1: (しうまい) 2022/04/03(日) 00:00:31.58 ID:CdKdJba/
同好会部室…
「──ん、あれ?」
ガラ…
せつ菜 ソーッ…
せつ菜「…おや、しずくさん」
しずく「お疲れ様です。せつ菜さん」ペコ
せつ菜「鍵が開いていたので何事かと思いましたよ。練習もお休みなのに、どうかしたんですか?」
せつ菜「なにか用があったわけではないんですけど、ちょっと部室に来たくなったんです。誰かに、会えるかなって」
せつ菜「ほう…?」
「──ん、あれ?」
ガラ…
せつ菜 ソーッ…
せつ菜「…おや、しずくさん」
しずく「お疲れ様です。せつ菜さん」ペコ
せつ菜「鍵が開いていたので何事かと思いましたよ。練習もお休みなのに、どうかしたんですか?」
せつ菜「なにか用があったわけではないんですけど、ちょっと部室に来たくなったんです。誰かに、会えるかなって」
せつ菜「ほう…?」
3: (しうまい) 2022/04/03(日) 00:03:33.73 ID:CdKdJba/
せつ菜「あっ、わかりました!午前中は演劇部の方の練習があったのでしょう!」ピーン
しずく「ふふ、ハズレです」
せつ菜「む、外れてしまいました…」
せつ菜「しずくさんは補習を受けるような成績ではないでしょうし、それにそもそも今日はどの学年・学科でも補習がおこなわれるという予定はなかったはずですからね」
せつ菜「同好会でも演劇部でもなく、補習というわけでもないとすると……」
せつ菜「んん~…?」
しずく …クス
しずく「ふふ、ハズレです」
せつ菜「む、外れてしまいました…」
せつ菜「しずくさんは補習を受けるような成績ではないでしょうし、それにそもそも今日はどの学年・学科でも補習がおこなわれるという予定はなかったはずですからね」
せつ菜「同好会でも演劇部でもなく、補習というわけでもないとすると……」
せつ菜「んん~…?」
しずく …クス
4: (しうまい) 2022/04/03(日) 00:06:33.72 ID:CdKdJba/
しずく「本当になにもないんですよ。部室に来たくて、学校に来たんです」
せつ菜「部室に来るためだけに、ですか?」
しずく「部室に来るためだけに、です」
せつ菜「……はあ…」ポカン
せつ菜「私が言うなという感じだとは思いますが、なんの用もなく部室に来るとはなかなか奇特ですね。ご自宅だって近くはないというのに」
しずく「まあ、そうですね」
しずく「せつ菜さんは生徒会のお仕事だったんですよね?ということは、せつ菜さんじゃなくて菜々先輩か」
せつ菜「ご明察です。引継ぎ資料に加筆しておきたい部分があったので生徒会室に顔を出したんです」
せつ菜「部室に来るためだけに、ですか?」
しずく「部室に来るためだけに、です」
せつ菜「……はあ…」ポカン
せつ菜「私が言うなという感じだとは思いますが、なんの用もなく部室に来るとはなかなか奇特ですね。ご自宅だって近くはないというのに」
しずく「まあ、そうですね」
しずく「せつ菜さんは生徒会のお仕事だったんですよね?ということは、せつ菜さんじゃなくて菜々先輩か」
せつ菜「ご明察です。引継ぎ資料に加筆しておきたい部分があったので生徒会室に顔を出したんです」
5: (しうまい) 2022/04/03(日) 00:09:34.20 ID:CdKdJba/
しずく「春休みにまでお疲れ様です。せつ菜さんの格好に着替えて部室にいらしたということは、もうお仕事は片付いたんですね」
せつ菜「はい。そもそもたいした作業ではなかったので、小一時間もかかりませんでした」
せつ菜「私は同好会の部室が大好きですからね。せっかく学校に来たのなら、少しこの部屋で過ごしたかったんですよ」
しずく「お邪魔でしたか?」
せつ菜「とんでもない。しずくさんの方こそ、お一人でゆっくりしたかったのでは?」
しずく「いいえ。言ったじゃないですか、誰かに会いたかったのだと」
せつ菜「おっと、そうでしたね」
しずく「よかったらお話ししませんか。お茶でも淹れますよ」ガタ
せつ菜「はい、ぜひ。お話ししましょう!」
せつ菜「はい。そもそもたいした作業ではなかったので、小一時間もかかりませんでした」
せつ菜「私は同好会の部室が大好きですからね。せっかく学校に来たのなら、少しこの部屋で過ごしたかったんですよ」
しずく「お邪魔でしたか?」
せつ菜「とんでもない。しずくさんの方こそ、お一人でゆっくりしたかったのでは?」
しずく「いいえ。言ったじゃないですか、誰かに会いたかったのだと」
せつ菜「おっと、そうでしたね」
しずく「よかったらお話ししませんか。お茶でも淹れますよ」ガタ
せつ菜「はい、ぜひ。お話ししましょう!」
6: (しうまい) 2022/04/03(日) 00:12:36.34 ID:CdKdJba/
しずく「どうぞ」っ旦 コト…
せつ菜「これはこれは。お茶菓子の一つでも持ってきていればよかったんですが」
しずく「生徒会のお仕事をしにきたのにそんなものを持っていたら不思議ですね」フフ
せつ菜「それもそうです」ヘヘ
せつ菜「………」
しずく「どうかしましたか?」
せつ菜「ちょうど一年前にも、こんなことがありましたね」
しずく「! …そうですね。覚えていたんですね」
せつ菜「当然ですよ。忘れるはずがないじゃないですか」
────
──
せつ菜「これはこれは。お茶菓子の一つでも持ってきていればよかったんですが」
しずく「生徒会のお仕事をしにきたのにそんなものを持っていたら不思議ですね」フフ
せつ菜「それもそうです」ヘヘ
せつ菜「………」
しずく「どうかしましたか?」
せつ菜「ちょうど一年前にも、こんなことがありましたね」
しずく「! …そうですね。覚えていたんですね」
せつ菜「当然ですよ。忘れるはずがないじゃないですか」
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──
7: (しうまい) 2022/04/03(日) 00:15:37.16 ID:CdKdJba/
一年前、四月某日…
虹ヶ咲学園 ドーーーン
しずく「やっぱり大きい…」
しずく (来週からこの学校に通うことになるんだ)
しずく (友達は誰も進路に選んでないから、私一人きり)
しずく (虹ヶ咲は中等部からの内部進学も多いっていうから、ほとんどみんな顔見知りなんだろうな)
しずく (私、ちゃんとやっていけるかな)
しずく (…怖いな)
しずく (入学式はまだだけど、もう合格したんだもん。中に入っても怒られないよね?せめて学校のことを少しでも知っておきたいし…)
「新入生ですか?」
しずく「!」ビクッ
虹ヶ咲学園 ドーーーン
しずく「やっぱり大きい…」
しずく (来週からこの学校に通うことになるんだ)
しずく (友達は誰も進路に選んでないから、私一人きり)
しずく (虹ヶ咲は中等部からの内部進学も多いっていうから、ほとんどみんな顔見知りなんだろうな)
しずく (私、ちゃんとやっていけるかな)
しずく (…怖いな)
しずく (入学式はまだだけど、もう合格したんだもん。中に入っても怒られないよね?せめて学校のことを少しでも知っておきたいし…)
「新入生ですか?」
しずく「!」ビクッ
8: (しうまい) 2022/04/03(日) 00:18:36.67 ID:CdKdJba/
しずく「はっ…はい、すみませんっ!来週からここの生徒になるんですけど、その、ちょっと見学をと思ってっ」アワアワ
「そう慌てないでください、咎めたくて声をかけたのではありませんよ」
菜々「私は虹ヶ咲学園の高等部で生徒会長を務めることになった、中川菜々といいます」
しずく「せ、生徒会長さん…!」
しずく「私は、えと、一年生…になる、桜坂しずくです」
菜々「桜坂しずくさん」
しずく「は、はい……」
菜々「とても綺麗な名前ですね」
しずく「ぇ…」
菜々「この季節に相応しい爽やかな苗字と、生命の源である滴──ご存知ですか?滴というのは、『喜び』や『幸運』の象徴ともいわれているんですよ」
菜々「春のこの日にこうして出会えたことは、この上ない喜びですね」ニコッ
しずく「──っ…」
「そう慌てないでください、咎めたくて声をかけたのではありませんよ」
菜々「私は虹ヶ咲学園の高等部で生徒会長を務めることになった、中川菜々といいます」
しずく「せ、生徒会長さん…!」
しずく「私は、えと、一年生…になる、桜坂しずくです」
菜々「桜坂しずくさん」
しずく「は、はい……」
菜々「とても綺麗な名前ですね」
しずく「ぇ…」
菜々「この季節に相応しい爽やかな苗字と、生命の源である滴──ご存知ですか?滴というのは、『喜び』や『幸運』の象徴ともいわれているんですよ」
菜々「春のこの日にこうして出会えたことは、この上ない喜びですね」ニコッ
しずく「──っ…」
9: (しうまい) 2022/04/03(日) 00:21:36.88 ID:CdKdJba/
しずく「そ、そんなこと、これまで言われたことがありません。その、なんて返したらいいか…」
菜々「ふふ、すみません。少し気障だったでしょうか」
しずく「いえ…」
菜々「最近読んでいるラ──小説の一節に影響されてしまいました」
しずく「……へえ、小説の…」
しずく「…あの、」
菜々「ところで、入学式までは日がありますが、しずくさんはなにをしに虹ヶ咲へ?」
しずく「あ、えっと、入学前に学校の中を見ておきたくて」
菜々「そうでしたか」
菜々「ふふ、すみません。少し気障だったでしょうか」
しずく「いえ…」
菜々「最近読んでいるラ──小説の一節に影響されてしまいました」
しずく「……へえ、小説の…」
しずく「…あの、」
菜々「ところで、入学式までは日がありますが、しずくさんはなにをしに虹ヶ咲へ?」
しずく「あ、えっと、入学前に学校の中を見ておきたくて」
菜々「そうでしたか」
10: (しうまい) 2022/04/03(日) 00:24:36.58 ID:CdKdJba/
菜々「私でよければご案内しましょうか?」
しずく「え…い、いいんですか?生徒会長さんなんて、お忙しいんじゃ」
菜々「いえ、そんなことはありませんよ。生徒会長といってもなりたてで、本格的に活動を開始するのは新学期からです」
しずく「そうなんですか?それじゃ、その…中川先輩は、今日はなにを?」
菜々「私もしずくさんと同じですよ。新学期から生徒会長を務める身として、今一度学園のことを知っておきたかったので、ぐるりと見て回るつもりだったんです」
菜々「一人では寂しいと思っていたところです。よかったらご一緒しませんか?」
しずく「そういうことなら、ぜひ…!」
菜々「はい。それでは行きましょう」
しずく「え…い、いいんですか?生徒会長さんなんて、お忙しいんじゃ」
菜々「いえ、そんなことはありませんよ。生徒会長といってもなりたてで、本格的に活動を開始するのは新学期からです」
しずく「そうなんですか?それじゃ、その…中川先輩は、今日はなにを?」
菜々「私もしずくさんと同じですよ。新学期から生徒会長を務める身として、今一度学園のことを知っておきたかったので、ぐるりと見て回るつもりだったんです」
菜々「一人では寂しいと思っていたところです。よかったらご一緒しませんか?」
しずく「そういうことなら、ぜひ…!」
菜々「はい。それでは行きましょう」
12: (しうまい) 2022/04/03(日) 00:27:36.25 ID:CdKdJba/
菜々「しずくさん、中学はどの辺りだったんですか?」テクテク…
しずく「鎌倉の方だったんですよ」テクテク…
菜々「ほう、鎌倉ですか~」
しずく「はい。中川先輩は中等部も虹ヶ咲に──」
菜々「って、鎌倉!?」
しずく ビクッッ
菜々「鎌倉って、あの鎌倉ですか!?」
しずく「は、はい。神奈川県鎌倉市です」
しずく「鎌倉の方だったんですよ」テクテク…
菜々「ほう、鎌倉ですか~」
しずく「はい。中川先輩は中等部も虹ヶ咲に──」
菜々「って、鎌倉!?」
しずく ビクッッ
菜々「鎌倉って、あの鎌倉ですか!?」
しずく「は、はい。神奈川県鎌倉市です」
13: (しうまい) 2022/04/03(日) 00:30:37.70 ID:CdKdJba/
菜々「そんなに遠くから…いったい、なぜ虹ヶ咲に…ご両親の転勤などですか?」
しずく「いえ、特に転勤などはないですね。明日以降も鎌倉に住んでいます」
菜々「では、学生寮に入るんですか?」
しずく「いえ、自宅から通いますよ。通えない距離ではないので」
菜々「ええっ、鎌倉から…通うんですか……」
菜々「鎌倉から虹ヶ咲となると…」
しずく「横須賀線で新橋まで出て、そこからゆりかもめというルートになりました。おおむね一時間半くらいでしょうか」
菜々「朝と帰りに一時間半ずつ。一日の八分の一を通学に使うということですか…」
しずく「い、いやな計算をしないでください」
菜々「おっと、すみません」
しずく「いえ、特に転勤などはないですね。明日以降も鎌倉に住んでいます」
菜々「では、学生寮に入るんですか?」
しずく「いえ、自宅から通いますよ。通えない距離ではないので」
菜々「ええっ、鎌倉から…通うんですか……」
菜々「鎌倉から虹ヶ咲となると…」
しずく「横須賀線で新橋まで出て、そこからゆりかもめというルートになりました。おおむね一時間半くらいでしょうか」
菜々「朝と帰りに一時間半ずつ。一日の八分の一を通学に使うということですか…」
しずく「い、いやな計算をしないでください」
菜々「おっと、すみません」
14: (しうまい) 2022/04/03(日) 00:33:17.68 ID:CdKdJba/
菜々「虹ヶ咲は学科も豊富ですからね。関東圏内では虹ヶ咲でしか学べない学科というのもあるようですし」
菜々「学科はどちらになるのですか?」
しずく「国際交流学科です」
菜々「ほう…国際交流学科ですか」
しずく「はい」
菜々「いえ、決して悪いわけではないのですが、それならばわざわざ鎌倉からお台場まで通わずとももう少し近くにありそうな気もしますが」
菜々「虹ヶ咲の国際交流学科特有の魅力というものが、なにかありましたか?」
しずく「そうですね…選択できる言語は、やっぱりすごく豊富ですよね。カリキュラムも自分のやりたいことに合わせてOCから翻訳から多様に選べますし」
菜々「ふむふむ」
菜々「学科はどちらになるのですか?」
しずく「国際交流学科です」
菜々「ほう…国際交流学科ですか」
しずく「はい」
菜々「いえ、決して悪いわけではないのですが、それならばわざわざ鎌倉からお台場まで通わずとももう少し近くにありそうな気もしますが」
菜々「虹ヶ咲の国際交流学科特有の魅力というものが、なにかありましたか?」
しずく「そうですね…選択できる言語は、やっぱりすごく豊富ですよね。カリキュラムも自分のやりたいことに合わせてOCから翻訳から多様に選べますし」
菜々「ふむふむ」
15: (しうまい) 2022/04/03(日) 00:36:18.33 ID:CdKdJba/
しずく「でも、私が進路を虹ヶ咲学園に決めたのは学科のためじゃないんです」
菜々「と、言いますと?」
しずく「私が虹ヶ咲学園を選んだ一番の理由は、演劇です」
菜々「演劇──演劇部ですか」
しずく「はい」コク
しずく「私の好きな大学劇団がいくつかあるのですが、高校演劇の中で一番近い舞台を作るのが虹ヶ咲学園なんです」
しずく「だから虹ヶ咲学園の演劇部で舞台経験を積めたら、そういった劇団への足がかりになるかと思いまして」
菜々「なるほど、大学劇団への足がかりですか…」
菜々「私は演劇に明るくないのでよくわかりませんが、はるばる鎌倉からお台場に進路を取るほどなのですから、よほど好きなのですね。演劇」
しずく「はい、大好きです」
菜々「と、言いますと?」
しずく「私が虹ヶ咲学園を選んだ一番の理由は、演劇です」
菜々「演劇──演劇部ですか」
しずく「はい」コク
しずく「私の好きな大学劇団がいくつかあるのですが、高校演劇の中で一番近い舞台を作るのが虹ヶ咲学園なんです」
しずく「だから虹ヶ咲学園の演劇部で舞台経験を積めたら、そういった劇団への足がかりになるかと思いまして」
菜々「なるほど、大学劇団への足がかりですか…」
菜々「私は演劇に明るくないのでよくわかりませんが、はるばる鎌倉からお台場に進路を取るほどなのですから、よほど好きなのですね。演劇」
しずく「はい、大好きです」
16: (しうまい) 2022/04/03(日) 00:39:15.13 ID:CdKdJba/
しずく「中川先輩は何部なんですか?」
菜々「!」
菜々「わ、私は…その…」
しずく「?」
しずく「…あ。生徒会長をやってらっしゃるんですもんね。なかなか部活と両立は難しいのでしょうか」
菜々「そ、そうですね。そうなんです、部活はやっていなくて」
しずく「すみません、そこまで気が回らずに」シュン…
菜々「いっいえいえ!これでもやりたいことは謳歌できているので大丈夫ですよ、気にしないでください!」
しずく「そうですか?」
菜々「はいっ」ペカー
しずく「…よかった」ホッ
菜々「!」
菜々「わ、私は…その…」
しずく「?」
しずく「…あ。生徒会長をやってらっしゃるんですもんね。なかなか部活と両立は難しいのでしょうか」
菜々「そ、そうですね。そうなんです、部活はやっていなくて」
しずく「すみません、そこまで気が回らずに」シュン…
菜々「いっいえいえ!これでもやりたいことは謳歌できているので大丈夫ですよ、気にしないでください!」
しずく「そうですか?」
菜々「はいっ」ペカー
しずく「…よかった」ホッ
17: (しうまい) 2022/04/03(日) 00:42:16.23 ID:CdKdJba/
部室棟の一角…
菜々「…ここが演劇部の部室です」
しずく「わあ…!」
菜々「生憎、今日は練習がお休みのようですね。誰かがいれば中を見せてもらえたかもしれませんが」
しずく「ううん、大丈夫です。入学したら真っ先に訪ねますから。ありがとうございます」
菜々「四月いっぱいは仮入部期間なので、興味がある部や同好会があれば積極的に訪ねてみてください。…と言っても、しずくさんが興味があるのは演劇部だけのようですが」クス
しずく「そっ!そんなこと……なくは、ないですけど…」
菜々「ふふふ。恥ずかしがることはないじゃないですか。心から大好きなものがあるのは素晴らしいことですよ」
しずく「………」
菜々「さて、誰もいないのであれば長居しても仕方がありませんね。そろそろ移動しましょうか」クル
しずく「あ、はい」タタ…
菜々「…ここが演劇部の部室です」
しずく「わあ…!」
菜々「生憎、今日は練習がお休みのようですね。誰かがいれば中を見せてもらえたかもしれませんが」
しずく「ううん、大丈夫です。入学したら真っ先に訪ねますから。ありがとうございます」
菜々「四月いっぱいは仮入部期間なので、興味がある部や同好会があれば積極的に訪ねてみてください。…と言っても、しずくさんが興味があるのは演劇部だけのようですが」クス
しずく「そっ!そんなこと……なくは、ないですけど…」
菜々「ふふふ。恥ずかしがることはないじゃないですか。心から大好きなものがあるのは素晴らしいことですよ」
しずく「………」
菜々「さて、誰もいないのであれば長居しても仕方がありませんね。そろそろ移動しましょうか」クル
しずく「あ、はい」タタ…
18: (しうまい) 2022/04/03(日) 00:45:15.37 ID:CdKdJba/
生徒会室…
菜々「どうぞ」
しずく「広い…!」
菜々「確かに広いですよね。執務をおこなう分にはこんなに広い必要はないと思うのですが、まあ場所が場所なので他の特別教室を併設するようなこともなく、結果的に広大なスペースを与えられています」
しずく「そうですね、移動教室でここまで上がってくると考えると、休み時間が何分あっても足りません…」
菜々「生徒会活動のたび、その距離の移動を強いられることになるかと思うと…」ハァ
しずく「いい運動になりますね」フフ
菜々「ごもっともです」フフ
菜々「どうぞ」
しずく「広い…!」
菜々「確かに広いですよね。執務をおこなう分にはこんなに広い必要はないと思うのですが、まあ場所が場所なので他の特別教室を併設するようなこともなく、結果的に広大なスペースを与えられています」
しずく「そうですね、移動教室でここまで上がってくると考えると、休み時間が何分あっても足りません…」
菜々「生徒会活動のたび、その距離の移動を強いられることになるかと思うと…」ハァ
しずく「いい運動になりますね」フフ
菜々「ごもっともです」フフ
19: (しうまい) 2022/04/03(日) 00:48:14.32 ID:CdKdJba/
しずく「わあ!ここ、すごい眺めですよ中川先輩!見てください!」パァァ
菜々「お台場が一望できますよね」
しずく「あっ、そうですよね…中川先輩は当然知ってますよね。私ったらはしゃいじゃって…」
菜々「安心してください、私も初めてここを訪れたときには似たような反応でしたから。それに、今でも慣れたとはいえません。何度見ても嘆息するような眺めですし、生徒会役員の大きな特権の一つかもしれませんね」
しずく「お仕事に疲れたときなんか、気分転換になりそうですね」
菜々「はい。虹ヶ咲は学科も生徒数も部活動も多いので、その分、生徒会に任される仕事も多いのだと聞きます。今から気合いを入れて臨まなくては」
しずく「あまり根を詰めすぎないでくださいね」
菜々「ありがとうございます。ですが私は負けませんよ。私には守りたい生活があるので、そのためならば多少の苦労は物ともしませんから」ニッ
しずく「………」
菜々「そうだ、お茶でも淹れましょうか。なんだかんだと長い時間を連れ回してしまって、歩き疲れましたよね」
しずく「あ…だったら、私が!」
菜々「お台場が一望できますよね」
しずく「あっ、そうですよね…中川先輩は当然知ってますよね。私ったらはしゃいじゃって…」
菜々「安心してください、私も初めてここを訪れたときには似たような反応でしたから。それに、今でも慣れたとはいえません。何度見ても嘆息するような眺めですし、生徒会役員の大きな特権の一つかもしれませんね」
しずく「お仕事に疲れたときなんか、気分転換になりそうですね」
菜々「はい。虹ヶ咲は学科も生徒数も部活動も多いので、その分、生徒会に任される仕事も多いのだと聞きます。今から気合いを入れて臨まなくては」
しずく「あまり根を詰めすぎないでくださいね」
菜々「ありがとうございます。ですが私は負けませんよ。私には守りたい生活があるので、そのためならば多少の苦労は物ともしませんから」ニッ
しずく「………」
菜々「そうだ、お茶でも淹れましょうか。なんだかんだと長い時間を連れ回してしまって、歩き疲れましたよね」
しずく「あ…だったら、私が!」
20: (しうまい) 2022/04/03(日) 00:51:01.14 ID:CdKdJba/
しずく「どうぞ」っ旦 コト…
菜々「すみません。まさか生徒会室にいるのに、私の方がお茶を振る舞われてしまうとは」
しずく「いえ、いいんです。最近、母にお茶の淹れ方を教わったので実践してみたくて」
しずく「それに、今日のお礼も兼ねて」
菜々「頂きます。…お礼、ですか?」ズ
しずく「はい」コク
菜々「すみません。まさか生徒会室にいるのに、私の方がお茶を振る舞われてしまうとは」
しずく「いえ、いいんです。最近、母にお茶の淹れ方を教わったので実践してみたくて」
しずく「それに、今日のお礼も兼ねて」
菜々「頂きます。…お礼、ですか?」ズ
しずく「はい」コク
21: (しうまい) 2022/04/03(日) 00:54:01.01 ID:CdKdJba/
しずく「本当はとても怖かったんです。知らない町の、初めての学校。友達もいなくて、家も遠くて、でも周りはきっと内部進学で仲のいい人達が多くて…」
しずく「そんな中で私はやっていけるのかなって」
しずく「だから、少しでも不安を拭いたくてこうして春休みに一人学校へ来てしまいました。入学式もまだだというのに」
しずく「電車を降りて、改めて見上げる虹ヶ咲学園はやっぱりすごく大きくて、わざわざ来たのに一人で立ち入ることすらできずにいました」
しずく「でもそんなときに中川先輩が声をかけてくださって、はじめはびっくりしましたけど、同じペースで一歩前を歩いてくださることが心強かったんです」
しずく「設備のこと、歴史のこと、生徒や先生の雰囲気、色々なことを指差し話してくださるのを聞いているうちに、怖かった気持ちはすっかりなくなってしまいました」
しずく「私、楽しみです。虹ヶ咲学園の生徒として、この学校に通う日々が」
しずく「それに生徒会長さんと仲良くなれたので、怖いものなしですよね。こんなに優しい人が生徒会長をしている場所でなら、きっと素敵な学園生活が送れるだろうなって、そう思います」
しずく「私の気持ちを前向きにしてくれた、だからこれは、そのお礼です」
しずく「そんな中で私はやっていけるのかなって」
しずく「だから、少しでも不安を拭いたくてこうして春休みに一人学校へ来てしまいました。入学式もまだだというのに」
しずく「電車を降りて、改めて見上げる虹ヶ咲学園はやっぱりすごく大きくて、わざわざ来たのに一人で立ち入ることすらできずにいました」
しずく「でもそんなときに中川先輩が声をかけてくださって、はじめはびっくりしましたけど、同じペースで一歩前を歩いてくださることが心強かったんです」
しずく「設備のこと、歴史のこと、生徒や先生の雰囲気、色々なことを指差し話してくださるのを聞いているうちに、怖かった気持ちはすっかりなくなってしまいました」
しずく「私、楽しみです。虹ヶ咲学園の生徒として、この学校に通う日々が」
しずく「それに生徒会長さんと仲良くなれたので、怖いものなしですよね。こんなに優しい人が生徒会長をしている場所でなら、きっと素敵な学園生活が送れるだろうなって、そう思います」
しずく「私の気持ちを前向きにしてくれた、だからこれは、そのお礼です」
22: (しうまい) 2022/04/03(日) 00:57:01.22 ID:CdKdJba/
菜々「…それはなによりです」
菜々「あなたの学園生活が明るく楽しく、心から『大好き』に向き合える時間になることを祈っていますよ。それに、私にできることならば全力でサポートしますから」
しずく「はいっ、ありがとうございます」
菜々「しずくさんのように『大好き』を大切にする人が加わるのだから、演劇部は安泰ですね」
しずく「中川先輩にもあるんですよね、『大好き』なこと」
菜々「えっ?」
しずく「今日、一緒に話していて感じました。それがなんなのかはわかりませんけど、本当に大好きで先輩の心の支えになっているような大事なものがあるんだろうなって」
しずく「いつか、私にも教えてくださいね」
菜々「……はい、約束しますよ。いつか、必ず」
──
────
菜々「あなたの学園生活が明るく楽しく、心から『大好き』に向き合える時間になることを祈っていますよ。それに、私にできることならば全力でサポートしますから」
しずく「はいっ、ありがとうございます」
菜々「しずくさんのように『大好き』を大切にする人が加わるのだから、演劇部は安泰ですね」
しずく「中川先輩にもあるんですよね、『大好き』なこと」
菜々「えっ?」
しずく「今日、一緒に話していて感じました。それがなんなのかはわかりませんけど、本当に大好きで先輩の心の支えになっているような大事なものがあるんだろうなって」
しずく「いつか、私にも教えてくださいね」
菜々「……はい、約束しますよ。いつか、必ず」
──
────
23: (しうまい) 2022/04/03(日) 01:00:01.36 ID:CdKdJba/
せつ菜「それから程なくして、スクールアイドル同好会にしずくさんを勧誘したのですよね」
しずく「あの時点では、私はせつ菜さんのことを認識していませんでしたけどね。急にとんでもない勢いで声をかけられてすごく驚いたんですよ」
せつ菜「はっはっは、そうでしたねぇ。私は表の顔が違うことなどすっかり忘れて『あっしずくさんだ!』と思って声をかけてしまいまして。あのときのキョトンとした表情は今でも忘れられませんよ」
しずく「忘れられませんよ、じゃないですっ。菜々先輩だって打ち明けてくれたらいいものを、結局そのまま通すものだから、せつ菜さんが菜々先輩だって知ったときはもはやちょっと怒りすら覚えましたからね?」
せつ菜「えっなぜです!?」
しずく「はじめからわかっていれば、余計な葛藤が一つ不要になっていたからです!」
せつ菜「それはそれは、悪いことをしました」
しずく「本当に反省していますか~?」
せつ菜「しています、しています」コクッコクッ
しずく「あの時点では、私はせつ菜さんのことを認識していませんでしたけどね。急にとんでもない勢いで声をかけられてすごく驚いたんですよ」
せつ菜「はっはっは、そうでしたねぇ。私は表の顔が違うことなどすっかり忘れて『あっしずくさんだ!』と思って声をかけてしまいまして。あのときのキョトンとした表情は今でも忘れられませんよ」
しずく「忘れられませんよ、じゃないですっ。菜々先輩だって打ち明けてくれたらいいものを、結局そのまま通すものだから、せつ菜さんが菜々先輩だって知ったときはもはやちょっと怒りすら覚えましたからね?」
せつ菜「えっなぜです!?」
しずく「はじめからわかっていれば、余計な葛藤が一つ不要になっていたからです!」
せつ菜「それはそれは、悪いことをしました」
しずく「本当に反省していますか~?」
せつ菜「しています、しています」コクッコクッ
24: (しうまい) 2022/04/03(日) 01:03:04.49 ID:CdKdJba/
しずく「でも、こうして今年も同じ日に二人で過ごせるなんてなんだか運命を感じてしまいます」
せつ菜「同じ日?あれも四月三日でしたか?」
しずく「そうなんですよ」
せつ菜「一年前の日付を正確に覚えているなんて、と思いましたけど、それならば当然のことですね」
せつ菜「しずくさん、お誕生日おめでとうございます」
しずく「ありがとうございます」
しずく「私にとって、誕生日は占いみたいなものなんです」
しずく「一年の頭にあるので、誕生日がいい日になればその一年間がいい年になるような気がして、反対もそうで」
しずく「毎年春休みの最中なので、どうにかいい一日にしたくて外へ出てみるんですけど…去年は占いの結果通り、最高の一年になりました」
しずく「今年もどうやらいい一年になりそうです」
せつ菜「同じ日?あれも四月三日でしたか?」
しずく「そうなんですよ」
せつ菜「一年前の日付を正確に覚えているなんて、と思いましたけど、それならば当然のことですね」
せつ菜「しずくさん、お誕生日おめでとうございます」
しずく「ありがとうございます」
しずく「私にとって、誕生日は占いみたいなものなんです」
しずく「一年の頭にあるので、誕生日がいい日になればその一年間がいい年になるような気がして、反対もそうで」
しずく「毎年春休みの最中なので、どうにかいい一日にしたくて外へ出てみるんですけど…去年は占いの結果通り、最高の一年になりました」
しずく「今年もどうやらいい一年になりそうです」
25: (しうまい) 2022/04/03(日) 01:06:05.29 ID:CdKdJba/
せつ菜「誕生日は占い……なるほど」
しずく「やっぱり人間、行動してみるものですね。学校がこんなにも好きになるなんて、小学生や中学生の頃には考えられませんでした」
しずく「ああ、幸せ…」ンー
せつ菜「しずくさん、今日は特に予定もないということですよね?」
しずく「はい、特に」
せつ菜「だったら──占いの結果をもっともっとよくしましょう!今年一年が最高の中の最高になるように!」ガタッ
しずく「え?それってどういう…」
せつ菜「お休みの日に友人と会ったのならば、やることは一つです!今から遊びに出かけましょう、今日という日はまだたっぷり残っていますから!」
せつ菜「なんなら他の皆さんにも声をかけて、みんなでお台場に繰り出すんです!ね、行きましょう。しずくさん!」
しずく「──はいっ、ぜひ!」
おしまい
しずく「やっぱり人間、行動してみるものですね。学校がこんなにも好きになるなんて、小学生や中学生の頃には考えられませんでした」
しずく「ああ、幸せ…」ンー
せつ菜「しずくさん、今日は特に予定もないということですよね?」
しずく「はい、特に」
せつ菜「だったら──占いの結果をもっともっとよくしましょう!今年一年が最高の中の最高になるように!」ガタッ
しずく「え?それってどういう…」
せつ菜「お休みの日に友人と会ったのならば、やることは一つです!今から遊びに出かけましょう、今日という日はまだたっぷり残っていますから!」
せつ菜「なんなら他の皆さんにも声をかけて、みんなでお台場に繰り出すんです!ね、行きましょう。しずくさん!」
しずく「──はいっ、ぜひ!」
おしまい
27: (もなむす) 2022/04/03(日) 02:32:55.24 ID:DwYMauGZ
乙
しずせつすこ
しずせつすこ
26: (もこりん) 2022/04/03(日) 02:11:43.52 ID:htEK8gem
おつ、良い雰囲気だった
引用元: https://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1648911631/