【SS】彼方「じゃ、彼方ちゃん高校卒業するねぇ~」しずく「やだやだやだやだ!」【ラブライブ!虹ヶ咲】

しずく SS


1: 2021/01/30(土) 23:42:13.16 ID:J2iQ74lZ
かなしず
こんなタイトルですがシリアスですすみません

7: 2021/01/30(土) 23:43:16.20 ID:J2iQ74lZ
――――――
7月 校舎


しずく「……」キョロキョロ


しずく(ここじゃない……)


……


しずく「……」キョロキョロ


しずく(ここにもいない……)


……


しずく「……」キョロキョロ


しずく(あ……いた)


しずく(もう、またこんなとこで寝て……)


……近江彼方さん。高校3年生、私の先輩。


眠るのが大好きで、ゆったりとした自分の世界を持っている人。


その自然体な雰囲気に、見てる人たちは吸い込まれそうになる。


だけど私とは正反対な性格だから……


単なる同好会の先輩と後輩、でこのまま続いていくのかなと思ってた。

10: 2021/01/30(土) 23:44:43.35 ID:J2iQ74lZ
――――――
部室


エマ「あ! きたきた! 彼方ちゃんおはよ~♪」


彼方「エマちゃんおはよぉ~……」


エマ「まだ眠そうだね? 膝枕する?」


彼方「おおぉ……素晴らしいよ~、素晴らしいサービス精神~♪」


しずく「だめですっ!」

しずく「今日は3人でダンスの練習するって言ったじゃないですか」


彼方「じょ、冗談冗談……えへへ~」


しずく「エマさん! 彼方さんに甘すぎですよ!」

エマ「あはは……」


彼方「しずくちゃんは頑張り屋だねぇ~」

彼方「たまには力抜いてもいいんだよ~、リラックスリラックス~」ナデナデ


しずく「な、なんですか、やっ、やめてください撫でるの……」

彼方「おや……これは……」


彼方「……しずくちゃん、照れてるな?」

しずく「て、照れてなんかないですから! ほら、練習練習!」

彼方「しずくちゃんは可愛いね~♪」


しずく(もう、ペース狂うんだから……)

12: 2021/01/30(土) 23:46:24.02 ID:J2iQ74lZ
エマ「しずくちゃん、演劇部の練習はいいの?」


しずく「はい。今日はおやすみなので大丈夫ですよ!」

しずく「次の公演、主役をやることになったので……しばらく忙しくなりそうなんです」

しずく「だから今日は、しっかりスクールアイドルの練習しておきたいのに……」


エマ「わぁ~! また主役なんだね!」

しずく「たまたまです……私なんかより演技が上手い人、たくさんいるので」

エマ「なんていう劇なの?」

しずく「『オズと魔法使い』っていう劇です。ミュージカル調の劇なんですよ」

エマ「あ! 知ってる! 有名だよね~!」


幸運なことに、また演劇部で主役をやらせてもらうことになった。

たぶんいかにもな“少女”って役だから1年生の私が起用されたんだと思う。


実力じゃないのはわかってる……だから演技の稽古もしっかりやらなきゃ。


プレッシャー、緊張、失敗は許されない……

私はいろいろなものをずっしり背負ってる。そんな気がしていた。


彼方「……すやあ」

14: 2021/01/30(土) 23:47:31.11 ID:J2iQ74lZ
――――――
7月 演劇部 稽古場


部長「……はいっ、そこまで」


部長「しずく、台本、読み込んできてくれたんだね」

しずく「はい! 早く役になりきりたいので」

部長「うん……しずくは頑張ってるね、ありがとう」


部長「だけどもう少し、力を抜いてもいいよ」

しずく「えっ……どういうことですか?」


部長「今回の劇は自由気ままに振る舞う女の子でいて欲しいからさ」

部長「なんだろう……演じてて、窮屈そうに見えるんだよね」

しずく「窮屈……?」


部長「うん……お芝居、楽しい?」

しずく「えっ? そりゃ楽しいですよ!」

しずく「私、小さい頃からずっと演劇が大好きなので」

部長「そっか……」


部長「まぁ本番は夏休み明けの9月で、2か月くらいあるからね」

部長「もっと気楽にやってもいいよ」

しずく「……わ、わかりました」


しずく(……気楽になんかできないですよ)

しずく(私はスクールアイドルも一緒に頑張らなきゃいけないんだから)

しずく(どっちかを優先してみたいな……そんな失礼なことはしたくないよ)


しずく(だからどっちも全力で頑張らなきゃダメだ)

16: 2021/01/30(土) 23:48:48.43 ID:J2iQ74lZ
――――――
食堂


しずく「」ブツブツ


台本とにらめっこして、自分のセリフをつぶやく。


だけど……演劇のセリフが……頭に入らない。


しずく「はぁ……なんで覚えられないんだろう」


時間を見つけて何回も読んでるのに、全然頭に入ってこない。

たぶん眺めてるだけで、全然集中できてないんだ。


しずく(余計なことばかり考えちゃう……)


失敗したらどうしよう?


スクールアイドルがおろそかになったらどうしよう?


みんなに幻滅されたらどうしよう?


幻滅? 誰に? 侑さんに? 同好会のみんなに?

いや、あの人達はそんなことする人達じゃないよ。


じゃあ誰? 部長? 演劇部の人?

もしかしたら主役をやる私を妬んでるかも。


怖い……嫌われるのも幻滅されるのも、とにかく怖い。

期待に応えられるのかな、私が……

17: 2021/01/30(土) 23:50:50.69 ID:J2iQ74lZ
――――――


?「……こらーっ! しず子~~~!」


しずく「」ビクッ

しずく「あっ、かすみさん……」


かすみ「んも~! また難しい顔してたよっ!」

かすみ「可愛いかすみんとご飯食べてるんだから、そんな顔しちゃダメ!」


しずく「あっ、ごめんね……つい……」


かすみさんと璃奈さんと3人、学校の食堂でお昼を食べていた。

友達の前で喋ることもせず、自分のことに集中してたらダメだよね……


璃奈「……でも演劇部の主役はすごい」

璃奈「頑張ろうとするしずくちゃん、わかる」

しずく「いやいや……でもよくないよね、ごめんね」

かすみ「そうだよ~っ! しず子は頑張りすぎ!」

しずく「う、うん……」


しずく「部長にも言われちゃった。もっと気楽にって」

かすみ「そうだよ。しず子は真面目過ぎる!」

しずく「うーん……今までずっとこんな感じだったからなぁ」

かすみ「うんっ! もっと息抜きの仕方、覚えた方がいいよ!」


璃奈「でも抜きすぎると、テストの点取れなくなる」

かすみ「そ、それは関係ないよ! りな子~!」

18: 2021/01/30(土) 23:53:33.38 ID:J2iQ74lZ
璃奈「……彼方さん」

しずく「えっ?」

璃奈「彼方さんに教えてもらうのがいいと思う。息抜きの仕方」


彼方さん……確かにそうかも。

実はバイトを週5でしてたりとか、妹さんの面倒を見てたりとか。

見た目じゃわからないけど、ものすごく頑張り屋さんな人なのは私も知っている。


だけどいつもふわふわしてて、余裕があるように見える。

……それでもあの居眠りな性格はちょっと抜きすぎてるような気がするけど。


かすみ「協力する! しず子、彼方さん化計画!」

しずく「何それ……いいよ、私は」

かすみ「とりあえず授業中に居眠りとかしてみたら?」

しずく「かすみさんじゃないんだから……」

かすみ「し、してないから~! かすみん、不良じゃないですっ!」

璃奈「してなくて22点……」

かすみ「うわ~っ! だめ! だめ! 点数まで言わないで~!」


しずく「あははは……」


かすみ「も~……とにかくしず子っ」

かすみ「あんまり頑張りすぎちゃダメだよ?」

かすみ「もしまた頑張りすぎたら、またパンケーキ食べさせに行くからねっ!」


しずく「……うん。ありがと、かすみさん」

20: 2021/01/30(土) 23:54:53.84 ID:J2iQ74lZ
――――――
7月 しずくの家


私の家は学校から遠い。

鎌倉からお台場までだから、片道で2時間以上はかかる。


それでも虹ヶ咲でなら、

大好きな演劇も、スクールアイドルもできると思って入学を決めたんだ。

……時々、早起きが辛いけど。


“ワンワンッ!”


しずく「あ、オフィーリア……朝から甘えん坊さんだね♪」ナデナデ

しずく「だめだようるさくしちゃ。まだお母さんも寝てるから……」


玄関で軽く身支度していると、オフィーリアが見送りに来てくれた。

小さいころからの、私の大切な親友だ。


しずく「ふふっ♪ 今日も帰り、遅くなるけどいい子にしてるんだよ~」


“ワンワンッ!”


しずく「それじゃ、いってくるねっ!」

21: 2021/01/30(土) 23:57:13.60 ID:J2iQ74lZ
――――――



しずく「……ふぅ」


しずく(あ、電車来た)


しずく(……座れないね)


しずく(朝から電車、混んでるなぁ……)


しずく(……)


しずく(……座れたら台本、読まなきゃ)


しずく(あと動画でダンスの振り付けも見返して)


しずく(昨日は早く寝ちゃったから、軽く教科書呼んで復習もしときたい……)


しずく(それから、それから……それから……)


しずく(……)


しずく(……あれ?)


しずく(な……なんだろう)


しずく(……)


しずく(……)


しずく(なんか、息苦しい……かも)

22: 2021/01/30(土) 23:58:37.20 ID:J2iQ74lZ
――――――
7月 演劇部 稽古場


部長「……しずく」

しずく「はっ……はい」ビクビク


しずく「ご、ごめんなさい、まだセリフ入ってなくて!」

しずく「たくさん読んでるんですっ、でもどうしても頭に入らなくて……」

しずく「本当にごめんなさい! もっと頑張ります!」


部長「いや、それはいいんだ……まだ本番は先だし、全然いいよ」

部長「私も周りのみんなも、誰もまだセリフいれてないしね」

しずく「でも私は……主役なんで」


部長「それより体調……大丈夫?」


しずく「え?」

部長「すごい汗かいてるし。セリフの途中で息切れみたいになってたし」

しずく「い、いや……す、すいません、大丈夫です」


部長「……それならいいけど」

部長「無理しないでね。しずくがいなかったら、この劇は成り立たないんだからね」

しずく「は、はい……」

23: 2021/01/30(土) 23:59:48.92 ID:J2iQ74lZ
しずく(だめだ……)


しずく(台本を読んでも、全然頭に入らない)


しずく(どうして……どうしてこんなにできないんだろう)


しずく(こんなこと今までなかったのに)


しずく(ダンスも……思うように体が動かない)


しずく(演劇もスクールアイドルも、みんなダメだ)


しずく(……疲れてるのかな)


しずく(……)


しずく(……なんで上手くいかないんだろう)


しずく(……なんで)


しずく(なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで)

26: 2021/01/31(日) 00:01:43.39 ID:Ow59Auyf
エマ「……しずくちゃん?」


しずく「うわっ?!」


エマ「あ、ご、ごめんね? 大丈夫? ボーっとしてたから」オロオロ

しずく「あ、すいません……大丈夫です」

エマ「ほんとぉ? 少し休んだ方がいいんじゃないかなぁ」

しずく「……大丈夫です」

エマ「で、でも……」


彼方「……」

彼方「あ~……彼方ちゃん、ちょっと疲れちゃったぁ~」

彼方「そろそろ彼方ちゃんにすやぴの時間をください……」


エマ「あ……うん、わかった! しずくちゃんもおやすみしよ?」

しずく「……はい」


……気を遣われてるのかな。私、大丈夫なのに。


エマ「しずくちゃん、お水飲む?」

しずく「あっ、えっと……」

エマ「あ! もしかして暑いから疲れちゃったかな?」

エマ「うちわとか……? とにかく涼しくなるもの、持ってくる!」

エマ「とにかく待ってて!」タッタッタッタ……


しずく「あ、エマさん……行っちゃった」


彼方「……」

29: 2021/01/31(日) 00:03:34.93 ID:Ow59Auyf
私を心配してか、エマさんは部室から飛び出してしまった。

そんな心配して、騒ぐようなことじゃないのに。


エマさんは優しすぎるなぁ……


確かに今日は朝から具合が悪かった。

こんな日はたまにある。別に大したことじゃない。


何も……おかしくない。


彼方「いや~エマちゃんは優しいね~」

しずく「……そうですね。なんか申し訳ないです」


彼方「じゃ、しずくちゃん。彼方ちゃんとすやぴしようか~♪」

しずく「し、しませんよ……座ってるだけで大丈夫です」

彼方「え~ いけずぅ~」ギュッ


しずく「ちょっ……! な、なんで抱き着いてくるんですか!」

彼方「しずくちゃん、すっごく頑張ってるんだなぁ~って思ったら」

彼方「可愛くてしょうがなくてさ~♪」ナデナデ


しずく「……暑いですから」

30: 2021/01/31(日) 00:07:35.73 ID:Ow59Auyf
彼方「……しずくちゃん」

しずく「はい?」


彼方「しずくちゃんは本当に頑張り屋さんだよね」

彼方「それに彼方ちゃんのこと、いつも気にかけてくれるし」

彼方「すやぴしてるの、探してくれてありがと~♪」


しずく「……申し訳なく思ってるなら、まっすぐ部室きてくださいよ」

彼方「ぎゃう……ぐうの音も出ない」


彼方「だらしない先輩でごめんねぇ……これからは気を付けるよ」

しずく「い、いや別にいいですよ。彼方さんが頑張ってるのも知ってるので」

しずく「勉強して、部活して、バイトして、家のことしてって……知ってますから」


彼方「そっかぁ。優しいしずくちゃんが後輩で嬉しいな~♪」


しずく「……」


……この人といると調子が狂う。


頑張らなきゃ、頑張らなきゃっていつも自分を追い詰めてる私。

そんな自分がすごく恥ずかしくなるから……


私とは正反対の性格で、きっと考え方も何もかも違うんだろう。


でも……安心、するな。


この人の隣は。

31: 2021/01/31(日) 00:10:20.01 ID:Ow59Auyf
――――――
7月 しずくの家


しずく(……)


しずく(やっぱり頭に入らない……)


登校前、玄関で台本を読み込む。

とにかく時間を見つけて、読んで、覚えようとする。

それでもセリフがやっぱり頭に入らない。


お芝居のことで悩むことはたくさんあった。

だけどここまで、セリフが覚えられないことなんかなかった。


……なんで? なんで、なんで?


イライラする。そんなイライラがさらに、できない自分を加速させる。


イライラ、イライラ……こんな自分に。

なんで? どうしてできないの?


このままだったら、失敗する。破綻する。何もかも終わる。


迷惑をかける。演劇部に。同好会に。みんなに。

だから、頑張る。私は。でも、頑張っても、できない。


……ねぇ、なんで? なんでなんでなんで……

32: 2021/01/31(日) 00:13:00.42 ID:Ow59Auyf
しずく(あ、もうこんな時間……行かなきゃ)


“ワンワンッ!”


しずく「……オフィーリア」ナデナデ


“ワンワンッ!”


しずく「……」

しずく「……」ナデナデ


“クゥン…?”


しずく「……」

しずく「……いってくるね」

34: 2021/01/31(日) 00:15:34.29 ID:Ow59Auyf
――――――




しずく(……電車、きた)


しずく(今日もやっぱり……座れないね)


しずく(……)


しずく(……)


しずく(……あれ)


しずく(なに……これ)


しずく(なんかすごく……嫌)


しずく(降りたい……えっ、なにこれ)


しずく(やだ、やだ、えっ……?)


しずく(ふぅ……ふぅ……)


しずく(……大丈夫、がまんがまん)


しずく(学校、行かなきゃ……部活も稽古もあるんだから)


……この時から、だったんだ。


私が……おかしくなっていったのは。

35: 2021/01/31(日) 00:20:20.56 ID:Ow59Auyf
――――――
8月 廊下


彼方「ふんふんふ~ん♪」


いや~~~、今日は鼻歌も歌いたくなっちゃうよ~♪


だって遥ちゃんが東雲学園でスクールアイドルのセンターに選ばれたからね!

携帯に報告の連絡が入ってて、思わず目が覚めちゃった。


彼方「早く遥ちゃんに会いたいな~♪」


今日はバイトも休みだからこのあと買い物して~……


ご飯、なに作ろうかな?

お祝いだからたーんと、いいご馳走を用意しなきゃね~♪


彼方「部室、誰かいるかな~?」


今日の練習はもう終わったんだけど、

彼方ちゃん、うっかり忘れものしちゃったので部室に戻ってきました。


もしかしらもう鍵がかかってるかもしれない。

そしたら職員室行かなきゃ……

あ、いまもう夏休みだけど先生まだいるかな? 早く帰られたりとかしてないかな?

とにかく部室に誰かいてくれることを願うばかりだよ~


彼方(……あ、開いてる~、ラッキー♪)


彼方(んっ? あれ……しずくちゃん?)


彼方(えっ……?)

37: 2021/01/31(日) 00:25:20.67 ID:Ow59Auyf
しずく「はぁ……はぁ……」

彼方「し、しずくちゃん?!」


扉を開くと……しずくちゃんが息を切らしながら倒れていた。


彼方「し、しずくちゃん?! 大丈夫!?」

しずく「か、かな……たさん」


すごく厳しそうな表情……息を切らして、汗も尋常じゃないくらいかいていた。


前にしずくちゃんが自分は汗っかきだなんて恥ずかしそうに言ってたけど。

普通じゃないくらいかいている、と思った。夏だからとか、そんなんじゃない。


過呼吸……っていうのかな。


彼方「しずくちゃん、しずくちゃん……」オロオロ


苦しそうにしてるしずくちゃんを前に、私は何もできなかった。

オロオロしながら背中をさすってあげるだけ……頼りない先輩。


しずく「ご、ごめんなさい、だい、じょうぶですっ、大丈夫です、から……」

彼方「うん、いいよ。落ち着いて……」ギュー


こういう時にどうしたらいいのかとか、

専門的にいましずくちゃんはどうなっているのかとか、

とにかく私も慌ててしまって、よくわからない。


だからただ、抱きしめてあげることしかできなかった。


怖くないよ、って。

40: 2021/01/31(日) 00:31:01.62 ID:Ow59Auyf
今日は以上です!
起・承・転・結ペースで更新していければと思います。
また明日更新します。

60: 2021/01/31(日) 11:39:19.63 ID:Ow59Auyf
彼方「しずくちゃん……」


しずく「……ごめんなさい……彼方さん……っ」ポロポロ

しずく「違うんです、今日は特に疲れてて、それで……」


彼方「……大丈夫だよ、なにも気を遣わないでいいからね」ナデナデ


しずくちゃん……すごく動揺してる。

いまの体調もそうだけど、おそらく誰かに見られたことでもっと動揺してるみたいだった。


彼方「よしよし……いい子だねぇ」


しずく「……」


彼方「……しずくちゃんは頑張り屋さんだからねぇ」

彼方「きっと疲れちゃったんだよね」ナデナデ

しずく「……」ギュー


頭を撫でるとそれに応えるように、抱きしめ返してきた。

珍しい……しずくちゃんが私に甘えてくることなんてあったかな?


いつも真面目で、大人びているしずくちゃんだけど、

ついこの間まで中学生だったんだもんね。

一人でとことん頑張りすぎてたら、不安になっちゃうこともあるよね。


これは、人としてどうかな……

こんなこと思うのは、ものすごく不謹慎かもしれないけど……


私はこうして甘えてくれるしずくちゃんが、すごく嬉しかった。

61: 2021/01/31(日) 11:42:24.63 ID:Ow59Auyf
――――――
彼方の家


彼方「ただいま~♪」


遥「あ、おねーちゃん! おかえり~!」


遥「しずくさんも! ようこそウチへ!」

しずく「あっ……お邪魔します」


……しずくちゃんをおうちへ連れてきた。

この様子じゃ電車に乗って帰るのは難しい、と思ったから。


聞くと電車に乗ってる時にも、言いようもない不安に煽られるらしい。


そんな状態で鎌倉からわざわざ学校に通ってたなんて……


しずく「彼方さん、すみません……お邪魔になったらすぐ帰るので」

彼方「お邪魔なんて思う訳ないよ~? ほら、あがってあがって~♪」

しずく「でも、そんな……」


彼方「も~! しずくちゃん! 今日は気を遣うのなし!」

彼方「今日は彼方ちゃんのお城でゆっくりしてってよ~♪」

しずく「……」


しずくちゃん……まだ気まずそうな顔しているな。

あの苦しそうにしてる姿を見られてしまったこと、相当嫌だったのかもしれない。

いつも『理想のヒロイン』を演じる彼女にとって、こんな弱みをさらけ出すのは……

もしかしたら普段の練習から、その姿を隠すことに精一杯だったのかもしれない。


そんなところまで“女優”にならなくていいんだよ……

62: 2021/01/31(日) 11:45:22.57 ID:Ow59Auyf
遥「同好会の人が遊びに来てくれたの、初めてなんで嬉しいです!」


しずく「……そ、そうなんですか?」

遥「はい! お姉ちゃん、普段は勉強とかバイトとかで忙しいから……」


彼方「ふたりとも~、同じ1年生だから敬語じゃなくていいんじゃない?」


遥「あ、そっか……じゃあよろしくね! しずくちゃん!」

しずく「う、うん……よろしく」


彼方「そうだ遥ちゃん! センターになったんだね! おめでとう!」ギュー

遥「うわーい! ありがとう、お姉ちゃん!」

彼方「やっぱり遥ちゃんは天才だねぇ、世界中の目線を虜にするねぇ♪」

遥「そんなことないよぉ……たまたまだよぉ」

彼方「そんな遥ちゃんを独り占めできる彼方ちゃんは幸せだよぉ~!」


しずく「」ポカーン


遥「お、お姉ちゃん……しずくちゃん、置いていってるから……」

しずく「あ、いえ……お気になさらず」

彼方「あ、ごめん、しずくちゃん! しずくちゃんもぎゅ~~~!」

しずく「わっ! ちょ、ちょっと、なんですか……」


彼方「しずくちゃんも最高に可愛いよ~~~、このまま妹になってくれない?」

しずく「……」


彼方「……あれ? なりたいな、って考えてる~?」

しずく「か、考えてませんから! 調子乗らないでください!」


彼方「むうぅぅ……残念……」

63: 2021/01/31(日) 11:48:34.42 ID:Ow59Auyf
彼方「遥ちゃん、今日は冷蔵庫に残ったものでいいかな~?」

遥「なに言ってるの、お姉ちゃん。お姉ちゃんのご飯はどんなご飯もご馳走だよ~」

彼方「ごめんね~……また今度、大好きなご飯ご馳走するからね~」


彼方「しずくちゃんもご飯、食べていってね♪」

しずく「えっ……? それはあまりにも悪いですよ」

しずく「家に招いてくれただけでも、申し訳ないのに……」

彼方「いいのいいのっ。今日はしずくちゃんをおもてなししたいんだから!」

しずく「……なんかすいません」


遥「しずくちゃん、全然気にしなくて大丈夫だよ!」

遥「あ、私、お風呂沸かしてくるね~!」タッタッタ……


彼方「……泊まってく?」

しずく「え? い、いや……すぐ帰りますよ」

彼方「だめだよ。帰ってる途中にまた倒れちゃうかもよ」

彼方「彼方ちゃん、それだけは心配だよ……」

彼方「だから、ね? 今日は何も心配しないでゆっくりして?」


しずく「……本当にすみません。ご迷惑をおかけして」

しずく「お母さんに連絡しますね」


彼方「うん……ありがと♪」

64: 2021/01/31(日) 11:51:41.21 ID:Ow59Auyf
彼方「さぁ~て、今日は何を作ろうかな~?」


しずくちゃんを椅子に座らせて、冷蔵庫の中を漁った。

うーん、何を作ろうかな……


食材が全くないわけじゃない。

だけど何かを作ろうとすると何かが足りないような……あと一歩足りない感じ。

うーん、どうしよっかな~?


彼方「何か嫌いな食べ物とかあるー?」

しずく「いや、大丈夫です……そもそもお食事いただけるだけでありがたいですよ」

彼方「そっか~……なに作ろうか悩むな~」

彼方「せっかく遊びに来てくれたんだから、絶対美味しいご飯にするね~」


しずく「申し訳ないです……でも彼方さん、お料理上手なの知ってますから」

しずく「どんなお食事でも楽しみです……ふふっ♪」

彼方「あ! やっと笑ってくれた~♪ よかった~♪」


よかった……少しは心を許してくれたのかな。

やっぱりしずくちゃんは笑った顔が一番だね。


よーし、彼方ちゃん、絶対に美味しいごはん作ってみせるぞ~!


彼方「えーと、えーと、何かないかなぁ……」

彼方「……」


彼方「あっ、ピーマン!」


しずく「えっ?」

65: 2021/01/31(日) 11:55:00.40 ID:Ow59Auyf
――――――


遥「わーい! 今日のご飯はピーマンの肉詰め、だね!」

彼方「余り物だけどなんとか料理にできたよ~♪」


遥「しずくちゃん、お姉ちゃんのお料理、ほんと美味しいんだよ!」

彼方「へへーん! 鼻高々だよ~♪」

遥「あ~、もうお腹すいちゃった! いただきまーす!」

しずく「い、いただきます!」


しずく(……)


しずく(……い、いや)


しずく(……この期に及んで、好き嫌いとかありえないよね)

しずく(ピーマン、実は嫌いなんです、なんて、あつかましすぎるよ……)


しずく(……でも彼方さんの料理……なんだろう、同じピーマンなのに)

しずく(すっごく美味しそうだな……)


彼方「……しずくちゃん? どうしたの?」

彼方「ぐ、具合悪くなっちゃったかな……?」

しずく「あっ、ご、ごめんなさい! い、いただきますっ!」


しずく(あむっ……)


しずく(……もぐもぐ)

しずく(……もぐ……もぐ……)


しずく(あ、あれ……これピーマン……?)


しずく(お、美味しい……!)

66: 2021/01/31(日) 11:59:12.78 ID:Ow59Auyf
彼方「お味は……いかがかな?」

しずく「……美味しいです、すっごく」

彼方「うおおお~! やったぁ~!」

しずく「美味しいです、本当に美味しいです……!」ポロポロ


遥「わわっ?! しずくちゃん!?」

彼方「え!? えっ、えっ……」

しずく「あ、いや、ごめんなさい……感激しちゃって」


彼方「ほ、ほんとぉ? よかったぁ……焦っちゃったよぉ~」

しずく「本当に美味しいです、私これ……大好きです」

彼方「嬉しいねぇ、そこまで褒めてくれるなんて……」


……私は、子供の頃からピーマンが苦手。

あの苦みがどうしても舌に慣れなくて、ずっと嫌いな食べ物だった。

でもそんなピーマンも、彼方さんの手にかかればこんな美味しくなるんだなぁ。


ピーマンでここまで美味しいんだから、他の料理ならもっと美味しいかも……


しずく(ってだめだめ!)

しずく(せっかく作ってもらったのに他の料理食べたいって思うなんて……失礼すぎるよねっ)


しずく(でも……本当に美味しいな、これ)


……彼方さんはすごい。

私が苦しそうにしてるところを助けてくれたし、家にまで招いてくれたし。

それに嫌いだったこの苦みのある食べ物を、こんなに美味しくしてくれるんだもん。


彼方さんは、どんなに苦しいことも、明るく変えてくれるかもしれない、なんて思った。

67: 2021/01/31(日) 12:02:15.72 ID:Ow59Auyf
彼方「お味は……いかがかな?」

しずく「……美味しいです、すっごく」

彼方「うおおお~! やったぁ~!」

しずく「美味しいです、本当に美味しいです……!」ポロポロ


遥「わわっ?! しずくちゃん!?」

彼方「え!? えっ、えっ……」

しずく「あ、いや、ごめんなさい……感激しちゃって」


彼方「ほ、ほんとぉ? よかったぁ……焦っちゃったよぉ~」

しずく「本当に美味しいです、私これ……大好きです」

彼方「嬉しいねぇ、そこまで褒めてくれるなんて……」


……私は、子供の頃からピーマンが苦手。

あの苦みがどうしても舌に慣れなくて、ずっと嫌いな食べ物だった。

でもそんなピーマンも、彼方さんの手にかかればこんな美味しくなるんだなぁ。


ピーマンでここまで美味しいんだから、他の料理ならもっと美味しいかも……


しずく(ってだめだめ!)

しずく(せっかく作ってもらったのに他の料理食べたいって思うなんて……失礼すぎるよねっ)


しずく(でも……本当に美味しいな、これ)


……彼方さんはすごい。

私が苦しそうにしてるところを助けてくれたし、家にまで招いてくれたし。

それに嫌いだったこの苦みのある食べ物を、こんなに美味しくしてくれるんだもん。


彼方さんは、どんなに苦しいことも、明るく変えてくれるかもしれない、なんて思った。

68: 2021/01/31(日) 12:06:44.44 ID:Ow59Auyf
――――――
寝室


遥「ん~……むにゃむにゃ……」


彼方「遥ちゃん、寝ちゃった」

彼方「しずくちゃんと話すの、よほど楽しかったのかな?」


しずく「ふふっ……なんか寝てるところ見ると、特に彼方さんに似てますね」

彼方「えっ、そうかなぁ? 似てるかなぁ?」

しずく「そっくりですよ。いつも彼方さん起こしに行ってるから、わかります」


彼方「そっかぁ……」


彼方「しずくちゃんが一番、私の寝顔見てるかもしれないねぇ……」

しずく「さすがに遥さんの方が見てるんじゃないですか?」

彼方「う~ん……だいたい家では勉強で夜更かししてるからねぇ」


遥さんとスクールアイドルの話、同級生ならではの話で盛り上がった。

同じ高校のかすみさん、璃奈さん以外では初めてのスクールアイドル友達。

心を通わせられる友達ができたのが嬉しくて、今日あった嫌なことも忘れてしまった。


……あのみっともない私を彼方さんに見られて、全て終わったと思った。

あんな状態を見られたら、演劇もスクールアイドルも続けられないと思われそうだから。


必死に隠してやり通すつもりだったのに。

かすみさんにも璃奈さんにも、それから部長にも……誰にも言わないつもりだったのに。

一人で背負って、一人で乗り越えるつもりだった。


でも……いまは彼方さんっていう理解者がいてくれて、心底安心している。

69: 2021/01/31(日) 12:11:05.62 ID:Ow59Auyf
彼方「……しずくちゃん」


彼方「もしできるなら……何があったか、話してほしいな」


しずく「……」


彼方「ゆっくりで、いいよ……ゆっくりで、いいからね……」


しずく「……私のこと、嫌いになるかもしれませんよ」

しずく「変な子だって、思うかもしれませんよ」

しずく「重たい女だって、精神的におかしくなってるって」

しずく「距離を置きたくなるかもしれませんよ」

しずく「ドン引きするかも……しれませんよ」


……自分の気持ちを隠したいがために、早口でまくし立ててしまった。


同じスクールアイドルとして、仲間としてだからこそ。

いまの自分に起きていることをカミングアウトすることが怖くて、仕方なかった。


その恐怖と不安を隠し通すために、嫌われないために言葉で武装する。

70: 2021/01/31(日) 12:16:03.35 ID:Ow59Auyf
彼方「……絶対しないよ、しずくちゃん」ニコッ

彼方「しずくちゃんは彼方ちゃんの……大切な後輩だからねぇ」


しずく「……う、うぅっ……!」


……抱えてきたいろいろな不安。


演劇部で失敗するかも。


同好会のみんなに迷惑をかけるかも。


この状態が続けば私は舞台もアイドルも続けられなくなるかも。


私、自分をどんどん追い詰めて、壊れて、壊れて、


おかしくなっていくのかも……


彼方「……しずくちゃん」


彼方「大丈夫だよ」ニコッ


彼方さんの包容力たっぷりなその声色と、優しい笑顔。


……そんなに優しくされたら、もう我慢できるわけないじゃないですか。


それを前にしたらもう……


私は……彼方さんの優しさに……飛び込んだ。

80: 2021/01/31(日) 18:10:27.44 ID:Ow59Auyf
しずく「……台本のセリフが、全然頭に入らなくなっちゃったんです」

しずく「ずっと頭の中に“もや”がかかってるような……感じで」


しずく「それでちょうどひと月前、電車に乗ったら……」

しずく「息ができないくらい、苦しくなっちゃって」

しずく「心臓の動悸が……止まらなくて」


彼方「……そっか、辛かったね……」


しずく「舞台で稽古するのも、周りの目線を痛く感じて」

しずく「不安と怖いって気持ちで……いっぱいになって」

しずく「心が、暗い気持ちに……飲み込まれそうになるんですよ」


彼方「……ダンスの練習、ちょっとおぼつかなかったのは」

しずく「そうです、ね……その影響もあると思います」


しずく「……だから、あの……そういう、なんていうんでしょう」

しずく「病院に……行ったんです」

しずく「そしたら、その……」


しずく「心の病気、というか……」ポロポロ

しずく「あ、あぅ……しょ、その……」


あぁ……言っちゃった。

これからきっと……そういう目で見られるんだろうな。


めんどくさい性格で、強がりで、人の目ばかり気にする私。

彼方さんの前で保ってきた“後輩、桜坂しずく”のイメージが崩れ去ったような気がして。


本当の自分をさらけ出すのが……やっぱりまだ怖いんだ。


声が震えてしまって……情けないなぁ、私。

81: 2021/01/31(日) 18:12:45.00 ID:Ow59Auyf
彼方「……しずくちゃん」


彼方「教えてくれてありがと。一人でいっぱい頑張ったんだね」


彼方「これからは彼方ちゃんも一緒だから。大丈夫だよ」ニコッ


しずく「……彼方さん」


それでも口にできたのは……


彼方さんなら全てを包んで許してくれると思ったからだ。


しずく「えっと……その……」


彼方「おいで、しずくちゃん」


しずく「……」


両手を広げる彼方さんに身も心を委ねるよう、寄りかかった。


彼方「はい、ぎゅーっと♪」

彼方「怖かったと思うし、きっとたくさん悩んだよね」

彼方「でも彼方ちゃんは、どんなしずくちゃんでも……守るからさ」


しずく「……なんでそんな、優しいんですか?」


彼方「えっ……うーん、なんでだろ?」

彼方「……優しくするのなんて、当たり前すぎてわかんないよぉ」


彼方「しずくちゃんのこと、好きだからかな……?」

しずく「……そうですか」


しずく(……めんどくさいなぁ、私)


しずく(でも彼方さんなら……そんな自分でもいいかなって、思えちゃう)

82: 2021/01/31(日) 18:15:25.66 ID:Ow59Auyf
――――――
彼方の家 朝


……朝が来た。


久しぶりにぐっすり眠れた気がす……ん?


しずく(いつの間に布団の中で……)


しずく(……えぇっ?!)


彼方「んん……すやぴぃ……」


ふと顔を上げると、そこには彼方さんの顔が目の前に……

彼方さんは、私を抱き枕にして眠っていた。


しずく「わ、わわっ! いやいやいやいや……!」


思わず布団から飛び出してしまった。

なな、なんでこんなことに……一晩中、抱きしめられてたのかな。


は、恥ずかしすぎる……な、なんで、こんなことに。


彼方「あれぇ……しずくちゃん、おはよぉ」

しずく「おはよぉ……じゃないですよ! ど、どうなってるんですかこれ!」

彼方「ほえ……? にゃんのこと……?」

しずく「だからその、なんでだ、だ、抱きしめ……っ」


彼方「だってあのあとぉ……抱きしめられたまま、眠っちゃったから……」

彼方「このまま一緒にすやぴしちゃお~って……とにかく、おはよぉ♪」


しずく「~~~~~~~っ!!!!!」

83: 2021/01/31(日) 18:21:13.31 ID:Ow59Auyf
しずく「もう意味わかりません! 恥ずかしい! 恥ずかしすぎます!」


彼方「えぇ……でもそっちから抱き着いてきたんじゃないか~」


しずく「だからって寝てる時もずっとだなんて、変ですよ……」

彼方「彼方ちゃんは……しずくちゃんとすやぴできて幸せだったけどね?」


しずく「な、なななな! 何言ってるんですか!」

彼方「えへへ~♪」


しずく「も、もう知らないです!」プイッ

彼方「え~そんな~、こっち振り向いてくれよぉ、しずくちゃ~ん」


な、なんで彼方さんは……


心臓の動悸が止まらない、って言ったのに。


また違う理由で、動悸が激しくなっちゃいそうだよ……

84: 2021/01/31(日) 18:24:11.60 ID:Ow59Auyf
――――――



しずく「……お見送り、ありがとうございました」


彼方「大丈夫? 電車……怖くない?」


しずく「はい。この時間帯なら座れると思うし」


あのあと彼方さんの家で遥ちゃんと朝ごはんを食べてから、

彼方さんに駅まで一緒に来てもらった。


遥ちゃんは「もっとお話ししたかった~」って言ってくれた。

私も彼方さんと遥ちゃんともっと一緒にいたかったなぁ。


名残惜しいけど、ずっと彼方さんの家にいる訳にはいかない。

また時間を見つけて、遊びに行きたいな。


彼方「……もし何かあったらすぐ連絡するんだよ?」

彼方「あとちゃんと家に帰れたら、その時も連絡頂戴ね?」


しずく「あはは……心配性ですよ、彼方さん」

彼方「そんなことないよ、普通だよ、心配だよぉ……」


しずく「薬もちゃんと飲むので。それに……」

しずく「だいぶ楽になったんですよ、彼方さんに知ってもらえるだけで」

しずく「それだけでもう、すごく。助かってます、安心です」


彼方「……学校、来れる?」

彼方「もしあんまり、無理そうなら休んでいいからね」

彼方「いまは夏休みだし、そんな頑張らなくても……」


しずく「それは……できないですよ」

85: 2021/01/31(日) 18:29:36.30 ID:Ow59Auyf
彼方「えっ……な、なんで?」


しずく「エマさんといた時に言いましたけど、私、次の公演も主役なんです」

しずく「だから休むのだけは、無理ですよ。周りに迷惑をかけちゃう」


彼方「そ、そんな……」


彼方「周りに気を遣いすぎなんじゃないかな……?」


彼方「それでまた、自分のことでいっぱいになっちゃったら……」


しずく「……」


彼方さんの心配はわかる。

こんな身も心も危ない私、心配で気が気じゃないだろう。


でも大好きな演劇の公演に穴を開ける訳にはいかないんだ。


……ごめんなさい、彼方さん。そうですよね。

またプレッシャーで自分を追い詰めるようなこと、してますよね。

これじゃ何も変わらないですよね。

でもどうしてもお芝居もスクールアイドルも、やり続けたいんです。

彼方さんが支えてくれるなら、きっと治りますから……


だから今だけは……元気な女の子を演じさせてください。

86: 2021/01/31(日) 18:31:23.98 ID:Ow59Auyf
しずく「……大丈夫ですよ、彼方さん!」

しずく「昨日と今日で、彼方さんにたくさん、元気を充電してもらいましたから♪」


彼方「……ほんと?」


しずく「いまは少し苦しいですけど、でもお芝居が大好きな気持ちは変わらないので!」

しずく「せめてもう少しだけ……頑張らせてください」


彼方「……わかったよ」


彼方「やっぱりしずくちゃんは……頑張り屋さんだなぁ」

しずく「……彼方さんがぐうたらしすぎなんですよ」

彼方「えへへ……見習わないとなぁ」


彼方「でも何か困ったら、すぐ彼方ちゃんに言うんだよ」

彼方「それだけはお願い」


しずく「……わかりました」

87: 2021/01/31(日) 18:38:20.53 ID:Ow59Auyf
しずく「……え?」


部長「だから、しずく」


部長「……聞こえなかったかな」


え……?


部長「……降板してくれ」


部長「頼むから」

93: 2021/01/31(日) 22:19:37.07 ID:Ow59Auyf
しずく「ど、どうしてですか?! な、なんで……」


しずく「あ、まだ私、役のこと理解しきれてなかったですかね?」


しずく「ごめんなさい! 頑張りが、足りてませんでした……」


しずく「あ、あの、再オーディションがあるなら、受けさせていただいても……」


部長「いや、もうないよ」

部長「再オーディションはない」


部長「とにかく降板してくれ」

しずく「なっ……なんで」


部長「……しずく、何か薬飲んでるよね。錠剤みたいな」

部長「あれなんの薬?」


しずく「あ、あれは……」


しずく「……頭痛薬です! 最近ひどくて」


部長「ふぅん……しかもそれ、一日に何錠も飲んでるよね」

部長「薬ってさ、普通に考えて一日にそんな飲んでいいものなの?」


しずく「い、いや……その……」


部長「とにかく体調が悪いのも無理してるのも……見て明らかでしょ」

部長「頼む。もう休んで」


しずく「……いやです」

しずく「やだ……いやです……」


部長「えっ……?」

94: 2021/01/31(日) 22:21:12.63 ID:Ow59Auyf
しずく「えっ?」


しずく「あっ……す、すみません」


部長「……どうしちゃったの」

部長「しずくがそんな苦しそうにお芝居してるの、見たくないよ」


しずく「だ、大丈夫ですから、本番までなんとかしてみせますから」

しずく「少しだけお休みさせてください、そしたら元通りに」


部長「もういいって!」

しずく「っ……」


部長「……とにかく今の状態で舞台に出せる訳ないよ」

部長「私も部長っていう立場があるんだ……わかってくれ」


しずく「……」


部長「休んでくれ、演劇部もしばらく」

しずく「そんな……」

部長「だめ。休んで。聞かなかったら本当に辞めさせるよ」

しずく「わ、わたし、わたし……」


部長「……次の公演、もうお芝居ごと変えようと思う」

しずく「えっ? 違う台本にするんですか……?」

部長「うん。やっぱりこの芝居はしずくに主役をやってほしいから」


部長「だから心置きなく休んでくれ。ちゃんと居場所は残しておくから」


部長「元気になったら、またやろう」

しずく「……」


しずく(……戻ってこれるのかな、私……)

しずく(もう一生……舞台、立てないんじゃないかな……)

95: 2021/01/31(日) 22:22:59.25 ID:Ow59Auyf
――――――
部室


しずく(……終わった)


しずく(出られなくなっちゃった)


しずく(演劇もアイドルもできなくなっちゃった)


しずく(舞台にもステージにも……あがれない)


しずく(私にはもう何も……ないや)


しずく(これからもずっとこのままなのかな)


しずく(これじゃもう……生きてても……)


?「しずくちゃ~~~ん!」ガラガラ


しずく「えっ?! あっ、彼方さん……」

96: 2021/01/31(日) 22:25:46.55 ID:Ow59Auyf
彼方「しずくちゃん、捕まえた~♪」


彼方「ふふーん♪ みんなが来るまで、彼方ちゃんが独り占め~♪」

しずく「だ、抱き着かないでくださいよ……最近いくらなんでも抱き着きすぎです」


彼方「あれ……?」

彼方「しずくちゃん、泣いてた……?」


……抱き着いた時、ふとしずくちゃんの目が光ったように見えた。

よく見ると目の周りを赤くしてる。


しずく「えっ、あ、いや……」

彼方「もしかして体調悪い? な、なんか不安だったりする?」

しずく「そ、そうじゃなくて」


彼方「うん。大丈夫だよ、深呼吸、深呼吸……」

彼方「彼方ちゃんが……ついてるからね……」


しずく「……彼方さん」


しずく「ごめんなさい。お芝居、降板になっちゃいました」


彼方「え……」

97: 2021/01/31(日) 22:28:36.45 ID:Ow59Auyf
しずく「……で、でも当然ですよね!」

しずく「こんな状態で、舞台なんかあがれるわけないですもんね」


彼方「う、うん……」


しずく「あは、あはは……何を無理して頑張ってたんですかね、私」

しずく「結局全部ダメになるのに……ははは……」


……乾いた笑いは、無理して笑ってるようにしか見えなかった。


それは私を心配させまいと我慢してるようにしか見えなくて。


これはいわゆる職業病ってやつなのかな。


女優であるしずくちゃんは、

無意識的に悲しい気持ちを抑えて、理想の後輩を演じようとしてるのかもしれない。


彼女の心がおかしくなってるのは、忙しくて大変で……ってこともあるかもしれないけど。

きっと『本当の自分を出せない』っていうこういう部分もあるんじゃないかな。


せめて私の……彼方ちゃんの前では、わがままなしずくちゃんでいて欲しいよ。

98: 2021/01/31(日) 22:31:43.96 ID:Ow59Auyf
彼方「……無理して笑わなくても大丈夫だよ」

彼方「彼方ちゃんはどんなしずくちゃんもちゃんと受け止めるからね」

しずく「か、彼方さん……」


彼方「……正直彼方ちゃんは、安心した」

彼方「お芝居もアイドルも頑張りすぎだからさ、しずくちゃんは」

彼方「休んだ方がいいって……思ってたからねぇ」


しずく「でも私、演劇がなくなったら……なんにもなくなっちゃいます」

しずく「ずっとお芝居だけは頑張ってきたんです」

しずく「それができなくなったら、私はもう……」


彼方「……大丈夫だよ。そんな思い詰めないで」

彼方「どんなしずくちゃんでも守る、って言ったじゃん」


彼方「だからしずくちゃん……一緒にすやぴしよ?」


しずく「へ?」

99: 2021/01/31(日) 22:33:44.57 ID:Ow59Auyf
しずく「……彼方さん、な、なんですかこれは」

彼方「ふっふっふ~♪ ひざまくら~♪」

しずく「そ、それはわかりますけど……」


彼方「いつも膝枕されてる彼方ちゃんが為せる、スペシャル膝枕だよ!」

彼方「思えばエマ師匠……彼女の膝枕は天才的であった……」

しずく「どんな師弟関係なんですか……もう」


彼方「どう? 落ち着く?」ナデナデ


しずく「……」


しずく「……はい、とっても」

彼方「お~、お気に召したならよかったよ♪」

しずく「あはは……私、このままダメ人間になっちゃいそうです」


彼方「……いいんだよ、ダメダメでも」

彼方「もっとわがままになって、甘えて欲しいよ。彼方ちゃんは」

しずく「私、そんな子供じゃありませんから……」


彼方「え~、もうだめ~!」

彼方「今の彼方ちゃん、しずくちゃんのためならどんなことでもできちゃうから!」

彼方「なんかわがまま言ってみて!」

彼方「頑張りすぎのしずくちゃんにもっとプレゼントしたいんだから!」


しずく「え、えぇ……そんな、いきなり言われても困りますよ……」

彼方「ほらほら~、何かわがまま言ってみて?」

100: 2021/01/31(日) 22:36:11.80 ID:Ow59Auyf
しずく「……」


しずく「……ぴ」


彼方「……ん?」


しずく「……ぴ」


彼方「……はい??」


しずく「……」


彼方「えっとぉ……ぴ?」


彼方「……あ、すやぴ? すやぴする? 一緒に?」


しずく「じゃなくて……ぴ……ぴっ……」


しずく「……ぴーまん」


彼方「ぴ、ピーマン……?」


しずく「……ぴ、ピーマン嫌い……だから……」


しずく「次、遊びに行くときは、違うご飯、食べたい……です」


彼方「」

103: 2021/01/31(日) 22:38:26.11 ID:Ow59Auyf
しずく「べ、べべ、別に違いますよ?!」

しずく「ピーマンの肉詰め、すっごい美味しかったですよ?!」

しずく「で、でもわがまま言えって言うから、仕方なく言っただけですから!」

しずく「違いますからっ!」


彼方「……」


しずく「す、すいませんっ、もう忘れてください! なんでもないです!」

しずく「え、演技です。これはピーマンが嫌いな少女が……」


彼方「……ぷぷっ、あはははは!」

彼方「あはは……しずくちゃん、ピーマン苦手なんだ~!」


しずく「あ、あううう!!!」

しずく「わ、笑わないでください! ずるいですっ!」


彼方「だって全然甘えてこないしずくちゃんがさ~」

彼方「ピーマン嫌いだからやめてって、一番子供っぽいわがまま言うんだもん~♪」


しずく「あああああっ! もーっ! もーっ! 笑わないで、笑わないで~!」


彼方「あははは……うんっ、わかったよ。じゃあピーマンやめるね?」

彼方「だから次は安心してご飯、食べに来てね♪」


しずく「……はいっ、行きます」


うん……やっぱりしずくちゃんは、ありのままなのが一番可愛いよ。


今回は残念だったけど、またいつか演劇もアイドルもできるようになる。


それまで彼方ちゃんは……しずくちゃんを悲しませないよう、いっぱい守るよ。


しずく「……」

118: 2021/02/01(月) 07:17:04.21 ID:iYLSg31v
……その日からぱたん、と。

しずくちゃんは学校に来なくなった。


夏休みだし、演劇部はなくなったし、これでよかったんだと思う。


そしてそれに重なるように、同好会にも来なくなってしまった。


もちろん寂しいけど……彼女を思えばこれが一番いいんだと思う。

いまのあの子には休むことが必要だと思うから。


だけど……私が連絡をいれても、冷めた返事しかしてくれない。


『大丈夫?』って連絡すれば『大丈夫です』って。


『何かあったら言ってね』って連絡すれば『ありがとうございます』って。


感情をなくしたロボットみたいな……生きた心地のしない返事。


もっとピーマンが嫌いだ、っていうみたいに自分の気持ちを吐き出していいのに。


やっぱりしずくちゃんは……


頑固で、真面目過ぎで、甘えるの下手だなぁ……

126: 2021/02/01(月) 23:27:14.40 ID:iYLSg31v
――――――
8月 学校スタジオ



かすみ「うぅ~、うぅ~……」


エマ「……かすみちゃん、どうしたの?」


璃奈「かすみちゃんは……深刻なしずくちゃん不足」

璃奈「寂しくてしょうがないらしい」


かすみ「も~~~! しず子、休みすぎだよぉ!」

かすみ「かすみんをほっといて、2週間も休むなんて~!」


……今日はユニットでの練習。

かすみちゃんが親友のいない寂しさで飢えている。


エマ「体調、そんなよくないのかな……?」


璃奈「お芝居も降板した、って聞いた」

璃奈「……すごい心配」


しずくちゃんの心の病気のことは……誰にも言ってない。

言ってしまったら同好会に帰りづらいかな、と思って。


だけどさすがに2週間も休むとなれば、みんな心配しだして当然だよね。


エマ「彼方ちゃん、何か知らない?」


彼方「……う、う~ん……わかんないなぁ?」


エマ「……そっかぁ」

127: 2021/02/01(月) 23:29:54.57 ID:iYLSg31v
かすみ「……ずっとおかしかったんですよねぇ」

かすみ「難しい顔して、演劇の台本とにらめっこして」


かすみ「いっつも何かに追われてるような……そんな感じだったんですよ」


璃奈「しずくちゃん、努力家だから」

璃奈「頑張りすぎて、余裕なくなってたような気がする」


……うん。いくらしずくちゃんが名女優でも。

やっぱりしずくちゃんのことが大好きな親友にはバレちゃってるよ。


彼方「……」


私も私で気が気じゃなかった。

しずくちゃん、どうしてるんだろう……本当に元気かな。

128: 2021/02/01(月) 23:31:09.55 ID:iYLSg31v
降板が決まった時は、思ったよりも元気だった。

冗談を言って笑いあったりできたもんね。


だけど……演劇っていう場所がなくなって、同好会にもこなくなって。


ずっと部屋で……ひとりぼっちなんじゃないかな。


いつも舞台やステージに立って、みんなに注目された女の子が。

言葉にしようのない不安に襲われて、たった一人きり、心を閉ざそうとしてるんじゃないかな……


……自分の本音をひた隠して生きているしずくちゃんだ。


気丈に振る舞ってるように見える、辛くても前を向こうとしてるように見える。


だからこそ、その我慢が爆発したときの……“反動”が怖い。


彼方(しずくちゃん……)


考えれば考えるほど、心配は募るばかりで……

いてもたってもいられないよ、しずくちゃん。


彼方「……ねぇ、かすみちゃん」

彼方「しずくちゃんの家……教えてくれないかなぁ?」


かすみ「えっ?」

129: 2021/02/01(月) 23:34:26.82 ID:iYLSg31v
――――――
しずくの家



しずく(……)


しずく(あぁ……無気力)


しずく(もう私は……何もできずに終わっていくのかな)


ふと、テーブルの上の手鏡に映る自分を見た。

毎朝綺麗にセットして、リボンで丁寧に結んだ私の髪は……


……もう、ぐしゃぐしゃだ。


ぐしゃぐしゃ。


心も、見た目も。ぐしゃぐしゃ。


これが……あなたの理想のヒロイン?

笑っちゃうな……


そこに映っていたのは、身も心もボロボロな、やつれた私。

その姿を見て、私は悟った。


きっともう私はアイドルにも女優にもなれない。


舞台のキラキラも、ステージのトキメキも、私にはもう……眩しすぎる。


そう。桜坂しずくはもう……終わったんだ。


しずく(……あああああああああっ!!!)


しずく(……)


しずく(……くすり)


しずく(くすり、飲もう)


しずく(くすり、くすり、くすり……)

130: 2021/02/01(月) 23:38:48.39 ID:iYLSg31v
お医者さんから貰った薬。

部長に飲んでるところ、見られてたなんてなぁ……


でもこの薬が相当効くのか、一度飲むとすごく楽になるのだ。


しずく(ごくっ……ふわぁっ……!)


……こんな私にも一つ、心のよりどころがある。


それは2週間前、私が降板させられた舞台『オズの魔法使い』の映画に出ていたとある主演女優。


その映画を主演していた女優は、子供の頃から大スターだった。

だけどその煌びやかな生活の裏で、悪い大人達に……“悪い薬”を飲まされていたらしい。


それで神経症になって……薬物中毒になって……若くして……


しずく(……あは、あははは)


しずく(一緒じゃん)


役として舞台に立てないなら、そっちの女優の方になりきっちゃえばいいや。

そうすれば降板になっても、ぽっかり空いた気持ちも埋められる。


でも別に外に出るつもりもないから、もういいか。


だったらもう、壊れるところまで、壊れて、壊れて、いく。

131: 2021/02/01(月) 23:41:21.52 ID:iYLSg31v
しずく(……なんてね)


しずく(こんなこと考えるなんて……どうかしてるな)


しずく(それにしても……)


しずく(……)


しずく(……)


しずく(この薬……1日、何錠までだっけ?)


しずく(あれ……? 今日、いくつのんだ……?)


しずく(……)


しずく(…………)


しずく(………………………まぁもう)


しずく(どうでもいいや…………)


しずく「……」


しずく「…………」


しずく「……うっ、うぅ……」


しずく「……ごめんなさいっ……彼方さん……」

132: 2021/02/01(月) 23:46:04.51 ID:iYLSg31v
彼方「ん~……やっぱり鎌倉は遠いなぁ」


……かすみちゃんから家を教えてもらった。

前に家に泊まりに来たから、その時の忘れ物を届けに行く……っていう適当な嘘で。


「かすみんも連れてってください、ずるいです~!」って言ってたけど。

なんとか今回は無理を言って、彼方ちゃんだけ行かせてって頼み込んだ。


会いたいっていうかすみちゃんと璃奈ちゃんの気持ちはわかるけど。

今の自分のこと、しずくちゃんは知られたくないはずだ……

彼方ちゃんだってたまたま、倒れてるしずくちゃんを見かけただけだし……


とにかくこのことは、絶対に黙っておこうと心に決めていた。


彼方「エマちゃん、明日は同好会休むね」

エマ「うん」


彼方「ちゃんとかすみちゃんの気持ちも伝えるよ……すごく心配してるよって」

彼方「もちろん璃奈ちゃんとエマちゃんのぶんもねぇ……」


エマ「……ねぇ」

彼方「ん~? どうしたの?」

彼方「あ、もしかして鎌倉気になる? いいとこだよ~、子供の頃1回行ったことあるんだけどねぇ……」


エマ「彼方ちゃん、何か知ってるよね?」


彼方「ほえっ?!」

133: 2021/02/01(月) 23:49:56.67 ID:iYLSg31v
エマ「……しずくちゃん、大丈夫なの?」

彼方「えっ? な、なんで~……?」


エマ「前に3人で踊ってた時、しずくちゃんの様子おかしかったから」

彼方「あ、あぁ……そういえば」


エマ「思えばあの時から、しずくちゃんの具合悪かったんじゃないかなぁって」

エマ「ずっと考えてたし心配だったの」

エマ「そしたらお芝居も降板ってなって、2週間も練習来なくなって……」


彼方「……」


ほわほわしてるようで、実は意外と鋭いんだよな……エマちゃん。


エマ「あの頑張り屋のしずくちゃんが……」

エマ「いくら体調が悪いとはいえ、何も言わず休み続けるなんて絶対おかしいと思ってた」


エマ「……だから彼方ちゃん」


エマ「なにか知ってるんだよね?」


彼方「え、えっと……」


ごめん、しずくちゃん……もう約束破っちゃうや。


でもエマちゃんだから。


優しさの底が見えない、聖母・エマちゃんだから……許してね。

134: 2021/02/01(月) 23:52:09.99 ID:iYLSg31v
エマ「……え」


彼方「……ってわけなんだ」

彼方「だからみんなには言えないよ」


彼方「嫌がると思うからねぇ……あの子は」


エマ「……」


エマ「しずくちゃん、そっかぁ……そうだったんだぁ……」ポロポロ

彼方「え、エマちゃん……」


エマ「ごめんね……何も気づいてあげられなくて……」ポロポロ


……彼方ちゃんもびっくりのピュアっぷり、だよ。

でもこれがエマちゃんのいいところで、私がエマちゃんの大好きなところ。


エマ「……わたし、ずっとしずくちゃんのこと気にかけてたの」

彼方「そうなの?」


エマ「ほら、私たちユニット組んでかすみちゃんと璃奈ちゃんと過ごす時間が増えたでしょ?」

エマ「そのぶん、同じ1年生のしずくちゃんには何も先輩らしいことできなかったから」


エマ「それにしずくちゃんは誰よりも真面目でずっと大人で」

エマ「むしろ私の方がしずくちゃんを頼りにしちゃうくらいで……」


エマ「……無理させてたのかなぁ、って思う」


彼方「……それをいうなら彼方ちゃんも、だよ」

彼方「彼方ちゃんなんて……迷惑かけっぱなしだったからねぇ」

135: 2021/02/01(月) 23:54:34.38 ID:iYLSg31v
彼方「……エマちゃん、こんなこと聞かされて心配無用なんて言えないけど」

彼方「本人には言わないでね? たぶん傷ついちゃうから」


エマ「えっ……う、うん……でも……」


彼方「しずくちゃんは真面目で凄く優しいの」


彼方「こっちが心配すれば心配する分、あの子は心配させまいって無理しちゃうの」


彼方「だから私たちは、私たちで今まで通りでいいんだよ」


エマ「い、今まで通り?」


彼方「うんっ、今まで通りの楽しくて、ちょっと抜けたくらいの同好会でね~……」


彼方「だからエマちゃん……かすみちゃん、璃奈ちゃん、そしてみんなもだけど」


彼方「自然体な私たちのままで、しずくちゃんのこと迎えてあげよう?」


エマ「……いいのかなそれで」


彼方「うん。いいよ~」


彼方「しずくちゃんが帰ってきたら……何も言わないで、膝枕してあげて?」


彼方「なにせ1年生3人の中で圧倒的に甘え下手だからね……膝枕させるのは手ごわいよ?」


エマ「……うん。わかった。そうするよ」


彼方「……それじゃ明日」


彼方「ちょっくら彼方ちゃんが、お姫様を助けに行ってくる!」

146: 2021/02/03(水) 03:49:10.62 ID:Tmdz60VV
著者です。本日の夜、また更新いたします。
長くお付き合いさせ申し訳ありません。

152: 2021/02/03(水) 22:27:14.99 ID:Tmdz60VV
――――――
彼方の家


彼方「……ふぁ~……あ?」


遥「お姉ちゃん、おはよ!」


彼方「おや、珍しいねぇ……遥ちゃん、早起きだぁ」


遥「うん。なんか目が覚めちゃって……」

遥「それより見て! 朝ごはん、作ったよ! 卵焼き!」

彼方「な、ななな! うお、おぉ……!」


遥「も、もちろんお姉ちゃんの卵焼きと比べると、ちょっと焦げてるし、形も悪いけど……」

彼方「いたただきますっ!」ヒョイパクッ

遥「あ、ちょっと! お箸……」


彼方「お、お、お、おいしすぎる~!!!」

彼方「彼方ちゃんは……世界で一番幸せな長女だよ……っ!」

遥「あはは……お姉ちゃんはオーバーだなぁ♪」


ゴロゴロ……

ドォーーーーーン!!!!!


遥「うわっ?! 雷!」

彼方「え……?」


ふと外を見ると、ここ数日じゃあまり見ないくらいの強い雨が降っていた。


そっか、昨日の天気、確認してなかったなぁ……


しずくちゃんの鎌倉も……雨降ってるのかな?

153: 2021/02/03(水) 22:29:30.31 ID:Tmdz60VV
遥「……本当に鎌倉までいくの?」


彼方「うん……顔、見たいからねぇ」


遥「私も……しずくちゃん、すごく心配だけど……」

遥「でもこの天気じゃ、日を改めた方がいいんじゃないかな?」

遥「予報だとこのあと強くなるらしいし」

遥「鎌倉って海も近いでしょ? 風とか強そうだし、危ないよ……」


彼方「……うーん」


……しずくちゃんには「行く」という一言も何も言っていない。

冷たい連絡の返事からすると、断られそうな気がしたからだ。

サプライズで行っちゃお~、なんてそんな感じだった。


だから別に今日行こうが、明日行こうが。

この夏休みが終わってから行こうが、私の受験が終わってから行こうが、いつだっていい。


でも私は……今すぐにでも、しずくちゃんに会いたい。


あの子の体調が心配だからとか、

かすみちゃんに璃奈ちゃん、エマちゃんのためだとか。

そういうのじゃない。


だって、彼方ちゃんは……しずくちゃんのこと……


彼方「大丈夫だよ、遥ちゃん」

遥「……ほんと?」


彼方「うん」


お天気なんか関係ないよ。


会いに行くよ。

155: 2021/02/03(水) 22:33:56.16 ID:Tmdz60VV
――――――


しずく「……」


しずく(お父さんもお母さんも出かけたのか……)


しずく(……学校始まったらどうしよう。いまの自分のこと、話そうかな)


しずく(いや黙って、無理やり学校に行くべきかな……)


しずく(……電車、乗りたくないな)


しずく「……ん?」


シャー、シャー、とドアに爪をこする音。

重い体を持ち上げてドアを開けると、オフィーリアが尻尾を振って部屋に入ってきた。


“クゥーン、クゥーン……”


しずく「……オフィーリア、雷怖かったの?」

しずく「よしよし……大丈夫だよ」ナデナデ


……窓から外を眺めた。


空は一面、真っ暗な曇りに囲まれている。

ここ数日では見なかったくらいに激しく強い雨。

まるで世界中の醜い感情を全てアスファルトに打ち付けるような……嫌な雨。

156: 2021/02/03(水) 22:36:45.32 ID:Tmdz60VV
しずく(……雨、か)


しずく(わたし……なんで虹ヶ咲なんかにしちゃったんだろう)


私の心は、いつもどしゃぶり。


桜坂しずく、なんて名前だから雨が似合う女の子になっちゃったのかな。


髪の毛も、心も、何もかもぐしゃぐしゃで、ぐしゃぐしゃで……


もう虹なんか……見えないよ。


しずく(……あれ? 通知きてる……)


しずく(えっ……彼方さん?)

157: 2021/02/03(水) 22:37:52.16 ID:Tmdz60VV
彼方:彼方ちゃんだよ~


彼方:夏休みだから、しずくちゃんの地元に遊びに来ました!

彼方:これからおうち、遊び行ってもいいかな~


しずく「……えっ?!」


なななな、なんで? どうして!?

こんな天気にわざわざ遊びに来たっていうの?! なんで?


しずく:あの、どういうことですか?


彼方:しずくちゃんに会いに来たんだよ。

彼方:どうしてもどうしても会いたくて。


しずく「……意味が分からない」


私に会いたい? 何を言ってるんだろう。

身も心もこんなボロボロの私に? ぐしゃぐしゃの私に?


い、いや……だめだ。会えない。会えないよ。

こんな私、見られたくない。


倒れてしまったのを見られたのは、しょうがなかった。

だけど今は……薬に頼って、嫌なことから逃げて、全てに諦めきってる私。


こんなところを見られたら……


私は指を震わせながらスマホを触った。

158: 2021/02/03(水) 22:40:09.15 ID:Tmdz60VV
しずく:ごめんなさい。彼方さん


しずく:せっかく来てもらって申し訳ないけど、会えません


しずく:そういう状態じゃないんです


彼方:そっかぁ


彼方:ごめんね、いきなり押しかけようとして


彼方:でもずっと気になっちゃてるんだ


彼方:お芝居の降板が決まってから学校来なくなって


彼方:どうしてるのかな~ってさ


しずく:大丈夫です、私は


彼方:うん


彼方:でも……みんな心配してるよ

159: 2021/02/03(水) 22:43:05.83 ID:Tmdz60VV
しずく「……なんなの、もう」


私は、壊れるところまで壊れた。

そしてきっとこれからも、私はどんどんおかしくなっていく。


……もちろん何かがひょんなことがきっかけで、

また幸せを感じられるようになるかもしれない。

元気になるかもしれない。わからないけど、それは私だって信じたい。


……でも一つだけ、確実なこと。


もう私は二度と、女優にも、アイドルにもなれないってこと。


……ね、彼方さん。


私はもう貴方の後輩にも……なれないんですよ。


……


しずく:彼方さん


しずく:私、スクールアイドル同好会、辞めます


しずく:ありがとうございました

160: 2021/02/03(水) 22:46:45.28 ID:Tmdz60VV
彼方「えっ、や、辞めっ……?!」オロオロ


……しずくちゃんの家の最寄り駅から少し歩いたところ。


傘をさしながら、スマホを見ていた。


画面に気を取られたその瞬間……


彼方「うわっ……あああぁぁっ!」


ものすごい突風——————っ!


傘が……遥ちゃんに渡されたビニール傘が……


風で勢いよく、飛ばされちゃった。


追いかけて傘を拾ったときには、もう傘はバキバキで……完全に壊れてしまった。


彼方「ど、どうしよ……うぅっ、雨、冷たい……」


さ、寒い! 夏なのに!

コンビニ、どこかあるかな? ビニール傘、買わなきゃ……

でも辺りを見渡しても、屋根もコンビニも見当たらなくて……


彼方「こ、困ったなぁ……えっとぉ……」


強い雨に打たれながら、スマホの液晶画面を見る。


画面に、水滴がぽつ、ぽつ、ぽつ……


彼方「し、しずくちゃん……」


すごく見づらくなってるけど、しずくちゃんは濡れる私に構わず続ける。

161: 2021/02/03(水) 22:49:20.57 ID:Tmdz60VV
しずく:これ以上、ご迷惑をおかけするわけにはいかないですし


しずく:いまの自分の状態じゃ復帰は絶望的です


しずく:だから今日も来ないでください


しずく:わがままで、ごめんなさい


しずく:嫌いになられても、いいです


しずく:とにかく、ごめんなさい


しずく:さようなら


彼方「なっ、なっ、何言ってるの、勝手に……!」


彼方「ふ、ふざけないでしずくちゃん……!」


突然、辞めるなんて言うもんだからうろたえてしまった。

もう雨なんか打たれても構うもんか。必死だった。


彼方「返事しなきゃ、返事しなきゃ……」


スマホの画面で文字を入力しようとする……


だけど……液晶画面にこべりついた雨の水滴のせいで、操作性がおかしくなったのかな。

文字を打っても、打っても、自分の打ちたいように入力できない。


彼方「なんでっ、なんでっ、なんでぇ……っ!」

162: 2021/02/03(水) 22:51:33.76 ID:Tmdz60VV
……何度も何度もスマホの画面を押す。


でも文字が入らない。故障? 防水性能なかったかなこのスマホ……


もう。なんでこんな時に雨なのさ。


すぐにでも返事をしなきゃ、しずくちゃんは本当にどこかに行ってしまう。


彼方「もうっ、なんで入らないのっ……!」


……だめだよ。しずくちゃん。辞めないで……!


今度の芝居はこういう素敵お芝居なんですよって、

いつもうきうきしながら、大好きなお芝居の話をしてくれたこと。


ノートにありったけのアイデアを描きながら、

理想のヒロインを目指してスクールアイドル像の夢を膨らませてたこと。


彼方ちゃんは、人に頼るのが苦手で不器用だけど、

いつもまっすぐに頑張ろうとするしずくちゃんが大好きなんだよ。


ぐうたらお昼寝して、みんなに甘えてばかりの彼方ちゃんが頑張れるのは、

面倒見がよくて、頑張り屋さんな、頼りにしちゃう後輩がいるからなんだよ。


もしかしたら……そんな私の頼りなさがしずくちゃんの真面目さを刺激して、

無理やり頑張らせて、たくさん考えさせてしまって、

しずくちゃんの心を無理させちゃったのかもしれないけど……


今度は私も……しずくちゃんのこと守るから。


だから……大好きな女優も、アイドルも、続けて。


彼方「絶対、続けて……っ!!!」

163: 2021/02/03(水) 22:54:23.57 ID:Tmdz60VV
しずく「……」


しずく(終わった……)


ベッドで横たわり、天井を仰ぐ。

腕で目を覆い溢れだしそうな涙をこらえる。


泣いちゃだめだよ、自分がいけないのに。


彼方さんも、かすみさんも、璃奈さんも、エマさんも、そして部長も……


みんなに心配と迷惑をかけた。ぜんぶぜんぶ私のせいだ。


もし学校が始まったら……もう友達でもいられないんだろうな。


かすみさんと璃奈さんはそんなことを気にしない優しい子なのはわかってる。

でも私の方が……きっと無理になってしまうと思うから。


だからもう、何もかもおしまい。

女優も、アイドルも、大切な人達も……


しずく(……もう生きるのつかれ……)


「……ゃんっ! ……く、……ちゃんっ……!」


しずく(えっ……?)


……声が聞こえた。雨の音ではっきりしないけど、確かに聞こえた。


なに? 外? 私の名前を呼んでる……?


まさか。まさかまさかまさか。ほんとうに来たの? 噓でしょ?


会いたくないという嫌な気持ち。

そして……あの人の、優しさに飛び込みたいという期待を交じらせながら。


窓から外を……眺めた。

164: 2021/02/03(水) 22:56:53.08 ID:Tmdz60VV
彼方「しずくちゃーーーーーーん!!!!!」


しずく「彼方さんっ?!」

179: 2021/02/04(木) 22:53:34.56 ID:B9PXaiH0
しずく「何やってるんですか、もう……」

彼方「えへへ~……」


雨で濡れた彼方さんをバスタオルで吹いてあげる。

濡れたまま家にあげたので、玄関もびしょびしょだよ……


しずく「傘、どうしたんですか?」

彼方「ここに来る途中、壊れちゃったんだよ~」

しずく「買えばよかったのに……」

彼方「いや~、お金勿体ないし……」


彼方「……同好会やめる、なんて言われたらそれどころじゃなかったよね~」


しずく「……」


しずく(彼方さん……なんで)

しずく(もうほっといてよ、私なんか……)


“ワンワンッ!”


彼方「おや? 君は確か噂の……」


しずく「あ、えっと……オフィーリアです」


彼方「おぉ~! ついに彼方ちゃんと対峙する時がきたな? よしよ~し」ナデナデ


彼方「どう、しずくちゃん? やっぱり似てる~?」

彼方「うわぁ、舌で舐めてきた! くすぐったいよぉ~」


しずく「……」


勝手に家に来て、オフィーリアと楽しくじゃれあって……


相変わらずマイペースな人だなぁ。

181: 2021/02/04(木) 22:56:09.19 ID:B9PXaiH0
――――――
しずくの部屋


彼方「わ~、しずくちゃんのジャージ!」


しずく「虹学の1年ジャージですよ……きつくないですか?」


彼方「へーきへーき。彼方ちゃん、意外と小っちゃいからねぇ~」


しずく「……」


とにかくが服がびしょびしょで可哀想だったので、しばらく使ってない私のジャージを貸してあげた。


それにしても……もう勝手ですよ、彼方さんは。


本当は会いたくなかったのに。


家にまで来ても無視するつもりだったのに。


あんなびしょびしょな姿、見せられたら入れてあげるしかないじゃん。ずるいよ……


彼方「……あのさ、しず―――」


しずく「じゃあ適当にくつろいだら、帰ってください」


彼方「えっ?」


しずく「具合悪いし、話したくないんですよ」


彼方「……ご、ごめんね? 嫌かなとは思ったの」

彼方「でもしずくちゃん、ずっと休んでて、連絡の返事もみんな冷たくて」

彼方「気になっちゃったから、どうしても、その……」


しずく「お天気落ち着いたら……帰ってください」

182: 2021/02/04(木) 22:59:32.45 ID:B9PXaiH0
彼方「……し、しずくちゃ~ん」

彼方「久しぶりなんだからさぁ~」


しずく「触らないでっ!」


彼方「」ビクッ


いつものノリ、みたいな感じで、私に抱き着こうとしてきた。


でももう優しくされたくない……自分が嫌になるだけだから。


彼方「あ、あ、え、えっと……その……」オロオロ


しずく「……もう寝るんで」

彼方「あ、し、しずくちゃん……」


呆然とする彼方さんをよそに、私はベッドの布団に潜り込んだ。


……好きなこともできなくなって、大切な人達も離れていく。

そんなどんどん壊れていく私の世界に誰も入ってきてほしくない。


特に彼方さんにはもう……これ以上、自分のダメなところを見せたくないよ。


彼方「……しずくちゃん」


小さな声で私の名前を呟くと、彼方さんはベッドの横までやって来た。


何も聞きたくなくて、私はさらに布団でくるまる……

183: 2021/02/04(木) 23:04:29.32 ID:B9PXaiH0
彼方「……ほんとに、やめるの?」


しずく「……」


彼方「同好会も……お芝居も?」


しずく「……」


彼方「……答えてよぉ」


しずく「……」


彼方「……しずくちゃんの気持ちを考えないで、勝手に来たのは謝る……」

彼方「でもなんの相談もなしにいきなり辞める、だなんて……そんなの……ないよ」


しずく「……」


彼方「……ねぇ、起きて。練習来てよ」


彼方「ねぇ起きてよ、しずくちゃん」


彼方「……」


彼方「これじゃ……いつもと逆だよぉ……」

184: 2021/02/04(木) 23:11:33.20 ID:B9PXaiH0
しずく「……彼方さん」


しずく「言ったじゃないですか……もう嫌いになっていいからって」

しずく「私が辞めてもどうでもいいじゃないですか」


彼方「よくない。全然よくない」

彼方「……辞めたとしても、あんな連絡だけの辞め方、ないでしょ」


しずく「もうやりたくないんです。女優もアイドルも」

しずく「降板になって、ずいぶん楽になりました」


しずく「それに……彼方さんだって言ってたじゃないですか」

しずく「私が降板になって、安心したって」


彼方「……言ったけど、辞めて欲しいからじゃないよ」

彼方「もっとしずくちゃんが心から楽しめるように、今は休んだ方がいいっていう……」


しずく「……別に」


しずく「女優もアイドルも、楽しくなかったですから」


彼方「……っ!」


しずく「……だから辞めるんです」

しずく「ちゃんとした理由、ですよね。辞めるのには」

185: 2021/02/04(木) 23:20:18.81 ID:B9PXaiH0
彼方「……嘘つき」

彼方「女優ならもっと上手な嘘つかないと、だめだよ」


しずく「……」


しずく「……も、もうわかりましたから……」

しずく「お願いです、ほっといてください……」


声が震えてしまった。

どれだけ私が嘘をついても、なんでも彼方さんにはお見通しな気がする。


必死で隠したい、私の弱い気持ちも……


この人の前では本音を漏らすしか、なかった。


しずく「もう無理なんです、私は無理なんです」

しずく「女優もアイドルも、周りの人達もみんな怖いんです」

しずく「何をしても不安と怖い気持ちでいっぱいで、嫌なことばかり考えて」


しずく「……真面目になんでも捉えすぎて」

しずく「たぶん一番純粋な楽しむ気持ち、みんな忘れちゃったんですね」


彼方「……」


しずく「きっと、このまま続けても苦しいだけなんですよ」


しずく「だから辞めます。ごめんなさい」


しずく「私……もう……もう……しにた―――っ」


彼方「しずくちゃんっ!!!」

186: 2021/02/04(木) 23:22:39.82 ID:B9PXaiH0
あの穏やかな声の彼方さんからは聞いた事もない怒った声。


彼方さんは、自分の世界に籠ろうとする私の布団を引きはがした。


彼方「目を覚ましてよ……しずくちゃん」

彼方「ねぇ、いま、なんて言おうとしたの……?」


しずく「い、いや、その、あの……」


彼方「彼方ちゃん、それだけは絶対に許さないよっ……」


……彼方さんの声も震えてた。

怒ってるのか、悲しんでるのか……とにかく感情が高ぶってるように。


彼方「……もう自分の気持ちに嘘をつくのはおしまい」

彼方「ほんとは悔しくてしょうがないんでしょ?」


彼方「いつも前向きに、真面目にやってきたのに」

彼方「病気で……ダメになっちゃって」


彼方「その悔しさを認めたくないから、全部楽しくなかったなんて言ってるんでしょ」


しずく「……」


彼方「……ほんとに辛いなら辞めても何も言わないよ」


彼方「でも……彼方ちゃんは、しずくちゃんが一番幸せでいられることを選んでほしい」

187: 2021/02/04(木) 23:29:24.18 ID:B9PXaiH0
しずく「……」


私の……一番の幸せってなんだろう。


子供の頃から続けてきた大好きなお芝居。

それをずっと続けて、大人になって女優になる夢を叶えたい。


そして今はスクールアイドルとして、キラキラ輝くステージの上で、

自分が好きだって思えるものを表現したい。


あとは……同好会のみんな。

大好きなみんなと一緒に成長して、

笑って、泣いて、ときめく思い出をたくさん作りたい。


だから……今の自分がたまらないくらい悔しいんだ。


そんな私がいま、一番願ってることは……


しずく「……」


しずく「……みなさんと」


しずく「みなさんと一緒に……もう一回……」


しずく「……ステージに立ちたいです……っ」

193: 2021/02/05(金) 06:48:21.47 ID:ZiN7R7rS
しずく「でもわかってます」


しずく「私は頭がおかしくなっちゃったから」


しずく「心がもう普通じゃないから」


しずく「ステージに立ちたいと思っても立てないんです」


しずく「みんなに心配と迷惑をかける」


しずく「それが一番、怖いんです」


しずく「演劇部では部長をはじめ、みんなに迷惑をかけちゃったから」


彼方「……そっか」


しずく「私は……わたし……は……」


彼方「……」


彼方「……しずくちゃん」


しずく「え?」


包み込んでくれるような彼方さんの暖かい優しい手が、ベッドの上の私の手を握り締めてくれた。


彼方「言ったじゃん。彼方ちゃんが守るって」ニコッ


しずく「……?」

194: 2021/02/05(金) 06:51:47.54 ID:ZiN7R7rS
彼方「……みんなに迷惑かけたくないんだよね」


彼方「だったら……彼方ちゃんだけに迷惑かければいい」


しずく「へ……? ど、どういうことですか?」


彼方「みんなの前では、いつもの頑張り屋さんのしずくちゃんでいいよ」

彼方「だけど……弱音とかイライラとか、そういう悲しい気持ちは」

彼方「彼方ちゃんが全部受け止める」


しずく「そ、それはめい」


彼方「迷惑じゃないよ」

彼方「これからは彼方ちゃんも、しずくちゃんと一緒に戦うよ」


彼方「どんな辛いことも寄り添うから」


彼方「しずくちゃんがおかしくなっても、ぜーんぶ彼方ちゃんが受け止める」


彼方「理想の後輩なんかじゃなくてもいい」

彼方「だからいっぱいわがまま言って? いっぱい甘えて?」

しずく「……」


彼方「彼方ちゃん……しずくちゃんのこと、大好きだから」


しずく「そ、それはどういう……」


彼方「……というわけで、お布団失礼します~♪」


しずく「わっ……!」

195: 2021/02/05(金) 06:54:38.18 ID:ZiN7R7rS
……彼方さんは無理やり私のベッドに入ってきた。

そして布団を覆って、私はまた抱きしめられる。


いつもぽかぽかと暖かい彼方さんだけど、


雨で濡れていた彼方さん、今日は正直心配になるほど冷たく……感じた。


彼方「……あ、ごめん。やっぱ待って」


彼方「……きょ、今日はやめとこうか」

彼方「勢いで入ったけど。濡れちゃうよね? ベッド」


彼方「今日はやめてまた今度一緒にすやぴ……」


しずく「行かないでください」


彼方「えっ?」


……咄嗟に出た言葉。


いつも演技っぽくて、何かと人の目を気にしてきた私。

これを言ったら好かれるかな、嫌われるかなって。

何かと計算づいて、振る舞ってたことも多かった。


だから……無意識に出た自分の本音に、驚いた。

196: 2021/02/05(金) 06:56:12.90 ID:ZiN7R7rS
彼方「……今日の彼方ちゃんとすやぴしたら、風邪ひいちゃうかも」


しずく「行かないでください」


しずく「離れないで……近くにいてください」


彼方「……うん」


本音も、自分の気持ちも……


溢れていく。


こぼれる。こぼれていく。


しずく「……抱きしめてもらっていいですか」

197: 2021/02/05(金) 06:58:44.99 ID:ZiN7R7rS
ぎゅっ……


彼方さんは何も言わず、ベッドの中の私を抱きしめてくれた。


彼方さんの家に行った時もそう。

今まで何度も彼方さんから抱き着かれたことあったけど。


私からお願いしたのは……初めてだと思う。


お布団に覆われて、狭くて暗い視界の中。


その世界に二人だけ。


彼方「……なんだか照れちゃうねぇ?」


しずく「いつもやってくるじゃないですか」

しずく「今更……」


彼方「……よしよし」

彼方「今までは一人でお布団を被って、暗闇の中で一人きりだったんだね」


彼方「これからは……一番弱った時も、近くに彼方ちゃんがいるよ」


しずく「……」ぎゅっ


彼方「……」


今まで人に頼ることも、甘えることもしなかった私。


ずっと我慢してたんです。不安を全部自分の中で押し〇して。


だから今日は……もう、たくさん、たくさん。


甘えさせて……ください。

198: 2021/02/05(金) 07:01:06.13 ID:ZiN7R7rS
しずく「……ごめんなさい。たくさん心配させて」

しずく「これからも彼方さんにいっぱい迷惑をかけると思います」

しずく「だめだめな……後輩だと思います」


しずく「でも……やっぱり戻りたい」

しずく「今はまだ心がめちゃくちゃで、すぐには戻れないけど」

しずく「少しずつ……帰ってこられるようにします」


しずく「……それまで」


しずく「傍にいて、くれますか……?」


……恥ずかしすぎて顔が見れない。


だから彼方さんの胸に顔を押し付けて言った。


もしいま目があったら、恥ずかしすぎて泣いてしまう。


……ピーマンが食べれられないとか、あんなカミングアウトが可愛く見える。


彼方「……」


彼方「うん……もちろん、だよ」

199: 2021/02/05(金) 07:02:51.95 ID:ZiN7R7rS
彼方「……あのね、ふたつ」


しずく「ふたつ……?」


彼方「うん。ふたつ。謝らなきゃいけないことがある」


しずく「……なんですか?」


少し態度が改まる彼方さんに不安を覚える……


彼方「……彼方ちゃんね」


彼方「えっと……そのね」


彼方「高校卒業したらたぶん……遠い大学行くと思うの」


しずく「えっ……」

200: 2021/02/05(金) 07:04:23.07 ID:ZiN7R7rS
彼方「ご、ごめん……ここまでしずくちゃんの気持ちに踏み込んでおいて」


彼方「どこまでずっと近くにいられるかは……わからない」

彼方「だからもし、あれなら、違う近くの大学も考える。だから……」


しずく「それは……辞めてくださいよ」


しずく「私がまたやりたいことをやれるように応援してくれる彼方さんが」

しずく「自分のことを我慢してほしくないです」

しずく「今は不安ですけど、でもその時は……彼方さんのこと、応援しますから」


しずく「……ちゃんと、卒業をお祝いしますから」


彼方「……ありがと」


彼方「でもね、もし卒業しても」


彼方「ずっと彼方ちゃんはしずくちゃんのこと忘れないで、応援し続けるからね」


彼方「それだけは、絶対に。約束する」


しずく「……はい。それだけで充分すぎるくらいです」

201: 2021/02/05(金) 07:06:58.37 ID:ZiN7R7rS
彼方「……よかったぁ~♪」


彼方「じゃあそれまでいっぱい、しずくちゃんに甘えちゃうぞ~♪」


しずく「……いまは私が甘える番ですっ」ギュー


彼方「あはは、そうだね。しずくちゃんっ」ナデナデ


……私の病気は治らないかもしれない。


元の私には完全に戻れないかもしれない。


でもそれでも、一緒に寄り添って、戦ってくれる彼方さんがいれば……


しずく「……彼方さん」

しずく「彼方さんっ、彼方さん……っ」


彼方「えへへ、しずくちゃん、わんちゃんみたい」


いいじゃないですか別に。

不安なんですもん。自分のことが嫌いで、もうどうにでもなれって思ってたんですもん。


その気持ちを……彼方さんに甘えたい、って気持ちに変えてもいいじゃないですか。

202: 2021/02/05(金) 07:09:13.93 ID:ZiN7R7rS
しずく「……ありがとうございました、今日は来てくれて」


しずく「もし今日、来てくれなかったら……」


しずく「私、同好会辞めてました。自分の気持ちを押し〇してました」


しずく「このまま何もかもボロボロに壊れる、って……諦めてました」


彼方「そっかぁ……よかったよぉ……ほんとによかったよぉ……」


……


……


しずく「ところで……もう一つ謝らなきゃいけないことってなんですか?」


しずく「勝手に家に来たことなら、全然いいですから」


彼方「……怒らない?」


しずく「怒らないですよ。むしろ感謝してます……本当に」


彼方「……」


彼方「しずくちゃん」


彼方「彼方ちゃん……熱あるかも」


彼方「ちょっと寒気して……」


彼方「たぶんこれ……風邪ひいちゃった……えへへ♪」


しずく「……」

203: 2021/02/05(金) 07:11:08.31 ID:ZiN7R7rS
しずく「……ふぅん」ギュー


彼方「し、しずくちゃん?」


彼方「ごめん、私もぎゅーってしてあげたいけど、やっぱり今日は……」


しずく「いいです。離れないでください」


彼方「……風邪、移しちゃうかも。髪の毛まだ濡れてるし」


しずく「かまわないです、そのくらい」


しずく「私の家に彼方さんがいるなんて、普通ないんですから」


彼方「……またいつでもくるよ?」


しずく「いいえ、それでも……いま」


しずく「……いま、いっぱい甘えたい」


しずく「彼方さんに……甘えたい」


しずく「いまは……こうさせて……?」

214: 2021/02/05(金) 19:56:11.85 ID:ZiN7R7rS
――――――
部室


しずく「……えっと、お久しぶりです」


しずく「ずっとお休み貰ってごめんなさい!」


しずく「これからまた頑張るので、よろしくお願いしm」


かすみ「うわ~~~~~~~~ん!!!!!! しず子ぉ~~~~~~~!!!」


しずく「か、かすみさんっ?!」


かすみ「会いたかったぁ~! もう会いたかったよぉ~~~!!!」


侑「あはは……おかえり、しずくちゃん!」


璃奈「おかえり。私も……会いたかった」


愛「しずく~~~! 愛さんも抱き着いていーい?」

果林「心配したけどよかったわ……」


久々に帰ってきた同好会。

結局、彼方さんが家に来てくれた次の日にすぐ……私は復帰した。


ボロボロになった自分を見られたくない気持ちはあったけど。

彼方さん以外のみんなにすぐにでも会いたかった……っていう気持ちもあって。

いてもたっても、いられなくなっちゃって。


心はまだ不安定だけど、でも……

まずは大好きなスクールアイドルの仲間達を見て、自分の気持ちを確かめたかった。

……やっぱり私はスクールアイドルと、同好会の皆さんが大好きだって気持ちを。


まだ歩夢さんとせつ菜さんは……来てないのか。

同じユニット同士、迷惑をかけちゃったなぁ……ちゃんと謝らなきゃ。


あ、あとエマさんも。

何かと心配させたからちゃんと話さなきゃね……

216: 2021/02/05(金) 19:58:25.15 ID:ZiN7R7rS
侑「しずくちゃん、もし体調が悪くなったらすぐ言ってね」


しずく「は、はい!」


しずく「でもきっと……大丈夫です!」


侑「……でも嬉しいな。しずくちゃんの笑顔、久しぶりに見たよ♪」


しずく「えっ? あ、はは……恥ずかしいです」


侑「休んでる間の練習メニューとかは日誌に記録したから、それ見てね!」


侑「よーし! じゃあみんな! 今日も練習頑張ろ~~~!!!」


うん……大丈夫。


今度はちゃんと楽しむ気持ちを忘れず。たくさんのときめきを感じたい。


それにもし嫌なことがあっても……きっと今回は大丈夫だ。


暖かい同好会のみんながいてくれるから。


まだ迷惑をかけちゃうかもしれないけど。でもみんなとなら大丈夫。


……それに何より。


私にはあの人がいてくれる……!


あの人がいてくれれば、不安なことは何もないんだ。


今の私がいるのは……あの人のおかげ。


だから困ったことがあったら……見守っていてね、かなt


侑「あ、そうそう」


侑「彼方さんは風邪を引いたみたいなのでおやすみです」


しずく「」

218: 2021/02/05(金) 20:30:27.53 ID:ZiN7R7rS
――――――
部室


しずく(もうっ、彼方さんのバカっ)

しずく(よりによっておやすみなんて……っ)


私は部室で一人、休んで間に行っていた同好会の練習メニューが書かれたノートを見ていた。


ほかのみんなはランニング。

私も走りたかったけど、今はまだゆっくりした方がいいという侑さんの計らいだった。


しずく(私、頑張って来たのに……)


風邪を引いた、とは確かに言ってたけども……


でも彼方さんが風邪を引いてくれなかったら。

雨の中、私のことを迎えに来てくれなかったら。


私はここにいなかったと思うから……文句は言えないけど。


しずく(……電話してみようかな、あとで)

しずく(もし時間があれば、彼方さんの家に行こう……)

しずく(今度は私が看病する側で……ふふっ♪)


しずく(それにしても……部室、懐かしいな)

しずく(みんな私が休んである間、いっぱい練習してるんだろうなぁ)

しずく(……私もすぐ追いつかなきゃ)


?「チャオ~!」ガラガラ

?「わぁ! ほんとだ! しずくちゃんだぁ!」


しずく「あっ……エマさん」

220: 2021/02/05(金) 20:52:18.51 ID:ZiN7R7rS
エマ「しずくちゃんっ! 久しぶり!」

エマ「いまグループ通知で『しずくちゃんが復帰しました!』って来たから!」


エマ「もう嬉しくて、ちょっと廊下小走りしちゃったよ~♪」


しずく「お久しぶりです……エマさん、元気でしたか?」

しずく「って、私が言うセリフじゃないですよね……」


エマ「……うんっ! 私は元気だったよ~♪」

エマ「そしてもっと元気になった! しずくちゃんに会えたからねぇ♪」ナデナデ

しずく「あ、あはは……」


早速、ニコニコしながらエマさんに撫でられてしまった。

さっき久しぶりにみんなの顔を見て、同好会に帰って来たなぁって思ったけど。

エマさんと会うと特にそう感じるなぁ。


やっぱり暖かくて優しい同好会だと思うのは、この人の包容力が大きいんだよね。


エマ「みんなは?」

しずく「ランニングです。私は日誌見て、練習メニュー見返してました」


エマ「そっかぁ~、う~ん……私は」


エマ「……久しぶりにしずくちゃんとお話ししようかな?」

221: 2021/02/05(金) 20:56:23.49 ID:ZiN7R7rS
しずく「あはは……そんな大して話すことないですよ」

しずく「ただ具合悪かっただけなので」


エマ「そお? でもまた帰ってきてくれて、本当に嬉しい!」

しずく「私もエマさんと会えて嬉しいです……」


しずく「あっ、そういえばエマさん」

しずく「前に彼方さんと3人で考えたダンスのフォーメーションってどうなりました?」

しずく「ごめんなさい、全部まかせっきりにしちゃって……」

しずく「多分もうお二人で何か形決めちゃいましたよね」

しずく「私もいまそのフリ覚えるので」

しずく「教えてください! まず確かフリの初めは……」


エマ「……しずくちゃん!」

しずく「はい?」


エマ「……とりあえず、今は頑張ろうとするのはナシ、だよ!」

しずく「えっ、あ……」


私ったらまた真面目に頑張ろうとしちゃってる。

この性格が、足を引っ張って迷惑をかけたくないから頑張らなきゃって思うこの性格が。


私をダメにしたのに、私ったらまた……


エマ「だから今日のしずくちゃん練習メニューはね?」


エマ「エマ・ヴェルデのぽわぽわ癒しタイム~♪」


しずく「へ???」

222: 2021/02/05(金) 21:02:55.96 ID:ZiN7R7rS
エマ「……どうかな~?」


しずく「え、えっと……」


何故か私の練習初日のメニューは……エマさんの膝枕になっていた。


なされるがまま、って感じに。気づいたら、こうなってた。


エマ「ふふっ、しずくちゃんを膝枕するの初めてだね~♪」

しずく「……」

エマ「……彼方ちゃんの膝枕とどっちが気持ちいい?」


しずく「ふえっ?! み、見てたんですか?」

エマ「いやいや。彼方ちゃんならしてるかな~って思って」

エマ「やっぱりしてたんだねぇ~♪」


しずく「べ、別に私から言ってるわけじゃないですから……っ!」


エマ「えぇ~、そうなの?」

エマ「これからはいっぱい言ってくれていいのになぁ……」シュン

しずく「なんで寂しそうなんですか……」


しずく「……じゃあたまに、その……お願いします……」


エマ「……うんっ!」ナデナデ

223: 2021/02/05(金) 21:06:26.15 ID:ZiN7R7rS
エマ「……もう彼方ちゃんからたくさん言われてると思うけどね?」


エマ「私も……しずくちゃんの味方だよ♪」


しずく「……」


エマ「だから上手くいかなくてつらい時も」


エマ「自分のこと、嫌いになりそうな時も」


エマ「深呼吸だよ、しずくちゃん」


エマ「……みんな、しずくちゃんが大好きだからね」


しずく「……」

しずく「エマさん……何か知ってます?」


エマ「うん? 知らないよ?」


しずく「そ、そうですか……その……」

しずく「……ありがとうございます」

しずく「エマさんは……人の心をぽかぽかさせる天才です」


エマ「……嬉しい♪ もっとぽかぽかさせちゃうね?」

224: 2021/02/05(金) 21:08:25.71 ID:ZiN7R7rS
Prrrrrrr……


エマ「あれ、電話鳴ってる?」

しずく「は、はい……あ、彼方さん!」

エマ「しかもテレビ電話だね?」


しずく「も、もしもし?」


彼方『ししししししししししずくちゃん?!!?』


彼方『同好会! 同好会来てくれたの?!』


しずく「あ、えっと……はい」

しずく「まだ具合はよくないけど、顔だけでも見たくて……」


彼方『……うっ、うっ、うええぇぇ~~~んん!!!』


しずく「な、なんで泣いてるんですか!」


彼方『だってぇ……ずっと来て欲しかったんだもん……』


しずく「……風邪は大丈夫ですか?」


彼方『うん、大丈夫! まぁ雨の中走ってたらそりゃ引くよねぇ……』


しずく「……でも私は感謝してますよ」

しずく「ありがとうございます。彼方さん」


彼方『えへへ~♪ どういたしましてっ!』


彼方『ところで……後ろに映ってるお膝はなに?』

226: 2021/02/05(金) 21:12:21.11 ID:ZiN7R7rS
しずく「えっ?! あ、こ、これは!」


彼方『……リモート中に膝枕とな?』


エマ「彼方ちゃん! エマだよ~♪ 風邪、大丈夫かな……?」

しずく「あ、ちょ、エマさん……っ! バレちゃいま……っ」


彼方『』


彼方『だあああああ~~~~~!!!!!』


しずく「わわわっ!」


彼方『しずくちゃんの浮気者ぉ~~~!』


彼方『おのれエマちゃん! おのれエマちゃん!』


彼方『いいとこどりされた~!!! んもう~~~!』


彼方『しずくちゃん、私、会いに行く!!! 会いに行くからぁ~!!!!』


遥『ちょ、ちょっとお姉ちゃん!! ど、どうしたの?!』


彼方『し~~~ず~~~く~~~ちゃ~~~~~ん!!!』


遥「も、もう熱あるんだからお外出ようとしないで~!」


エマ「あ、あはは……怒っちゃった、彼方ちゃん」

227: 2021/02/05(金) 21:14:29.19 ID:ZiN7R7rS
……私の心はどんどんおかしくなっていって。


布団の中でただ独りぼっち。きっと何もかも狂ってしまうんだって。


そう思ってた。だけど……


しずく「ふふ……あははは! もう彼方さん、おかしいです!」


……こんなに笑っちゃう楽しい日常があれば。


きっとそんなことも忘れていくよね。


大好きな先輩、大好きな親友、大好きな時間。


……うん。


私、幸せですよ。すっごく。


彼方『……』


彼方『やっぱりさぁ、しずくちゃん』


彼方『しずくちゃんは笑ってる顔が一番だよ』ニコッ

243: 2021/02/06(土) 17:43:04.86 ID:45TqrpID
――――――
11月 スクールアイドルフェスティバル


しずく「……」


……曲が終わって、照明が暗くなる。


久しぶりのステージ、私は……スクールアイドルとして、ある一曲を歌い切った。


この舞台に上がるまで、失敗するかも、という緊張と不安に悩まされた。


やっぱり簡単に自分の心の不安に打ち勝つことはできなくて。


ここにくるまで何度も泣いたし、何度も弱気になった。


電車に乗ると呼吸ができなくなって、座れずにうずくまりながら登校したこともある。

練習中に体が痙攣して思うように動かず、汗が止まらなかったこともある。

やっぱり無理だって。できないって。

彼方さんやエマさんに……弱音を吐いたこともある。


だけどその度に、同好会のみんなが声をかけてくれて、助けてくれた。


みんなのおかげで今日私は……歌い切ることができたんだ。


しずく(……きっとみんなと一緒なら)


しずく(どんな結末も……ハッピーエンドに変わるんだ)

244: 2021/02/06(土) 17:45:51.20 ID:45TqrpID
暗転からまた照明が照らされると、舞台は璃奈さんが作ってくれたPVが流れた。


その間に舞台からハケると、次の出番の準備をしていたQU4RTZがいた。


しずく「あっ、みなさん……」


かすみ「……しず子~!」


しずく「わっ……!」


お客さんに声が聞こえるといけないから小さな声でだけど、かすみさんが私のほっぺを両手で挟んでくる。


しずく「にゃ、なにしゅるのぉ、かしゅみさん……」

かすみ「すっごいよかった! サイコーだよ、しず子!」

しずく「……ありがと」


璃奈「……」ピタッ

しずく「り、璃奈さん?」


璃奈さんは何も言わず、背中にくっついてきた。


璃奈「……しずくちゃん、おかえりなさい」


璃奈「わたしは、しずくちゃんとこのステージに立てて、本当に嬉しい」


しずく「……ありがとう、二人ともっ!」

かすみ「ひゃっ!」

璃奈「あっ……」


大好きな親友の二人。ねぎらってくれる二人がたまらなく愛おしくて。

私の方から二人まとめて抱きしめてしまった。


……かすみさん、璃奈さん、私ね。

二人と友達でいられて、すごく幸せだよ。

245: 2021/02/06(土) 17:48:27.64 ID:45TqrpID
かすみ「も、もうしず子~、かすみん達、もう出番だから~……」


璃奈「……でも、緊張解けてきた」

璃奈「しずくちゃん、ありがとう」


二人とはこれからも2年間……スクールアイドルをやっていくんだろうな。


傍から見れば、私は言葉遣いもどこか丁寧っぽくて大人びているように見られるかもしれない。


でもかすみさんは芯がブレなくてしっかりしてるし、璃奈さんは頭がよくて周りにも気を遣える子だ。


本当は私が一番、幼くて、ここぞという時に弱くなったりする。


だからこれからも……頼りにさせてね?


彼方「……」


しずく(あ、彼方さん……)


彼方「……ぶいっ」ピース


エマ「……しずくちゃん、お疲れ様っ♪」


3年生の二人は一歩引いたところで、私のことをねぎらってくれた。

1年生同士ではしゃいだから、空気でも読んでくれたのかな。

でも私はお二人にもいま、抱き着きたい気持ちでいっぱいですよ……


彼方「……しずくちゃん」


彼方「……」


しずく「……?」


彼方「あっ、えっと……」

246: 2021/02/06(土) 17:49:57.29 ID:45TqrpID
彼方「ご、ごめんねぇ……えっと、なんか言葉でなくて」


しずく「か、彼方さん……?」


彼方「えーと……ちょっと、感激しすぎて……」


彼方「うん……ごめん、ちょっと彼方ちゃん、だめだ……えへへ」ポロポロ


しずく「え、な、泣いてるんですか?」


彼方「だってぇ……すごくよかったからぁ……」


しずく「……」


この人は……どれだけ私のことを想ってくれるんだろう。


いつもぐうたらしてる彼方先輩は、

真面目にがつがつ頑張る私のことなんて煩わしいんじゃないかと思ってた。


だけど彼方さんはいつも私のことを好きでいてくれて……私もそんな彼方さんが大好き。


しずく「……もう泣かないでくださいよ」

しずく「せっかく可愛いのに泣きじゃくっちゃ台無しですよ」


しずく「ほら、涙拭いてください」


彼方「……うんっ」


しずく「……はい、かわいい」


しずく「いってらっしゃい、彼方さん!」


彼方「……うんっ!」


そう言って、二人でハイタッチ。


こんな私でも、彼方さんの力になれてるのだとしたら、嬉しいな。

247: 2021/02/06(土) 17:52:11.15 ID:45TqrpID
――――――
3月


あれから、月日が流れて3月。


私が病気になって倒れた夏休みから秋と冬を超えて、ぽつぽつと桜も咲き始めている。


しずく(……卒業、しちゃうんだよね)


……彼方さんは、希望の大学に合格した。

夢を叶えるのには一番いい場所なんだ、って嬉しそうに報告してくれた。

成績のいい彼方さんだからあまり心配はしていなかったけど、やっぱり報告を聞いた時は嬉しかったな。


虹ヶ咲からかなり離れた遠い大学で、彼方さんは一人暮らしを始めるらしい。


そういえば遥ちゃんはすごく寂しがってたっけ。

寂しいよね、大好きなお姉ちゃんだもんね。


しずく(私は……寂しくないですよ)


しずく(寂しくないです。嬉しいんです、私は)


しずく(そう。寂しい訳がないです)


しずく(彼方さんの希望が叶ってくれてすごく嬉しい)


しずく(だから今日は精一杯、お祝いしなきゃ)


今日は彼方さんと二人きりで、ショッピングモールに遊びに行く。


おそらく今日が卒業前に二人で過ごせる最後の時間。


卒業前にうーんと遊んで、うーんと今までのお礼を言って、うーんとお祝いするんだ。


彼方さん、はやくあいたいな。


彼方「お~い、しずくちゃ~ん♪」

248: 2021/02/06(土) 17:55:51.71 ID:45TqrpID
――――――
ショッピングモール


彼方「わぁ~、おっきいねぇ~♪」


しずく「ふふっ、嬉しそうですね♪」


彼方「あんまりこういうとこ来ないからさ、しずくちゃんと来れて嬉しいよ~」


しずく「どこに行きますか?」


彼方「そうだなぁ~……お腹空いたから、なんか食べよっか」


しずく「そうですね。レストランもいっぱい入ってますから」

しずく「何食べたいですか?」


彼方「うーんとねぇ……彼方ちゃんはねぇ……」


彼方「……ピーマンかなぁ?」


しずく「え?」


彼方「ピーマン食べたいなぁ。ピーマンたっぷり入ったやつ」

彼方「あんな美味しい野菜はないからねぇ~」


彼方「しずくちゃんはどお? ピーマン」


しずく「……いやっ」


しずく「帰ります、私」


彼方「う、うそうそ~! 冗談だよぉ~……」

249: 2021/02/06(土) 17:57:26.40 ID:45TqrpID
――――――


彼方「あ、見て見てしずくちゃん!」


しずく「なんですか?」


レストランで一緒にご飯を食べた後、ふらふらといろんなお店に立ち寄った。


そこで入った雑貨屋さん。可愛い小物やいろんなアンティークが揃ってる。


彼方「これ可愛くない?」


しずく「それ、傘ですか?」


彼方「うん! 透明っぽい紫で、綺麗な傘じゃない?」


しずく「そうですね。ハード柄もすごく可愛いです」


彼方「うむむ……いいなぁ~これ。買おうかな~、悩むな~」


しずく「珍しいですね、彼方さん、節約家なのに」


彼方「まぁせっかくしずくちゃんとおでかけしてるしね!」


彼方「う~ん……よし、買った!」

250: 2021/02/06(土) 17:59:33.13 ID:45TqrpID
彼方「じゃーーーん!!! いいでしょ~!」


ショッピングモールを後にした私たちは近くの広い公園で休憩をとることにした。

お台場の海と大きな白い橋が見えて、私もお気に入りな綺麗な場所だ。


彼方さんは自慢するみたいに、買った傘を広げてはしゃいでいた。


しずく「気持ちはわかりますけど、雲一つない晴れですよ……」


彼方「いいんだも~ん、嬉しいから!」


しずく「もう、すっごい目立つなぁ……」


紫色の傘をした彼方さんは公園で明らかに浮いていて、なんだか恥ずかしい。


でも子供みたいにはしゃいでる彼方さんはたまらなく可愛かった。


彼方「あっ、見てしずくちゃん! ちょうちょ!」

彼方「2匹いるよ、春だねぇ~」


二匹の蝶々が草っぱらで仲良くしている。

彼方さんは傘を差しながらまじまじと仲睦まじい蝶々を眺めていた。


しずく「……ちょうどベンチありますから、座りましょうか」

251: 2021/02/06(土) 18:01:15.17 ID:45TqrpID
彼方「よいしょっと」カチッ


お気に入りの傘を閉じてベンチに腰掛ける彼方さん。

私も隣に座って、彼方さんの近くに寄りかかった。


彼方「今日はいい天気だねぇ~♪」


しずく「……そうですね」


もう私が体を寄り添っても彼方さんは何も動じない。


たぶん私が彼方さんに甘えすぎて、当たり前になっちゃったのかもしれない。


しずく(……でもこの時間が私は大好きなんです)


しずく(心から安心して、過ごせる時間)


しずく(彼方さん……傍にいてくれて、私は幸せでした)


しずく(今の私があるのは彼方さんのおかげです)


しずく(私はそんな彼方さんのことが……)


彼方「……いやぁ」


彼方「来週にはもう卒業式だねぇ」


しずく「……!」

252: 2021/02/06(土) 18:04:11.15 ID:45TqrpID
彼方「1年生って卒業式、何するの?」


しずく「……確か卒業生の胸に花のバッジをつけてあげる係だったと思います」


彼方「あ~、雰囲気出るねぇ。いいなぁ」


しずく「いいなぁ、って……そんな他人事みたいな」


しずく「卒業するの……彼方さんじゃないですか」


彼方「そうだったねぇ……あんまり実感ないなぁ」


彼方「この1年はあっという間だったよ」


彼方「スクールアイドルを始めて、大好きなしずくちゃんと会えて」


彼方「本当に濃くて楽しい1年だったよ」


彼方「ありがとねぇ」


しずく「……」プイッ


思わず顔を反らしてしまった。

なんですか、そんな……


最後だからいいこと言おうみたいなその感じ、やめてくださいよ。

253: 2021/02/06(土) 18:06:04.37 ID:45TqrpID
初めて彼方さんと出会った頃、ダメな先輩だなぁと思った。


目を離せば眠っちゃうし、練習には来ないし。


女優として、スクールアイドルとして頑張ろうと意気込んだ私にとっては


どこか嫌な顔をして見てたこともあるかもしれない。


……だけど彼方さんは。


ふにゃっとした雰囲気が愛くるしくて。


料理がとっても上手で。


妹がこれでもか、ってくらい大好きで。


底を知らないほど優しくて。


いつも私を優しく……包み込んでくれた。


……私はそんな彼方さんが大好き。


自分が病気になって、真っ暗闇な気持ちに飲み込まれそうになった時。


誰よりも初めに見つけてくれて、誰よりも私のことを気にかけてくれた。


彼方さんがいなかったら私はどうなっていたかなって、いつも思う。


そしてこれから。


彼方さんがいなくなったら……私はどうなるのかな。


私は……

254: 2021/02/06(土) 18:07:50.27 ID:45TqrpID
彼方「……しずくちゃん、今までありがとうね」


彼方「これからも彼方ちゃんと……仲良くしてくれると嬉しいな」


しずく「……」


彼方「じゃ、彼方ちゃん高校卒業するね~」


しずく「……っ!」


彼方「あ、振り向いてくれた~」


彼方「あ、あれ……? しずくちゃん?」


彼方「泣いてるの……?」


しずく「ぅ……」ポロポロ

255: 2021/02/06(土) 18:09:30.40 ID:45TqrpID
しずく「……卒業、やだ」


彼方「ん?」


しずく「……いやです」ポロポロ


彼方「えっ?」


しずく「……やだやだやだやだ!」


彼方「?!」


しずく「やだやだやだやだ! やだやだやだやだ!」


彼方「し、しずくちゃ……」


しずく「彼方さん……どこにも行かないで……ください……っ」

266: 2021/02/06(土) 22:33:31.84 ID:45TqrpID
寂しくない、寂しくないよ。


仮に寂しくても……私は女優なんだから。


そんな安直に自分の気持ちをぶつけることはしないよ。


もしも私が、寂しすぎるだなんて言ったら。


昨日オフィーリアに抱き着いて、彼方さんの卒業しちゃうって号泣したことがバレたら。


優しい彼方さんはきっと行き辛くなってしまうから。


だけど寂しい気持ちがあふれ出してしまう。


演技ができない。歯止めが利かない。ずっと一緒にいたい気持ちが止まらない。


しずく「彼方さん、行かないで……」


しずく「私は彼方さんが大好きなんです、きっと彼方さんが思ってる以上に」


しずく「彼方さんがいなかったら私は……」


たぶん一番泣いてる、かもしれない。


今までは自分が辛いからとか、女優もアイドルも続けられなくなるとか。


そうやって自分の問題で泣いてきた。今回も寂しいのは自分の気持ちだけど……


でも今回は彼方さんのことだから……自分じゃ涙を我慢できないんだ。

267: 2021/02/06(土) 22:36:55.86 ID:45TqrpID
彼方「……」


ベンチで彼方さんにしがみついて、人目をはばからず泣いていた。


しずく「自分が……どれだけワガママを言って」


しずく「彼方さんを困らせてることはわかります」


しずく「でも私、どうしても……寂しくて、辛くて」


しずく「ごめんなさい、本当は卒業おめでとうございますって言いたいのに……」


こんなんでよくダメな先輩なんて思ったよね。


ワガママで、幼くて、心が弱いダメな私なくせに。


お世話になった先輩に「卒業おめでとうございます」も言えない。


彼方さんが離れる寂しさ、自分の情けなさに涙が止まらない。


……私は彼方さんに完全に“依存”してしまってるんだ。


しずく(……もう嫌われる)


しずく(これはさすがに嫌われる、引かれる)


しずく(嫌われなくても、付き合い辛く思われるだろうな)


しずく(彼方さんの夢を叶えるのに、私はその足を引っ張ってしまってる……)


彼方「……」


彼方「……」バサッ


しずく「か、彼方さん……?」

268: 2021/02/06(土) 22:40:05.17 ID:45TqrpID
紫色のお気に入りの傘を広げる彼方さん。


そして泣きじゃくる私を、周りの目線から守るように……横に傘を差した。


しずく「な、なんですか……?」


彼方「しずくちゃん、泣いてるから」


彼方「見られたくないかなぁ、って思ってさ」


しずく「……」


彼方「彼方ちゃん、約束は守るよ」


彼方「しずくちゃんのこと、ぜーんぶ受け止めるっていうね」


彼方「……しずくちゃんの心が辛くて寂しくてどしゃぶりの“雨”に打たれた時は」


彼方「彼方ちゃんがしずくちゃんの“傘”になるの」


しずく「っ……」


彼方「どんな気持ちにしずくちゃんが襲われても」


彼方「彼方ちゃんが絶対に、しずくちゃんのこと守るよ」

269: 2021/02/06(土) 22:45:21.33 ID:45TqrpID
彼方「……卒業したらなかなか会えなくなると思うけど」


彼方「その気持ちだけは絶対に忘れないからさ」ニコッ


しずく「うぅ……彼方さん、彼方さん……」


彼方「泣き虫だなぁ、しずくちゃん」ナデナデ


彼方「でもそんなしずくちゃん、大好き♪」


しずく「だめです。こんな私、カッコ悪いです」


彼方「えぇ~、でも可愛いよ~?」


しずく「ちゃ、茶化さないでください! もう……」


しずく「うぅ、うっ……」


彼方「……よかったよ、傘買っといて」


彼方「しずくちゃんの泣き顔、独り占めできる」


しずく「何言ってるんですか……見世物じゃありませんから」


彼方「……しずくちゃん」


彼方「ちょっと目、閉じてくれない?」


しずく「……?」


……なんだろう。


言われるがままに目を閉じて……


……………………


…………


……

270: 2021/02/06(土) 22:48:25.39 ID:45TqrpID
…………


……


しずく「……っ、な、な……」


彼方「……おまじない、だよ」


彼方「しずくちゃんがこれからも頑張れるように、ってね」


しずく「……」


しずく「……もう顔見れないです」


しずく「恥ずかしすぎます……」


彼方「大丈夫だよ~、傘で見えてないから」


しずく「意味わかんないです、もう……」


彼方「……あのさ」


彼方「彼方ちゃんね、しずくちゃんが思ってる以上にしずくちゃんのこと好きなんだよ」


彼方「一方的に彼方ちゃんの卒業を寂しい、って思ってるかもしれないけど」


彼方「彼方ちゃんもおんなじくらい……寂しいんだぞ」


しずく「そんな……私の方が寂しいに決まってます」


彼方「……えへへ。嬉しいな」


…………


しずく「……彼方さん、私もひとこと、いいですか?」


彼方「なあに?」

286: 2021/02/07(日) 19:27:04.97 ID:CCJ1GUfK
――――――


……………………


…………


桜坂しずくちゃん。


そして、近江彼方ちゃん。


……私の大好きなお友達。


私から見て、二人は本当によくお似合いだと思う。


果林ちゃんに言うと「性格、正反対じゃない?」なんて言われるけど。


確かにパッと見た感じだと、そうだと思う。


厳格で真面目になんでもこなすストイックな女の子。


いつも眠そうにしてて、ふわふわしてる柔らかい女の子。


私も二人と知り合ってしばらくは、正反対だなぁって思ってた。


きっと同好会のみんなもそう思ってるんじゃないかな?


真面目なしずくちゃんが、やむなく彼方ちゃんの面倒を見てる~、って感じに。


だけど……きっと誰も入ってはいけない、心の深いところで。


誰にも見えない、わからないところで二人の心は強く繋がってると思う。


もちろん同好会のみんな。誰一人漏れることなく、絆は強く繋がっている。


でもしずくちゃんと彼方ちゃんは、その中でももっと特別な何かがあるような……


……こんなこと考えるの、私だけかな? もしかしたら思い過ごしかもしれないけど。


でもそれはなんとなく、私が二人の近くにいて感じていたことだった。

289: 2021/02/07(日) 19:34:36.44 ID:CCJ1GUfK
――――――


果林「どう、久しぶりの日本は?」


エマ「え……あ、うん」

エマ「やっぱりね、大好きだよ。日本!」


虹ヶ咲学園を卒業してスイスに帰っていた、わたし。


卒業以来、久しぶりに日本に帰って来た……帰って来た?


あはは……自分でもよくわかんないや♪


だけどそれだけ、この日本と虹ヶ咲にはいい思い出が多すぎるんだ。


果林「しずくちゃん、元気かしら」

エマ「きっと元気だよ。なんせ主演女優だからね~♪」


果林「……それにしても私たち、後輩のこと好きすぎよね」

果林「高校卒業してもわざわざ後輩の舞台、見に来ちゃうんだもの」


エマ「……まぁいいんじゃないかな?」


エマ「実際、大好きだもん♪」


今日は、虹ヶ咲学園で“しずくちゃんの主演舞台”がある。


演目は『オズの魔法使い』


……去年、しずくちゃんが降板しちゃった舞台。


あれから1年経って。今年の夏、しずくちゃんはもう一度主演として舞台に返り咲く。


その晴れ姿は見に行くしかないよね、ってなって。


卒業した私たちはこの舞台を見に行くことにしたんだ。


わたしと果林ちゃんと……彼方ちゃんの3人で。

290: 2021/02/07(日) 19:38:24.49 ID:CCJ1GUfK
遥「あっ! 果林さん、エマさ~ん!」


校門の前で遥ちゃんが手をふって出迎えてくれた。


久しぶりに帰って来た虹ヶ咲学園。

わたしがいた頃と同じ、今もまだたくさんの生徒が行きかってるなぁ。


果林「遥ちゃん、久しぶりね」

遥「ほんとですね! あっ、そういえばこの前、綾小路さんが……」


……むぅ。

意外とこの二人、仲いいんだよなぁ。


……そんなことをよそに遥ちゃんの背後を見ると、そこに彼方ちゃんがいた。


彼方「やっほ~、エマちゃん♪」


大学生になった彼方ちゃんは少し大人になった……かな?

元々きれいな女の子だったから、昔とそこまで変わってないように見える。


エマ「久しぶり! 元気だった?」


彼方「元気元気~、相も変わらず元気だよ~♪」


大人になっても、ふわふわした彼方ちゃんらしさは、健在、だね。


なんだかホッとしたよ♪


エマ「……彼方ちゃん。今日のしずくちゃんの舞台、楽しみにしてたんじゃない?」


彼方「……うん。そりゃそうだよ~」


彼方「今日は……彼方ちゃんが泣かされちゃうんだろうなぁ」

291: 2021/02/07(日) 19:44:43.08 ID:CCJ1GUfK
果林「彼方ってば。ちゃんとお部屋のお掃除してるの?」

彼方「してるよ~、気が向いた時に」

果林「それなら充分ね。私も気が向いた時にしてる」

彼方「おっ、似た者同士だねっ。あっはっはっは」

果林「うふふふふ♪」


エマ(……もう~~~! 二人とも~~~!)


エマ(お片付け……行ってあげたい)


会場に向かう途中、わたしの前で何やら不穏そうな話をしてる二人。


この二人は大学生になって大人になっても、お世話しがいがある。


そんな二人だから私は大好きなんだけどね。


とにかく日本にいる間に、絶対行ってやる。二人のお部屋。


遥「……お姉ちゃん、今はあんな感じですけど」


エマ「うん?」


遥「今日は朝からずっと、ソワソワしてたんですよ」

遥「大丈夫かなしずくちゃん、また倒れちゃうんじゃないかな……って」


遥「それで、お姉ちゃんには内緒ですけど……しずくちゃんに連絡したんですよ」

遥「“見に行くよ、頑張ってね”……って。そしたら」


エマ「……そしたら?」


遥「……“ありがとう、絶対最高の時間にするからね!”って」


遥「凄く力強いお返事が返ってきました」


遥「皆さんが卒業して、しずくちゃんは」


遥「……本当に。強い女の子に変わったと思います」

292: 2021/02/07(日) 19:55:17.82 ID:CCJ1GUfK
――――――
会場


会場に入って座席に座る。

私は彼方ちゃんの隣に座ってふと目をやった。


彼方「……大丈夫かな」


やっぱり遥ちゃんの言った通り、少し落ち着かない感じがする。


エマ「……すごいよね、しずくちゃん?」

エマ「一度できなくなった舞台にまた主演として立つんだもん」


彼方「……うん」


エマ「……不安?」


彼方「えっ、あ……うん、そうだね」


エマ(……そうだよね)


エマ(彼方ちゃんが一番、弱ったしずくちゃんを見てきたんだもんね)


しずくちゃんが今、舞台の裏でどんな表情をしているのかわからない。


だけどもしかしたら、しずくちゃんより彼方ちゃんの方が緊張してるんじゃないかなぁ?


それくらい彼方ちゃんも、このしずくちゃんの舞台に対して特別な思いがあるんだと思う。


彼方「……スクールアイドルとして一緒にステージに立ったからさ」


彼方「きっと大丈夫だって思うんだよ」


彼方「でも……卒業してからしずくちゃんと会えてないから」


彼方「本当に大丈夫かなって……つい考えちゃうんだよ」

294: 2021/02/07(日) 20:26:42.27 ID:CCJ1GUfK
すみません。
最後の更新といったのですが、ラストなので少し考えています。
もう少々お待ちください、今日中もしくは深夜には更新します……!

303: 2021/02/07(日) 22:32:23.36 ID:CCJ1GUfK
遥ちゃんが言ってた通り、いざ会場に入るとさらにそわそわしてる。


彼方「緊張しすぎて、朝ごはんも喉を通らなかったんだよねぇ……えへへ」


元々今日は卒業生3人で、って話だったけど


彼方ちゃんがこんな調子だから遥ちゃんはついてきてくれたのかな。


遥ちゃん自身もしずくちゃんの舞台を楽しみにしていたみたいだけど


この様子を見るとついてきてくれて本当によかったと思う。


どこか余裕があるように見えるけど、意外と彼方ちゃんは繊細だ。


そういうところがやっぱりしずくちゃんと似ている。


……劇のパンフレットをまじまじと見つめる彼方ちゃん。


キャスト欄の主演『桜坂しずく』の文字を何度も確認している。


……そういえば彼方ちゃんは……このことも知ってるかな?


エマ「……彼方ちゃん」


エマ「今日の演目、なんだか知ってる?」


彼方「え? えっと『オズの魔法使い』だっけ……?」


エマ「そう! それでね、この曲の主題歌なんだけどね」


エマ「日本語で『虹の彼方に』っていうんだよ」


彼方「虹の……彼方に?」


エマ「そう。虹の“彼方”に」


エマ「……なんだかまるで彼方ちゃんに向けて歌ってるみたいだよね?」

304: 2021/02/07(日) 22:33:52.95 ID:CCJ1GUfK
彼方「んなっ……」


エマ「今日しずくちゃんは、誰よりもまず彼方ちゃんのために歌うんじゃないかなぁ?」


エマ「だから絶対失敗しないよ。大好きな人のために歌うんだもん」


彼方「……な、なにいってるのさ、エマちゃん……」


エマ「ふふふ、なんてね♪」


……そんな話をしていると、ステージの照明が暗くなった。


会場の会話もその照明にしたがって、だんだんと静かになっていく。


彼方「あわわ……始まる、始まっちゃうよぉ」


わざわざ不安を口にしちゃう彼方ちゃん。それだけ緊張してるんだろう。


……そして、やがて幕が上がる。


幕が上がって舞台が照明に照らされると……


しずく「……」


そこに立っていたのは、綺麗な衣装を身にまとうしずくちゃんだった。


目を閉じて、下を向いている。


彼方「しずくちゃん……!」

305: 2021/02/07(日) 22:35:47.43 ID:CCJ1GUfK
彼方ちゃんは椅子の背もたれを使わず、前のめりに乗り出して舞台を見つめる。


彼方「……しずくちゃん、しずくちゃんだ……っ」


隣にいるわたしにしか聞こえない声で、大切な人の名前を繰り返していた。


しずく「……」


しずく「……」ニコッ


顔を上げたしずくちゃんは、ニコッと笑顔を会場に見せる。


それはあくまでもお芝居の演出として、なんだろうけど。


わたしにはそれが彼方ちゃんに


「大丈夫ですよ、彼方さん」と投げかける笑顔にしか見えなかった。


その瞬間、ふと舞台から目をそらすと……


彼方「……っ」


ツーっと。彼方ちゃんの頬に流れる、涙……

306: 2021/02/07(日) 22:38:15.33 ID:CCJ1GUfK
――――――


……………………


…………


彼方(……しずくちゃん、久しぶり)


彼方(ずっと……会いたかった)


彼方(……なのに彼方ちゃんってば、バカだ……)


彼方(まだ劇が始まって何も始まってないのに)


彼方(意味わかんないよね、いきなり泣いちゃうなんて……)


彼方(せっかくのしずくちゃんの舞台、ちゃんと見なきゃなのに……)


エマ「……彼方ちゃん」


彼方「ご、ごめん……わかってる、わかってる……」


……自分に自信をとことんまで失っていたしずくちゃん。


もうアイドルも女優も絶対できないって、言ってたあのしずくちゃんが。


いま、みんなの前で。


全ての悲しみから吹っ切れたかのような、そんな自信満々の笑顔で舞台に立ってる。


彼方ちゃんの胸の中で「頭がおかしくなっちゃった」とか「心が普通じゃない」って、


あんなにボロボロに泣いていたしずくちゃんが。


……これからしずくちゃんの大好きなお芝居で、みんなにたくさんの拍手を浴びるんだよ。


私はそれが嬉しくて、嬉しくて……それだけで涙が止まらないんだ。

307: 2021/02/07(日) 22:40:14.01 ID:CCJ1GUfK
ねぇ、しずくちゃん。


しずくちゃんはもう一人でも大丈夫なのかな。


何せぐうたらな先輩の私を、いつも力強く引っ張ってくれたしずくちゃんだもん。


私がいなくても、きっと自分でやりたいことを、自分の力で切り開いていけるよね。


……本当はいつでもワガママ言って欲しいけど。


だって彼方ちゃん、寂しがり屋だから。


しずくちゃんがいなくちゃダメなんだ。


えへへ、あの時とは真逆だね……


彼方ちゃん、遠い大学で一人暮らし始めて、すごく寂しくなってて……


ほんとずっと、しずくちゃんが恋しかったんだよ。

308: 2021/02/07(日) 22:43:34.49 ID:CCJ1GUfK
……もし私の今の私の生活が落ち着いて、しずくちゃんにも時間できたら。


また一緒にいろんなところに遊びに行こう。


いろんなものを食べに行こう。


そしてもし、これからの私たちの未来が。


また、どしゃぶりの“雨”に襲わるようなことがあったら。


悲しいこと、辛いことで心がぐしゃぐしゃにされることがあったら。


その時は……また二人で“相合傘”をしよう。


どんなことがあっても二人で乗り越えていこう。


そしてもし“雨”がやんだら“傘”を降ろして。


空を見上げて二人で一緒に、ずっとずっと“虹”を見ようね。


それがきっと、これからの、私たちの物語。

309: 2021/02/07(日) 22:46:30.63 ID:CCJ1GUfK
しずく(……彼方さん)ニコッ


しずく(お久しぶりです……卒業以来、ですね)


しずく(またこうして、舞台に立てるようになりました)


しずく(あの時……部室で倒れていた私を彼方さんが見つけてくれたからです)


しずく(暗闇から私を救い出してくれたからなんです)


しずく(いま私が舞台の上で見てる光は……彼方さんがくれたんですよ)


しずく(だから……いまの私を)


しずく(せいいっぱい見てください!)


……物語はここからはじまる。


今はあくまで少女の役として、だけど。


ボロボロだった私にとっては、新しい私の物語のはじまりでもあるんだ。


今日の舞台はそんな私の……いや、私たちへの未来への物語。


そして“虹”へと続くこの物語の、私の最初の言葉は……こう。

310: 2021/02/07(日) 22:48:38.09 ID:CCJ1GUfK
――――――


…………


しずく「……彼方さん、私もひとこと、いいですか?」


彼方「なあに?」


しずく「……」


彼方「……」


しずく「……彼方さん」


しずく「……卒業、おめでとうございます!」


しずく「そしてこれからも……大好きです!」


彼方「……ありがと、しずくちゃん♪」


おわり

315: 2021/02/07(日) 22:53:06.83 ID:CCJ1GUfK
以上ですやぴ。
ここまでお読みいただきありがとうございました!

311: 2021/02/07(日) 22:49:54.60 ID:AVVikxu+
おつ
最高だったぞ

312: 2021/02/07(日) 22:50:22.14 ID:xwlcJ32a
乙でした
始まりから幕引きまですごく良かった
素晴らしいSSとかなしずをありがとう

314: 2021/02/07(日) 22:52:19.46 ID:0wZvODoj
ありがとう…ありがとう!

316: 2021/02/07(日) 22:53:37.16 ID:vImCVaCL
いや、本当に最高過ぎた
かなしずで一番好きなSS
大好きです
本当に素晴らしい作品をありがとう

317: 2021/02/07(日) 22:54:23.17 ID:laoJFCBJ
言えなかった言葉を言えるようになれたんだね。とても良かった

318: 2021/02/07(日) 22:54:40.19 ID:S8mHjmRC
おお…ブラボー!

319: 2021/02/07(日) 22:57:17.25 ID:rVTBWbWi
おつ!
かなしずの関係が綺麗で最高でした

320: 2021/02/07(日) 22:57:57.28 ID:R+Fr0QF6
こちらこそありがとうなんだよなぁ…本当に最高すぎた
全く何を食ったらこんな素敵なSS書けるようになるんだ
一先ず乙でした、ありがとう

321: 2021/02/07(日) 22:59:10.72 ID:SiI0fICN
乙です
毎日の楽しみだった また書いてね

322: 2021/02/07(日) 22:59:33.19 ID:erxfYtjd
雨のしずくちゃん、それを守る傘の彼方ちゃん
マジでかなしずの模範解答じゃないかと思った
ほんとに乙

325: 2021/02/07(日) 23:07:12.32 ID:5rHBFTcW
ここ最近で最高クラスのSSだった
次回作も期待してます

326: 2021/02/07(日) 23:13:52.53 ID:vME7wTOE
おつおつ、最高やった
またもし書けるモチベがあったら次回作期待してます

327: 2021/02/07(日) 23:17:05.03 ID:0ETOf6wS

本当に素敵なかなしずだった
このssをリアルタイムで楽しめたことが最高に幸せだったよ、ありがとう

328: 2021/02/07(日) 23:22:34.86 ID:4gcM+Nyi
おつおつ
素晴らしい

329: 2021/02/07(日) 23:49:10.60 ID:H56GvuLv

かなしずはしずくちゃんの一年生らしさが良く見える組み合わせで良いんだよなぁ

330: 2021/02/07(日) 23:55:58.26 ID:vJvfEsJF
ほんとマジでよかったありがとう

331: 2021/02/08(月) 00:13:57.56 ID:5unE5ztQ
マジ最高だった

334: 2021/02/08(月) 00:26:09.42 ID:hyXQm59X
最初から最後まで素晴らしかったです
綺麗に終わって嬉しい反面終わってしまうのが寂しい

337: 2021/02/08(月) 00:53:30.61 ID:Yyt+24+p
最高でした!次回作も期待してます

338: 2021/02/08(月) 01:14:19.29 ID:e9UoZS+M
っぱかなしずよ!!

339: 2021/02/08(月) 02:45:49.67 ID:wk204mb+
乙です!
かなしず最高でした!

340: 2021/02/08(月) 04:06:52.41 ID:0PBcMGni
素晴らしかった!

341: 2021/02/08(月) 06:39:20.79 ID:D2uceqCx
乙!素敵なSSありがとう!

引用元: https://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1612017733/

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