1: (ワッチョイ 9e10-5be0) 2024/01/06(土) 17:00:20 ID:ydcHHhyE00
「姫乃ちゃん、私がいたら果林ちゃんとのデートにならないよ?」
「そっ、そんなことは……お、お願いです、私を見捨てないでくださいっ!!」
ふとした切っ掛けで綾小路姫乃と意気投合したエマ・ヴェルデは、姫乃と朝香果林とのデートをセッティング。
しかし当日は様々な理由で、エマは二人と同行する羽目に。このデート、一体結末はどうなるのでしょうか……?
・にほスイ八。三~五分間隔で30回投稿予定。
・地の文あり。エマが朗読しているという形式で、指出毬亜さんの声で脳内再生していただければと思います。
・『NEXT SKY』にて、歩夢がアイラを連れて帰国する前の出来事です。
・お楽しみいただけましたら嬉しいです。よろしくお願いします。
「そっ、そんなことは……お、お願いです、私を見捨てないでくださいっ!!」
ふとした切っ掛けで綾小路姫乃と意気投合したエマ・ヴェルデは、姫乃と朝香果林とのデートをセッティング。
しかし当日は様々な理由で、エマは二人と同行する羽目に。このデート、一体結末はどうなるのでしょうか……?
・にほスイ八。三~五分間隔で30回投稿予定。
・地の文あり。エマが朗読しているという形式で、指出毬亜さんの声で脳内再生していただければと思います。
・『NEXT SKY』にて、歩夢がアイラを連れて帰国する前の出来事です。
・お楽しみいただけましたら嬉しいです。よろしくお願いします。
2: (ワッチョイ 9e10-5be0) 2024/01/06(土) 17:05:15 ID:ydcHHhyE00
【百合に挟まるエマヴェルデ】
「う~ん、buono(美味しい)~♪」
大きなハンバーガーを大きな口でパクリと頬張るのは、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会に所属するスクールアイドル、エマ・ヴェルデ。
ジューシーなパティとフワフワのパンズ、香ばしいオニオンとシャキシャキのレタスに加えて、甘酸っぱいトマトと濃厚なアボガドの風味が口の中で見事に混ざり合い、これ以上ない幸福感を醸し出してくれます。
「フフっ、エマったら豪快にかぶり付くわね」
「はいっ、見ているだけで私も幸せな気分になってきますっ」
そんなエマを反対側の席から見つめるのは……エマの親友であり、同じく虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会に所属する朝香果林と、藤黄学園のスクールアイドルである綾小路姫乃の二人でした。
「う~ん、buono(美味しい)~♪」
大きなハンバーガーを大きな口でパクリと頬張るのは、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会に所属するスクールアイドル、エマ・ヴェルデ。
ジューシーなパティとフワフワのパンズ、香ばしいオニオンとシャキシャキのレタスに加えて、甘酸っぱいトマトと濃厚なアボガドの風味が口の中で見事に混ざり合い、これ以上ない幸福感を醸し出してくれます。
「フフっ、エマったら豪快にかぶり付くわね」
「はいっ、見ているだけで私も幸せな気分になってきますっ」
そんなエマを反対側の席から見つめるのは……エマの親友であり、同じく虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会に所属する朝香果林と、藤黄学園のスクールアイドルである綾小路姫乃の二人でした。
3: (ワッチョイ 9e10-5be0) 2024/01/06(土) 17:08:05 ID:ydcHHhyE00
「もう~、私の食べるところを見るんじゃなくて、二人も一緒に食べようよ~!」
「そうですね、では私も頂戴しますっ」
「私も頂くわね。私の分のポテト、二人で分けて食べてくれる?」
「うんっ、喜んで! ポテトありがとっ、果林ちゃん!」
果林からポテトを半分頂戴して、エマは大喜び。ポテトにトマトケチャップをタップリと付けて、ハンバーガーと交互にパクリと大口でいただきます。
美味しさと嬉しさのあまり……エマは現在の状況が自らが望んだものでないことを、完璧に忘れてしまっていたのでした。
4: (ワッチョイ 9e10-5be0) 2024/01/06(土) 17:11:05 ID:ydcHHhyE00
,,(d!.•ヮ•..)ノ*
ことの始まりは、都内のとある本屋さんにて。
果林が載っているモデル雑誌を熟読していた姫乃に対して、エマから声を掛けて意気投合したことからでした。
「よろしければ果林さんのこと、もっと訊かせてくださいっ」
「う、うんっ、喜んで~」
果林のことになると(彼女にとってネガティブなことまで)ついつい口が滑ってしまうエマは、姫乃の質問に対してしどろもどろになりながらも、何とか無難に回答します。
そんな会話の中で、姫乃が読者モデル時代から果林が大好きであると知ったエマは、姫乃に果林とのデートを提案してみました。
5: (ワッチョイ 9e10-5be0) 2024/01/06(土) 17:15:05 ID:ydcHHhyE00
「ほ、本当に大丈夫ですか? 果林さん、お忙しくはありませんか?」
「とにかく聞いてみるよ! 姫乃ちゃんも、果林ちゃんといっぱいお話したいよね?」
「は、はいっ。そんな夢のような時間がいただけるのでしたら……是非ともお願いしますっ!」
頬を真っ赤に染めて嬉しそうに微笑む姫乃。
いきなり二人っきりのデートですと姫乃が話しづらいという理由で、最初は三人で遊びに行こうと果林に持ち掛けて、エマは早々に離脱するという計画を提案しました。
そうしてこの日の夜に果林に相談。今度の休日のお昼頃に、一緒に食事に行こうということで話がまとまります。電話で連絡した際の姫乃は声が舞い上がっており、彼女にとって良いことをしたとエマは大満足したのでした。
6: (ワッチョイ 9e10-5be0) 2024/01/06(土) 17:18:05 ID:ydcHHhyE00
,,(d!.•ヮ•..)ノ*
そうして、デートの当日。
エマと姫乃は、寮の前で果林が出てくるのを待っています。
「果林ちゃん、服装選びに少し時間が掛かってるんだって」
「そ、そうなんですね。何だか申し訳ない感じです……」
デートを取り付けたときと同様に、姫乃の顔は真っ赤に染まっていました。……果林が遅れている原因はただの寝坊で、エマに起こされるまでグッスリと眠っていたのですが、これは姫乃には黙っていることにしましょう。
姫乃の服装は淡いピンクのワンピースにベージュのコート、頭には同じくベージュのベレー帽を被っています。ツヤツヤの長髪にはいつも装着しているリボンが外されており、彼女なりに相当攻めたファッションとなっている模様です。
それに対してエマは、ピンク色のタートルネックセーターに、ゆったりとした灰色のワイドパンツ。……まあ私はすぐに離脱するので、オシャレする必要は無いかな、とエマは思い直しました。
7: (ワッチョイ 9e10-5be0) 2024/01/06(土) 17:21:05 ID:ydcHHhyE00
「お待たせっ」
果林の声に振り向く、エマと姫乃。
挨拶をしようとして……彼女の容姿を見た瞬間、二人とも目を見開き、次に出す予定だった言葉を失ってしまいます。
「かかか、果林ちゃん!?」
「果林さんっ、そ、その服装は一体……!?」
「どうかしら? この服、うちの同好会の優木せつ菜と、桜坂しずくにチョイスしてもらったんだけど……?」
果林の服装は、モコモコ・ふわふわの水色のセーターに……テニスウェアのスコートのような極端に裾の短い、白のプリーツスカートとなっていました。色白な太股が大胆に露出しており、その付け根も少し角度を変えれば中が覗けそうになっています。
8: (ワッチョイ 9e10-5be0) 2024/01/06(土) 17:24:05 ID:ydcHHhyE00
「か、果林ちゃん、ぱ、ぱぱ、ぱぱぱぱぱ……!!」
「それ以上はいけません、エマさんっ!!」
喉から出掛かった『パ〇〇ラ』という俗語を、何とか姫乃に引っ込めてもらうエマ。
パ〇〇ラ。何らかのトラブルが原因で、スカートの中の下着(ショーツ)が外から見えてしまう状況のことですが、今の果林ですと普通に歩くだけでもスカートが捲れて中が見えてしまいそうです。
「中のことなら大丈夫よ。歩夢のアイディアで、下は水着を身に付けているの」
「か、果林ちゃん、捲っちゃダメっ!!」
「そ、それ以上は、あああっ!!」
スカートの裾を持って少し持ち上げようとする果林を、必死に制止するエマと姫乃。
……上原歩夢のステージ衣装は要所要所が大胆に露出しているものになっていますが、中はそういうことになっているから大きく動けるのか……とエマは納得してしまいます。
しかし先ほど少しだけ見えた白い物体は、傍目にはショーツにしか見えません。果林にこのスカートを提案したせつ菜としずく、そして短期留学先からわざわざ水着を提案した歩夢の『A・ZU・NA』三人組に対して、エマは思い切り叱り付けたい気分になってしまったのでした。
9: (ワッチョイ 9e10-5be0) 2024/01/06(土) 17:27:05 ID:ydcHHhyE00
それにしても……果林の下着姿は着替え等で何度も見ていますし、一緒にお風呂に入ることだって頻繁にあるのですが、今回の果林に対する背徳感は何と形容すれば良いのでしょうか。『パ〇〇ラ』というものに対する、フェチシズムとインパクトの強さを感じさせてくれます。
先日行ったライブの際、思い切った超ミニスカート衣装の中須かすみに対して、せつ菜としずくが激しく興奮していた(そして下から覗こうとして、かすみに超怒られていた)のも、何だか納得してしまいました。
「それじゃあ、行きましょうか。姫乃……で良いかしら?」
「は、はいっ! 姫乃で結構ですっ!」
「ふふっ、ありがとう。……じゃあエマ、お昼を食べるところまで案内をお願いね」
「う、ううう、うんっ! じゃあ行こうか、姫乃ちゃん、果林ちゃん!」
「は、はいっ! よろしくお願いしますっ!!」
こうしてエマは果林と姫乃の道案内を担当。そしてアクアシティにあるハンバーガー屋さんで、一緒にお昼を食べていたのですが……。
10: (ワッチョイ 9e10-5be0) 2024/01/06(土) 17:30:35 ID:ydcHHhyE00
,,(d!.•ヮ•..)ノ*
いやいや、違う違うっ!
本当はもっともっと前に、何らかの理由を付けて『後は二人の時間だよ~♪』と言って退散する予定だったのです。しかし、まんまと道案内と称してガイド役をやってしまい、さらにはお昼まで同席してしまっているのでした。
まあ果林の道案内ですと、ハンバーガー屋さんに辿り着けない可能性もありましたので、今回は結果オーライかもしれませんが……自分が道に迷いやすいことは姫乃に上手く隠しており、この辺りはさすが果林ちゃんだ……とエマは関心してしまいます。
自身の失態に(ハンバーガーを完食して、ドリンクを飲み干し、トレイを返却したところで)ようやく気付いたエマ。
アクアシティを出て、セントラル広場の遠景が見えてきたところで、早速作戦を決行します。
「じゃあ果林ちゃん、姫乃ちゃん、ここから先はどうぞ二人で……」
「まっ、まままま待ってくださいエマさんっ!!」
言葉の先を姫乃に(物理的に口を)塞がれてしまい、その勢いで二人はアクアシティの物陰まで移動してしまいました。
11: (ワッチョイ 9e10-5be0) 2024/01/06(土) 17:33:35 ID:ydcHHhyE00
「あの、お願いです、エマさんも一緒に来てもらえませんか? 果林さんと二人だけだと、会話が持ちそうにありませんっ……!」
「ええっ、でも姫乃ちゃん、私がいたら果林ちゃんとのデートにならないよ?」
「そっ、そんなことは……お、お願いです、私を見捨てないでくださいっ!!」
姫乃はそう言うと、エマの腕にギュッと強く抱き付きます。
そういえば先程のハンバーガー屋さんにおいて、姫乃と果林との直接の会話はほぼありません。このままエマが退散しても、二人の会話が続かなければデートが成功したとはいえないでしょう。
「それにあの果林さんを、私一人では守り切れませんっ!」
「あっ、それは……でも果林ちゃんのスカート、思ったより大丈夫じゃないかなぁ」
「そっ、そんなあっ……!」
寮からアクアシティまで、エマと姫乃は果林の周囲を人目からガードするように歩いていたのですが、プリーツスカートは洗濯のりで補強してあったのか、普通に歩く程度ではヒラヒラと捲れて中が露出するということはありませんでした。
しかし姫乃のウルウルとした涙目を見ていると、このまま彼女を置いて去ってしまうのはとても気の毒に思えてしまいます。
12: (ワッチョイ 9e10-5be0) 2024/01/06(土) 17:36:35 ID:ydcHHhyE00
「……わかったよ、姫乃ちゃん。姫乃ちゃんが二人きりでも大丈夫になったら、いつでも言ってね」
「ありがとうございますっ。……それでは、このまま果林さんを護衛しながら行きましょう!」
「お~っ!」
二人で拳を天に突き上げると、急いで無防備な(?)果林の元に小走りで戻りました。
「あら、二人で手なんか繋いじゃって。とても仲が良いのね」
姫乃の心情をよそに嬉しそうに笑う果林を見て、エマは少し腹立たしい気持ちを覚えてしまいます。
「……ねえ姫乃。良かったら、私とも一緒に腕を組んでくれないかしら?」
「へっ!? あ、はははは、はいっ、喜んでっ!!」
果林の唐突な提案に対して、素っ頓狂な悲鳴を上げる姫乃。
「エマも良かったら、私と腕を組んでほしいんだけれど……」
「ほえ!? わ、私は姫乃ちゃんの後でいいよっ!」
「そう? 両手に花、ってやってみたかったんだけど……じゃあ少し姫乃を借りるわね、エマ」
果林はそう言うと、姫乃の腕をギュッと抱き寄せ、自身の頭を姫乃の頭にグッと近付けます。
エマは邪魔にならないように二人の後ろに回りましたので、姫乃の顔は見えませんが……呼吸が荒く不安定になっているのだけは分かります。果たして彼女は大丈夫なのでしょうか。
13: (ワッチョイ 9e10-5be0) 2024/01/06(土) 17:39:35 ID:ydcHHhyE00
「じゃあ、少し歩きましょう、姫乃」
「は、はいぃ……!」
完全に声のトーンが跳ね上がっている姫乃。それでも何とか、二人は同じペースで歩き始めました。
朝香果林と綾小路姫乃。二人並んで歩いている姿はとても様になっており、道行く人が二人に注目して(果林のスカートが原因ではない、と思う)、皆が振り返ります。
姫乃の普段の装いは、まさに『大和撫子』といったお淑やかな印象で、とても果林にお似合いでした。……その一方でエマは、野暮ったい容姿の自分は彼女達と並んで歩くのにふさわしくないのでは……とも思ってしまいます。
「両手に花、かぁ……」
二人を美しい百合の花に例えたら、私は何だろう? 以前『A・ZU・NA』の三人組にはヒマワリと例えられたことがあったけれど、並んで咲いていると違和感が凄いなぁ。ユリ根(食用)の方が、まだ二人と合っているのかも……。
やはり姫乃のお願いを振り切って、二人きりにしてあげるべきだったのだろうかと、エマは姫乃に申し訳ないと感じてしまったのでした。
14: (ワッチョイ 9e10-5be0) 2024/01/06(土) 17:43:05 ID:ydcHHhyE00
,,(d!.•ヮ•..)ノ*
「あっ、あのう……藤黄学園の綾小路姫乃さんですか?」
セントラル広場のベンチが並んでいるところに到着すると、姫乃が通りがかりの少女達から声を掛けられました。中学生と思われる五人組の少女と、小学生と思われる小さな女の子の一人という組み合わせです。
「はっ、はい、そうですけれども……」
「姫乃、私は問題ないわよ。スクールアイドルはファンを大切にしないとね」
果林に気を遣って遠慮しようとする姫乃を制して、果林は優しい笑顔を返します。
「あっ、あのう、すみません、もしかしてニジガクの朝香果林さんですか!?」
「ええ、朝香果林よ。……う~ん、知名度ではまだまだ、綾小路さんには敵わないわね」
「そっ、そんなことはありませんっ!!」
果林に対して大声でフォローをする姫乃。その剣幕に驚いた女子中学生達は、大慌てて果林(と姫乃)に対して謝り倒します。彼女達はもちろん果林のことを知っている様子で、二人が一緒に並んで歩いている状況が想定外だったのが、果林への声掛けに遅れた原因だったようです。
15: (ワッチョイ 9e10-5be0) 2024/01/06(土) 17:46:05 ID:ydcHHhyE00
よし、私は気付かれていないな……。
エマは果林と姫乃、そして少女達に気付かれないように、離れたベンチの木陰に隠れようとしました。
「あっ、エマヴェルデちゃんだ~!」
しかし、五人が連れていた小さな女の子が、そんなエマを見つけて小走りで近寄ってきます。
「え、エマヴェルデちゃん!?」
「えっ、あれ? ……エマヴェルデちゃんじゃないの……?」
確かにエマの本名はエマ・ヴェルデですが、このように名前と名字を続けて呼ばれるのは初めての経験でした。
間違った名前で呼んでしまったのかと、女の子が不安そうな表情をしてしまいます。
「ううん、私はエマ、エマ・ヴェルデで合ってるよ~♪」
「わあい、良かった! エマヴェルデちゃん~!」
女の子は笑顔に戻ると、エマの腰にギュッと抱き付きました。
16: (ワッチョイ 9e10-5be0) 2024/01/06(土) 17:48:55 ID:ydcHHhyE00
「エマヴェルデ、エマとヴェルデで、エマヴェルデ……」
「五・七・五で、まるで俳句みたいね」
「果林さん、季語はありませんので、この場合は川柳かと」
「ああ、季語が無いのが川柳だったわね。ありがとう姫乃、勉強になったわ」
「いっ、いいえ! 出過ぎた真似をして申し訳ありませんっ……!!」
恐縮しすぎて、ペコンと頭を下げる姫乃。
季語というのは、俳句に必ずセットする必要がある、季節の言葉のことだったはず。確かに『エマヴェルデ』は季語ではありませんが、あえて例えるならヒマワリを連想させる『夏』になるのでしょうか。
そうやって季語についてアレコレ考えている間に、女の子のお姉さんと思われる子が、エマに抱き付いている女の子を引き離そうとしていました。
「ううん、全然問題ないよ~♪」
エマはお姉さんにそう答えると、抱き付いている女の子の頭を優しく撫でます。女の子はさらに喜んで、エマをさらに強く抱きしめたのでした。
17: (ワッチョイ 9e10-5be0) 2024/01/06(土) 17:52:05 ID:ydcHHhyE00
「エマヴェルデちゃん、一緒にお歌歌おっ!」
「えっ? う、うん、ええと……」
「フフっ、エマが良ければ私は問題ないけれど……姫乃はいいかしら?」
「はっ、はいっ! スクールアイドルはファンサービスが大事、ですよね。エマさん、一緒に歌ってあげてくださいっ」
唐突なお願いに困惑するエマに対して、果林は姫乃の了承を得てから一緒にベンチに腰掛けます。女の子のお姉さんもエマに頭を下げて、果林の側に移動。他の中学生の女の子達も同じようにベンチに腰掛けて、エマと女の子に注目しました。
「じゃあ……。
エマ・ヴェルデで『Evergreen』、一緒に歌いますっ!」
目を閉じて、スッと深呼吸。そして目を見開くと--------エマは伸びやかな声で『Evergreen』の歌詞を紡ぎ出しました。
女子中学生達は全員が両手を合わせて、エマの歌声を聴き入っている様子。
一緒に歌うと言っていた女の子も、ポカンと口を開けてエマの歌を聴いています。これでは合唱になりませんので、サビに入る手前でエマは彼女の背中を優しく撫でて、一緒に歌うように促しました。
18: (ワッチョイ 9e10-5be0) 2024/01/06(土) 17:55:05 ID:ydcHHhyE00
「~♪」
サビに入ったところで、女の子も大声で歌い始めます。若干音が外れていましたので、エマは音程を微調整して綺麗なハーモニーとなるようにしました。
女の子は嬉しそうに微笑み、さらに大きな声で歌い続けます。
セントラル広場における、エマと女の子の小さなステージ。
エマがふと気がつくと……果林は目を閉じて聴き入っており、姫乃はそんな果林を見て微笑みながら、少しだけ果林との距離を縮めるように座り直していました。
これはいい感じです。二人の物理的な距離が近づき、そして心の距離が近づくお手伝いができたと、エマは一緒に歌う女の子(と、姫乃に声を掛けた少女達)に感謝しながら、冬空に『Evergreen』の歌声を響かせたのでした。
19: (ワッチョイ 9e10-5be0) 2024/01/06(土) 17:58:05 ID:ydcHHhyE00
,,(d!.•ヮ•..)ノ*
しかし……。
女の子や女子中学生達と別れた後、残念ながらその後の二人の進展はまったく進まず(むしろ姫乃が自身の行動に驚き、真っ赤になって距離を空けてしまった感じ)、従ってエマも同行したまま『日本科学未来館』に到着してしまいました。
果林と姫乃を一緒のベンチに無理矢理座らせて、エマはその後ろのベンチに座りながら『ジオ・コスモス』の雲の流れを鑑賞しています。偶然にも人は少なく、この空間に居るのはエマ達三人だけの模様です。
「ふふっ、ここに来ると、何だか懐かしくなるわ」
「懐かしい、ですか?」
「ええ。……そうね、これは姫乃に聞いてもらった方が良いかしら」
果林はスッと立ち上がると、ジオ・コスモスの方へと歩み寄り……そしてジオ・コスモスを背にして、姫乃(と後ろのエマ)に優しく語り掛けます。
20: (ワッチョイ 9e10-5be0) 2024/01/06(土) 18:01:05 ID:ydcHHhyE00
「--------姫乃。
私はこのジオ・コスモスの前でエマに口説かれて、スクールアイドルになったのよ」
思いもしなかった果林の発言に、唖然とする姫乃とエマ。
それは昨年の初夏、スクールアイドルになることを躊躇していた果林に対して、エマが誘ったときのことの話でした。
「……自分のキャラじゃないと躊躇していた私に、エマは『私が笑顔でいられれば、それが一番だ』って言ってくれて……そして私は、ここでスクールアイドルになることができたの」
果林の告白に対して、姫乃は何も答えません。後ろに座っているエマは、彼女の表情と心情は一体どうなっているのかと不安になってしまいます。
姫乃にとって、今回は『果林との二人きりのデート』という前提で、エマは只の道案内役。それなのに、その案内役との二人きりでの出来事を話してしまうというのは、あまりにもデリカシーがなさ過ぎです。
この話は今、ここでするべきではないものでした。姫乃の心情を察して、エマは果林に激しい怒りの感情を覚えてしまいます。
21: (ワッチョイ 9e10-5be0) 2024/01/06(土) 18:03:55 ID:ydcHHhyE00
「かっ、果林ちゃんっ……!」
エマが抗議をしようと立ち上がった、その直後。
果林はスッと手をかざして、エマの動きを制します。彼女の真っ直ぐな瞳に刺されて、エマは動けなくなってしまいました。
「エマ。
……エマにも、聞いてもらいたいことがあるの」
手を下ろして、果林はエマの方を向きながら言葉を続けます。
「エマ、私はあの夏のダイバーフェスで姫乃に発破を掛けられて、あの大舞台で歌うことができたのよ」
それは果林が『VIVID WORLD』を初披露した、昨年のダイバーフェスの出来事でした。あのライブへの出場の提案は姫乃(と、東雲学院の近江遥)が持ってきたものでしたが、姫乃に発破を掛けられたというのは初めて聞く話です。
22: (ワッチョイ 9e10-5be0) 2024/01/06(土) 18:06:05 ID:ydcHHhyE00
「『ダイバーフェスにおいて、スクールアイドルはアウェーの存在。そこに一人で立ち向かう私を尊敬している』……と。今でも憶えているわ。その事実に対して一度は恐怖を感じたけれど、それでもエマやみんなの力をもらって、私はあのステージで歌うことができたのよ」
あのとき、果林は大舞台を前に酷く怯えて震えていました。エマ達全員で果林を励まして、そして彼女は力強く復活したのですが……姫乃との話は、恐らくその前にあったことなのでしょう。
「かっ、果林さん。あの、そこまで言っていただけるなんて……」
ようやく聞こえた姫乃の声は、大きくかすれて聞き取りづらいものでした。怒りの感情ではなく、喜びで声が震えている様子です。
果林は姫乃をベンチから立たせて、彼女の手を繋いだままもう一方の手をエマに差し出します。
エマがその手を取ると、果林は二人をジオ・コスモスの前に立たせました。
23: (ワッチョイ 9e10-5be0) 2024/01/06(土) 18:09:05 ID:ydcHHhyE00
そして。
果林は手を離すと、二人を両腕でギュッと抱きしめたのです。
「……エマ。姫乃。
私たち三人がこの地球(ジオ・コスモス)で出会える確率って、本当に、どのくらいの奇跡なのかしらね?」
二人の耳元で囁く果林の声には、とても強い愛情が籠もっているように感じます。
「あなたたち二人と出会えたから、私は……朝香果林は、スクールアイドルになることができたのよ。私をスクールアイドルにしてくれて、本当にありがとう」
果林はそうゆっくりと語ると--------二人の頬に、優しく口付けをしたのでした。
エマの頬に感じる、果林の柔らかい唇の感触。
それに気付いたエマは、頬が紅潮すると同時に……今までの自らが犯した過ちに気付きます。
24: (ワッチョイ 9e10-5be0) 2024/01/06(土) 18:12:05 ID:ydcHHhyE00
エマや姫乃とは違い、果林にとってこのデートは『ずっと三人での』ものだったのです。
先程の言葉は、きっとこの日のこの瞬間のために、大切に準備してきたものだったのでしょう。エマは自分の浅はかさを恥じると同時に、そこまでの言葉を彼女に掛けてもらえて幸せな気持ちになったのでした。
しかし。
この状況、もう一人には極めて刺激が強かった様子で……。
「……。
うっ、うぅ~ん……」
「ひ、姫乃!?」
「姫乃ちゃん、姫乃ちゃんっ!?」
前触れ無く体勢を崩した姫乃を、倒れないように何とか支えるエマと果林。
姫乃の体からは全身の力が抜け切ってしまっており、目はトロンと虚空を見つめていました。どうやら彼女は完全に、意識を失ってしまったようです……。
25: (ワッチョイ 9e10-5be0) 2024/01/06(土) 18:15:05 ID:ydcHHhyE00
,,(d!.•ヮ•..)ノ*
「……なるほど、そういう事情だったのね。エマにも姫乃にも、悪いことをしてしまったわ」
「う、ううん! 私が初めから『姫乃ちゃんと二人でデート』って言っていれば良かったんだよ。ゴメンね、果林ちゃん」
頭を下げようとするエマに対して、ゆっくりと首を横に振る果林。そしてフワリと優しく微笑むと、ジオ・コスモスのベンチで横になっている姫乃の頭を優しく撫でました。呼吸は整っており、このまま寝かせていても問題なさそうです。
……結局、今回のデートの魂胆について、エマは果林にすべてを白状しました。果林の先程の告白を聞いて、もう罪の意識に耐えられなくなってしまったのがその理由です。
「姫乃と二人きりのデートだったなら、このスカートはちょっと攻めすぎたわね。せつ菜やしずくちゃんには、『二人同時に魅了する服装』で相談していたのよ」
「二人同時に……そうだったんだ……」
「ええ。……それに、寮の前で待っていたときの二人がとてもお似合いだったから、ちょっと妬いちゃったりなんかして」
「ほえ!? そっ、そんなことないよぉ!」
私と姫乃ちゃんが、お似合い!?
思いも寄らない果林の発言に対して、エマは驚き戸惑ってしまいます。
26: (ワッチョイ 9e10-5be0) 2024/01/06(土) 18:17:55 ID:ydcHHhyE00
「そんなことあるわよ。うちの同好会の二年生って、歩夢も含めてみんな活発でしょう? 今までに無い組み合わせだし、あなた達って結構相性良いんじゃないかしら?」
「そっ、そうかなあ……。姫乃ちゃんを百合の花に例えたら、私はヒマワリだろうし……」
姫乃と果林が並んで歩いていたのを後ろから見ていたときに、そのような例えをしていたのを思い出すエマ。
「ヒマワリ? ……以前、歩夢達がエマをそういう風に例えてたわね。……ああ、ちょっと待って」
果林はふと思いつくと、スマートフォンを取り出して何かを検索している様子です。
「……ああ、やっぱり。
ねえ、エマ。ヒマワリの季語って何か分かる?」
「季語? ヒマワリの季語って、夏だよね……」
「正解っ。……じゃあ、百合の花の季語は何でしょう?」
「えっ……もっ、もしかして、夏……!!」
エマが答えると、果林はクスリと笑って答えました。
27: (ワッチョイ 9e10-5be0) 2024/01/06(土) 18:20:55 ID:ydcHHhyE00
「正解。ヒマワリと百合の花って、相性バッチリなのよ」
果林はそう言うと、自身のスマートフォンをエマに手渡します。画面には、百合の花とヒマワリのフラワーギフトの画像が表示されていました。清楚な百合の花とまん丸黄色なヒマワリの組み合わせは、エマの想像以上に爽やかで艶やかな印象を感じさせてくれます。
「そっかぁ、そうだったんだぁ。私、姫乃ちゃんと相性良かったんだ……」
果林の話題ですぐに意気投合したことや、デートの提案をしたときのことを思い出すエマ。そういえば今日の服装もピンクでお揃いですし、『果林を周囲の人目からガードする』といった姫乃との行動といい、確かに彼女とは不思議と『合う』ものがありそうです。
「エヘヘっ、これからもよろしくね、姫乃ちゃんっ♪」
そう言いながら、エマは姫乃の柔らかい頬をツンと突きます。
彼女の幸せそうな寝顔を見て、エマは姫乃のことをもっと知りたい、もっと仲良くなりたいと思ったのでした。
28: (ワッチョイ 9e10-5be0) 2024/01/06(土) 18:23:55 ID:ydcHHhyE00
,,(d!.•ヮ•..)ノ*
「もっ、申し訳ございません! お二人には、ご迷惑をおかけしてしまいました……」
意識を取り戻した姫乃が、エマと果林に対してペコペコと頭を下げます。彼女の顔は紅く染まっており、まだ若干のぼせている様子です。
「いいのよ、姫乃。
……ところで二人とも、これからの予定は空いてるかしら? もし良ければ、私の故郷の料理をご馳走したいのだけど……」
果林の提案に対して、エマは大喜び。彼女の故郷の料理といえば、やはり『島寿司』となるでしょう。醤油ダレに漬けたネタとちょっと甘めの寿司飯、そしてピリリとカラシが効いた島寿司は、まるで今のエマ達三人に例えられそうです。
「やったあ! ねえねえ、一緒に行こうよ、姫乃ちゃん! 姫乃ちゃん、今日は一日中空いてるって話だったよね?」
「えっ、ええっ? エマさん、それは……!」
姫乃が今日一日予定を空けていることは、事前に話を聞いて知っていました。エマは途中で離脱する約束を完全に反故にして、今日一日ずっと姫乃と一緒にいたいと思ったのです。
29: (ワッチョイ 9e10-5be0) 2024/01/06(土) 18:26:55 ID:ydcHHhyE00
「お店は『ゆりかもめ』でレインボーブリッジを渡った先だったよね? 早速行こっ、姫乃ちゃん!」
「ふぇ、ちょ、ええええエマさんっ!?」
エマはそう言うと、姫乃の腕にギュッと強く抱き付きました。姫乃の身体はとても柔らかく、艶やかな髪からはシャンプーの甘い香りがします。
「あらエマ、今日は三人でのデートでしょう? エマの独り占めにはさせないわよ!」
「あぅ、かっ、果林さんもっ!?」
そして果林も、姫乃の反対側の腕にギュッと抱き付きます。
これで姫乃は完全に拘束され、逃げることはできなくなりました。もちろん、逃がしてあげるつもりはまったくありません。
30: (ワッチョイ 9e10-5be0) 2024/01/06(土) 18:29:55 ID:ydcHHhyE00
「あ、あうぅ……あの、すみません。私、また気絶しそうなんですが……」
「そのときはお店まで、二人で姫乃ちゃんを運んであげるねっ」
「だっ、大丈夫ですぅ、一人で歩けますぅ……!」
「そんな生まれたての子鹿みたいな、内股歩きじゃ無理よ。……じゃあエマ、お店まで道案内をお願いね」
「うん! じゃあ行こうか、姫乃ちゃん、果林ちゃん!」
「ふっ、ふえぇ~!!」
両側から姫乃の腕をガッチリと組んだ状態で、エマは果林と一緒に『日本科学未来館』の出口へ向かいます。
ここからの三人でのデートはどうなることになるのか、まったく予想が付きません。それでも、今日は絶対に楽しい一日になりそうだと、エマはとても幸せな気持ちになったのでした。
,,(d!.•ヮ•..)ノ【完】
31: (ワッチョイ 9e10-5be0) 2024/01/06(土) 18:35:55 ID:ydcHHhyE00
【あとがきに代えて、今回のお話を四行で】
姫乃「ひーめひめひめ、さっさとスイスに帰ぇれ!」
エマ「うん! じゃあ姫乃ちゃんも一緒に行こうねっ♪」
果林「二人ともお待たせ~、早速三人でスイスに出発よ!」
姫乃「えっ……『第八アルヴィス、八丈島』……!?」
【過去に投稿した作品】
お好み焼き愛ちゃん
https://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/anime/11177/1701964527/
,,(d!.•ヮ•..)ノ*
SSは以上となります。
最後までお読みくださいまして、誠にありがとうございました。
姫乃「ひーめひめひめ、さっさとスイスに帰ぇれ!」
エマ「うん! じゃあ姫乃ちゃんも一緒に行こうねっ♪」
果林「二人ともお待たせ~、早速三人でスイスに出発よ!」
姫乃「えっ……『第八アルヴィス、八丈島』……!?」
【過去に投稿した作品】
お好み焼き愛ちゃん
https://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/anime/11177/1701964527/
,,(d!.•ヮ•..)ノ*
SSは以上となります。
最後までお読みくださいまして、誠にありがとうございました。
32: (ワッチョイ 8db6-330f) 2024/01/06(土) 19:24:38 ID:CiLSFdGs00
かわいくてよかった
33: (ワッチョイ 6232-2d11) 2024/01/06(土) 19:45:46 ID:B5.Pr88g00
にほハチ水いいぞー
34: (ワッチョイ 8ded-1986) 2024/01/06(土) 21:00:06 ID:6JHN82ak00
姫乃好きだからこういうSSは非常に助かる
35: (スプー 5939-2d11) 2024/01/06(土) 21:04:05 ID:ToQaSuYUSd
エマさんかわいい
36: (ワッチョイ df9f-6420) 2024/01/06(土) 21:31:57 ID:UKNQeySk00
日本の宝かこのSSはーっ!
引用元: https://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/anime/11177/1704528020/