鞠莉「昼下がりのオムライス」

SS


1: (らっかせい) 2020/06/13(土) 09:21:43.86 ID:BoyXAeEu
一緒に暮らしているようまり。

2: (らっかせい) 2020/06/13(土) 09:22:37.85 ID:BoyXAeEu
6月13日。
よく晴れた休日の午後、昼食には少し遅い時間。
リビングの窓から吹き込んだ一陣の風が、キッチンでお料理中の曜と私のところにまで届いた。

鞠莉「んー、いい風」

曜「本当だね。爽やかな夏風って感じがするよ」

部屋を通り抜けても尚涼しげなこの風は、曜が言ったように、そこはかとなく夏の匂いを含んでいる。

風のおかげもあってか、室内は過ごしやすい気温だけど、窓の外では太陽が元気よく輝いていて、さっき干したばかりの洗濯物も、夕方にはよく乾いていることだろう。

3: (らっかせい) 2020/06/13(土) 09:22:54.15 ID:BoyXAeEu
鞠莉「最近はすっかり暑くなったわね」

曜「そうだね。梅雨もまだなのに、早くも夏めいてきたっていうか…くしゅん」

話す内容とは裏腹に、曜は顔を逸らして小さなくしゃみをした。

鞠莉「暑くなったって話してるのに、まさか風邪?季節の変わり目なんだから、気をつけないと」

曜「いや、これは多分あれだよ。寝る時のエアコン。体が冷えちゃって…くしゅん」

鼻のむずむずが収まらないのか、何度かくしゃみを繰り返している。

4: (らっかせい) 2020/06/13(土) 09:23:22.12 ID:BoyXAeEu
曜はこれをエアコンのせいと言った。
それは間違いではないのだけれど、正確でもない。私の見立てでは原因は別のところにある。

鞠莉「寒がりなのに、服を着ないで寝るからそうなるのよ?」

曜「げほっ、ごほっ!!」

麦茶で喉を潤そうとしていた曜は、気の毒なことに盛大にむせかえった。

鞠莉「あらあら。今度は咳までしちゃって、本当に大丈夫?」

私のわざとらしい心配に、曜は咳き込みながら、じとーっとした視線を私に送った。

曜「誰のせいだと思ってるの。今の咳も、くしゃみも…」

5: (らっかせい) 2020/06/13(土) 09:24:10.56 ID:BoyXAeEu
鞠莉「だって本当のことじゃない。昨日はベッドに入ってきて、あんなに甘えん坊して」

曜「わーっ、わーっ!」

曜は手をぶんぶんと振りながら、大声で私の言葉を遮ろうと試みた。

今更恥ずかしがることないのに。ふふっ、こういうシャイで純情なところは相変わらずだ。

それは昨日の夜、私がベッドで一足先に横になっていたときのこと。

それまで私の誕生日のことを気にするそぶりも見せなかったのに、日付が変わると同時に曜は懐へと入ってきて。

6: (らっかせい) 2020/06/13(土) 09:24:30.45 ID:BoyXAeEu
曜「鞠莉ちゃんっ、お誕生日おめでとう!」

私をぎゅっと抱きしめながら「一番にお祝いできて嬉しいよー」なんて、可愛く笑ってくれたの。

私からもハグをして、髪を撫でたり、頬を寄せたりとじゃれあっていたら、どちらともなくそんな雰囲気になって。

曜「鞠莉ちゃん、かわいい」

鞠莉「曜…」

曜「鞠莉ちゃん、鞠莉ちゃん…」

鞠莉「曜、んっ、ん――」

7: (らっかせい) 2020/06/13(土) 09:25:17.42 ID:BoyXAeEu
その後は何があったのかって?詳細については差し控えさせてもらうわ。二人のプライバシーに関することだからね。
でも、曜ったら本当に愛らしくって――

曜「鞠莉ちゃん?おーい、まーりちゃん。ニンジンのピーラーはもういいよ」

おっといけない。ホットでスイートな物思いにふけるあまり、危うくニンジンを削りすぎてしまうところだった。
気を取り直して、意識と話の流れを戻すことにする。

鞠莉「はい、これ。念のため飲んでおいた方がいいわ」

私は棚から風邪薬の小瓶を取り、中の錠剤を曜の手のひらへと振り出した。

くしゃみは一時的なことだと思うけど、用心するに越したことはない。曜の体のことだから、これでも心配しているの。

8: (らっかせい) 2020/06/13(土) 09:25:33.49 ID:BoyXAeEu
曜は風邪薬を口に入れ、麦茶と一緒に流し込む。

曜「ふぅ、ありがとう。鞠莉ちゃんも飲む?」

鞠莉「いただくわ」

私はグラスを引き取り、まだ1/3ほど入っていた麦茶をごくりと喉に送り込んだ。

鞠莉「ん、美味しい」

曜「もう麦茶の季節って感じだね」

曜の言葉に軽く笑って同意する。
我が家の麦茶は夏場に限らず365日オールシーズンだけど、旬の季節は格別だ。

9: (らっかせい) 2020/06/13(土) 09:26:18.64 ID:BoyXAeEu
曜「炭酸もいいけどさ、やっぱり夏は麦茶だよね」

鞠莉「そうね。それに夏といえば、お酒が美味しい時期でもあるわね」

曜「あはは、お酒は年中そうでしょ。フライパン取ってもらえる?」

鞠莉「夏は特にってことよ。はい、これ」

曜「んー、冬は冬でそんなこと言ってたような。ありがと!あれっ、ニンジンどこ置いたっけ」

鞠莉「まあ、一年を通して旬って言うのも間違いないけどね。ニンジンは後ろよ、移しておいたの」

10: (らっかせい) 2020/06/13(土) 09:26:43.70 ID:BoyXAeEu
曜「気持ちはわからないでもないけど、お昼から飲んだらダメだよ?卵とバター、お願いします」

鞠莉「えーっ、年に一度の誕生日なのにー?」

曜「夜にパーティするからさ、それまで楽しみに待っててってこと」

鞠莉「それを聞いて我慢できそうよ。はい、卵とバター」

曜「ありがとー。よし、準備は完了だね!」

こんな具合に楽しく会話しながらだと、作業もあっという間ね。

11: (らっかせい) 2020/06/13(土) 09:28:47.80 ID:BoyXAeEu
下ごしらえが終わったら、ここから先は役割分担。

火を使う工程は料理上手の曜にお任せして、私は、食器やテーブルのセッティングに取り掛かることにした。

リビングではまず、エアコンのスイッチをオンにする。
火を使うとどうしても室温が上がるし、奥まったキッチンは特に熱がこもりやすい。

体が暑さに慣れないこの時期、曜を熱中症にさせるわけにはいかないからね。

テーブルを拭いていると、キッチンからは調理の音が聞こえ始めた。
手際よく具材を炒める音に、曜の楽しげなハミングが混じっている。

私の大好きな音の光景だ。

12: (らっかせい) 2020/06/13(土) 09:29:17.65 ID:BoyXAeEu
エアコンの風が冷たくなるのを見計らってから、私はリビングの窓を閉じた。
日差しが強そうだったので、レースカーテンも閉めることにした。

気付けば、香ばしい匂いが部屋中に広がっている。
これはケチャップだ。ケチャップの焼ける香りだ。

いい香りといい音に、心のうきうきとお腹の減り具合は増していくばかり。

ああ、早く食べたいな――

13: (らっかせい) 2020/06/13(土) 09:29:52.52 ID:BoyXAeEu
――――――――

曜「曜ちゃん特製オムライス、お待ちどうさま!」

鞠莉「わぁ…!」

思わず感嘆が声になって溢れた。
曜が運んでくれたのは、私がリクエストしたオムライス。

ふわふわの卵に包まれたそれは、家庭的でありながら、プロが作ったレシピ本のお手本のような完璧な出来栄え。

卵にはケチャップで「YO」とサインが書かれていて、その横には小さなハートマークが2つ寄り添って描かれている。
すごく可愛いし、その一手間が嬉しくて、心がときめくのがわかる。

まさに完璧、理想形のオムライスだ。

14: (らっかせい) 2020/06/13(土) 09:32:30.81 ID:BoyXAeEu
鞠莉「すごく綺麗、まるで魔法みたい。写真撮っていい?」

曜「もちろん!」

縦横にスマホを構えてパシャリ、オムライスを手に敬礼ポーズの曜をパシャリと、何枚かスナップを撮影してから、最後に二人で並んだツーショットを自撮りした。

鞠莉「見て見て、いい画が撮れてる」

曜「おー、いい感じだね」

鞠莉「世界で最高の宝物だわ」

曜「鞠莉ちゃんたら、食べる前なのにさっきから褒めすぎだって」

氷の入ったグラスに麦茶を注ぎながら、曜は可愛く照れ笑いした。
褒めすぎでもお世辞でもなく心からそう思っているし、なにより嬉しいのは、はにかみ笑いの曜もきっと同じ気持ちを共感してくれているってこと。

15: (らっかせい) 2020/06/13(土) 09:33:18.18 ID:BoyXAeEu
曜「さてさて、それじゃお手元の準備はいいかな」

曜が芝居がかった咳払いをして、グラスを軽く掲げる。

曜「本番は夜だから、今は予行練習ってことで。鞠莉ちゃん、お誕生日おめでとう!かんぱーい!」

鞠莉「かんぱいー!」

グラスが鳴るいい音が響く。
すっきりした喉越しと、爽やかでシンプルな味わい。

想像以上の美味しさで、私は一息に飲み干してしまった。自分では気付かなかったけど、喉が渇いていたのかもしれない。

16: (らっかせい) 2020/06/13(土) 09:34:53.85 ID:BoyXAeEu
鞠莉「ふぅ、おいしい」

グラスを置くと、曜がすぐにおかわりを注いでくれた。

曜「夏はよく冷えた麦茶が一番だよね」

鞠莉「そうね、最高だわ。あっ、手酌はダメよ?」

曜「へへ、いただきます」

曜はおっとっと、なんて言いながら麦茶を受けるグラスをわざと揺らした。そんなおふざけがまた可愛くって。
冷たい麦茶の乾杯は、アルコールにだって負けないくらいキラキラに満ちたひと時だった。

17: (らっかせい) 2020/06/13(土) 09:35:47.62 ID:BoyXAeEu
曜「改めて鞠莉ちゃん、お誕生日おめでとう!いえーい、ぱちぱちー!」

鞠莉「ありがとう。素敵な誕生日を迎えられたのも、曜のおかげよ」

曜「昨日、じゃなくて今日も言ったけど、一緒にお祝いできて本当に嬉しいんだ!」

鞠莉「曜…ふふ、泣かせるようなこと言っちゃって」

茶化して誤魔化したけど、私の目元は本当に潤みかけていた。

曜「えへへっ、今から泣いちゃったら、夜はもっと大変なことになっちゃうよ?」

曜は調子を合わせて「なーんてね!」と付け足した。こういう気付いてくれるところとさりげない優しさに、私は心惹かれたんだって実感する。

18: (らっかせい) 2020/06/13(土) 09:36:08.60 ID:BoyXAeEu
曜「さあさあ食べよう。出来立てのうちが美味しいよ」

鞠莉「ええ。じゃあ早速、いただきまーす」

手を合わせて二人でいただきますをしてから、スプーンを手にオムライスに目を向ける。

見れば見るほど本当に綺麗で、スプーンを入れるのがもったいないくらい。改めて曜の料理スキルの高さと頑張りが伝わってくる。

そんなオムライスにそっとスプーンを通し、口元へと運ぶ。きっとこの上なく、贅沢な一瞬。

19: (らっかせい) 2020/06/13(土) 09:36:40.73 ID:BoyXAeEu
鞠莉「んっ――!」

口に入れた直後、私は目を見張った。

曜「お味はいかが?」

鞠莉「デリシャス!中のチキンライスも美味しくて、見た目だけじゃなくて味もパーフェクトよ!」

卵はしっかりとライスを包み込み、それでいてふわっとした食感はまさに最高の一言。

パラっと炒めたライスとチキンの味付けがまた絶妙で、まるで美味しさが詰め込まれた宝石箱みたい。

鞠莉「本当に美味しい。いつもながら、いえ、今日はそれ以上の美味しさね」

20: (らっかせい) 2020/06/13(土) 09:36:49.62 ID:BoyXAeEu
私の感想に、曜はにこっと破顔する。

曜「えへへ、よかったぁ!ん、本当だ、上手に出来てる出来てる!」

曜は満足げにオムライスを頬張っている。この光景もまた、最高の宝物の一つだ。

そんな曜を見て、私はあることを思いついた。

鞠莉「曜のも美味しそうね、一口ちょうだい」

曜「えっ?いいけど、私のも鞠莉ちゃんのも同じだよ」

21: (らっかせい) 2020/06/13(土) 09:37:18.84 ID:BoyXAeEu
そりゃそうでしょうけど、私が言いたいのはそうじゃない。

鞠莉「一口、ちょうだい」

曜「んー?あっ、ふふっ」

もう一度お願いすると、曜は私の意図に気付いてくれたみたい。

「なるほどね」と小さく笑ってから、自分のオムライスをスプーンですくって、私の前に差し出した。

22: (らっかせい) 2020/06/13(土) 09:37:33.85 ID:BoyXAeEu
曜「はい、あーん」

私はスプーンをぱくっと口にして、もぐもぐと味わう。

鞠莉「うふふっ、やっぱり特別に美味しい」

曜「もう、さっきからずっとニコニコしすぎだよ?」

鞠莉「曜の作ってくれるオムライスは、いつも幸せの味がするなって」

23: (らっかせい) 2020/06/13(土) 09:37:53.40 ID:BoyXAeEu
曜「そんなに喜んでもらえて、私も嬉しいよ。でも、お楽しみはまだまだこれから!晩御飯も期待しておいてね!」

自信ありげに予告してくるなんて珍しい。きっと何かびっくりさせるような考えがあるのね。

鞠莉「ええ、楽しみにしてるわ」

笑いかけてから、大好きなオムライスを口に運んだ。

エアコンの風がそよぎ、麦茶の氷がからんと音を立てた。
休日、遅い昼食。微笑む曜と美味しいオムライス。一足早い夏の訪れと、誕生日のしあわせな昼下がり――



終わり

24: (らっかせい) 2020/06/13(土) 09:38:07.22 ID:BoyXAeEu
全弾撃ち尽くしました。オムライスと曜ちゃんが大好きな鞠莉ちゃんでした。

鞠莉ちゃん誕生日おめでとうございます!

↓は前に書いたものです。よろしければ併せてお願いします。

鞠莉「シャイガール・ハレーション」
https://fate.2ch.net/test/read.cgi/lovelive/1590753478/

ありがとうございました。

引用元: https://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1592007703/

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