【SS】そのチョコにエールを乗せて【ラブライブ！スーパースター!!】

バレンタインSSです
恋愛未満のちさくぅです
地の文あり
　

もうすぐ高校最後のバレンタインデー。
いつもは私の好きな丸いチョコレートを買って渡して、他の子が持ってきたお菓子と一緒にみんなで食べていた。
中学の時も友達と友チョコ交換して、かのんちゃんとは毎年お互いチョコを渡し合って。

でも、卒業したら私はダンスのために東京を離れることになる。

そうなったら、かのんちゃんは勿論、Liella!のみんなともバレンタインのチョコ交換なんてできなくなる。
向こうで新しい友達ができて友チョコ交換会なんてのもできるだろうけど、そこは今までの友達が全くいない新しい場所。
言わば、高校卒業までが第一の人生で、そこから先は第二の人生。
そう、私に高校最後のバレンタインとはすなわち、人生最後のバレンタインとも言えるわけである。

ならば、今まで以上にお金に糸目をつけず、いつもより少し豪華なチョコを渡そう。
それに、スクールアイドル部部長として、残る子達にいいもの渡してあげなきゃね。
　

そんなわけで足を運んだのは、渋谷の大きなデパート。
ネットで調べて、手持ちでどうにかなりそうなお値段だったから「ここだ！」と目をつけていた場所。
ここなら皆が喜びそうなもの売ってるかな？

ガラス越しにわかるくらいキラキラした内装。
場違いにならないよう、目一杯のオシャレなコーデで店の中に入る。
レースの入ったロングドレスに、すみれちゃんに選んでもらった高めの靴(あんま履いてない)、
その服に見合うよう普段のまんまるヘアーは断腸の思いでほどき、後ろにストレートで降ろした。
普段しないお化粧も、今日はお母さんに教えてもらいながらオトナっぽく仕上げてもらった。

今日のわたくし、とってもおしとやかですわよ。
周りのお客さんに内心そう自慢しながら目当てのお店へと向かう。
　

「ふ～む…………」

ちぃちゃん問題発生。
まっすぐお店に着いて商品も揃っているのはいいものの、肝心の買うものがイマイチ浮かばない。

みんなの好きそうなものを、と選んだら今までと変わり映えしなくなる。
それならわざわざこんな高いお店じゃなく、もっと近くの安いお店で十分なんだよね。

ならば思い切って高いもの、となってもそれが実際にいいものかはわからない。
例えばこのチョコなんて、59粒で税抜20000円ですってよ奥さん。
一粒だいたい350円って。コンビニに売ってる箱入りのアーモンドチョコより高いじゃん。
そんな超高級品なんか買って、万が一みんなの口に合わなかったら目も当てられない。
金に糸目はつけないと言っても、それで結局無駄遣いでしたなんていうのは流石に避けたい。
　

それならいっそ、チョコケーキ？
いや、みんなも同じようにチョコ持ってくるんだから、あまり重いものは食べられない。
だいたい、そんな大きなもの学校まで運んで行くのも家で保管するのも大変だよ。

いや、何ならいっそ作るか、チョコスイーツ。
材料買って、学校で家庭科室でも借りて、それでみんなにすごいスイーツをふるまうんだ。
…無理です。
私が丸く作れるのはたこ焼きとちょっとした家庭料理くらい。
お菓子なんて難易度高い代物、それもしばらくたこ焼き以外の料理をしてこなかった私には上手く作れる自信がない。

…待てよ、そうじゃん！たこ焼きがある！
まあるく整えたたこ焼きの中にチョコレートを入れて…うん、バッチリ！
これなら誰が見ても私らしくてバレンタインらしいものになるよね……

おばか！！！！
そんなゲテモノ出すくらいなら素直に高級品でも買って渡すよ！！！
そもそも神聖なたこ焼きを誰が見てもわかるゲテモノ料理になんてしたくないよ！！！
　

…………うああ～～～～～～……ダメだ、全っ然いいアイデアが思い浮かばない！
もうおとなしく、みんなの好きそうなもの適当に見繕って一個ずつ買おう…。
結局いつものの方がみんな喜ぶだろうし…。
でもなあ、せっかくこんなオシャレしてここまで来たのに…。

…まあ思いつかないものはしょうがない。
気持ちを切り替えて早速選んでいくとしよう。

かのんちゃんはコーヒー風チョコ。
恋ちゃんはいちごチョコ。
きな子ちゃん達が好きそうなお芋や栗のチョコは秋限定みたいだし、代わりにイメージカラーのラッピングがされたチョコを送ろう。
四季ちゃんはチョコミント平気だったけど、冬毬ちゃんはどうだったかな？後でメッセで確認しとこう。

そんな調子でチョコを選び、最後に可可ちゃんの分を、と思った時、ピタリと動きが止まる。
　

可可ちゃん。

別に彼女の好物が思いつかないわけではない。
バナナ風味だったりミルクティー風味だったり、単に好きなものを選ぶだけなら迷うことはない。

ただ、彼女との最後のバレンタイン、と思うと、もう少し特別なものを渡したいと思った。
　

可可ちゃんとの縁は2年前から始まった。

スクールアイドルとして活動するため、私にダンスの指導をしてほしいと頼み込んできたのが始まりだった。

最初はダンスどころかランニングすらまともにできないくらい体力がなく、運動神経も全然だった。
それが指導や自主トレを続けるうちにきちんと踊れるようになって、
今では卒業後も芸能活動を本格的に目指せるほどダンスの腕前をつけていった。

指導した縁だろうか、なんだか自分の子供が独り立ちした時のような誇らしい気持ちになる。
そんな彼女の門出を祝う意味でも、今までとは違う特別なものを渡したい。
　

さてさて、最初の問題に逆戻りしてしまった。

今までと違うチョコって何なんだろう。
丸くないチョコ？板チョコとかブラウニー？
…そんなの買ったって特別でも何でもないよねえ。
可可ちゃんの分だけ手作りっていうのもできない。そもそもお菓子作りは不得意な方だし。

一人だけ明らかに豪華にするのは部長として気が引けるけど、
だからと言ってありきたりなものを渡したくはない。
むぅ、困ったもんだ。

「お客様、何かお探しでしょうか？」

うんうん唸っていると、店員さんに声をかけられてしまった。
もしかして悪目立ちしちゃってたかな。

「あ、すみません……」

と、別の棚に移動しようとしたが、すんでのところで思いとどまる。
　

そうだ、別に一人で悩まなくてもお店の人に相談すればいいじゃん。

「…あの、お友達に渡すチョコで悩んでるんですけど、何かいいものありますか？」

「お友達の方ですか？」

「はい。将来の夢が叶ったから、そのお祝いも兼ねて特別いいもの贈りたくって」

店員さんに軽く事情を説明し、渡したいものも伝える。

「あの、できれば普段あまり食べないようなオシャレな感じで。それでいて、他のみんなと食べるからあまり重たくないものがいいです」

これで値段がどうとまで言ったら流石にワガママが過ぎるだろうし、そこは要求から外しておいた。
もう高いもの勧められようと構うもんか！買うったら買う！
内心半ばヤケになりながら店員さんの答えを待つ。
　

「それでしたらお客様。マンディアンなどはいかがでしょうか」

まんでぃあん。
聞き馴染みのない言葉が出てきた。
よくわかんないけど、なんかオシャレで強そう。

なんて私がぼーっとしていると、店員さんが見本の写真を見せてくれた。

「こういった薄いチョコレートの上に、ナッツやドライフルーツを乗せたお菓子になります」

写真を見せられて私は目を見開く。
まんまるなクッキーみたいなチョコの上に、ヘーゼルナッツやレーズンが添えられた可愛いお菓子。
見た目は小さなチョコケーキのようで、お祝いのプレゼントとしてピッタリに見える。
それにドライフルーツってことは。

「あの！マンディアンって、バナナのドライフルーツが乗ったやつもありますか！？」
　

そして迎えたバレンタイン当日。
登校しがけ、毎年のように交わすかのんちゃんとのハッピーバレンタインの挨拶。

「今日が終わったら、しばらくウィーンでのバレンタインかぁ」

「しばらくかのんちゃんと渡し合いっこできなくなっちゃうね」

「そうなんだよ。だから今日は一等特別なものを！って考えたんだけど、あまりいいもの思いつかなくって」

どうやらかのんちゃんも同じように、今日のために特別なバレンタインのお菓子を考えていたらしい。
さすがは幼馴染というか、こういうところで自然と思考が似るのだろう。

「だから、前とおんなじチョコチップクッキーになっちゃった。ごめんね、ちぃちゃん達にとっても今日は特別だったのに」

「あはは、かのんちゃんはあまり気取らない方がいいよ。普通にかのんちゃんが作ってくれたってだけでみんな喜ぶだろうし」

「そうかなぁ」

「そうだよぉ」

思いつかないからと何も無しではなく、きちんと作ってきてくれる辺りがかのんちゃんらしい。
かくいう私も、こんな日だからこそ、いつもの手作りお菓子が食べられるというのが嬉しくてたまらない。
　

「そう言うちぃちゃんは今年は何を買って……あれっ？」

バッグから取り出した箱を見てかのんちゃんが驚く。
みんなの分として、マンディアン10個入りの箱を買ったのだ。
赤黒のマフラーみたいなストライプのラッピングをしてもらい、箱の隅っこにはリクエストで桃色の星のシールを貼ってもらった。
ふっふっふ、これぞちぃちゃん部長が奮発して買ったお高めのお菓子であるぞ。もっと驚きたまえ。

「それ、結構高いとこのじゃない？お金大丈夫だったの？」

「大丈夫だよ～。今までのバイト代とお年玉残ってたし、お父さんも追加でお小遣いくれたから」

何なら思っていたより安く買えたのでびっくりしたくらいだ。
使わずじまいで終わったお小遣いはそのまま貯金にしていいということだったので、ありがたくいただいた。
　

「それと、今日は一個特別なチョコ用意してるんだ」

「え、私用のなら毎年渡してくれるでしょ？」

「ううん、かのんちゃんとは別に特別渡したい人がいるんだよね」

そう言うと、かのんちゃんがさっきより一層びっくりした顔になる。

「えっ！？もしかして、ついにちぃちゃんに春が！？」

「ふふん、内緒」

そうやって他人の色恋沙汰にはすぐ食いつくくせして、自分のことには鈍感なんだから。
ニブチンムッツリの幼馴染に鼻を鳴らし、学校へ進む足を早めた。
　

放課後、Liella!のみんなで持ち込んだお菓子発表会が開かれた。
くじで決めた順番でそれぞれの持ってきたお菓子をみんなの前で発表し、テーブル中央に置いた大きなお皿に開けていく。
ちなみにこの形式を提案したのは一昨年のバレンタインの可可ちゃん。
最初こそすみれちゃんを筆頭に「わざわざそんなことしなくても」と乗り気でなかったが、
いざやってみるとこれがなかなか楽しかったので、バレンタインだけでなく何かしらイベントのたびにこうしてお菓子発表会を開くことになった。

トップバッターはかのんちゃん……と、マルガレーテちゃん。
今年のチョコチップクッキーは、かのんちゃんとありあちゃんに加えて、居候しているマルガレーテちゃんも一緒に作ったらしい。
なるほど、言われてみるとなんか前よりクッキーの形も生地も整っているように見える。プラシーボ効果(だっけ？)ってやつかもしれないけど。

お次はメイちゃん。
お家のキッチンが自由に使えないらしく、去年に続いて今年も市販のチョコを買ってきたようだ。
同じ理由で夏美ちゃんと冬毬ちゃんも市販のお菓子。
3人とも申し訳なさそうな顔をしてるけど、こうやって忘れず持ってきてくれるだけでも嬉しいよ。偉い！
　

そうしてきな子ちゃん、恋ちゃんと続いていき、お次は可可ちゃんの番。
可可ちゃんはお世辞にも料理が上手ではないので、一昨年は買ってきたスイーツ、去年はすみれちゃんと一緒に作ったチョコを持ってきていた。

今年は……どうやらなかなかお高そうな箱に入ったチョコレートのようだ。
赤黒のマフラーみたいなストライプのラッピング。
箱の隅っこにはリクエストで貼ってもらったであろう水色の星のシール。
…………うん？なんかあんな感じのラッピング見たことあるな？

「じゃーん！クゥクゥが持ってきたのは、マンディアンっていうお菓子デス！」

へえ、可可ちゃんもマンディアン買ってきたのか。
あの箱10個入りなんだって。
まんまるなクッキーみたいなチョコの上に、ヘーゼルナッツやレーズンが添えられている。
うーん、おかしいなあ？私も同じ形のマンディアン買ったような気がするなあ。
　

…いや、あのラッピングといいマンディアンの形といい、絶対私と同じお店で買ったやつじゃんアレ！
私達、偶然同じお店で同じお菓子買っちゃったってこと！？
別に被っちゃダメってルールがあるわけじゃないけど、なんか気まずいよこれ…。
でも、私達が無理なく行ける範囲でちょっと良さげなお菓子を買うってなったら、確かにあのお店くらいしか無いよねぇ。
そういう部分を考慮できなかったのは私のミスか。

などと考えていたら、可可ちゃんがピンクの包みを持って私の方へ歩み寄ってくる。

「千砂都！これ、千砂都へのプレゼントデス！」

と言って、ピンクの包みをポンと渡された。


ほぁ？
　

「千砂都、クゥクゥにダンスを教えてくれてありがとうございマス！」

呆けた様子の私に、可可ちゃんがどんどんと語りだす。

「日本に来て間も無かったクゥクゥに、ダンスを教えてくれてありがとうございマス！千砂都がダンスを教えてくれたおかげで、クゥクゥはスクールアイドルの道を進むことができマシタ！」

「クゥクゥがここまでスクールアイドルとしてやってこれたのも、これからもステージに立てるのも、全部千砂都がいてくれたからデス！このチョコレートは、クゥクゥの千砂都への感謝の気持ちデス！」

開けてください！と急かされて包みを開けると、そこにはお皿にあけたものより少し豪華めなマンディアンとお礼の言葉が書かれたメッセージカード
アーモンドと桃のドライフルーツが乗った、とても美味しそうで私の好きそうなマンディアン。
何より、私の大好きなまんまるの形。
このチョイスで可可ちゃんが本当に私に感謝してくれているというのが伝わった。
　

「私の方が渡したかったのにな」

「ほぇ？」

ちょうどいい機会と思い、用意していた特別なチョコを渡す。
パステルブルーの包みに入った、バナナのドライフルーツが乗ったマンディアン。
そして、輝かしいステージへ旅立つ彼女へのエールを綴った手紙。
　

「可可ちゃん。これまでずっと頑張ってきたよね」

「どんなにきつい練習でも諦めず前に進んで、夢のスクールアイドルになれた」

「そして卒業したら、ステージに立つ夢を叶えようとしている」

「私、Liella!の部長として、ダンスを教えた先生として、あなたの親友・嵐千砂都として、唐可可ちゃんのことを誇りに思います！」

「そんな気持ちを込めたこのチョコレート、どうか受け取ってください」
　

ひとしきり自分の思いを伝えた後、胸の前でピースサインを掲げる。
可可ちゃんも私が何をやりたいのかを察して指を重ねる。

「それと……」

お互いの指先をくっつけ、真っ直ぐに可可ちゃんの目を見る。
このキラキラと輝いた目で、ずっと夢を追いかけてきた。
そうして追いかけてきた夢の先で、また新たな夢を見て追おうとする。
あの小さく輝くだけだった星は、世界にその輝きを届けようとしているんだ。

「頑張れ」

ふたり力強く頷き、Liella!でおなじみになったポーズをし合う。

「「うぃっす、うぃっす、うぃっすー！」」

頑張れ、可可ちゃん。
進め、可可ちゃん。
私は、君をも想う花でいるから。



おしまい
　

乙
ｽﾊﾞﾗｼｲSSﾉﾋﾄ…
　

ちょっと泣いた
良いちぃクゥをありがとう乙
　

あああ！
すごく良かった！地の文多いのに読みやすいしちぃちゃん可愛い！！
素晴らしいバレンタインSSでした
　

いいデスね、いい……