【SS】“のぞことまき”希「夏と言えば」ことり「海?」

SS


1: 2016/08/19(金) 18:40:32.74 ID:cTil/N/M.net



「うーん…」ポチポチ

「どれがいいのかなぁ」ポチポチ


この頃、毎日のようにパソコンに向かっているんよ。

きっかけはなんてことは無い、

「今まで使ってたビデオカメラも古くなったし、もっと良いカメラで思い出を残したい!」

そんなことを急に思い付いてね。ネット通販で色んなビデオカメラを探してたん。

2: 2016/08/19(金) 18:41:40.89 ID:cTil/N/M.net
この頃…と言っても一週間経ってなかったと思う。

四日、五日と毎晩パソコンに向かって探しているうちに、こんなに優柔不断でどうするんって思って。

それまでは新品のものしか見てなかったんやけど、色んなサイトの中古品なんかも見てみることにしたんよ。

そしたらすぐに見つかった。

映像の鮮明さと遠距離撮影を売りにしてる商品でね。

中古なんやけど、写真を見る限り新品同様で値段も新品より半分以下。半ば投げ売りみたいな感じで、こんなん買うしかないやん、ってウチは迷わず購入ボタンを押した。

3: 2016/08/19(金) 18:44:17.32 ID:cTil/N/M.net
それから三日後かな。

ピンポーン、ってチャイムが鳴って、「あ、届いた」ってすぐにわかった。

玄関先に出てみると案の定宅配便で、サインと交換で渡されたのは大きめのダンボール。

手くらいの大きさのビデオカメラにえらい仰々しい包装やなぁとも思ったけど、まあ電化製品なんやから、このくらいが普通なのかなって、特に気にも止めず部屋に戻って早速包装を開いてみたんよ。

まず目に入ったのが溢れんばかりの緩衝材。

緩衝材っていっても、あのプチプチじゃなくて発泡スチロールの塊みたいなやつで、残念やったなぁ。

4: 2016/08/19(金) 18:45:23.16 ID:cTil/N/M.net
その中からビデオカメラ…と、

「なんやろこれ」

付属品らしいレンズ。ネットで見た写真には写ってなかったから、最初はわからんかった。

調べてみるとコンバージョンレンズっていうレンズで、まあ簡単に言っちゃえば遠くが見られるようになるレンズ。

手違いかなとも思ったけど、わざわざ送り主に連絡するのも面倒やったし、オマケでもしてくれたんやろ、ってポジティブに解釈をすることにしたん。

5: 2016/08/19(金) 18:46:08.02 ID:cTil/N/M.net
その後は当然、じゃあ撮ってみよう!ってことになった。

晩御飯とお風呂を済ませてから、再びビデオカメラを取り出したんよ。

違う製品と言ってもビデオカメラなんてだいたい同じ操作方法やし、電源を入れる。

少しの機械音。すぐに画面が表示された。

まず撮ったのが、部屋の中…なんだけど。画面越しとは言え、いつも見ている部屋の中。

まあすぐに飽きちゃって。

なんか良い場所ないかなーって考えたんやけど、

ベランダから外の景色なんて撮ってみたらどうかなって。

6: 2016/08/19(金) 18:47:18.91 ID:cTil/N/M.net
ウチってマンション、それも少し高いところに住んでたから、ベランダから街の様子が見渡せるんよ。

外はもうすっかり暗くなってたけど、街の明かりが夜景としては綺麗で、我ながら良い案だななんて思ってた。

「うぅ…寒っ…」

季節はすっかり冬。ベランダに続く窓を開くと身体を芯から凍らすような風が部屋の中に吹き抜ける。

半ば反射的に窓を閉めたウチはタンスからカーディガンを取り出して、羽織りながら再びベランダへと向かった。

「やっぱり寒い…」

なんて口には出したものの、モコモコのカーディガンの効果は絶大。大分寒さは緩和されてた。

7: 2016/08/19(金) 18:48:25.23 ID:cTil/N/M.net
はぁ、と白い息が浮かんでは消えるのを横目に、ウチは空を見上げた。が、すぐに我に返ってビデオカメラの電源を入れてレンズを外へと向ける。

「さすが、鮮明さを売りにしてるだけはあるなぁ」

画面越しに見える夜景は、肉眼のそれと変わらず、キラキラとした景色を映し出していた。

「あ、録画録画…っと」

録画ボタンを押すと画面端に録画マークが表示される。

まったく、録画を忘れてたなんてうっかり屋さんやんな♪

8: 2016/08/19(金) 18:51:28.51 ID:cTil/N/M.net
それから数分くらいは、ただぼうっと景色を撮ってた。

そこでふと、レンズのことを思い出したんよ。


レンズを取りに行って取り付けて、少しだけ本物のカメラマンが使うようなカメラになったように見えて気分が高揚してな。

そこから更に景色を撮った。このビデオカメラがまたすごいもんで。

元々値の張るビデオカメラなのに加えて、倍率を上げるレンズ。もう肉眼じゃ豆粒のようなものでも画面で見ることができた。

あんなところにあんなものがあったんだ。とか、あの車はどこに向かってるんやろうな、なんて思いながら撮ってるとな、突然、携帯が鳴ったんよ。

9: 2016/08/19(金) 18:52:22.57 ID:cTil/N/M.net
ポケットから取り出して画面を見ると、電話主は凛ちゃん。

なんだろう、と通話ボタンを押すと凛ちゃんの元気な声が聞こえてきた。

『もしもし? 希ちゃーん!』

「はいはい、どうしたん?」


通話時間はほんの五分程度やったと思う。

その間、ビデオカメラは録画モードのままで、ベランダの柵に手をかけてたから、レンズは景色の一つの場所を録画し続けていた。

10: 2016/08/19(金) 18:53:00.63 ID:cTil/N/M.net
『それじゃあまた明日!』

「うん、おやすみ」

凛ちゃんの話が終わって電話を切ったウチは、そこでようやく録画し続けてたことに気付いてな。

もうずいぶん身体も冷えてたし、試し撮りはこのくらいにして部屋に戻ったんよ。

もう良い時間だったし、このまま寝ても良かったんやけど、どうせなら今撮った映像をテレビで見てみようって。

すぐにテレビに接続して、撮った映像を再生した。

11: 2016/08/19(金) 18:53:32.83 ID:cTil/N/M.net
最初は部屋の中。でも、すぐに飽きたようで、何分もしないうちに画面は次の映像へと切り替わった。

映し出されたのはベランダから見た夜景。

やっぱりテレビで見るのはビデオカメラの小さな画面で見るのとはひと味違って。

とーっても綺麗に見えてな。

μ'sのみんなとの思い出もこのくらい綺麗に撮れるのか、なんて気が早いかもしれんけど浮かれてたんよ。

12: 2016/08/19(金) 18:57:24.68 ID:cTil/N/M.net
そこから少し経つとまた画面が切り替わって、今度もまたベランダからの夜景を映し出した。

ただ、さっきと違ったのは遠くの景色まで撮っていること。それもくっきりと。

この切り替わりはレンズを取りに行ったときのものか、ってすぐに納得して、また画面に集中した。

高倍率で、あの車がどこに向かってるんだろうってカメラで追いかけてたり、普段見慣れない道がどこに繋がっているんだろうってカメラを進めてみたり、画面越しでもわかるくらいウキウキしながら撮っている自分がなんだか恥ずかしくなってきちゃって。

そろそろ終わりにしようかな、って思った矢先に着信音が鳴り響いた。

14: 2016/08/19(金) 18:59:29.35 ID:cTil/N/M.net
公園の端のちょうど街頭がある辺りでな。そこまで暗くはなかったんやけど、街頭の下に人が立ってるだけで、何かあるわけでもないし、電話が終わった後は終わりにしたはずだから、もう何も観るものはないだろう、って。テレビを消そうとしたんよ。

でな、そこですごい違和感。

あれ?


街頭の下に立ってる女の人。



こっち見てない?

15: 2016/08/19(金) 19:02:54.53 ID:cTil/N/M.net
まあ、ここからかなり遠くの公園だし、そもそもマンションの上の方なんてこの暗さじゃ見えるはずもない。

気の所為、とはわかっているんやけど、なかなか画面を切ることができないでいた。

そのうちなんだか気持ち悪くなってきてな。

何度見ても、やっぱりこっちを見ているし。

女の人、髪はボサボサでトレンチコート着てたから、こんな夜にあんな場所で何してるんやろ。

なぜかこっちを見ながらニコニコ、ニコニコしてるから、何か楽しいことでもしてるんじゃないか。

このまま見続けたら、それがわかるかもしれないと思って、気持ち悪いのを我慢して見続けることにした。

16: 2016/08/19(金) 19:04:33.32 ID:cTil/N/M.net
そしたら、凛ちゃんとの電話も半分くらい過ぎた頃、女の動きに変化があった。

ニコニコしながら、うちに向かって手を振り始めたんよ。

もしかしたら、画面外に女の知り合いがいたのかな、なんて思ったりもしたけど、やっぱり女はウチの方を真っ直ぐ見つめている。

でな、女は口を開いて何か喋ったかと思うと、笑顔を貼り付けたまま、ウチのマンションの方に走り出したん。

女か画面外に出ていく寸前、ビデオカメラの倍率が低くなって。

また女が画面外に出ていこうとすると、ビデオカメラの倍率が低くなる。

まるで女を捕捉しているみたいにな。

女は確かにウチの方へ走ってきていた。

もちろんすっごい焦ったよ。えっ!?って。

でも、そこで凛ちゃんとの会話が終わったみたいで、画面はブラックアウト。

17: 2016/08/19(金) 19:05:21.72 ID:cTil/N/M.net
どうなったん?


女は?


階数までわかる?


いやいや、全部気の所為やったんやろ。


色んな疑問を、気の所為の一言で片付けた。

「あ、あはは、もう寝るか!」


誰が聞いているわけでもなく、無理矢理笑って不安をごまかして。

19: 2016/08/19(金) 19:06:01.24 ID:cTil/N/M.net
褒められたことじゃないけど、ビデオカメラも片付けないまま、寝室に行こうとしたんよ。

そしたらな。


ピンポーン


嫌な汗が流れた。


ピンポーン


こんな時間に訪問者なんて来るはずもない。

けれど、部屋の電気が付いているから、ウチが起きている事は訪問者にはわかっているだろう。

20: 2016/08/19(金) 19:06:57.93 ID:cTil/N/M.net
「はぁい?」


もしかしたら杞憂かも。そう思って返事をしたん。声は確実に震えてたけどな。


『宅配便でェース』


扉の先から聞こえてきたのはそんな言葉。普通の女の声やった。

でも、ここで声の主が宅配業者だなんてお花畑な頭はしてない。

ウチは恐る恐るドアスコープから扉の先を覗いてみたんよ。

21: 2016/08/19(金) 19:08:52.00 ID:cTil/N/M.net
見えたのは、ボサボサの髪、トレンチコート。さっき画面で見た通りの女だった。

相変わらず、ニコニコ、ニコニコとしながら、ウチが扉を開くのを待っている。

でもウチ、恥ずかしい話、女を見た瞬間から固まっちゃって、扉を開けることも腰を抜かすことをできずに扉に張り付いてたん。

それで、ウチが扉を開ける様子がないことがわかったのか、ドアノブをガチャガチャ、扉を何度も叩き始めたんよ。

何が一番怖かったかって、扉を叩いてるときでも笑顔を絶やさなかったことやなぁ。

まあ、そこでようやく我に返ってな。

逃げるようにベッドで毛布くるまってガタガタ震えてた。


その後?

気付いたら朝でな。女もいなくなってたから。少し怖かったけど忘れることにしたんよ。

22: 2016/08/19(金) 19:09:54.18 ID:cTil/N/M.net



ことり「へ、へえ~」ガタガタ

真姫「ま、まあそんなに怖くないわね」ガタガタ

希「あはは」


のぞことまき「………………」


希「わっ!」

ことり「ひゃぅ!?」ビクッ

真姫「ブフッ」

23: 2016/08/19(金) 19:11:44.62 ID:cTil/N/M.net
ことり「ちょっと希ちゃん!」

希「ごめんごめん」


真姫「そ、それで希…」

希「ん?」

真姫「その女の人ってそれからは見てないの…?」

希「………………」

真姫「…?」

24: 2016/08/19(金) 19:12:27.54 ID:cTil/N/M.net
希「プッ」

希「あはははは」


真姫「な、何よ!」


希「いやぁ、だって面白いくらい怖がってるから」ププッ

真姫「怖くないけど? まあ心配だし、一応ね」クルクル

25: 2016/08/19(金) 19:14:26.67 ID:cTil/N/M.net
希「創作なんよ。この話」

真姫「は?」

希「いやだから作り話」

真姫「」


真姫「」カァ///

真姫「もうっ! 本当に心配したんだから!」

希「あはは、ごめんな」

26: 2016/08/19(金) 19:15:48.58 ID:cTil/N/M.net
真姫「ビデオカメラ買ったからってそんな話してると本当に怖い目に会うわよ」

希「え?」

真姫「どうしたの?」

希「ビデオカメラ買ったって話は創作やって」

真姫「でも、入った時玄関にあったけど? ビデオカメラ」

ことり「うん、高そうなカメラがあったよ」

27: 2016/08/19(金) 19:16:23.23 ID:cTil/N/M.net
希「………………」ダッ



真姫「ね? あったでしょ?」

希「送り返したはずなのに…」ボソッ

ことり・真姫「え?」

希「い、いや、なんでもないんよ」


希「…とりあえず、今日は二人とも泊まっていくやんな?」

真姫「ずいぶん唐突ね」

ことり「良いけど電話貸してね」

希「もちろんええよ」

28: 2016/08/19(金) 19:18:09.04 ID:cTil/N/M.net



希「お待たせ~」ガチャ


ことり「これで三人ともお風呂にも入ったし、夕飯も食べたし」

真姫「朝まで終わらないパーティね!」

希「いや時間が来たら寝るけど…」


ことり「何するの?」

30: 2016/08/19(金) 19:18:32.29 ID:cTil/N/M.net
希「たまには普通にお喋りでいいんやない?」

真姫「じゃあ怪談なんてどうかしら?」

希「怪談?」

真姫「さっきの希の話の意趣返しに、ね」ニヤリ

ことり「ことりも賛成ですっ」ニヤリ

希「二人とも、怪談話なんてできたんやね」

31: 2016/08/19(金) 19:19:03.39 ID:cTil/N/M.net
ことり「ことりのは実体験というか…」

真姫「私もそんな感じ」

希「えっ!?」

希「そ、そうそう心霊現象なんて起きるものじゃないと思うけど…」

真姫「確かに、テレビを見てると芸能人になるには心霊体験にあわないといけないってくらい芸能人は誰でも心霊体験を経験してるわよね」

32: 2016/08/19(金) 19:19:46.35 ID:cTil/N/M.net
希「ま、まあ仕事やから、ある程度の脚色はね…?」

真姫「私は本当にあった話らしいわよ」

希「らしい、なんだ…」フフッ


ことり「じゃあ最初はことりから話させてもらいますっ♪」

真姫「もう少し怪談話っぽく話しなさいよ」

ことり「うん……わかりました」


ことり「二人は、今から学校の忘れ物を取ってきてってお願いしたら取ってきてくれる?」

33: 2016/08/19(金) 19:20:21.16 ID:cTil/N/M.net



えへへ、やっぱり嫌だよね。

でも考えたことない?

例えば、穂乃果ちゃんみたいにいつもってわけじゃないけど、宿題を好きに写させてもらえる友達とか、テストを変わりにやってくれる友達いないかなーって。

果てには欲しいものを盗んできてもらったり、ストレスを発散させてくれる友達。

あはは、冗談だって。二人とも怖い顔しないでくださいっ。

さすがにそこまで行き過ぎたことを頼む人はいないけど、欲しいと思ったことはあるんじゃないかな。

34: 2016/08/19(金) 19:20:48.73 ID:cTil/N/M.net
ほら、二人の周りにもいない?

頼みごとをされると断れない友達。

穂乃果ちゃんにとっての海未ちゃんとかね。


ことりはたまに、「お願いっ」って言うでしょ?

海未ちゃんからは断れない、なんて言われるけど、ことりは断れないお願いをする人よりも、どんなお願いでも進んでやろうとする人の方がずーっと怖いです。

35: 2016/08/19(金) 19:21:53.29 ID:cTil/N/M.net
『お願いを聞く少女』


これは小学生の頃の話なんだけどね。

この頃も今と変わらず、いつも穂乃果ちゃんと海未ちゃんと一緒に遊んでたの。

でも今と一つ違うのは、もう一人いたんだ。一緒に遊ぶ友達。

え? じゃあ今その子はどうしたのか?

話の冒頭からいきなりクライマックスに行ったら怖くないでしょ! 真姫ちゃん!

もう怪談の途中で横槍入れないでね。

37: 2016/08/19(金) 19:30:35.37 ID:cTil/N/M.net
えっと、その子は同じ年の女の子だったんだけど、仮に名前をAちゃんって呼ばせてもらうね。

それで、小学生の頃は、ことりと穂乃果ちゃんと海未ちゃん、それにAちゃんを入れた四人でいつも遊んでたの。

それこそ、ことりと穂乃果ちゃんと海未ちゃん+Aちゃんじゃなくて、ことりと穂乃果ちゃんと海未ちゃんとAちゃん! ってくらい仲が良かったです。

綺麗な長髪で、いっつもニコニコ、ニコニコ笑っててね。怒ったところも泣いたところも驚いたところも一度も見たことなかったなぁ。

喜怒哀楽のうち、喜しか持っていないんじゃないかってくらい。

38: 2016/08/19(金) 19:34:38.29 ID:cTil/N/M.net
でね、そんなAちゃんなんだけど、一つだけおかしなところがあったんです。



それはね…聞いてくれるの。

どんなお願いをしても絶対に。


穂乃果ちゃんが宿題の答えを写させてーって言っても、ニコニコしながら「いいよー」って。

海未ちゃんが、鬼ごっこの鬼を変わってくださいって言ったときも、ニコニコしながら「わかった」って。

39: 2016/08/19(金) 19:35:36.93 ID:cTil/N/M.net
ことりも、その子には面と向かって二回しかお願いしなかったんだけど、その一回目っていうのがね、ある時、調理実習の卵を忘れちゃったときがあったんだ。

どうしよう…って困っているところに、ちょうどAちゃんが目に入って…一回だけならってお願いすることにしたの。

罪悪感もあったんだけど…Aちゃんの前に行って、「卵ちょうだい」って言うと、「はい」って。やっぱりいつものニコニコ顔でそう言ったんです。


ふふ、今こうやって話してみると子供っぽいお願いばかりだよね。

これだけなら、ただAちゃんがみんなより大人だったってだけの話なんだけど…。

この話には続きがあるの。

40: 2016/08/19(金) 19:39:06.69 ID:cTil/N/M.net
Aちゃんにお願いするのは、ことりたちだけじゃなくてね。その中には男子だったり、Aちゃんの噂が広まってからは上級生が教室に来たこともあったよ。

でね、ある日。いつものように四人で公園で遊んでたんだけど、なにやら滑り台を挟んだ先の方が騒がしくって、穂乃果ちゃんが様子を見に行こうって言い出したの。

海未ちゃんはあんまり乗り気じゃなかったんだけど、中立派だったことりとAちゃんを無理矢理仲間に引き入れて、その後に海未ちゃんが折れてね、結局四人で見に行くことになったんだ。

あ、そういえばあの時も穂乃果ちゃん、Aちゃんに一緒に見に行ってってお願いしてたっけ。

41: 2016/08/19(金) 19:40:34.23 ID:cTil/N/M.net
滑り台の先、砂場の方に進んでいくと、そこには大泣きした男の子がいてね。

まず穂乃果ちゃんがどうしたのっ!? って事情を聞いたんだ。

その子の名前をB君とします。

話もうろ覚えだし、そもそも小学生が泣きながら話したこと。今思い出すとすごく支離滅裂なことを言ってたんだけど…。

でも、四人とも、そのB君と一緒にいた友達と喧嘩したんだってことだけは理解できたんだ。

その友達はC君なんて…安直でごめんね。

42: 2016/08/19(金) 19:44:11.37 ID:cTil/N/M.net
学年はことりたちの方が一つ上だったこともあって、その男の子をなだめてたんだけど、男の子が落ち着いた頃、Aちゃんを見て言ったの。


「お願いを聞いてくれるお姉さん?」


って。

その噂は学校中に知れ渡ってたから、その男の子も知ってたんだろうね。

Aちゃんも、そんな男の子の言葉に


「うん、そうだよ」


って。

43: 2016/08/19(金) 19:45:40.07 ID:cTil/N/M.net
そこから男の子が黙り込んじゃって。

穂乃果ちゃんや海未ちゃんが呼びかけても無言のまま。

でもね、少し経った頃、突然ボソッと、でも確かに聞こえる声で言ったんだ。


「Cを〇して」


ことりたちは驚いたというか、反応できなかったよ。

突然、〇してなんて言うんだから。

44: 2016/08/19(金) 19:47:21.68 ID:cTil/N/M.net
でも、むしろ小学生の頃の方がそういう言葉を覚えたてで簡単に使っちゃうんだよね。

その男の子も、本当に〇してほしいとは思わなかったはず。

ただ、そのときは怒りを言葉でしか表現出来なかったんじゃないかな。


そんなこともわからない小学生のことりたちはみんな固まってた。

ただ一人を除いて。


Aちゃんだけは、いつもと変わらぬニコニコ顔で、「わかった」って言ったんだ。

45: 2016/08/19(金) 19:48:06.16 ID:cTil/N/M.net
そのときの、頬をひきつらせた穂乃果ちゃんが「ま、またまたー」って言ったがとっても印象的だったな。

Aちゃんは穂乃果の言葉を聞いた後も一切表情を崩さなかった。

その後は、なんだか遊ぶ遊ぶ空気じゃなくなっちゃってそのまま解散しました。


もう終わっちゃったことに何を言っても無駄なんだけど。

あの時、ことりがAちゃんにCちゃんを〇さないでってお願いしてたら、今頃違う未来になってたのかな。

46: 2016/08/19(金) 19:49:59.89 ID:cTil/N/M.net
 

そんなことがあった次の日、Aちゃんが休みました。

 

47: 2016/08/19(金) 19:54:51.51 ID:cTil/N/M.net
昨日そんなことがあった次の日のことでしょ?

穂乃果ちゃんも海未ちゃんも…多分ことりも、真っ青になって、C君の教室を聞き出して向かったの。

息を切らして教室の扉を開いた先には、


仲良さそうに遊ぶB君とC君が。


みんな腰が抜けたようにヘナヘナ~って座り込んでたよ。

教室に戻る途中、良かった~、じゃあAちゃんは風邪なのかな? って話したりしてね。

50: 2016/08/19(金) 20:14:15.48 ID:yWVLShWn.net
だから、放課後になって、Aちゃんの家にお見舞いに行こうってことになったんだけど、そこで初めて気付いたの。

誰もAちゃんの家を知らないことに。

おかしな話だよね。

いつも遊ぶのは決まって公園や穂乃果ちゃん、海未ちゃん、ことりの家だったんだから。

まあでも、知らないものはしょうがないって諦めて、明日も休んだら先生に聞きに行くことにして、三人で穂乃果ちゃんの家で遊ぶことにしたの。

薄情って言われたらそれまでだけど、当時は小学生だし、穂乃果ちゃんの家に着く頃にはAちゃんのことなんてすっかり忘れちゃってた。

51: 2016/08/19(金) 20:23:27.99 ID:cTil/N/M.net
その後は絵を描いたり、トランプをしたり、夢中になって遊んでたんだけど、一時間くらい経った頃。

突然穂乃果ちゃんが飽きたー! って言い始めて、じゃあどうするの? って聞いたら、公園に行こうよ! って。

ことりも海未ちゃんもそれに賛成して公園に向かったんだ。

その日は珍しく、ことりたち以外には誰もいないみたいで、穂乃果ちゃんが貸し切りだー! って叫びながら公園に入っていったのを覚えてます。

ことりたちも穂乃果ちゃんに続いて公園に入って行ったんだけど、入ってすぐに反射的に鼻をつまみました。

風に乗って生臭い、鉄臭い臭いがしたから。

穂乃果ちゃんも海未ちゃんも嗅ぎとったようで、同じく鼻をつまんでた。

52: 2016/08/19(金) 20:23:47.51 ID:cTil/N/M.net
それでも公園を進んでいくと、段々その臭いが強くなっていって、ことりたちが砂場に差し掛かったとき…。


「Aちゃん…?」


思わずそう言ってしまったのを覚えています。


だって、目の前の光景があまりにも非現実的なものだったから。


そこにいたのは『何か』にまたがって、笑顔で包丁を振り下ろし続けるAちゃんでした。

一心不乱に繰り返し振り下ろす包丁からは粘っこい赤の絵の具が糸を引いていて。

53: 2016/08/19(金) 20:24:12.62 ID:cTil/N/M.net
固まっていることりたちに気付いたAちゃんは、ピタッと包丁を止めて、こちらに首を回しました。

そしてその目に光は無くて、ことりたちをじぃーっと見つめてくるの。

ニコニコ、ニコニコと気持ちの悪い笑みを貼り付けながら。


「あはは…」

それを見た海未ちゃんは倒れちゃって。

突然Aちゃんがこっちに歩いてきたの。

54: 2016/08/19(金) 20:24:53.11 ID:cTil/N/M.net
海未ちゃんを心配してだったのかな。それともことりたちに何かするつもりだったのかな。

どんなつもりだったのかなんて、今となってはわかりません。


「ヒッ…!」

でも、隣でそう漏らす穂乃果ちゃんの姿を見て、ことりは叫んだんです。


「消えて!!」


これがことりの二度目の、最後のお願い。

55: 2016/08/19(金) 20:25:47.17 ID:yWVLShWn.net
Aちゃんは、少しだけ寂しそうに「わかった」。そう言って、そこで突然ことりの意識は途切れました。


目が覚めると、そこは自分の部屋。

わけがわからなかったことりは急いで穂乃果ちゃんに電話しました。

「あの後ことりはどうなったの?」、「Aちゃんは?」って。

そしたら穂乃果ちゃん、戸惑いながらこう言ったの。


『Aちゃんって誰?』


Aちゃんなんて子は知らないって。そう答えたんです。

公園でのことを聞いても、公園には行ってない、今日は穂乃果の家で遊んだ後はお開きになったって。

目の前が真っ白になっちゃって。

海未ちゃんにも電話したんだけど、やっぱり穂乃果ちゃんと同じように知らないようでした。

56: 2016/08/19(金) 20:27:59.38 ID:cTil/N/M.net
次の日、学校に行けばAちゃんに会えると思って行ったんだけど、Aちゃんはいなくて。

それどころか、みんなAちゃんのことを忘れていました。

Aちゃんが座ってたはずの机は消えていて、不自然に教室の真ん中がぽっかり空いていているのにも関わらず、誰も不思議がらなかったのが怖かったのを今でも覚えています。


でもそのうち、段々と怖いって感情よりも罪悪感の方が大きくなってきて。


私のせいでAちゃんはいなくなっちゃったんじゃないかな。


もっと別の道があったんじゃないかな。


そうやって子供ながらに、何回も悩みました。

57: 2016/08/19(金) 20:30:03.51 ID:cTil/N/M.net
こんなこと、穂乃果ちゃんや海未ちゃん、お母さんにも相談できません。

言ったらおかしい子だと思われるに決まってる。だから、


あれはことりの見た夢だったんだ。

そう思い込むことにしました。


だってそう思わないとおかしくなりそうだったから。


でも罪悪感からなのかな。

今でも公園の前を通るときには必ず呟くんです。


お願い、また出てきて。


って。

58: 2016/08/19(金) 20:31:24.94 ID:cTil/N/M.net



希・真姫「………………」


ことり「どうでした?」

希「うん…怖かった」

ことり「えへへ」


真姫「それから何も起きてないの? 公園通ったときとか…」

ことり「うん、起きてないよ。何も」

ことり「だから、思い込みじゃなくて本当に夢だったのかもって最近は思うようになりました」

ことり「穂乃果ちゃんも海未ちゃんもやっぱり知らないって言うし」

59: 2016/08/19(金) 20:32:14.62 ID:cTil/N/M.net
真姫「B君とC君は?」

ことり「あれっきり会っていないし会いにも行ってないよ」

ことり「二人の存在も夢だったのかもしれないし」

ことり「もし現実にいて、会っちゃったら、あの頃のことをもっと思い出しちゃいそうだったから」

60: 2016/08/19(金) 20:32:41.75 ID:cTil/N/M.net
希・真姫「………………」

真姫「この話の後って、すごい話しにくいんだけど」

希「思った以上にちゃんと話せてたからなぁ」


真姫「じゃあ…私の番ね」

希「いよっ! 待ってました!」

真姫「ことりみたいに上手く話せるかはわからないけど…まあ始めるわね」


真姫「心霊写真ってあるじゃない?」

63: 2016/08/19(金) 20:49:40.96 ID:yWVLShWn.net



そう、この世の者ではない誰かが移り込んでいたりする写真のこと。

逆に身体の一部分が欠損してたりするのも見るわね。


………………ちょっとことり。

心霊写真なんてみんな合成ですって?

夢がないというか…それを言い始めたらこの話を始められないじゃない。

ああ、もしかしてさっきの仕返しね。

はぁ…やめやめ。脱線したから元に戻すわよ。

64: 2016/08/19(金) 20:52:14.73 ID:yWVLShWn.net
それで…そう、心霊写真の話だったわね。

私が思うに、心霊写真って言うのは、霊感のない人でも霊を見ることのできる方法だと思うの。

だって、心霊写真や心霊映像なんかはみんな見ているのに、本物の幽霊を肉眼で見た人なんて殆どいないでしょ?


でも、なんで写真や映像には映るのかしらね。

デジタルカメラもビデオカメラも、レンズ越しに見てる。つまりレンズ越しに見れば幽霊が見える確率はグッと上がるの?

言われてみれば、マンションのドアスコープなんかもレンズだけど、心霊体験ではドアスコープ越しに霊を見た、なんて話をよく聞く気がするわ。

じゃあやっぱりレンズに何か秘密があるのかしら。

65: 2016/08/19(金) 20:53:26.30 ID:yWVLShWn.net
はたまた、こんな話知ってる?

七人同行っていう七人の一列に並んだ幽霊。

出会ったら必ず不幸になるのだけど、その姿は見えないらしいの。

話に寄ると牛の股から覗いた人は七人同行の姿が見えたんですって。

じゃあもしかして、デジタルカメラ越しやビデオカメラ越し、ドアスコープ越しに霊の姿が見えるのはレンズを隔てているからじゃなくて、除いているから…?

まあこれ以上は証明のしようもないからわからないのだけど…もしかしたら前者と後者の両方かもしれないわね。

66: 2016/08/19(金) 20:54:39.60 ID:cTil/N/M.net
ふふっ、もう安易に覗けなくなった?

良いじゃない。覗く、なんて行為をするときは、だいたいやましいことをしている時なんだから。


ああそうだ。

さっきことりは心霊写真は信じられないって言ったけど、写真の方が見えない真実を映し出していることだってあるのよ?

今回はそんな心霊写真の話をしようと思うわ。

92: 2016/08/20(土) 02:00:07.35 ID:ErTK6YCW.net
『写真にたたずむ女』


これは私が中学生のときに聞いた話。

聞いた話って言うけど、実際に同じ学校の生徒が何人もその心霊現象に会っていたから全くの眉唾物ってわけでもないの。

その話っていうのがね。


あるとき、二人の女子生徒が公園で写真を撮ったらしいわ。

手を前に突き出して、内カメラで二人が画面に入るようにして撮る…今どきの女の子たちがしているような感じね。

そうそう、私がにこちゃんと撮ったみたいな…って今はその話はいいでしょ!

93: 2016/08/20(土) 02:01:09.81 ID:ErTK6YCW.net
はぁ…それで、女子生徒は撮った写真を確認したんだって。

ああ、上手く撮れてる。

最初はそう思ったらしいわ。でも、何かおかしい。

じーっとのぞき込むと、すぐに違和感の正体に気付いた。

二人の女子生徒の背。十メートルくらい先に木が生えているんだけど、その幹から髪がボサボサの女の子が目だけを出してこっちをじぃっと見つめている。

急いで後ろを振り向くんだけど、そこには人っ子一人いない。

そこから段々と恐怖心が芽生えて、連れの女子生徒を引っ張って逃げるように公園を出たらしいわ。

94: 2016/08/20(土) 02:03:08.25 ID:ErTK6YCW.net
次の日、その女子生徒が友達に相談したらしいんだけど、どうやらその相談相手の友達もうっかり他の友達に話しちゃったらしくて。

友達から友達へ。ねずみ算方式であっという間に学校に伝わっていったの。


『写真にたたずむ女』。『写真にしか映らない女』。

噂はどんどん膨らんでいったらしいわ。

たまたま写真をとった時に木の陰にいて、写真の確認中に走り去った、なんてことも考えられたけど、やっぱり中学生ね。

そんなつまらない事実よりも、幽霊が出た! なんて思う方がよほど楽しいみたいだったわ。

95: 2016/08/20(土) 02:09:57.27 ID:oPW/7J8R.net
それから一週間経った頃だったかしら。

もう全校中に知れ渡っていたんだけど、辛うじて先生には伝わっていなかったくらいの頃ね。


実際に撮りに行こうって言い出した生徒が出たの。

その時は、なんだかんだで噂にはなってたけど自分から心霊写真を撮りたいなんて酔狂な生徒もいなくて、まだ噂の域を越えてなかった。

その生徒も所詮噂だと、その馬鹿馬鹿しい噂を否定するために撮りに行くっていう腹づもりだったらしいわ。

その女子生徒は親しい友人を誘って公園へと向かった。


公園に着いた二人は、早速撮影を始めたの。

友人は女子生徒に向かって楽しそうにピースをしたりして、最初は二人とも笑ってた。

だから女子生徒は、軽い気持ちでシャッターを押したらしいわ。

そして写真を確認してみる。幽霊なんていなかったって明日の学校で言ってやるって息巻いてね。

96: 2016/08/20(土) 02:11:48.77 ID:oPW/7J8R.net
パッと見、何も気づかなかったらしいわ。

でもよくよく見ると、友人の後ろの草むらから顔のようなものが見えたの。

女子生徒は、その顔のようなものから距離が遠くてよく見えなかったし、ゴミか何かが撮れてしまったんだと思ったんですって。

でも、これを見せても熱の入った学校の生徒たちはまた幽霊だって騒ぐに決まってる。

今度はちゃんと確認してから撮らなきゃ。そう思って何も幽霊に見間違えるものがないのを確認してから再度シャッターを押した。


女子生徒はすぐに確認したわ。ここまで確認してから撮ったんだから、映ってるはずないって。

97: 2016/08/20(土) 02:13:25.47 ID:oPW/7J8R.net
だけどそこに映っていたのは、


包丁を持った女がこちらに歩いてくる様子だった。


もちろんどこを見てもそんな女なんて見えないの。けれど確かに写真には映っている。

友人が「どう?」なんて聞いてくるのを、恐怖と戦いながら必死に誤魔化してね。

女子生徒は震える手で、最後にもう一度だけシャッターを押した。

そしてそれを見た女子生徒は半狂乱になって公園から逃げ出したらしいわ。

98: 2016/08/20(土) 02:14:39.04 ID:oPW/7J8R.net
次の日、学校にはその写真が出回ったの。

ピースする生徒の隣に満面の笑みを浮かべながら包丁を握ってる女の姿が映ってている写真がね。

そこでとうとう先生の耳にも入ることになって。当然公園での撮影は禁止になった。


どう? 怖かったかしら?


…………なーんてね。終わりだと思った?

ここで終われば良かったのだけど、残念ながらまだこの話は続くわ。

99: 2016/08/20(土) 02:16:19.15 ID:oPW/7J8R.net
その時みんなは中学生で、禁止だなんて言われたら逆にやりたくなるお年頃。

半ば必然的というか、当然のように撮影しに行くって生徒が出た。

その女子生徒をことりに倣ってA子とでも呼びましょうか。


A子は噂の写真を見て、友人のB子とC子を連れて公園に撮りに行った。

友人たちには自分たちも試しに心霊写真を撮ってみようって誘ったらしいのだけど、A子には別に目的があったの。

それはね、


「例の女が被写体の隣に来た後も写真を撮り続けたらどうなるんだろう」

って目的。

もちろん二人には隠してね。

言ってしまえばB子とC子はその目的の為に利用されたって形かしら。

100: 2016/08/20(土) 02:19:09.20 ID:oPW/7J8R.net
最近のビデオカメラは動画だけじゃなくて、写真も撮れるらしいわね。

少しでも鮮明な画像を撮ろうって、家にある安物のデジタルカメラじゃなくて、少し高価なビデオカメラを持って行ったの。

着いて早速二人にポーズを取らせたA子はシャッターを続けて押していく。


一枚目。

茂みからこちらを覗いている人影が映り込む。


二枚目。

こちらに向かって近づいてくる女の姿。


初めて実際に映り込む瞬間を捉えたA子は興奮しながら続ける。


三枚目。

B子の隣にたたずむ包丁を持った女が。


そしてもう一回。


パシャリ…。


写真には何が映っていたのかって?

101: 2016/08/20(土) 02:20:31.65 ID:oPW/7J8R.net
結論から言ってしまえば、女の姿はどこにも映っていなかったそうよ。

でも、その代わりとでもいうように、写真にいるB子の首とC子の右足にまるで包丁で切られたような生々しい傷を残してね。


普通なら撮影ミスだと笑うところなのだけど、実際に写真の女を目の当たりにしたA子は嫌な予感がしたらしいわ。


そしてその予感は悪いことに的中した。

その次の日、C子が右足を骨折する事故が起きたの。廃材が右足に倒れてきたことが原因で。

下手をしたら命に関わるような事故だったのにも関わらず、右足の骨折だけですんだC子に、みんなは危なかったね、なんて言葉を掛けていたらしいけど、A子は気が気じゃなかった。

だってその怪我、写真にあった傷とほとんど同じところにしてたのよ。

102: 2016/08/20(土) 02:21:35.55 ID:oPW/7J8R.net
ここまで言えば後はわかるでしょ。


A子はすぐにB子に連絡をとった。

でも、B子は一日、二日…いつまで経っても登校してこない。それどころか連絡さえ一切つかなくなってしまった。


ビデオカメラの写真を全部消して、ビデオカメラ自体も処分したけど、時は既に遅し。

B子が学校に来なくなってから一週間が経った日、そんな状況に怯えるA子に、どこかから話を聞いてきた親が伝えたらしいわ。


朝、なかなか起きてこないB子を見に行った母親が、部屋で首を吊っているB子の姿を見つけたらしいって。

103: 2016/08/20(土) 02:23:02.44 ID:oPW/7J8R.net



希・ことり「………………」


真姫「まあ、クラスメートが休み時間に話しているのを話半分に聞いていただけだから、その公園がどこにあるのかまではわからないけど」

ことり「本当ならすごい話だね」

真姫「まだ疑ってるの?」

真姫「この話、学校に自〇者が出たってかなり話題になったから調べればすぐに見つかると思うわ」

真姫「私もあの頃は馬鹿馬鹿しいなんて思ってたけど、その事件が起きた時は流石に笑えなかったわね」

ことり「思い浮かぶなぁ。中学生の頃から大人びた真姫ちゃん」

ことり「初めて噂を聞いた時は、そんな噂、デマに決まってるでっしょーって」

真姫「」イラッ

104: 2016/08/20(土) 02:23:49.77 ID:oPW/7J8R.net
希「(二人ともなかなかやるなぁ)」


希「じゃあ次は今日の大本命…」

希「ウチがとっておきの怪談を披露するでー!」


アレハ…

………………

キャーキャー!

…………

……

105: 2016/08/20(土) 02:28:17.85 ID:oPW/7J8R.net
☆真姫視点☆


「んっ…」


いつの間に寝ちゃってたのかしら。

確か…三人とも二回目の怪談話を終えて、今度はμ'sのみんなで百物語をしようって話になったんだわ。


電気もつけっぱなしで…。

希の話からどんどんヒートアップして、疲れるほど叫んだりしてたのが完全に原因よね。


なんだか妙に目が覚めちゃったし、ベランダへ風にあたりにでも行こうかしら。



「ふぅ…」

ベランダから見下ろす景色は、時間も時間だっていうのに、相変わらずキラキラとたくさんの光で輝いてる。

106: 2016/08/20(土) 02:30:21.35 ID:oPW/7J8R.net
たまにはこうやって夜景を眺めるのも悪くないわね。


ゴリッ


そんなことを思っていると、足に何かを踏んだ感触が伝わってきた。


「何かしら」


足元は真っ暗で全く見えない。しゃがみこんだ私は感触があった辺りで手を動かす。

すぐに何かが手に当たった。拾い上げると夜景から届く光に当たって、徐々にその輪郭をはっきりと映し出していく。


踏みつけていたのは、ビデオカメラだった。



………まずいわね。こんなに冷えているのに嫌な汗が止まらないわ。

107: 2016/08/20(土) 02:32:05.53 ID:oPW/7J8R.net
多分、私がちゃんと謝れば希は許してくれる。……悲しそうに。

かといって、ただ私が弁償すれば解決するという話でもないし。


まあ、まだ壊れたと決まったわけじゃないし、とりあえず電源を入れてみましょう。


電源ボタンを押すと、そんな心配も杞憂だったらしく、問題なく電源が入って私は胸をなでおろした。

画面にはきらびやかな夜景が映し出されている。


せっかく電源を入れたんだから、この景色を撮って後で二人に見せてあげようかしら。

でも、希はここからの景色も見慣れてるわよね。

108: 2016/08/20(土) 02:33:36.61 ID:oPW/7J8R.net
そんなことを思いながらカメラの視線を移動させた先に…それはいた。

ここから少し歩いた公園の街頭の下。

一人の女が手に懐中電灯を持って、こちらに背を向けてポツンと立っている。


まずい。

半ば直感的に私がそう思うのと、彼女の首がグルんとこちらに九十度回転して目が合うのは同時だった。

そして私が懐中電灯だと思っていたものは、街頭の光が反射してキラキラと輝いている包丁で。


「っ…!?」


事もあろうに、ニコニコ笑うとこっちに向かって走ってきた。

109: 2016/08/20(土) 02:34:07.64 ID:oPW/7J8R.net
まずいまずいまずいまずいまずい。


なにあれっ…!?


こっちに来てる…!


私は部屋を横切り、逃げるようにトイレに駆け込む。


どうか見間違いであって…。


鍵を閉めた私はただただ願う。

恐怖で震える手を必死に抑えて。

110: 2016/08/20(土) 02:34:51.05 ID:oPW/7J8R.net
☆ことり視点☆


「ん、んぅ…」


いつの間にか寝ちゃってたみたい…。

まだ頭がぼーっとする。


「………………」


「トイレ…」


ガチャガチャ


トイレに鍵がかかってるみたい。真姫ちゃんの姿がなかったし、真姫ちゃんかな。

111: 2016/08/20(土) 02:37:22.72 ID:oPW/7J8R.net
「真姫ちゃん、真姫ちゃん?」ヒソヒソ


返事がありません。

…もしかしてトイレの中で寝ちゃってる?

 

ドンドンッ

 

「えっ?」


ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンッ!


な、なに!?


突然、玄関の扉を勢いよく叩く音が聞こえてきました。それも何度も何度も執拗にです。

こんな夜中に訪ねてくる人が普通なはずない。

絶対に反応しちゃダメな気がする。


『ことりチャん!ことりちゃん!助けて!』


でも、扉越しに聞こえた声は予想に反したもので。

112: 2016/08/20(土) 02:38:22.41 ID:oPW/7J8R.net
「どうしたの!?」


思わず反応してしまいました。


この声…どこかで聞いたことのある声…。


『知らない男の人に追いかけられたの!』

『い、今も追ってきてる…! お願い私も同じ学校の生徒よ! 中にいれて!』


音ノ木坂学院の生徒…だから聞いたことのある声だったんだ。


「待って! 今開けるね!」


扉を開けながら私は気付いた。


『うん、ありがとう』


この声、もっと昔に聞いたような…。



113: 2016/08/20(土) 02:44:46.38 ID:OWndVXVf.net

こんな夜中に見るもんじゃなかった

114: 2016/08/20(土) 03:19:54.46 ID:umjSanVA.net
ふむ

おつやぞ

119: 2016/08/20(土) 11:35:27.53 ID:G02ItQIu.net
NEWSかと思って読んでたらゾクゾクしたわ

120: 2016/08/20(土) 12:33:05.95 ID:rCRMqcEW.net
おつおつ
かなり面白かった、やっぱりホラーは脚本やね

123: 2016/08/21(日) 17:03:31.90 ID:FBcGKRHE.net
のんたんいいキャラしてるな~
乙乙

124: 2016/08/21(日) 23:06:57.97 ID:FgOvz/5e.net
良いホラーだった、乙

引用元: http://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1471599632/

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