことに……」

愛「タイム測れてないんだよね」

99: 2021/03/09(火) 22:38:03.41 ID:OtcX0sut
歩夢「どうして?」

せつ菜「それが……誰も測ってなくて……」

愛「多分、後の子もタイマー持ってなかったよね」

歩夢「そう言われれば、誰も持ってなかったね」

せつ菜「うぅ……私が言い出したのに……」

歩夢「でも、今まで……誰も……」


そうか。
考えるより先に足が動く。


誰かがいたんだ。
あの場所も、この場所も。

100: 2021/03/09(火) 22:41:27.77 ID:OtcX0sut
せつ菜「歩夢さん!?」

愛「どうしたの歩夢?」

歩夢「みんな来て!」


きっとさっきより早い。
今なら愛ちゃんに勝てたりして。


そんなくだらないことを振り払って、部室に戻る。


歩夢「……やっぱり」

歩夢「あった」


小さな手がかり。
でも、それだけで世界が色づいた気がした。

101: 2021/03/09(火) 22:45:12.55 ID:OtcX0sut
歩夢「みんな見つけたよ」

せつ菜「なにをですか?」

愛「マグカップ?」

歩夢「うん、みんなで買ったマグカップ」

エマ「さすがに走ったすぐ後にお茶タイムは……」

果林「そういうことじゃないんでしょう?」

歩夢「うん、だって……」

歩夢「みんな自分の持ってみて?」

かすみ「そんななくなったりなんて……あれ?」

璃奈「ひとつ多い?」

彼方「さっきお茶淹れた時は9つだったような?」

103: 2021/03/09(火) 22:48:54.80 ID:OtcX0sut
しずく「誰かが増やしたり……なんてしないですもんね」

歩夢「うん、だから、きっと……」

歩夢「きっとこれは誰かの、ここにいるはずの誰かの色なんだよ」

せつ菜「黒色のマグカップですか……」

かすみ「それなら、みんなで上げたPVとか見れば写ってるんじゃないですか?」

歩夢「ううん、多分写ってないと思う」

せつ菜「どうしてですか?」

歩夢「何回このマグカップ使っても、誰も気づいてなかったし……それに……」

愛「それに?」

歩夢「私達を支えてくれてたんじゃないかな?」

せつ菜「なるほど」

104: 2021/03/09(火) 22:53:01.88 ID:OtcX0sut
かすみ「なにがなるほどなんですか?」

愛「そっか、さっきのタイム!」

愛「みんな無意識に誰かが測ってると思ってたもんね」

愛「愛さんのダジャレもその子が……」

かすみ「それはないんじゃないですか?」

愛「なんだとー!」

果林「でも、問題は……」

エマ「誰かが分からないことだよね」

果林「エマ……」

彼方「よしよし、果林ちゃん」

しずく「ですが、手がかりは見つかりました」

しずく「ということは……」

せつ菜「ここからは解決パートです!!」

106: 2021/03/09(火) 22:56:26.50 ID:OtcX0sut
歩夢「うん、そうだねせつ菜ちゃん」

歩夢「きっとみんなにとって大切な人だと思う」

歩夢「だって、だからみんななんとなく力が入らないような感じだったんだと思う」

彼方「それなら、これからは手がかりを探すことになるの?」

せつ菜「そうなりますね」

せつ菜「ただ、誰かがいたと気づいたことで何か思い出せるかもしれません」

愛「たとえば?」

璃奈「どこかで会ってるかも」

107: 2021/03/09(火) 23:00:33.47 ID:OtcX0sut
歩夢「どこかで……」

歩夢「そうか!」

せつ菜「歩夢さん?」

歩夢「きっと、きっとみんなに会ってるかもしれない」

歩夢「いつからそうなったかは分からないけれど……」

歩夢「多分、私……あの時……ごめん!今日ちょっと帰るね!」

歩夢「きっとあそこに!」

せつ菜「私達の方でも何か探しておきます!」

歩夢「うん、お願い!」


そう言って、走る。
時間をかければ、また記憶が消えてしまうかもしれない。


なるべく急いで、早く早く。

108: 2021/03/09(火) 23:04:46.83 ID:OtcX0sut





歩夢「あった」

歩夢「やっぱり、ここに」


帰ってすぐに見つけた。
あの日の手がかり。


歩夢「ごめんね、勝手にかばん開けちゃうね」

歩夢「……学生証」

歩夢「なんで?」


上手く見えない。
もやがかかっているのか、元から塗りつぶされているのか。

109: 2021/03/09(火) 23:09:46.82 ID:OtcX0sut
名前も顔も見えない。
だけど……


歩夢「……っぅ……あ……」


涙が溢れる。
学生証を抱きしめるように泣く。


歩夢「……ぐすっ……ノート?……」

歩夢「…………」

歩夢「みんなのこと……いいところ……ちょっぴり悪いとこ……記録だってとってある」

歩夢「きっと、ずっと見ていてくれたんだよね」

歩夢「大好きでいてくれたんだよね」

歩夢「私達も大好きだったんだよね」

歩夢「どうして忘れちゃったのかな……」

歩夢「手を伸ばしてくれてたんだよね」

歩夢「なんでその手を掴んであげられなかったのかな……」

歩夢「ごめんね……」

110: 2021/03/09(火) 23:12:48.44 ID:OtcX0sut
貴女へ甘えていた時間が溶けて消える。
貴女に守られていたことすら気づかないまま、貴女との明日が消えた。


繋がりの糸をすり抜けて。
掴もうと探してももう見つからない。


歩夢「ごめん、ごめんね……」

歩夢「どうか……どうか、どうか」

歩夢「私を赦して欲しい……」

歩夢「必ず見つけるから」

歩夢「貴女の名前を呼んでみせるから」

112: 2021/03/09(火) 23:17:34.35 ID:OtcX0sut
――

歩夢「みんなごめんね、お願い」

せつ菜「こっちは任せてください!」

せつ菜「きっと歩夢さんにしかできない、と思います」

歩夢「うん、ありがとう」

歩夢「必ず見つけて伝えてくるから」


そう言って部室を飛び出す。
背にみんなの想いを感じる。


今日はどこに行こう。
もう今日しかない。

113: 2021/03/09(火) 23:21:41.09 ID:OtcX0sut
ううん、ダメなら何度でも……。
諦めてたまるもんか。


歩夢「もう伝わってればいいんだけど」

歩夢「でも、分からないから」

歩夢「それに……なんとなくまだ会えてない気がする」

歩夢「絶対に会いに行くから」

115: 2021/03/09(火) 23:26:08.74 ID:OtcX0sut





大切な誰かを探して、もう子供のいない砂場を歩く。
少し肌寒い、そんな時間。


歩夢「なんだか雨が降りそうだね」

歩夢「実はね、明日ライブをするの」

歩夢「貴女を忘れてしまった私達を……」

歩夢「もし……もし……赦してくれるのなら、見に来て欲しい」

歩夢「ごめんね、バッグの中見ちゃった」

歩夢「どれだけ貴女が私達を大好きでいてくれたか、スクールアイドルが好きなのか知っちゃった」

歩夢「だから、明日見に来て欲しいな」

歩夢「貴女に届くライブを絶対にして見せるから」

116: 2021/03/09(火) 23:29:13.92 ID:OtcX0sut
歩夢「なんて、色んなところで言ってるんだけどね?」

歩夢「でも、私にはどうしても分からないから、何度でも伝えるしかないから」

歩夢「そこにいてくれると……ぁ……」


なんだか手が温かい気がして。
貴女がそこにいるような気がする。


歩夢「雨、降ってきちゃったね」


シトシトと雨が降り始める。
上には屋根があるはずなのに、顔が濡れる。

117: 2021/03/09(火) 23:35:05.87 ID:OtcX0sut
歩夢「本当はまだ次に行きたいんだけど……」

歩夢「もう少しここにいてもいいかな」

歩夢「雨も、降ってるから」

歩夢「濡れちゃうからね」

歩夢「ねぇ、きっと昔ここでたくさん遊んだ……よね」

歩夢「泥だらけになって笑って、日が暮れるまで遊んで」

歩夢「きっと、そうだよね?」


ひとつひとつの思い出だって本当かどうか分からない。
もし、間違った思い出だったらどうしよう。


そう思うと、怖い。
だけど、この思い出を約束を夢だなんて思いたくなんてないから。

119: 2021/03/09(火) 23:41:24.14 ID:OtcX0sut
歩夢「楽しかったりくだらなかったり、そんな日がずっと続けばいいねって」

歩夢「きっと続けていこうって約束したよね」

歩夢「ごめんね……」

歩夢「でも、続けるために、私……私達見つけてみせるよ」

歩夢「呼んでみせるよ、貴女の名前を」

歩夢「改めて約束!」

歩夢「私達ずっと一緒に楽しい日々を続けていこうね」

歩夢「きっと、みんなそれぞれの道へ走る日が来るけど」

歩夢「それでも心の繋がりが消えてしまわないように」

歩夢「いつまでだって……」

歩夢「押し付けがましいかもしれないけれど、みんなの願いだよ」

120: 2021/03/09(火) 23:45:52.24 ID:OtcX0sut
歩夢「私、そろそろ行かなくちゃ……」

歩夢「ふふっ、ごめんね」

歩夢「嘘、ついちゃった」

歩夢「傘、あるんだ」

歩夢「傘がないフリしたのはあの日も一緒だったよね」

歩夢「いっぱい怒られたけど、貴女と特別な時間が過ごせた気がして嬉しかった」

歩夢「でも、あの日はもう雨に溶かしちゃおう」

歩夢「だって、新しく約束できた……よね?」

歩夢「みんなの約束の日に変わったから」

歩夢「…………」

歩夢「ふふっ、ごめんね、本音を言うと2人だけのあの日の約束も素敵だなって」

歩夢「なんだかいつまでも離れられなさそうだけど……ホントに行くね」

歩夢「明日、必ず見にきてね」

121: 2021/03/09(火) 23:49:17.14 ID:OtcX0sut
――


歩夢「みんな緊張してる?」

歩夢「私達が笑顔を見せないと、ね?」

歩夢「きっと大丈夫」

歩夢「昨日から降り続いた雨だって、今は虹になって輝いてる」

歩夢「だから、願いは叶う」

歩夢「零れた思い出を、破れてしまった未来図を取り戻そう!」

歩夢「行こう!」

歩夢「あの虹の先で奇跡が待ってるよ」

122: 2021/03/09(火) 23:53:46.02 ID:OtcX0sut
たくさんの声が聞こえる。
心が高鳴る。



貴女の声はこの中にあるのかな。
ううん、きっと見つけてみせるよ。



響け!
あの虹の端からその先まで



届け!
虹の中に咲く笑顔の君へ

124: 2021/03/09(火) 23:56:45.69 ID:OtcX0sut





手を伸ばす。
この手をいくら伸ばしても届かぬ夢。


夢の世界よりも遠くに消えた貴女を探す。
貴女との明日を願っているから。


貴女の笑顔を見たい。
貴女の名前を呼びたい。


消えてしまった貴女を愛している。


だから、どうか、私達の未来を……。


歩夢「…………見つけた」

125: 2021/03/10(水) 00:00:04.16 ID:YptRKJjg
そこにいたんだね。
今すぐ会いたい。


飛び込みたい。
笑いたい、泣きたい、謝りたい、大好きだって想いを伝えたい。


でも、あの子が応援してくれるから。
あんなにも楽しそうにしてくれているから。


今は全力で。


でも、今日だけはごめんなさい。
ただ1人だけを見つめて。


これだけは。

126: 2021/03/10(水) 00:00:54.31 ID:YptRKJjg
歩夢「おかえり」
歩夢「侑ちゃん」


侑「ただいま」

127: 2021/03/10(水) 00:01:35.77 ID:YptRKJjg
歩夢「おかえり」


歩夢「侑ちゃん」


侑「ただいま」

128: 2021/03/10(水) 00:02:32.88 ID:YptRKJjg
おしまい。
長くなってしまいましたが、見てくださった方、コメントくださった方本当にありがとうございました。

129: 2021/03/10(水) 00:03:26.49 ID:YptRKJjg
辻褄合わないところもあるかもしれませんが、ご容赦頂ければ幸いです。

130: 2021/03/10(水) 00:05:06.32 ID:YptRKJjg
最後の最後で2重になってて申し訳ないです……。

今度のシャッフルフェスか3rdライブで2期の発表あればと祈ってます。

131: 2021/03/10(水) 00:06:00.48 ID:BZ30hJ82
おつでした。戻ってこられて本当に良かった。お互いとスクールアイドルみんなが本当に大好きなんだな

132: 2021/03/10(水) 00:06:45.86 ID:bfuYU9nu
?cメ*˶ˆ ᴗ ˆ˵リ 良いSSだった…乙だよ

133: 2021/03/10(水) 00:10:37.11 ID:KJtAdWjb
乙です
素晴らしいSSだった
絆に勝るものなしだね

134: 2021/03/10(水) 00:33:23.77 ID:svrjTHI7
ゆうぽむの良さがギュギュッと詰まった素晴らしいSSだった

135: 2021/03/10(水) 00:37:04.94 ID:/V5PIkeu
スレタイでクロスチャンネル思い出した

137: 2021/03/10(水) 03:29:46.18 ID:Xab76qOo
前半アニガサキが終わって侑ちゃんが消える話かと思ったわ
侑ちゃんもちゃんと愛されてて良かった…乙

引用元: https://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1615280031/

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