【ホラーSS】かすみ「部室の押入れ」【ラブライブ！虹ヶ咲】

押入れ、押入れといえば皆さんにはどんな思い入れがありますか？今皆さんが住んでいる家でも、実家でも構いません。恐らく多くの人は特に思い入れなんてないのではないでしょうか。

かすみんが家の押入れを想像した時、それは毎回じめじめとした記憶に覆い尽くされます。

電気もなく〇風景な小部屋。端の一角には埃が溜まっていて、その埃を中心に蜘蛛の巣が放射状に伸びている。私はただそこにぽつんと座っている。

時間なんて分かりません。何処からともなく「夕焼け小焼け」の放送が聴こえてきます。そこで初めて今が夕方だと認識するのです。

隣のお家が夕飯の支度を始めたのか、秋刀魚の芳ばしいいい匂いが漂ってきます。ほどなく足元に広がる排泄物の匂いと混じって、それは臭いのです。

ご安心ください。別に虐待を受けていたとかではありません。

一度ふざけて、使われていない押入れを探索していた時のこと。お母さんが気付かずに段ボールを積み立てたまま出掛けてしまったそうです。

不思議と”怖い”とか”寂しい”という感情はありませんでした。いや、正確にはあったのかもしれませんが、度々思い起こされる記憶の中で、私はひどく冷静なのです。

私が押入れを想像する時、決まって思い起こされる感情は”不快”という二文字だけです。

それはとても厭な記憶なのです。

ただただ臭いのです。

それは何年も開かれる事なく代謝の止まった空間です。押入れと天袋を隔てる中板からは雨水が染み出して、そこから押入れ全体にじゅくじゅくと腐った木の臭いを充満させていました。

雨漏りのために湿気がひどく、動くたびに服が体に張り付いて、体の底から皮脂や垢が滲み出てくる感触がありました。

極め付けは長時間我慢していた尿意が決壊したことですかね。

じゅくじゅくと爛れた材木。長年堆積したカビや埃。かすみんのおしっこ。隣のお家の焼き魚のにおい。それら全てが混じり合った、なんとも言えないあのにおいが、今でも鮮明に思い起こされるのです。

かすみ「ってことで、しず子よろしく♪」

しずく「なんで！？そんな話聞いたら尚更行けないよ」

歩夢「うぷ…っ………私トイレ……！」ﾀｯﾀｯﾀｯ

エマ「かすみちゃんはその後、どうやって外に出られたの…？」

かすみ「普通にお母さんが帰ってきて開けてくれましたよ」

果林「要するに、押入れから出られなくなってお漏らししちゃったってだけよね？」

愛「かすかす押入れ見てくるの嫌だからって話盛り過ぎだよ」

かすみ「えへっ、バレちゃいましたぁ？でも嘘は言ってませんからね、あとかすかすじゃなくてかすみんです！」

せつ菜「しかしかすみさんの話には迫力があります…！そのエピソードだけでこうも気分が悪くなるとは…」


ガタッ


一同「！！！！」ﾋﾞｸｯ


璃奈「璃奈ちゃんボード『ガクブル』」

かすみ「だ、誰か早く見てきてくださいよぉ…」

しずく「わ、私は絶対嫌だからね！？」

彼方「彼方ちゃんちょっとお昼寝～……zzz」

侑「おはよー」ｶﾞﾗｶﾞﾗ

かすみ「あっ♡侑せんぱぁい」

侑「皆んな揃ってたんだね、来る途中歩夢が気分悪くなったって言うから何事かと思ったよ」

せつ菜「さっきから押入れに何かいるみたいなんです」

侑「歩夢から聞いたよ、私見てくる」

せつ菜「ちょ、ちょっと！」

侑「ん？あはは大丈夫、それに猫とかが迷い込んじゃってたら大変だし」ｶﾞﾗｶﾞﾗ

──────────────────

侑「真っ暗だなぁ…スマホのライトつけよっと」

侑「おしゃぶり…？誰がこんなもの…」

にゃー

侑「はっ！やっぱり猫じゃん」

侑「大変、はやくおいで」

にゃー

侑「よしよし」

──────────────────

侑「やっぱり猫だったよ」

黒猫「にゃー」

かすみ「ほっ」

エマ「初めて見る子だね…？」

璃奈「はんぺんのお友達…かな？」

せつ菜「これは…！すぐに放してきます」

彼方「ずっと閉じ込められてて、お腹空いてないかな～」

璃奈「はんぺんのおやつ、ある」

せつ菜「それ食べたら本当に放してきますからね」

エマ「まぁまぁ、ゆっくり食べさせてあげようよ」

黒猫「にゃーん♪」

しずく「かわいいぃ」

かすみ「しず子ってば、あんなに怖がってたくせに～」

しずく「こ、怖がってないよ！」

果林「かすみちゃんもやりすぎよ、歩夢あれで気分が悪くなっちゃったんだから」

かすみ「ご、ごめんなさい…」

歩夢「あはは、私は大丈夫」

愛「にしてもどこから迷い込んで来たんだろーねー」

せつ菜「昨日ちゃんと確認したはずなのですが…」


キーンコーンカーンコーン


侑「いけない、下校時刻だ」

しずく「そろそろ行かないとですね」ﾀﾞｷｯ

黒猫「シャー！」

しずく「いたっ…！」

愛「大丈夫！？しずく！」

しずく「引っ掻かれてしまいました……」

璃奈「私が預かる」

黒猫「にゃーん♪」

璃奈「よしよし」

──────────────────

エマ「しずくちゃん今日は災難だったね」

しずく「い、いえ…無理に引き剥がそうとした私がいけないんです」

彼方「彼方ちゃんバイトだからそろそろ行くね」

エマ「また明日ね、彼方ちゃん」

愛「アタシも店の手伝いあるから」

歩夢「帰ろっか、侑ちゃん」

侑「うん」

せつ菜「それでは皆さん、また明日」

──────────────────

しずく「かすみさん…さっきの話本当…？」

かすみ「ほんとだよ、においとかはちょっと盛ったけど」

璃奈「かすみちゃん、お話うまい」

かすみ「えへへ、しず子ってば顔真っ青だったもんね～」

しずく「へ、平気だって！」

璃奈「私、引き込まれちゃった」

かすみ「にひひ、それじゃあついでにもう一個いやな話してあげよっか」

しずく「へ…？」

お母さんから聞いた話なんだけどさ。

お母さんのお婆ちゃん、つまりかすみんのひいお婆ちゃんに当たる人は産婆さんだったんだって。

間引き専業の。

ひいお婆ちゃんが生まれ育った集落はそれは貧しくてさ、年中不作でいつもお腹を空かしてたんだって。

その中でも一番の貧乏がうち。

何もない村だから食べる事とえ　ちする事くらいしか楽しみがなかったのかな？食い扶持の保証もなく子供をこさえるような人が絶えなかったんだって。そんな人達を相手に商売してたのがかすみんのひいお婆ちゃん。

生きた赤ん坊は一度も取り上げたことが無かったみたいだよ。それじゃ産婆って言わないよね。あはは。

村八分だったけど、飢饉の年だけは儲かったんだよ。

特に夏場は地獄だったそうで。
赤ん坊を引き摺り出す前にまず排泄させるんだよ。血のにおいと糞のにおい、羊水のにおいなんかが家中に染み付いて、それはもう。

ほらしず子、こんな風に木の枝や根っこをここに挿し込むの。先っぽを赤ん坊に突き刺して引き摺り出すんだって。あははは。

ひいお婆ちゃんが赤ん坊を引き摺り出すと、それは恨みがましく睨んで、牛や鶏のようにののしるんだって。犬みたいにすぐ孕むのは自分なのに。

そうして引き摺り出した子を糞をひったタライの中に投げ入れる。

そのタライごと川に流しちゃうんだけど、やっぱり我が子の形見は惜しいんだろうね。赤ん坊と一緒にずるっと出てくる胎盤。皆んなそれを布で包んで大事に持ってるんだって。





押入れの奥で、大事に。





しずく「いやぁ！！」ﾊﾟﾁｨﾝ

かすみ「し、しず子？」

しずく「かすみさんおかしいよ！！」

かすみ「しず子ってばひどいなぁ…」

しずく「来ないで！！！」ﾀｯﾀｯﾀｯ

かすみ「ちょっと驚かせすぎちゃったかな？」

璃奈「かすみちゃん…」

かすみ「ん？」

璃奈「さっきの話…押入れでお漏らししただけって、ほんと…？」

かすみ「ほんとだよ」

璃奈「何も見なかったの？」

かすみ「もー、りな子ってば疑いすぎだよー」

璃奈「かすみちゃん、私も…帰るね」

かすみ「うん、また明日ね」

璃奈「…………」ﾀｯﾀｯﾀｯ

─────────────────

しずく「はぁ…はぁ…」ﾀｯﾀｯﾀｯ

しずく(着いた)

しずく(こんな時間……やっぱり東京からは遠いな…)

にゃー

しずく「…！」ﾋﾞｸｯ

黒猫「まーお」

しずく「…………っ」

しずく「………………」ﾀｯﾀｯﾀｯ

しずく「…ただいま」

しずく母「お風呂溜まってるわよ」

しずく「うん」

─────────────────
ｼﾞｬｰ

しずく「…ふぅ」

しずく(かすみさんのばか…)

ﾁｬﾎﾟﾝ

しずく(あいたた…引っ掻かれたんだった)

ｸﾙﾙ…ﾌﾐｬｧ………ﾝﾏｰｵｫｫ‼︎‼︎

しずく(……………ひっ)

─────────────────

しずく母「しーちゃん、ご飯は？」

しずく「ごめんね、今日ちょっと気分が悪いの…」

しずく母「大丈夫？」

しずく「うん…」ｽﾀｽﾀ

─────────────────
ｶﾞﾁｬｯ

しずく「ふぅー」ﾎﾟﾌｯ

ﾎﾟﾁﾎﾟﾁ

しずく(わっ、こんなにLINE来てる)




ースクールアイドル同好会(3) 通知136ー




しずく(………？普段こんなに盛り上がる事なんてないのに…)

……………………………………………………

エマ『見てみて、寮の前にいた猫ちゃん♪さっきの子に似てない？』

愛『ほんとだ！』

侑『待って』

侑『私の家の前にもいたんだけど』

歩夢『そんなのいたっけ？』

彼方『可愛い～』

かすみ『今日は猫ちゃん日和ですね』

歩夢『今日の子、どこに放したの？』

璃奈『はんぺんのいる茂みに放しておいた』

せつ菜『ダメですよ！！璃奈さん！！」

せつ菜『これ以上学園に猫を放しては…』

果林『まぁいいじゃないの』

かすみ『折角ですし名前つけましょーよ！』

侑『いいねそれ！』

せつ菜『あなたたちは??』

愛『くろみつなんてどう？黒いから！』

かすみ『えー、かすみんはさとみがいいです』

愛『なにそれウケる』

エマ『さとみちゃん！可愛いね♪』

侑『くろみつの方が良くない？』

彼方『彼方ちゃんもくろみつ派～』

果林『あら』

果林『さとみもいいじゃない、なんだかセクシーで』

せつ菜『私もさとみ派です！！！』

璃奈『さっきまで怒ってたのに』

かすみ『歩夢先輩はどっちなんですか?』

歩夢『私はどっちでもいいかな』

歩夢『くろみつでもさとみでも』

璃奈『くろみつ』

かすみ『もう！』

愛『愛さんはさとみでもいいよ！』

かすみ『流石愛先輩！』

かすみ『歩夢先輩の票をこちらに入れてさとみで決定ですね♪』

歩夢『あはは』

侑「やだよーさとみなんて』

かすみ『えへっ♡』

エマ『まって』

エマ『押入れから物音がする』

果林『ちょっとやめてちょうだい』

せつ菜『怖いですね…』

彼方『さとみ現る』

エマ『流石に猫ちゃんじゃないと思うけど…』

せつ菜『人ですか？』

エマ『ううん、そんなに大きい物音じゃなかったし…』

愛『ねずみ？』

エマ『ちょっと見てくるね』

せつ菜『やめておいた方が…』

歩夢『心配』

侑『おーい、エマさん？』

エマ『心配かけてごめんね～』

せつ菜『良かったです！！』

かすみ『なんかいました？』

エマ『何もいなかったよ』

彼方『エマちぁぁぁあん』

エマ『でも、なんか風呂敷？みたいなのがあって』

璃奈『風呂敷？』

果林『中に何が入っていたの？』

エマ『開けちゃっていいのかなぁ、これ』

エマが退出しました

彼方『ふぁ！？』

侑『どういうこと？』

karinが退出しました

灼熱のジャッカルが退出しました

歩夢が退出しました

侑『何？ドッキリ？』

愛『え、こわい』

愛『やばいよ、猫が』

宮下愛が退出しました

侑『猫？』

侑『ちょっと、ほんとに怖い』

ゆうが退出しました

彼方『えぇ…』

かすみ『ちょっとちょっと！どうなってるんですか！』

璃奈『4人だけになった』

かなた(˙-˙)が退出しました

……………………………………………………

しずく「え……………？」

しずく「なに……これ……」

しずく「やだやだやだやだ！！」

しずく「……………っ！」ｶﾞﾊﾞｯ

しずく「うぅぅぅぅ……」




ピンポーン




しずく「……………っ！」ﾋﾞｸｯ




ピンポーン

ピンポーン




しずく「…………………っ」ﾌﾞﾙﾌﾞﾙ

しずく「………………」

しずく「………………」


しずく(…………止んだ？)




テテテテテテテン♪テテテテテテテン♪




しずく「ひゃっ！？」ﾋﾞｸｯ

しずく(エマさん…？)

しずく「もしもしエマさん！？どうなってるんですか！？なんでグループ抜けたんですか！？」




かすみ「やっほー♪」




しずく「……………っ！」

しずく「なんで…かすみさんが……」ﾎﾟﾛﾎﾟﾛ

かすみ「だってしず子、インターホン押しても出てくれないんだもん」

しずく「お願いだからもうやめて！！皆んなでからかってるんでしょ！？私かすみさんに何かひどい事した！？」

かすみ「ひどい事はしてないけどー…寂しがってたから」

しずく「寂しがってた……？」

かすみ「うん、友達がいなくて寂しいって」

しずく「何の話……？」

かすみ「しず子、今日の話実は続きがあるんだ」

しずく「え……？」

かすみ「ほんとはね、押入れに女の子がいたんだよ、私より一回り小さいくらいかな？」

かすみ「かすみん暗い中に1人だったけど、全然怖くなかったよ、その子が遊んでくれたから」

かすみ「かすみんと会うまでずーっと1人ぼっちだったんだって」

かすみ「暗くて臭いあの中にずーっと1人ぼっち、毎日寂しくて泣いてたんだって」

しずく「………………ひっ」

かすみ「あんな職業してた癖に、自分も堕しちゃうなんて」

しずく「え………？」

かすみ「ひいお婆ちゃん」

かすみ「ひいお婆ちゃんだけじゃないよ、お婆ちゃんもお母さんも、私の家系にはもう不浄が媚びりついちゃってて落ちないのかも」

しずく「………………っ」ﾎﾟﾛﾎﾟﾛ

かすみ「さっき話したじゃん？引き摺り出された赤ん坊は糞尿まみれのタライに投げ捨てられるって」

かすみ「不思議なことにどれだけ貧相に痩せこけた女の人でも、太腿は真っ白で綺麗なんだって」

かすみ「顔や手足は赤茶けて薄汚れてるのに太腿だけは綺麗に脂が乗ってる」

かすみ「産まれてきた子がまず最初に見るのは真っ白な太腿、次に血の赤、最期は糞便の黒」

かすみ「屎泥処って知ってる？罪人の堕ちる地獄で、そこでは煮えたぎった糞尿が沼のように溜まってる。罪人は毎日くさいくさいと泣きながら糞便を貪るんだよ」

かすみ「水子は何も悪い事してないのになんで地獄なんかに堕ちたんだろーね」

かすみ「教えでは不浄なものを清いと思い、清いものを不浄と思った者が堕ちる所だって聞いたけど」

かすみ「自分を犬のように産み捨てた母親を慕ったりなんかしたから、あの子は浮かばれなかったのかなぁ」

かすみ「糞尿の沼に投げ捨てられて、その後もじめじめした臭い部屋にずーっと1人ぼっちで…」

しずく「かすみさん………っ」

しずく「その子の名前って………」

かすみ「んー？にひひ」

ースクールアイドル同好会(3) ー

璃奈『しずくちゃん、お家ついた？』

璃奈『猫の名前、呼ばないで』

しずくが退出しました

かすみ『呼んでくれる友達もいなくて寂しい寂しいって泣いてたんだ』

かすみ『りな子も呼んであげてよ』

かすみ『可愛い可愛いかすみんの妹の名前』










完

～epilogue～


皆さんにかすみからの切実なお願いです。どうかあの子の名前を呼んであげてください。出来れば声に出して。それが難しければ黙読でも構いません。可愛いお洋服も、美味しいコッペパンも、綺麗な空も、キラキラしたアイドルも、素敵なお友達も、その全てを見られる事なく旅立った、かすみのたった一人の妹です。その一文字一文字に込められた意味に、どうか一時でも想いを馳せてやってください。それだけであの子は報われます。

どうか、お願いします。







https://i.imgur.com/eLLlcM6.jpg















りな从[˶˃ᴗ˂˵]从がグループから退出しました

解説よろしく

これ元ネタがあるのか？
オリジナル？

ストーリーはオリジナルですが、設定とか言い回しは「ぼっけぇ、きょうてぇ」とか「てうぶく」から着想を得ました

怖かったけどホラーssすこ
乙です

面白かった
乙

終始薄気味悪くてずっとしずくちゃんと同じ気持ちになって読んでた
なので画像は怖くて開けないぜ…おつ

面白かったが同じく画像は開けない
今ちょうどホラー系SSの構想を練っていたので参考にします

画像はあの子の名前を姓名診断してるだけだよ
薄暗さと運勢でゾッとするけどこのSS読めた人なら大丈夫じゃないかな