【SS】かのん「今日から虹ヶ咲学園1年生かぁ・・・」【ラブライブ!スーパースター!!】

SS


1:(しまむら) 2022/03/21(月) 22:17:35.05 ID:lhdE8iaN
◆◆◆

4月、桜の季節。
慣れない制服に身を包んだ私は、
目の前にある少し(かなり?)特徴的な校舎を前にして一人つぶやく。

その特徴的な学校こそが「虹ヶ咲学園」。
これから3年間私が通うことになる学校だ。
 
3:(しまむら) 2022/03/21(月) 22:19:44.20 ID:lhdE8iaN
周りを見渡すと、きっと私と同じ新入生であろう人たちの姿が伺えた。
友達と一緒にはしゃいで写真を撮る人。
手元の案内を見ながら緊張気味に歩く人。
それぞれ胸に抱えた期待と不安が見て取れる。

一方の私はというと、そのどちらでもない感情。
……うーん、なんて言ったらいいんだろう。
「後悔」……違うかな。「諦め」……近そう。

少なくともあまりキラキラしたものではなく、
薄どんよりとしたモヤがかかっている様な心持ちかも。

そんなおよそピカピカの新入生らしくない気持ちにはワケがある。
 
7:(しまむら) 2022/03/21(月) 22:22:23.73 ID:lhdE8iaN
今から何か月か前。
私は地元の高校、結ヶ丘女子高等学校の音楽科を受験して
物の見事に落っこちている。

落ちた原因は自分でもわかりきっていて、「歌えなかったから」。
歌の実技試験で、一言も声を出すことなく目の前がブラックアウト。
意識が落ちて、受験にも落ちたわけで。

他の音楽科を受けた友達はみんな合格してる中、
私だけが不合格だった。

音楽科ではなく普通科に進学する道も残されていたけど、
どうにもいたたまれなくて、誰も知り合いのいない所に行きたくて、
そこで受験し合格したのがこの虹ヶ咲学園となる。

まぁ、そんな感じで
あんまり積極的な理由でここにいるわけではないのだ。
 
8:(しまむら) 2022/03/21(月) 22:25:53.58 ID:lhdE8iaN
◆◆◆

入学式が終わり、私を含めて新入生は自分のクラスの席につく。
式の間、私は何かを考えていたのか、
はたまた何も考えていなかったのか、
とにかく話は一つも入ってきていなかった。
(ただ、生徒会長はメガネの似合う美人だった気もする)

普通科1年。
ここがこれから1年間お世話になる私の教室。

虹ヶ咲学園は「自由な校風・専攻の多様さ」を売りにしていて
普通科以外にも多くの学科が存在する。
「音楽科」も当然あるけど、私は受験しなかった。

音楽をするのは中学まで。
高校生の私は歌の歌えない普通の女の子。
普通科に入って、普通に勉強して。
普通に友達もできるといいな。
 
11:(しまむら) 2022/03/21(月) 22:28:18.11 ID:lhdE8iaN
かのん「外苑西中学から来ました、澁谷かのんです。
    夢は、猫を飼うことでーす……」

パチパチとそこそこの拍手。
自分でもつまらないこと言ったと思う。

私の無難を極めた自己紹介は簡単に流され、
次々とクラスメイトが自分をPRしていく中、
ひときわ目立った自己紹介が。

「みなさんこんにちは!中須かすみでぇーっす!
 気軽に『かすみん』って呼んでね!」
 
13:(しまむら) 2022/03/21(月) 22:31:05.96 ID:lhdE8iaN
かすみ「かすみんは好きなものは、かわいいものと、スクールアイドルです!
    部活もスクールアイドル部に入るつもりだから、
    興味ある人は話しかけてくださいっ!」

ノリの良い自己紹介にひときわ大きな拍手。
このショートカットの女の子、中須かすみちゃんはどうやら
人を惹きつける魅力がある娘みたい。

でもスクールアイドル、か。
なんだろう、それ?
 
14:(しまむら) 2022/03/21(月) 22:34:11.57 ID:lhdE8iaN
◆◆◆

『スクールアイドル?
 ……あぁ、それならこっちでも勧誘してる子がいたなぁ』

入学式の夜。
電話の相手は幼馴染の嵐千砂都ちゃん、ちぃちゃんだ。
ちぃちゃんは結ヶ丘の音楽科に合格し、そっちに通っている。

かのん「そうなの?もしかして流行ってるのかな?」

千砂都『そうかもしれないね。
    その子、どうも上海からの留学生みたいだから、
    海外でも人気があったりするのかも』

かのん「ふーん、そうなんだ」
 
17:(しまむら) 2022/03/21(月) 22:37:25.65 ID:lhdE8iaN
千砂都『……かのんちゃんは始めたりしないの?』

ブホッ。
口に入れたカフェオレを吹き出す。

かのん「スクールアイドルを!?ムリムリムリムリ!!」

千砂都『あ、いや、違くて!音楽!!
    歌とか、楽器とかさ!部活の話!』

な、なんだ。そっちね。
 
19:(しまむら) 2022/03/21(月) 22:40:16.26 ID:lhdE8iaN
かのん「……始めないかな」

千砂都『……どうして?やっぱり、受験の時のこと……』

かのん「ううん、そういうんじゃないよ。でも、今はいいかなって」

千砂都『……そっか』

受験に落ちた事、気にしてないと言ったら嘘になる。
でも私が歌えなかったのは受験の時だけじゃなく、
ずっとだったんだ。
 
21:(しまむら) 2022/03/21(月) 22:43:10.70 ID:lhdE8iaN
小学生の時の合唱コンクールでも、いつもそうだった。
普段一人でならいくらでも歌えるのに、
人前に立つと急に頭が真っ白になって歌えなくなってしまう。

最近はもう、私はそういう星の下に
生まれたんだろうなと思うようになってしまった。

私を照らす星は、ちょっと薄暗い普通星。

燦然と輝くスーパースターなんかじゃないんだって。
 
23:(しまむら) 2022/03/21(月) 22:46:10.05 ID:lhdE8iaN
◆◆◆

4月も終盤、
クラスのみんなともだいぶ打ち解けてきた頃。

私の高校生活はというと、可もなく不可もなく。
勉強もそこそこ、友達もそこそこ。
部活動に入ることもなく、
放課後は遊び歩くか、お店の手伝いか。
(ちなみに私の家は喫茶店をやっています)

思ったよりも私はのん気な性格だったようで、
入学して数日はかなりブルーな気持ちだったけど
今はすっかり環境に馴染み、のほほんと日々を過ごしている。
 
24:(しまむら) 2022/03/21(月) 22:49:17.13 ID:lhdE8iaN
最近驚いたことといったら、
ちぃちゃんがスクールアイドルを始めたらしい。
いや、厳密にいえば違うか。

例の留学生がスクールアイドル部を立ち上げようとするも、
人数が集まらず部はおろか、同好会としても成立せず。
ちぃちゃんはその娘と一緒に部の勧誘や、
体力づくりのお手伝いなんかをしてるんだって。

スクールアイドルといえば、
同じクラスのかすみちゃんはどんな活動をしてるのかな。
自己紹介の時のあの情熱だ。
今もきっとどこかでがんばっているんだろう。
 
26:(しまむら) 2022/03/21(月) 22:52:22.73 ID:lhdE8iaN
その日の放課後は特に用事もなく一人でお台場の街を散策していた。
学校までの道は慣れたものだけど、この街はまだまだ謎だらけ。
行ったことのない店も、食べたことのない食べ物もいっぱい。


すると、野外のスペースにチラホラと人が集まっているのが見えた。
女の子の学生が多いみたい。

なんだろうと気になり、立て看板を見てみると
今からここで開催されるらしいライブの告知が書かれていた。

「虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 1stライブ会場」

へぇ、スクールアイドル。
スクールアイドルって学校以外でも活動するものなんだ。

いやそれより、ににに虹ヶ咲学園!?
ウチの学校だ!?
 
28:(しまむら) 2022/03/21(月) 22:55:20.03 ID:lhdE8iaN
思わず走り寄り、出演者の顔写真を見る。
センターには黒髪の美少女。
その他4人の女の子が映っていて、その中の一人はかすみちゃんだ。

よくよく読んでみると、
ライブを見るのに特にチケットなどはいらないみたい。
ここで待っていれば、かすみちゃんのライブが見られるということだ。

かすみちゃんとは同じクラスではあるものの、深い接点は今のところない。
(もちろん雑談なんかはするけどね)
これをきっかけにかすみちゃんと話す事も増えるかもしれないし、
せっかくだから見ていこうかな。
 
29:(しまむら) 2022/03/21(月) 22:58:09.91 ID:lhdE8iaN
待っていると看板でセンターを飾っていた黒髪美少女が登場する。

周りのファンとおぼしき集団から歓声があがるも、
黒髪美少女は応えることもなく、
うつむきがちのまま位置についた。

スクールアイドルについて詳しくないけど、
アイドルというからにはなんというか……
愛想なんかをもっと振りまくものと思っていた。
まぁ、それについては彼女がそういう路線という事もあるのかもしれない。

それより他の4人は、
かすみちゃんはどうしたんだろう?
 
31:(しまむら) 2022/03/21(月) 23:01:14.48 ID:lhdE8iaN
「走り出した! 思いは強くするよ
 悩んだら君の手を握ろう―――」

戸惑う私の前で、黒髪美少女が歌い始める。
その瞬間、私の思考は一瞬で霧散し、
意識はステージ上の彼女に釘付けとなった。

歌いだしのアカペラの後、
エレキギターの音がスピーカーから響いてくる。
曲調はロック。
激しい重低音と、歌う彼女の繊細かつ力強い声に
私はまばたきも忘れて見入ってしまった。
 
33:(しまむら) 2022/03/21(月) 23:04:14.25 ID:lhdE8iaN
ステージからは火柱があがり、
物理的にも「熱い」ステージなのだが、
それ以上に彼女の紡ぐ歌詞から伝わってくる熱さが
炎の幻覚を私に見せる。

「なりたい自分を我慢しないでいいよ
 夢はいつか ほら輝きだすんだ!」

その言葉は私に言っているようで、
彼女自身にも言っているようで。
 
34:(しまむら) 2022/03/21(月) 23:07:21.15 ID:lhdE8iaN
「……ありがとうございました」

結局ライブはその1曲で終わり、
彼女はさっきまでの熱い姿はどこへやら、
静かにぽつりとお礼を言うと裏へ去ってしまった。

私はというとしばらくその場に立ち尽くしていた。
あまりにもぶつけられた感情が大きくて、重くて。

かのん「スクールアイドルってどんなものなのかな……」


沈みきっていた私の心に、
小さな火がついた気がした。
 
71:(しまむら) 2022/03/22(火) 21:49:52.29 ID:xNuJ9cBT
◆◆◆

黒髪美少女のライブを目撃した日の夜。
私はスクールアイドルについてネットで調べてみた。

私の高校のスクールアイドル同好会に所属している黒髪美少女、
もとい「優木せつ菜」はどうやら界隈でも人気の有名人らしい。

今日のライブは同好会の活動として初の
お披露目ライブだったみたいで、
ネット上ではその感想で賑わっていた。
 
72:(しまむら) 2022/03/22(火) 21:52:06.23 ID:xNuJ9cBT
もちろんライブ自体の感想もあったが、
「同好会5人のお披露目ライブだったはずなのに、
何故優木せつ菜が1曲だけ歌って終わりだったのか」
という疑問の声も多数あった。

それは私も気になるところ。
調べてみても明確な答えはないようだった。

だけど私にはそれを知る良い方法がある。
出演予定だった本人、
つまりかすみちゃんに直接聞けばいいのだ。
 
73:(しまむら) 2022/03/22(火) 21:55:10.56 ID:xNuJ9cBT
かのん「おはよう、かすみちゃん」

かすみ「あ、おはよー!かの子~!」

翌日、かすみちゃんに接触を図る。

……あ、「かの子」というのは私のあだ名みたい。
なんでも「お友達にはあだ名をつけて呼ぶ」ことがモットーなのだとか。
 
74:(しまむら) 2022/03/22(火) 21:58:10.73 ID:xNuJ9cBT
かのん「あのさ、スクールアイドル同好会の事なんだけd

かすみ「スクールアイドルに興味あるのぉ!!!!?」ガシッ

うおっ、圧が。圧が強い。

かすみ「も~知らなかったよ、かの子がスクールアイドルに興味あるなんて~!
    かすみんが何でも教えてあげるから、なんっでも聞いてね!
    あっ、ていうか同好会入っちゃう?今なら絶賛募集中なんだけどぉ」

かのん「待って待って待って!そーじゃなくてぇ~!!」
 
75:(しまむら) 2022/03/22(火) 22:01:26.76 ID:xNuJ9cBT
かのん「あのね、昨日お台場で優木せつ菜さんのライブを見たの」

かすみ「……は?」

かのん「ニジガクの同好会のお披露目ライブって書いてあって、私気になって……
 あっ、ライブはすごくよかったよ!
 でも、かすみちゃんたちはなんでいなかったのかなーって……」

かすみ「……かすみん、知らない」

かのん「え?」
 
76:(しまむら) 2022/03/22(火) 22:04:34.40 ID:xNuJ9cBT
かすみ「ライブ、中止にするって言ってたから。そんなの聞いてない」

かのん「えっと……」

かすみ「……ごめん、かの子。ちょっと用事できちゃったから」ダッ

かのん「かすみちゃん!?」

そう告げると、かすみちゃんは教室から出て行ってしまった。
結局その日、かすみちゃんと話をすることはできなかった。
 
77:(しまむら) 2022/03/22(火) 22:07:25.13 ID:xNuJ9cBT
◆◆◆

その日の放課後、
私の足は部室棟へ向かっていた。

虹ヶ咲学園は部活動に力を入れていて、
活動している部と同好会の数はとんでもなく多い。
当然、それに比例して部室の数も。

その中でもスクールアイドル同好会の部室は
かなり端っこのひっそりとした所にあった。

かのん「……ここで合ってる、よね?」

プレートがかかっているので間違いない。
でも中から人の気配はせず、鍵もかかっているようだった。

もしかしたら他の部員の方に話が聞けるかも、と思ったけど
どうやら無駄足だったみたい。
 
78:(しまむら) 2022/03/22(火) 22:10:31.88 ID:xNuJ9cBT
「あの!もしかしてスクールアイドル同好会の人ですか!?」

突然後ろから声をかけられる。
声をかけてきたのは、黒いツインテールで目をキラキラさせた人。
リボンを見るからに2年生の先輩のようだ。

「もう、侑ちゃん!いきなり後ろから大きな声出したら驚かせちゃうでしょ!
 ……ごめんね、びっくりさせちゃったよね?」

それともう1人。
赤みがかったふわふわの髪をお団子にしてる、優しそうな雰囲気の人。
こちらも同じく2年生みたい。
 
79:(しまむら) 2022/03/22(火) 22:13:17.02 ID:xNuJ9cBT
かのん「あ、いえ、大丈夫です」

ツインテ先輩「ね、ね!あなたもスクールアイドルなの!?
 昨日のライブの出演者にはいなかったみたいだけど……
 あ!そのリボン、1年生だね!もしかして期待の新星!みたいな!?」

かのん「え、えぇ~っと…」

い、勢いがすごくて圧倒されてしまう。
かすみちゃんといい、この人といい、スクールアイドル好きはみんなこうなんだろうか。
 
80:(しまむら) 2022/03/22(火) 22:16:34.59 ID:xNuJ9cBT
「その方は同好会の部員ではありませんよ」

話しかけてきた2人の先輩の向こうから、さらに別の人が話しかけてくる。
(なんかむちゃくちゃここに人集まってきてるなぁ……)
メガネをかけていて、長い黒髪を三つ編みにした人。
……どこかで会ったような?

黒髪さん「そちらは普通科1年の澁谷かのんさん。
 部活動には特に所属していらっしゃいません」

え!?私のこと、知ってるの!?

黒髪さん「それで、この部室に何か御用ですか?澁谷かのんさん。
 そして普通科2年の高咲侑さん、同じく上原歩夢さん」

ツインテ先輩「え!?私たちのこと、知ってるの!?」

あ、同じこと思ってた。
というか、この人たちも知り合いじゃなかったんだ。
 
81:(しまむら) 2022/03/22(火) 22:19:18.99 ID:xNuJ9cBT
黒髪さん「生徒会長たる者、生徒全ての顔と名前を覚えているのは当然のことです」キリッ

入学式のおぼろげな記憶を辿ってみる。
そっか、見覚えがあったのは入学式の挨拶で見ていたからだ。
……生徒会長って全員の顔と名前覚えてるものなの?

ツインテ先輩「あの、私たち優木せつ菜さんと話がしたくて…」

ツインテ先輩の目的は私と同じだったんだ。

会長「……優木せつ菜さんはスクールアイドルをやめたそうです」

ツインテ先輩「え?」
 
82:(しまむら) 2022/03/22(火) 22:22:15.64 ID:xNuJ9cBT
会長「そしてこのスクールアイドル同好会は……本日をもって廃部となります」

「「えええーーーー!?」」

私とツインテ先輩が見事にハモる。

それにしても、どういう事だろう。
優木せつ菜さんがやめる?同好会は廃部?
突然のことに頭がグルグルと混乱しだす。
 
83:(しまむら) 2022/03/22(火) 22:25:24.14 ID:xNuJ9cBT
◆◆◆

歩夢「そうなんだ…。じゃあかのんちゃんも昨日のライブを見て……」

お団子先輩、もとい歩夢さんが肩を落としながら話す。

かのん「はい。それでちょっと、
 ウチの学校のスクールアイドル同好会ってどんな所なんだろうって思って」

侑「だよねだよね!!昨日のライブすごかったもんね!!
 最っっ高にトキメいちゃったよね!!」ルンルン

かのん「は、はぁ」

ツインテ先輩、もとい侑さんは対照的にテンション高めに手を握ってくる。
こ、この人距離近いな……。

侑「私も歩夢も、昨日のライブですっかりスクールアイドルにハマっちゃってさ!
 今日はせつ菜ちゃんと会って話がしたいって思って来たんだけどさ」

歩夢「わ、私はまだハマったってほどじゃ……」
 
84:(しまむら) 2022/03/22(火) 22:28:29.30 ID:xNuJ9cBT
侑「私さ、今まで自分が本当にやりたい事、みたいなのなくてね。
 何かを全力でやってみたいーとは思うんだけど、
 なかなか何がしたいか見つからなくて」

侑「でも昨日のライブを見た時、ビビッと来た感じがしたんだ。
 それで夢を追いかける人を全力で応援できたら、
 って思ったんだけどな……」

侑さんはスクールアイドル自体をやりたいわけではなく、
それを近くで応援する事がしたい、ということらしい。
 
85:(しまむら) 2022/03/22(火) 22:31:14.15 ID:xNuJ9cBT
侑「かのんちゃんはどうなの?スクールアイドル、やりたいって思ってたり?」

かのん「私は……」

そういえば、私はなんでスクールアイドルの事を知ろうと思ったんだろう。
かすみちゃんの事も気になってはいたけど、それだけじゃない。
あのライブで私が感じたものは、なんだったんだろう。

侑さんのように応援がしたいと思った?
うーん、違うかも。
じゃあ自分がスクールアイドルになりたいと思った?
いやそんなまさか。
 
87:(しまむら) 2022/03/22(火) 22:34:32.28 ID:xNuJ9cBT
歩夢「侑ちゃん、大変!もうこんな時間!」

侑「あっ、ホントだ!いつの間に真っ暗!
 ごめん、かのんちゃん!今日はここで!
 話せて楽しかったよ!」タタッ

思ったより話し込んでしまっていたらしい。
急いで去っていく先輩たちを見送った後、私もそそくさと家路に着く。

もうそろそろ5月だけど、夜の風はまだ少し冷たい。
長い時間じっとしていたため、すっかり体は冷えてしまっていたけど、
心は何かもどかしく、かっかと発熱しているような気分だった。
 
88:(しまむら) 2022/03/22(火) 22:37:46.30 ID:xNuJ9cBT
家の自室に入ると、部屋の隅に置かれたアコースティックギターが目に入った。
中学以来触っていないそれに自然と手が伸びて、やっぱりやめる。

私は今、何をしようとしてたんだろう。
侑さんの熱気に充てられて、少し浮かれてるのかもしれない。
今日はそのまま眠る事にした。


この時、歩夢さんが夢への一歩を踏み出していた事を
家で悶々とした気持ちを抱えていた私には気付けるはずもなくて。
 
109:>>1(しまむら) 2022/03/23(水) 21:50:24.90 ID:/he7IveM
再開します。
 
110:(しまむら) 2022/03/23(水) 21:52:06.18 ID:/he7IveM
◆◆◆

それから休みを挟んで数日後。

かすみ「かの子!ちょっと来てっ!」グイッ

かのん「か、かすみちゃん!?どうしt……うわぁぁあっ!?」

突然声をかけてきたかすみちゃんに引っ掴まれて、
有無を言わせずどこかへ連れていかれる。
なになになに!?
 
111:(しまむら) 2022/03/23(水) 21:55:07.58 ID:/he7IveM
拉致された先は中庭の一角にあるスペース。
そこには何故か侑さんと歩夢さんもいた。

ベンチに置かれた通学鞄の上には、ちょこんとプレートが乗っておりよく見ると「スクールアイドル同好会」とかわいい文字で書かれている。
みんな何やらにこにこしている。い、いったい何だろう。

「「「かのんちゃん(かの子)!スクールアイドル同好会へようこそ!」」」


…………え???
 
112:(しまむら) 2022/03/23(水) 21:58:18.15 ID:/he7IveM
かのん「えっと、どういうこと?」

状況がまったく把握できない。

かすみ「かすみんたち、新しくスクールアイドル同好会を
 立ち上げることにしたんだ!
 前の同好会はせつ菜先輩が抜けちゃって、
 悪の生徒会長によって部室まで没収されちゃったからね。
 部長はかすみんだよ!」

かすみ「で、メンバーを探してたら侑先輩と歩夢先輩に会って、
 同好会に入ってくれることになったんだ!」

かのん「えっ、先輩たちもスクールアイドルやるんですか!?」

侑「うん。歩夢がね、一緒にやろうって言ってくれたんだ!
 あ、ちなみに私はステージに立つんじゃなくて裏方担当だけどね」

かのん「歩夢さんがスクールアイドル……」

ちょっと意外。
この前話した時はそこまで乗り気には見えなかったから。
 
113:(しまむら) 2022/03/23(水) 22:01:15.78 ID:/he7IveM
かすみ「それで話していたら、先輩方もかの子と知り合いだって言うじゃないですか!」

かすみ「この前話した時もスクールアイドルについて興味があるって言ってたし、一緒にやれればいいなって!」

かのん「(言ったっけ?)えぇ……で、でも……」

かすみ「そうだ!同好会を始めるには部活の申請を出さなきゃだった!行きましょう、侑先輩!」ダッ

侑「うん!」ダッ

かのん「えっ、ちょっ、私やるなんて言ってない……」
 
114:(しまむら) 2022/03/23(水) 22:04:05.79 ID:/he7IveM
私の返事を待つ暇もなく、校舎の方へ走り去る侑さんとかすみちゃん。
歩夢さんと2人、残されることとなった。

歩夢「ご、ごめんね、かのんちゃん。今ちょっと侑ちゃん、興奮状態で……」

かのん「そ、そうみたいですね……」

「「…………」」

き、気まずい。何か話した方がいいかな。
 
115:(しまむら) 2022/03/23(水) 22:07:16.96 ID:/he7IveM
かのん「……歩夢さんは、どうしてスクールアイドルをやろうと思ったんですか?」

歩夢「え?」

かのん「あ、その、この前話した時はそこまで乗り気じゃないみたいだったので」

歩夢「そうだなぁ…」

急な質問に、少し考える素振りを見せる歩夢さん。
 
116:(しまむら) 2022/03/23(水) 22:10:08.69 ID:/he7IveM
歩夢「やっぱりあの子に……侑ちゃんに私を見てほしかったからかな?」

かのん「侑さんに?」

歩夢「うん。侑ちゃんはね、私の幼馴染で、とっても大切なお友達なんだ」

歩夢「侑ちゃんは昔から楽しい事、面白い事を見つけてはたくさん私に見せてくれた」

歩夢「そんな侑ちゃんが見つけた新しいトキメキが、せつ菜さんのライブで、スクールアイドルなの」

歩夢「でも結局せつ菜さんはスクールアイドルをやめちゃってて、同好会も廃部になって……」

歩夢「せっかく見つけたトキメキは、侑ちゃんがやりたいと思った事は叶わなくなっちゃった」

歩夢「だから、今回は私が侑ちゃんにとってのトキメキになれたらいいなって」

歩夢「私がスクールアイドルとして活動する事で、それが叶うならやってみようって思ったんだ」
 
117:(しまむら) 2022/03/23(水) 22:13:08.89 ID:/he7IveM
かのん「じゃあ、歩夢さんは侑さんのためにスクールアイドルを?」

歩夢「う、うん。あ、もちろん私もせつ菜さんのライブを見てやってみたいって思ったんだけどね?」アセアセ

歩夢「ちょっと、動機が不純かな……?」

かのん「そ、そんなことないです!素敵な理由だと思います!」

歩夢「ふふっ、ありがとう」

かのん「すみません、変な事聞いちゃって……」
 
118:(しまむら) 2022/03/23(水) 22:16:20.08 ID:/he7IveM
歩夢「かのんちゃんもさ、本当に無理っていうなら断ってもいいと思う」

歩夢「でも、ちょっとでもやりたいって気持ちがあるのなら、考えてみてほしいな」

かのん「……はい」

ちょうどその時帰ってきた侑さんとかすみちゃんによって、私と歩夢さんの話は終わった。


(ちなみに部活の申請は人数が足りないこと、そもそも申請用紙を持ってきてないということで生徒会長にバッサリ否認されてしまったとの事)
 
119:(しまむら) 2022/03/23(水) 22:19:36.53 ID:/he7IveM
◆◆◆

その日、私は歩夢さんの話していたことを思い出していた。
歩夢さんは幼馴染の侑さんにスクールアイドルとなった自分の姿を見てほしいと思ったことが動機と言っていた。

幼馴染。
私にも幼馴染がいる。ちぃちゃんだ。

ちぃちゃんと知り合うきっかけになったのは小学校より前のこと。
その頃は気が弱く、自分の気持ちをなかなか言い出せなかったちぃちゃん。
そんなちぃちゃんが公園で別の子にちょっかいを出されていた時、私は思わず割って入った。
以降、私とちぃちゃんは友達になったのだ。
 
121:(しまむら) 2022/03/23(水) 22:22:24.65 ID:/he7IveM
その後、ちぃちゃんはダンスを始めた。
今では大会にも出て結果を残すようになり、昔の弱かったちぃちゃんはもういない。

結ヶ丘の音楽科にもダンスで推薦を取り、無事合格も果たした。
当時から人前で歌えないコンプレックスを持ち続けている私とは大違いだ。

だけど、私が音楽科に落ちて、虹ヶ咲の普通科に入学すると知った時、一番残念そうにしていたのはちぃちゃんだった。
ちぃちゃんは、今でもダメダメな私をどういう目で見ていたんだろう。
 
122:(しまむら) 2022/03/23(水) 22:25:20.60 ID:/he7IveM
かのん「もしもし、ちぃちゃん?今、大丈夫?」

気づけば私はちぃちゃんに電話していた。
割と頻繁に連絡を取ってはいたけど、今日はちょっと緊張しながら。

千砂都『大丈夫だよ。どしたの?』

かのん「あー……なんというか、うーん、どう言ったらいいのかな」

千砂都『???』

いつも他愛無い話しかしていないだけに、真面目な話をするのが少し恥ずかしい。

かのん「私さ、結ヶ丘の音楽科に落ちて、音楽はこれっきり、って話をしたじゃない?」

千砂都『……うん。したね』

かのん「その時、ちぃちゃんは私の事、どう思った?」
 
123:(しまむら) 2022/03/23(水) 22:28:27.32 ID:/he7IveM
千砂都『……ショックだったよ。私が知っているかのんちゃんは、いつも楽しそうに歌を歌ってたから」

かのん「そっか……」

まぁ、予想はしていたけどいざ言葉で聞くと心にズシリと重く響く。
ショックということはつまり、

かのん「そうだよね……。私の事、幻滅したよね……」

千砂都『っ!!違うよ!!私がショックだったのはそういう事じゃなくて!!』

かのん「え?」
 
124:(しまむら) 2022/03/23(水) 22:31:18.39 ID:/he7IveM
千砂都『私、小さい時からかのんちゃんに助けられてばっかりで……』

千砂都『いじめっ子からかばってもらったり、一人で遊びがちだった私を連れ出して、いろんなものを見せてくれたり……』

千砂都『だから私は頑張って、その恩に少しでも報いようと、かのんちゃんにできない事をできる自分になろうって思って、ダンスも始めて……』

千砂都『でも、かのんちゃんが挫折して本当に苦しんでいた時、なんにもしてあげられなかった……』

千砂都『私、ちょっとは成長したつもりでいたけど、結局昔の弱い自分のままだって気づいて』


千砂都『それが凄く、ショックだったんだよ……!』

かのん「……ちぃちゃん」
 
125:(しまむら) 2022/03/23(水) 22:34:18.08 ID:/he7IveM
そうだったんだ。

音楽科に落ちた時、私は自分の事しか考えていなかった。
勝手に自分の価値を貶めて、楽な道へと逃げてしまった。

そばでずっと見ていてくれる人がいたのに。
ずっと私のことを考えてくれる人がいたのに。
 
126:(しまむら) 2022/03/23(水) 22:37:13.54 ID:/he7IveM
かのん「ごめん、ごめんねちぃちゃん」

かのん「でも私、ちぃちゃんが思うほど強い人じゃないよ」

千砂都『そんな事ない。かのんちゃんは必ず歌えるようになるよ!だって、あんなに歌が、音楽が大好きなんだもん!』

かのん「………そっか」

かのん「じゃあさ、あと1つだけ弱音吐いていいかな」

千砂都『……うん』
 
127:(しまむら) 2022/03/23(水) 22:40:15.69 ID:/he7IveM
かのん「私、スクールアイドルがやりたい」

かのん「でも、人前で歌う事が考えるとそれだけで怖くて……。もしまた失敗したらって考えると、一歩が踏み出せないんだ」

千砂都『………』

かのん「それでもやりたい、また歌いたい」

かのん「だから、ちぃちゃんに私の背中、押してほしい」

千砂都『……スゥー』
 
128:(しまむら) 2022/03/23(水) 22:43:27.24 ID:/he7IveM
千砂都『かのんちゃんならできるに決まってる!!!きっとまた歌えるようになる!!!だって私の、最高の幼馴染だから!!!!!』

かのん「………!」キーン

痛い痛い。耳が痛い。
でも、

かのん「ありがとう、ちぃちゃん」

かのん「なんか、できるかもって気になった!私、やってみるよ!」

千砂都『うん!それでこそかのんちゃんだよ!』
 
129:(しまむら) 2022/03/23(水) 22:45:21.06 ID:/he7IveM
千砂都『うぃっすうぃっす……』

「「うぃ~~~っす!!」」
 
130:(しまむら) 2022/03/23(水) 22:48:23.72 ID:/he7IveM
これだけ弱音を吐いた。後押しもしてもらった。
もう後戻りはできない。
それでも、これは私が決めた道だ。

私はここで、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会でもう一度音楽を始めよう。

歩夢さんが侑さんに見せたい景色があるように、私にもちぃちゃんに見せたい姿があるんだ。

まずは一歩、踏み出してみよう。

私の心にある小さな種火が、今少しだけ、明るく輝いた気がした。
 
143:(しまむら) 2022/03/24(木) 21:56:24.39 ID:uWF7coar
◆◆◆

私が決意を固めた翌日、かすみちゃんや先輩たちにもその意思を伝えた。

かすみちゃんと侑さん的には、私は既に当然スクールアイドルをやるものと思われていたらしく微妙な反応をされたけど(私やるなんて一言も言ってなかったのに……)歩夢さんは優しく微笑んでくれた。
 
144:(しまむら) 2022/03/24(木) 21:59:11.56 ID:uWF7coar
さて、全員が一丸となって部を立ち上げることになったが、昨日生徒会室に突撃してきた侑さんたちの話によれば、新しく部を立ち上げるには部員が5人必要との事。
今4人いるので、あと1人いないとならないのだけど。

かすみ「にひひ~、それは問題ありませんよ。ちゃぁんと確保していますから」

かすみちゃんによると既に人数は足りているらしい。
……本当かなぁ。
 
145:(しまむら) 2022/03/24(木) 22:02:20.43 ID:uWF7coar
その日の放課後、部室がまだ無い私たち同好会はまた中庭に集合。
(当面、この中庭が部室という事になるらしい)

先輩2人は既にそろっていて、私の後に少し遅れてかすみちゃんがやってきた。
その後ろには、見覚えのある女の子3人がついている。

歩夢「侑ちゃん、あの子たちって……」

侑「うん!せつ菜ちゃんのライブの時、看板で見た子たちだよね!」

そう。
つまり今は廃部になってしまった元同好会のうち、せつ菜さんとかすみちゃんの他にいた3名の部員たちである。
 
146:(しまむら) 2022/03/24(木) 22:05:19.97 ID:uWF7coar
「皆さん、初めまして。桜坂しずくです」

ストレートの黒髪をリボンでまとめた女の子。
同じ1年生だけど、学科が違うのか見たことのない子だ。

「ふわぁ~……」
「いいねぇ、この中庭。陽当たりもよくって、お昼寝にはちょうどよさそう~」

栗色のウェーブがかった髪に、眠たげな目が特徴の子。
3年生の先輩みたい。

「も~、彼方ちゃん。ここで寝ちゃダメだよ~」
「あ、こんにちは。わたしはエマです。で、こっちが彼方ちゃん」

赤毛を2つの三つ編みにした、背の高い子。
こちらも3年生の先輩のようだ。

かすみ「どうですか!これで人数は一気に7人!生徒会長に文句は言わせませんよ!」
 
147:※この辺の設定はスクスタから都合が良い感じの所を拾って使ってます(しまむら) 2022/03/24(木) 22:08:20.92 ID:uWF7coar
彼方「でも驚いたよ~。かすみちゃんが裏でこんなにがんばってくれてたなんてね」

かすみ「そうですよ!部がなくなったっていうのに、みんな連絡全然取れなくなっちゃうんですもん!」

しずく「そ、それはもう謝ったでしょ?私もあれから演劇部の方に出る事になってたし……」

エマ「ごめんねぇ。わたしも家の用事で一時帰国してたから」

かすみ「2人は理由があるからいいとして、彼方先輩もですか?」

彼方「いや、彼方ちゃんは普通にスルーし申した」

かすみ「な"ん"でですか!!!!」

彼方「冗談だってば~。彼方ちゃんもお勉強しなきゃだったんだよ~」
 
148:(しまむら) 2022/03/24(木) 22:11:33.19 ID:uWF7coar
歩夢「なんだかみんな良い人そうだね」

侑「うんうん!それにみんなすっごく可愛い!!トキメいちゃうなぁー!」

侑「これからがますます楽しみになってきたよ!ね、かのんちゃん!」

かのん「そ、そうですね」

確かにそうだ。
一度部がなくなるなんて事になったのでもっとギスギス……というか気まずい空気になるかと思っていた。
だけど杞憂だったみたい。
 
149:(しまむら) 2022/03/24(木) 22:14:10.52 ID:uWF7coar
だけど、それだけになおさら何故せつ菜さんは一人辞めてしまうような事になったのか気になった。
それも、他の部員に秘密で単独ライブまで決行して。

あのライブの事はかすみちゃんも知らなかったようだし、他の3人もきっとそうだったんだろう。


このまま行けば部の設立は無事に受理されるかもしれない。
でもせつ菜さんの件を放置したままではいけない、と思う。
 
150:(しまむら) 2022/03/24(木) 22:17:11.01 ID:uWF7coar
◆◆◆

せつ菜さんの件について聞くチャンスは意外にも早く来た。

この日は、歩夢さんのPR動画を撮るということで、
撮影係に侑さん・監督にかすみちゃんを据えて、歩夢さんと3人で校内で撮影スポットを探しに行ってしまった。

残された私と、今日加わった3人の同好会メンバーは
一緒にストレッチなどをして体を動かした後、
スクールアイドルのいろはを知る為の座学。
……という名のおしゃべり会を学校近くの喫茶店で行うこととなった。
 
151:(しまむら) 2022/03/24(木) 22:20:24.97 ID:uWF7coar
しずく「かのんさんはかすみさんと同じクラスなんだね。大丈夫?かすみさん、授業ちゃんと聞いてる?」

かのん「あはは……いや~、そのぉ……」

この前の授業でも教科書を盾にスマホ見てたなぁ~。
でも真剣な顔で何か書きながらだから、きっとスクールアイドルの事で一生懸命だったんだろうけど。

しずく「……聞いてないんだね。もう、テストの時泣きついてきても知らないんだから」
 
152:(しまむら) 2022/03/24(木) 22:23:41.48 ID:uWF7coar
彼方「かすみちゃんはお勉強苦手だからね~。まぁ、彼方ちゃんもあんまり得意じゃないけどサ」

しずく「彼方さんはそれでも学ぶ姿勢はあるじゃないですか!でもかすみさんは……」

エマ「まぁまぁ。でもかすみちゃんはしずくちゃんにとっても感謝してると思うよ?」

エマ「わたしも国語が苦手だから教えてもらいたいなぁ」

しずく「さ、3年生の勉強は流石に私でも……」

彼方「そうだよね~。あ、でもせつ菜ちゃんなら教えられるかもよ~?」

かのん「!」

せつ菜さんの名前が出た。聞くなら今かも。
 
153:(しまむら) 2022/03/24(木) 22:26:09.06 ID:uWF7coar
しずく「確かにそうですね。せつ菜さんなら私も教わったことありますし」

エマ「せつ菜ちゃんは何でもできてすごいな~ってわたしも思うよぉ」

かのん「……みなさん、せつ菜さんの事、信頼してるんですね」

エマ「それはそうだよ!せつ菜ちゃんはスクールアイドルとしても、学生としても尊敬できる素敵な人だよ!」

かのん「あの、だったら」

かのん「……せつ菜さんは何故スクールアイドルを突然やめちゃったんでしょうか」

しずく「………!」
 
154:(しまむら) 2022/03/24(木) 22:29:08.10 ID:uWF7coar
かのん「私、わからないんです」

かのん「あんなにカッコいい歌が歌えて、それにこんなに素敵な部員たちにも囲まれて、」

かのん「スクールアイドルの事、大好きだったと思うんです」

かのん「せつ菜さんのライブを見て、私もスクールアイドルをやりたいって気持ちになりました。侑さんも、歩夢さんもです」

かのん「人の心をこんなにも動かせる歌が歌えるのに、どうして……」

かのん「どうしてライブの後、寂しそうな姿を見せて同好会を去ってしまったんでしょうか……」

しずく「…………」

彼方「…………」

エマ「…………」
 
155:(しまむら) 2022/03/24(木) 22:32:36.54 ID:uWF7coar
楽しかった空気から一転、全員がうつむき沈黙する。
この空気は正直かなりキツい。
だけど、今話しておかないとダメな気がした。

彼方「……そうだねぇ」

沈黙を破ったのは彼方さん。

彼方「もしかしたら、私たちのせいだったかもしれないね」
 
156:(しまむら) 2022/03/24(木) 22:35:27.89 ID:uWF7coar
その後、彼方さんは旧同好会であった事を話してくれた。

当初は5人でグループを組んで活動していた事。
ラブライブ優勝という目標を掲げた事。
その後、せつ菜さんによる厳しいレッスンについていけない人が出た事。

そしてかすみちゃんがせつ菜さんの方向性を明確に否定した事。
 
157:(しまむら) 2022/03/24(木) 22:41:09.68 ID:uWF7coar
かのん「それって、かすみちゃんとせつ菜さんの対立が原因だったって事ですか…?」

彼方「うーん、ちょっとそれは違うかな」

彼方「最初に口に出したのはかすみちゃんだったけど、多分彼方ちゃん含めてみんな思ってた事だから」

彼方「そしてせつ菜ちゃんのやり方が悪かったわけでもなくて、単純にそれぞれのやりたい方向性が違っていたのかなって」

しずく「そうですね。かすみさんは私たちよりも明確な自分のスクールアイドル像を持っていました」

しずく「だから最初に行動しただけで、遅かれ早かれ私たちも同じ事を思うようになっていたかもしれません」

エマ「わたし、せつ菜ちゃんより先輩なのに何もできなかったよ……」

しずく「エマさん。この一件に先輩も後輩もありません。みんなの問題だったんですよ」
 
158:(しまむら) 2022/03/24(木) 22:44:16.66 ID:uWF7coar
方向性の違い。
よくバンド解散の理由なんかでも聞く言葉だけど、やっぱりグループで活動する上で一番重要な要素なんだろう。

最近スクールアイドルを知ったばかりの私から見ても、ニジガクのスクールアイドルは全員が強い個性を持っている。
せつ菜さんの歌っていたあの歌のような方向性が、この人たちと合っているようには思えない。

せつ菜さんが抜けて歩夢さんと私も加わった今、新たな1つの方向性を探していけるだろうか。
……正直、あるとは思えない。


せつ菜さんの脱退理由を知ることはできたけど、問題は残ったままで、この日の活動は終了した。
 
171:(しまむら) 2022/03/25(金) 21:46:56.68 ID:9BR77n2n
◆◆◆

休日。
今日の予定はお店の手伝い。
いつものように支度をして店内に入る。

かのん「いらっしゃいませー」

侑「あれ?かのんちゃん?」

歩夢「え?あ、本当だ。こんにちは、かのんちゃん」


侑さんと歩夢さんが来た。
 
172:(しまむら) 2022/03/25(金) 21:49:44.60 ID:9BR77n2n
かのん「な、なななななんで!?」

侑「それはこっちのセリフだよ!ここ、かのんちゃんのバイト先だったり!?」

かのん「バイト先というか……私の家です、ここ」

侑「かのんちゃん家って喫茶店だったの!?すごーい偶然ー!!」

歩夢「本当!今日は侑ちゃんと買い物に来たんだけど、たまたまこのお店に入ろうってなったの!」

な、なんて巡り合わせ。
こんな事ってあるんだ……。
 
173:(しまむら) 2022/03/25(金) 21:52:12.20 ID:9BR77n2n
そして偶然は重なるもので、そのすぐ後。

千砂都「かのんちゃん!うぃっすー!」

かのん「ち、ちぃちゃん!?」

今度はちぃちゃんの来店。
いや、ちぃちゃんは結構来るんだけどこのタイミングで!?
そして今日はちぃちゃん1人ではないらしい。
 
174:(しまむら) 2022/03/25(金) 21:55:21.48 ID:9BR77n2n
「アナタがかのんサンですか?お話は千砂都サンから聞いてマス!」

ベージュ色のふんわりした髪をした女の子がちぃちゃんの後ろから出てきて挨拶をしてきた。

「ワタシ、結ヶ丘でスクールアイドルをやってマス、唐可可と申しマス!よろしくお願いしますデス!」

少しカタコトの日本語。
これが噂に聞く上海からの留学生の子だとすぐに理解した。
 
175:(しまむら) 2022/03/25(金) 21:58:23.87 ID:9BR77n2n
侑「えっ?あなた、スクールアイドルやってるの!?」ガタッ

侑さんが即座に反応する。

可可「ハイ!まだPR動画くらいしかあげてないのですが、千砂都サンと一緒に活動中デス!」

侑「うわぁ~!ちょっとお話聞いてみたいな!ここ!ここ座りなよ!」

可可「では、ゴショーバンに預からせてもらいマス」

千砂都「可可ちゃん、難しい言葉知ってるね……。使い方合ってる?」
 
176:(しまむら) 2022/03/25(金) 22:01:34.74 ID:9BR77n2n
侑さんと同じくらい、可可ちゃんもノリの良い子らしく、出会って数秒の間にもう仲良くなってしまった。
スクールアイドルに国境の壁はないのかもしれない。

かのん母「かのん」

かのん母「お友達来てるなら、お店の手伝いは後でいいわよ」

かのん母「でも、あまりうるさくしすぎないようにね」

お母さんから許可が出た。
うるさくしすぎないように……善処します。
 
178:(しまむら) 2022/03/25(金) 22:04:27.49 ID:9BR77n2n
お互い簡単に自己紹介を終えると、可可ちゃんが話し出す。

可可「そいえばアナタ、歩夢サン。先日PR動画あげてましたよね?可可、それ見ました!」

歩夢「あ、あれ見てくれたの?あはは……なんか恥ずかしいな。ありがとう」

歩夢さんのPR動画。
私がしずくちゃんたちとおしゃべり会をした日に、かすみちゃん・侑さんと一緒に撮影をしていたものだ。

内容はかすみちゃん指導らしい、可愛さを前面に出したものだった。
手をウサギの耳に見立てて、「あゆぴょん」なる謎のキャラクターを演じながらPRするという若干シュールな内容だった事を記憶している。
 
179:(しまむら) 2022/03/25(金) 22:07:29.22 ID:9BR77n2n
侑「ねえ!あの動画どうだったかな?一視聴者としての感想を聞きたいな!」

侑さんが無邪気に感想を聞くと、スッと可可ちゃんは真面目な顔になり、少し間を置いてから、

可可「……思ったコト、なんでも言っていいデスカ?」

うっ、ちょっと嫌な予感。

侑「もちろん!」
 
180:(しまむら) 2022/03/25(金) 22:10:32.52 ID:9BR77n2n
可可「とっても可愛かったデス。内容も、演出もよく練られていマシタ」

可可「きっとカワイイについて、すごく研究しているのでしょうね。スバラシイ出来!」

侑「おぉ~!よかったね歩夢!」

歩夢「う、うん」

意外にもお墨付きをもらった。
『可愛い』に関しては、かすみちゃんのプロデュースが行き届いていたんだろう。
 
181:(しまむら) 2022/03/25(金) 22:13:34.64 ID:9BR77n2n
可可「でも、今日歩夢サンとお会いして、直接話してみて思いマシタ」

可可「動画の歩夢サンの『カワイイ』と、今の歩夢サンの『カワイイ』ではチョト方向性が違う気がしマス」

私は『方向性』という言葉にギクリとする。
まさに今、私たちが考えなくてはならないテーマそのものだから。

可可「キャピキャピしてるアユピョンもとてもカワイイと思いマス!」

可可「でも歩夢サンはナチュラルな感じする優しいカワイイ持ってマス。そちらを押し出しても人気出る気しマスね」

侑「なるほどぉ~。確かに普通にしてても歩夢は可愛いもんね!」

歩夢「ちょ、ちょっと侑ちゃん///」
 
183:(しまむら) 2022/03/25(金) 22:16:15.81 ID:9BR77n2n
可可ちゃんの指摘は的確だ。
スクールアイドルに対する造詣はこの中で一番深いように見える。

すると、侑ちゃんもいつの間にか真面目な顔になっていた。

侑「じゃあさ、歩夢が今言ったようなナチュラルな路線で行くとして、」

侑「他のみんなはキャピキャピ~な路線で行きたいってなったらどうする?」

侑「グループとしてまとまりがなくなっちゃわない?」

昔の、そして今の同好会が持つ問題に対する質問。
侑さんはもしかしたら既に気づいているのかもしれない。
今のままだと、まとまりのないままだとせつ菜さんのような人がいずれ出てしまうことに。
 
184:(しまむら) 2022/03/25(金) 22:19:26.04 ID:9BR77n2n
可可「うーん……難しい問題デスね」

可可「その、可可的にはその場合は歩夢サンはソロアイドルを目指してほしいと思いマス」

可可「歩夢サンは歩夢サンの良さある。それを閉じ込めてまでグループでやる必要ないデス」

かのん「スクールアイドルってソロなんてあるの?」

思わず口が出てしまった。

可可「わかってないデスね、かのんサン」チッチッ
 
185:(しまむら) 2022/03/25(金) 22:22:50.11 ID:9BR77n2n
可可「今でこそアイドルはグループ売りが主体デスが、ひと昔前はソロ当たり前」

可可「スクールアイドルもまたシカリだと可可は思ってマス」

可可「そもそも可可も今はソロ路線を考えてますしネ!」

可可「……まぁ、可可の場合は他に部員がいないからデスけど」

侑「そっか……そうだよね!歩夢には歩夢の可愛さを持ってるんだもん!かすみちゃんの真似をしなくたっていいんだ!」

歩夢「だっ、だから侑ちゃん!///」
 
186:(しまむら) 2022/03/25(金) 22:25:21.25 ID:9BR77n2n
やっぱり。
侑さんはPR動画の撮影を通して、メンバーの個性が強すぎてグループで活動する事が難しい事とわかってたんだ。

侑「ありがとう可可ちゃん!私たちの方向性が見えた気がするよ!」

可可「お役に立てたなら光栄デス!」

私たちニジガクの『方向性』。
それはグループではなく、ソロアイドルとしての活動。
たぶん侑さんもその可能性に気付いたんだと思う。
 
187:(しまむら) 2022/03/25(金) 22:28:18.16 ID:9BR77n2n
歩夢「……ところで、千砂都ちゃんはどこに行ったの?」

……あれ?
そういえば自己紹介の後、一度も声を発していない気がする。

千砂都「マンマルぅ~、今日も君は良い丸をしてるねぇ~」ヨシヨシ

私の家で飼っているフクロウのマンマルを愛でていた。
ちぃちゃんは丸に対して、異常な執着を持っていて、ウチのマンマルに首ったけなのだ。
……こっちいろいろ真面目な話してたんだけど。

千砂都「ん?みんなどうしたの?」

どうしたのじゃなくって。
長い付き合いだけど、たまーにちぃちゃんの事わからなくなるんだよなぁ。
 
188:(しまむら) 2022/03/25(金) 22:32:01.08 ID:9BR77n2n
◆◆◆

ちぃちゃんと可可ちゃんが帰った後。
侑さんと歩夢さんも帰るという事で、駅までお見送りをしに行った。

侑「実はさ、かすみちゃんから聞いてたんだよね。前の同好会の事」

前の同好会の事とは、恐らく私がしずくちゃんたちから聞いた経緯の事だろう。
 
189:(しまむら) 2022/03/25(金) 22:35:37.05 ID:9BR77n2n
侑「かすみちゃん、歩夢のPR動画の撮影の後に言ってたんだ」

侑「『歩夢先輩に自分のやり方を強要しちゃった。せつ菜先輩と同じことをしちゃった』って」

侑「それでどういうことか詳しく聞いたら、教えてくれてさ」

侑「その時は既に動画はあげた後だったんだけど、
  かすみちゃんもそれを見て可可ちゃんと同じ事を思ったんだろうね」

かすみちゃんもまた、スクールアイドルへの造詣は深い。
自分で撮った動画を客観的に見た時、すぐに違和感に気付いたのだろう。

歩夢「だから今度改めてPR動画を撮りなおそうって、その時は私が思うような動画を撮ろうってことになったんだよね」
 
190:(しまむら) 2022/03/25(金) 22:38:07.87 ID:9BR77n2n
侑「それでずっと考えてたんだ。どうするのがニジガクの為になるのかなって」

侑「でも今日、可可ちゃんに言われて答えが固まったよ」

かのん「それがソロアイドル、ということですか?」

侑「うん。みんながみんな、違う色を持っているのがニジガクの良い所だよ」

侑「歩夢は歩夢の、かのんちゃんにはかのんちゃんの、ね」

かのん「わ、私も!?」

侑「それはそうだよ。かのんちゃんもニジガクのスクールアイドルなんだから」

歩夢「ふふっ、今度動画撮ろうね」

かのん「お、お手柔らかに……」
 
191:(しまむら) 2022/03/25(金) 22:41:51.20 ID:9BR77n2n
かのん「じゃあ、明日からニジガクはソロ路線で進めるんですね」

侑「うーん、そうしようと思うんだけど、問題はこの事をあの子にどう伝えるかなんだよなぁ」

かのん「あの子?」

侑「せつ菜ちゃんだよ」

かのん「!!」
 
192:(しまむら) 2022/03/25(金) 22:44:21.44 ID:9BR77n2n
侑「せっかくグループじゃない新しい路線で行くことにしたんだから、せつ菜ちゃんが一人脱退する理由もなくなったわけでしょ?」

侑「だったらせつ菜ちゃんも一緒じゃなきゃ!」

それには私も賛成だ。
元々私はせつ菜さんの歌を聞いて、スクールアイドルに興味を持ったのだ。
障害がなくなったのであれば一緒に活動していきたい。

かのん「それで、何が問題なんですか?会って伝えればいいんじゃ……」

侑「会ってって、どこに行けば会えるの?」キョトン

かのん「え?いや、ニジガクの生徒なんだし、教室に行けばいるんじゃないんですか?」
 
194:(しまむら) 2022/03/25(金) 22:47:04.32 ID:9BR77n2n
侑「あれ?もしかしてかのんちゃん知らない?せつ菜ちゃんって、生徒名簿のどこにも名前のない謎の存在なんだよ?」

歩夢「ファンもいっぱいいるんだけど、学校の中で見たことのある人誰もいないんだよね」

……えっなにそれ怖い話?

侑「だから、明日からやる事は決まったよね」

侑「せつ菜ちゃん探し!!」

かのん「え、えぇ~……そんなツチノコ探しみたいなノリで……」


せっかくひとつ問題が解決したと思ったら、まだまだ問題はあるみたい。
でも着実に前へ進んでいる気はした。

私の中の火は、勢いこそまだ無いが、尽きる気配はない。
 
201:(しまむら) 2022/03/26(土) 16:21:45.14 ID:cTGksI66
◆◆◆

私の家で会議を行い、ニジガクのソロ路線を決めた休日明け。
スクールアイドル同好会の仮部室である中庭にて、決定事項を全員に共有する。
(そういえば結局まだ部活の申請を出していない)

かすみ「ソロアイドルですか……まぁ、そうなりますよね」

しずく「私は良いと思いますよ。自分の思う表現ができそうですから」

彼方「彼方ちゃんも賛成~」

エマ「わたしもそれでいいかな。かすみちゃんはどう?」
 
202:(しまむら) 2022/03/26(土) 16:24:15.40 ID:cTGksI66
かすみ「かすみんも賛成です!かすみんの可愛さを薄める事なく広められますからね!」

しずく「それって私たちがいると可愛さが薄まるって事かな?かすみさん」ズズズ

かすみ「ヒエッ……うそうそ。ジョークです」

侑「あはは……そうなると問題はせつ菜ちゃんがどこにいるかだね」
 
203:(しまむら) 2022/03/26(土) 16:27:04.87 ID:cTGksI66
かのん「あの、生徒会長さんなら何か知ってたりしないですかね?」

そう、生徒会長。
最初に旧部室に行った時、この学校全員の顔と名前を覚えていると確か言っていた。
それにせつ菜さんが退部した事を聞いたのも生徒会長からだ。
何かしら接点があった事は間違いない。

かすみ「うぇぇ、生徒会長~?かすみん、あの人苦手~」

彼方「ていうかかすみちゃん、いい加減部活申請しようよ~」

彼方「彼方ちゃんこの中庭にいると眠くなっちゃって、練習に身が入らないかも~」

かすみ「彼方先輩はどこにいてもそんな感じじゃないですか!」

かすみ「……でもそうですね。もう人数もいるわけですし、ついでに申請用紙も持っていきましょう」
 
204:(しまむら) 2022/03/26(土) 16:30:15.76 ID:cTGksI66
同日、生徒会室。

かすみ「失礼します!!」

会長「またですか。高咲侑さんと中須かすみさん」

会長「……しかも今回は他の方々もお揃いで」

そういえば別に全員で来る必要はなかったかもしれない。
でも、いち早くせつ菜さんの手がかりを知りたくてなんとなく来てしまった。
 
205:(しまむら) 2022/03/26(土) 16:33:11.68 ID:cTGksI66
かすみ「今回はちゃんと人数もいますし、用紙も持ってきましたよ!これで文句ないですよね!?」

会長は変わらず涼しい顔で受け取った用紙を眺めると、印鑑を取り出し用紙に押した。

会長「はい、問題ありません。部室は、以前の所をそのまま使ってよろしいですよ」

かすみ「え?あ、はい。ありがとうございます……」

意外とすんなり申請は通った。
かすみちゃんは「頭が固い」「融通が利かない」と不満を漏らしていたけど、ただ単にかすみちゃんの方法に不備が多かっただけなのでは……。
 
206:(しまむら) 2022/03/26(土) 16:36:26.12 ID:cTGksI66
会長「用事はそれだけですか?」

侑「いえ、もうひとつ。生徒会長に聞きたいことがあります」

侑さんが一歩前に出て、生徒会長の前に立つ。

会長「……なんでしょう?」

侑「優木せつ菜さんのことについて教えてくれませんか」

会長「…………」

会長の手が止まり、侑さんの顔をチラリと見た。
涼し気な顔が一瞬強張ったように見えたのは錯覚だろうか。

会長「……何故でしょうか?」

侑「スクールアイドル同好会に戻ってきてほしいからです」
 
207:(しまむら) 2022/03/26(土) 16:39:44.62 ID:cTGksI66
会長「……そうですか。わかりました」

侑「!! じゃあ!」

会長「私から教えられることは何もありません。彼女の事について私は何も知りませんから」

かのん「でも!会長はせつ菜さんの退部の事を知ってましたよね!?」

思わず口が出る。

会長「…………」
 
208:(しまむら) 2022/03/26(土) 16:42:03.75 ID:cTGksI66
会長「はい。優木さんから直接伺いましたから。でも、それだけです」

かのん「えっ、でも……」

会長「用事はそれだけですか?それでは、私は仕事に戻りますので」

会長は表情を崩さず、丁寧な口調で言い放った言葉は、どんな暴言よりも強く私たちを突き放すものだった。
 
209:(しまむら) 2022/03/26(土) 16:45:19.41 ID:cTGksI66
◆◆◆

同日、スクールアイドル同好会の部室。
せっかく取り戻した我々の城であったが、メンバー全員の表情は暗く沈んでいた。

歩夢「……これからどうしようか?」

部活の申請は無事通り、部室も手に入れた。
だけど元通りにはなっていない。せつ菜さんだけがここにいない。

エマ「わたしは、やっぱりせつ菜ちゃんも一緒がいいよ」

エマさんが呟く。
恐らく全員が思っている事だ。
でも、生徒会長すら知らない優木せつ菜さんの正体を誰が知っているというのか。
 
210:(しまむら) 2022/03/26(土) 16:48:33.01 ID:cTGksI66
コンコン。

突然、部室の戸が叩かれた。

エマ「はぁい」

ドアに一番近かったエマさんが返事を返し、来客を迎え入れる。
現れたのは、青みがかった黒髪長身の美人さんだった。
 
211:(しまむら) 2022/03/26(土) 16:51:18.23 ID:cTGksI66
「あら?エマじゃない」

エマ「か、果林ちゃん?どうしたのこんな所に?」

「え?ここって職員室じゃないの?」

いや、ここ部室棟なんだけど……。
一体どこをどう間違えたらここにたどり着くのだろうか。
 
212:(しまむら) 2022/03/26(土) 16:54:24.22 ID:cTGksI66
突然現れた謎のお姉さんはエマさんの友達で、読者モデルをやっている朝香果林さんという方だった。

果林「そう、ここはスクールアイドル同好会の部室だったのね。私また間違えちゃったわ」

エマ「もう、果林ちゃんたら。職員室に何の用だったの?」

果林「え"っ……ま、まぁそれはいいじゃない。野暮用よ野暮用」アセアセ

彼方「この前の小テストの追試の事じゃないかなぁ~?」

エマ「……果林ちゃん?」

果林「か、彼方ぁ!!なんでバラすのよ!!」

彼方さんと果林さんは同じ学科で、こちらもまた友達同士との事。
しかしこの果林さんという方、見た目と中身でずいぶんギャップのある人みたいだ。
 
213:(しまむら) 2022/03/26(土) 16:57:09.15 ID:cTGksI66
果林「職員室には後で行くわ。それよりもやらなくちゃいけない用事ができたみたいだから」

エマ「え?何か用事があるの?」

果林「えぇ。あなたよ、エマ」

エマ「わ、わたし?」

果林「気づいてないの?ここ最近のあなた、ずっと何かを考えこんでいて、ひどい顔だったわよ?」

果林「そしたらこんな所で揃いも揃って暗い顔して。スクールアイドルの事で何かあったんでしょ?話してみなさい」

エマ「う、うん……」

エマさんは今までの経緯と現状について、
時々侑さんからの補足を交えながら、果林さんに説明した。
 
214:(しまむら) 2022/03/26(土) 17:00:21.78 ID:cTGksI66
果林「なるほどね。新しく部活を始めるにしても、その優木せつ菜さんが必要だと」

果林「でも彼女が何者なのか、どこにいるのかわからないから話がつけられないって事かしら」

エマ「うん……。果林ちゃんはせつ菜ちゃんについて何か知ってる?」

果林「残念だけど、私も知らないわ」

エマ「そっかぁ……」

エマさんが残念そうにうつむく。
まぁ、そうそう都合の良い事はない。
 
215:(しまむら) 2022/03/26(土) 17:03:20.10 ID:cTGksI66
果林「そんなに落ち込まないの。私の方でもちょっと調べてみるから」

エマ「ありがとうねぇ、果林ちゃん」

果林「いいのよ。じゃ、私は行くわね。」ガタッ

果林「……あ、そういえば」

去り際に何かを思い出した果林さんが立ち止まった。
 
216:(しまむら) 2022/03/26(土) 17:06:19.13 ID:cTGksI66
果林「もしかして彼女なら何か知ってるかも……」

かのん「え!?だ、誰ですか!?」

果林「なんでも数々の部活で助っ人として活躍してて、『部室棟のヒーロー』なんて呼ばれてる子がいるのよ」

果林「その子なら色んな所に顔が利いて、交友関係も相当広いだろうから、何かしらの情報を持ってるかもしれないわ」

侑「あっ、それなら私も聞いたことある!確か名前は……宮下愛ちゃん!!」
 
217:(しまむら) 2022/03/26(土) 17:09:06.49 ID:cTGksI66
果林「そうそう、その子」

果林「私も面識はないのだけど、金髪で目立つ子って聞くからそっちはすぐに見つかるかもしれないわね」

かのん「そっか……!ありがとうございます果林さん!」

果林さんは微笑むと、部室を後にした。
宮下愛さん……部室棟のヒーローか。
そちらも探してみることにしよう。

……それにしても果林さんはこの後、無事に職員室にたどり着けるのだろうか。
 
223:(しまむら) 2022/03/26(土) 22:02:57.67 ID:cTGksI66
◆◆◆

その日の放課後。
今日も色々あって、考えがまとまらない。
久しぶりにちぃちゃんのバイト先にでも行ってみようかな。

ちぃちゃんは原宿にある移動たこ焼き屋でアルバイトをしている。
ちぃちゃんはたこ焼きが好きだ。
理由は丸いから、らしい。
 
224:(しまむら) 2022/03/26(土) 22:05:14.44 ID:cTGksI66
たこ焼き屋を目指し歩いていると、ひときわ目を引く子が街を歩いていた。
綺麗な金髪に、スラッとした長い手足。
……ん?金髪?

もしかしたらと思い、隠れて注意深く観察してみる。
ただ歩いているだけに見えるが、体の軸が一切ブレていない。
体幹がしっかりしている証拠だ。
スポーツもきっと得意かもしれない。

疑念が確信に変わりつつあったけど、一つ妙な点が。

……あの子、さっきから同じところを行ったり来たりしてない?
ゲームのNPCよろしく、ウロウロと周回している様子はなんとも異様だった。
 
225:(しまむら) 2022/03/26(土) 22:08:18.19 ID:cTGksI66
なんか変な人かもしれない。
でも思い切って話しかけてみることにした。

かのん「あ、あのっ!」

金髪さん「はいっ!なんでしょう!?」

すごく丁寧な対応……と思ったら、こちらを見た途端嫌な顔をされた。
え、な、なんで?
 
226:(しまむら) 2022/03/26(土) 22:11:25.97 ID:cTGksI66
金髪さん「何よ、あなた」

かのん「いや~……もしかして、宮下愛さんだったりしないかなぁ~って……」

金髪さん「……はぁぁあああ~~!?宮下愛ぃ!?誰よそれ!?」

人違いだった!!
ていうかよく見たら制服が結ヶ丘じゃん!!

かのん「あーごめんなさいごめんなさいごめんなさい!人違いでしたぁ~!」

「んー?誰か愛さんのこと呼んだー?」
 
227:(しまむら) 2022/03/26(土) 22:14:27.32 ID:cTGksI66
第三者が話しかけてきた。
綺麗な金髪に、スラッとした長い手足。
それに……愛さん?

金髪さんB「宮下愛ってアタシのことだけど、なんか用事?楊枝だけにっ!」

そう言いながら手にもっていたたこ焼きから楊枝を外して見せつけてくる。
……え?だ、ダジャレ?
(そして何気にちぃちゃんのバイト先のたこ焼きだ)
 
228:(しまむら) 2022/03/26(土) 22:17:17.56 ID:cTGksI66
「……愛さん、初対面の人にいきなりダジャレは、ない」

すると、宮下愛さん(仮)の後ろから小さな女の子が顔を出した。
でもウチと同じ制服……というか私と同学年みたい。

小さい子「それで、愛さんに何か用?」

あっ、そうそう。
 
229:(しまむら) 2022/03/26(土) 22:20:17.06 ID:cTGksI66
かのん「は、はい!私、実は愛さんにちょっと聞きたいことがあって!」

愛さん(仮)「あ、そうなの?全然いいよ!」

愛さん(仮)「とりあえず立ち話もなんだから、こっち来なよ!ほら、そこのキミも一緒に!」

金髪徘徊娘(仮)「え、えぇぇ!?私は別にこの子とは知り合いでもなんでもな……

愛さん(仮)「いいからいいから!何かの縁じゃん!愛さんがたこ焼きおごっちゃうからさ!」ガシッ

金髪徘徊娘(仮)「ギャ、ギャラクシィ~~~!!」

私と金髪徘徊娘(仮)は、たこ焼き屋のイートインスペースへと強制連行される。
巻き込んでごめんなさい、金髪徘徊娘(仮)さん……。
 
230:(しまむら) 2022/03/26(土) 22:23:21.64 ID:cTGksI66
◆◆◆

愛「で、聞きたいことって何かな?かのん!」

イートインスペースにて、私たち4人は席に着く。
愛さんと一緒にいた小さな子は虹ヶ咲1年の天王寺璃奈ちゃん、
金髪徘徊娘さんは結ヶ丘1年の平安名すみれちゃんというんだって。

かのん「あの、優木せつ菜さんの事って、何かご存じですか……?」

愛「優木せつ菜……あー!ウチの高校で、よくライブとかやってた子?アイドルなんだっけ?」

すみれ「スクールアイドルよ。アイドルじゃないわ」

意外なところから訂正が入る。
 
231:(しまむら) 2022/03/26(土) 22:26:15.82 ID:cTGksI66
かのん「すみれちゃんもスクールアイドルの事知ってるの?」

すみれ「スクールアイドルってのは知らないわ。でもその優木せつ菜って人は、SNSでもよく話題になってたもの」

璃奈「うん、確かに。この前のライブも話題になってたから私も聞いたことある」

璃奈「……あった。これ」

璃奈ちゃんはそう言うと、持っていたデバイスを操り、ライブ映像を見せてくれた。
ちょうど先日、私が見たライブの映像だった。

愛「へぇ~!すごいね!お客さんも入ってるじゃん!」

すみれ「フン、所詮はアマチュアよ」
 
232:(しまむら) 2022/03/26(土) 22:29:18.95 ID:cTGksI66
すみれ「私の学校でも活動してる人がいるみたいだけど?話にならないわね」

すみれ「ショ~ウビジネスの観点からすると……」

愛「…………」画面ジーッ

璃奈「…………」画面ジーッ

すみれ「誰か聞きなさいよ!!」バンッ

かのん「あはは……」

愛さんと璃奈ちゃんは食い入るようにライブ映像を見ている。
すみれちゃんはふてくされて、たこ焼きをもぐもぐ食べ始めた。
 
233:(しまむら) 2022/03/26(土) 22:33:21.69 ID:cTGksI66
ライブは1曲だけだったので映像は5分程度。
結局そのまま全て見終わってしまった。

愛「はーっ!スクールアイドルのライブってすごいねー!愛さん夢中になっちゃったよ!」

璃奈「私も。璃奈ちゃんボード『ぽわわ~ん』」

璃奈ちゃんはどこからか顔の描かれたスケッチブックを取り出して感想を述べた。
たぶん、彼女の感情を表現する方法なんだろう。
愛さんと同じく、せつ菜さんのライブを楽しんでくれたようだ。
 
234:(しまむら) 2022/03/26(土) 22:35:38.40 ID:cTGksI66
愛「おっと、ごめんごめん。かのんはこの子の事調べてるんだっけ?」

愛「なんか愛さんも興味わいてきた!ちょっと愛トモのみんなに聞いてみるよ!」

璃奈「私も手伝う。学校の情報サイトから色々と探ってみる」

かのん「本当ですか!?ありがとうございます!」

果林さんの他に更に2人も協力者が増えた。
特に愛さんの顔が広いというのは本当のようだから期待ができそうかも。
 
235:(しまむら) 2022/03/26(土) 22:38:28.08 ID:cTGksI66
すみれ「……ふーん、これがスクールアイドルのライブなのね」

いつの間にか、すみれちゃんも一緒になって見ていたみたい。

愛「おっ?すみれも興味持った感じ?」

すみれ「違うわよ!……でも、この前勧誘されたから、どんなものなのかと思って」

結ヶ丘でスクールアイドルの勧誘をしてる子って、

かのん「それってもしかして、可可ちゃんの事?」
 
236:(しまむら) 2022/03/26(土) 22:41:59.44 ID:cTGksI66
すみれ「あー、確かそんな名前だったかも」

すみれ「やたら早口でまくし立ててくる留学生の子と、」

すみれ「あとなんか頭にお団子2つくっつけたちっちゃい子よ」

千砂都「それって私のことかな?」ヒョコ

すみれ「あー、そうそう。アンタよアンタ」

すみれ「………ってギャラクシー!?なんでここに居んのよ!!!」

バイト終わりのちぃちゃんが現れた。
それにしても見事なノリツッコミ。
あとちょくちょく出てくるギャラクシーってなんだろう?
 
237:(しまむら) 2022/03/26(土) 22:45:33.87 ID:cTGksI66
愛「あれ?たこ焼き屋の子だよね?知り合いだったの?てかスクールアイドルだったの!?」

千砂都「厳密にいうと私は違うんですけどね。スクールアイドルの子と一緒にダンス指導とかをやってるんです」

千砂都「だから、すみれちゃんも興味があったらぜひ来てね!」

すみれ「……まぁ、ちょっとだけなら見学してあげてもいいわ」

璃奈「素直じゃない。璃奈ちゃんボード『口ではそう言っても、身体は正直だぜ?』」

すみれ「ちがっ……何よそのボード!?どんな顔になってんの!?」

すみれちゃんもまた、せつ菜さんのライブを見て
スクールアイドルに興味を持ってくれたみたい。

こうして色んな人がせつ菜さんを見てスクールアイドルに惹かれていく。
やっぱり私たちの同好会にせつ菜さんという存在は必要不可欠だ。
絶対見つけて、話をしなくちゃならない。
 
250:(しまむら) 2022/03/27(日) 16:42:09.76 ID:7BmjNC3G
◆◆◆

せつ菜さん捜索を始めてから数日が経過したが、有益な情報は未だ得られていない。
そんな時だった。

コンコン。

突然、部室の戸が叩かれた。

エマ「はぁい」

ドアに一番近かったエマさんが返事を返し、来客を迎え入れる。
……ってなんかデジャブ。
しかし今回の来客は部屋を間違えた果林さんではなかった。
 
251:(しまむら) 2022/03/27(日) 16:45:25.07 ID:7BmjNC3G
会長「失礼します」

エマ「せ、生徒会長さん!?」

かすみ「な、何の用ですか!?かすみん、生徒会室に忍び込んで生徒名簿を盗み見したりしてませんよ!?」

……そんな事してたの、かすみちゃん。

会長「その件については後ほど」

会長「今回はスクールアイドル同好会全体に用があって来ました」

侑「私たちに?何ですか?」
 
253:(しまむら) 2022/03/27(日) 16:48:09.31 ID:7BmjNC3G
会長「ここ最近、あなた方は優木さんを探し回っているようですね」

侑「はい。理由については以前話した通りです」

会長「でもまだ見つかっていないんですよね?諦めた方がいいと思いますが」

エマ「それはダメだよ!」

会長「……何故ですか?」
 
254:(しまむら) 2022/03/27(日) 16:51:49.51 ID:7BmjNC3G
かすみ「……かすみん、せつ菜先輩に酷いこと言っちゃったから」

かすみ「せつ菜先輩のレッスンについていけなくて……」

かすみ「せつ菜先輩の目指してるものと、かすみんが目指してるものが違うってわかってたのに、」

かすみ「ついカッとなって、せつ菜先輩を否定するような事言っちゃった」

かすみ「それ、謝りたいし、これからは一緒にやっていきたいって思うんです」

会長「中須さん……」

会長「し、しかしそれが原因でこの同好会本来の活動が停滞してしまうのはどうかと……」
 
255:(しまむら) 2022/03/27(日) 16:54:13.00 ID:7BmjNC3G
「そう思うのならあなたが協力してあげればいいじゃない」

会長「!!」

突然、声がかかる。
果林さんだ。
 
256:(しまむら) 2022/03/27(日) 16:57:40.47 ID:7BmjNC3G
エマ「果林ちゃん!」

会長「……協力とは何でしょうか?」

果林「あら、この状況になってもまだ白を切るのはちょっと薄情じゃないかしら?」





果林「ねぇ、優木せつ菜さん」

「「「えぇ!!!?」」」

会長「……!」
 
257:(しまむら) 2022/03/27(日) 17:00:19.82 ID:7BmjNC3G
会長「……はぁ、やはり隠し通せませんでしたか」

果林さんが生徒会長のことを優木せつ菜さんと呼んだ!?
そして会長もそれを認めた!?

かすみ「ちょっ……どういうことですか!?生徒会長が、せつ菜先輩!?」

彼方「よ、よもやよもやだよぉ~……」

まさかせつ菜さんがこんなに近くにいたなんて。
最初生徒会長に会った時の既視感は、入学式で見たからだけじゃなかったんだ。
 
258:(しまむら) 2022/03/27(日) 17:03:24.46 ID:7BmjNC3G
会長「どうやって知りましたか?」

果林「この子たちの協力のおかげよ」

愛「やっほ~!かのん~!」ヒョコ

璃奈「こんにちは。かのんさん」ヒョコ

かのん「愛さんと璃奈ちゃん!?」
 
259:(しまむら) 2022/03/27(日) 17:06:21.84 ID:7BmjNC3G
しずく「こちらが、果林さんが言っていた宮下愛さんですか?」

かのん「うん、それと天王寺璃奈ちゃん。この前、原宿で偶然会ったんだ」

愛「そそ!そんであの時せっつーの事調べるって約束したっしょ?」

愛「だから愛トモのみんなに聞いてみたけど、だーれも正体知らなくてさー」

愛「あっ!ちなみに『愛トモ』って愛さんの友達のコトなんだけど!」

愛「そしたらカリンもせっつーの事調べてるらしいって聞いて、一緒に探そーってなったんだよね!」
 
260:(しまむら) 2022/03/27(日) 17:09:30.03 ID:7BmjNC3G
果林「そういう事。それで改めて色々調べたけど成果なし」

果林「かすみちゃんに頼んで生徒名簿も調べてもらったけど、名簿にすら名前なし」

かすみ「果林先輩、それ言ったらかすみんがやったってバレちゃいますよぅ!!」

彼方「さっき自分でバラしてたぜ……かすみちゃん」

果林「そうなると、自然と一番怪しい人は生徒会長、あなたになるわよね?」

果林「だって誰も直接話したことのない優木せつ菜に、あなただけが個人的な話までしているのだから」

璃奈「それで、生徒会長とせつ菜さんの活動記録を学校のシステムから抜き出して比較してみたら、見事にカブりがゼロだった」

璃奈「ついでに顔写真データも抜き出してせつ菜さんの映像と照合してみたら、100%データが一致した」

璃奈「璃奈ちゃんボード『完全に一致』」キリッ

り、璃奈ちゃんがさらっととんでもない事をしているような……。
それにしても果林さんがここまでデキる人だったとは。
 
261:(しまむら) 2022/03/27(日) 17:12:18.90 ID:7BmjNC3G
エマ「本当に、せつ菜ちゃんなの……?」

会長はまた1つため息をつくと、メガネを外し、編んでいた髪をほどいた。
その姿はまぎれもない、スクールアイドル優木せつ菜の姿だった。

せつ菜「はい。私、中川菜々こそが、優木せつ菜の正体です」

かすみ「そ、そんな……悪の生徒会長は、せつ菜先輩だったんですか……」

しずく「私も気がつきませんでした。私としたことが、演技を見抜けなかったなんて……」
 
262:(しまむら) 2022/03/27(日) 17:15:05.36 ID:7BmjNC3G
彼方「どうして、誰にも何も言わずに退部なんてしたの……?」

かすみ「そうですよ!それにライブも!」

かすみ「あのライブは……お披露目ライブは中止にするって言ってたじゃないですか!」

せつ菜「……すみません。みなさんの事を考えて行動したつもりが、逆に混乱をまねいてしまいましたね」

しずく「私たちの事を考えて……?」
 
263:(しまむら) 2022/03/27(日) 17:18:29.28 ID:7BmjNC3G
その後、せつ菜さんは語ってくれた。

かすみちゃんから反発の声が上がった時、
せつ菜さんは自分の意見を押し付けていた事に気づいた。

そしてこのまま自分が部長として活動している限り、
グループは決してまとまる事はないだろうと確信した。

だから自分がやめる事で、同好会は一度廃部にして
また新しい同好会としてスタートしてほしい思いがあった。

ライブを勝手に開催して一人で歌ったことは、最後のワガママ。
これ以上「優木せつ菜」でいる事は、スクールアイドルで活動する事はできなくなるため、引退ライブのつもりだったのだ。
 
264:(しまむら) 2022/03/27(日) 17:21:10.67 ID:7BmjNC3G
エマ「そんな……せつ菜ちゃん、スクールアイドルやめちゃうの!?」

せつ菜「はい。そのつもりの、引退ライブでしたから」

せつ菜「私がいると、多分また同じことになります」

せつ菜「誰かに自分の『大好き』を押し付けて……グループでの活動はできません」

侑「それだったら私たちは……」

せつ菜「ソロアイドルとして活動していくんですよね?それについても伝え聞いています」

せつ菜「でしたら、私が同好会にいる意味はもっとありません」

せつ菜「みなさんがそれぞれ個人で好きなように活動できる。結構じゃないですか」

せつ菜「そこに私のような独善的なリーダーは必要ありません」

歩夢「せつ菜ちゃん……」
 
265:(しまむら) 2022/03/27(日) 17:24:09.38 ID:7BmjNC3G
かのん「あーっ、もう!!」

気づいたら、声に出していた。
もう聞いていられない。

違う。
違うんだよ、せつ菜さん。
 
266:(しまむら) 2022/03/27(日) 17:27:11.87 ID:7BmjNC3G
かのん「せつ菜さんに戻ってきてほしいのってそんな理由じゃないんだけど!?」

かのん「意味だとか必要だとか、そんな話してないじゃん!!!」

かのん「かすみちゃんも、しずくちゃんも、彼方さんも、エマさんも!!」

かのん「迷惑だからグループから抜けてほしいなんて言った!?」

かのん「リーダーが必要だから戻ってきてほしいなんて言った!?言ってないよね!?」

せつ菜「えっ……」

侑「か、かのんちゃん?」

急に大声でキレ始めた私に周囲がポカンとしている。
敬語まで取れてしまったけど、止まらない。続ける。
 
268:(しまむら) 2022/03/27(日) 17:30:29.34 ID:7BmjNC3G
かのん「みんなせつ菜さんの歌が!ダンスが!せつ菜さん自体が大好きなんだよ!」

かのん「だから一緒にやりたい!戻ってきてほしい理由なんてそれだけ!」

かのん「私だってそうだよ!歌えなくなって、音楽科に落ちて!」

かのん「もう音楽なんてやめようって思ってたのに、せつ菜さんのライブを見たら、すっごく感動して!」

かのん「私もステージで一緒に歌いたいって思っちゃったんだよ!」

せつ菜「え?歌えないって何

かのん「せつ菜さんもそうでしょ!?」

かのん「どんな理由があっても、大好きって事をやめられるわけがないんだ!」

かのん「大好きな気持ちに嘘なんてつけないんだよ!」

かのん「どうなの!?せつ菜さん!スクールアイドル、やりたいの!?やりたくないの!?」

せつ菜「………私は」
 
269:(しまむら) 2022/03/27(日) 17:33:20.51 ID:7BmjNC3G
せつ菜「私は、でも。一度この同好会を、メチャメチャに……」

かのん「せつ菜さん、質問に答えてよ」

かのん「スクールアイドル、やりたい?やりたくない?」

せつ菜「そ、それは」
 
270:(しまむら) 2022/03/27(日) 17:36:33.70 ID:7BmjNC3G
せつ菜「……やりたいに、決まってるじゃないですか」

せつ菜「私は、まだ、スクールアイドルでいたい……!」

せつ菜「みんなと一緒に歌ったり、踊ったりしたいです……!!」

やっと聞けた。
生徒会長の中川菜々でも、同好会を率いるリーダーの優木せつ菜でもない、
ただ一人のスクールアイドルとしての本音。
 
271:(しまむら) 2022/03/27(日) 17:39:17.33 ID:7BmjNC3G
歩夢「じゃ、じゃあ……!」

せつ菜「……でも、グループでない以上、ラブライブには出られませんよ……?」

侑「そんなのいいよ。ラブライブに出なくたって、スクールアイドルはできるからね」

せつ菜「みなさんも、それで納得できますか……?」

歩夢「もちろん!」

彼方「あったり前だよ~」

エマ「せつ菜ちゃんが戻ってきてくれるなら、それ以上は望まないよ」

しずく「はい。私たちは、みんなそれぞれ別の目標を目指しましょう」

かすみ「ま、かすみんが一番という事は確定していますしね~」
 
273:(しまむら) 2022/03/27(日) 17:42:13.69 ID:7BmjNC3G
せつ菜「……かのんさん、ありがとうございます」

かのん「えっ!?あ、いえ、なんか勢いに任せて失礼な事言っちゃってたらすいません……」

すっかり我に返った私はせつ菜さんの言葉に恐縮してしまう。
何かドサクサに紛れて、とんでもないカミングアウトもしてしまった気はするが、せつ菜さんに私の言葉が届いていれば、今はそれでいい。

―なりたい自分を我慢しないでいいよ
 夢はいつか ほら輝きだすんだ!―

せつ菜さんがあのライブで歌っていた言葉。
それこそが私が伝えたかった言葉だったのだ。
何故ならその言葉で私自身、また動き出すことができたから。
 
274:(しまむら) 2022/03/27(日) 17:45:09.40 ID:7BmjNC3G
せつ菜「この書類、一応持ってきたのですが……」

せつ菜さんがポケットから折りたたまれた書類を取り出す。
スクールアイドル同好会設立の申請書だ。

せつ菜「実はこの申請書、まだ最後の判を押してないんです」

かすみ「え?そうなんですか?」
 
275:(しまむら) 2022/03/27(日) 17:48:10.35 ID:7BmjNC3G
せつ菜「はい。設立してもすぐに活動をやめてしまう同好会もあるので、数日の経過観察後、最終承認が必要なんです」

せつ菜「今日は同好会本来の活動をしていないという理由で否認を言い渡しに来たんです」

せつ菜「……でもこうしなければいけませんね」

そう言うと胸ポケットからペンを取り出し、申請書に新たに何かを書き足した。
 
276:(しまむら) 2022/03/27(日) 17:51:10.29 ID:7BmjNC3G
せつ菜「新入部員の優木せつ菜です!よろしくお願いします!」

そこには部員の欄に、大きく「優木せつ菜」と書かれていた。
でも、学年の欄も学科の欄も空のまま。

せつ菜「いいんです!生徒会長が許可をしました!!」ペカー

……それは職権濫用といいませんか、生徒会長。
 
277:(しまむら) 2022/03/27(日) 17:54:12.91 ID:7BmjNC3G
愛「ちょっとそれ貸して!」

愛さんが申請用紙とペンを、せつ菜さんの手から取る。
そしてスラスラとペンを走らせたと思うと、

愛「はい!同じく新入部員の宮下愛!天王寺璃奈!そして朝香果林でっす!よろしくね!!」

愛「これからは部員として、『ブインブイン』言わせてくからねっ!」

侑「ブフッ」

かのん「えぇ!?愛さんたちも入るんですか!?」

果林「えぇ!?私も入るの!?」ドキーン
 
278:(しまむら) 2022/03/27(日) 17:57:06.54 ID:7BmjNC3G
愛「そ!アタシもあれから色々調べてさ!やりたくなっちゃった!ね、りなりー?」

璃奈「うん。私も、みんなと一緒にやってみたい」

果林「ちょっと!私はそんなこと言ってないんだけど!?」

愛「そーなの?ついでだから書いちゃった!」

愛「でもカリンもなんだかんだ協力してくれたし興味あったんでしょ?」

果林「いや、私はただエマが困ってたから……」

エマ「果林ちゃんは、わたしたちと一緒にやるの、嫌なの……?」ウルウル

果林「エマ、違うわよ。そういうわけじゃ……」アセアセ

エマ「…………」ウルウル
 
279:(しまむら) 2022/03/27(日) 18:00:12.89 ID:7BmjNC3G
果林「……もう!わかったわよ!私もやるわ!」

エマ「本当!?」パァーッ

彼方「ちょろいなぁ」

璃奈「素直じゃない。璃奈ちゃんボード『口ではそう言っても、身体は正直だぜ?』」

かのん「またそれ出た!!」

果林「ただ、やるからには本気でやるわよ!同好会で一番人気になってやるんだから!!」

かすみ「な"っ、それはダメですー!一番は部長のかすみんですからね!!」

愛「え?かすかすって部長だったの?」

かすみ「かすかすじゃなくて、かすみんですーーーー!!!」
 
280:(しまむら) 2022/03/27(日) 18:03:07.97 ID:7BmjNC3G
この日、私たちは遅くまで部室で話をした。
話題はもちろんスクールアイドルについて。
それぞれが好きな事、表現したい事、目標なんかを思い思い話した。

内容は見事に全員バラバラ。
到底ひとつのグループで大会への出場なんてできやしない。
それでも私たちの心はひとつになっていた。

「スクールアイドルとして『大好き』をみんなに届けたい」
その思いだけが私たちを強く引き合わせ、今こうして繋がっている。

帰り支度をすませた時には外は真っ暗。
空には大きさも明るさも違う、たくさんの星が瞬いていた。
 
295:(しまむら) 2022/03/28(月) 21:27:12.50 ID:LFmcnmxs
◆◆◆

5月も半ば。すっかり木々も緑となった頃。
虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会は本格的に活動を開始した。

いろいろあってスタートが遅れてしまったけど、その分団結力は深まったように思う。
雨降って地固まったというわけだ。

ニジガクの路線としてソロアイドルを目指していくという事で、今は侑さんプロデュースの下、それぞれPR動画を改めて撮ってアップしている。

しかしそんな事を続けていてもスクールアイドルとは言えない。
スクールアイドルといえばライブ。
ライブをするには歌。曲が必要になるわけで。
 
296:(しまむら) 2022/03/28(月) 21:30:07.70 ID:LFmcnmxs
千砂都「作曲なら、かのんちゃんができるじゃん」

虹ヶ咲と結ヶ丘のスクールアイドルの合同会議
(という名のおしゃべり会)にて
ちぃちゃんがポロッとした発言により、
ニジガクの曲は私が主担当という事になった。

可可「かのんサンは曲を作れるのデスか!すごいデス~」

可可「……それに比べて、ウチのグッソクムシはグソクムシの歌くらいしかないデスからね~」

すみれ「じゃかましい!!だったらアンタが作曲しなさいよ~~!」グニグニ

そうそう。
すみれちゃんもスクールアイドルを始めて、
可可ちゃんとデュオという形で活動しているみたい。

なんだか今みたいな小競り合いが多いようだけど、
「これでラブライブにエントリーできる!」と可可ちゃんは喜んでるそうな。
 
297:(しまむら) 2022/03/28(月) 21:33:19.22 ID:LFmcnmxs
侑「まぁ、私たちは人数が多いからね」

侑「かのんちゃんに丸投げするんじゃ可哀そうだし、みんなで作っていこうよ」

せつ菜「そうですね。私が歌った『Chase!』も、音楽科の方に手伝ってはもらいましたが、」

せつ菜「私も歌詞やメロディラインの一部を作ったりしたんですよ」

よかった……。
少しは肩の荷が下りた。
流石に私1人で9人分の曲を全部1から作るのは不可能だ。

侑「9人?いやいや、違うでしょ。10人だよ」

侑「かのんちゃんったら、自分を数えてないでしょ?」ケラケラ

そうでした。
今までずっと考えないようにしてたけど、
私自身の一番の問題はまだ解決していない。

私は、未だに人前で歌を歌えないのだった。
 
298:(しまむら) 2022/03/28(月) 21:36:15.26 ID:LFmcnmxs
かのん「そういえばさ、ちぃちゃん達は曲はどうするの?」

千砂都「最初はかのんちゃんに頼もうかとも思ったんだけどね~。そっちはそっちで忙しいみたいだし」

かのん「ご、ごめんね」

千砂都「ううん、せっかくかのんちゃんは虹ヶ咲の方で頑張ってるんだもん!」

千砂都「私たちの事は私たちでなんとかしなくちゃね!」

すみれ「そんなの当前でしょ」

すみれ「そもそも他校の人に作曲頼むのってラブライブのレギュレーション違反じゃないの?」

可可「そうデスね。スクールアイドルは学校と紐づいた存在デスから」

なるほど、そうなんだ。
確かにすべて自分たちで何とかするからこそ『スクールアイドル』なのかもしれない。
 
299:(しまむら) 2022/03/28(月) 21:39:08.29 ID:LFmcnmxs
千砂都「それに作曲できる子の目星はついてるんだ」

かのん「え?そうなの?」

千砂都「うん。ウチの生徒会長で、同じ音楽科の葉月恋ちゃん!」

千砂都「ピアノを習ってたみたいだから作曲もできないかなーって!」

侑「へぇ~、ピアノかぁ」

可可「可可はその人のコト、まだ信用してないデスけどね!」

千砂都「あはは。部の設立の時、結構批判的だったからね~」

ぷりぷりと怒る可可ちゃんが、かすみちゃんと重なる。
スクールアイドルと生徒会長は一度は衝突する運命なのだろうか。
 
300:(しまむら) 2022/03/28(月) 21:42:06.01 ID:LFmcnmxs
次の同好会活動日から、さっそく曲作りを始めた。
一人一人、自分の表現したいテーマや曲のイメージを聞きつつ、だいたいのメロディを作っていく。

せつ菜さんや愛さんのツテで
(どうもこの2人には既にファンがついているらしい)
音楽科の人の力も借りることができたのは本当に助かった。

多種多様な同好会や部活がある虹ヶ咲学園では、
お互いの専門分野で助け合うことはどこでも普通に行っているらしく、
音楽系の部活の人も快く協力をしてくれた。
この辺はマンモス校ならではの強みかもしれない。

みんなの曲は少しずつ形になっていったが、
私の曲だけはまだテーマすら決まらないままだった。
 
301:(しまむら) 2022/03/28(月) 21:45:13.53 ID:LFmcnmxs
◆◆◆

かすみ「ねぇかの子、今度の日曜空いてる?」

ある日の同好会終わり、かすみちゃんから声をかけられた。

かのん「うん、空いてるけど……どうしたの?」

かすみ「むふふ~!かすみん考案の『ニジガク1年生組秘密特訓』を行うからね!」

……なんだろう、それ?
 
302:(しまむら) 2022/03/28(月) 21:48:05.02 ID:LFmcnmxs
璃奈「かすみちゃんの言い方、うさんくさすぎる。璃奈ちゃんボード『怪しさプンプン』」

かすみ「んな"っ!?かすみん臭くないもん!!」

しずく「要するに、1年生みんなで遊びたいんだって」

かすみ「遊びじゃないっ!秘密特訓!!」

かのん「あはは……うん、やろうか。秘密特訓」

確かになんだかんだ忙しくしていてゆっくり遊ぶ暇はなかった。

ここ最近はみんなの曲作りをしていたし、今は自分の曲を作らなくてはいけない。
少しだけ息抜きはしたかったところかも。
 
303:(しまむら) 2022/03/28(月) 21:51:16.26 ID:LFmcnmxs
かすみ「10時に駅前集合だからねっ!しず子もりな子もわかった!?」

しずく「わかったよ、かすみさん」

璃奈「璃奈ちゃんボード『あいわかった』」

そういうとかすみちゃんは勢いよく部室から出て行ってしまった。

しずく「……ふふ。多分、かすみさんなりにかのんさんに気を使ってるつもりなのかもね」

かのん「私に?」

しずく「うん。同好会の大変なところ任せちゃってるから、部長として部員のケアがしたいんだよ、きっと」

璃奈「かすみちゃん、素直じゃない。璃奈ちゃんボード『口ではそう言っても

かのん「汎用性すさまじいねそのボード!?」
 
304:(しまむら) 2022/03/28(月) 21:54:04.04 ID:LFmcnmxs
そっか。
もしかしたら、かすみちゃんは気づいているのかも。
いや、きっとかすみちゃんだけじゃない。

多分私が何か抱えていることは部員みんなに感づかれているんだろう。

実際、私の曲はまだ書けていない。
どうしても私が歌うというビジョンが未だに見えていない事もあるかもしれない。

……やめやめ。
どうしてもネガティブがスパイラルしてしまう時は何を考えたってうまくいかない。

そうして今日も曲は作れず、かすみちゃんとの約束の日を迎える。
 
306:(しまむら) 2022/03/28(月) 21:56:04.81 ID:LFmcnmxs
◆◆◆

日曜日。
集合場所に行くと、既に3人は来ていた。
少し早めに家を出たんだけど、みんな早いなぁ。

かすみ「よく集まってくれた諸君!では『ニジガク1年生組特別演習』を始める!」

かのん「秘密特訓じゃなかった?」

かすみ「まずはあそこのアクセサリーショップに行くよ!」

かすみ「カワイイを極めることは、かすみん部長に近づく第一歩だからね!」

かすみ「さぁ行くよ!何してんの!!」タッタッタッ

璃奈「……やっぱりかすみちゃん、ただ遊びたいだけかも」

しずく「私もそんな気がしてきた」
 
307:(しまむら) 2022/03/28(月) 22:00:08.26 ID:LFmcnmxs
それから私たちはそれぞれの行きたい場所を巡り、思いっきり遊んだ。

かすみちゃんの提案で服屋や雑貨屋、
しずくちゃんの提案で本屋やペットショップ、
璃奈ちゃんの提案でゲーセンや家電屋。

本当にみんなバラバラの場所だ。

璃奈「かのんちゃんは?行きたい所、ある?」

かのん「私は……特にないかな。みんなと一緒なら全部楽しいから」

嘘偽りない本音。
だけどかすみちゃんは何やら含みのある笑みを浮かべている。

かすみ「ちっちっちー、わかってないなぁ。りな子」
 
308:(しまむら) 2022/03/28(月) 22:03:06.41 ID:LFmcnmxs
かすみ「かの子が好きなものなんて、音楽に決まってるでしょ!」

かすみ「かすみんたちみんなの曲を作ってくれてるんだよ?そんなのわかるじゃん!」

しずく「うん、確かにそうだよね。じゃあ楽器屋とか、あとカラオケとか?」

か、カラオケか……。
歌うんだよね、みんなの前で。
でもカラオケ程度なら今までも歌えてたし大丈夫だろう。

かすみ「それよりも良い所があるんだよ!かすみん既にチェックしてあるんだ~!」

璃奈「良い所?璃奈ちゃんボード『はてな』」

……なんだろう、嫌な予感がする。
この時の「嫌な予感」はいつものカワイイものではなく、本物の悪寒が少しした。
 
309:(しまむら) 2022/03/28(月) 22:06:11.05 ID:LFmcnmxs
かすみ「じゃーん!モール主催の素人カラオケ大会!優勝すれば豪華賞品!参加は自由!」

かすみちゃんに連れて来られたそこは、ショッピングモールに作られた小さなステージ。
一般の人が歌を披露して、その点数によって順位が決まり、商品が貰えるらしい。

しずく「えっ……まさかこれに参加する気なの?」

かすみ「そ!かすみんたち、そろそろライブデビューする事になるでしょ?」

かすみ「お客さんの前で歌う予行練習って事で!」

璃奈「う……ちょっと恥ずかしい」

かすみ「何言ってんの!会場も小さいし、お客さんも20人くらいだよ?ホントの舞台はもっと大きいんだから!」
 
311:(しまむら) 2022/03/28(月) 22:09:04.93 ID:LFmcnmxs
かのん「でも……」

かすみちゃんの言う通り、会場はすごく小さい。
お客さんもまばらにしかいない。

でも、知らない人の前で歌を歌う。
カラオケの機械で評価をされる。
その事実だけで足がすくんでくる。

かすみ「実はもう既に4人分エントリーは済ませてあるからね!さ!行くよ!」

しずく「えぇぇ!?かすみさん、そんな勝手に……」

璃奈「……しずくちゃん、やるしかない」

しずく「……はぁ」

ここで歌う?
ホントに?
今から?
 
312:(しまむら) 2022/03/28(月) 22:12:07.89 ID:LFmcnmxs
◆◆◆

大会が始まってからの記憶はほとんどない。
かすみちゃんも、しずくちゃんも、璃奈ちゃんも、いつの間にか歌い終わっていた。

点数も会場の様子もまったく見ていなかったけど、
つつがなく終わった様子だけはかろうじてわかった。

そしてついに私の番。
舞台裏で待機していると、スタッフから「GO」のサインが出る。

もう退くわけにはいかない。
それに私は今はスクールアイドルなのだ。
かすみちゃんの言う通り、本番前に予行演習ができる良い機会じゃないか。
 
314:(しまむら) 2022/03/28(月) 22:15:13.23 ID:LFmcnmxs
ステージ上の定位置に立つ。
ステージ横には既に歌い終わった参加者が立っていて、かすみちゃんたちの姿もある。
「がんばれ」と言ってくれているようだ。

前を見ると、チラホラとまばらに観客がいる。
が、最初よりずいぶんと人が集まってきている。
興味なさげな人もいるが、期待の目で私を見つめている人もいる。

やめて、見ないで。
心臓が早鐘をうつ。
足も手も震えそうになるのを押さえつけるのに必死だ。

今すぐ逃げ出したい気持ちと、
今ここでやらなくちゃいけない気持ちとが戦っている。
 
315:(しまむら) 2022/03/28(月) 22:18:14.06 ID:LFmcnmxs
聞き覚えのある曲のイントロが流れ出す。
私はいつの間に曲のリクエストをしたのだろうか。
覚えていないけど、ちゃんと私の知っている曲。

もうすぐ歌いだしの所まで曲が流れる。
最初の歌詞も頭には出てきている。
ただ声だけが出てこない。

目の前には人の目。
目が1、2、3、たくさん。

今、イントロはどこまで進んだだろうか。
あれ?曲が聞こえない。
機材トラブルだろうか。

目の前には人の目。
目が。たくさんの目が私を見ている。
たくさんの人が私の声を聞こうとしている。

おかしい。
音が聞こえない。
 
316:(しまむら) 2022/03/28(月) 22:21:10.59 ID:LFmcnmxs
私は何時間ここに立たされているんだろうか。
そろそろ歌わなくちゃいけないのに。
歌わなくちゃ。
歌わなくちゃ。

目の前には人の目。
目。目。目。私を見る人の目。

かすみちゃんが何か言ってる?
なんだろう。
何をそんなに不思議そうな顔をしてるんだろう。

気づけば視界には青い空。
その次に暗闇。

いつしか目の前に人の目は見えなくなっていた。
音も、視界も、意識も、
全てが暗闇へと吸い込まれた。



私はまた、気を失った。
 
317:(しまむら) 2022/03/28(月) 22:24:13.66 ID:LFmcnmxs
◆◆◆

気づくと私はベッドの上にいた。
かすかに店内アナウンスが聞こえるので、たぶんモール内の医務室だと思う。

しずく「かのんさん!大丈夫!?」

かのん「しずくちゃん……私は……」ムク

璃奈「立たなくていいよ。はい、水」

璃奈ちゃんがペットボトルの水を差し出してくれた。
実際、喉がカラカラだったのでありがたい。
 
318:(しまむら) 2022/03/28(月) 22:27:23.66 ID:LFmcnmxs
かすみ「かの子……」

聞いたことないほど小さいかすみちゃんの声。
申し訳なさそうにおずおずと話しかけてきた。

かすみ「かの子、突然ステージで倒れて、」

かすみ「私が、無理して連れてきちゃったから」

かすみ「でも、そんなつもりじゃなくて……」

かすみちゃんは泣きそうになりながら話す。

璃奈「それは違う。かすみちゃんだけのせいじゃない」

しずく「そうだよ、かすみさん。お医者さんも軽い熱中症の症状って言ってたでしょ」

しずく「今日は初夏の割に結構暑かったし、気づけなかった私たちみんなの責任だよ」

かすみ「でもぉ……」
 
319:(しまむら) 2022/03/28(月) 22:30:07.93 ID:LFmcnmxs
熱中症。
私が倒れた理由はそういう事になっているらしい。

本当の理由が違う事は私自身が一番わかっている。
だって私にとっては「いつもの事」だから。

しかしそれを言えば、かすみちゃんは責任を感じてしまうかもしれない。

今はまだ、言わなくていい。
 
320:(しまむら) 2022/03/28(月) 22:33:11.24 ID:LFmcnmxs
かのん「あはは、ごめんね?かすみちゃん。ちょっと私、はしゃぎすぎたみたい」

かすみ「がの"子"ぉお~、ごべんね"ぇえええええ」ビー

かのん「わ、大丈夫だって。かすみちゃんは悪くないよ」

そう、何も知らないかすみちゃんは悪くない。
私の持つ問題のことを、隠して続けている私自身の責任なのだ。
 
321:(しまむら) 2022/03/28(月) 22:36:21.44 ID:LFmcnmxs
◆◆◆

その後少し休んでから、
私たちは解散しそれぞれ家路についた。

かすみちゃんは「送っていく」と譲らなかったが、
丁重にお断りさせていただいた。
今はとにかく一人になりたかったから。

見上げると空は曇天。
昼間の快晴が嘘のように厚い雲がかかっている。
もしかしたらそろそろ一雨来るかもしれない。
 
322:(しまむら) 2022/03/28(月) 22:39:06.61 ID:LFmcnmxs
かのん「……バーカ」

かのん「歌えたら苦労しないっつーの」

思わず口をついて出た暴言は、自分に向けて。

キラキラ光るみんなと一緒にいたから、
自分も輝いている気になってしまっていたバカな自分。

星なんて到底呼べない、私の鈍く暗い灯は、
いつ雨に流されて消えてもおかしくないほどだった。
 
329:(しまむら) 2022/03/29(火) 21:38:19.33 ID:Bk/b3Ojd
◆◆◆

目を開くと、私は暗い場所にいた。

唯一の光源は10m近く先で、頭上から降り注いでいる光。
よくよく見るとそれはステージを照らすスポットライト。
私は舞台袖からその光を見ているようだ。

スポットライトの下に誰かいる。
……誰だろう?
うつむいていて、かつ髪が長いので誰だかわからない。
でも、背丈は小さそう。たぶん子供だと思う。

もしかしたら迷子かもしれない。
心配になった私はその子に近づこうと一歩踏み出した瞬間。
 
330:(しまむら) 2022/03/29(火) 21:41:24.01 ID:Bk/b3Ojd
ドォォォォォォオオオオオオン。

突然の大きな音。
びっくりして立ち止まってしまう。
最初の音に続いて、次々と耳障りな爆音がどこからか響いてくる。

舞台上の子供は微動だにしない。
この騒音の中、ずっとうつむいたままだ。

音は絶え間なく響いてくる。
音の種類は高音から低温まで、長音から短音まで様々。
まるでオーケストラのように……
……と、ここでふと気づく。

私はこの曲を知っている。
 
331:(しまむら) 2022/03/29(火) 21:44:13.11 ID:Bk/b3Ojd
そうだ。
この曲は、私が小学校に上がる前。
合唱コンクールで歌った、いや、歌えなかった曲だ。

それに気づいたら、暗くてよく見えなかった周りの様子が
だんだんと見えてくる。

やっぱり。
ここはあの時の合唱コンクールの会場だ。

すると、視界がボヤけてまた見えなくなる。
再び見えるようになった時には景色が変化していた。

さっきまでとは異なり、
今度は学校のホール……そう、ここは結ヶ丘の音楽ホールだ。
 
332:(しまむら) 2022/03/29(火) 21:47:13.42 ID:Bk/b3Ojd
次の瞬間、景色だけでなく曲も変化する。
今度の曲も知っている。
結ヶ丘の音楽科に受験した時の課題曲だ。

相変わらず音は耳障りで、実際の演奏とは違うけど、
曲自体は私もよく聞いていたので間違いない。

ステージ上の小さな子は変わらずじっとしている。
……いや、よく見ると震えている?
この騒音に怯えているのだろうか。

何にしてもこのまま放っておけない。
あの子を連れて、ここから逃げなきゃ。
でも何故だか私の足は動かない。

なんなんだ。
一体何が起きているんだ。
 
333:(しまむら) 2022/03/29(火) 21:50:23.52 ID:Bk/b3Ojd
そんな事をしている内に、また景色と曲が変わる。
今度は、お台場近くのショッピングモール。
そこにある小さなイベント会場だった。

曲は私もよく知っている流行りの曲。
というか、もうわかる。
ここはかすみちゃんたちと行ったカラオケ大会の会場。
そして曲は私が歌うはずだった曲だ。

スポットライトの下では小さな子が震えている。
ついには泣き出してしまったようだ。
でも泣き声は全く聞こえてこない。
騒音にかき消されてしまっているのだろうか。

早くあの子を助けなきゃ。
助けなきゃと思うのに、さっきから足が全然動かない。
声を出してこちらに呼ぼうとしても、声さえ出ない。
 
334:(しまむら) 2022/03/29(火) 21:54:11.07 ID:Bk/b3Ojd
すると、ステージ上の小さな子がこちらに気づいたのか、
顔をあげて、ゆっくりと私の方を見てくる。

その瞬間、聞こえていた騒音はピタリと止まり、
聞こえる音はドクン、ドクンという自分の心臓の音だけ。

首をこちらに向けるのはそんなに時間がかからないはずなのに、
まるで時間を無理やり引き延ばしたかのような
スローモーションで小さな子が顔を向けてくる。

そろそろ顔が見える。
涙でぐしゃぐしゃになったその小さな子の顔は、






小さな頃の私の顔だった。
 
335:(しまむら) 2022/03/29(火) 21:57:04.84 ID:Bk/b3Ojd
◆◆◆

休日明けの朝。
とにかく最悪な気持ちで学校へ向かう。

もちろん休日にまた「いつもの事」で失神して
すっかり自信を失ったというのもあるけど、
何やら変な夢を見た気がするというのが気持ちが落ちている最大の理由。

「見た気がする」というのは、見たはずの夢の内容は全く覚えてないからで。

ただ起きた時には汗と涙で顔がぐしゃぐしゃ。
そして頭にガンガンと音が響くような妙な感じがしていた。
(幸い、頭痛は特になかった)

起こしに来てくれた妹のありあも、
普段は生意気な態度なのに、本気で心配をしてきた。
ある意味、貴重な経験かもしれない。
 
337:(しまむら) 2022/03/29(火) 22:00:06.32 ID:Bk/b3Ojd
今日はなんとなく同好会の活動をする気になれず、
休みの連絡をしようと部室へ向かおうとしたら、
教室の前にかすみちゃんがいた。

かすみ「か、かの子!これ!」

かすみちゃんが何かを手渡してきた。
これは……コッペパン?

かすみ「このコッペパン、かすみんが作ったんだ」

かすみ「美味しくできたから、その……」

しずく「この前のお詫びがしたいんだって。ね、かすみさん♪」

かすみ「ち、ちがっ!……くないけど。ただのお裾分け!!」

かのん「あはは……ありがとう、かすみちゃん」

かのん「でも、ホント気にしないで。私は大丈夫だから」
 
338:(しまむら) 2022/03/29(火) 22:03:16.75 ID:Bk/b3Ojd
しずく「……それ、本当?かのんさん」ズイッ

かのん「ウッ」

しずくちゃんがズイと顔を近づけてくる。
ち、近いです。

かのん「ほ、本当だよ?全然、ほら、元気だから!」

しずく「……ふふ、嘘が下手だね。かのんさんは」

しずく「それじゃちょっと、演劇部は無理かな?」

うっ、しずくちゃんには空元気は通じないか。
いや、今の私を見たら誰だってそう思うのかもしれない。
 
339:(しまむら) 2022/03/29(火) 22:06:09.62 ID:Bk/b3Ojd
しずく「まぁ、無理やり聞こうなんて思ってないけど、」

しずく「本当に助けが必要なら、すぐに言ってね?」

しずく「……わかってて隠されるのが、一番辛いんだから」

かのん「しずくちゃん……」

かすみちゃんも、しずくちゃんも、
もしかしたら旧同好会の事をまだ気にしているのかも。

かのん「ありがとう。しずくちゃん、かすみちゃん」

でもやっぱり言えない。
弱みを人に見せられないことが、とても情けないことのように思えてきた。
 
340:(しまむら) 2022/03/29(火) 22:09:06.79 ID:Bk/b3Ojd
◆◆◆

同好会を休んだ日の夜。
ちぃちゃんに電話してみる事にした。
何故だろう。なんだか声を聞いて安心したかったのかもしれない。

千砂都『もしもし、かのんちゃん?うぃっすー』

かのん「うぃっすー」

千砂都『……あれ?なんかもしかして元気ない?』

ギクリ。
普通にしているはずなのに。
しずくちゃんにも言われたけど、そんなにわかりやすいかな?私。
 
341:(しまむら) 2022/03/29(火) 22:12:12.11 ID:Bk/b3Ojd
かのん「いやー、ちょっと作曲で行き詰まっちゃっててさ」

本当。だけど理由としては嘘。

かのん「ちぃちゃん達の方は順調かなーって」

千砂都『それがね、私たちも作曲うまくいってないんだよ』

かのん「え?確か、恋さんって人にお願いするんだったよね?」

千砂都『そうそう』

千砂都『でも、はっきりと手を貸すつもりはないって言われちゃってさ……』

かのん「うわぁ……キツい言い方するね」
 
343:(しまむら) 2022/03/29(火) 22:15:10.37 ID:Bk/b3Ojd
千砂都「かのんちゃんさ、もしよかったらなんだけど……」

かのん「ん?何?」

千砂都「明日、結ヶ丘の練習見に来ない?」

かのん「え?」

千砂都『ほ、ほら!かのんちゃんも作曲の気分転換になるかもしれないしさ!』

千砂都『可可ちゃんも、すみれちゃんも、かのんちゃん見ればやる気出るから!』

千砂都『うちも負けてられないぞ~!って!』

千砂都『……ダメかな?』
 
344:(しまむら) 2022/03/29(火) 22:18:10.64 ID:Bk/b3Ojd
かのん「……ううん、全然いいよ!」

千砂都『ホント!?ありがとう!!』

どうやらちぃちゃんも、相当参っているのかもしれない。
無理もない。
ラブライブの予選期日は迫っている。
それまでに作曲してくれる人を見つけなければならないのだから。

正直私もそれどころではない所はある。
だから、ちょっとした現実逃避と言われても否定できない。
ちぃちゃんの頼みだから、と言い訳しつつも本当は自分のため。

ちぃちゃん、私やっぱり強くなんかないよ。
 
345:(しまむら) 2022/03/29(火) 22:21:12.79 ID:Bk/b3Ojd
◆◆◆

翌日、結ヶ丘のスクールアイドル部部室。
2日連続で同好会を欠席している事に若干負い目を感じつつも、
これは作曲のため。前向きな現実逃避なのだと
わけのわからない言い訳を自分にして心を保っている。

ちなみに結ヶ丘では他校に音楽系の設備を貸すことも多いらしく、
頻繁に他校生が出入りしている。
虹ヶ咲の制服を着た私が入っていっても特にお咎めはなかった。
(たぶん、ちぃちゃんも手続きをしてくれているのだろう)

なので、屋上で可可ちゃんとすみれちゃんの練習を見た後、
現在は部室でミーティングに私も参加している。
 
346:(しまむら) 2022/03/29(火) 22:24:04.63 ID:Bk/b3Ojd
可可「ハァ。可可たちのダンスのレベルは上がっているというのに」

可可「肝心の曲がないとラブライブには出られまセン……」

すみれ「焦っても仕方ないでしょ」

すみれ「千砂都が音楽科の生徒をあたってくれてるんだから、私たちはそれを信じて待てばいいのよ」

可可「……グッソクムシのくせに神経は図太いのデスね」

すみれ「アンタねえ!!!!」

千砂都「ごめんねぇ。なかなかスクールアイドルの魅力、分かってくれる人いなくて……」
 
347:(しまむら) 2022/03/29(火) 22:27:07.81 ID:Bk/b3Ojd
コンコン。
部室のドアがノックされる。

可可「入部希望者でしょうカ!!!?」

すみれ「そんなわけないじゃない」

可可ちゃんがドアを開けると、長い黒髪を後ろでまとめた子が現れた。

「失礼します」

千砂都「葉月さん!」

この人が、ちぃちゃんが言っていた葉月恋さんのようだ。
 
348:(しまむら) 2022/03/29(火) 22:30:08.00 ID:Bk/b3Ojd
可可「……何の用デスか」

恋「今日は他校の方が見学に来ているのですよね?その確認です」

恋「……あぁ、あなたですね」

恋「虹ヶ咲学園1年生、澁谷かのんさん」

かのん「は、はい。お邪魔してます」

恋「完全下校時刻までには帰っていただくように、お願いいたします」

かのん「わ、わかりました」
 
349:(しまむら) 2022/03/29(火) 22:33:10.49 ID:Bk/b3Ojd
恋「それでは私はこれで」

千砂都「葉月さん!!」

ちぃちゃんが恋さんを呼び止める。

恋「……なんですか、嵐さん」

千砂都「その、スクールアイドル部の作曲の件、考えてくれた?」

恋「……えぇ。考えましたよ」

恋「考えた上で、答えは変わりません」

恋「私はスクールアイドルの為に、作曲など致しません」
 
350:(しまむら) 2022/03/29(火) 22:36:28.34 ID:Bk/b3Ojd
可可「……なんデスか、その言い方!!」

千砂都「ちょっと、可可ちゃん!」

可可「どうして葉月サンは、スクールアイドルをそこまで嫌うのデスカ」

恋「…………」

恋「嫌っているわけではありません。ただ、無駄だと言っているのです」

恋「この学校は音楽に力を入れているのはご存じですよね?」

恋「スクールアイドルというお遊びでやる音楽より、優先されるべき部活がたくさん存在しますから」
 
351:(しまむら) 2022/03/29(火) 22:39:16.92 ID:Bk/b3Ojd
可可「そんなことっ…… ……!」

すみれ「…………」

更に言い返そうとする可可ちゃんを、すみれちゃんが止めた。

恋「……話は終わりですか?それでは」

そう言い残し、恋さんは部室を去った。
 
352:(しまむら) 2022/03/29(火) 22:42:05.35 ID:Bk/b3Ojd
すみれ「いちいち食って掛かるんじゃないわよ。時間の無駄ったら無駄よ」

可可「でもっ!」

すみれ「千砂都を信じて待とうとは言ったけど、あの生徒会長はダメね」

すみれ「千砂都も、作曲を頼むなら別の人にしなさい」

千砂都「うーん……そうなのかなぁ」

可可「可可は悔しいです!スクールアイドルは遊びでやってるわけではありまセン!!」

可可「かのんサン!ワタシ達で証明しましょう!スクールアイドルは素晴らしいものだって!!」

かのん「う、うん。そうだね……」
 
353:(しまむら) 2022/03/29(火) 22:45:44.32 ID:Bk/b3Ojd
その日の夜。
恋さんの言っていた事を思い出していた。

スクールアイドルはお遊びの音楽。
それを言われた時、全身がザワッとして、感情が昂った。
「そんな事ない!」という気持ちがあふれ出そうだった。

でも、口に出すことができなかった。
自分が今、スクールアイドルから、音楽から目を背けている事実が
その否定の言葉を発する事を拒んだのだ。

……このままじゃダメだ。
明日はいつも通り同好会に行こう。
そして自分の曲を作るんだ。

今は来た道を戻る事も、立ち止まる事も、横道に逸れる事もできない。
ただただ弱々しい自分の光を頼りに、前に進むしかない。

進む先は暗闇。星の輝きは雲に隠れて見えなくなってしまった。
 
360:(しまむら) 2022/03/30(水) 21:33:22.32 ID:bYPt1PpS
◆◆◆

翌日、同好会。
流石に3日連続で休むわけにはいかないと思い、部室へ向かった。

休んだ理由はお店の手伝いという事にはしてあったが、
みんな心配してくれていたようだ。
……やっぱり色々見透かされているらしい。

これ以上、立ち止まっているわけにはいかない。
早く自分の曲を作らなくちゃ。

歌えない私の曲を作る意味なんてあるのか。
頭によぎった疑問は、胸の内に閉まっておいて。
 
361:(しまむら) 2022/03/30(水) 21:36:04.49 ID:bYPt1PpS
ソロ曲が完成したメンバーは、次に衣装や舞台の案を出して、
服飾同好会や、演劇部なんかとミーティングを行っていた。

ソロ曲ができたメンバーは9人。
まぁ、私を除いた全員というわけで。

音楽科の人たちが作曲を手伝おうかと申し出があったが断った。

かのん「自分で歌う曲なんだもん!最初は一人で作ってみたいなって!」

そんな余裕があるわけない。
本当は違うけど、私は大丈夫だって思わせないと、
他でもない私自身が折れてしまいそうで。
 
362:(しまむら) 2022/03/30(水) 21:39:14.77 ID:bYPt1PpS
遅れた分を取り戻そうと、この日は一人部室に残り
ギターを抱えて自分の曲を作る事にした。

でもこんな気持ちで曲を作ろうとしてもアイデアなど出るわけもなく。

スクールアイドルを目指した時は
もう1度歌いたいって思ったけど、
今は歌が、音楽が好きなのかもわからなくなってきた。

私の表現したいものってなんだろう。
私が好きなもの……う~ん。
 
363:(しまむら) 2022/03/30(水) 21:42:07.01 ID:bYPt1PpS
かのん「カフェオレ、焼きりんご~♪」

かのん「大好きさルルールルー、トマトも食べたい~♪」

かのん「ハンバーグもいい~♪Foooooooo!!」ジャカジャーン

…………なんだこりゃ。
変てこな曲だけど妙にしっくり来てしまった。
私の好きなものっていうか、好きな献立だこれ。
 
364:(しまむら) 2022/03/30(水) 21:45:08.37 ID:bYPt1PpS
侑「すごい!すごいよ、かのんちゃん!」パチパチパチ

かのん「うぇえぇっっ!?侑さん!!!?」

誰もいないと思ってたところに、侑さんが拍手しながら現れた。
というか今の歌聞かれたって事だよね……?

侑「今のがかのんちゃんのソロ曲!?」

かのん「あーいや……今のは遊びでテキトーに歌っただけで……」

侑「遊びでこのクオリティ!?やっぱすごいなー!」

侑「それに歌!初めて歌声聞いたけど、きれいな声だね!!」

かのん「そ、そうですか……?」

この人、褒め上手だからなんだか調子が狂ってしまう。
 
365:(しまむら) 2022/03/30(水) 21:48:22.73 ID:bYPt1PpS
かのん「私なんて、全然ダメですよ」

侑「そんなことないよ。事実、みんなの曲作りは順調じゃない」

かのん「それは他のみなさんの協力のおかげです」

かのん「それに、同好会のみんなが自分の表現したいものをしっかりと持っていたからです」

侑「確かにね。しずくちゃんの曲はまるで1つの劇みたいだし、愛ちゃんの曲はラップがまるでダジャレみたいだったり!」

侑「みんなそれぞれ、自分のこだわりみたいなのを感じるよね!」

かのん「こだわり……。そうですね」
 
366:(しまむら) 2022/03/30(水) 21:51:18.52 ID:bYPt1PpS
侑「かのんちゃんは?何か、歌に対してこだわりとかってないの?」

かのん「うーん……どうなんでしょう」

かのん「私、あんまりこだわりとかなくて」

かのん「自分の好きなこともよくわからなくて……」

侑「音楽は?歌う事とか、好きじゃない?」

かのん「……好き、なはずなんですけど、」

かのん「今はみんなの前で好きと言える自信がないんです」

侑「…………」
 
367:(しまむら) 2022/03/30(水) 21:54:32.19 ID:bYPt1PpS
侑「……それってもしかして、この前せつ菜ちゃんに言ったことと関係してる?」

かのん「私、何か言いましたっけ……?」

かのん「あの時、自分でも無我夢中で何を言ってたか覚えてなくて」

侑「その、歌えなくなったとか、音楽やめようと思った、とか……」

かのん「……はい、そうですね」

もうバレてしまっているなら話すしかない。
というか、私の精神は限界に近かった。
それに、この時なら、この人になら言っても許される気がしたのだ。
 
368:(しまむら) 2022/03/30(水) 21:57:10.45 ID:bYPt1PpS
私は侑さんに全て話した。

小さい頃、人前で歌えなくなったこと。
それで受験に失敗したこと。
高校入学を機に音楽はやめるつもりだったこと。
偶然せつ菜さんのライブを見てもう一度やってみようと思ったこと。
でも、先日また同じ失敗をしてしまったこと。

私が話す言葉を、侑さんは黙って聞いていた。
普段は表情がコロコロ変わる、感情豊かな侑さんだったけど、
この時はただただ静かに、私の目を見て話を聞いてくれた。

なんだか、こういう所が先輩っぽくてズルい。
私より背は小さいけれど、懐の深さはきっと私よりずっと大きいのだろう。
歩夢さんが信頼する理由がわかる気がする。
 
369:(しまむら) 2022/03/30(水) 22:00:14.70 ID:bYPt1PpS
かのん「そんなワケで今スクールアイドルとして頑張ろうとして、」ジワ

かのん「もう昔みたいにウジウジするのはやめようって思ってるのに、」ポロッ

かのん「やらなくちゃ、やらなくちゃって思えば思うほど理想から遠ざかってる気がして」ポロポロ

かのん「好きなはずの歌も、今は怖くて怖くてたまらない……」ポロポロ

全て語り終えた後も、私の独白は止まらなかった。
いつの間にか涙も溢れてきて、嗚咽でうまく喋れなくなっている。
 
370:(しまむら) 2022/03/30(水) 22:03:07.72 ID:bYPt1PpS
かのん「でも同好会のみんなや、ちぃちゃんたちはどんどん先に進んでいってて、」

かのん「私だけ、立ち止まってるままなんです」

かのん「追いつこうと思うんだけど、足が全然動かないんです」

ふと、スポットライトの下で泣いている小さな私の姿が浮かんだ。

そうだ。私はあの頃のままなんだ。
ステージの上で歌えずにいた弱虫な私がまだ私の中にいるんだ。
 
371:(しまむら) 2022/03/30(水) 22:06:08.14 ID:bYPt1PpS
かのん「私、音楽も、歌も好きでいたい……っ」

かのん「でも、歌からはきっと私は嫌われてる」

かのん「そんな風に考えちゃって、私の好きなもの、ますまずわからなくなって」

かのん「もう、どうしていいかわかんないんです……」

侑「…………」

話し終えた私は、震えながら立ち尽くしていた。
顔は涙でぐしゃぐしゃ。
この光景も、どこかで見たことがある気がする。

侑さんは黙って聞いてくれていたが、ついに口を開いた。
 
372:(しまむら) 2022/03/30(水) 22:09:18.12 ID:bYPt1PpS
侑「かのんちゃん、話してくれて、ありがとう」

侑「それと、気づいてあげられなくてごめんね」

侑「……いや、本当は何かある事は気づいてたんだけどさ」

侑「私たち、かのんちゃんなら大丈夫だって勝手に思って、甘えちゃってたのかも」

侑「本当に、ごめんなさい」

お礼と謝罪。
侑さんが謝る必要なんかないのに。
逆に謝らせてしまったことで、どうしようもなく自分が情けなくなった。
 
373:(しまむら) 2022/03/30(水) 22:12:13.94 ID:bYPt1PpS
侑「でもね」

侑「まず、かのんちゃんは間違いなく今でも音楽が、歌が好きなはずだよ」

かのん「!」

侑「ここしばらく、みんなのために曲を作ってる時、すっごく時間をかけて、すっごく頭を悩ませてた」

侑「そんなの、好きじゃないとできないでしょ?」

侑「それに悩んでる時だって、かのんちゃんは楽しそうに見えたよ」

侑「さっきもめちゃくちゃ楽しそうに歌ってたじゃない。ハンバーグ~って」

かのん「それは、お遊びの歌で、本気じゃないから……」

侑「じゃあ今の歌を本気でやってみようよ!」

侑「そしたら立派なスクールアイドルの曲になるじゃない!」
 
374:(しまむら) 2022/03/30(水) 22:15:13.25 ID:bYPt1PpS
侑「合唱コンクールとか、受験の合否とか、確かに歌は人に評価されるものかもしれない」

侑「でも、本来歌ってそういうものじゃないと思うんだよね」

侑「自分の好きなものを、好きなように歌うのが歌であり、音楽なんだよ」

侑「それこそ、さっきかのんちゃんが歌っていた歌のようにね」

侑「スクールアイドルだってラブライブって大会で評価もされるし、順位もつくけど、」

侑「私たち、ニジガクがやりたいスクールアイドルはそれじゃない」

侑「むしろそれは、かのんちゃんがやりたいって思った事と同じだったんじゃないかな?」

かのん「私の、やりたい事……」
 
375:(しまむら) 2022/03/30(水) 22:18:18.31 ID:bYPt1PpS
侑「そう。競ったり、比べたりするんじゃなくて」

侑「どれだけ自分の心を伝えることができるかの歌」

侑「私やかのんちゃんが最初に聞いたせつ菜ちゃんの歌だってそうだったはずだよ」

侑「あの歌でせつ菜ちゃんの本気の心を受け取ったからこそ、私たちはこうして出会って、一緒に活動してる」

そう、
私はあの歌を聞いた時、思ったんだ。
「私もあんな風に自分の気持ちを歌で伝えられたら」と。

歌の上手さでも、ダンスの技術でもなく、
そんな自由な歌に私は憧れたんだ。
 
376:(しまむら) 2022/03/30(水) 22:21:25.59 ID:bYPt1PpS
侑「それに、かのんちゃん自身が確か言ってたでしょ?」

侑「『どんな理由があっても、大好きって事をやめられるわけがない』」

侑「『大好きな気持ちに嘘なんてつけない』って!」

侑「かのんちゃんはいつだって音楽の事で悩んで、でも音楽がきっかけで前に進もうとしてる」

侑「そんな音楽が好きな人、私は他に知らないよ!」
 
377:(しまむら) 2022/03/30(水) 22:24:06.72 ID:bYPt1PpS
……そっか。
私は人前で歌が歌えなくなって、音楽が嫌いになったんだと思っていた。

でもそれは違う。
歌えない時も、曲が作れなくて悩んだ時も、
スクールアイドルを否定されて怒った時も、
ずっと私は音楽が大好きだったんだ。

そんな音楽から目を背けていたから、私はずっと苦しかったんだ。

点数がどうだとか、合格か否かだとか、
私が音楽を続けたい理由はそんなんじゃない。
私が本当に音楽を続けたい理由は、楽しいから。大好きだから。
ただそれだけなんだ。
 
378:(しまむら) 2022/03/30(水) 22:27:06.20 ID:bYPt1PpS
ギュッ

かのん「!!」

侑さんが私を優しく抱きしめる。

侑「これからは、かのんちゃんはかのんちゃんの為だけに歌えばいいよ」

侑「周りの目とか、評価とかなんて関係なく、好きな歌をね」

かのん「……侑さん」

侑「どう?ちょっとは元気出た?」ニコッ

やっぱり、侑さんはズルい。
あんなに長い間悩んでいたことなのに、
先日あれだけ打ちのめされたはずなのに、
侑さんに言われただけで
またやってみようって気になってしまう。
 
379:(しまむら) 2022/03/30(水) 22:30:10.89 ID:bYPt1PpS
かのん「侑さん……ありがとう、ございます」

かのん「なんか、侑さんの言う言葉って、勇気をもらえますね」

侑「ブフッッッッッッッ」

え。なに。

侑「『侑』さんの『言う』言葉に『勇』気って……!」

侑「かのんちゃん、急に笑わさないでよぉ~!!あっはっはっはっは!!」

どうやら侑さん、笑いのツボが相当浅いらしい。
さっきまでのシリアスなムードが一気に吹き飛んだ。
そういう所含めて、この先輩は大物だ。……たぶん。
 
380:(しまむら) 2022/03/30(水) 22:33:04.24 ID:bYPt1PpS
かのん「正直、まだできるって気持ちはありません。今でも人前で歌うって事考えると、すごく怖いです」

侑「…………」

かのん「でも、なんだか安心しました」

かのん「自分が歌が好きってこと、改めてわかったから」

かのん「……明日から、また曲作ってみます」

かのん「また何か悩むことがあったら、侑さんに相談させてください」

侑「もちろんいいよ!」
 
381:(しまむら) 2022/03/30(水) 22:36:16.81 ID:bYPt1PpS
かのん「それと……」

かのん「もし曲ができたら、一番最初に侑さんに聞いてほしいです」

侑「……!」

侑「うん、楽しみにしてるね」

私の抱えてたもの、私の持っていた弱さ、全て話して
それを全て受け止めてもらった。

ちょっと話しただけだけど、
私の中に迷いはもうなくなっていた。
これが侑さんの持つ力なのかもしれない。

私は音楽が、歌が、スクールアイドルが好きだ。
そんな私をみんなに早く知ってほしい。

私の心をおおっていた雲は晴れた。
光の小さな私の灯は、再び明るさを増していく。
 
382:(しまむら) 2022/03/30(水) 22:39:04.72 ID:bYPt1PpS
侑「……歩夢も、かのんちゃんも、同好会のみんなも、新しい一歩を踏み出そうとしてる」



侑「かのんちゃんが歌えたら、私も――――」
 
390:(しうまい) 2022/03/31(木) 21:27:05.97 ID:sA1LMz0J
◆◆◆

もう何度目かの奮起で、
私は再び自分の曲を作り始めた。

やる気アリ。迷いナシ。
だけどだからといって曲作りが簡単に進むとはいかないわけで。

やっぱり音楽科の人に手伝ってもらうべきだったか。
いやいや、今さらだ。
そんなカッコ悪いことしたくない。

それに今なら嘘偽りなく言える。
自分で歌う曲なんだもん。
最初は一人で作ってみたい、と。
 
391:(しうまい) 2022/03/31(木) 21:30:05.75 ID:sA1LMz0J
彼方「かのんちゃんや、かのんちゃんや」

放課後、彼方さんが声をかけてきた。
隣にはエマさんも一緒にいる。

彼方「お腹すいてないかい?良いところ知ってるから、ちょっくら寄り道していこうよ~」

かのん「え?別にいいですけど、どこですか?」

エマ「着いてからのお楽しみだよ♪Andiamo~!」

かのん「え、えぇ~~~……」

そのままゆるゆると連れていかれる私。
この2人が組むと、どうにも力が抜けてしまう。
 
392:(しうまい) 2022/03/31(木) 21:33:05.00 ID:sA1LMz0J
彼方「ここだよ~」

場所は門前仲町の商店街。
その一角にある老舗風のお店。

「もんじゃみやした」

もんじゃ屋さんか。
店の外からもおいしそうな出汁の香りが漂ってくる。

ん?みやした……宮下?
 
393:(しうまい) 2022/03/31(木) 21:36:06.65 ID:sA1LMz0J
愛「いらっしゃいませー!3名様ご案内ー!」

あ、やっぱり。
このお店は愛さんのお家だった。

愛「あれ?あんまり驚いてないね?」

かのん「あー、まぁ、宮下って店名だったのでもしかしたらと思って……」

愛「うぅ~、悔しいー!でも、もんじゃの味は期待してて!」

愛「食べた時の驚きは、こんな『もんじゃ』ないからね!もんじゃだけにっ!」ニコッ

かのん「あ、あはは。楽しみにしてま~す……」

……うーん!反応に困る!!
 
394:(しうまい) 2022/03/31(木) 21:39:08.70 ID:sA1LMz0J
エマ「わたし、もんじゃって初めてなんだぁ。これ、どうやって食べたらいいの?」

彼方「ふっふっふ、まぁ待ちなせぇエマちゃん。まずこうやって土手を作ってだね……」

彼方さんは慣れた手つきでもんじゃを作り始める。
そういえば彼方さんは料理が得意なんだっけ。

彼方「土手を作ったらその中にだし汁を……えいやっ」ドバーッ

エマ「うわー!大丈夫!?全部流れちゃわない!?」ジューッ

彼方「しっかり土手を作ったから流れないよ~」

エマさんは物珍しさに目をキラキラさせて
もんじゃが出来ていくのを眺めている。

ダメだ。
この2人のやり取り、ずっと見てられる。
 
395:(しうまい) 2022/03/31(木) 21:42:14.96 ID:sA1LMz0J
◆◆◆

もんじゃもいい感じに焼けてきた頃。
3人でもんじゃをつつきながら雑談をする。
話題はもちろん同好会について。

エマ「わたしね、ここ最近ずっと楽しいんだぁ」

エマ「同好会でまた活動できるようになって、果林ちゃんも加わってくれて」

エマ「かのんちゃんがわたしの為に曲も作ってくれて」

エマ「そしたら次はライブもしたいな~って、どんどん欲張りになっちゃうよぉ」

エマさんはスクールアイドルになる為にスイスから日本にやってきたくらいだ。
活動ができなかった時はつらかった分、
今の同好会活動がすごく楽しいのだろう。
 
396:(しうまい) 2022/03/31(木) 21:45:05.20 ID:sA1LMz0J
彼方「それは彼方ちゃんも同じだよ~」

彼方「遥ちゃんともスクールアイドルのお話ができて、と~っても楽しいからね~」

遥ちゃんというのは彼方さんの妹。
東雲学院でスクールアイドル活動をしている。
彼方さんも遥ちゃんと共に、今をすごく楽しんでいる。

彼方「で、どうだね?かのんちゃんは。同好会の活動、楽しい?」

かのん「私は……」

かのん「……はい。すごく楽しいです」
 
397:(しうまい) 2022/03/31(木) 21:48:05.46 ID:sA1LMz0J
かのん「正直入った時は私にできるのかなって不安だらけで」

かのん「実際大変なこともいっぱいあって」

かのん「というか、現在進行形で出来ない事に悩んでるんですけど」アハハ

かのん「でも、その度に先輩や、かすみちゃんたちに元気貰って、また立ち直って」

かのん「なんか、そういうのって何も始めなかったら経験しなかったんだろうなって思うと」

かのん「やっててよかったな、って思うんです」
 
398:(しうまい) 2022/03/31(木) 21:51:15.22 ID:sA1LMz0J
彼方「なぁんだ、もうかのんちゃんはわかってるんだね」

かのん「え?」

彼方「かのんちゃんは意外と単純ってことだよ」

え?ちょっと待って。
もしかして私今ディスられてます?

彼方「かのんちゃんだけじゃなく、彼方ちゃんも、エマちゃんも、みんなもだけどね」
 
399:(しうまい) 2022/03/31(木) 21:54:10.42 ID:sA1LMz0J
彼方「音楽って感情だったり気持ちだったり、目に見えないものを表現するものじゃない?」

彼方「だからいざ形にしようとすると難しく考えちゃうこともあるけどサ」

彼方「多分、私たちの心ってそんなに複雑じゃないんだよ」

彼方「楽しい、つらい、おいしい、眠たい。そんな単純なことの連続」

彼方「だからかのんちゃんの歌も、もっとストレートでいいんじゃないかなって、彼方ちゃんは思うわけですよ」
 
400:(しうまい) 2022/03/31(木) 21:57:07.01 ID:sA1LMz0J
エマ「おぉ~!彼方ちゃん先輩っぽいね!」

彼方「エマちゃんや。私たち元々先輩ですぜ」

エマ「そうでした!」

エマ「でもわたしもスクールアイドルになりたいって思ったのは
 何を表現したいってわけじゃなくて、
 みんなの心を歌で癒してあげたいって思ったからだし」

エマ「難しく考えることはない、っていうのはわかるな」

エマ「日本のことわざにもあるよね。『考えるな、感じろ』って!」

彼方「それは日本人の言葉ではないね~」
 
401:(しうまい) 2022/03/31(木) 22:00:10.74 ID:sA1LMz0J
確かにそうかもしれない。

特に虹ヶ咲学園に入ってからは落ち込んだり、元に戻ったり、
その日の出来事によって感情が乱高下していた。

そっか。私は意外と単純。
その通りだと思う。

事実、私の頭の中には伝えたいメロディが、
伝えたい詩が次々と生まれてきている。

昨日あんなに悩んでいたのにね。
 
402:(しうまい) 2022/03/31(木) 22:03:04.75 ID:sA1LMz0J
かのん「ありがとうございます。彼方さん、エマさん!私、なんか曲作れそうです」

彼方「それはよかったよかった」

かのん「あの私、今日は帰ります!帰って私の曲、作らなきゃ!」

愛「おっ?かのん元気出たっぽい?お代は先輩方に任せていいよ!行きな!」

かのん「はい!ありがとうございます!」ダッ
 
403:(しうまい) 2022/03/31(木) 22:06:11.77 ID:sA1LMz0J
エマ「ふふ、やっとわたしたち、先輩らしいことできたかな?」

彼方「そうだね。いや~、一度同好会が解散になっちゃった時、
 私たち3年生なのに何もできなかったからねぇ」

愛「さっすがカナちゃんとエマっち!やり方が『ニク』いね~!」

愛「というわけで、お肉サービス!焼いて食べな!」

エマ「うわぁ、ありがとう!愛ちゃん!」ジューッ

愛「400円だよっ!」

彼方「サービスとは」
 
405:(しうまい) 2022/03/31(木) 22:09:13.04 ID:sA1LMz0J
それから私は私のための曲作りを始めた。

まずは曲から。
基本的には楽しく歌えるような明るいメロディ。
その中に、多少の切なさを加えて、ちょっぴりの不安を表現。
でも盛り上がる所は力強くハキハキと。

次に歌詞。
ずっと迷って立ち止まっていた私。
だけど突然転機が訪れ、魅力に染まっていく私。
そして今、新しいスタートを切れるように願いを込めて。

何も難しく考えることはない。
私が思ったこと、感じたこと、
全部この曲に込めるんだ。
 
411:(しうまい) 2022/04/01(金) 21:39:10.77 ID:lUz701PZ
◆◆◆

かのん「侑さん、私の曲ができました」

あれからほどなくして、曲は完成した。
多少粗削りでも、私だけの歌だ。

仮ではあるが、ひとまず形になった音源を侑さんに聞いてもらう。

侑「…………」

もちろん私の声で歌も入っている。
そういえば、高校に入って人に歌を聴かせるのは初めてだ。
(この前聞かれた件はノーカン!)

侑「…………ふぅ」カタッ

再生が終わったのか、イヤホンを外した。
 
412:(しうまい) 2022/04/01(金) 21:42:29.48 ID:lUz701PZ
侑「なんか、うまく言えないけど……すごく良い曲だと思うよ」

侑「かのんちゃんの今の気持ち、全部伝わった気がするよ」

いつものハイテンションな侑さんとは違い、
しみじみと感想を伝えた。
私の心の中が嬉しさと安堵の気持ちでいっぱいになっていく。

かのん「ありがとうございます!」

侑「ふふっ、早くみんなにも聞かせてあげたいな!」

侑「同好会のライブの準備、進めないとね!」

かのん「あ、その事なんですけど……」
 
413:(しうまい) 2022/04/01(金) 21:45:09.63 ID:lUz701PZ
かのん「私の最初のライブは、私一人のソロライブにしようと思うんです」

かのん「衣装も、ステージも、音源もいりません」

かのん「私が一人で演奏して、一人で歌おうと思います」

侑「……理由を聞いていいかな?」

かのん「私が、『スクールアイドル』になる為です」
 
414:(しうまい) 2022/04/01(金) 21:48:15.28 ID:lUz701PZ
かのん「私、勢いだけで同好会に入って、その後まだなんにもしてないから」

侑「そんな事は……!メンバー集めだって、作曲だって」

かのん「あぁ、そういうことじゃなくて」

かのん「同好会のみんなはそれぞれ自分のやりたい事がはっきりしていて、」

かのん「その為に頑張って、自分を表現しようとしていました」
 
415:(しうまい) 2022/04/01(金) 21:51:40.13 ID:lUz701PZ
かのん「でも私は結局何がしたいのかわからないまま、結局侑さんに言うまで自分のことも隠し続けて、」

かのん「せっかくやろうって決めたのに、ずっと立ち止まってた」

かのん「途中から、なんかそれでもいいかなとも思っちゃったんですよね」

かのん「同好会の力になれているなら、自分の事なんてって」

かのん「同好会にいながら、スクールアイドルを諦めようとしてました」

かのん「だけど、そうじゃない。私はスクールアイドルになるためにこの同好会に入ったんだ」

侑「かのんちゃん……」
 
416:(しうまい) 2022/04/01(金) 21:54:44.66 ID:lUz701PZ
かのん「私はまだ胸を張って自分が『スクールアイドル』なんて言えません」

かのん「だから、みんなと並んで舞台に立てるように」

かのん「まずは自分に誓いを立てたいんです」

侑「…………」

侑「……うん、わかった」

侑「じゃあ、すぐにでも準備をしよう!」

侑「場所と、機材と、あとお客さんもいっぱい呼ぼうね!」

かのん「ごめんなさい、私のワガママで……」

侑「いいのいいの!これが私の仕事だから!」
 
417:(しうまい) 2022/04/01(金) 21:57:19.16 ID:lUz701PZ
それからとりあえず私と侑さんで予定を詰めることになり、
侑さんは「待ってました」とばかりに話を進めていった。

日程は1週間後。
場所は中庭。
ステージなどは作らず、高めの台を用意するだけ。
お客さんは、予告をして、集まるだけ。

詳細は明日、同好会のみんなにも手伝ってもらいながら
具体的な所まで決めるとして、今日は解散となった。
 
418:(しうまい) 2022/04/01(金) 22:00:42.35 ID:lUz701PZ
◆◆◆

その日の帰り際。
すっかり日も落ちていて、校内に人気はなくなっていた。

私も早く帰ろうと急いでいる所に、まだ電気がついている部屋が目に入った。
生徒会室だ。
生徒会の人たちってこんなに遅くまで仕事をしているんだ。

と、なんとなく部屋の前で思いにふけっていると、

「かのんさん?どうされました?」

そこにはせつ菜さん、
――いや、メガネをかけて髪を編んでいる今は中川菜々さんか。
菜々さんが声をかけてきた。
 
419:(しうまい) 2022/04/01(金) 22:03:12.80 ID:lUz701PZ
かのん「あ、いえ。特に用事はないんです」

かのん「ただ、こんな遅くまで生徒会って仕事してるんだなーって」

すると菜々さんはクスッと笑う。

菜々「ふふ。実は仕事をしていたわけではないんです」

かのん「え?でもこんな遅くまで……」

菜々「かのんさん、よろしかったら少し入っていかれますか?」

菜々「優木せつ菜の……いえ、中川菜々のもう1つのヒミツを教えてあげます」

なんだろう、すごく気になる。
 
420:(しうまい) 2022/04/01(金) 22:06:14.00 ID:lUz701PZ
菜々「私が遅くまで残っていた理由は……これです!」

菜々さんは生徒会室の奥にあるカギのついたキャビネットを開ける。
そこにはたくさんの本や資料が……
って、よく見たら漫画にラノベ、アニメのBDだ!

菜々「実は私、漫画やアニメが大好きなんです」

菜々「私の親は厳しくて、家の自室に置くことができないので、ここに私のコレクションを置かせてもらってるんです」

菜々「それでたまに、ここで趣味を堪能しているんですよ!」ペカー

入部の時もそうだったけど、割と生徒会長の特権を良いように使ってるな……。
でも、振られている以上の仕事をこなしているらしいので、まぁトントンなのかもしれない。
 
421:(しうまい) 2022/04/01(金) 22:09:11.26 ID:lUz701PZ
菜々「それで、かのんさんはどうしてこんなに遅くまで?」

かのん「実は昨日、私の曲が完成したので、侑さんに聞いてもらっていたんです」

菜々「えっ!?本当ですか!?私も聞きたいです!!」

かのん「あー、いや、後のお楽しみということで」

菜々「???」

かのん「実はその、1週間後に私のソロライブをするって話になっていて……」

菜々「なんと!それは楽しみですね!期待していますよ!」
 
422:(しうまい) 2022/04/01(金) 22:12:19.96 ID:lUz701PZ
かのん「……私、せつ菜さんにはとても感謝してるんです」

菜々「私に、ですか?」

かのん「はい。私がスクールアイドルを始めようと思ったのは……」

かのん「もう一度音楽を始めようって思ったのは、せつ菜さんのライブを見たからですから」

菜々「侑さんや歩夢さん、愛さんや璃奈さんもそう言ってくれてました」

菜々「私のワガママを通したライブでしたが、無駄ではなかったという事ですね」

かのん「はい!本当に」
 
423:(しうまい) 2022/04/01(金) 22:15:14.31 ID:lUz701PZ
菜々「それと、私こそかのんさんには感謝しているんですよ」

え?私に?私がせつ菜さんに何かした事なんてあったっけ?

菜々「何言ってるんですか」

菜々「忘れたとは言わせませんよ。私に思いっきりぶつけてくれたあの啖呵を」

かのん「あ、アレですか。あはは……」

できればちょっと忘れててほしいんだけどなー。
自分でも何言ってるかわからなかったし。
 
424:(しうまい) 2022/04/01(金) 22:18:45.81 ID:lUz701PZ
菜々「今思えば、私は自惚れていたのかもしれませんね」

菜々「私がみんなを導かなきゃいけない。それができないからいる意味がない、なんて」

菜々「ふふ、ちょっと自意識過剰でした」

かのん「…………」

菜々「でも、かのんさんの言う通りでした」

菜々「同好会のみなさんにとって私はカッコいい先輩アイドルである前に」

菜々「一緒に活動していく仲間だと思ってくれていました」

菜々「それにも気づかないで、私、バカでしたね」
 
425:(しうまい) 2022/04/01(金) 22:21:43.20 ID:lUz701PZ
かのん「……私も、そうでしたから」

かのん「勝手に自分はできてなくちゃいけないって思ってて、」

かのん「挫折した時、もう自分に価値なんてないんだーって落ち込んで」

かのん「本当に自分を大事にしてくれてた人を無視しちゃってました」

菜々「……そうだったんですね」

菜々「もしかしたら私たち、実は似ているかもしれませんね」

かのん「えええ!?いやいやそんな恐れ多いです!」

菜々「ふふふっ」
 
426:(しうまい) 2022/04/01(金) 22:24:43.10 ID:lUz701PZ
菜々「さて、1週間後が初ライブという事でかのんさん」

菜々「スクールアイドルの先輩として、1つアドバイスです!」

かのん「はいっ!なんでしょう!」

菜々「初めてのライブは不安かもしれませんが、」

菜々「目の前のお客さんはみんな味方で、スクールアイドルが好きな仲間なんです!」

菜々「思いっっっっきり、楽しんでください!!」

かのん「お客さんは、みんな味方……仲間……」

憧れのスクールアイドルからのアドバイス。
それはまだ私の中に残っていたわずかな不安を優しくぬぐってくれた。
ありがとうございます。せつ菜さん。
 
427:(しうまい) 2022/04/01(金) 22:27:22.39 ID:lUz701PZ
いよいよ1週間後。
その日、私はスクールアイドルとして人前で歌を歌う。

といっても、まだ不完全な小さな会場だけど。
それでも私にとっては始まりの大舞台だ。

私の中に灯る小さな光を、
みんなの心に届けてみせる。
 
433:(しうまい) 2022/04/02(土) 16:45:16.16 ID:SEbmuchb
◆◆◆

それからの1週間はあっという間だった。

侑さんと話した翌日、
同好会のみんなにソロライブの事を伝えると
快く協力してもらえることとなった。

場所の確保……は、生徒会を通すことになっているので実質顔パス。
とはいっても、せつ菜さんが色々手を回してくれたみたい。

マイクなどの機材は他の部活から拝借。
音響同好会というなんともピンポイントな団体の協力もあり、
今後のライブでも力を貸してくれると言ってくれた。

あとは集客。
それは同好会メンバーでチラシを作り配り歩いた。
クラスのみんなの手伝ってくれ、反応は上々の様だ。

同好会が力を合わせて行う最初のイベントが私のソロライブというのは、
自分で言い出した事ではあったけど、なんだかちょっとむずがゆい。
でも内心すごく嬉しかったし、楽しい1週間だった。

――そして迎えた、ライブ当日。
 
434:(しうまい) 2022/04/02(土) 16:48:10.60 ID:SEbmuchb
開始の少し前。
同好会のメンバーで集まり、最終調整も終わった頃。

かのん「お疲れ様、みんな。今日は本当にありがとう」

璃奈「かのんちゃんの晴れ舞台だもん。璃奈ちゃんボード『やったったでー』」

かすみ「あーあ!新しい同好会のお披露目トップバッターはかすみんが努めようと思ったのにな!」

しずく「はいはい。また始まった」

かすみ「ちょっとしず子!何その反応!」

しずく「かのんさんがライブやるって聞いた時、一番嬉しそうな顔してたからね~」

璃奈「なんだったら録画もあるよ。見る?」

かすみ「なんであるの!?りな子こっわ!!」
 
435:(しうまい) 2022/04/02(土) 16:51:23.75 ID:SEbmuchb
彼方「それにしても、ついに曲が完成したんだね~。これはアドバイスした甲斐ありましたなぁ」

エマ「ふふ。わたしたちのもんじゃ会も力になれてたらいいね」

果林「全く、エマも彼方もズルいわよ」

果林「どうしてその会に私を呼んでくれなかったの!?」

エマ「果林ちゃんも誘ったんだよ?」

エマ「でも、『今、食事制限中だから~』って」

果林「それでも誘うの!!」

彼方「エマちゃんの前だと果林ちゃん、駄々っ子みたいになるねぇ~」
 
436:(しうまい) 2022/04/02(土) 16:54:12.85 ID:SEbmuchb
愛「かのんの曲って、手伝いとか受けずに一人で作ったんでしょ!?マジすごいよねー!」

せつ菜「毎日遅くまで残って頑張っていましたからね」

愛「そういやせっつーも遅くまで生徒会室で残ってたよね!お仕事いつもごくろーさん!」

せつ菜「あ、いや、私はその……」

歩夢「ふふっ、侑ちゃんと一緒に残ってた時もあったよね」ズイ

歩夢「その時、何もなかったよね?例えば、抱きしめてもらった、とかさ」ズズズイ

歩夢「……何もなかったよね?」ズズズズズズ

愛「あ、歩夢?wどしたん?目笑ってないよ?」
 
437:(しうまい) 2022/04/02(土) 16:57:24.67 ID:SEbmuchb
千砂都「おーい、かのんちゃん!」

侑「あれ、千砂都ちゃん!」

可可「お久しブリです、侑さん」

侑「みんなも来てくれたんだね!」

千砂都「かのんちゃんがぜひ来てほしいって!」

すみれ「えぇ。私たちと……何故かこの人もね」

恋「……どうも、初めまして」

恋「結ヶ丘で生徒会長をしております。葉月恋です」
 
438:(しうまい) 2022/04/02(土) 17:00:06.59 ID:SEbmuchb
可可「……かのんサン、何故この人を呼んだのデスか?」

かのん「あはは、ちょっとね」

かのん「……今日は来てくれてありがとう。葉月さん」

恋「嵐さんが強く言うので仕方なく、です」

かのん「今日は私の、スクールアイドルとしての歌を聞いていってほしいんだ」
 
439:(しうまい) 2022/04/02(土) 17:03:09.97 ID:SEbmuchb
恋「……それと引き換えに部のための作曲を承諾しろなんて言いませんよね?」

かのん「まさか。そんな事は言わないよ」

かのん「でも私の歌を聞いて、少しでもスクールアイドルの事、わかってくれたら」

かのん「少しでもいいなって思ってくれたら、また考えてみてほしいんだ」

千砂都「かのんちゃん……」

恋「……まぁ、いいでしょう」

かのん「約束だからね!」
 
440:(しうまい) 2022/04/02(土) 17:06:07.59 ID:SEbmuchb
◆◆◆

本番前。
会場には多くの虹ヶ咲の生徒が集まってくれた。
いつかのカラオケ大会よりも人数はもっと多い。

でもなんでかな。
あの時と違って大丈夫な気がしてる。

多分それは、「私の作った曲」っていう
最強の武器を持っているから。

この曲があれば、私は歌える。
 
441:(しうまい) 2022/04/02(土) 17:09:06.73 ID:SEbmuchb
侑「大丈夫そう?かのんちゃん」

かのん「はい。侑さんも、ありがとうございます」

侑「今日はかのんちゃんの大好きを全部伝えてきて!」

かのん「はい!」

私はギターを持ち、生徒が集まる方へ一歩踏み出す。
中庭に小さなお立ち台が置かれただけの簡素なステージ。
――そういえば、同好会はこの小さい中庭から再出発したんだっけ。
でも私にとっては、ここが新しいスタートの舞台なんだ。
 
442:(しうまい) 2022/04/02(土) 17:12:16.02 ID:SEbmuchb
台に上がると、生徒のひとりひとりの顔がよく見えた。
大勢の虹ヶ咲の生徒に、結ヶ丘の生徒も少し。
みんな瞳をキラキラさせてこちらを見ている。

緊張で心臓がバクバク言っている。
今ここで何か言葉を言えば、心臓が口から出てしまいそうなくらい。

でも大丈夫。
ここに来てくれているみんなは、仲間なんだ。
 
443:(しうまい) 2022/04/02(土) 17:15:10.91 ID:SEbmuchb
かのん「みなさんこんにちは」

かのん「普通科一年の、澁谷かのんです」

力を振り絞ってようやく出た一言は面白みのない自己紹介。
いつか教室でした時と同じだなと思った。

でもあの時の私とは違う。
私には夢が、目標ができた。
もちろん猫を飼うことなんかじゃない。
 
444:(しうまい) 2022/04/02(土) 17:18:08.41 ID:SEbmuchb
かのん「実は私、小さい頃から大勢の前で歌うことができなくて、本来受験していた音楽科から落ちちゃってるんです」

千砂都「…………」

若干会場がざわっとなる。

かのん「それからもう歌はもうやめようって思って、この虹ヶ咲学園の普通科に入って、」

かのん「音楽とは無縁な人生を歩んでいこうって思ってました」

かのん「でも、ある人がきっかけで、もう一度歌を始めたいって気になったんです」

視界の端にせつ菜さんを捉える。
せつ菜さんも気づいたのか、こちらに向けて笑顔を見せてくれた。
なんだかまた少し勇気をもらっちゃった。
 
445:(しうまい) 2022/04/02(土) 17:21:21.71 ID:SEbmuchb
かのん「その後も、いろんな人から私は勇気をもらいました」

かのん「それぞれ形は違うけど、みんな私と同じ夢を持って、夢に向かって頑張ってる人たちです」

そう、私と同じ夢。
スクールアイドルとして舞台で歌うこと。

私は同好会のみんなの曲を作る中で、
ひとりひとりの夢について聞いてきた。
みんながみんな異なるものだったけど、
「スクールアイドルとして舞台に立ちたい」という事は共通していた。

私は、今日ここで、スクールアイドルになる。
 
446:(しうまい) 2022/04/02(土) 17:24:16.90 ID:SEbmuchb
かのん「その人たちの協力もあって、私は今ここにいます」

かのん「その人たちの力があってできた曲を今から私は歌います」

この曲は歌詞も、メロディも私一人で作った曲だ。
でもそこには同好会みんなから貰ったものが詰まっている。

たくさん笑って、
たくさん悩んで、
たくさん励まされて、
そんな様々な要素が混じりあってできた一曲。

だからこの曲のタイトルはオーケストラでもなんでもないけど、




「私の交響曲(シンフォニー)」と名付けた。
 
447:(しうまい) 2022/04/02(土) 17:27:05.34 ID:SEbmuchb
―ずっと大切にしまってた
 一番大好きなこと
 どうしたら叶えられるの?
 分からなくて立ち止まっていた―

小さい時から歌うのが大好きだった。
上手とか下手とか関係なく、
ただただ声にメロディを乗せることができれば。

うまく自分の気持ちが言えなくても
歌でなら伝えられるような気がして。

でも大きくなるにつれて
大好きなことにも評価が下されるようになった。
音楽の成績。発表会の順位。受験の合否。

自分の大好きなことに、
無機質な点数がつけられるのを
恐ろしく感じるようになった。

その内私は歌うのが大好きなのに、
歌うことが怖くなり、
気づいたら歌うことができなくなっていた。
 
448:(しうまい) 2022/04/02(土) 17:30:26.54 ID:SEbmuchb
―チャンスはある日突然
 目の前に舞いおりてきた
 思うかたちと違っても
 そっと両手を伸ばしたんだ―

歌えなくなって、歌を諦めて、
歌から逃げた先で出会い、
私の心を動かしたのもまた歌だった。

スクールアイドルという
今まで知らなかった世界。
限られた時間の中で体いっぱいに
自分を表現する女の子が
とても輝いて見えた。

ちょっとだけ、ちょっとだけと
光に近づくうちに、
いつの間にか私はその光の中の一員になっていた。
 
449:(しうまい) 2022/04/02(土) 17:33:10.20 ID:SEbmuchb
―ぎこちなく刻む一歩が
 パッと鮮やかに世界を変えてく
 なにが待つの? なにをやれるの?
 勇気出して進もう―

それぞれがそれぞれの光を持つ中で、
私には何ができるか、何がしたいのかを
積極的に考えるようになった。

できない理由じゃなくて、
やりたい夢の話をするようになった。

もちろん急には変わることなんてなかったけど
それぞれの光は私の道しるべになって、
明るい方へと導いてくれた。
 
450:(しうまい) 2022/04/02(土) 17:36:20.63 ID:SEbmuchb
―ちっぽけな昨日までの私じゃない
 奏で始めたんだ 夢を
 幕があがる ここから先は
 胸に描いてたステージ―

そして今私はステージに立っている。
私の大好きな歌を歌っている。

自分の書いた曲を、
自分の紡いだ詩を、
自分という存在そのものを
目の前の人たちに届けている。

ちょっと前まで怖くて仕方なかった歌が、
今はもう、楽しくて仕方ない。

私は、歌が好きだ。
大好きなんだ。
 
451:(しうまい) 2022/04/02(土) 17:39:09.05 ID:SEbmuchb
―できっこないよって思ってたことも
 踏み出せばほら叶うんだ
 きらり希望 響かせるの
 どこまでも広がれ 私のSymphony―

みんな違う色の個性を持っていて、
みんな違う方向の夢を持っていて、
それぞれが違う光を放つ存在。
それが虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会。

私もその虹の一色でありたい。
この曲はその決意表明だ。

今、胸の内にあるトキメキが
私の声帯からみんなの心へと届くように。
そしてどこまでも広がっていくように。
 
452:(しうまい) 2022/04/02(土) 17:42:22.61 ID:SEbmuchb
◆◆◆

歌い終えた私を待っていたのは、割れんばかりの拍手だった。
……歌い終えた?
ということは私、歌えたんだ。

最初の一節は恐る恐る、
でも自分の声帯から歌が聞こえた時、
今まで感じていた不安や恐怖は全てどこかに行っていた。

その後考えてた事は、この曲を、この詩を届けたい、という事だけ。
そこから歌を歌い終えるまでは夢を見ているような、
そんな気持ちが続いていた。
 
453:(しうまい) 2022/04/02(土) 17:45:11.12 ID:SEbmuchb
歌い終わって台を降りた時、
同好会のみんなとちぃちゃんたちが泣きながらこちらに突進してきた。
ちぃちゃんなんかは涙と鼻水で顔をベトベトにしながら。

(ちぃちゃんと侑さん以外は、私の事情は今知ったばかりのはずなのにね)

おいおい大丈夫かなと思いつつも、自分の目からも涙が溢れている事に気づいた。
たぶん、一番泣いていたのは私だった。

歌えた。
私、歌えたんだよ。

私の人生の中でも一番長く、
一番短い5分間だけのソロライブはこうして幕を閉じたのだった。
 
454:(しうまい) 2022/04/02(土) 17:48:24.47 ID:SEbmuchb
◆◆◆

侑「えー、では、かのんちゃん初単独ライブ成功を祝しまして、」

「「「かんぱーーい!!!!」」」

私が歌い終えた直後、
同好会の部室で打ち上げが行われた。

人生で経験したことのないほどの緊張と、無事成功したことでの緩和。
まだ心臓はドキドキしていて落ち着かない。

こんな状態で飲み食いしながら談笑なんてできるわけない。
……と思ったら、私のお腹の虫は正直者らしく、
いとも簡単に用意されたケータリングを受け入れていた。
 
455:(しうまい) 2022/04/02(土) 17:51:29.14 ID:SEbmuchb
歩夢「ちょ、ちょっと千砂都ちゃん。大丈夫?」

千砂都「がの"んぢゃんが、がの"んぢゃんがぁぁぁぁあ」

千砂都「う、うたえ"でよがっだよぉぉぉぉおおお」ビー

かのん「あ、あはは。ちぃちゃん、ありがとね」

ありゃりゃ。
ちぃちゃんがなんだか酔っ払いさんみたいになってる。

実際、私も涙が出るほど嬉しかった。
でも、ちぃちゃんのあまりの号泣っぷりに
ちょっと冷静になってきた私がいる。

それにしても、ちぃちゃんにはたくさん心配かけちゃったな。
でもこれで少しは成長した所を見せられてたらいいな。
 
456:(しうまい) 2022/04/02(土) 17:54:27.82 ID:SEbmuchb
かすみ「う、うえええええ。がの"子ぉぉぉぉ」

ここにも酔っ払いさんが一人いた。

かすみ「やっぱりあの時、無理させちゃっでごべんねええええ」ビー

あの時。カラオケ大会で私が失神した時だろう。
ライブにて私の抱えてたことを話してしまったので、
私の熱中症が嘘だったことがバレてしまったのだった。

かのん「あ、あれは隠してた私が悪いから。こっちこそごめんね?」

愛「かすかすー。かのんもこう言ってるし、済んだ事でしょ?」

愛「ほーら、もんじゃパンお食べー?」グイ

かすみ「モガッ……がずがずじゃなくで、がずみんでずーーーー!!」
 
457:(しうまい) 2022/04/02(土) 17:57:39.94 ID:SEbmuchb
かのん「ていうか、もんじゃパンってなんですか?」

愛「これ?かすみんと愛さんの合作料理だよ!コッペパンにもんじゃを挟んだの!」

愛「他にもホラ!あそこら辺はせっつーの創作料理もあるんだよ!」

せつ菜さんは料理もできたのか。
流石、なんでもできるスーパースクールアイドル。
私の憧れ……

せつ菜「みなさん!私特製のスカーレット鍋はいかがですか!?元気が出ますよ!!」

い、色が紫だ。
何を入れたらあの色になるんだろう。

せつ菜「あっ、かのんさん!一口食べてみてください!!」ペカー

……私は今、憧れの人に殺されようとしている。
 
458:(しうまい) 2022/04/02(土) 18:00:13.25 ID:SEbmuchb
彼方「……大丈夫だよ。味の方は彼方ちゃんが調整しといたから」ボソ

彼方さんが近くに来て、小声で伝えてきた。
味を調整してなお、あの色なのは気になったけど、
確かに味は問題なく仕上がっていた。
(触感は最悪でした)

果林「それにしても、かのんちゃんがここまでガッツのある子だったとはね」

果林「かすみちゃんじゃないけど、先越されて少し悔しいわ」

歩夢「そうですね。かのんちゃんを見てたら、私も早くライブがしたくなっちゃいました」

かのん「いや、私は私で必死でしたから……」

歩夢「ふふっ。ステージ上のかのんちゃんは、そうは見えなかったよ?」

果林「ええ、とても楽しそうに歌っていたわよ」
 
459:(しうまい) 2022/04/02(土) 18:03:23.67 ID:SEbmuchb
果林「かのんちゃん。覚えておきなさい」

果林「あなたのこと、これからはライバルとして見ていくから」

果林「そして、絶対あなたに負けるつもりはないからね!」

かのん「えぇぇぇえ!?そ、そんなぁ」

果林「嫌とは言わせないわよ!私の心にここまで火をつけてくれたんだから」

歩夢「そうですね!じゃあ私も、かのんちゃんをライバルと思うことにします!」

かのん「あ、歩夢さんまで!?」

歩夢「……絶対に、負けないからね?」ニコッ

果林「歩夢、他意はないのよね……?」
 
460:(しうまい) 2022/04/02(土) 18:06:11.44 ID:SEbmuchb
璃奈「かのんちゃん」クイクイ

かのん「あ、璃奈ちゃん」

璃奈「今日のライブ、すっごく感動した。璃奈ちゃんボード『全米が泣いた』」

璃奈「……私、表情を作るのが下手で、いつもこのボードで顔を隠してるけど」

璃奈「いつか、かのんちゃんみたいにみんなの前で歌いたい」

璃奈「かのんちゃんは、私の目標だよ」

かのん「……うん。私、璃奈ちゃんの事、応援するよ!」

璃奈「まずはかのんちゃんの事、もっと知りたい!あとで髪の毛を一本ちょうだい?」

かのん「何する気!!!?」ガーン
 
461:(しうまい) 2022/04/02(土) 18:09:09.48 ID:SEbmuchb
すみれ「かのん、ちょっと」

恋「…………」

かのん「あっ、葉月さん……」

すみれ「この子が、言いたい事があるみたい。聞いてあげて」

かのん「うん、わかった。……あ、外出た方がいい?

恋「いえ、ここで大丈夫です」
 
462:(しうまい) 2022/04/02(土) 18:12:08.26 ID:SEbmuchb
恋「……………」

恋「……まず、その、」

可可「チョト待ってください」

すみれ「可可?」

可可「葉月サン。もしかのんサンや可可たちに謝ろうとしているでしたら、それは今必要ありまセン」

可可「今かのんサンが聞きたいのはそんな言葉じゃないはずデス」

可可「今日のライブを見て、純粋にどう思ったのか」

可可「それをそのまま、かのんサンに伝えてあげてください」

恋「……そうですね。わかりました」
 
463:(しうまい) 2022/04/02(土) 18:15:21.78 ID:SEbmuchb
恋「澁谷さん」

恋「わたくしは今日、あなたの歌を聞いて」

恋「非常に心を揺さぶられました」

かのん「!!」

恋「……実を言うと、わたくしもスクールアイドルには興味があったのです」

恋「わたくしの母も、同じような活動をしていたようですから」

可可「葉月サンのお母さんが!?」
 
464:(しうまい) 2022/04/02(土) 18:18:49.96 ID:SEbmuchb
恋「はい。しかし、母はその時の思い出を1つも残さずに亡くなってしまいました」

恋「だから、もしかしたら母はアイドル活動をしていた事を後悔していたのではないかと思い、」

恋「スクールアイドルというものを否定的に考えるようになったのです」

すみれ「……そうだったのね」

可可「まさか、葉月サンのお母さんがスクールアイドルの先輩だったなんて驚きデス」
 
465:(しうまい) 2022/04/02(土) 18:21:12.91 ID:SEbmuchb
恋「ですが、今日澁谷さんの歌声を聞いて確信しました」

かのん「!!」

恋「こんなに頑固者のわたくしの心を動かした歌が、」

恋「人に気持ちを伝える事のできるスクールアイドルの歌が、」

恋「お遊びであるはずがない」

恋「母も、後悔などするわけがないと」

かのん「私の、歌で……」
 
466:(しうまい) 2022/04/02(土) 18:24:07.34 ID:SEbmuchb
恋「嵐さん」

千砂都「グスッ……え?」

恋「スクールアイドル部の作曲の件、わたくしで良ければお引き受けします」

恋「いえ。わたくしも、澁谷さんのような、人の心に響く曲を作ってみたい」

恋「そして、その曲を唐さん、平安名さんに表現してもらいたい」

恋「ぜひ、よろしくお願いいたします」ペコ
 
467:(しうまい) 2022/04/02(土) 18:27:04.96 ID:SEbmuchb
千砂都「………!もちろん!!いいよね!?2人とも!!」

可可「当たり前デス!これでラブライブに出られますヨ、すみれ!耶ーーー!!」

すみれ「ええ!私もかのんに負けないんだから!ギャラクシーーーーー!!」

かのん「よかった……!ありがとう!葉月さん……」

かのん「ううん、恋ちゃん!!」

可可「そうデス!謝謝、レンレン!!」

恋「れ、レンレン!?」

千砂都「なんだかパンダの名前みたいだね!」
 
468:(しうまい) 2022/04/02(土) 18:30:11.87 ID:SEbmuchb
◆◆◆

こうして打ち上げはその後も続いた。
虹ヶ咲も、結ヶ丘も、
これからきっとスクールアイドルとしての楽しい事がたくさん待っている。
そう思えるような1日だった。

私は今日スクールアイドルになって、
そして私の歌で人の心を動かすことができた。


私の中の光は、ようやく今、星として輝きだした。
今度は見間違いなんかじゃない。
周りの星たちと同じように、明るくその存在を主張している、
私だけの色、私だけの光を持った星なんだ。
 
469:(しうまい) 2022/04/02(土) 18:33:06.48 ID:SEbmuchb
その夜、私は夢を見た。

真っ暗な舞台に、1つのスポットライト。
その光に照らされて、泣いている小さな女の子。

昔の私だ。

前にもこんな夢を見た気がする。
そしてその時は動かなかった私の足が、
今日はちゃんと動く。

あの子の下へ行って、声をかけてあげられる。
 
470:(しうまい) 2022/04/02(土) 18:36:10.63 ID:SEbmuchb
まっすぐスポットライトの当たる方へ歩き、
小さな私と目を合わせる。


「大丈夫だよ。あなたはいつか、ちゃんと歌えるようになる」

「だって、あなたは自分が思ってる以上に、歌が好きなんだもん」

「それを気づかせてくれる大切な仲間も、場所もできる」

「大好きなことを続けていれば、きっと、もっと面白いことが起こるよ」


涙でぐしゃぐしゃだった小さな私が、
にっこりと笑った。
 
476:(しうまい) 2022/04/03(日) 16:51:20.09 ID:Gl1kAZss
◆◆◆

侑「へぇ~、ここが結ヶ丘のスクールアイドル部かぁ~」

侑「なんかその……風情があるね!」

すみれ「あなた今言葉を選ばなかった?」

恋「まぁ、この部室は古い部屋を使っていますから」

私のソロライブから数日後。
練習を早々に切り上げた私と侑さんは
結ヶ丘のスクールアイドル部を訪れていた。

他の同好会のみんなはライブに向けて準備中。
今度は私含めた10人全員が参加する、
もっと大きな会場でのライブを目標にしている。

……なので、本当は私たちも
準備をしなくちゃいけないんだけど、
ここに来たのには理由がある。
 
477:(しうまい) 2022/04/03(日) 16:54:05.56 ID:Gl1kAZss
恋「そういえばこれ、あなた方にも見せたかったのです」スッ

恋ちゃんはそう言って、古いアルバムを取り出す。
中には恋ちゃんそっくりの女の子が、
仲間と一緒にアイドル活動をしている写真がたくさんあった。

侑「うわぁ~!すごいすごい!スクールアイドルそのものだね!」

侑「これもしかして、恋ちゃんのお母さん!?」

恋「はい。当時はその様な括りもなく、部活名も『学校アイドル部』だったそうです」

かのん「やっぱり、後悔なんてしてなかったんだね」

恋「はい。とっても楽しかったのだと思います」

侑「でもこれ、どこにあったの?」

侑「恋ちゃんの家にはそういうもの、残ってなかったんでしょ?」
 
478:(しうまい) 2022/04/03(日) 16:57:09.76 ID:Gl1kAZss
すみれ「それが聞いてよ。これ、この部室にあったのよ」

かのん「えっ!?ここに!?」

千砂都「うん。鍵がかかった箱にあってね。私たちも最初なんだろうって思ったんだけど」

可可「レンレンが持ってた鍵を使って開けてみたら、それが入ってたんです」

すみれ「まったく。恋がもっと早くこれに気づいていれば、遠回りしなくて済んだのに」

恋「も、申し訳ありません……」

侑「まぁまぁ、いいじゃない。遠回りがあるからこその巡り合わせだってあるよ」

千砂都「うんうん。終わり丸ければすべて丸!」

すみれ「何よそれ」
 
479:(しうまい) 2022/04/03(日) 17:00:06.57 ID:Gl1kAZss
恋「あの、それで今日はどうして結ヶ丘に来られたのですか?」

侑「あ、そうそう」

侑「実は私、恋ちゃんにお願いがあって今日は来たんだ」

恋「えっと、高咲侑さんでしたよね?」

恋「わたくしにお願い……なんでしょう?」

侑「その……」
 
480:(しうまい) 2022/04/03(日) 17:03:11.65 ID:Gl1kAZss
侑「私に、ピアノを教えてくれないでしょうか!!」

恋「ぴ、ピアノ!?わたくしにですか!?」

可可「これまた急になんでデスか?」

かのん「実は侑さんね、虹ヶ咲の音楽科への転科を考えてるんだって」

かのん「あ、ちなみに私も一緒に挑戦してみようと思ってるんだ」

千砂都「へぇ~、そうなんだ。侑さんもかのんちゃんも転科するんだ。ふーんなるほど」




千砂都「……えぇっ!?かのんちゃん転科するの!?」

すみれ「ちょ、ちょっと!いろんな発表が渋滞してるわよ!!1個ずつ説明しなさいよ!!」

まぁ、驚くのも無理ないよね。
とにかく色々唐突なので順番に説明することにした。
 
481:(しうまい) 2022/04/03(日) 17:06:12.26 ID:Gl1kAZss
まず侑さん。

侑さんは前々からスクールアイドル同好会の活動を通して
自分のやりたいことを模索していて、
やっと見つけた自分の夢が音楽だったそうな。

もちろん同好会の活動の手助けになれれば、とも考えているけど
やはりせつ菜さんのライブで魅せられてからは
ずっと頭の中にはあって、練習もちょこちょこしていたらしい。

そんな中、私が隠していた事情の話を聞き、
「かのんちゃんのソロライブが成功したら、私も挑戦をしよう!」と
侑さんの中で決めていたそうな。

……私の預かり知らぬところで
私のライブがそんな重責を担っていたとは。

しかし独学での練習も限界がある。
で、身近な協力者として白羽の矢が立ったのが恋ちゃんだったというわけだ。
 
482:(しうまい) 2022/04/03(日) 17:09:09.56 ID:Gl1kAZss
すみれ「それ、ニジガクの音楽科に頼むんじゃダメなわけ?」

侑「それだと音楽科の子たちをびっくりさせられないじゃん!!」

すみれ「そこそんな大事!!?」

恋「わたくしは別に構いませんよ」

恋「それに、スクールアイドルの事もこれから一緒に知っていきたいですしね」

侑「ほんとぉ!?ありがとう~~!!」ダキッ

かのん「よかったですね、侑さん!」

千砂都「それでそれで!かのんちゃんはなんで転科するの?」
 
483:(しうまい) 2022/04/03(日) 17:12:08.71 ID:Gl1kAZss
かのん「私はなんというか、受験の時に悔いが残る選択をしちゃったからさ」

かのん「……あ、もちろんニジガクが嫌ってわけじゃなくてね!」

かのん「友達からも、音楽からも逃げちゃった事、心残りがあって」

かのん「学校は今更変えられないけど、もう一度音楽と向き合えるチャンスがあるなら、やってみようかなって」

かのん「その事を先生に相談したら、偶然侑さんと鉢合わせして、」

かのん「聞いてみたら相談内容もまったく同じだったから……」

侑「じゃあ一緒に挑戦してみよっか!ってなったんだよね」

すみれ「ずいぶんフットワークの軽い学校なのね……」

可可「ニジガクの校風を考えると、ケッコーある事なのかもしれまセンね」
 
484:(しうまい) 2022/04/03(日) 17:15:08.93 ID:Gl1kAZss
千砂都「……それは、かのんちゃんがやりたい事なんだよね?」

かのん「…………」

かのん「……うん。たぶん、今やらなきゃまた後悔すると思う」

かのん「私、虹ヶ咲に入ってから色んな事があってさ」

かのん「スクールアイドルを始める時も、ソロライブでみんなの前で歌う時も」

かのん「全部最初は怖かったけど、全部やって後悔する事なんてなかった!」

かのん「だから、もうできる限り自分の心に嘘はつきたくないんだ」
 
485:(しうまい) 2022/04/03(日) 17:18:06.14 ID:Gl1kAZss
千砂都「……なるほどね」

千砂都「かのんちゃん、入学した当時は『音楽はもうやめたー!歌わないー!』なんて言ってたもんね!」

千砂都「ホントは音楽も歌も大好きだったくせにさ!」

かのん「え"ぇっ!?そ、そこまでは言ってないよ!!……たぶん」

千砂都「でも、今はもうそんな事ないんだね?」

かのん「うん!」

かのん「私、歌うのが大好き!音楽が大好き!」

千砂都「うん!それでこそかのんちゃんだよ!」

千砂都「うぃっすうぃっす……」

「「うぃ~~~っす!!」」
 
486:(しうまい) 2022/04/03(日) 17:21:08.49 ID:Gl1kAZss
「「アハハハハハハ!!!!」」

すみれ「……え、何最後のノリ?」

恋「こ、これは噂に聞く幼馴染2人だけのセカイがある……!」

恋「尊い……/// やっぱりかのちぃなんだうぃっすうぃっすなぁ……!!」

可可「またレンレンが悪いインターネットに毒されてマスね」

侑「まぁ、でも幼馴染だけのノリっていうのはわかるなぁ~」

すみれ「そういうモンかしらね」
 
487:(しうまい) 2022/04/03(日) 17:24:04.82 ID:Gl1kAZss
千砂都「よし決めた!」

千砂都「かのんちゃんも侑さんも挑戦するなら、私たちもだよ!恋ちゃん!」

恋「え?わたくしたちですか?」

千砂都「そ!」

千砂都「一緒にスクールアイドル始めよう!」

千砂都「それでラブライブに出て、優勝を目指そうよ!!」

すみれ「は……」

「「ハァ~~~~~!!!?」」

可可ちゃんとすみれちゃんがハモった。
 
488:(しうまい) 2022/04/03(日) 17:27:07.92 ID:Gl1kAZss
可可「どういう事デスカ!?2人は可可たちの協力をしてくれるんじゃ……」

千砂都「それはこれからもしていくよ!」

千砂都「でもそれだけじゃ足りない!」

千砂都「かのんちゃんに負けてられないよ!」

すみれ「いやいやいや、そんなのムチャクチャでしょう!?」

恋「……面白いですね」

すみれ「はぁ!!!?」
 
489:(しうまい) 2022/04/03(日) 17:30:06.31 ID:Gl1kAZss
恋「千砂都さんのダンスと、わたくしの曲」

恋「2つ合わせれば無敵という事、証明しに行きましょう!ガシッ

千砂都「うん!恋ちゃん、一緒に頑張ろうね!」ガシッ

可可「な、な、なんでそうなるんデスかーー!?」

侑「うわぁ……!また新しいスクールアイドルの誕生だ!」

侑「トキメいちゃう~~~!!」

すみれ「あなたはそうやってすぐトキメく!!」
 
490:(しうまい) 2022/04/03(日) 17:33:10.34 ID:Gl1kAZss
侑「かのんちゃん、これから忙しくなるよ!」

侑「私がこうやって音楽の道に行こうと思ったのは、もちろんせつ菜ちゃんや、同好会のみんなの影響もあるけど」

侑「一番はかのんちゃん。かのんちゃんの影響なんだからね!」

かのん「わ、私ですか?」

侑「うん!私は歌が大好きで、ひたむきに音楽に向き合うあなたを見てたから、音楽科への転科を決めたんだ!」

侑「だからこれからも私の憧れの人として、私にその輝きを見せてね!」



侑「そんなかのんちゃんが、私は大好きだから!!」

かのん「え、ええええ!?だだだ大好きって、侑さん!!!?」
 
491:(しうまい) 2022/04/03(日) 17:36:04.78 ID:Gl1kAZss
千砂都「かのんちゃん!私もかのんちゃんの事、大好きだからね!」

恋「さ、三角関係ですか!?///」

すみれ「侑……あなたそんな事ばっか言ってるといつか歩夢に刺されるわよ」

恋「しし、四角関係ですか!!!?///」

可可「可可は、スクールアイドルみんなが大好きデス!!!」

恋「たたた、多角関係ですか!!!!?///」

かのん「もうっ!!そんな話してないからーーーーーーー!!!」
 
492:(しうまい) 2022/04/03(日) 17:39:12.84 ID:Gl1kAZss
◆◆◆

こうしてスクールアイドルとして一歩を踏み出した私は、
次は音楽科に向けてまた新しい一歩を踏み続ける。

きっとこれから先の人生もそんな選択の連続なんだと思う。
そこで一度間違えたとしても、
やり直すチャンスはいくらでもあるかもしれない。
でも、できるだけ後悔しない道を選んでいきたいな。

そういえば侑さんも私も、
転科の話を同好会のみんなにまだしていない。
どのタイミングで言っても絶対驚かせてしまうだろう。

……どう切り出したらいいのかな。
私は眼前に現れたまた新しい難題に頭を抱えながら、
侑さんと結ヶ丘を後にする。

季節はそろそろ夏。
瞬く星は、まだ私の手の届かない所に見える。

スクールアイドルになって、
みんなの前で歌えるようにもなって、
色んな事に変化があっても
光はまだまだ先に続いている。

でも、いつの日かなれるといいな。
あの中のどの星よりも光輝く「スーパースター」に。
 
493:>>1(しうまい) 2022/04/03(日) 17:40:11.12 ID:Gl1kAZss
これで完結になります。

長編(?)SSは初めてだったのですが、
とりあえず書きたいものは全部書けたので満足です。

2週間お付き合いいただきありがとうございました。
 
499:(茸) 2022/04/03(日) 18:23:15.35 ID:lEwHUbJa
乙 最高だった!
 
500:(えびふりゃー) 2022/04/03(日) 18:29:16.43 ID:3aN9yDUV
これがゆーかーか
 
501:(もんじゃ) 2022/04/03(日) 20:41:35.72 ID:4dZtVPwS
大変乙。良きクロスオーバー(?)だった
 
503:(あら) 2022/04/04(月) 01:18:29.92 ID:/+CKLN5G
神スレ
 

引用元: https://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1647868655/

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