鞠莉「夏の日は白く流れるように」

ようー曜ー料理? SS


2: (らっかせい) 2020/08/08(土) 20:46:02.19 ID:a4b9OaMH
ホテルスタッフ「お嬢様、昼食はいかがいたしますか?」

鞠莉「そうねぇ。最近暑くて食欲が落ちてきたから、冷たくてさっぱりしたものが食べたいなぁ」

ホテルスタッフ「それでしたら、冷たい麺類などはいかがでしょう」

鞠莉「冷たい麺、いいわね!」

ホテルスタッフ「冷製パスタをはじめとして、中華フェアでは冷たい担々麺や冷やし中華も人気です。夏の定番としては、ざる蕎麦などもなかなか――」

鞠莉「そうめん!」

ホテルスタッフ「なるほど、そうめん…えっ」

鞠莉「そうめんが食べたいの。お願いできる?」

ホテルスタッフ「え、ええっと」

3: (らっかせい) 2020/08/08(土) 20:47:20.97 ID:a4b9OaMH
――――――――

◆渡辺家、キッチン

鞠莉「と言うわけで、私は曜の家にそうめんをご馳走になりに来たのです」

曜「どうして急に説明口調?」

鞠莉「話の都合ってやつよ。料理を始める前に状況を確認しておきたいじゃない?」

曜「うーん。わかるような、わからないようね」

鞠莉「細かいことは気にしないの。改めて、よろしくね」

曜「はーい。それじゃ、作っていこうか」

4: (らっかせい) 2020/08/08(土) 20:49:04.12 ID:a4b9OaMH
鞠莉「ところで、私が来たときには既に小鍋からうっすらと湯気が上がっていたけど、これは何?」

曜「ああ。あらかじめ、めんつゆを作ってたんだ」

鞠莉「えっ、めんつゆって作るものなの?」

曜「そんなに難しいものじゃないしね」

鞠莉「じゃあ、もしかして前に食べた時も?」

曜「うん、手作り!時間的に手の込んだものは作れないけど、めんつゆくらいは自作しようかなって」

5: (らっかせい) 2020/08/08(土) 20:50:22.62 ID:a4b9OaMH
鞠莉「そうだったんだ。どうやって作るの?」

曜「簡単だよ。水を入れたお鍋に出汁パックを入れて、醤油、みりん、砂糖を合わせて煮立たら、って感じかな」

鞠莉「見聞きする限り、充分手が込んでるようだけど」

曜「いやいや、このくらいはただの一手間だよ」

鞠莉「これを一手間だって言えちゃうところが、曜のすごいところね」

曜「本当は冷蔵庫で冷やすのがベストだけど、今日は時間短縮のために濃いめに作って、氷水で割って使うんだ」

鞠莉「なるほどね。それじゃあ、次は麺の番かしら」

6: (らっかせい) 2020/08/08(土) 20:52:03.69 ID:a4b9OaMH
曜「その前に、付け合わせを用意しちゃおうかなって。鞠莉ちゃんは細ネギをカットしてもらえるかな」

鞠莉「任せて。小口切り、だっけ?」

曜「そうそう。細かく均等に。出来る?」

鞠莉「や、やってみるわ」

曜「よろしくねー。私は卵を焼いちゃうから」

鞠莉「卵?」

7: (らっかせい) 2020/08/08(土) 20:53:40.74 ID:a4b9OaMH
曜「錦糸卵にするんだ。錦糸卵は冷やし中華ってイメージだけど、そうめんにも合うんだよ」

鞠莉「ふーむ」

曜「あれ、どうかした?」

鞠莉「曜の一手間は、一手間では済まないんだなって」

曜「そんなことないってば、ちゃちゃっと作っちゃうから」

鞠莉「料理上手は違うわね、私はその域に辿り着けそうにないわ…それにしても、うちのホテルにそうめんが無かっただなんて。思わぬ盲点ね」

8: (らっかせい) 2020/08/08(土) 20:54:49.35 ID:a4b9OaMH
曜「ホテルのレストランとかで、そうめんってあんまり出てこないんじゃないかな。わからないけど」

鞠莉「冷静パスタや、お蕎麦はあるのに?」

曜「だからこそでしょ。そうめんって家庭的なものだし」

鞠莉「家庭的、かあ」

9: (らっかせい) 2020/08/08(土) 20:56:15.05 ID:a4b9OaMH
曜「さすがのスタッフさんも、鞠莉ちゃんがそうめんを食べたいってリクエストするとは思わないよ。あまりご縁がなさそうっていうか」

鞠莉「そうでもないわ。小さい頃は果南やダイヤの家で食べたりしたのよ」

曜「へぇ、ふふっ」

鞠莉「どうかした?」

曜「いや、みんなでそうめんをワイワイ食べてる様子が目に浮かぶようで」

鞠莉「実際、楽しく食べていた覚えがあるわ。夏の太陽の下で目一杯遊んだ後、どちらかの家にお邪魔して、取り合いながら、分け合いながらね」

10: (らっかせい) 2020/08/08(土) 20:59:35.20 ID:a4b9OaMH
曜「そういう季節感も、そうめんのいいところだよね」

鞠莉「お昼は何にするって聞かれたとき、この前曜にご馳走になったそうめんの味が頭をよぎってね。気分は完全にそうめんデース!って思ったら、いてもたってもいられなくて」

曜「あははっ、なにそれ」

鞠莉「笑わないでよ、本当のことなんだから」

曜「嬉しいってことだよ。だからこうして、わざわざ食べに来てくれたんだもんね」

鞠莉「そうそう、そうなんデース!」

曜「そうめんデース!みたいな言い方しないのっ」

12: (らっかせい) 2020/08/08(土) 21:03:22.97 ID:a4b9OaMH
鞠莉「まあまあ♪はい、ネギ、切り終わったわ」

曜「ありがとう。おおっ、上手だね!」

鞠莉「曜に比べたらまだまだだし、ご指導があればこそよ」

曜「いやいや、均等に切るって案外難しいから、鞠莉ちゃんの頑張りのおかげだって!」

鞠莉「もう、すぐそうやって人をその気にさせようとするんだから。曜のおだて上手」

曜「鞠莉ちゃんほどじゃありませんーってね。さて、こっちも一枚焼き終わったよ」

13: (らっかせい) 2020/08/08(土) 21:05:33.02 ID:a4b9OaMH
鞠莉「わ、丸くて薄くてクレープの生地みたい」

曜「もう何枚か焼いて、重ねてカットすれば完成だよ」

鞠莉「錦糸卵ってこうやって作ってたんだ。繊細な作業だけど、曜がやると簡単そうに見えるから不思議だわ」

曜「前はよく失敗して炒り卵にしちゃってたけどね。炒り卵でも麺類に合うから、いざというときのリカバリーもバッチリだよ」

鞠莉「なるほど。いわゆる『諦めたら、そこでスクランブルエッグだよ…?』ってやつね」

曜「安西先生みたいな言い方しないの。っていうか、相変わらず観てるんだね、YouTubeのお料理チャンネル」

鞠莉「元ネタがわかるってことは、曜もでしょ」

14: (らっかせい) 2020/08/08(土) 21:07:01.34 ID:a4b9OaMH
曜「面白いし、観てると料理が楽しくなるからね。ほい、錦糸卵完成」

鞠莉「すごいわ、まるでミルフィーユみたいに綺麗じゃない」

曜「ミルフィーユか。へへ、考えてもみなかった。じゃあ、次はいよいよそうめんを茹でていくよ」

鞠莉「本日のハイライトね!」

曜「フライパンで沸騰したお湯の中に、そうめんの束を――鞠莉ちゃん、お願いします」

鞠莉「こほん。ヒドゥン・シャドウ・スネーク・ハンズ!」

15: (らっかせい) 2020/08/08(土) 21:08:58.73 ID:a4b9OaMH
曜「決まったね!はい、その調子であと3束」

鞠莉「えっ、そんなに?」

曜「だいたい2束が一人前って言われてるんだ」

鞠莉「でも、結構量があるように思えるけど、全部入れちゃって大丈夫なの?」

曜「毎回このくらいは作ってるからね。これで足りるかなぁ。ペ口りと食べられちゃうところが、そうめんの怖いところなんだよ」

鞠莉「ふーむ、作ってみないとわからないものね――はい、入れたわ」

16: (らっかせい) 2020/08/08(土) 21:11:09.48 ID:a4b9OaMH
曜「ありがとう。代わるね」

鞠莉「茹で時間はどのくらい?」

曜「2分くらいかな」

鞠莉「随分と短いのね」

曜「細いからね、火の通りがいいんだよ」

鞠莉「パスタとは大違いだわ。茹でるのにフライパンを使ってるのはどうして?」

曜「単純に大きいからっていうのもあるけど、一番の理由は吹きこぼれにくいからなんだ。どんな種類の麺を茹でるときにも使えるテクニックだよ、もちろんパスタにもね」

17: (らっかせい) 2020/08/08(土) 21:13:05.70 ID:a4b9OaMH
鞠莉「そんな効果があったなんて。ご家庭の知恵は驚くことばかりだわ。他になにか手伝うことある?」

曜「んー、今のところは特に。もうすぐ茹で終わるし」

鞠莉「でも、見てるだけっていうのも…あっ、じゃあ、曜を応援するっていうのはどうかしら」

曜「へ?」

鞠莉「暑い中、台所でお鍋と向き合う曜を応援するの。正確にはフライパンだけど。こう、気持ちを込めてぎゅぎゅってね」

曜「こーら、ハグで余計に暑くしてどうするの」

18: (らっかせい) 2020/08/08(土) 21:15:10.15 ID:a4b9OaMH
鞠莉「あ、照れてる照れてる」

曜「て、照れてないよ」

鞠莉「うりうり~」

曜「わわっ…!ほ、ほら、もう湯切りしなきゃだから」

鞠莉「はいはい、そういうことにしておきます」

曜「もうっ…じゃあ、まずは湯切り用のざるをシンクに置いて、と」

鞠莉「ここに、茹でたそうめんを流し込めばいいのね」

曜「そうだけど、直接シンクに熱湯を流すと危ないから、蛇口から水を流しながらやっていくんだ。こうやって、っと」

鞠莉「きゃっ、熱気が一気に立ち上って…!」

曜「茹で汁の量も多いから、火傷に気をつけながら、少しずつ流し入れて…ふぅ、できたっ」

19: (らっかせい) 2020/08/08(土) 21:17:27.94 ID:a4b9OaMH
鞠莉「お疲れ様。重くて熱いから大変だったでしょう」

曜「なんとかね。でも、一番大事なのはここからだよ。湯切りしたそうめんを、すばやく流水で揉み洗いしていくんだ」

鞠莉「それはどうして?」

曜「表面のぬめりを取るのと、コシを出すためだね」

鞠莉「腰?」

曜「そっちじゃなくて、麺のコシ。茹でた直後は麺の中に熱が残ってるから、そのままだと火が通り過ぎて、弾力がないふにゃふにゃ状態になっちゃう。だから、冷たい水でしっかりと麺を引き締めて、コシを出してあげる必要があるんだ」

20: (らっかせい) 2020/08/08(土) 21:19:23.44 ID:a4b9OaMH
鞠莉「なるほどねぇ。ぎゅっと」

曜「だ、だから、なんで腰に手を回すのさ」

鞠莉「曜の引き締まった腰を堪能しようかなって」

曜「コシ違いだってば」

鞠莉「嫌ならしないけど」

曜「…いじわる」

鞠莉「素直でよろしい」

曜「ん…」

21: (らっかせい) 2020/08/08(土) 21:21:26.65 ID:a4b9OaMH
鞠莉「手、冷たくない?」

曜「大丈夫。暑かったから気持ちいいくらい」

鞠莉「そう、ふふっ。名残惜しいけど、そろそろ仕上げに取り掛かりましょうか」

曜「そうだね。ざるを振って水気をよく切ったら、後は麺と具材を盛り付けて、薬味を添えれば――はいっ、そうめんの完成だよ!」

鞠莉「わあ、綺麗!透明なお皿が涼しげね」

曜「これぞザ・夏!って感じだよね。さ、テーブルに持って行って早く食べよう!」

鞠莉「ええ、楽しみだわ」

曜「あっ、麦茶麦茶」

鞠莉「持っていくから、先に座っててー」

22: (らっかせい) 2020/08/08(土) 21:23:15.07 ID:a4b9OaMH
……………………………………

鞠莉「それでは、今日も曜の頑張りに感謝しつつ」

曜「鞠莉ちゃんの頑張りにも感謝しつつ」

ようまり「いただきまーす」

曜「さあ、念願のそうめん、つるつるっといっちゃってよ」

鞠莉「じゃあ、まずはネギを入れてっと。んっ…!」

曜「どうかな?」

鞠莉「んーっ、おいっしいー!」

23: (らっかせい) 2020/08/08(土) 21:24:50.42 ID:a4b9OaMH
曜「気に入ってくれた?」

鞠莉「それはもう!めんつゆがとってもいいお味で、出汁の豊かな香りが広がって。冷たい麺の食感と喉越しが最っ高!」

曜「よかった!」

鞠莉「錦糸卵も本当に美味しい。これだけでも一つの料理みたいだけど、めんつゆとマッチして絶品だわ」

曜「そのままはもちろん、しょうがでさっぱり食べるもよし、刻み海苔を散らすもよし」

鞠莉「味変するといくらでも食べれちゃいそう。この美味しさ、まさにジェネレーション!」

曜「いよいよ夏本番だから、なおさら美味しく感じるよね」

鞠莉「ああ、幸せの味がする。心からそう思うわ。本当に、いつもありがとう」

曜「こちらこそ、鞠莉ちゃんに喜んで食べてもらえると作り甲斐があるよー」

24: (らっかせい) 2020/08/08(土) 21:28:38.04 ID:a4b9OaMH
鞠莉「夏、かぁ」

曜「ん?」

鞠莉「さっきも言ったけど、私の記憶にある日本の夏って、こうだったなって…思い起こさせてくれた、曜と美味しいそうめんに感謝だわ」

曜「その想い出を作ってくれた、果南ちゃんとダイヤさんにも、だよ」

鞠莉「そうね、そのとおりだわ」

鞠莉(本当に、どれも忘れがたい出来事で…そして――)

曜「んんっ、美味しいね!」

鞠莉(今この時も、きっと)

25: (らっかせい) 2020/08/08(土) 21:30:40.83 ID:a4b9OaMH
曜「夏って言えばさ。夏が終わる前にさ、みんなで流しそうめんとかできたらいいよね」

鞠莉「いいわね。きっと盛り上がること間違いなし!私が流し担当するから、曜は茹で担当、よろしくね?」

曜「えー、私も流し担当したいよー」

鞠莉「なら交代制ね。曜に手ほどきを受けた、麺の茹で方を披露したいし」

曜「えへへっ、夏の想い出増やしちゃおう!あ、とかわーわー言ってる間に」

鞠莉「そうめんがなくなっちゃった。あんなに山盛りだったのに」

26: (らっかせい) 2020/08/08(土) 21:31:58.49 ID:a4b9OaMH
曜「これがそうめんの怖いところなんだよ。つるつるっと食べられちゃう。夏の不思議だよね」

鞠莉「そうね…ね、曜?」

曜「鞠莉ちゃん、私たちきっと同じこと考えてるよ」

鞠莉「じゃあ」

曜「うん、お代わりを茹でちゃおう!1束、いや、ここは2束だね!」

27: (らっかせい) 2020/08/08(土) 21:33:32.13 ID:a4b9OaMH
鞠莉「今度は私が茹で担当をやるわね」

曜「抜け駆けはだーめ。一緒にやろうよ」

鞠莉「ふふっ、そうね」

曜ママ「ただいまー」

曜「あっ、ママが帰ってきた!」

鞠莉「なら、さらに2束追加デース!」

28: (らっかせい) 2020/08/08(土) 21:35:39.99 ID:a4b9OaMH
……………………………………

◆後日、渡辺家――

曜「たっだいまー!」

曜ママ「お帰り。あら、それは?」

曜「鞠莉ちゃんがね、そうめんくれたんだ!」

曜ママ「そうめん?」

曜「うん!この前たくさんご馳走になったから、って!」

曜ママ「あらあら、そんな気を遣わなくてもいいのに」

29: (らっかせい) 2020/08/08(土) 21:36:30.23 ID:a4b9OaMH
曜「結構量があるみたい。重かったし、箱に入ってるそうめんって初めてかも」

曜ママ「それはそれは…ん、箱入りなの?」

曜「包装されてるけど、見た感じは木箱みたい。こんなそうめんがあるんだね」

曜ママ「木箱ってもしかして…ねえ、ちょっと見せて。っ!こ、これは…!」

曜「凄いよね、つゆもセットになってるんだって。でも鞠莉ちゃんは『曜が作ったつゆの美味しさには、きっとかなわない』ってさ。えへへっ、本当に鞠莉ちゃんってその気にさせる褒め上手で――あれっ?」

曜ママ「…」

30: (らっかせい) 2020/08/08(土) 21:38:28.32 ID:a4b9OaMH
曜「ママ、さっきからじっと見てるけど、どうしたの?」

曜ママ「そ、それはそうよ…そうめんはそうめんでも、普通のとは全然違うんだから…」

曜「へっ?どういうこと?」

曜ママ「このブランドはセレブ御用達。品質もお値段も桁違いの、超高級品…」

曜「つ、つまり…?」

曜ママ「ものすっっっごい高いってことよ…それこそ、うちで食べてるそうめんがきっと、何年分も買えちゃうくらいに…!」

曜「え、ええー!?」



終わり

31: (らっかせい) 2020/08/08(土) 21:39:41.65 ID:a4b9OaMH
全弾撃ち尽くしました。夏本番のそうめんようまりでした。

↓のお料理ようまりの続きです。

鞠莉「からさいっぱい、元気いっぱい」
https://fate.2ch.net/test/read.cgi/lovelive/1585483911/

↓は前に書いたものです。よろしければ併せてお願いします。

曜「日付が変わったその後に」
https://fate.2ch.net/test/read.cgi/lovelive/1596103154/

ありがとうございました。

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引用元: https://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1596887119/

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